有価証券報告書-第133期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/29 14:10
【資料】
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【項目】
177項目

対処すべき課題

当社グループでは、中長期的な経営方針として、次の経営課題に取り組んでいます。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、“Bringing value to life.”という企業理念のもと具体的には、次の4項目を経営方針に掲げて活動しています。
(お客様とともに)
お客様から選ばれ信頼されるパートナーであり続けるために、現場第一に徹し、創意工夫に努め、新たな価値の創造を追求します。
(株主・投資家の皆様とともに)
公正かつ透明な経営を実践し、効率的な事業活動を通じて、企業価値の増大を目指します。
(社会とともに)
良き企業市民として積極的に社会の課題に取り組み、環境の保全をはじめとして、より良い地球社会の実現に貢献します。
(グループ社員とともに)
グローバル企業として、社員の多様性と挑戦する気概を尊重し、人材育成に力を注ぎ、夢と誇りを持って働ける日本郵船グループを目指します。
(2) 中長期的なグループ経営戦略及び目標とする経営指標
当社グループは、海運や物流といった「モノ運び」の役割に限定することなく新たなものに挑戦していくという信念のもと、当社の企業理念を構成する基本理念を“Bringing value to life.”と再定義しました。そしてこの企業理念に基づき、2018年3月に中期経営計画“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を策定し、①事業ポートフォリオの最適化(ドライバルク事業の抜本的見直しとコンテナ船統合会社の成功等)、②運賃安定型事業の積み上げ(物流・自動車船・自動車物流事業のシナジー構築等による強化とLNG・海洋事業の強化等)、③効率化、新たな価値創出(Digitalization and Greenへの取り組みを通じた次世代の成長分野の開拓等)を基本戦略として、長期的な企業価値の増大を達成すべく全力で取り組みます。
(“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”の利益・財務目標並びに2019年度実績)
2019年度実績中期目標
(2022年目途)
経常損益444億円700~1,000億円
ROE6.6%min 8.0%
自己資本比率23.9%min 30.0%
D/Eレシオ2.27倍1.50倍以下

(キャッシュ・フロー)
営業活動による
キャッシュ・フロー
1,169億円(単年)5,700億円(5カ年累計)
投資活動による
キャッシュ・フロー
548億円(単年)5,200億円(5カ年累計)

(前提)
為替レート109.13円/US$105.00円/US$
燃料油価格US$454.97/MTHSFO US$320/MT
LSGO US$620/MT

*HSFO = High Sulphur Fuel Oil, LSGO = Low Sulphur Gas Oil
(株主還元策)
当社は、株主の皆様への利益還元を経営上の最重要課題のひとつとして位置づけています。将来の市況変動に耐え得る内部留保の水準にも留意しつつ、業績の見通しや連結配当性向25%を目安に、利益配分を決定する方針です。2019年度以降については、「第4 提出会社の状況 3配当政策」をご参照ください。
(3) 中長期的なグループ経営戦略と優先的に対処すべき課題
① 安定と成長の戦略
近年、海運市況はボラタイルな状況が続いています。金融市場の過剰流動性を背景にした投機的資金の船舶投資への流入と、それに伴う船腹供給に加え、社会構造の多様な変化も続いています。保護主義的な動きや地産地消の流れ、地政学的なリスクへの懸念も依然存在しています。またデジタル技術の進歩と社会への普及、環境規制の厳格化も加速しつつあります。一方で世界の人口は100億に近づく勢いで増加を続けており、長期的には物流の増加が見込まれている中、当社グループの持つグローバルな総合物流ネットワーク、高い技術力・情報力を駆使する事で、安定と成長を同時に達成していく事が必要です。
その達成のため、当社グループは “Bringing value to life.”の基本理念のもと、10年後のありたい姿としての4つのビジョンの実現に向け、2018年度より中期経営計画 “Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を進めています。
本中期経営計画では、ボラティリティへの耐性強化と事業成長・収益力向上に取り組んでいます。3つの基本戦略である「事業ポートフォリオの最適化」「運賃安定型事業の積み上げ」及び「効率化と新たな価値創出」に沿った形で、既存事業の拡充に加えて情報技術・環境分野を中心とした新規事業の実現と成長分野への投資を実施してきました。
1つ目の「事業ポートフォリオの最適化」では、市況耐性の高い事業運営を目指しています。ドライバルク輸送部門は、引き続き、市況耐性への強化のための事業の構造改革を進め、市況エクスポージャー管理を行っています。定期船事業においては、コンテナ船事業統合会社のOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.の収支が黒字化しましたが、市況悪化時でも大きな赤字とならないように市況耐性を高めた運営を目指します。
2つ目の「運賃安定型事業の積み上げ」では、物流部門・自動車船部門・自動車物流部門において、ネットワークの充実と高品質かつ競争力のあるサービスの強化を図っています。グループの経営基盤であるヒト、モノ、IT、資金を活かした営業力強化とともに、デジタル技術を活用した輸送・荷役の効率化と環境対策に取り組んでいます。また、LNG部門・海洋事業部門では、案件を厳選したうえでの投資を継続しています。環境規制が強化されるなか、世界で先行する船舶用LNG燃料の供給・販売事業をさらに促進するとともに、変化するエネルギー需要を捉え、新たなニーズに対応する新規事業にも取り組んでいきます。
3つ目の「効率化と新たな価値創出」としては、従来より技術研究開発を通じオペレーション効率化を進めてきましたが、“Digitalization and Green”による技術力・情報力・ネットワーク力により、次世代の成長分野を切り拓いています。サプライチェーン全体の最適化や、船上キャッシュレス事業MarCoPayなど、最新のデジタル技術を駆使した効率性の追求と新たな価値創出を図ります。また、環境問題への対応が、当社グループの最重要課題の一つと認識しています。本年1月からの船舶燃料へのSOx規制も着実に対応し、新造船に適用されるNOx対応も進めています。また、輸送におけるCO₂排出の削減及び再生可能エネルギーをテーマに次世代に向けグリーンビジネスへの参入を実現します。
これらの事業戦略の遂行や次世代の成長分野への積極的な取組みにより、将来のキャッシュ・フローをより確かなものとし、資本効率とROE(自己資本利益率)を向上させ、企業価値・社会価値の持続的な創出に全力で取り組みます。
2020年3月期の業績は、2023年3月期を目途とする本中期経営計画の数値目標への途上段階ですが、新型コロナウイルス感染症は大規模な感染拡大の収束後も、社会や人々の生活様式・世界の経済構造等に一定の影響を及ぼすと認識しており、その影響を考慮しつつ、数値目標や進捗のレビューを実施する予定です。次期(2021年3月期)については、本中期経営計画の施策である資産流動化やフリー・キャッシュ・フロー確保等による事業運営基盤の確保を、当面の基本的な事業運営方針として着実に遂行します。また、各国の緊急事態宣言収束後も感染防止や従業員への安全確保に最大限配慮しつつ、新型コロナウイルスの存在を前提とした社会における業務フロー等の構築に向けた見直しも行います。
② ESG(環境・社会・ガバナンス)への取組み
当社グループは、ESGが企業経営の根幹であるとの認識のもと、「安全」「環境」「ガバナンス」「人材」を最重要課題と位置付け、事業を通じて社会課題の解決に貢献すべく積極的に取り組んでいます。
船舶の運航などのオペレーションの安全性は当社グループの根本的な事業基盤であり、安全推進活動に継続して取り組みます。また、環境保全に関しては、パリ協定をふまえた温暖化防止に向けた取組みとして、船舶から排出されるCO₂排出量の中長期削減目標を策定しています。最適運航のさらなる深度化や重油に代わる新燃料としてCO₂・SOx・NOx排出量削減が可能となるLNG燃料への転換や、脱炭素化に向けた次世代燃料の研究を積極的に進めます。バラスト水処理装置の搭載や燃料油に含まれる硫黄分の規制強化への対応を継続するとともに、シップリサイクルなどの様々な環境規制への対応に取り組みます。
グループ経営の健全性と透明性をより高めるために、内部統制の強化、グループガバナンスの一層の充実、適正な事業リスク管理、コンプライアンス意識の向上を図り、積極的な情報開示に努めます。また、取締役会の諮問機関である指名・報酬諮問委員会の委員長を社外取締役とし、内部統制機能のモニタリングを行うガバナンス強化委員会による活動に加え、機動的な意思決定に基づき適切に業務を執行するために経営会議を設置するなど、取締役会の監督機能の強化につながる実効性のあるコーポレートガバナンス体制の構築に努めます。
さらに、当社グループの基本理念である“Bringing value to line.”を支える“NYKグループ・バリュー”(誠意・創意・熱意)の実践を通じて、誇りを持って働ける職場づくりの実現を目指し、多様な人材が活躍できる環境整備を進めます。当社グループは、中期経営計画においてESGの経営戦略への統合を掲げており、事業活動を通して、国連で採択された持続可能な開発目標の達成や社会・環境課題の解決に貢献します。