四半期報告書-第26期第1四半期(2024/01/01-2024/03/31)

【提出】
2024/05/14 9:25
【資料】
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【項目】
33項目
(1) 経営成績の分析
当社グループ(当社及び連結子会社3社)は、遺伝子の働きを利用した「遺伝子医薬」の開発、実用化を目指し、研究開発を行う創薬系のバイオベンチャーです。遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指して、自社における医薬品の開発及び開発パイプラインの拡充のための国内外企業との共同開発、業務提携、資本参加等を積極的に行っています。また、希少遺伝性疾患の有無を調べるスクリーニング検査や、主に希少疾患向けに海外で販売されていて、日本国内では販売されていない医薬品の国内への導入なども積極的に取り組んでおります。
当第1四半期連結累計期間の事業収益は前年同期に比べ96百万円増加し1億13百万円(前年同期比584.0%増)となりました。当社グループでは、HGF遺伝子治療用製品コラテジェンの条件及び期限付製造販売の承認を取得し、2019年9月から田辺三菱製薬より販売しております。2023年5月31日に条件解除に向けた製造販売承認申請を提出いたしましたが、当第1四半期連結会計期間においては、これまで同様、複数診療科で重症下肢虚血の治療を行っている専門医のいる病院のみでの使用となっていることから、製品売上高は3百万円(同3百万円の増加)となっております。一方、ACRLにおいては、一般社団法人希少疾患の医療と研究を推進する会(以下「CReARID」といいます。)が展開する拡大新生児スクリーニングである「オプショナルスクリーニング」を受託しており、前年同期に比べ受託数が順調に増加していることから、手数料収入として35百万円(同18百万円の増加)を計上いたしました。さらに、当社連結子会社のEmendo社が開発したゲノム編集のためのOMNIヌクレアーゼの非独占的使用権について、スウェーデンのAnocca社とライセンス契約を締結し、契約一時金を研究開発事業収益として74百万円計上いたしました。
当第1四半期連結累計期間における事業費用は、前年同期に比べ4億62百万円減少し、25億90百万円(同15.2%減)となりました。
売上原価は、前年同期に比べ16百万円増加し、41百万円(同66.8%増)となりました。コラテジェンにかかる製品売上原価は、前年同期において使用期限切れによる廃棄が見込まれる製品の評価損3百万円を計上していたため、前年同期に比べ0百万円減少し、2百万円(同22.5%減)となっております。ACRLにおけるオプショナルスクリーニング検査にかかる原価は、前年同期に比べ17百万円増加し、39百万円(同81.0%増)となっております。
研究開発費は、前年同期に比べ6億7百万円減少し、9億71百万円(同38.5%減)となりました。主にEmendo社において、材料の購入減により研究用材料費が2億58百万円、人員の減少により給料手当が1億32百万円、製造関連費用等の減少により外注費が99百万円減少しております。
当社グループのような研究開発型バイオベンチャー企業は先行投資が続きますが、提携戦略などにより財務リスクの低減を図りながら、今後も研究開発投資を行っていく予定です。研究開発の詳細については、本報告書「(4) 研究開発活動」をご参照ください。
販売費及び一般管理費は前年同期に比べ1億28百万円増加し、15億76百万円(同8.9%増)となりました。Emendo社の事業再編に伴う弁護士等専門家及びコンサルタントへの報酬が増加したため、支払手数料が前年同期より1億17百万円増加しております。為替の円安に伴い、Emendo社買収に伴うのれん償却額が前年同期より88百万円増加しております。
この結果、当第1四半期連結累計期間の営業損失は24億76百万円(前年同期の営業損失は30億36百万円)となりました。
営業外損益においては、主にEmendo社への貸付金の評価替を行った結果、円安による為替変動の影響により、為替差益が9億24百万円発生しております(前年同期は1億3百万円の為替差益)。Vasomune社が米国において獲得した助成金について、当社開発費負担分に応じて27百万円を受領し、補助金収入に計上しております(前年同期は32百万円)。
この結果、当第1四半期連結累計期間の経常損失は15億27百万円(前年同期の経常損失は28億97百万円)となりました。
当第1四半期連結累計期間の親会社株主に帰属する四半期純損失は18億24百万円(前年同期の親会社株主に帰属する四半期純損失は29億11百万円)となりました。Emendo社において、同社の研究開発部門の再編成に伴う事業構造改革費用2億47百万円を計上しております。
(2) 財政状態の分析
当第1四半期連結会計期間末の総資産は前連結会計年度末に比べ8億63百万円減少し、280億29百万円となりました。
流動資産は15億28百万円減少し、43億93百万円となっております。2023年7月12日に発行したBofA証券株式会社を割当先とする第43回新株予約権についてその一部が行使され、2億20百万円を調達いたしましたが、現金及び預金は当期事業費用等の支払いにより20億44百万円減少し、21億15百万円となりました。ゾキンヴィを購入したことにより、商品を2億99百万円計上いたしました。
当第1四半期連結会計期間末の固定資産は6億65百万円増加し、236億36百万円となっております。のれんは、償却により8億13百万円減少しておりますが、円安による為替変動の影響により米ドル建のれんの換算額が14億53百万円増加し、前連結会計年度末に比べ6億39百万円増加して223億85百万円となりました。
当第1四半期連結会計期間末の負債は前連結会計年度末に比べ1億87百万円増加し、29億76百万円となりました。主にゾキンヴィの購入により、買掛金が2億71百万円増加しております。前年度の消費税の納付により、未払消費税等が93百万円減少しております。
当第1四半期連結会計期間末の純資産は前連結会計年度末に比べ10億50百万円減少し、250億52百万円となりました。BofA証券株式会社を割当先とする第43回新株予約権及びストックオプションの行使により、資本金及び資本剰余金がそれぞれ1億13百万円増加しております。親会社株主に帰属する四半期純損失18億24百万円の計上により、利益剰余金が減少しております。主にのれんに係る為替変動の影響により、為替換算調整勘定が5億34百万円増加しております。
(3) 事業上及び財務上の対処すべき課題
当第1四半期連結累計期間において、当社グループの事業上及び財務上の対処すべき課題に重要な変更、及び新たに生じた課題はありません。
(4) 研究開発活動
当第1四半期連結累計期間における研究開発費は前年同期に比べ6億7百万円減少し、9億71百万円(前年同期比38.5%減)となりました。
当社グループは、“遺伝子医薬のグローバルリーダー”を目指し、遺伝子医薬を中心に医薬品の開発、実用化に取組んでおります。また、究極の遺伝子治療といわれるゲノム編集の分野において当社グループのEmendo社は、独自のゲノム編集技術の開発を進めており、ゲノム編集の分野でも難易度の高い技術を開発しております。
さらに当社は国内外の企業と積極的に提携し、有望な医薬品の実用化に向けて共同開発を進めております。2024年1月18日には米国Eiger社より導入した所謂早老症治療薬ゾキンヴィが厚生労働省より製造販売承認を取得し、4月17日に薬価基準に収載されました。
以下に、当社グループの開発品並びに当社提携先の開発状況についてご説明いたします。
当社開発プロジェクト

■HGF遺伝子治療用製品(一般名:ベペルミノゲンペルプラスミド)(自社品)
国内における慢性動脈閉塞症を対象疾患としたHGF遺伝子治療用製品の開発については、2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品コラテジェンとして、慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善を効能効果として条件及び期限付承認を取得し、2019年9月より販売を開始いたしました。2021年末に製造販売後承認条件評価のための目標症例数である本品投与120例、比較対照80例の患者登録が完了し、2023年5月に条件解除に向けた製造販売承認の申請を厚生労働省に提出いたしました。
米国における開発につきましては、2022年末までに下肢潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験の当初目標症例60例の投与を完了し、さらに、脱落例をふまえ、2023年第1四半期に追加症例の登録を完了しております。2024年度第2四半期には、後期第Ⅱ相臨床試験のトップラインデータが公開される予定となっております。
その他、イスラエルでは、2022年に当社の提携先企業Kamada社が、イスラエル保健省に製造販売承認を申請し、現在審査が行われています。また、トルコでは、当社提携先企業Er-Kim社の申請に向け準備を進めておりますが、トルコ政府の財政面の問題等から停滞しております。
当社は、コラテジェンの日本及び米国における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を田辺三菱製薬と締結しております。
■NF-κBデコイオリゴDNA(自社品)
核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAについては、米国において椎間板性腰痛症を対象とした後期第Ⅰ相臨床試験を実施し、投与後の観察期間6ケ月間に続き、12ケ月間を経た結果でも、患者の忍容性は高い上、重篤な有害事象も認められず、安全性が確認できました。さらに、探索的に有効性を評価したところ、患者の腰痛の著しい軽減とその効果の持続が認められました。
当第1四半期においては、第Ⅱ相臨床試験の症例登録を順調にすすめております。なお、当該臨床試験に関して塩野義製薬株式会社と契約を締結し、費用の一部を負担いただくとともに、試験結果に基づき第Ⅲ相臨床試験の実施について協議する予定です。
■高血圧治療用DNAワクチン(自社品)
高血圧治療用DNAワクチンについては、オーストラリアでの第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験は重篤な有害事象はなく、安全性に問題がないことを確認しました。今後の開発につきましては、新型コロナウイルスのDNAワクチンとは異なるプラスミドDNAの発現に関する改善策などの検討を進めてまいります。
■新型コロナウイルス感染症DNAワクチン(自社品)
2020年から2022年まで実施した研究開発の知見を活かし、プラスミドの発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、並行して、将来発生する可能性のある新たな変異株を視野に入れた改良型DNAワクチン並びにワクチンの経鼻投与製剤の研究を米国スタンフォード大学と共同で実施しております。
■Tie2受容体アゴニスト(共同開発品)
Tie2受容体アゴニストは、カナダのバイオ医薬品企業であるVasomune社と共同開発契約を締結し、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象に2020年12月より米国において第Ⅰ相臨床試験を実施し、安全性と忍容性を確認いたしました。当初新型コロナウイルス感染症肺炎患者を対象としていましたが、その後、重症化リスクが低いオミクロン株への置き換わりが急速に進んだことに伴い、第Ⅱ相臨床試験の対象疾患をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に広げるべく米国FDAに試験計画の変更を申請し、承認を受けました。当第1四半期においては、順調に症例登録を進めており、今後も医療機関との連携を進め今年度内の目標症例数の登録を目指してまいります。
■ゾキンヴィ(一般名:ロナファルニブ)(導入品)
当社は、2022年5月に米国の医薬品企業であるEiger BioPharmaceuticals Inc.(以下「Eiger社」といいます。)と、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とプロセシング不全性のプロジェロイド・ラミノパチーを適応症とする治療薬であるゾキンヴィについて、日本における独占販売契約を締結いたしました。2023年3月に希少疾病治療薬(オーファン・ドラッグ)の指定を受け、2023年5月に厚生労働省に製造販売承認申請を提出いたしました。その後、2024年1月18日に厚生労働省より製造販売承認を取得し、4月17日に薬価基準へ収載されました。今後は、5月中の発売に向けて準備を進めてまいります。
Emendo社開発プロジェクト

■ゲノム編集技術による遺伝子治療用製品開発
当社は、究極の遺伝子治療法ともいわれるゲノム編集技術を用いた遺伝子疾患治療に挑むため、2020年12月にゲノム編集における先進技術及びそれを活用した開発パイプラインを持つEmendo社を子会社化しました。Emendo社では、ゲノム編集の安全な医療応用を目指し、新規CRISPRヌクレアーゼ(※1)を探索・最適化するプラットフォーム技術(OMNI Platform)を確立しており、ゲノム編集でしばしば問題視される「オフターゲット効果」(※2)を回避できるなど、新たな特徴をもった新規ヌクレアーゼ(OMNI ヌクレアーゼ)を数多く作出し、特許を出願しております。Emendo社ではOMNI Platformの更なる性能向上、効率化を目指した開発を継続しております。
同時にEmendo社では、様々な遺伝子疾患について、その疾患と遺伝子変異の分子機構の理解に基づき、疾患に応じてゲノム編集戦略を構築し、数多くのOMNIヌクレアーゼの中から適切なヌクレアーゼを選択し、それをさらに標的配列に対して最適化して、これまでゲノム編集では対象とできなかった疾患を含め、様々な疾患に対する安全で有効な治療の開発を進めております。
Emendo社では、ELANE関連重症先天性好中球減少症(※3)を対象とするゲノム編集治療について、早期の米国での臨床試験開始に向けた準備を継続しています。また、家族性高コレステロール血症(FH)を対象とするゲノム編集治療についても臨床試験に向けた研究開発を継続しております。
また、当第1四半期には、知識集約的な研究開発体制に移行するための事業再編成を実施し、Emendo社のイスラエルにある研究施設における研究開発活動の規模をそれに見合ったものとするとともに、米国における研究開発活動及び導出等を進めるための体制づくりを進めております。
3月14日には、スウェーデンのバイオ企業であるAnocca社と、Emendo社が開発したOMNIヌクレアーゼの非独占的ライセンス契約を締結し、Anocca社が開発しているT細胞受容体改変T細胞(TCR-T)療法による固形がん等の治療にEmendo社の技術が使用されることとなりました。

※1 新規CRISPRヌクレアーゼ:ゲノム編集で使用する新たなRNA誘導型DNA切断酵素で、ガイドRNAで規定した塩基配列を識別し、その標的とした塩基配列を切断する。
※2 オフターゲット効果:ゲノム編集で、DNA鎖上の目的とする塩基配列以外の別の領域に、意図せぬ突然変異を引き起こしてしまうこと。
※3 ELANE関連重症先天性好中球減少症:顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症で、発症すると細菌感染などが起きやすくなり、中耳炎や気道感染症、蜂窩織炎、皮膚感染症を繰り返し、敗血症などにより死亡することもある。
検査受託サービス及び提携先における開発状況
■希少遺伝性疾患検査を主目的としたACRLの検査受託
ACRLでは現在、一般社団法人希少疾患の医療と研究を推進する会(CReARID)が展開する拡大新生児スクリーニングである「オプショナルスクリーニング」を受託しております。この拡大新生児スクリーニングにおいて陽性となった受検者のうち、偽陽性の受検者を選別するための二次スクリーニング検査方法を開発しており、その成果を2024年2月に米国サンディエゴで開催されたライソゾーム学会で発表いたしました。
これに加え、希少遺伝性疾患の確定のための遺伝学的検査の技術対応を完了し、2024年度中に受託を開始できるよう準備を進めています。さらに、治療効果をモニタリングするバイオマーカーの検査については、実施体制の構築を進めており、希少遺伝性疾患のスクリーニングから診断、治療に至るまでの包括的な検査体制の提供を目指してまいります。
■マイクロバイオームを用いた治療薬・サプリメントなどの開発
当社は、腸内細菌叢を利用した疾患治療薬や健康維持のサプリメントを開発しているイスラエルのMyBiotics Pharma Ltd.(以下「MyBiotics社」といいます。)と2018年7月に資本提携しております。MyBiotics社では、腸内細菌叢の微生物の構成を再現した培養物の製造法を確立しており、イスラエルにおいて第Ⅰ相臨床試験を完了したクロストリジウム・ディフィシル感染症治療薬MBX-SD-202の米国開発の準備を進めております。しかしながら、今般のイスラエルとパレスチナにおける紛争の影響もあり、MyBiotics社における研究開発の継続が懸念される状況となっております。