有価証券報告書-第113期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/26 11:12
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研究開発活動

当社グループは、主要領域の成長戦略に基づき、将来を担う新技術や新製品の開発に注力しました。加えて、『くらしアップデート』の実現を支えるIoT・人工知能(AI)・ビッグデータ等の技術開発やこれらを用いた新規事業創出にも積極的に取り組みました。
カンパニーや事業部などの組織を横断した主な取り組みと成果は、以下のとおりです。
・ソフトウエアを起点としたビジネスモデルの変革・商品開発に向け体制を強化
世界トップレベルの技術専門性と従来にない製品やサービスを創出してきた経験をもち、元GoogleバイスプレジデントでNest CTOの松岡陽子氏をフェローとして招聘、ソフトウエアを起点としたビジネスモデルの変革とユーザーファーストな視点での新たな商品やサービスを開発する体制を米国シリコンバレーにて強化しました。
今後も、松岡フェローの知見を活かし、カンパニーや事業部との共創で、既存の事業や組織の枠を超えて『くらしアップデート』を加速していきます。
・本社(大阪府門真市)敷地内で社員向け自動運転ライドシェアサービスを運用開始
ディープラーニングによる高精度な人認識技術、低遅延無線通信による遠隔監視・制御技術を開発し、これらをシステムにまで統合した自動運転ライドシェアサービスを、本社の敷地内で社員向けに本格運用を開始しました。人が行き交うリアルな環境において、人にやさしい自動走行を複数台の同時運行で実現しており、自動運転サービスをより身近なものとしました。
今後も、こうしたモビリティサービスをさらに進化させ、街やコミュニティ内での運用展開に向けて取り組みを加速していきます。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、4,750億円となりました。主な内訳は、「アプライアンス」1,081億円、「ライフソリューションズ」592億円、「コネクティッドソリューションズ」856億円、「オートモーティブ」1,343億円、「インダストリアルソリューションズ」842億円です。
各セグメント及び本社イノベーション推進部門の主な成果は、以下のとおりです。
(1) アプライアンス
主に当社の研究開発部門を中心として、白物家電や情報家電、空調機器、燃料電池をはじめとするデバイス等の研究開発を行っています。
主な成果としては、
・豊かな食生活をサポートする「くらしアップデートサービス」を提供開始
食のプラットフォームアプリ「キッチンポケット」を開発。本アプリを介して、お客様とレシピ、キッチン家電とをつなぎ、最適メニューの提案や献立に応じた食材の買い物リストの自動生成、調理サポート、必要な食材の注文・配送など、お客様一人ひとりのライフスタイルに合わせて豊かな食生活を支援する食の「くらしアップデートサービス」を開始しました。献立の悩みや買い物、調理にかける労力を軽減し、楽しい食事や家族の団らんに充てる時間を創出できます。また、無線LAN対応スチームオーブンレンジを開発。アプリから最新のレシピや旬の食材を用いたメニューを送信、本体に保存することで、購入後もアップデート可能です。家電・サービスの両面で、お客様一人ひとりのライフスタイルに合わせた新たな体験価値を提供します。
・水電解とガス改質の2方式を採用した水素エネルギーの実用性検証を開始
次世代エネルギーとして期待される水素の実用性を検証するため、当社草津拠点構内に水素ステーション「H2 Kusatsu Farm」を建設し、同ステーションから水素を補給する燃料電池フォークリフトの構内運用を開始しました。本ステーションは、太陽光パネルの電力で水を電気分解する水電解水素製造装置と、家庭用燃料電池「エネファーム」で培った技術を生かしたガス改質による小型水素製造装置の2方式を組み合わせて水素を製造します。
本実証を通して水素エネルギーの安定運用や経済性などを検証するとともに、知見と技術を生かした水素エネルギー活用の技術開発を加速し、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
(2) ライフソリューションズ
主に当社の研究開発部門を中心として、電設資材や住設建材等の研究開発とともに、それらの連携によりお客様へ快適をお届けする空間ソリューションの研究開発を行っています。
主な成果としては、
・オフィス空間ソリューションに向けた取り組みを推進
1)電力線を利用してデータ通信できる「HD-PLC」技術を使い、配線ダクトに直付可能で、PoE給電機能を搭載したファクトライン20「HD-PLC」対応PLCプラグを開発。配線ダクトを利用して簡単にネットワーク構築やレイアウト変更が可能になります。
2)ネットワークカメラや無線LANアクセスポイント接続用として、全ポートギガビット対応で、1ポートあたり30Wまで給電が可能なPoE Plus給電スイッチングハブを開発。PoEオートリブート機能により通信障害を早急に復旧することができるとともに、豊富な認証機能サポートで、より強固なセキュリティを確保します。
3)空間データの協創プラットフォーム『CRESNECT』プロジェクトに参画し、会員型コワーキングスペース『point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)』において、未来のオフィス空間づくりに向けた実証実験を開始。参画各社の最新技術やデータ、ノウハウを活用し、多様な働き方に合わせた空間コンテンツを導入します。
これらの取り組みを通し、未来のオフィス空間ソリューションに貢献してまいります。
・健康スマートタウンに関する取り組みを推進
1)多世代居住型健康スマートタウン『Suita SST』の構想を策定。2022年春予定のまちびらきに向けて、タウンコンセプトを実現するタウン共創プラットフォームを構築し、北大阪健康医療都市と相互連携を図りながら、参画事業者とともにタウンデータを活用した新しいサービスづくりを行います。
2)国立研究開発法人国立循環器病研究センターと共同で、軽度認知障害(MCI)の早期発見に関する医学的エビデンスに基づいたモデルケースの構築を目指す研究を開始。MCIを早期発見することで、認知機能の向上・維持、低下の遅延の対応をサポートします。
3)タブレット一台で手軽に導入できるデイサービス事業者向けのリハビリ支援クラウドシステムを開発。生活機能訓練の一連業務のガイドやスケジュール管理、必要書類の自動作成を行います。
これらの取り組みを通し、地域の価値向上につながる取り組みを推進するとともに、超高齢社会を迎える日本の社会課題解決やSDGsの達成、Society5.0の実現へ寄与することを目指します。
(3) コネクティッドソリューションズ
主に当社の研究開発部門を中心として、企業・法人向けの機器やIoTソリューションの研究開発を行っています。
主な成果としては、
・高度な映像解析技術によりスポーツイベント運営を“より円滑”に“より楽しく”サポート
スポーツへの関心がますます高まる中、家電で培った映像解析技術を進化・応用した様々なイベント運営向けソリューションを開発しました。
チケットレスの入退場に向けては、ディープラーニングを応用した顔認証ソリューションを開発、入退場の効率化に加え、安心・安全なイベント運営への貢献を実現しました。バレーボールでは、競技中のボール位置を3次元にリアルタイムで計測し、ボールの軌跡・速度・高さ・角度を自動算出、選手一人ひとりやチームのパフォーマンスを数値化しました。また、アーチェリー競技では、映像から選手の心拍数を非接触で測定、真剣勝負に挑む選手の緊張感を可視化しました。
今後も、映像解析技術を駆使し、様々な用途への展開を推進していきます。
・5Gを活用した4Kテレビ中継の実証実験の成功に貢献
5Gの超大容量帯域に追従する可変レートコーデックを搭載した高精細映像伝送技術を開発し、山形放送㈱様、㈱NTTドコモ東北支社様による5Gを活用したテレビ中継の実証実験に協力しました。
本技術は、5G-AV-OoS技術によりあらゆるシーンで高精細な映像伝送を実現し、最大4K(~100Mbps)までの広範な帯域変動にも追従ができます。また、利用可能なネットワーク帯域を推定し、映像の画質を調整する当社独自の帯域推定技術で無線帯域の変動にも滑らかな映像伝送を実現するため、再生遅延を最小に抑え音声や映像の途切れや乱れを防止します。
これにより、本実証実験では、従来の4Gによる中継システム(HD画質)と比較し、高精細な映像(4K画質)をより低遅延で送信できることが確認できました。
(4) オートモーティブ
主に当社の研究開発部門を中心として、車載向けのコックピットシステム、先進運転支援システム(ADAS)、リチウムイオン電池などの研究開発を行っています。
主な成果としては、
・大画面AR-HUD(Augmented Reality Head Up Display)を開発
大画面AR-HUDには、デジタルカメラや監視カメラ、プロジェクター、テレビなどのAV製品の開発で培った光学技術や手振れ補正技術、精密金型技術を応用し、表示距離7 m~41 mの奥行き感ある高品位な大画面表示技術と、車両の振動等による現実空間と表示映像のズレを低減する高精度な重畳表示技術を搭載しています。
これにより、ドライバーがフロントガラス越しに見ている風景に、注意喚起(車線、標識など)や経路案内などの運転支援情報を立体的にわかりやすく表示し、ドライバーの視線移動が少ないナビゲーションを提供します。
・無人自動バレーパーキングシステムを開発
車両や駐車場に専用の高価なセンサーを設置することなく、限定された領域での高度運転自動化(SAEレベル4)を実現する無人自動バレーパーキングシステムを開発しました。車両に搭載された複数のカメラ、ソナー、レーダーと、駐車枠や停止線といった簡単な2次元路面マップを用いることにより、ドライバーが駐車場入口で降車後、車は自動で駐車スペースを探し、狭い場所でも車両間隔20cmの高精度な自動駐車が可能です。また、車載カメラと監視カメラがディープラーニングによる人検知を行い、駐車場内の歩行者を検知して、人の飛び出しに対する高性能な緊急ブレーキシステムも提供します。
(5) インダストリアルソリューションズ
主に当社の研究開発部門を中心として、二次電池をはじめとした電子部品、電子材料等の研究開発を行っています。
主な成果としては、
・残存価値評価を支援するバッテリーマネジメント技術を開発
機器搭載中のリチウムイオン電池の残存価値評価に有効な交流インピーダンス測定を実行する新しいバッテリーマネジメント技術を、立命館大学 理工学部 福井研究室と共同で開発しました。
新開発のBMICチップ化技術によって、現行バッテリーマネジメントシステムの構成を大きく変更することなく、稼働中の電池の交流インピーダンス測定を可能にします。また、専用測定器と同等精度の交流インピーダンス測定を実現。さらに温度補正技術を開発し、稼働している機器の温度変化への対応も可能としました。今後は測定データの蓄積・分析により、劣化診断や故障推定などの残存価値評価の実現を目指すことで、将来のリチウムイオン電池がリユース・リサイクルされる持続可能な社会の実現に貢献します。
・IoT機器及び産業機器の重要データを保護する多機能セキュアICを開発
さまざまな分野における機器のIoT化にともない、高度多様化するセキュリティ対策を担う多機能セキュアICを開発しました。IC内部で固有の認証鍵を生成・保有、使用後に消去することで鍵の抜き取りをブロックし、重要データを強固に保護します。また、無線インターフェース機能のNFC(Near Field Communication)や放射線耐性が高いメモリー(ReRAM)を搭載しているため、インターネット未接続機器や医療機器などへの適用が可能です。さらに機器の使用中だけでなく、製造から廃棄または再利用までのライフサイクル全体にわたって安全性の確保が可能となり、安心安全なIoT社会の実現に貢献します。
(6) イノベーション推進部門
主に、技術・モノづくり・デザインに関わる全社戦略の統括、中長期視点での先端技術開発、生産技術・要素技術開発及びくらしアップデート業への貢献に向けた取り組みの推進などを行っています。
主な成果としては、
・高速電力線通信技術「IoT PLC」技術を開発、家電製品や住設機器への組み込みも可能に
経済産業省の新技術実証(サンドボックス)制度を活用し、当社が開発したIoT PLCの家庭内機器への組み込みに向けた実証実験を実施、この実証に基づき電気用品安全法に関わる法改正がなされました。これによりIoT PLCを住設・家電機器に組み込んだ商品開発が可能となりました。また、この技術は国際標準規格IEEE 1901aにも認定されました。
IoT PLCは、無線電波が届きにくい地下設備や遮蔽の多いビル空間や住宅でも活用でき、今後のIoT基盤となる技術として、さらなる普及拡大を図っていきます。
・ペロブスカイト太陽電池大面積モジュールで世界最高変換効率16.09%を達成
ガラスを基板とする軽量化技術や、インクジェットを用いた大面積塗布法を開発し、これらの技術を用いて作製したペロブスカイト太陽電池モジュール(開口面積802㎠:縦30cm×横30cm×厚さ2mm)で世界最高のエネルギー変換効率16.09%を達成しました。本モジュールの製造工程に大面積に均一なペロブスカイト層を形成する独自の塗布方法を採用し、製造コストを低減。また、本モジュールの大面積、軽量、高変換効率の特性を利用することで、ビル壁面など、従来は設置が困難だった場所での高効率な太陽光発電が可能となります。
今後、ペロブスカイト層の材料組成改善により結晶シリコン太陽電池並みの高効率達成を推進し、新規市場での実用化に向けた技術確立を目指します。