有価証券報告書

【提出】
2021/06/29 16:03
【資料】
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【項目】
142項目

対処すべき課題

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)経営方針・経営戦略等
ア.経営方針・経営戦略等の策定の背景となった経営環境
当社グループは、中期経営計画「2018事業計画」において、財務基盤の強化、事業規模の更なる拡大及び収益力の向上に取り組んできたが、主力の火力発電システム事業での世界的な市場縮小、その他の既存事業でも規模の伸び悩みと価格競争の激化による収益力低下という課題に直面し、また多くの事業が成熟化する中で今後の成長の軸となる新たな事業分野の開拓が必要となった。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行による事業環境の急激な悪化に見舞われ、民間航空機関連事業や中量産品事業が特に大きな打撃を受けた。
このように、世界経済や当社グループが置かれている事業環境は「2018事業計画」策定時と比べて大きく変化したため、当社グループは、2021年度から2023年度までの中期経営計画「2021事業計画」を半年前倒しして2020年10月末に策定し、順次取組みを開始した。
イ.中期経営計画「2021事業計画」
「2021事業計画」では、事業規模の拡大よりも、「収益力回復・強化」及び「成長領域の開拓」に優先的に取り組み、TOP*1達成に向けた事業基盤の確立と、次の中期経営計画「2024事業計画」での飛躍のための基盤づくりを行うこととした。
「収益力回復・強化」としては、2023年度末における目標として、「事業利益率7%」、「ROE12%」及び「有利子負債0.9兆円維持」という財務指標を設定し、これらを達成するため、事業毎に具体的な施策に着手した。
また、「成長領域の開拓」としては、脱炭素社会に向けて変化する社会課題の解決を主眼とした「エナジートランジション」と、当社グループの多様な製品をデジタル技術でつなぎ、自律化・知能化することで社会のニーズに応えていく「モビリティ等の新領域」を成長分野と位置付けた。これらの分野には「2021事業計画」期間中に1,800億円を投資し、将来的には1兆円規模の事業への成長をめざすこととした。
*1 Triple One Proportion(売上収益:総資産:時価総額=1:1:1の状態)
これは、事業成長と財務健全性のバランスを取った経営により長期安定的に企業価値を向上させることを目指す上で、その達成状況を総合的に評価するための当社グループ独自の指標である。
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは、「2021事業計画」において、「収益力回復・強化」及び「成長領域の開拓」を2本柱に据え、新型コロナウイルス感染症の影響からの早期脱却と収益の確保並びに成長のための基盤づくりに向け、取り組んでいく。
ア.エナジートランジションの加速
社会的価値観の変化は新型コロナウイルス感染症の世界的流行で大幅に速まり、特に脱炭素化に向けては、日本政府が2050年までの「カーボンニュートラル*2」に整合した目標として2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを発表し、欧州や米国も削減を加速する動きを見せている。これを受け、当社グループは、「カーボンニュートラル」社会の実現に向けて、脱炭素化技術の開発、水素エコシステムの構築等により貢献していく。
「カーボンニュートラル」のためには、その実現に至るまで各種課題を段階的に解決していく必要がある。まず、既存火力発電設備の高効率化と水素/アンモニア混焼による低炭素化に取り組む。そのため、GTCCの水素焚きへの転換に向けて、三菱パワー㈱の高砂工場では、発電まで一貫して実証試験を行う体制を構築済みであり、今後は水素製造を含め、実用化に向けた研究を引き続き推進していく。スチームパワー事業では、高度なアフターサービスを主体とする事業への変革を進めるとともに、開発中のアンモニア混焼ボイラの早期実用化をめざす。
このほか、原子力発電はカーボンフリーかつエネルギーの大規模・安定供給の観点から重要なベースロード電源として、「カーボンニュートラル」の達成に向けて将来にわたり最大限活用することが期待されている。このため、既設軽水炉プラントの再稼働、特定重大事故等対処施設の設置、燃料サイクル施設の竣工に向けた対応等に着実に取り組んでいく。加えて、2030年代半ばの実用化を目標に、革新技術を採用した世界最高水準の安全性を実現する次世代軽水炉の開発を推進していく。
更に先のステージである脱炭素化に向けた水素・アンモニアの活用及びCO2回収・利用は、市場がこれから立ち上がる段階であり、2050年に向けて急拡大していくことが見込まれる。これまでも、導入を先行する地域においてFEED*3プロジェクトに積極的に参画するとともに、スタートアップ企業への投資に着手している。引き続き、上流から下流まで幅広く社外との協業を進めるとともに、技術基盤を構築するための取組みを推進していく。
なお、当社グループは、こうした「エナジートランジション」に向けた諸施策を加速させるため、2021年10月、三菱パワー㈱を当社に統合することとする。
*2 温室効果ガスの排出量から、森林等による吸収量を差し引いた、排出実質ゼロ
*3 Front End Engineering Design(EPCの前段階として行う、設計を通じた技術的課題や概略費用等の検討)
イ.モビリティ等の新領域
2020年4月に設置した成長推進室を核として、組織横断の取組みを推進する。そして、多様な製品や技術について、デジタル化・AI化を進めることで新領域を開拓し、新たな価値を提供していく。
当社グループは、多様化・高度化する顧客の要望に応えるため、従来の製品提供主体のビジネスから、多様な機械システムを統合制御することで顧客の課題を解決して新たな価値を共創するソリューションビジネスへの転換を進めていく。
まずは物流事業をモデルケースとして、「自動化物流」や、「コールドチェーン」等のソリューションを提案し、顧客の課題や潜在的なニーズに対応していく。
近年の生活水準の向上やライフスタイルの変化に加え、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、厳格な温度管理を要する輸送ニーズに対応するコールドチェーン構築が重要性を増している。従来、当社グループでは、顧客のニーズを満たすために必要となる優れた機械製品を開発すること、例えば高効率の産業用冷凍機を開発して提供するアプローチが典型であったが、今後は、製品単体の提供に留まることなく、効率的な倉庫運営を可能とするための多様な機械製品との協調や、保管・配送時の環境を常時適正化する冷凍物流エンジニアリングなども同時に提供し、顧客の課題そのものに対して直接の解決策を共創していく。
当社グループならではの様々な製品(ハードウェア)の設計・製造で積み重ねた知見とデジタルテクノロジーを融合させて、顧客価値提供の取組みを当社製品全般に広げ、多様な知能化機械システムの統合によるソリューションを提供していく。
ウ.収益力の回復・強化
新型コロナウイルス感染症の影響はなお予断を許さないが、これまでに受けた影響が大きかった事業のうち、航空機用エンジン事業は米国を中心とする需要回復により底打ちし、また中量産品事業は2021年度にはコロナ禍以前の水準まで回復する見通しである。航空機用エンジン事業は、コロナ禍からの回復・再成長に向け体制を整え、また中量産品事業は、固定費を適正水準に抑えた体制を維持しつつ、今後の需要拡大に向け対応していく。一方で、民間航空機のエアロストラクチャー事業は、2021年度も低迷が続く見通しであることから、損益改善のため、固定費削減と生産プロセス改革を加速する。
また、長期的な視点に立った事業ポートフォリオの組換えを引き続き推進していくとともに、人員リソースのシフトについても、「2021事業計画」を着実に遂行していく。
このほか、販売費及び一般管理費の削減として、三菱パワー㈱の当社への統合による効率化、アセットマネジメントによる費用削減等に取り組んでいく。
近年、SDGs(持続可能な開発目標)の採択やESG投資の拡大等、国際的な枠組みにおいて、環境問題をはじめとする各種の社会課題が重視されている。当社グループは、サステナビリティとコンプライアンスが経営の重要課題であるとの認識の下、事業を成長させ、社会の持続的発展に貢献していく。