有価証券報告書-第135期(平成27年1月1日-平成27年12月31日)

【提出】
2016/03/29 14:29
【資料】
PDFをみる
【項目】
136項目

研究開発活動

当社グループにおける研究開発活動は、私たちの使命「私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。」に基づいて、社内カンパニー・事業部・連結子会社に所属するディビジョン研究開発とコーポレート研究開発との緊密な連携の下に推進されています。
中期経営計画「GS-STEP」に掲げた「世界に存在感を示す高収益スペシャリティ企業」の実現を目標とし、技術革新を通じ新たな製品・用途開発を行うことで業容を拡大していきます。「GS-STEP」では「強い素材の開発と成型加工技術の深化・横展開」、「社内で保有しない技術の外部活用」、「カンパニーと関係会社の協働強化」を重点方針として掲げます。本方針に基づき、新事業創出を目指す「高い市場成長力」をもつ分野として定めた、環境(水処理を含む)、エネルギー、光学・電子材料の重点領域において、早期に収益への貢献を果たすことを目指します。
コーポレート研究開発は、くらしき研究センター、つくば研究センターおよびクラレリサーチ&テクニカルセンター(KRTC:米国およびドイツ)を擁し、世界規模の体制で運営しています。生産技術に関しては、技術開発センターにおいて「原理原則と現場感覚の最適融合」による生産技術開発を推進しています。ディビジョン研究開発は、社内カンパニー・事業部・連結子会社が各事業所に研究開発部署を有しています。コーポレート研究開発とディビジョン研究開発は密接に連携し、基幹事業の強化および新事業の開発加速のために活動を推進しています。これらを合わせた当社グループ(当社および連結子会社)の研究開発人員数は917人です。当連結会計年度のセグメントごとの研究開発費は、ビニルアセテート5,424百万円、イソプレン1,581百万円、機能材料2,210百万円、繊維1,656百万円、トレーディング149百万円、その他1,208百万円、全社共通(コーポレート研究開発)6,901百万円、合計19,132百万円になります。
セグメントごとおよびコーポレートの研究開発活動を示すと次のとおりです。
[ビニルアセテート]
・ポバール樹脂、ポバールフィルム、PVBフィルム、<エバール>樹脂の酢酸ビニルチェーンについては、世界のリーディングカンパニーとして、国内外の研究開発部署が連携し、新規用途開発、新商品開発、新規生産技術開発も併せて、研究開発活動を推進しています。
・ポバール樹脂では、特殊変性技術を活かして、石油・天然ガス掘削現場で使用される高性能銘柄の開発を拡大しています。
・水溶性ポバールフィルムはDuPont社から買収したビニルアセテート関連事業(GLS事業)の原料を使用していることから、原料に遡及した開発を加速することで、買収のシナジー効果を発現させていきます。
・PVBフィルムでは、2015年7月に前述のGLS事業と既存組織を統合してグローバルな研究開発体制を強化し、自動車用途の高付加価値品などの開発を進めています。
・ガスバリア材料では、金属缶・ガラス瓶代替が可能な新商品として、スーパーバリア材料<エバール>AP、コーティング系透明バリアフィルム<クラリスタ>など積極的に新規用途開発に取り組んでいます。最近ではレトルト耐性に優れる新銘柄<エバール>FRを上市しており、食品包装用途を中心に用途拡大を目指します。また、家庭用冷蔵庫などに使われる真空断熱板用の<エバール>フィルムを積極的に展開しており、一層の省エネルギー・地球環境保全に貢献していきます。
・2015年4月に買収したPlantic Technologies Limitedのでんぷん系バリアプラスチック事業に関しては、原料、成形技術に遡った研究開発を行い、新規製品の上市による市場拡大を加速することで、上記の既存バリア材料事業とのシナジー効果を早期に発現させます。
[イソプレン]
・エラストマー関連では、植物由来の原料ファルネセンを用いた液状ゴムおよび熱可塑性エラストマーを開発しています。液状ゴムは、高機能タイヤの「グリップ性能」「耐摩耗性」等の向上が評価され、国内メーカーの2016年モデルに採用が決定しました。海外大手タイヤメーカーでも評価が進んでおり、更なる採用拡大に向けて研究開発、マーケティング活動を進めていきます。
・イソプレンケミカル関連では、独自性の高いC4ケミストリーをさらに進化させた化学品として、殺菌剤や特殊インキ関連の材料開発、ならびに精密有機合成技術を基盤にした半導体フォトレジスト用材料など機能性化学品の創出に取り組んでいます。
・耐熱性ポリアミド樹脂<ジェネスタ>では、自動車の軽量化や電装化に寄与する材料開発、耐熱性の高いLED部材用新銘柄の開発に取り組んでいます。
[機能材料]
・メタクリル樹脂については、差別化ポリマーの拡充とメタアクリル系樹脂を活用した新規用途開発、新商品開発を主体に研究開発活動を行っています。
・メディカル事業では、クラレノリタケデンタル株式会社の無機/有機の技術の融合による新規歯科材料の開発に注力しており、CAD/CAMなど歯科のデジタル化の流れにも対応しています。また、人工骨インプラント<リジェノス>の用途拡大を進めるとともに、新たにβ-リン酸三カルシウム素材の吸収性骨再生用材料<アフィノス>の全国販売を開始しました。<アフィノス>は移植後に体内に吸収され、自家骨に置換されるという特長を持っています。
・人工皮革<クラリーノ>については、環境対応型革新プロセス(CATS)で上質な商品、特長を生かした新規用途開発により、販売拡大が進んでいます。
[繊維]
・PVA繊維<ビニロン>については、革新プロセス(VIP)によるフィラメントの実証プラントを建設し、サンプルワークを開始しました。現在は、高強度フィラメントの開発を進めています。FRC(セメント補強材)は、新商品によるアジア、中南米等の新規ユーザーが拡大しました。また、軽量な成型品の展開も進めています。
・高強力繊維<ベクトラン>については、原料樹脂並びに繊維の品質管理体制の強化が実を結び、収率が向上しました。また、細繊度品の用途が拡大し、収益に大きく貢献しています。
・新型不織布<フレクスター>については、伸縮包帯用途を中心に新規ユーザーの開拓に取り組んでいます。
・難燃繊維(ポリエーテルイミド繊維)は、耐熱性、低発煙性や分散染料可染等の特長があり、航空機や自動車等の高温断熱材やコンポジット、ならびに高視認性防護製品の展開を図っていきます。
[トレーディング]
・ポリエステル長繊維<クラベラ>では、溶剤ではなく熱水に溶解し、生分解性をも有する環境に優しい特殊水溶性樹脂<エクセバール>を用いた ①水溶性繊維<ミントバール>とウールを複合した<ミントバールミックス>、②軽量で吸汗性に優れた“さくら”断面繊維などをラインナップに加え販売を展開するなど、機能性・環境をキーワードにした独自素材の開発、用途開発に注力しています。
[その他]
・アクア事業推進本部では、中空糸ろ過膜を用いた様々な水の製造・回収、ポリビニルアルコール(PVA)ゲルを用いた産業排水の処理・回収、海洋生態系保全のための海水処理などを通して、「高品質で安全な水の提供」と「環境負荷の低減」に貢献する素材・装置・プラント・技術開発に取り組んでいます。また、食品残渣(生ごみ)を少なくするため、ゲルに棲まわせた微生物で生物分解する装置を開発しました。この装置及びゲルの販売を促進します。
・クラレケミカル株式会社では、「Ecology & Amenity」を企業コンセプトとし、「環境・エネルギー」分野をメインターゲットに、活性炭や炭素材料を用いた新規用途開発に取り組んでいます。
・クラレプラスチックス株式会社では、当社の研究・開発部門と連携し、スチレン系エラストマーを使用した家電・電子部品ならびに自動車部品、建材、生活用品、メディカル、スポーツ用品等の用途での樹脂用コンパウンド、ポバールフィルムでの多層化加工やエバールフィルムでの特殊コーティング加工をした新規フィルム、成型加工技術を利用したスマートハウス向け断熱換気ダクトや土木用途を中心とした繊維複合ホース等の開発を推進しています。
[コーポレート研究開発]
・コーポレート研究開発は、市場成長が期待される「水・環境」、「エネルギー」、「電子・光学」分野を重点注力分野とし、新規事業の創出と育成に注力しています。
・リチウムイオン二次電池(LiB)の研究開発・市場開発に関し、株式会社クレハの子会社である株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン(KBMJ)へ資本参加し、またクラレケミカル株式会社とKBMJによる生産合弁会社である株式会社バイオハードカーボンを設立しましたが、2015年12月に合弁を解消し、株式会社クラレおよび株式会社クレハの事業会社2社がそれぞれの強みを生かしてLiB用材料事業を展開していくこととしました。株式会社バイオハードカーボンは2016年4月に当社に吸収合併される予定です。今後は当社グループ単独で、急速な拡大が見込まれるハイブリッド車や電気自動車などの車載用市場向けの電池負極材の開発を一層加速してまいります。一方、これ以外に電池材料の開発につきましても、技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)に参画し、電池部材の評価・解析を通じ、開発の加速を図っています。
・炭酸ガス回収・貯留のための膜分離技術開発に向け、地球環境産業技術研究機構(RITE)他2社と共同で設立した次世代型膜モジュール技術研究組合において、RITEが保有する技術をベースに当社の独自素材・技術を組み合わせた分離膜を開発し、目標性能を達成しました。今後本組合では、分離膜の更なる性能向上を図るとともに、実機型膜モジュールおよび膜分離システムの開発を進めます。
・新規アクリル系の特殊フィルムの開発において、アクリルの透明性を生かしながら、新たな機能を付与させた製品の用途開拓を推進しています。展示会においては、多くの顧客からサンプル供給の要求を受けるなど、注目を集めています。光学や加飾分野での採用が見込まれ、市場投入に向けた販売体制の準備を進めています。
・当社独自技術による新規光硬化性エラストマーを新たに開発しました。当社独自の高分子技術により、エラストマー部と光硬化性部の分子量や配列を自在にコントロールし、これまでの光硬化性樹脂にはない優れた硬化性と柔軟性の両立を実現しました。アクリル系由来の「透明性」「耐候性」「接着性」などの特長を持つとともに、柔軟性と強度の制御が自在、各種モノマーとの配合の自由度が高い、硬化時に収縮しにくく、寸法安定性が良好等の優れた特長も併せ持っています。粘・接着剤、コーティング剤、成形材料等の領域で市場展開を加速していきます。
・将来の成長領域での有望な新技術探索機能を強化する目的で、2011年よりカリフォルニア州シリコンバレーに拠点を設け、当社とシナジーのある技術を保有するベンチャー企業等と積極的に技術交流を進めてきました。その一環として、2013年に太陽電池やディスプレイ向けの超防湿フィルム開発のベンチャー企業であるVitriflex Inc. への出資を完了し、戦略的パートナーシップを締結しました。
・当社の微細成形技術を用いて、高い集光効率の集光型太陽光発電(CPV)システム向けレンズを開発しました。CPVシステムの普及に向けて装置メーカーとの協業体制を構築し、国のプロジェクトを推進している中東や中国市場への発電システム設置および技術ライセンスに合わせたレンズ生産技術の効率化を促進します。
・LED光源を用いるエッジライト方式の導光板により、高い照度、配光特性のコントロールおよび異方出射特性を有するLED照明の開発を照明メーカーと行いました。省エネ、薄型、軽量であることを生かした照明の採用実績の拡大を進めます。
・当社の微細成形技術を用いて開発したマイクロ空間細胞培養プレートの市場評価が進み、がんの創薬スクリーニング用途、および、再生医療細胞培養用途での採用実績が拡大しています。さらなる市場浸透を図るため、産学一体となってより具体的な取り組みを進めていきます。
・電材事業として、①高周波回路基板用途の液晶ポリマーフィルム<ベクスター>の事業拡大、および②半導体製造工程で用いられる高性能CMP(化学機械研磨)パッドの事業化を進めています。①液晶ポリマーフィルム<ベクスター>はモバイルコミュニケーション端末用途で2015年度に採用がさらに拡大しました。②高性能CMPパッドは半導体メーカーで従来品に無い特徴が好評価されており、早急な事業化を目指しています。