有価証券報告書-第17期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/31 11:32
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対処すべき課題

当社グループを取り巻くビジネス環境においては、「オールデジタル化」による大変革の時代が到来すると考えており、この変革には、大きく以下の3つの動きがあるとみています。
まず、これまでなかったサービスやインフラが整備され、情報のデジタル化が日々の生活に波及し、生活全体がデジタル化する動きです。生活者は、身の回りの様々な場所に出現する、いわゆる「デジタルタッチポイント」を通じて、情報行動、購買行動など世の中のあらゆる動きをリードするようになります。つまり、生活者が中心となる社会がいよいよ本格的に到来する、ということです。
また、ビッグデータ/IoT/AI/ロボットなどのデジタルテクノロジーの進化が起点となって、これまでの市場の垣根が融解し、産業構造の転換が進んでいきます。それに伴い、企業はこれまで以上に、先端テクノロジーの取り込みやビジネスモデルの変革など、ダイナミックなイノベーションの必要性に迫られるようになります。
さらに、オールデジタル化は、企業活動のボーダレス化を加速します。これまで、国内企業は海外での事業拡大をめざし「グローバルシフト」を進めてきました。この動きは今後も継続すると見ていますが、それに、オールデジタル化の流れが加わることで、企業活動の「国境という概念を越えた“ボーダレス化”」が、ますます加速していくとみています。
このような環境認識の下、当社グループは、今後の持続的成長を実現するため、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定しました。以下の中期基本戦略に則り、3つの成長基盤を強化し、各種経営課題への対応を積極的に行うことで中期経営目標の達成に取り組んでまいります。
(1) 中期基本戦略
当社グループは、「生活者発想を基軸に、クリエイティビティ、統合力、データ/テクノロジー活用力を融合することで、オールデジタル時代における、企業のマーケティングの進化とイノベーション創出をリードすること。そのことで、生活者、社会全体に新たな価値とインパクトを与え続ける存在になること。」を中期基本戦略としております。
この基本戦略に基づき、以下に掲げる3つの成長基盤を強化することで、未来をデザインし、社会実装を進め、生活者一人ひとりが自分らしく活きいきと生きられる「生活者中心の社会づくり」に貢献していきたいと考えています。
(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題である「3つの成長基盤の強化」の具体的な内容は以下の通りになります。
① 広義デジタル領域でのリーディングポジション確立
オールデジタル時代を見据えると、インターネットメディアのみならず、既存メディア由来のデジタルタッチポイント、新たに生成されるデジタルタッチポイントも含めた広義のデジタル領域に対応できる機能、体制を強化し、同領域でのリーディングポジションを確立することが必須となります。その実現のために、当社グループは「“生活者データ・ドリブン”マーケティングの高度化」、「多様化するデジタルタッチポイントへの対応」、「成長するインターネットメディア領域での体制の拡充」という3つの戦略施策を進めていきます。
「“生活者データ・ドリブン”マーケティングの高度化」については、テクノロジー/データ・システム/ソリューションを常時アップデートし続け、統合的かつ効率的な運用を強化することに加え、クリエイティビティとの掛け算により、新たな市場や生活者価値の創造に繋がるような、より高付加価値なソリューションを提供してまいります。
「多様化するデジタルタッチポイントへの対応」については、従来のオフラインメディアのデジタル化はもとより、AIスピーカーやコネクテッドカー、スマートストアなど、リアル空間に新たに出現する各種デジタルタッチポイントのメディア開発やマーケティングへの活用、ビジネス開発などに積極的に取り組んでいきます。そして、それらを横断的に統合管理するための機能の強化、対応体制の整備にも努めてまいります。 「成長するインターネットメディア領域での体制の拡充」については、博報堂/大広/読売広告社など総合広告会社が統合マーケティング・ソリューションの提供の一環として、インターネットメディア領域での機能/体制強化を継続する一方で、高度なデジタルソリューションを提供し、いわゆるインターネット専業広告会社に対抗する「次世代型デジタルエージェンシー」の機能拡充にも注力します。加えて、総合広告会社、次世代型デジタルエージェンシーの両輪で構成されるフロントラインを支える総合メディア事業会社も、デジタルトランスフォーメーションを進め、オールデジタル時代に適した形へと進化させていきます。
② ボーダレス化する企業活動への対応力強化
国境という概念を越えた企業活動のボーダレス化が、オールデジタル化の流れにより、一層加速していく中、当社グループは「得意先のグローバルシフト」、「専門性/先進性」、「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」の3つの要素を起点に、海外事業の強化を行います。
これまで、中核事業会社を中心に「国内外一体運営」を掲げ、得意先のグローバルシフトへの対応を進めるとともに、kyuの機能拡充の他、アジアでの専門企業の買収を進めるなど、「専門性と先進性」を起点とした海外事業の強化も推進してきました。これらの取組みは、引き続き、M&Aも含め、積極的なリソースの投下を行い強化していきます。
また、「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」の有効性は、万国共通であると考えており、今後は積極的な投資と外部企業とのアライアンスを強化し、メディアのみならず、CRM/デジタルプロモーション/EC対応など、幅広くデジタルアクティベーション領域の実行体制を整備していきます。
③ 外部連携によるイノベーションの加速
オールデジタル化に伴い、企業は先端テクノロジーの取り込みやビジネスモデルの変革など、ダイナミックなイノベーションの必要性に迫られるようになります。そして、これからの時代のイノベーションには、当社グループの持つ生活者発想、クリエイティビティ、生活者データの活用力のみならず、得意先や媒体社、コンテンツホルダーなど当社グループの取引先の持つ各種リソースや、先進的な外部企業のテクノロジーを統合していくことが重要であると考えています。
多様な外部企業との連携基盤を構築し、提供サービスのイノベーションのみならず、自社のイノベーションも加速していきます。
今後、上記の3つの成長基盤強化のために、M&Aのみならず、データやテクノロジー、システムインフラ整備や人材の強化・育成などに資金を投入することで、スピーディーかつ着実な成長を目指してまいります。
(3) 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画において、以下の通り、中期経営目標および同目標を達成するにあたり注視すべき重点指標を掲げ、積極的な事業展開を継続しております。
当連結会計年度においては、中期経営目標である連結のれん償却前営業利益は、新型コロナウイルス感染拡大の影響に加え、前期に130億円規模のメルカリ株式売却益が発生したことの反動減もあり、641億7千万円(前期比11.1%減少)となっております。
一方、重点指標として掲げている、メルカリ株式等の投資事業全体の影響を除外した調整後連結売上総利益は、主戦場である国内の広告市場が前年を下回る低調な動きとなる中、収益率の向上などにより、前期比4.7%の増加となりました。
調整後連結のれん償却前営業利益については、第4四半期に新型コロナウイルス感染拡大の影響が出る中、前期比2.2%の減少と、前期に迫る水準まで積み上げることができました。
また、同オペレーティング・マージンは、期初より、計画に則り、中期的な成長に向けた戦略的な費用投下を進めつつも、メリハリをつけたコストコントロールを行うことで、17.5%となっております。
のれん償却前ROEについては、18.9%と高い水準での着地となりました。
中期経営計画の初年度は、厳しい環境下でのスタートとなったと言わざるを得ず、2021年3月期についても、新型コロナウイルス感染拡大の影響を合理的に見積もることが困難な状況にあります。しかし、中期経営計画の環境認識の基礎であるオールデジタル化の流れは、さらに加速すると見ており、掲げた中期戦略の推進に一層注力し、中期経営目標の達成を目指してまいります。
<中期経営目標(2024年3月期)>連結のれん償却前営業利益(注1) : 950億円
<重点指標>
調整後連結売上総利益年平均成長率(注2): +7%以上
調整後連結のれん償却前営業利益年平均成長率(注3): +8%以上
調整後連結のれん償却前オペレーティング・マージン(注4): 20%以上
のれん償却前ROE(注5): 15%以上
株主還元 : 安定/継続的な配当、業績や財務状況に応じた還元

(注1)連結のれん償却前営業利益とは、企業買収によって生じるのれんの償却額等を除外して算出される連結営
業利益のこと。投資事業を含む全ての事業を対象とする。
(注2)調整後連結売上総利益年平均成長率とは、投資事業を除いた主力事業における、2019年3月期の実績か
ら2024年3月期までの5年間の年平均成長率のこと。
(注3)調整後連結のれん償却前営業利益年平均成長率とは、投資事業を除いた主力事業における、企業買収によ
って生じるのれんの償却額等を除外して算出される連結営業利益の、2019年3月期の実績から2024年3月
期までの5年間の年平均成長率のこと。
(注4)調整後連結のれん償却前オペレーティング・マージン=調整後連結のれん償却前営業利益÷調整後連結売
上総利益
(注5)のれん償却前ROE=企業買収によって生じるのれんの償却額等(持分法適用会社分を含む)を除外して算
出される親会社株主に帰属する当期純利益÷自己資本(期首・期末平均)