有価証券報告書-第31期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

【提出】
2014/06/26 12:37
【資料】
PDFをみる
【項目】
103項目

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

(1) 重要な会計方針及び見積り
① 講座に関する売上計上基準
当社の提供する資格試験講座においては、原則として受講者の申込時点で講座受講料を全額前納していただいており、受取った受講料をいったん全額負債としての前受金に計上し、受講期間に応じて受講者にサービスを提供していく都度、月割りで前受金を取崩し売上計上しております。当社の主力である公認会計士・税理士等の難関国家資格講座は、受講期間が1年を超えるものも多く、したがって前受金は1年以上にわたり各月の売上に振り替えられていくことになります。
② フリーレントの会計処理
当社は、資格取得スクールを展開するため多くのビルを賃借しております。貸主からフリーレントを受ける場合、フリーレント期間が長期化し金額的な重要性が増しているため、賃借料の要支払額を賃借期間で按分して会計上の費用として計上しております。
(2) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 講座の増減収要因
当連結会計年度の動向は、財務・会計分野、税務分野及び法律分野が減収となった一方で、金融・不動産分野及び公務員分野が伸長しました。公認会計士試験では大手4大監査法人の就職状況は非常に良好であり、新規学習者向けの入門コースが前年を上回り始めておりますが、再受験者向けの上級コースが低調に推移しており、減収が続いております。税理士試験も市場の縮小が続いているほか、簿記検定試験も受験者減少が継続しております。しかし、簿記検定試験は、3級試験など、個別にみると受験者数が前年同時期を上回るケースも出始めており、底打ちの気配が見えてきております。司法試験、司法書士講座等の法律系講座も、売上減少に歯止めがかかっておりません。これに対して、公務員講座は、景気回復とともに民間企業での求人が回復しつつあるにもかかわらず、いまだに大学生の間での公務員人気は根強く、国家一般職・地方上級試験コースを中心に売上が堅調に推移しております。また、金融・不動産分野も、景気回復に伴って宅建・マンション管理士・FP・証券アナリスト講座等が好調に推移しております。
これらの結果、当社グループの当連結会計年度における現金ベース売上高は204億3千万円(前連結会計年度比0.0%減)となりましたが、前受金調整額が正味で9千6百万円の戻入れ(同4億6千3百万円減)となったため、発生ベース売上高は205億2千6百万円(同2.2%減)となりました。
② コスト要因
コストについては、売上原価で同7億8千5百万円減、販売費及び一般管理費で同5億3千万円減、合計で13億1千6百万円もの削減を行いました。主な内訳は、講師料で同5億1千9百万円、教材印刷費・ダビング代等の外注費が同2億2千7百万円減、賃借料が同4億9千万円減、人件費が同1億9千3百万円減等であります。これらのコスト削減により、売上高の減少を上回って増益に転じ、営業利益は同8億9千7百万円改善し、10億3千4百万円の営業利益(同約7.5倍)を計上することができました。
③ 法人研修事業の業績推移
法人研修事業に係る受講者数、売上高及び営業利益の推移は以下のとおりであります。なお、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」等の適用によりマネジメント・アプローチを採用しており、下表では現金ベース(前受金調整前)の売上高及び営業利益で表示しております。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
受講者数(名)58,61161,20562,627
売上高(千円)4,199,2634,066,9534,258,085
営業利益(千円)824,1011,046,6251,232,002

法人研修事業は、アベノミクスによる景気回復を追い風に企業研修が好調で、前年同期比5.2%増となりました。地方の専門学校向けコンテンツ提供は宅建・公務員・情報処理が好調で同18.7%増、大学内セミナーは公務員が好調で同6.5%増となりました。一方、地方の専門学校ベースの提携校事業は同6.7%減と振るわず、自治体の委託訓練が同9.5%減、税務申告ソフト「魔法陣」事業は同9.9%減となりました。これらの結果、現金ベース売上高は42億5千8百万円(同4.7%増)、現金ベース営業利益は12億3千2百万円(同17.7%増)となりました。
④ 人材ビジネスの業績推移
当社100%子会社の株式会社TACプロフェッションバンク(以下、TPBという。)においては、人材派遣・人材紹介・求人広告の3つの柱で事業を行っております。TPBは、当社の資格取得講座の受講者・合格者を中心に会計・経理分野に強みを持つ人材供給会社として認知されてまいりました。TPB単体の業績推移は、以下のとおりであります。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
売上高(千円)389,608422,230430,515
営業利益(千円)31,99362,11297,275
当期純利益(千円)22,68936,74158,554

会計業界向けの夏の就職説明会に大手4大監査法人がすべて出展を決める等、会計士市場は需要が活発化しております。また、冬の税理士合格者中心の就職説明会も過去最高水準の出展社数を集め、活況でありました。これに加えて、TPBではコスト削減も継続しており、利益体質に転換してきております。以上の結果、売上高は4億3千万円(同2.0%増)、営業利益は9千7百万円(同56.7%増)となりました。
(3) 経営成績に重要な影響を与える要因について
① 受験者数の推移
当社の取扱う資格試験の受験者数は、直近の底である平成17年の271万人から平成22年には308万人にまで13.8%増加しました。これは簿記検定試験が53万人から73万人にまで増加したほか、FP試験が21万人増加したこと等が主な要因です。一般的には、不況期に資格受験者は増加する傾向があり、特に当社が強みを有する会計系資格(公認会計士・税理士・簿記検定)においては、平成17年の61万人から平成22年には81万人と32.6%も増加しております。
しかしながら、公認会計士試験合格者の未就職者問題、簿記検定試験の東日本大震災をきっかけにした受験者大幅減少の継続等により、会計系資格受験者数は平成25年には64万人(21.0%減)にまで減少し、平成15~17年頃の安定的な市場レベルに戻ったかたちになりました。これに伴い、当社の取扱う資格試験全体の受験者数も、ピーク時の308万人から急速に減少し、平成25年は260万人となっております(15.6%減)。
当社の取扱う各資格試験の受験者数は、社会情勢などを反映しながらそれぞれ固有の動きをしており、現在学習中の方を含めますと受験者数の数倍の市場規模と想定されますので、当社の各講座の売上高及び営業利益も各資格試験の受験者の動向に影響を受けてまいります。
② 試験制度の改正等の受験環境
平成18年の公認会計士試験制度の改正の前後で、新試験制度に向けた申込み控えや新試験2年目から始まった大量合格傾向、さらには監査法人の採用数減少による未就職者問題などにより、当社主力の公認会計士講座の売上高は大きく影響を受けてきました。平成24年の合格者削減に至り、ようやく未就職者問題は収束に向かっております。このほか、中小企業診断士試験における大量合格者が生じたことによる再受験者の申込み減少、平成23年に司法試験予備試験が開始され順調に受験者が増加した結果、平成26年には12,600人を超えており、今後の司法試験受験環境やニーズへ影響を及ぼすことが考えられます。このように当社の取り扱う資格試験制度の改正内容、新試験の合格率や難易度等の結果によって、当社の経営成績は大きな影響を受けることがあります。
(4) その他、財政状態及び経営成績に関する分析
① 前受金について
当社の行う資格取得支援事業は、受講申込者に全額受講料をお支払いいただき(現金ベースの売上)、当社はこれをいったん、前受金として貸借対照表・負債の部に計上しておきます。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金を月ごとに売上に振り替えます(発生ベースの売上)。一般的に、現金ベースの売上が拡大していく局面では前受金残高が増大していき、当該会計期間以降、前受金戻入が多額になることによって発生ベースの売上を押し上げる効果が強まりますが、現金ベースの売上が減少していく局面では前受金残高が減少していき、当該会計期間以降、前受金戻入が少なくなることによって発生ベースの売上を押し上げる効果が弱まる傾向があります。さらに、現金ベースの売上が減少局面から増加局面に変わる期においては、発生ベースの売上に対する減少効果が増幅される場合があり、発生ベースで計算される当社の業績に影響を与えることになります。前受金及びその他の財政状態の指標の推移は以下のとおりであります。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
総資産(A)(千円)19,061,62016,808,63918,631,326
前受金(B)(千円)7,204,5336,621,5146,515,502
前受金比率(B/A)(%)37.839.435.0
自己資本(C)(注)(千円)2,191,2933,311,2464,153,317
自己資本比率(C/A)(%)11.519.722.3

(注) 自己資本は、純資産の額から少数株主持分の額を控除して算出しております。
前連結会計年度から当連結会計年度にかけて引き続き現金ベース売上高が低調であったため、前受金戻入額が減少してきており、前連結会計年度に比べて5億5千8百万円少なくなりました。一方、期末の消費増税前の駆け込み申込みにより、前受金残高はそれほど大きく減少せず、同1億6百万円減にとどまりました。駆け込み申込みによって積み上がった前受金は、翌連結会計年度以降、売上高に振り替わってまいります。
前受金に見合う資金は、徐々に取り崩されて営業活動に使用されます。そのため、事業活動に必要な自己資本は相対的に低い水準で済み、自己資本比率は相対的に過小である傾向があります。当連結会計年度は、8億1千6百万円の当期純利益を計上したため、前連結会計年度に引き続き自己資本が大きく改善しております。
② 前受金保全信託受益権について
消費者保護の考え方の高まりに対応して、当社は平成20年8月末を基準に前受金保全信託制度を新たに導入しました。本制度においては、受講期間が1年を超える受講者を対象に、未経過受講期間が1年を超える期間分の受講料を全額保全し、当社財産と分別管理するしくみとしており、当社に万が一事業を継続できなくなる事態が生じた場合には、信託財産が受益者代理人を通じて、各受講者に返還されます。ただし、受講者にお支払いいただいた前受金のうち未経過受講期間が1年以内に対応する受講料については、他の債権者との関係から受講者に返却できない場合があります。
当連結会計年度末における前受金保全信託受益権は、資産の部・流動資産の区分に3億6千5百万円計上されております。前連結会計年度に比べて1億8千万円減少しているのは、公認会計士、税理士等、長期で高額な講座の売上が低迷する一方、比較的短期の公務員講座の売上が伸長しているためであります。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
前受金(A)(千円)7,204,5336,621,5146,515,502
前受金保全信託受益権(B)(千円)3,069,684546,180365,638
前受金保全比率(B/A)(%)42.68.25.6

③ 差入保証金について
当社グループの事業所は原則として賃借によっております。したがって、当社は、教育サービスを提供する教室確保のための直営校各拠点を賃借するために、資産の部・固定資産の「投資その他の資産」の区分に差入保証金を多額に計上しております。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
差入保証金(A)(千円)4,929,3213,152,3543,151,532
前受金(B)(千円)7,204,5336,621,5146,515,502
保証金比率(A/B)(%)68.447.648.4

賃借契約は原則として2年であり、受講者数の増加に伴い教室スペースの確保のため各拠点の増床や新規拠点の開設を行うと、差入保証金は増加することになります。当連結会計年度においては大幅な拠点面積の削減等はなく前連結会計年度までに一段落していたため、差入保証金の多額の減少は生じておりません。
④ 資産除去債務について
当社グループの事業所は賃借ビルが多いため、「資産除去債務に関する会計基準」に基づいて、各賃借ビルの原状回復義務等を資産除去債務として負債の部に多額に計上しております。また、同時に資産の部に計上された資産除去債務相当額からは、その関連する有形固定資産の減価償却方法に準じて減価償却費が発生し、毎期計上されます。これにより、将来、原状回復義務を履行した場合の費用または損失が一時に計上されずに、使用する各期間に費用配分されることになりますが、結果として、各期の減価償却費が押し上げられ、固定費負担が重くなっております。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
総資産(A)(千円)19,061,62016,808,63918,631,326
資産除去債務(B)(千円)708,447631,941638,684
資産除去債務比率(B/A)(%)3.73.83.4
減価償却費のうち資産除去債務関連(千円)85,46075,74347,708

⑤ 運用有価証券について
前受金が増加していくことは、受講者からの預り資金が増加することを意味します。そのうちの一部は、教室スペース確保のための差入保証金に充当されております。残額は、順次サービスを提供していくため、講師料、賃借料等のほか、教材の印刷費・DVDのダビング費・広告費等に消費されます。そうした消費のタイミングまでは、前受金の一部の資金は現金及び預金または有価証券等の金融商品で保有されます。当社の有価証券投資の方針は運用規程に定められており、元本確保型の安全性を重視した金融商品であって、かつ、利回りを追求した金融商品を中心に運用しております。
過去3期間の運用有価証券の推移は、以下のとおりであります。
平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期(当期)
有価証券(千円)189,87080,968166,113
投資有価証券(千円)1,119,1501,593,3051,318,131
合計1,309,0211,674,2731,484,245

当連結会計年度においては、欧州債務危機の懸念が後退するとともに円安傾向が定着しているため、有価証券利息及び評価益が計上されたほか、保有していたJ-REITを売却したことにより投資有価証券運用益が2億9千万円計上されております。
(5) 戦略的現状と見通し
当社を取り巻く環境は急速に変化しており、最近の大学生・社会人層の自己投資に関する嗜好の変化、公認会計士・弁護士の就職問題に象徴される資格学習意欲の減退、スマートフォン・タブレットの爆発的な普及による教育市場におけるIT化の進展等、複合的な要因によって売上高の急速な収縮に見舞われてきました。前連結会計年度に実施した固定費削減のための事業構造改善、具体的には、賃借物件の一部解約による賃借料の削減、講師料等の減額、役員報酬の減額、希望退職制度の実施を含む人件費の削減、不採算講座の縮小等の効果によって、当連結会計年度は単体・連結とも営業損益が大きく改善いたしました。
翌連結会計年度に向けては、こうしたコスト削減効果が一巡してくるため、コスト削減による大きな増益は生み出しづらくなりますが、継続的なコスト削減努力は緩めず、単体ベースの講師料は当事業年度比2.2%減、教材費等の外注費は同1.4%減など、売上原価は同3.9%減を見込んでおります。また、売上高は、当連結会計年度末に消費増税の駆け込み申込みが著しく増大したため、その反動減が消えるまで、相当程度の期間を要すると見込まれます。
翌連結会計年度は、上記のような厳しい環境の下でも利益を出せる体質を構築しつつ、今後の成長のため新たな売上高を作る取組みを行っていく年度と位置付けております。
① 新講座の開発・・・教員試験対策講座の本格的な立ち上がり、建築士講座の更なる拡大
② 新規事業の開拓・・・㈱オンラインスクールによる新たな資格学習者層の開拓、囲い込み、TAC講座への引き上げ、㈱プロフェッションネットワークによる実務家向けビジネスの拡大等
(6) キャッシュ・フローの状況の分析
キャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 1 業績等の概要 (2) キャッシュ・フロー」をご参照ください。
なお、文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末において入手可能な情報に基づき当社グループが合理的であると判断したものであります。したがって、将来や想定に関する事項には不確実性を内在しており、将来における実際の業績は様々な要因により大きく異なる結果となる可能性があります。