有価証券報告書-第150期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 15:11
【資料】
PDFをみる
【項目】
165項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは「住友事業精神」と「住友電工グループ経営理念」のもと、公正な事業活動を通して社会に貢献していくことを不変の基本方針としております。こうした基本理念を堅持しつつ持続的に成長し、中長期的に企業価値を向上させていくためには、適正なコーポレート・ガバナンスに基づき経営の透明性、公正性を確保するとともに、イノベーションをキーワードに、保有する経営資源を最大限活用して成長戦略を果断に立案・実行していくことが重要であり、以下の基本的な考え方に沿って、コーポレート・ガバナンスの一層の充実に取り組んでまいります。
(ⅰ)株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行う。
(ⅱ)株主を含むステークホルダーの利益を考慮し、それらステークホルダーと適切に協働する。
(ⅲ)会社情報を適切に開示し、透明性を確保する。
(ⅳ)取締役会の戦略等基本方針決定機能及び経営の監督機能を重視し、それらの機能の実効性が確保される体制の整備及び取締役会の運営に注力する。業務執行については、権限及び責任を明確化し、事業環境の変化に応じた機動的な業務執行体制を確立することを目的として、執行役員制並びに事業本部制を導入している。また、経営の健全性確保の観点から、監査役監査の強化を図ることとし、独立社外監査役と常勤の監査役が内部監査部門や会計監査人と連携して適法かつ適正な経営が行われるよう監視する体制としている。
(ⅴ)持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で、株主との建設的な対話を行う。
[住友事業精神]
住友の事業は、今から約400年前、銅と銀を吹き分ける「南蛮吹き」と呼ばれる技術による銅精錬事業に遡り、その後別子銅山における鉱山業を中心に発展を遂げてきました。こうした事業の隆盛を支えてきた精神的基盤が「住友事業精神」であり、住友家初代・住友政友が後生に遺した商いの心得『文殊院旨意書』を礎とし、住友の先人により何代にもわたって深化・発展を遂げてきたものです。その要諦は、1891年に改訂された住友家法の中で「営業の要旨」として端的に示されています。
営業の要旨 ※ここでは、住友合資会社社則(1928年制定)より抜粋しました。
第一条 我が住友の営業は、信用を重んじ確実を旨とし、以てその鞏固隆盛を期すべし
第二条 我が住友の営業は、時勢の変遷、理財の得失を計り、弛張興廃することあるべしと雖も、苟も浮利に趨り、軽進すべからず
この他にも、『技術の重視』、『人材の尊重』、『企画の遠大性』、『自利利他、公私一如』といった精神が今に至るまで脈々と受け継がれています。
[住友電工グループ経営理念] ※創業100周年を機に明文化(1997年6月)
住友電工グループは、
・顧客の要望に応え、最も優れた製品・サービスを提供します。
・技術を創造し、変革を生み出し、絶えざる成長に努めます。
・社会的責任を自覚し、よりよい社会、環境づくりに貢献します。
・高い企業倫理を保持し、常に信頼される会社を目指します。
・自己実現を可能にする、生き生きとした企業風土を育みます。
(2) 経営戦略及び経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループでは、住友事業精神、住友電工グループ経営理念といった「今後とも変わることのない企業の人格的な価値を示す言葉であるGlorious」を堅持しながら、「Excellent、すなわち優れた業績を収める企業」、あわせて「Glorious Excellent Company」をありたい姿として目指しており、これに向けての中期的な目標として「Vision」を定めています。
2018年5月25日に公表した当社中期経営計画「22VISION」においては、「総力を結集し、つなぐ、つたえる技術で、よりよい社会の実現に貢献する」のコンセプトのもと、現在の5つの事業セグメントを強化・伸長させるとともに、イノベーションによりさらなる成長を目指しております。この成長戦略を実現するために、「モノづくり」「人材・組織」「財務」の3つの基盤を強化しながら、「モノづくり力のさらなる強化」「グローバルプレゼンスの向上」「トップテクノロジーの創出・強化」に重点的に取り組み、2022年度の最終目標として、売上高3兆6,000億円、営業利益2,300億円、ROIC*9%以上、ROE*8%以上を掲げております。
* 投下資産営業利益率(ROIC)=営業利益/(総資産-無利子負債)
* 自己資本当期純利益率(ROE)=親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本
[22VISIONの重点取り組み項目]
ものづくり力のさらなる強化・“世界トップの安全企業”を目指す
・継続的カイゼンによる“強い工場”づくり
・技術、ベストプラクティスのグローバルな共有/横展開による強み発揮
グローバルプレゼンスの向上・グローバル顧客のシェア向上
・グローバルな市場環境の変化を先取りした新しいビジネスモデルの創出
・マーケティング機能の強化
トップテクノロジーの創出・強化・材料からプロセスに至る幅広いコア技術の更なる強化
・自動車、エネルギー分野の変革を先取りするイノベーション創出と迅速な事業化
・社会変革をもたらす革新技術へのチャレンジ

22VISIONのセグメントごとの経営戦略は次のとおりであります。
・自動車関連事業
ありたい姿ワイヤーハーネスをコアとするメガサプライヤーを目指す
成長戦略・客先コンセプトイン活動の推進
・社外連携強化
・当社グループ内リソース結集による事業基盤の強化
・グローバル顧客への拡販
・CASE*関連新製品の創出
当社の強み・住友電工・住友電装・オートネットワーク技術研究所の三位一体体制によるワイヤーハーネス事業の総合力と市場プレゼンス
・グローバル展開力
・電力、通信、産業素材事業の実績と車載製品への応用

* CASE:自動車業界のトレンドを表す言葉で、Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared
(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとったもの。
・情報通信関連事業
ありたい姿ハイエンドの光ファイバ/接続技術・伝送デバイス/化合物半導体・アクセス機器技術をコアに、大容量ネットワーク・インターコネクト市場でリーディングサプライヤーを目指す
成長戦略・IoT*社会を支えるコア技術の追求
・顧客の期待の一歩先を実現する独創製品の提案・開発、グローバルプレゼンスの向上
・IoTを用いた生産技術革新、グローバル事業基盤整備
当社の強み・大容量高速通信向け極低ロス光ファイバ製造技術
・超多芯光ケーブル製造技術
・光学精密成型/メカトロニクス技術
・映像、光アクセス機器のソフトウェア開発力
・光/無線用化合物半導体での材料からデバイスまでの垂直統合による連携開発

* IoT:Internet of Thingsの略。パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に限らず、あらゆる「モノ」がインターネット等のネットワークに接続されること。
・エレクトロニクス関連事業
ありたい姿モバイル端末、移動体エレクトロニクスを中心に高機能配線と高機能部材でグローバルトップサプライヤーを目指す
成長戦略・北米、中国、アジアを中心としたグローバルな販売・製造体制の強化
・高精細、高速伝送、高強度軽量化等の新機能要求に対応する独創的な製品の提案・開発体制の強化
・事業サイクルの短い顧客要求にもタイムリーに応えるモノづくり・事業基盤の強化
当社の強み・成長市場をリードする顧客との強固なパートナーシップ
・高速伝送、高耐熱、高精細化、多孔質、電子線照射等、独自の材料開発・設計・加工技術
・高機能配線材・保護材・機能製品等、グローバル顧客に対応できるサプライチェーン

・環境エネルギー関連事業
ありたい姿環境エネルギー関連製品及びシステムをグローバルに提供するトータルサプライヤーを目指す
成長戦略・電力インフラ市場でのグローバルなプレゼンス向上
・再エネ増加やEV等普及で変化するエネルギー市場に対応する製品・システムの提供
・自動車の電動化、環境対応を支える新製品開発
当社の強み・国内トップの事業基盤、実績
・高付加価値新製品を生み出す特長技術
・インフラに関わる多種多様な製品群とサービス
・エネルギーシステムに関する企画提案力
・有力な関係会社を含めたグループ総合力
・原材料から製品までの一気通貫での開発体制

・産業素材関連事業他
ありたい姿世界トップレベルの材料技術を活かした高性能・高機能製品のグローバルサプライヤーを目指す
成長戦略・コア技術の強化・革新
・顧客への提案力強化
・海外事業展開の加速
当社の強み・材料開発力:独自材料/リサイクル技術で他社と差別化
・モノづくり力:生産技術力ならびに製品評価を活かした顧客製造ラインの高度化/効率化に寄与
・グローバル供給体制:顧客のグローバル対応をサポート

(3) 経営環境及び対処すべき課題
今後の経済情勢は、新型コロナウイルス感染症の長期化・深刻化により景気低迷が長引くことが憂慮される中、米中の通商政策や中東情勢などの政治的・地政学的リスクも引き続き懸念材料であり、先行き不透明な状況が続くものと予想されます。
このような情勢のもと、当社グループは、未曽有の難局を乗り切り、再び成長軌道に戻るべく、社員の健康と安全、サプライチェーンの維持確保に全力を尽くしつつ、製造業の基本であるS(安全)、E(環境)、Q(品質)、C(コスト)、D(物流・納期)、D(研究開発)の一段のレベルアップに努めるとともに、「収益力を高める事業構造の改革」と「生産性を向上させるワークスタイルの改革」を実行してまいります。これらにより、いかなる環境にも耐えうる強靭な企業体質を構築し、「Glorious Excellent Company」を目指して、“総力を結集し、つなぐ、つたえる技術で、よりよい社会の実現に貢献する”のコンセプトのもと取り組んでいる2022年度を最終年度とする中期経営計画「22VISION」の達成に向けて邁進してまいります。具体的には、各事業において次の施策を進めてまいります。
自動車関連事業では、新型コロナウイルス感染症によるグローバルな自動車需要の減少に対し、将来の需要回復を見据えたうえで柔軟に生産能力を調整するとともに、より一層コスト低減活動に集中して取り組み、筋肉質な事業体質の再構築を進めてまいります。ワイヤーハーネスをコアとするメガサプライヤーの実現に向けては、高電圧ハーネスなどの電動車両向け製品、自動車の電子制御に対応した電装部品、高速通信用コネクタといったいわゆるCASE関連の新製品創出、軽量化のニーズに対応したハーネスのアルミ化を加速するとともに、海外系顧客の一層のシェア拡大に取り組んでまいります。住友理工㈱では、自動車用防振ゴム・ホースなどにおいて、グローバルでの拡販と生産性改善・コスト低減による収益力回復に引き続き取り組むことに加え、次世代自動車に向けた新製品開発にも注力してまいります。
情報通信関連事業では、通信データ量の増大や第5世代移動通信システム(5G)の市場立上がりに伴う光・電子デバイスや光ファイバ・ケーブルの需要に確実に対応するとともに、海底ケーブル用極低損失光ファイバ、超多心光ケーブルや光配線機器等のデータセンター関連製品、4K放送対応映像配信や10G-EPON(光ファイバ共用型10ギガビットネットワーク)関連のアクセス系ネットワーク機器など市場ニーズに応じた高機能製品の開発・拡販に取り組んでまいります。また、価格競争が激化している光ファイバ・ケーブルをはじめ、一層のコスト低減を進めてまいります。
エレクトロニクス関連事業では、FPC(フレキシブルプリント回路)においては、グローバル生産体制の最適化と生産性改善による収益力回復に引き続き取り組むとともに、車載用途への拡販、薄型化・高周波対応などの新製品開発に注力してまいります。このほか、電動車両の電池端子に用いられるリード線(タブリード)はグローバルな拡販と生産能力の増強を進め、照射チューブについても引き続き多様なニーズの捕捉を図ってまいります。また、2019年9月に公開買付けにより子会社化した㈱テクノアソシエとの事業シナジーの早期実現にも取り組んでまいります。
環境エネルギー関連事業では、電力ケーブルについて、海外の新規大型プロジェクト、国内の再生可能エネル
ギーや設備更新需要を確実に捕捉するとともに、一段のコスト低減にも取り組み、収益力の向上を図ってまいります。また、電動車両向けのモーター用平角巻線については、需要増に応じたグローバルな生産能力増強を進めてまいります。さらに日新電機㈱や住友電設㈱を含めたグループの総合力を活かして、国内外での受注拡大に取り組んでまいります。
産業素材関連事業では、超硬工具においては、主力の自動車のほか、建設機械、農業機械、エレクトロニクス分野でグローバルに販売力を強化していくことに加え、航空機や医療分野へは難削材加工用工具などの新製品投入により拡販を進めてまいります。焼結部品においてはグローバルに展開する製造拠点を活かした拡販とコスト競争力の一層の強化に取り組むほか、PC鋼材やばね用鋼線についても、引き続き生産体制の強化と拡販に注力してまいります。また、新型コロナウイルス感染症による需要の減少に対しては、この機に事業体質をさらに強化すべく、徹底した生産性の改善、拠点の統廃合、社員の再教育(教育再武装)などの内部固めも推進してまいります。
研究開発では、オリジナリティがありかつ収益力に優れた新事業・新製品の創出に努めてまいります。具体的には、マグネシウム合金製品、水処理製品、超電導製品、SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体デバイス、レ
ドックスフロー電池、集光型太陽光発電装置などの早期事業化に注力するほか、5つの現事業セグメントを支える次世代の製品開発や新たな製造方法の開発にも引き続き取り組んでまいります。また、将来に向けては、産官学の連携などによる社外の知見も活用して、自動運転や電動車両に対応する車載機器開発体制の強化や新たな機能を発現する新材料の探索など、社会ニーズを踏まえた新製品の開発に注力するとともに、製造現場でのAI*やIoT活用による生産革新にも積極的に取り組んでまいります。
* AI :Artificial Intelligence(人工知能)の略。
最後に、法令遵守や企業倫理の維持は、当社経営の根幹をなすものであり、企業として存続・発展するための絶対的な基盤と考えております。今後とも、住友事業精神の「萬事入精(ばんじにっせい)」「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」*という理念のもと、社会から信頼される公正な企業活動の実践に真摯に取り組んでまいります。また、住友事業精神と住友電工グループ経営理念の基本的な価値軸は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にも相通ずるものであると考えており、当社グループは、「安全安心な社会、環境に優しい社会、快適で成長力のある社会」の実現に向け、総力を結集し、さまざまな価値の提供を目指してまいります。
* 萬事入精:まず一人の人間として、何事にも誠心誠意を尽くすべきとの考え。
信用確実:何よりも信用を重んじること。
不趨浮利:常に公共の利益との一致を求め、一時的な目先の利益、不当な利益の追求を厳に戒めること。