有価証券報告書

【提出】
2020/06/23 14:53
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【項目】
181項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社が判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、グループ企業理念(2001年4月策定)において、以下の通り3つの柱を掲げております。
<商船三井グループ企業理念>① 顧客のニーズと時代の要請を先取りする総合輸送グループとして世界経済の発展に貢献します
② 社会規範と企業倫理に則った、透明性の高い経営を行ない、知的創造と効率性を徹底的に追求し企業価値を高めることを目指します
③ 安全運航を徹底し、海洋・地球環境の保全に努めます
(2)優先的に対処すべき事業上及び財務上の対処すべき課題
当社は2017年度から経営計画「ローリングプラン」を導入し、相対的競争力No.1事業の集合体を目指し、年度ごとの具体的な重点項目を設定し、その実現に向けて取り組んでまいりました。特に従来型の海運業は船腹の供給過剰の常態化により適正かつ安定的なリターンを得ることは困難になるとの見通しのもと、財務規律を意識しながら当社グループが強みを発揮できる事業・プロジェクトに経営資源を優先的に投入し、将来に亘る安定利益の積み増しを図ってきました。
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2020年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や原油価格の大幅下落による経済への影響が、当社の経営戦略に重大な影響を及ぼすとの認識の下、ローリングプラン特別委員会を設置し、まずは守りの策を実行し、同時並行で当社独自のメガトレンド予測により新型コロナウイルス感染拡大が及ぼす世界経済と当社グループの事業への影響の把握を行いました。その上で、今年度の「ローリングプラン2020」では、「成長軌道への復帰」を最優先テーマとしつつ、目指す姿とそれを実現するための3本柱を継続して掲げ、事業を推進してまいります。
<対応方針(成長軌道への復帰)>1)守りの策の実行
緊急対策として、ローリングプラン特別委員会の指揮のもと、以下対応を取りました。
① 危機対応としてのエクスポージャー縮減
業績への影響を最小限にとどめるためのリスクエクスポージャー縮減策として、船腹調整(停船・短期傭船の返船・保有船腹の処分)を適宜実行し、加えて運賃先物取引による損益ヘッジ等の対策を講じることで、業績への影響を最小限に留めます。
② 投資計画の見直し
全世界的な需要の減退による経済状況の変化に対応し、また新型コロナウイルス収束後の世界経済のトレンドを見極めながら、今後機動的に投資計画を見直します。
2)事業への影響把握(メガトレンド予測)
当社独自のメガトレンド予測を行い、新型コロナウイルス感染拡大による当社グループ各事業への影響を以下のとおり想定しております。
① ドライバルク船事業
・2020年は鉄鋼関係・一般炭を中心に前年比減少、経済活動回復の遅れに伴って荷動きの停滞は2021年中も継続し、2019年レベルへの回復は2022年以降となる可能性がある。
・世界需要・生産の約半分を占める中国の鉄鋼内需は維持されるが、感染拡大状況によってはASEAN5・欧米の鉄鋼輸入が大きく減少する可能性がある。
② エネルギー輸送事業
・石油需要低下と原油価格低迷により急増した石油洋上備蓄のための船腹需要が2020年度後半以降は解消し、タンカー傭船市況下落を見込む。2021年度以降の需給動向は不透明。
・世界のOil & Gas企業は本年度の資本支出予算削減を発表。上流投資は一様に大幅削減の方向であり、各種開発計画の中止・延期が顕在化する。
③ 製品輸送事業
・自動車の海上荷動きが2019年水準まで回復するのは2023年以降となる可能性がある(但し主要マーケットである欧米諸国での経済政策次第では回復が早まる可能性あり)。
・世界のコンテナ荷動きの底打ちは7-9月。2020年通年の荷動きは前年比△25%程度。2022年頃には、荷動きが2019年の水準程度まで回復すると想定する。
・フェリー・内航RORO船は、荷動きへの影響は比較的小さいものの、フェリー旅客が大幅に減少する。
3)攻めの戦略
メガトレンド予測に基づく影響把握の結果、コロナ禍からの回復過程において世界経済全体は一定の浮揚を示すものの、その回復のスピードは緩慢で弱々しいものにとどまる可能性が高いと考えます。当社事業においても“business as usual”ではなく、各事業がその特性に応じて、新規事業の開拓、コスト削減、事業モデルの変革に一段踏み込むことをローリングプラン特別委員会で確認しました。攻めの戦略として、事業特性に応じた成長戦略・構造改革に取り組みます。
<目指す姿を実現する3本柱>目指す姿を実現するための3本柱の具体策を以下のとおり定めました。
① 「ポートフォリオ戦略」:海洋事業を中心に強み分野への経営資源の重点投入
メガトレンド予測に基づき、エネルギー・海洋事業における環境関連投資は一時的にスローダウンするが、長期的には伸長する分野との認識から、「海洋事業を中心に」という方向性は堅持します。海洋事業全体の中でも重心をFSRU、LNG発電船分野にシフトさせ、当社に強みがあるLNG輸送・ハンドリング分野にも注力します。
② 「営業戦略」:顧客目線にたったストレスフリーなサービスの提供
・デジタルマーケティングの強化
ICTを活用した顧客満足度向上施策(MOL Lighthouseの機能強化とプラットフォーム化を目指す)を継続します。
・ワンストップサービス展開
ケミカル総合物流、洋上風力発電周辺事業に取り組みます。
・環境ニーズを捉えた提案型営業
顧客が求める環境負荷の少ないサービスを提供すべく、LNG燃料化や再生可能エネルギーを使用した本船の導入を進めて参ります。
③ 「環境戦略」:環境戦略の推進とエミッションフリー事業のコア事業化
当社は従来掲げてきた「環境ビジョン2030」に代え、IMO目標の達成へ向けたコミットメントをより明確化した「商船三井グループ 環境ビジョン2.0」を制定しました。
[商船三井グループ環境ビジョン2.0]
商船三井グループは、環境課題に向き合い、グループの総力を結集して、持続可能なネットゼロGHGエミッションを実現します。
(中長期数値目標)
1)2030年に持続可能なネットゼロ温室効果ガス(GHG)エミッション外航船を創出します。
2)2050年に船からのGHG排出総量を2008年比50%削減します。
3)今世紀中のできる限り早期にネットゼロGHGエミッションを実現します。
④ グループ会社の垣根を越えて取り組む「組織の力の向上」(組織のリフレッシュ)
a.既存組織に拘らないプロジェクト推進体制
本社の既存組織・グループ会社に点在している知見・リソースを結集し、機動力を高めて新しいビジネスの獲得に繋げます。
b.グループ全体の生産性向上
15%の生産性向上を目標とし、その成果から捻出した人材を成長領域に再配置する。在宅勤務恒常化による生産性向上効果を踏まえ、目標の早期達成を目指します。
<財務上の影響と対応方針>財務面においては、荷動きの減少に伴う運賃収入等の減少が見込まれるものの、燃料消費量節減をはじめとする運航費の削減に加え、船腹調整や投資計画の見直し等により資金確保に努めます。また、想定を上回る資金需要が生じた際にも、大手都市銀行との間に約1,400億円、残存期間3~4年におよぶコミットメントライン契約を有しており、必要な資金を確保できる体制を整えております。
<サステナビリティ課題(マテリアリティ)への取組み>2019年度に特定したサステナビリティ課題(※)における具体的な取り組みの例として、以下のプロジェクトを推進しております。海洋・地球環境の保全のみならず、これらプロジェクトの推進によって生み出される環境負荷の低いサービスは当社が提供しうる付加価値の一つであり、持続可能な社会への貢献を示すものと考えております。
(※)当社の社会価値向上に向け、事業活動を通じて優先的に取り組むべき社会課題
・LNG燃料関連プロジェクト(石炭船、フェリー、LNGバンカリング)
従来の燃料油に比べて二酸化炭素の排出を3割減らすLNGを主燃料とした船を建造・運航し、環境負荷の低減に努めます。また舶用燃料としてのLNGを普及させるべく、LNG燃料を供給する船を保有・運航するプロジェクトを進めております。
・ウインドチャレンジャー
世界発となる硬翼帆式風力推進装置(風力エネルギーを推進力に変換・利用する装置)を石炭船に搭載し、環境負荷の低減と航行燃料の削減による経済性の向上を図ります。
・FSRU LNG再ガス冷熱発電
FSRUの再ガス化プロセスに有機ランキンサイクル(注)を用いることで、これまで海水に排出していたLNG冷熱を発電エネルギーとして利用することが可能となり、FSRUの燃料消費及び二酸化炭素の排出削減を目指します。
(注) 有機化合物からなる熱媒体を介して温度差を発電エネルギーに変換する熱機関の理論サイクル
<コンプライアンス上の対処すべき課題>当社グループは、2012年以降、完成自動車車両の海上輸送に関して各国競争法違反の疑いがあるとして、米国等海外の当局による調査の対象となっております。また、本件に関連して、当社グループに対し損害賠償及び対象行為の差止め等を求める集団訴訟がカナダ及び英国において提起されております。このような事態を厳粛に受け止め、当社グループでは独禁法をはじめとするコンプライアンス強化と再発防止に引き続き取り組んでまいります。