有価証券報告書-第15期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/29 15:53
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【項目】
210項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
新型コロナウイルスは、それ以前より存在し、進んでいた社会構造の変化を、さらに大きく加速・変化させました。例えば、非対面サービスやリモートワークは、今まで以上のスピードで世の中へ浸透していますし、人々の働き方や価値観を多様化させつつあります。また、社会課題に対しては、かつてない貢献意識の高まりが生まれています。
このような、社会そのものが大きく構造変化するなか、我々金融機関には様々なことが求められてきますが、シンプルにまとめると、重要なテーマは、「社会のデジタルシフトへの対応」と「社会課題解決への貢献」だと考えております。
「社会のデジタルシフト」については、新型コロナウイルスの影響もあり、不可逆かつ加速する大きな変化と捉えています。具体的には、非対面、ペーパーレス、印鑑レスへの対応や、物理的にオフィスに出勤するスタイル等、お客さまとの接点のあり方や社員の働き方を含む、「MUFGの運営そのもの」の革新が必要と考えます。
「社会課題解決への貢献」については、ESGのうち「E」環境の重要性、すなわち金融機関として気候変動リスクへの対応を更に推し進めていく必要があることに加え、今まで以上に「S」、社会課題への貢献が問われています。社会課題解決と経営戦略の一体化をより進めていくことが鍵です。また、デジタルとも重なりますが、例えば、社会インフラを担う企業として、認証や印鑑レスへの取組みを通じた日本社会への貢献と自らの成長を同期させること等も重要と考えます。
こうした社会構造変化を当社の成長機会へと繋げるための経営方針のキーワードは3つ、「デジタル化」「強靭性」、「エンゲージメント」です。
一つ目は、「会社のあり方をデジタル化する」。実際にはリアルとのバランスではありますが、社会のデジタルシフトに対応するために、第一に掲げました。
二つ目は、「事業としての強靭性の重視」です。今回の危機で、MUFGはどんな環境においても信頼され続ける存在でなければならないと、改めて考えさせられました。金融機関としての健全性を確保して、経営資源を当社の有する強みのある領域へと重点配置いたします。
最後が、「エンゲージメント重視の経営」です。これは、大きな変化が会社ひいては社員一人ひとりに求められるなか、変革の方向性に対する共感性を大切にし、社員間や組織間、お客さまとの間、また社会とも共感できる、皆が参画意識を感じられる、魅力的な会社にしていきたいと考えるものです。
(2) 経営環境
当連結会計年度の金融経済環境でありますが、世界経済は、米中貿易摩擦等を受けて総じて減速基調にあったものの、年度後半にかけては、半導体産業等の製造業に世界的に底入れの兆しがみられるなど、米中摩擦等の政策要因による不透明感が依然残るなかでも上向きに転じる動きを示していました。しかしながら、第4四半期に入ってからは、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大という新たな危機に直面しました。この感染症は、まず中国で大きく拡大しましたが、2020年2月末以降先進国の米国や欧州でも急激に広がり、更にASEAN(東南アジア諸国連合)やNIEs(新興工業経済地域)等中国以外のアジア地域でも感染者増加がみられました。こうしたなか、我が国でも、2020年3月末にかけ大都市圏を中心に新規感染者の発生が増加する展開となりました。感染拡大を抑止すべく各国・地域では厳しい公衆衛生上の措置がとられましたが、こうした措置は一方で経済活動の著しい低下をもたらすことになりました。
金融情勢に目を転じますと、年度初めから第3四半期にかけては米中貿易摩擦等の推移を受け、その時々で相場が上下に反応する展開となりましたが、日米株価は上昇傾向、ドル円相場は総じて1ドル100円台後半で推移していました。ただ、第4四半期に入ってからは、新型コロナウイルス禍の拡大を受け、株価は調整色を強めたほか、ドル円相場も振れの大きい展開となりました。金利については、米中貿易摩擦に伴う景気の先行き不透明感や低いインフレ率等を理由に各国の中央銀行が利下げを行う等金融緩和姿勢を強めたことを背景に、海外先進国、我が国ともに総じて低位で推移しました。年度末にかけては、新型コロナウイルス禍拡大のなか、米国で再び政策金利の下限がゼロ%となり、一部の新興国も米国に追随して利下げを行う等、世界的に更に強力な金融緩和政策がとられたことで、金利は海外先進国、我が国ともに低位での推移を続けました。
(3) 対処すべき課題
中期経営計画では、「シンプル・スピーディー・トランスペアレント*なグループ一体型の経営」の実現を通じて、全てのステークホルダーに最善の価値を提供することをめざします。グループ経営のあり方を、従来の「グループ協働」や「グループ起点」から、「グループ一体型の経営」へとさらに進化させ、各社が担う機能をより強化し、商品・サービスの機能強化とソリューション提供能力の向上に取り組んでまいります。
中期経営計画の3年目となる2020年度も、環境の変化に機動的に対応しつつ、「11の構造改革の柱」を中心とするグループの重点戦略を着実に実行いたします。更に、戦略実行の過程で生じる課題に対し適切に対処することで、実践力・実行力を高め、変革をスピードアップいたします。
一方、足元の新型コロナウイルス感染症については、現時点では感染拡大範囲や収束時期が著しく不透明な為、経済や当社業績に与えるすべての影響を正確に把握することは困難ですが、2020年度の経済見通しや業績への影響の見極めに努めてまいります。
当社グループは、お客さま、社員、株主等、ステークホルダーの安全確保を最優先とし、社会機能の維持に不可欠な金融インフラとして、事業者の資金繰り支援等の施策を通じ、お客さま・社員・株主をはじめとする全てのステークホルダーの皆さまの期待に応えてまいります。
* Transparent/事業会社間・営業拠点と本部・役職等の壁を意識せずオープンに話ができ、グループの向かう方向やその理由を分かりやすく共有できる組織を表したキーワード
MUFGグループのめざす姿 ~「再創造」の先にめざす経営の姿~
シンプル・スピーディー・トランスペアレントなグループ一体型の経営を通じ、全てのステークホルダーに最善の価値を提供するとともに、課題解決型ビジネスの展開により、持続的な成長を実現し、より良い社会の実現に貢献する
(1) お客さま・社会のニーズや課題と向き合い最適なソリューションを提供
(2) 事業・グループのあり方を再構築し、MUFGならではの持続可能な成長モデルを構築
(3) 社員一人ひとりにプロフェッショナルとしての成長を実感できる場を提供
(4) 上記の結果として、株主の期待に応え、信頼関係を強化


(グループ重点戦略)
「11の構造改革の柱」を中心とするグループの重点戦略を当社グループの各事業会社、事業本部、コーポレートセンターが一体で推進し、営業純益で2,500億円程度の効果発現をめざします。
さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、策定した新たな経営方針のもと、お客さまとの取引接点やチャネル、ミドル・バックオフィスのデジタル化、スマート化を進め、結果として損益分岐点を引き下げることを目指す「国内リテール領域のデジタル化」、地域ごとの成長性・強みの見極めと経営資源の最適配置、またGrab社との協働を通じた次世代金融サービスへの挑戦などによる「グローバル戦略の再構築」、会社のカルチャー改革に繋がるものですが、事務プロセスのペーパーレス化・印鑑レス化等を通じた効率化を進め、社員の多様な価値観・働き方を踏まえた環境や基盤の整備を、より一層推し進める「基盤・プロセス改革」を優先すべき重点戦略として取り組んで参ります。なお、既存の一部の施策では、足元の新型コロナウイルス感染症への対応の影響等により進捗に遅れが生じる可能性もございますが、今後影響については慎重に見極めて参ります。
[11の構造改革の柱]

*1 Business Process Re-engineeringの略称。既存の業務内容や業務フロー等を全面的に見直す業務の抜本的改革のこと。
*2 Relationship Manager(取引先担当者)とProduct Office(商品やサービスの企画・開発・提供を担う部署)との相互連携により高度なサービスを提供していくこと。
*3 Corporate and Investment Bankingの略称。預金や貸出等の通常の法人向け銀行業務(コーポレートバンキング)と企業の直接調達支援やM&A等の投資銀行業務(インベストメントバンキング)を一体的に捉え、高度な金融サービスを提供していくこと。

(4) 目標とする経営指標
本中期経営計画では、中期経営計画の最終年度である2020年度の財務目標の水準とともに、中長期的にめざす財務目標の水準を以下の通り設定しております(2018年5月公表)。