有価証券報告書-第149期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

【提出】
2015/06/24 15:02
【資料】
PDFをみる
【項目】
138項目

業績等の概要

(1) 業績
当期の世界経済は、堅調な米国景気が下支えとなり、全体としては比較的安定した推移となりましたが、中国や一部新興国では景気の減速が鮮明化しました。また年度後半には為替相場・原油価格が大きく変動し、世界各国の経済に様々な影響を及ぼしました。一方国内では消費増税に伴い景気が落ち込み、年度後半にかけて持ち直しがみられたものの、その回復ペースは総じて緩慢なものに留まりました。
このような状況のもと、当期の連結決算においては、売上高は円安の影響もあり各事業とも増収基調で推移しましたが、一方でパラキシレンの自社生産・販売を中止した影響もあり、前期比ではほぼ横ばい(17億円増)の7,862億円となりました。営業利益は素材事業を中心に大きく改善し、前期比210億円増加し391億円(同116.2%増)となりました。高機能繊維・複合材料事業の業績回復や、電子材料・化成品事業を中心とした構造改革効果に加え、円安や原燃料価格下落の影響も収益改善に寄与しています。経常利益では為替差益等も加わり同225億円増の424億円(同113.1%増)となりました。一方で当期純利益は、構造改革等に伴う特別損失を471億円計上したことから、同164億円減少し81億円の赤字となりました。1株当たり当期純利益は△8円23銭(同16円73銭減)となりました。
当連結会計年度における事業の概況は次のとおりです。
高機能繊維・複合材料事業:[売上高 1,355億円(前期比 9.7%増)、営業利益 144億円(同 150.0%増)]

<高機能繊維分野:自動車関連用途が堅調に推移、インフラ用途の販売も拡大、炭素繊維・複合材料分野:航空機及び圧力容器用途を中心に需要拡大、技術開発を加速>高機能繊維分野における、パラアラミド繊維「トワロン」が欧州のタイヤ向け等自動車関連用途や、光ファイバー、石油採掘用ケーブル・ホース用途といったインフラ関連での販売を順調に伸ばしました。また防弾用途ではアジア、中東での需要が拡大し、販売も回復傾向にあります。パラアラミド繊維「テクノーラ」は、国内の自動車関連用途と海外のインフラ用途向け販売が好調に推移し、円安効果も加わって収益も改善しました。メタアラミド繊維「コーネックス」は、需要が拡大しているフィルター用途では厳しい競合環境が継続していますが、防護衣料及び産業資材用途において堅調な推移となりました。
このような環境下で、優れた熱防護性と安定した染色性を持つ新規メタアラミド繊維「Teijinconex neo」は、平成27年7月のタイでの生産開始に向けて準備を着実に進めています。今後、難燃規制・環境規制強化を背景に高い成長が見込まれるアジア・新興国での事業拡大を図っていきます。
ポリエステル繊維は、タイ子会社では自動車関連用途において好調だった昨年度の反動等で同国内の販売が伸び悩みましたが、一方で衛材・一般資材用途の販売量は増加し、加えて原料価格低下やその他コストダウン効果もあり、収益が着実に改善しています。国内では足元で自動車関連用途の需要が落ち込む中、販売数量はやや減少し、寝装用途も低調に推移していますが、インフラ・土木用途、水処理用RO膜支持体向けの増販やコストダウンが収益を底支えしました。また、将来の更なる競争力強化に向けて、国内生産体制の再編とタイ子会社への生産移管を、今後段階的に実施していきます。
炭素繊維・複合材料分野では、炭素繊維「テナックス」が、民間旅客機の世界的な需要拡大を背景とした航空機メーカー各社からの旺盛な受注を受け、航空機用途向けの販売が順調に推移しました。その他の用途においても、北米での天然ガス用途拡大を受けた圧力容器向けの販売と、アジア地域におけるスポーツ・レジャー用途と土木補強向けの販売が順調でした。耐炎繊維「パイロメックス」は、航空機のブレーキ材向け等の需要の高まりを背景に安定的に推移しました。また、昨秋からの円安と原燃料価格の下落も収益の押し上げに寄与しました。
このような状況のもと、航空機用途においてはエアバス社の最新鋭中型機であるA350XWB(エクストラ・ワイド・ボディ)機向け炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板(テナックス TPCL:ThermoPlastic Consolidated Laminates)の認定作業を終了し、同機への搭載が決定されました。また、熱硬化性CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の新たな生産技術や高速硬化プリプレグ、超高耐熱プリプレグの開発を推進し、各種技術開発も加速させています。
量産車構造部材等への適用を目指す熱可塑性CFRP「Sereebo」については、複合材料開発センター(愛媛県松山市)と米国の用途開発センター(ミシガン州)との連携により、具体的な部品開発と量産化プロセスの確立に向けた複数のプロジェクトを着実に推進しています。ゼネラルモーターズとの共同開発は商業化に向けた最終段階に入りつつあり、「材料」としての正式な認定を取得しました。加えて米国内での新規炭素繊維工場建設に向けた検討を開始しています。
当セグメントの生産規模は、1,506億円(前期比 10.5%増、販売価格ベース)でした。
電子材料・化成品事業:[売上高 1,848億円(前期比 3.0%増)、営業利益 34億円(前期 営業損失 72億円)]

<樹脂分野:主原料価格の低下と構造改革効果により収益は改善、フィルム分野:スマホ等関連用途の販売は堅調も、その他の主力用途が苦戦>樹脂分野では、主力のポリカーボネート樹脂が、平成26年秋からの原油価格下落に伴う主原料価格低下の影響に加えて、従来から進めてきた構造改革効果の発現もあり、本年度の業績は改善しました。一方、グローバルな供給過剰による厳しい競争環境は中期的に継続するとの見通しから、平成27年12月にはシンガポール子会社の生産を停止し、生産能力の適正化と固定費圧縮を図ることで一段の収益基盤の強化に努めます。これと並行して、樹脂分野の新たな成長・発展のために、共重合樹脂や平成27年秋に商業生産開始を予定している合弁会社INITZ Co., Ltdの新製法PPS樹脂の活用、更には高機能繊維との組み合わせによる新規複合素材の開発等を積極的に進めています。
樹脂加工品では、カーナビ用途向けにポリカーボネートを使用した静電容量方式透明導電性フィルム「エレクリア」や自動車メーターパネル・自販機ダミー缶用途向けの「パンライトシート」が堅調に推移しており、加えてポリカーボネートの光学特性を活かした反射防止フィルムもウェアラブル端末向けに積極的に展開しています。また、大型成形技術、コーティング技術を活かした樹脂グレージング事業の拡大を図っています。
機能樹脂では、特殊ポリカーボネート樹脂がスマートフォンのカメラレンズ用途向けに好調に推移しました。今後も品質優位性を活かした特殊ポリカーボネート樹脂のラインナップを拡充するとともに、戦略素材であるPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂の用途を拡大していきます。
フィルム分野では、液晶TV向け反射板用途で中国メーカーの台頭により価格競争が激化しており、磁気用PENフィルムでも需要が低調に推移する等、総じて厳しい状況が継続しました。その中で、スマートフォン等の関連部材であるMLCC(積層セラミックコンデンサ)や偏光板等向けの工程用離型フィルム「Purex」の販売は堅調に推移しています。このような状況下、固定費を中心としたコスト削減を進めた結果、収益は昨年度対比改善しました。今後は平成27年1月に公表した国内生産拠点の集約を推し進めることで、コスト競争力を強化し、併せて新規開発用途の拡大により収益力の強化を図ります。またポリエステル系以外の高機能フィルムの開発へも経営資源を投入し、更なる発展を目指します。
海外拠点は、欧米では包装用途や太陽電池等の需要が低調な推移となる中、コスト削減により収益維持に努めました。また中国では堅調な需要に支えられ収益は順調に推移しています。
当セグメントの生産規模は、1,720億円(前期比 4.4%減、販売価格ベース)でした。
ヘルスケア事業:[売上高 1,417億円(前期比 2.4%増)、営業利益 248億円(同 1.2%増)]

<医薬品分野:高尿酸血症・痛風治療剤の販売が順調に拡大、在宅医療分野:高水準のレンタル台数を維持・拡大>医薬品分野における国内医薬品事業は、平成26年4月の薬価改定に加え、後発品の伸長に伴う長期収載品の売上減少により、厳しい事業環境が続いています。一方新薬群では、高尿酸血症・痛風治療剤「フェブリク錠」の販売実績が堅調に拡大しており、同疾患領域におけるトップシェアを確立しています。また、先端巨大症治療剤「ソマチュリン*1」の販売も順調に拡大を続けています。剤型追加品では、骨粗鬆症治療剤「ボナロン*2」が錠剤のみならず、経口ゼリー剤や点滴静注剤等で患者さんに対する同疾患治療の幅広い治療の選択肢を提供しています。
海外での高尿酸血症・痛風治療剤の販売も順調に拡大しています。現在、販売提携国と地域は117に達しており、その内日本を含め42の国と地域で販売を開始していますが、残りの国・地域においても、順次販売承認を取得して更なる拡大を図っていきます。
研究開発においては、平成26年5月に、英国の製薬メーカーであるシグマ・タウ・ファルマ社と、同社が創製したADA欠損症治療剤「EZN-2279」の日本における独占的開発・販売契約を締結し、日本における臨床開発の準備を進めています。更に、医薬品技術と素材技術を融合させた画期的な医薬品として、止血・接着効果の高い外科手術用シート状フィブリン糊接着剤「KTF-374」の開発を推進することとし、帝人ファーマ㈱と一般財団法人化学及血清療法研究所が共同で日本における臨床開発の準備を進めています。平成26年9月には、その一環として、岩国事業所(山口県岩国市)に融合製剤棟を新設することとしました。また、気管支喘息治療薬として開発中の「PTR-36」は平成26年12月に第2相臨床試験に移行し、平成27年2月には、小型で服用しやすく、1日1回の服用で効果が持続する去痰薬「ムコソルバンL錠45mg」の製造販売承認を取得しました。平成27年度上期に発売の予定です。平成27年3月には、骨・関節領域における新たなラインナップを獲得するべく、大正製薬㈱と、新規消炎鎮痛貼付剤「TT-063」の日本における販売契約を締結しました。
在宅医療分野では、国内外で約40万人以上の患者さんにサービスを提供しています。主力の在宅酸素療法(HOT)用酸素濃縮装置は、新機種「ハイサンソ3S」、「ハイサンソポータブルα」の投入効果もあり、高水準のレンタル台数を堅調に維持しました。更に平成26年6月には、災害・停電時の不安・不便を解消する新機種「ハイサンソ5S」や「サンソセーバー5」を上市しました。睡眠時無呼吸症候群(SAS)治療器は、携帯電話網を活用して治療状況をモニタリングし、そのデータを医療機関に提供することにより効果的な治療を実現する「ネムリンク」の訴求効果も相まって、高水準のレンタル台数を順調に伸ばしました。そのほか、補助換気療法機器(「NIPネーザルシリーズ」、「オートセットCS」)も順調に拡大しました。また患者さんのサポート体制を強化するため、福岡市に続いて昨年度大阪市に新たに設置したコールセンターを活用し、対応能力の強化を図っています。
昨年度上市した脳卒中後遺障害等の歩行機能回復用の歩行神経筋電気刺激装置「ウォークエイド」についても、首都圏の医療機関等から順次エリアを拡大して事業展開を進めています。
海外では、現在米国・スペイン及び韓国においてサービスを展開しています。米国では、医療制度改革に伴い保険価格が大幅に引き下げられる等、厳しい事業環境が継続していますが、営業所の統廃合・人員削減といった収益改善策を進めています。
当セグメントの生産規模は、567億円(前期比 2.5%増、販売価格ベース)でした。
*1 ソマチュリン®/Somatuline®は、Ipsen Pharmaの登録商標です。
*2 ボナロン®/Bonalon®はMerck Sharp & Dohme Corp.の登録商標です。
製品事業:[売上高 2,594億円(前期比 2.0%増)、営業利益 42億円(同 18.1%減)]

<衣料繊維分野:海外大手スポーツアパレルとの戦略素材の取り組みが飛躍的に拡大、産業資材分野:環境・安全関連商材の販売好調>衣料繊維分野における繊維素材では、スポーツ・アウトドア用途の機能素材のブランド展開の強化により、戦略素材として位置付ける「デルタピーク」を中心に、海外大手スポーツアパレルとの取り組みが飛躍的に拡大する等、業績は全般的に好調に推移しました。しかしユニフォーム分野では、円安進行に伴う仕入れコストのアップにより利益率が低下し、また輸入原糸販売も円安と川中での生産スペース不足の影響により定番糸分野で苦しい競争を強いられました。一方で、テキスタイル販売は円安を受けて欧州向け輸出を中心に堅調な推移となりました。
衣料製品では、主力のアパレルOEM事業において円安と海外縫製のコスト上昇により採算が圧迫され、加えて相次いだ天候不順により夏物、秋冬商材ともに受注も停滞しました。その中で、ベトナム、ミャンマーを中心に自家縫製拠点の確立等、アセアン地域での供給力アップを押し進める一方で、販売強化策として当社戦略素材であるPTT繊維「ソロテックス」を使用して天然素材との新複合生地を提案する等、素材開発力を活かしたODM事業(相手先ブランドによる企画・生産)の強化を図りました。
産業資材分野における工繊・車輛資材では、国内消費増税前の駆け込み需要の反動によりチャイルドシート等の自動車用品関連の需要が低調な推移となりました。タイヤコード、ベルト、ホース等の自動車関連部材の販売は総じて堅調に推移しましたが、年度後半は急激な円安の進行で輸入商材販売の採算が悪化しました。一方、タイヤコードの撚糸、製織、接着加工を行う合弁会社を設立し(平成27年12月稼働予定)、同時に既存のテイジン・コード(タイランド)社の産業用ベルトコード生産工場で自動車用ホースコード加工ラインの増設にも着手しました。エアバッグ向け生地は中国・タイ・日本とも需要が伸長しています。
繊維資材関連では、土木関連資材と防災関連の膜材(仮設テント等)の販売が好調に推移しました。また注力分野の環境関連資材では、中国での水処理関連フィルターの販売が拡大しました。ショートカットファイバー、アラミド等の高機能素材の欧米向け輸出、カーボン素材のアジア向け輸出も好調に推移しました。インテリア関連では、家庭用ワイパー関連の販売は堅調でしたが、カーテン・壁装・床資材関連の販売は総じて低調に推移しました。化成品関連では、半導体、エレクトロニクス業界の一部回復により樹脂フィルム関連の国内出荷が堅調でした。
その他:[売上高 648億円(前期比 27.1%減)、営業利益 40億円(同 128.8%増)]

IT事業は、ネットビジネス分野において電子書籍の売上が順調に拡大する等、堅調な推移となりました。またITサービス分野においては、IoT*関連市場における新規サービスの開発・提供を目的とした共同出資会社EverySense.Incの設立や、海外駐在員向けのメンタルヘルスをサポートするサービスを展開しています。加えて、この度起業家と医療・ヘルスケア業界との出会いの場を提供する日本初のヘルスケアITイノベーションプログラム「デジタルヘルスコネクト」を開始しました。更に新たな分野の取り組みとして、トップアスリートを目指す選手を支援するサービス「アスリートストーリーズ」の提供も開始しています。
新事業ではリチウムイオンバッテリー用セパレータ「LIELSORT」の販売が順調に拡大しており、更なる商圏拡大に向けて第2系列を増設し、平成26年12月に稼働を開始しました。これにより生産能力は倍増し、今後更に増大していく需要に対応が可能となります。また、高変換効率太陽電池を製造するための材料となる「NanoGramシリコンペースト」、及びその素材性能を最大限に引き出すための加工技術を開発し、太陽電池メーカーへのマーケティング活動を推進しています。その他、ポリ乳酸繊維を用いて、動きを生地でデータ化するウエアラブルセンサー「圧電ファブリック」を関西大学と共同で世界に先駆け開発しました。
先端医療材料等の分野においては、自己組織に置換され、伸長する心臓修復パッチの開発を目指しています。本プロジェクトは経済産業省の医工連携事業化推進事業に採択され、大阪医科大学、福井経編興業㈱と共同で開発を進めています。またナカシマメディカル㈱への資本参加により合弁会社帝人ナカシマメディカル㈱を設立し、人工関節市場への参入を果たしました。今後はナカシマメディカルの金属加工技術や人工関節領域での知見と、帝人の素材技術・営業力の融合により、国産の人工関節メーカーとしてトップ企業を目指すとともに、グローバル展開の基盤確立を推進していきます。
また、IT事業とヘルスケア事業の融合領域におけるビジネス展開の一環として、平成27年3月には、Webを通じた情報提供、睡眠支援アプリの提供等を手掛ける睡眠総合サービス「Sleep Styles」を立ち上げました。
* IoT (Internet of Things) : 世の中に存在するさまざまなモノがインターネットにつながることによって実現される全てのサービスを指す。
(2) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローが760億円の資金収入、投資活動によるキャッシュ・フローが496億円の資金支出及び財務活動によるキャッシュ・フローが104億円の資金収入となり、当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末に比べ376億円増加し、706億円となりました。
営業活動・投資活動・財務活動による各々のキャッシュ・フローの主な内容は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ374億円(97.0%)収入が増加し、760億円の資金収入となりました。これは主に、当期純損失となったものの、減価償却費及びその他の償却費が430億円、減損損失が304億円あったこと等によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ23億円(5.0%)支出が増加し、496億円の資金支出となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出が265億円、投資有価証券の取得による支出が221億円あったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ183億円収入が増加し、104億円の資金収入となりました。これは主に、社債発行による資金収入が借入金の返済及び配当金の支払を上回ったことによるものです。