有価証券報告書-第32期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

【提出】
2014/06/27 10:12
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【項目】
107項目

事業内容

1.当社グループの事業概要について
(1) 当社グループの概要
当社グループ(当社及び当社の関係会社)は、株式会社免疫生物研究所(当社)及び連結子会社2社、非連結子会社1社、持分法非適用会社1社で構成されております。
当社グループの事業内容及び当社と関係会社の当該事業に係る位置付けは次のとおりであります。
① 診断・試薬事業
主要な製品およびサービスは、研究用関連では、主に抗体を基盤とした研究用試薬販売及び試薬関連受託サービスを行っております。また、医薬用関連では、医薬シーズライセンス事業及び体外診断用医薬品販売を行っております。
・・・株式会社免疫生物研究所
② 遺伝子組換えカイコ事業
カイコの繭中に目的タンパク質を効率よく大量生産できる技術による受託サービスや、化粧品原料の販売さらに診断薬、医薬品への実用化を目指し、製薬企業等との共同研究を推進しております。また、化粧品原料「ネオシルク®-ヒトコラーゲン」を使用した化粧品の製品開発、販売が主な事業となっております。
・・・株式会社免疫生物研究所、株式会社エムコスメティックス(連結子会社)、株式会社ネオシルク化粧品(非連結子会社)
③ 検査事業
主にLipoSEARCHを中核事業とし、臨床研究、基礎研究、動物医療及び自由診療領域でのリポタンパク質プロファイリング詳細解析サービスを提供しております。
・・・株式会社スカイライト・バイオテック(連結子会社)
④ その他の事業
主に医薬用品の販売を行っております。
・・・株式会社セルリムーバー(持分法非適用会社)
当社グループの事業内容を図示すると以下のようになります。

2.当社グループの事業セグメントについて
(1) 診断・試薬事業
診断・試薬事業は、研究用関連と医薬用関連から構成されております。その各々の事業内容は次のとおりであります。
① 研究用関連
研究用関連は、研究用試薬販売及び試薬関連受託サービスから構成されております。研究用試薬販売は、抗体関連試薬販売及びその他の試薬販売に分類されます。抗体関連試薬販売では、EIA測定キット及び抗体を販売しております。また、その他の試薬販売では、細胞培養関連試薬、合成ペプチドその他を販売しております。
・ 抗体関連試薬販売
主に抗体を基盤にした研究用試薬を販売しており、当社グループの主力製品であります。抗体関連試薬は、抗原の定性及び定量、単離・精製など幅広く利用されており、現在では生命科学の研究に欠かせないツールとなっております。当社グループは様々な研究に使用する試薬を供給できる体制を整えております。また、免疫反応を利用した診断用に抗体試薬は大量に使用されます。このような需要に対して、バルク及びOEM供給できる体制も整えております。さらに、診断薬の受託製造も可能なように、診断薬を含む医療機器に関する品質マネジメントシステムISO13485を取得しております。
イ EIA測定キット
抗原を定性あるいは定量するための研究用キットであります。抗体、酵素、反応液、反応をさせるためのプレートなど測定に必要な試薬が全てセットになっており、血液や尿中等に存在する目的の抗原物質の濃度を簡便に測定することができます。
ロ 抗体
生化学、分子生物学及び病理学等の基礎研究に広く使用されております。例えば免疫組織染色用の抗体は、薄切された組織を染色することで、病因となる抗原の有無や組織中での局在状態など、多くの情報を得ることができます。その他、抗原抗体反応を利用した多くの研究技術が広く研究を行う現場で使用されております。
・ その他の試薬販売
イ 細胞培養関連試薬
細胞の栄養源となる細胞培養液や血清など、細胞を培養するために必要な試薬であります。
ロ 合成ペプチド
抗体を作製するために、抗原として使用するペプチドであり、有機化学の手法によって合成されるものであります。
ハ その他
細胞の増殖に必要なタンパク質である成長因子や分化誘導因子(サイトカイン、ケモカイン)などであります。
・ 試薬関連受託サービス
製薬企業の多くは、経営の効率化から研究開発をアウトソーシングする方針を打ち出しております。一方、公的研究機関や国立大学においても、法人化への移行に伴い研究の効率化が求められております。このような環境の下、研究開発に対する支援事業の需要は高まっております。一方、確実に成果の得られる支援先企業の選択が行われております。当社グループは「抗体作製に関する技術力の高さ」を強みとして、公的研究機関、大学、製薬企業などに対して、以下に掲げるサービスを主に提供しております。
イ 抗体の作製、精製、標識
ロ 細胞培養によるタンパク質製造
ハ 抗体による測定系の開発
ニ 受託試験
② 医薬用関連
医薬用関連は、医薬シーズライセンス及び体外診断用医薬品販売から構成されております。医薬シーズライセンスでは、当社独自あるいは公的研究機関や大学との共同研究から創製された抗体を、治療用医薬品あるいは診断用医薬品のシーズとして製薬企業に権利譲渡又は権利許諾を行い、その対価として、契約一時金、開発の進捗に応じたマイルストーン契約金、製品発売後にはロイヤリティーを受領するという収益構造を想定しております。また、診断用医薬品及びその候補品に対する原料供給による収益構造も想定しております。
他方、体外診断用医薬品販売では、牛海綿状脳症に対する動物用体外診断用医薬品を受託製造しております。
さらに今後、自社製品のうち有望な製品を診断薬として申請登録して販売していく方針であります。
・ 医薬シーズライセンス
最近の治療用医薬品開発における話題の一つに、病因の物質のみに作用する分子標的治療薬があります。分子標的治療薬の中心は抗体医薬品であり、抗原のみに結合するという抗体の機能を利用し、高い薬効と低い副作用発現率を実現しております。当初、マウスなどで作製されたモノクローナル抗体は、そのままではヒトに対して異種タンパク質となるため、抗体医薬品に対する中和抗体がヒトの生体内で生成されて薬効が発揮できず、治療用医薬品として発売されるには至りませんでした。しかし、抗体作製技術の発達によって、中和抗体の生成が少ないマウス-ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、そして完全なヒト型抗体を作る技術が順次開発されました。これらの技術革新によって、現在では、世界各国でいくつもの抗体医薬品が発売されております。
一方、診断用医薬品分野においても、テーラーメイド医療の手段あるいは病気の早期発見を目的としたより精度の高い診断用医薬品を開発するという点で、抗体の持つ特異性という特徴が注目されております。
既に契約を締結しているパイプラインを以下に記載いたします。
治療用医薬候補品抗ヒトアミロイドβ抗体(82E1)
当社グループは、アルツハイマー型認知症との関連が示唆されているアミロイドβタンパク質に対する各種抗体の研究開発を行っております。当社グループは開発に成功した抗体のうちコード名「82E1」について、平成18年12月に米国Intellect Neurosciences, Inc.とアルツハイマー型認知症治療薬としての独占的開発、製造及び販売権を譲渡する契約を締結いたしました。今後当社グループは、開発の進捗に応じてマイルストーン契約金を、そして製品発売後には売上に対する一定率のロイヤリティーを受領する予定であります。
・ 体外診断用医薬品販売
イ 牛海綿状脳症(BSE)に対する体外診断用医薬品ニッピブルBSE検査キット
異常型プリオンタンパク質は、牛海綿状脳症(BSE)の原因とされております。当社は、その測定キットを、動物用体外診断用医薬品として株式会社ニッピと共同開発いたしました。本製品は、既存製品と比較して、安価かつ簡便に検査ができるという特長を有しております。当社は、平成16年8月に、本製品の製造販売について農林水産省に承認申請し、平成18年11月に承認を受けており、現在は株式会社ニッピから製造委託を受け、本製品の供給をいたしております。
ロ 診断用医薬品抗体
当社グループは、今までに研究用試薬として販売していた抗体のうち数種類を体外診断用医薬品として使用する契約を締結してまいりました。c-Kit抗体やガレクチン-3抗体は、体外診断用医薬品原料として広く世界で使用されております。これらは今後も原料供給量や、ロイヤリティー契約、及びキットの生産量に応じた収益が見込まれております。
ハ 新規診断用医薬品キット
当社グループは、今までに研究用試薬として販売していたEIA測定キットのうち、診断に向け測定価値の認められるものを体外診断用医薬品登録に向けた開発を行ってまいります。既に国内外での登録を視野に入れ、海外他社との連携も開始しており、今後、キットの生産量に応じた収益を見込んでまいります。
(2) 遺伝子組換えカイコ事業
当社グループは、目的とするタンパク質を遺伝子組換え手法によりカイコの繭に生産させる技術を有しております。この生産技術は、下記の図に示しますように、生産を目的とするタンパク質の元になる遺伝子を用意することから始まります。用意した遺伝子は、ベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋の中に組み込まれます。次にそのベクターがカイコの卵に注入され、最終的に遺伝子の組み込まれた、目的タンパク質を発現する遺伝子組換えカイコを選別します。興味深い事に、この遺伝子組換えカイコは、生産目的としたタンパク質を、繭の中に吐き出すように工夫されております。

現在、遺伝子組換えによるタンパク質生産技術においては、大腸菌、酵母および動物細胞を用いた発現生産方法が主な方法であります。これらの方法にはそれぞれ一長一短があり、その目的に応じた生産方法が取られております。ところが、当社グループの技術は多くの点で有利な点を有しております。下記にそれぞれの遺伝子組換え宿主による比較を行っております。
最も有利な点は、目的とするタンパク質の精製が非常に簡単なことです。目的タンパク質を発現した繭を溶液中で撹拌するだけで高純度に抽出・精製することが可能なため、その生産コストの低減化を実現できることになります。また、昆虫生物であるカイコは複雑な構造を有するタンパク質の生産にも有利です。実際に、フィブリノーゲンと呼ばれる止血にかかわるタンパク質の生産において、大腸菌や酵母ではこれまで生産出来なかったものが、本技術によって可能になったことを示しております。
このようにカイコの繭中に目的タンパク質を生産させる本技術は無限の可能性を有しております。
生産コスト生産できる
タンパク質
精製大量生産
大腸菌低い単純タンパク質困難容易
酵母低い単純タンパク質比較的困難容易
哺乳動物細胞高い複雑な構造の
タンパク質も可能
比較的容易比較的困難
カイコバキュロウイルス系比較的低い複雑な構造の
タンパク質も可能
困難容易
カイコ繭低い複雑な構造の
タンパク質も可能
容易容易

遺伝子組換えカイコ事業では、実用化を目指した活動を行っております。
現在、当社グループ製品に使用している主要なモノクローナル抗体について、遺伝子組換えカイコを用いて繭に生産させることに成功し、現在使用している抗体原料から置き換えた製品製造を開始しております。
また、本技術を利用してヒトコラーゲンを大量生産させることに成功し、将来全世界に販売活動を行うことが可能なように、新規化粧品原料として「INCI 名」を取得いたしました。このように、戦略的な活動を通じて、世界の化粧品業界において、カイコ由来のヒトコラーゲンが飛躍的に利用されるような実用化を目指します。また、抗体生産技術のさらなる向上を図り、自社抗体製品の生産効率を飛躍的に改善していく所存であります。
中長期的には、研究用試薬、診断薬原料などに向けた実用化、さらに将来に向けて動物用医薬品、インフルエンザワクチンをはじめ、治療用抗体など、バイオ医薬品開発への挑戦をしていく所存であります。
・化粧品関連事業
当社グループは、化粧品原料「ネオシルク®-ヒトコラーゲン」を使用した化粧品の製品開発、販売を行っており、当連結会計年度においては遺伝子組換えカイコ事業の中の一部の事業として活動を行っておりますが、当連結会計年度中にドラッグストア向けに化粧品販売を行う株式会社エムコスメティックスを子会社化し、また、化粧品の通信販売事業を中心に事業を展開する株式会社ネオシルク化粧品を設立し、今後本格的に事業展開し、翌連結会計年度には「化粧品関連事業」として独立したセグメントとする予定であります。
(3) 検査事業
検査事業は、生活習慣病領域での創薬・研究支援に加え予防・診断支援などに特化した事業を行っております。特に、世界で唯一の高感度ゲルろ過高速液体クロマトグラフィーを用いた血中リポタンパク質プロファイリングサービス「LipoSEARCH®」は、最先端の脂質代謝解析技術として、当領域の専門研究機関・製薬企業・食品企業における研究・開発及び創薬支援として広く利用されております。
本「LipoSEARCH®」は、血中の各リポタンパク質の粒子サイズを分画した波形データ(クロマトグラム)を提供する事により、病態や薬剤投与の影響によるリポタンパク質プロファイル全体の変化を視覚的に捉えることを可能としております。また生活習慣病関連に係わる各種バイオマーカー測定の受託サービスも提供しており、本領域での新たな疾患マーカーの探索や、食品素材の機能性に関する研究等に対する総合的な支援を推進しております。さらに、伴侶動物(ペット)向けの脂質代謝関連疾患検査サービス「LipoTEST®」を動物病院の獣医師様を経由して飼い主様に提供しております。このように、当社グループはヒトから伴侶動物に至るまで、本領域での豊富な研究ネットワークを有して、総合的な支援を通じた医療貢献を目指しております。
(注) 用語解説については、「第4提出会社の状況 6コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に記載しております。