有価証券報告書-第117期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

【提出】
2014/06/30 9:45
【資料】
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【項目】
153項目

研究開発活動

当社グループは、多様化する社会及び顧客のニーズに対応し、受注並びに生産への貢献を目的に、建設事業の品質及び生産性向上のための技術をはじめとして、将来的なニーズを先取りする技術まで幅広い課題に関する研究開発活動を大学、公共機関や他企業との共同研究も推進しながら、効率的に実施している。
当連結会計年度における研究開発費の総額は78億円であり、主な成果は次のとおりである。なお、当社は研究開発活動を土木事業、建築事業のセグメントごとに区分していないため建設事業として記載している。
(建設事業)
1 当社
(1) 施工合理化技術・施工品質向上技術
① 無収縮コンクリート
コンクリートの収縮ひび割れを極限まで抑える無収縮コンクリート「クラフリート※Hyper」を住友大阪セメント㈱と共同で開発し、その実用性と性能を実建物で確認した。コンクリートのひび割れは耐久性の低下や漏水の原因になることから、ひび割れを生じさせない技術が望まれていたが、これまでの技術では非常に高価な材料が必要であるなどの課題があった。今回開発した「クラフリート※Hyper」は、汎用材料のみの構成で膨張量と収縮量を制御し、長期的に膨張ひずみが残存する無収縮性能を実現するものである。
② コンクリート表層品質の向上
型枠にシートを貼るだけでコンクリートの耐久性向上が可能となる「美(うつく)シール※工法」を積水成型工業㈱及び東京大学の石田哲也教授と共同で開発した。コンクリート構造物の耐久性向上には、コンクリートの表層部分の品質が重要なポイントとなるが、本技術は、高撥水性特殊シート「美(うつく)シート※」を型枠表面に予め貼り付けてコンクリートを打設することにより、コンクリート表面の緻密性を改善し、劣化因子の浸透による品質低下を防止することで、低コストでの耐久性向上を可能とするものである。
③ 放射線環境下における建設作業の自動化
東京電力福島第一原子力発電所の建屋解体工事で発生する高線量がれきの廃棄物貯蔵施設への搬送について、作業時の被ばく線量の低減と作業効率や安全性の向上を目的として、汎用のクローラダンプ及びフォークリフトに障害物や走行ルートを自律的に認識、判断しながら走行する機能を付加した自動搬送システムを開発し、実工事に適用した。
④ 除染工事対応技術
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う除染工事を効率的に実施するため、除染効果を測定する放射線モニタリング調査について、全地球測位システムを用いた軽量かつ高精度な測量装置と、放射線計測データをオンラインで伝送するシステムを開発した。また、膨大な数の作業員の労務管理を確実に実施するため、入退場時の本人確認に指紋認証を用いるシステムを開発した。更に、工事の進捗把握を省力化するため、除染業務フローを地理情報システム上に実装し、作業指示及び作業実績を電子化するとともに、除染の進捗状況をインターネット上で把握することができるシステムを開発した。
(2) 社会基盤構築技術
① 道路橋床版
超高強度繊維補強コンクリートを用いて、鋼床版と同等の重量でより高い疲労耐久性を有する道路橋床版を阪神高速道路㈱と共同で開発した。都市部で道路橋を建設する場合には、軽量の鋼床版を使用する頻度が高くなっているが、近年、鋼床版を使った道路橋において金属疲労亀裂が顕在化していることから、軽量で耐久性が高く、かつ製造コストも鋼床版と同程度のコンクリート系道路橋床版を開発し、実際の道路橋への適用が可能となった。
② 歩行者シミュレーションシステム
駅改良工事などにおける、歩行者の安全性確保と円滑な通行に配慮した施工計画の立案支援を目的として、歩行者シミュレーションシステム「Sim-Walker※(シム・ウォーカー)」を開発した。本システムにより、時々刻々と変化する駅構内の歩行者流動を動的に再現し、改良工事中に制約を受ける歩行空間を多面的かつ定量的に評価することで、工事中のボトルネックを把握するとともに、改善案の効果を事前に予測・評価することが可能となった。
(3) 産業施設関連技術
① 医薬品工場
医薬品工場からの排水に含まれる有害な微生物・ウイルス等の無害化(不活化)を目的とした連続熱式不活化処理装置のユニット化を図り、大幅な省スペース・高品質化を実現した。また、本処理装置の開発と関連して、これまで蓄積してきた微生物・ウイルスを不活化するために必要な温度や時間に関する不活化条件をデータベース化したことで、対象とする製剤の特性に応じて不活化条件を迅速に提案することを可能とした。更に、今回新たに開発したシミュレーション解析プログラムにより、必要とされる不活化条件を満たすことを装置の設計段階で検証することが可能となった。
② 超高層ビル
長周期地震動に対する超高層ビルの揺れを大幅に低減させるため、超大型制震装置「D3SKY※(Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle)」を開発し、既存超高層ビル「新宿三井ビルディング」の屋上への設置工事を実施中である。「D3SKY※」は、従来は風揺れ対策用であったTMD(振り子式の錘)を大地震用に大幅に発展させたもので、既存型の制震装置がもたらす眺望の阻害や有効床面積の減少などの問題点を回避するとともに、居室内工事が不要となることでテナントへの影響を大幅に低減させることが可能となった。同ビルは、現時点においても高い安全性を有する建物であるが、本装置の設置により、長周期地震動に対しても最新鋭の超高層ビル並みに揺れを抑えることが可能となる。
(4) 地球環境技術
① 鹿島環境ビジョン
持続可能な社会に向けて当社が果たすべき役割を「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」として取りまとめ、その実現に向けた研究開発に取り組んでいる。具体的な開発事例として、建設現場におけるCO2排出量削減計画の立案と実行を社内のイントラネット上で管理するためのツール「現場deエコ※」を開発した。また、建物周りの温熱環境の改善について、山崎産業㈱と共同でデザイン性と施工性を兼ね備えた壁面緑化「緑彩マルチパネル※」を開発した。更に、当社の技術研究所本館研究棟において、エネルギー効率を高めた結果、2012年度の年間CO2排出量を東京都の平均値比で62%削減することに成功した。
② サンゴの再生
サンゴを自然定着させて育てる人工基盤「コーラルネット※」及びサンゴの生息環境の定量的評価技術を開発した。港湾・空港整備や航路浚渫事業では、環境面に配慮した効果的なサンゴ再生技術が強く望まれているが、「コーラルネット※」によるサンゴの再生技術は、従来のサンゴ移植に代わるもので、網状の人工基盤にサンゴを自然定着させて成育させる新技術である。また、「コーラルネット※」の最適な設置場所を事前に選定・評価するモデルを確立したことにより、サンゴの再生をより効果的に行うことが可能となった。
(国内関係会社)
1 鹿島道路㈱
舗装に関する新材料、新工法の開発
施工合理化技術である「転圧管理システム(ICT施工)」の活用範囲を拡大する技術を開発し、実工事に適用した。また、低騒音性と遮水性の両方を併せ持つ新発想のコンクリート舗装である「ハイブリッドコンクリート舗装」や舗装の健全度評価を行う「舗装診断技術」等について引き続き研究開発を進めている。
2 ケミカルグラウト㈱
「バイオジェット※工法」の開発
土壌汚染物質である塩素有機化合物を原位置で浄化する「バイオジェット※工法」を開発した。本工法は、活性化剤をジェットグラウトによりスライス状に噴射することにより、地中に生息する塩素を分解する微生物を活性化させ、浄化を効果的に進める工法であり、従来工法では微生物による浄化が不可能とされていた難透水層の地盤に特に有効である。
(開発事業等及び海外関係会社)
研究開発活動は特段行われていない。
(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社及び関係会社の登録商標である。