有価証券報告書-第114期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/27 9:10
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144項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1)経営の基本方針
長期的な視点に立った会社経営を基本に、経営の効率化と収益力の向上によって、企業価値をより高めていくことを目標としており、その実現を通じて、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会など、すべてのステークホルダーの信頼と期待に応えられる経営を目指している。
(2)中期的な経営戦略及び対処すべき課題
当社グループは、リニア中央新幹線工事の入札に関する独占禁止法違反事件を踏まえ、「あらゆる事業運営においてコンプライアンスを最優先する経営」を強固に推進し、株主をはじめとしたステークホルダーの皆様からの信頼回復に努めていく。
また、当社グループは平成29年度から5ヵ年計画「中期経営計画2017」に取り組んでいる。今後も同計画の施策を力強く推進し、業績の維持・拡大を目指すとともに、「働き方改革」の推進により、総労働時間縮減と生産性向上を両立させることで、企業価値の向上に努めていく。
① 平成30年度に実施する再発防止策
当社は、リニア中央新幹線工事の入札に関する独占禁止法違反事件について、本年3月23日に東京地方検察庁から起訴された。
当社では、平成18年に「独占禁止法遵守プログラム」を策定し、全社を挙げてコンプライアンスの徹底に取り組んできたが、今般、かかる事態を招いたことを受け、これまでの施策に加えて、平成30年度に以下の再発防止策を実施することとしている。
[平成30年度に実施する再発防止策]
目 的追 加 施 策
同業者との接触ルールの厳格化・(一社)日本建設業連合会等の業界団体や技術団体及び発注者が公式行事として
主催する懇親会に同業者が同席する場合、その参加には事前の承認手続きを必要
とし、参加者に注意を促す
・また、上記公式行事以外については、同業者が同席する懇親会は原則として参加
禁止とする
・同業者との会合の事前報告制度「同業者との会合等報告制度」の見直し
⇒これまで主に営業部門(支援部門含む)を報告対象としていたが、すべての役
員及び従業員を報告対象とする
・「談合行為等に直面した場合の行動プログラム」(※)の一部改正及び再周知
(※)以下、4パターンにおける、行動プログラム及び報告手順を定めたもの
① 同業者の会合で入札談合の話が出た場合
② 公共工事の発注者から官製談合への関与を求められた場合
(今回、民間発注者も対象に追加)
③ 現に行われている談合に巻き込まれた場合
④ 当社の役職員が談合に関与していることを知った場合
独占禁止法の正しい理解の徹底・営業活動において誤解しやすい事柄、判断に迷う事柄を中心に独占禁止法の解説
資料を作成
・上記資料の内容は、毎年4月~5月に当社すべての職場で実施している、企業倫
理職場内研修の平成30年度版テキストにも掲載
・毎年、秋に営業部門を対象に実施する独占禁止法遵守教育の対象者に、本年から
技術部門も追加したうえで、営業活動において誤解しやすい事柄、判断に迷う事
柄を重点的に解説する

違反行為を行う・見過ごす心理的要因の除去
・内部通報制度利用への心理的
ハードルの低減
・違反行為を正当化する理由は
ないこと等の意識付け
・上司の指示であっても誤りを
指摘できる企業文化の醸成
・内部通報制度の見直し(通報の義務化、社内リニエンシーの明記)
⇒不正行為が発生し又は発生するおそれがあると判断した場合には、自己の関与
の如何にかかわらず、職制を通じた報告又は内部通報を義務化
⇒入札不正に係る独占禁止法違反又はそのおそれのある行為に関しては、自己が
一旦関与してしまった場合であっても、内部通報者に対しては社内処分の減免
を図る旨を明記
・内部通報制度の全役職員への周知を年1回から年2回とし、上記社内リニエンシ
ーの明記とあわせて、以下①~②を重点的に解説することで、内部通報制度の利
用を促進する
① 内部通報により違反行為を未然防止することが、会社のみならず、結果とし
て対象行為者を助けることになること
② 内部通報によりその後、不利益取扱いされることは断じてないこと
・機会あるごとにトップメッセージとして、以下内容を発信する
① 事業活動のすべてにおいて法令遵守が優先し、不正行為による受注は会社と
して一切求めていないこと
② 法令違反行為に自己正当化する理由はないこと
③ 上司の指示であったとしても法令違反行為は許されるものではないこと
・上司に対しても積極的に意見を具申でき、誤りがあれば指摘できる雰囲気である
ことが、危機の未然防止につながり企業価値を高めるという意識を社内で共有す
るべく、人事考課の評定項目に「上司への積極的な意見具申」を加えるととも
に、定期研修における意識付けを行っていく
監視機能の強化・同業者が宛先及び発信元となっているメールについて、その内容を内部監査部門
がチェック(AIの活用も検討)
・入札の全過程を監査する「ウォークスルー監査」のサンプリング対象に民間工事
を追加(これまでは公共工事のみが対象)

このほか、起訴される事態に至ったことを厳粛に受け止め、さらなるコンプライアンスの徹底に取り組む決意の表明として、取締役報酬を自主返上した。
報酬返上の内容:平成30年4月1日現在の代表取締役全員 月額報酬の30%
平成30年4月1日現在の取締役全員(社外取締役除く) 月額報酬の20%
報酬返上の期間:平成30年4月~6月(3ヵ月間)
② 大林組グループ中期経営計画2017の力強い推進・加速
大林組グループは、創業150周年(2042年)の「目指す将来像」の実現に向けて、平成29年度を初年度とする5ヵ年計画「大林組グループ中期経営計画2017」を推進している。平成30年度も、「ゼネコン」の枠にとらわれることなく成長を続け、事業環境の変化にしなやかに適応しながら、すべてのステークホルダーの期待に応える企業グループへと進化していく。
ア 主な経営指標目標
中期経営計画2017では、計画策定から5年後の2021年度末の経営指標目標を定めている。
2021年度末 B/S(連結)
2017年度末実績・さらなる財務体質の改善
・想定外の事業リスクにも耐えうる自己資本の増強
・事業領域拡大に向けた計画的かつ機動的な
成長投資を支える投資余力の増強
自己資本額
(利益剰余金)
9,000億円
(7,000億円)
6,848億円
(4,048億円)
自己資本比率40%31.9%
ネット有利子負債
(有利子負債)
(現預金)
ゼロ
(2,500億円)
(2,500億円)
866億円
(2,767億円)
(1,900億円)
2021年度 P/L(連結)
2017年度実績・安定的な利益水準の維持とその拡大により
企業価値を向上
売上高2兆円程度19,006億円
営業利益1,500億円程度1,378億円
親会社株主に帰属する
当期純利益
1,000億円程度926億円
1株当たり当期純利益
(EPS)
150円程度129.09円
自己資本利益率(ROE)
自己資本増強により財務レバレッジが下がるためROEが低下
10%超の水準14.5%

イ 投資計画
目指す将来像の実現に向けた「布石」として、平成29年度から5年間で4,000億円の投資を行う。
中期経営計画20172017年度実績
2017~2021計画(年度平均)

「最高水準の技術力と生産性を備えたリーディングカンパニー」であり続けるための継続的な投資
建設技術の研究開発1,000億円(200億円)191億円
工事機械・事業用施設500億円(100億円)81億円

「多様な収益源を創りながら進化する企業グループ」の実現に向けた投資
不動産賃貸事業1,000億円(200億円)598億円
再生可能エネルギー事業ほか1,000億円(200億円)143億円

機会を捉えた成長投資
M&Aほか500億円(100億円)255億円

総投資額4,000億円(800億円)1,271億円

ウ 事業戦略と取り組み状況
既存4本柱(建築・土木・開発・新領域)の強化、事業領域の深化・拡大、さらなるグローバル化を加速させる。以下は具体的施策とその目的である。
(ア)建設事業
〈生産性向上〉
・シリコンバレーで次世代生産システムの共同研究、共同開発スタート
・設計や現場のノウハウや強みをビッグデータとして集積
→技術革新の基盤として、最高水準の生産性や付加価値創出を実現
〈働き方改革〉
・総労働時間の縮減、工事事務所4週8休に向け、働き方改革アクションプランを策定、実施
→生産性向上と両輪で推進し、「魅力ある建設業」への発展に貢献
〈海外建設〉
・豪州で事業規模を拡大
→さらなるグローバル化の推進
(イ)開発事業
・東京都心部での大型賃貸不動産投資を拡大
・タイ大林がバンコックで高層オフィスビル用地を取得
→ポートフォリオの多様化を推進し不動産市場の変化に柔軟に対応
(ウ)新領域事業
・バイオマス発電事業への取り組みを強化
・ニュージーランドの地熱電力を利用したCO2フリー水素製造・流通に関する実証研究を現地企業と共同で
開始
→洋上風力発電などさらなる領域拡大
エ 経営基盤戦略
事業環境の変化にしなやかに適応しながら、経営基盤をより強固なものにする。
(ア)技術開発
・次世代移動通信システム「5G」と4K3Dモニターを活用した建設機械による遠隔施工に成功
・AIによる画像解析技術を利用したコンクリートのひび割れ自動検出手法を確立
→IoT/AIを活用した生産性向上に資する技術開発をさらに推進
(イ)人材・組織
・事業領域の多様化にしなやかに対応し、多様な人材の挑戦を支える諸制度を実現
(ウ)ESG経営の推進
・環境(E)負荷の少ない事業活動を推進
・人々に安全・安心を提供して社会(S)に貢献
・コンプライアンスの徹底を中心にガバナンス(G)を強化
③ 働き方改革への取り組み
これまで当社は、従業員の心身の健康維持・向上と建設業の担い手確保を目的として総労働時間の縮減に取り組んできた。中期経営計画2017の事業戦略にもあるとおり、長時間労働の是正は、業務効率化や生産性向上と両輪の課題となっている。
こうしたなか、当社は昨年9月に社長直轄の「働き方改革推進プロジェクト・チーム」を設置し、本年4月に具体的な働き方改革アクションプランを策定した。今後、以下の施策を推進することで労働時間縮減と生産性向上を目指し、業績向上につなげるとともに、「魅力ある建設業」の実現にも寄与していく。
[働き方改革アクションプランの施策]
取り組み事項平成30年度の主な施策
(1) 長時間労働の是正・ICT技術を活用した業務効率化
・工事事務所における4週8休の実現に向けた振替休日の取得奨励
(2) 年休取得の推進・休日休暇取得予定表の活用による計画的な年休取得
・秋の連休シーズンにおける年休取得促進期間の実施
(3) 柔軟な働き方の促進・テレワーク制度の導入
・育児・介護関連制度のさらなる充実

当社グループは、あらゆる事業活動においてコンプライアンスを徹底したうえで、生活・社会・産業基盤の整備を通じて、人々の暮らしに安全・安心を提供し、経済発展に寄与するという社会的使命を果たしていく。