有価証券報告書-第22期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/28 15:33
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【項目】
103項目

対処すべき課題

当社を創業した1996年から現在までの約20年の間に、インターネットが広く普及し、社会は大きく変貌しました。インターネットは、政治、経済、産業、人々のライフスタイル等のあらゆる領域に影響を及ぼし、変革の原動力となっています。一方、インターネットの普及がもたらしたサイバーセキュリティという問題は、社会に対する新たな脅威となっています。
このような状況の下、当社は、安心・安全に情報を運ぶことを使命とし、その実現のため、以下の方法によるセキュアかつ信頼できる通信の開発及び提供に注力しています。
(1) 情報を運ぶための通信網の構築及び運用
通信網の構築・運用には、当社が創業時から提唱・実践しているMVNO事業モデルを採用しています。MVNO事業モデルには、①既存の通信事業者の通信網を活用するため巨額投資が不要である、②複数の通信事業者の通信網を活用することで、二重、三重に信頼性を高めた通信を提供ことが可能である、③海外の通信事業者の通信網を活用することでグローバルな事業展開が可能である、などの利点があります。
(2) セキュアなプラットフォームの構築及び運用
セキュアなプラットフォームの構築及び運用には、隔離された通信経路の確立と通信内容の暗号化が根幹となります。当社は、ICチップとしての側面を持つSIMを活用し、鍵生成ロジックや電子証明書等を搭載することで、現在インターネットで広く利用されているSSL/TLS等の暗号化通信方式の弱点を克服した、セキュアな通信を提供します。
なお、当社は、上記(2)のプラットフォームを、インターネットで安心・安全な金融取引を行うことができるプラットフォーム、FPoS(Fintech Platform over SIM、エフポス)として開発し、金融庁の支援のもとで実証実験を進めています。
FPoSプラットフォームは、スマートフォンで安全に送金や取引を行うなど、金融取引全般に活用することができるほか、行政、医療、教育、小売等の様々な分野で活用することができるものです。当社は、各分野のパートナー企業とともに、事業展開を図っていく方針です。
当社は、以上の経営方針に基づいた取組みを積極的に進め、その結果としての売上拡大及び収益化の実現を目指しています。現時点では、当社の売上の大部分は格安SIMによるものですが、FPoSプラットフォームを活用したイネイブラー事業者として他にはない機能を持つSIM商品等の提供を行うことで、より幅広いMVNO事業者に対して多様な通信及びプラットフォームを提供していきます。
なお、MVNO事業者は2018年3月末日時点で886社に達し、その多くが格安SIMという単一セグメントに集中することで、過当競争の状況になっています。MVNO事業モデルには、前述のとおり、多くの利点があるため、この利点を生かし、どのように差別化したサービスを開発するか、そして、強力なパートナーと共にお客様に提案していけるのかが重要になります。
以上を踏まえ、当社は、以下の点を対処すべき課題として認識しています。
(1) 戦略的な取組みと早期黒字化への取組みとのバランスを取りながらの経営
当社は3期連続で損失を計上しているため、早期の黒字化を目指しています。一方で、当社がイネイブラー事業者として成長するための戦略的な取組みも進めなければなりません。戦略的な取組みを断念すれば、早期の黒字化の実現は容易になりますが、それでは、将来にわたってセキュアかつ信頼できる通信を開発・提供するという経営方針を全うすることができません。従って、この両者のバランスを取りながら前進する必要があります。当社マネジメントには、同様の課題に取り組んだ経験を持つ者が多く、着実に対処していけるものと考えています。
(2) 優秀な人材の確保及び育成
当社がイネイブラー事業者として成長するための戦略的な取組みには、多種多様な調査や企画、さらに技術開発や事業開発が必要であり、これを担うことができる人材の確保及び育成が極めて重要となります。セキュアな通信に対するニーズは、あらゆる産業及び企業に存在するため、例えばFintechであれば、金融業界に関する法律、制度、経営課題、技術課題等、顧客の事業領域に対する一定の知見が必要です。当社グループは、そのためのヒューマンリソース戦略として、クルーシステムを実践しています。クルーシステムは、当社が考案・構築した事業遂行モデルで、一人一人の人材(クルー)が会社の優先順位に応じた多様な業務を担当することによって、様々なノウハウや技術を身に付けていく仕組みです。当社が直面する課題は前例のないもので、既に知識や経験のある企業がどこかに存在するわけではありません。一方、当社には、MVNO事業モデルを定着させるに至るまでに、法制度の活用、携帯事業者との交渉やネットワーク構築などを通じて培った経験とノウハウがあり、これは、当社のみが持ちうるものです。
(3) 技術開発及び設備投資等の先行投資資金の確保
当社は、技術開発や設備投資等の先行投資資金を確保する手段として、2016年7月にクレディ・スイス証券株式会社を引受人として日本通信株式会社第3回新株予約権(第三者割当て)を発行しており、同新株予約権が行使されたことにより、これまでに2,719百万円の資金を調達しました。さらに、当社は、2018年3月に同新株予約権の未行使残高の全部を引受人から取得したうえで消却し、同時に、クレディ・スイス証券株式会社を引受人として日本通信株式会社第4回新株予約権(第三者割当て)を発行しています。当社は、割当先が同新株予約権を行使する時期及び数量をコントロールすることができるため、当社の資金ニーズに応じ、株式価値の希薄化に配慮した柔軟な資金調達を実現することが可能です。
当社は、上記のような課題に取り組みながら、安心・安全な通信及びプラットフォームを提供する事業者として成長していく計画です。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。