有価証券報告書-第199期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

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2022/06/24 15:38
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事業等のリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは下記のとおりです。これらのリスクは、経営会議等での審議等を経て抽出しており、取締役会において連結財務諸表での重要性、影響度、網羅性を確認した上で選定しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営成績の見通しに重要な影響を与える可能性があると認識しているリスク
[景気・社会情勢に関するリスク]
① 調達品価格の高騰リスク
コロナ禍からの急速な経済回復やインフレに伴い、原材料価格や人件費、物流価格が上昇傾向にあるなか、ウクライナ情勢の深刻化によって価格が更に上昇する懸念があります。事業計画策定にあたっては一定のコスト上昇を織り込んでいますが、想定を超える価格の上昇が当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、コストダウン活動を継続しつつ、販売契約へのエスカレーション条項の織込みや調達価格の高騰を適切に販売価格に反映するなどの対策を行っています。
② 物流混乱による製品供給リスクや部品供給不足による生産遅延リスク
当社グループの事業全般において、米中貿易摩擦やコロナ禍の影響で半導体や樹脂材料等が不足しているなか、中国ゼロコロナ政策による都市封鎖の影響も加わり、生産用部品の一部に納入遅れの状況が続いています。また、モーターサイクル事業においては、コロナ禍における北米を中心としたアウトドアレジャーの拡大によって、モーターサイクルやオフロード製品(二輪車・四輪車)の販売が増加していますが、世界的な輸送能力の逼迫により計画通りに出荷出来ない状況が続いています。今後の物流や部品調達の状況によっては、モーターサイクル事業やロボット事業を中心に販売が減少する可能性がありますが、代替品の活用や生産調整等の対策を実行し、利益の確保に努めています。また、中国ゼロコロナ政策による都市封鎖は概ね解除されていますが、新型コロナウイルスの感染状況や中国政府の方針等を、引き続き注視しています。
③ ウクライナ情勢の影響
現在、ロシアに対する経済制裁や各国規制により、ロシア国内での営業活動への影響は避けられず、ウクライナでは交通・物流等の機能を十分に果たせない状況にあります。当社グループにおける両国向け売上高は、モーターサイクル事業を中心に、ロシア向けが年間約10億円程度、ウクライナ向けは年間40百万円程度であり、収入面での経営成績及び財政状態に与える影響は大きくありません。一方、ウクライナ情勢を起因とした、金融市場への影響、エネルギー価格の上昇、サプライチェーンへの影響が顕在化しつつあり、当社グループにおいても原材料価格・物流価格の高騰の影響が懸念されます。引き続き状況を注視し、想定される事象に対して必要な対策を講じ、事業活動に及ぼす影響の最小化に努めます。
④ 米中貿易摩擦の激化リスク
当社グループの連結売上高の約半分が海外向けの売上であり、なかでも米国向け及び中国向けの比率が高く、双方に多くの生産・販売拠点を有しています。2018年以降、両国間は貿易摩擦が激化した状態にあるため、安全保障輸出管理に係る規制の強化等により、当社グループの両国関連事業にも影響を及ぼすことが懸念されます。当社グループでは、厳格な輸出管理体制を構築し法令遵守を実践してきましたが、引き続き両国の規制強化の動向を注視しつつ、輸出管理法令遵守に必要な措置を講じ、状況の変化に迅速に対応できる社内体制を構築して情報を共有し、対応策を実施しています。
⑤ 景気減速リスク
中国の建設機械市場は、中国政府が大型景気刺激策を実施した2020年度をピークに減少傾向にあり、今後の見通しも不透明な状況にあります。市況の変動は、当社グループの中国向け油圧機器の販売に影響を与える可能性がありますが、他地域での拡販や新製品への置換え等の施策を通じて販売量を確保していきます。一方、モーターサイクル事業では先進国を中心に需要は引き続き堅調であり、当面はこの傾向が継続すると見ていますが、インフレや金融引き締め政策等によって需要が減少する可能性もあります。当社グループは、末端販売や販売店在庫の状況を注視し、販売状況に変化の兆候が表れた場合は生産調整をタイムリーに実施する等の施策により在庫の適正管理を実施しています。
⑥ 民間航空機事業及び民間航空機向けエンジン事業の本格的回復が遅延するリスク
新型コロナウイルス感染症の影響が特に大きかった民間航空機事業については、旅客需要の見通しに基づく経営計画を策定した上で、余剰人員を他の成長事業等に再配置するなど固定費の圧縮に努めています。また、同様の影響のある民間航空機向けエンジン事業においても、エンジンプログラムごとの運航見通しに基づく経営計画を策定した上で、固定費削減等の収益改善の実現に向けて注力しています。
なお、航空旅客輸送が新型コロナ流行以前の水準に回復する時期を2024年とする見方が一般的ですが、重症化リスクが低下しつつあることやワクチンの普及に加え、経済活動再開を優先する諸国が増加してきていることから、エアライン運航の回復が早期化される可能性も出ています。また、当社グループでは、自社のロボット技術を活用し高精度かつ大量に短時間の検査が可能となる自動PCR検査サービス事業を提供しています。安全・安心な公共交通機関による人々の往来の活発化を促し、民間航空機事業及び民間航空機向けエンジン事業の早期回復にも貢献しています。
[重点的に取り組んでいるリスク]
⑦ 契約リスク
当社グループは、事業活動を展開するにあたり、各ステークホルダーとの間で、国際法規や当事国の法規に則り契約を締結しています。しかしながら、仕様変更や製品保証、不可抗力等の問題が生じた場合、契約当事者間において契約解釈に関して争いが生じ、当社グループに損失が発生するリスクがあります。契約に際しては、事業部門と本社各部門が事前にリスクを抽出したうえで、法務部門がプロジェクトの特性や抽出されたリスク等を踏まえて契約条件・条項の事前チェックを行っています。また、契約リスクの更なる低減を図るため、法務機能を担う人財の育成及び確保、社外弁護士の活用等を通じて、より一層の法務対応力の強化に取り組んでいます。
⑧ 大型プロジェクトの損失リスク
当社グループは、過去に鉄道車両、エネルギー関連機器、海洋資源開発支援船など大型プロジェクトにおいて多額の損失を発生させた反省を踏まえ、見積、契約条件、技術仕様等に対するリスク検知と適正な評価、実効性のあるリスク回避策の立案が重要と考え、受注前のリスクチェック機能を強化してきました。2020年度からは、この取組みに加え、過去の損失案件等から得た教訓を規律として社則化するとともに、過去の案件から統計的に導いた損失リスクの総量を自己資本に見合った範囲に抑えるリスク統制アプローチを導入しています。更に、受注後のプロジェクトについては、市場環境やその進捗状況において、経営成績等に大きな影響を与える可能性がある兆候を、経営会議及び取締役会へタイムリーに報告し、モニタリング機能の強化にも努めてきました。現在履行中の大型プロジェクトのうち、北米向け地下鉄車両案件は、量産車の製造が本格化しており、社長直轄のタスクフォース組織において、プロジェクト遂行に伴うリスクを未然に防止するとともに、生産効率や製品品質を更に改善させ、事業採算性の向上、利益の拡大に努めています。
また、当社グループが取り組んでいる大規模水素サプライチェーン構築プロジェクトについては、NEDOグリーンイノベーション基金事業で採択された各種事業が、商用化に向けて始動しています。事業推進に際して、各フェーズで発生する問題を早期段階で認識し、リスクを最小限に抑えながら円滑にプロジェクトを進めるべく取り組んでいます。
⑨ 情報セキュリティリスク
当社グループは、事業活動を通じて顧客や取引先の個人情報及び機密情報を入手することがあり、設計・技術・営業等に係る機密情報を多数保有しています。また、当社グループが提供する製品・サービスでのインターネット利用も増加しています。そのため、サイバー攻撃などによるコンピュータウイルスの感染、不正アクセスや盗難、その他不測の事態により個人情報や機密情報が消失、もしくは社外に漏洩する可能性があります。また、漏洩防止措置として当社グループ工場が生産を停止した場合の損失や、コンピュータウイルスによって顧客への納入製品又は提供サービスが機能停止に陥る事象等に対して補償が求められるリスクもあります。当社グループでは、これらの事象の発生を防ぐため、2020年度に設立したサイバーセキュリティの専門部署を中心に、厳格な情報管理体制の構築、インフラシステムの整備、従業員への教育等を通じた情報セキュリティの強化、情報漏洩及び消失等の防止に継続して努めています。
⑩ 為替変動に関するリスク
当社グループの業績見通しにおいては、毎期初時点で一定量の為替変動リスクが存在しています。そのため、実需の外貨建債権・債務に対し、投機的な要素を排除した形で日本円のディスカウントコストを考慮しながら為替予約等のリスクヘッジを行っています。また、モーターサイクル事業を中心として、為替影響分の価格転嫁、海外調達の拡大及び海外生産比率の増加等を通じて為替リスクの低減に取り組んでいます。
現在、日米金利差拡大の影響による急激な円安により、売上面においては円安メリットを享受している一方で、コスト面においては調達価格やエネルギー価格等の上昇の影響を受けています。引き続き為替の動向を注視するとともに、必要に応じて対策を講じていきます。
⑪ 品質管理リスク
当社グループは、顧客ニーズや社会課題解決のため、多岐に亘る製品・サービスを提供しています。それらの製造・サービス提供過程においては、社内外の基準に則り厳格な品質管理を実施していますが、予期せぬ製品の欠陥や品質面での不備が発生した場合、発生した損害について賠償を求められ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、2017年にN700系新幹線台車枠に亀裂が発生するという極めて重大なインシデントを引き起こしてしまったことを重く受け止め、社内に品質管理委員会を立上げ、原因究明と再発防止に努めてきました。また、2019年度に全社的なTQM(Total Quality Management)を推進する専門組織を立上げ、TQMに則った業務遂行体制の構築、品質管理教育、全員参加での品質向上に努めています。なお、全社のTQM活動の到達レベルは、客観的な指標に基づいた評価を毎年行い、経営会議及び取締役会へ報告し、その評価結果をもとにした対策立案、その後の活動への反映を行っています。
⑫ コンプライアンスに関するリスク
当社グループの役職員が法令違反行為や企業倫理違反行為等を発生させた場合、当社グループへの損害賠償請求や社会的信用の失墜、当社グループ製品の不買運動等に至り、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。そのため、「川崎重工グループ行動規範」を制定し、コンプライアンス違反を容認しない企業風土の醸成及び維持に努めています。また、社長を委員長とする全社コンプライアンス委員会を設置し、企業としての社会的責任を果たすための各種施策を審議・決定、遵守状況のモニタリング等を行っています。
[財務・経理に関するリスク]
⑬ 資金調達リスク・金利変動リスク
当社グループは、金融機関からの借入や社債の発行等により資金調達を行っていますが、金融危機が発生する等、金融市場が正常に機能しない場合には、一時的に資金調達を想定通り行うことが難しくなる可能性があります。そのため、資金調達手段の多様化やコミットメントラインを含む十分な融資枠を確保する等の対策を講じています。また、市場金利の上昇によって資金調達コストが増大した場合、支払利息等の金利負担増加により金融収支が悪化し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、固定金利での長期資金調達を行うこと等により、金利変動リスクの抑制に努めています。なお、金融機関からの借入金には、コベナンツ(財務制限条項)が付されていることがあり、コベナンツに抵触する事象が発生した場合、当該借入金についての期限の利益を喪失する可能性があるほか、その他の債務についても一括返済が求められる可能性があります。その結果、当社グループの信用力や財政状態に大きな影響を及ぼすこととなりますが、現在の財務状況に鑑みるとその可能性は低いと見ています。当社グループは引き続き財務体質の強化に取り組み、資金調達力の維持・向上を図るほか、サステナブルファイナンスを積極的に活用することで、資金調達の面からも当社グループビジョン2030の実現に向けて取り組んでいます。
⑭ 固定資産の減損リスク
当社グループは、継続的に設備投資を行いながら事業活動を進めており、多くの有形及び無形の固定資産を有しています。現時点において、多額の減損を計上するような懸念事項はないと考えていますが、今後何らかの外部環境の変化により減損処理を行う必要性が生じた場合、損益が悪化するリスクがあります。なお、大規模事業投資(設備投資を含む)案件について、大型プロジェクトの受注前プロセスと同様、投資決定前のリスク審査を強化する取組みを行っています。
⑮ 繰延税金資産の回収可能性に関するリスク
当社グループは、税効果会計を適用し、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産は、事業計画を基礎として将来の一定期間における課税所得の発生やタックスプランニングに基づき、回収可能性を検討しています。なお、将来の見通しに変化が生じた際は、回収可能性の見直しが必要となり、繰延税金資産の一部又は全部の回収ができないと判断された場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、将来の見通しの変化等により事業計画にダウンサイドリスクが判明した場合には、繰延税金資産の回収可能性に関しての見直しの要否を適時に判断できるような体制を構築しています。
⑯ 貸倒リスク
当社グループは、国内外の顧客に対して代金債権を有しています。顧客の信用不安や契約不履行等により、債権回収に問題が生じた場合は、担保の充当や債権債務の相殺等により回収しますが、回収不能な場合は貸倒れによる損失が発生する可能性があります。当社グループは、取引開始前の与信管理を徹底するとともに、取引期間中は顧客の財務状況を定期的にモニタリングする等、貸倒リスクの低減に取り組んでいます。
(2) 経済動向・社会・制度等の変化により活動の継続が困難となる重要事象
① 脱炭素化社会・ゼロエミッション
当社グループが提供する輸送機器やエネルギーシステムの多くは、化石燃料をベースにしています。また、生産をはじめとする事業活動においてCO2を排出しています。脱炭素社会やゼロエミッションの到来によって、現在の製品・技術が各種規制によって使用不可となることや、顧客をはじめとする様々なステークホルダーへの価値を創出できなくなることで、事業そのものが淘汰される可能性があります。また、事業活動におけるCO2排出を削減するための莫大な追加コストが発生するリスクも存在しています。
そのため、水素サプライチェーン商用化に向けた活動や、水素を燃料とする輸送機器・エネルギーシステム、電動機器など脱炭素社会に対応した事業に向けた研究開発を行うとともに、水素エネルギーを活用して2030年までに国内自社工場をカーボンニュートラルにする等、様々な対策を進めています。
② 経済安全保障に関するリスク
近年、地政学リスクが高まるなか、世界各国の政府が地政学的な課題解決のために、経済をその手段として行使する場面が増加する等、経済活動と安全保障の関係が深くなっており、日本において経済安全保障推進法が成立しました。当社グループにおいても、重要な部品や原材料の安定的な確保、他国への技術流出の防止等の対応が、従来以上に必要となっています。そのため、経済安全保障に関する変化に対応すべく、2022年5月に経済安全保障推進室を新たに設置し、国際情勢や各国の政策・法制度の動向等の調査・分析、各種リスクの評価を行う等、適切な措置を講じています。
③ 開発投資
当社グループは、社会課題の解決と持続的な企業価値向上のため、将来の収益が期待できる分野への研究開発投資や設備投資を行っています。開発の項目や内容の選定判断を誤ることで競合に対する競争力を失い、事業・製品のシェアを低下させるリスクがあります。また、水素利活用分野など基礎研究から実証、製品化へは長期にわたる投資が必要なものが多く、市場変化や顧客、競合動向、各国規制の変化等によっては開発戦略の見直しや撤退を迫られる分野もあり、過去には投入した開発費が回収できなかった事業も存在しています。開発投資が当社グループの経営に大きな影響を及ぼすことがないよう、対象分野の選定やその内容、人財投入計画等については、経営戦略や事業ポートフォリオ上の位置付けなども踏まえて決定し、進捗管理についても適宜フォローしています。
④ ライフスタイル・ワークスタイルの変化
当社グループは、輸送機器システム、エネルギー・環境機器、産業インフラ機械など人々の生活に密着した事業を展開していますが、コロナ禍を契機にこれら人々の働き方や暮らし方が急激に大きく変わりつつあります。リモートワークやイーコマースの増加等によって人とモノの移動の仕方に変化が起こっており、また、パーソナル志向の高まり等によって顧客価値も変化していることから、当社グループが提供する製品・サービスについてもそれらの変化に対応する必要があります。離れた場所からでも遠隔操作で動作するリモートロボット、貨物輸送ニーズに対応した配送ロボット、無人輸送ヘリコプター、オフロード四輪などパーソナルユース向け製品の積極的な市場投入など、時代が求める様々なソリューションをスピーディに提供することで、様々な社会課題を解決していきます。