有価証券報告書

【提出】
2020/06/26 13:48
【資料】
PDFをみる
【項目】
95項目

対処すべき課題

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1) 経営方針・経営戦略等
①経営方針・経営戦略等策定の背景となった経営環境
当社グループは、中期経営計画「2015事業計画」において、財務基盤の強化を図るとともに、事業構造の改革を推し進めながら、将来の事業規模拡大と収益力向上につながる各種施策を強力に推進した。
財務基盤の強化については、キャッシュ・フロー経営の徹底とアセットマネジメントの強化により、当初の計画を大きく上回る成果を上げ、中長期的な成長戦略を担う伸長分野や新規事業に対して、積極的に投資をする上での自由度を高めることができた。
一方で、事業規模拡大と収益力向上には課題が残った。具体的には、物流機器、ターボチャージャ、冷熱製品等の中量産品事業が順調に事業規模と収益を拡大させたものの、当社グループの主力事業である火力発電システム事業が世界的な市場低迷に直面したことに加え、成長事業として重点的にリソースを配分してきた三菱スペースジェット(当時MRJ)事業が開発遅れと開発費増加により全体の収益を押し下げる結果となった。
また、AIやIoTなどの技術革新、世界的な脱炭素化や再生可能エネルギーへの転換など、当社を取り巻く事業環境は非常に速いスピードで変化しており、中長期の成長に向けた取組みが急務である。
②中期経営計画「2018事業計画」
当社グループは、このような経営環境を踏まえ、2018年度を初年度とする3年間の中期経営計画「2018事業計画」を策定し、事業成長と財務健全性のバランスを取った経営により、長期安定的な企業価値の向上を目指すこととした。「2018事業計画」では、「グローバル水準の持続性と成長力を有する企業体格の実現」、「事業構造改革の定着」、「長期ビジョンに基づく成長戦略の推進」の基本方針に基づき、各種施策を強力に推進している。
ア.グローバル水準の持続性と成長力を有する企業体格の実現
当社グループは、各ステークホルダーと社会のニーズに持続的かつ調和的に応えるため、売上:総資産:時価総額=1:1:1とするTriple One Proportion(以下、「TOP」という。)という独自の経営指標を設定した。これは、効率的で質の高い事業活動を行うことで財務健全性の維持と成長のための投資を中長期的にバランスさせる経営を目指すことを意図したものであり、このような経営を通じて長期安定的な企業価値の向上を目指していく。
「2018事業計画」においては、最終年度に当たる2020年度において達成すべきTOPの目標を、売上収益、総資産、時価総額の比率で0.9:1:0.5としている。
イ.事業構造改革の定着
当社グループは、ドメイン制を維持しながら、グローバル・グループ経営の基本方針として「安定性と成長性の両立」、「事業部門の自律経営とグループシナジー」、「柔軟性とスピードのある経営」の3つを掲げ、引き続き事業ポートフォリオの組替えを行いながら、経営体制の最適化に取り組んでいく。
具体的には、各事業の将来性を見極めた戦略的なリソース配分、各事業の特性や方向性に応じた経営体制の構築、機動性確保のための組織のフラット化、グループシナジー実現に向けた共通プラットフォームの整備、経営人材の育成や社員エンゲージメントの向上などに取り組んでいく。
ウ.長期ビジョンに基づく成長戦略の推進
当社グループは、現在及び近未来の社会が直面する複雑・困難な課題を解決し、さらにその先の未来で社会に求められる存在であり続けるため、社会とともに変化・進化していく活動として「MHI FUTURE STREAM」を立ち上げた。2020年4月に新設した成長推進室を中心に、脱炭素・電化・知能化を軸として、既存事業の「深化」と、中長期トレンドを見据えた新事業の「探索」に取り組んでいく。
(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、「2018事業計画」策定時と比べて世界経済や当社グループの置かれている環境は急激に悪化している。そのため、特に影響が大きい事業から緊急対策に着手するとともに、三菱スペースジェット事業の開発スケジュールについても、この影響を加味した検討を進めていく。また、世界的な脱炭素化の加速を受け、エネルギー事業の構造転換への取組みをより一層強化していく。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響長期化や、今後の事業環境の更なる変化を想定し、次期事業計画の策定を前倒しで進めていく。
ア.新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた緊急対策
2020年の年明け以降、新型コロナウイルス感染症の急速な世界的流行により、多くの国で地域封鎖や外出制限といった厳格な公衆衛生上の措置が取られるようになった上に、各国間の人及びモノの移動も非常に限定され、国内外の経済活動が大きく制限され、我が国を含む世界経済は深刻な打撃を受けている。
製品・サービスの需要の落ち込みの影響を特に大きく受けている民間航空機関連事業及び中量産品事業では、既に着手している緊急対策に加え、かつてないほど厳しい事態を念頭に、最悪のケースも想定して、人員対策を含めた固定費の圧縮、外部流出費用の削減、投資計画の見直しなどあらゆる対策を講じていく。
また、当社グループの売上の約3分の2を占めるインフラ関連企業及び官公庁向けの受注品事業でも、海外を中心に、既に受注した案件の進捗遅延による売上計上時期の遅れや新規受注の減少、サプライチェーンの停滞といった影響が生じており、これらが長期化する可能性がある。当社グループが一丸となり、影響を最小限にとどめるための施策を積極的に実行していく。
一方、在宅勤務によるテレワーク拡大等を業務改革の好機と捉え、コーポレート関連の業務プロセスの抜本的な見直しにも着手している。働き方改革やIT化の加速により、グローバル本社を中心に業務効率化及び生産性向上を図り、間接費の大幅な削減と人員リソースの有効活用につなげる。
イ.三菱スペースジェット事業での対応
三菱スペースジェット事業に関しては、型式証明取得の遅れにより全体スケジュールを精査する必要性が生じていたところ、その後の新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、最新の試験用機体である10号機の米国へのフェリーフライトや、米国での飛行試験の実施にも影響が出ているほか、顧客である航空業界も深刻な打撃を受けて危機的な経営状況にある。このような状況の下、引き続き開発スケジュールの精査を行うとともに、予算についても適正な規模で推進していく。
ウ.エネルギー事業の構造転換
新興国経済の発展や電気自動車の普及をはじめとする電化の進展により、今後、世界の電力需要は伸長していくものと予想されるが、エネルギー業界は、地球温暖化を契機とする最近の世界的な脱炭素化の流れの中で、構造転換によるクリーンエネルギーへのシフトが進展しており、市場での競争は厳しさを増している。しかしながら、当社グループはむしろこれを商機と捉え、グループの総力を挙げて最適なエネルギーソリューションの提案を積極的に進めていく。まず、当社の完全子会社となる予定の三菱日立パワーシステムズ株式会社は、「三菱パワー株式会社」に社名を一新し、競争力の強化を図るとともに、世界をリードする発電技術で脱炭素社会の実現に引き続き貢献していく。また、同社をエネルギー事業の中核に据え、当社グループが保有するCCS*1やCCU*2、バイオマス、ごみ焼却発電、再生可能エネルギー等の技術を活用し、グループ内の関連事業とのシナジー実現に向けた取組みを加速していく。
*1 CCS:Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素の回収・貯留)
*2 CCU:Carbon dioxide Capture and Utilization(二酸化炭素の回収・利用)
エ.「2021事業計画」策定の早期着手
新型コロナウイルス感染症の流行終息後の社会トレンドに対応し、いち早く要求に応えていくため、緊急対策の推進にとどまらず、次の中期経営計画「2021事業計画」の策定に前倒しで着手する。「2021事業計画」では、市場・顧客・社会のニーズの変化を捉えつつ、事業ポートフォリオマネジメントの強化と事業運営体制のスリム化に取り組むとともに、成長戦略の推進を加速していく。
当社グループは、事業ポートフォリオマネジメントについて、2012年以降「戦略的事業評価制度」に基づき継続して見直してきたが、今般の事業環境の急激な変化を踏まえ、収益性や成長戦略との適合性などの判断軸に基づき、事業の更なる改革を進めていく。
さらに、事業運営体制のスリム化のため、事業の選択と集中に加え、グループ会社や国内拠点の再編によるバランスシート全体の圧縮や、業務効率化、人材流動化等の生産性向上の促進により、販売費及び一般管理費の低減を図る。
加えて、成長戦略の推進を加速するため、既存事業の規模拡大によって収益性を維持・強化しつつ、エネルギー・環境等を中心とする成長分野への投資を行い、新たな事業の創出に取り組む。ここでは、エネルギーやモビリティ分野の革新を支える自律・知能化技術、環境対応技術、電化技術など、当社グループが今まで培ってきた様々な技術の高度化と組合せにより、当社グループを挙げて安全・安心な生活を支える社会基盤の構築やサービスの提供を追求していく。
当社グループは、コンプライアンスやCSRは経営の重要課題であるとの認識の下で、リスク管理を徹底しながら、以上の諸施策の実行を通じて社会の持続的発展に貢献していく。