有価証券報告書-第9期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/26 14:15
【資料】
PDFをみる
【項目】
91項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当社が本報告書提出日現在において判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、事業活動の基礎となる「JXTGグループ理念」を次のとおり定めています。
JXTGグループ理念
[使 命]
地球の力を、社会の力に、そして人々の暮らしの力に。
エネルギー・資源・素材における創造と革新を通じて、社会の発展と活力ある未来づくりに貢献します。
[大切にしたい価値観]
①社会の一員として
高い倫理観 誠実・公正であり続けることを価値観の中核とし、高い倫理観を持って企業活動を行います。
安全・環境・健康 安全・環境・健康に対する取り組みは、生命あるものにとって最も大切であり、常に最優先で考えます。
②人々の暮らしを支える存在として
お客様本位 お客様や社会からの期待・変化する時代の要請に真摯に向き合い、商品・サービスの安定的な供給に努めるとともに、私たちだからできる新たな価値を創出します。
③活力ある未来の実現に向けて
挑 戦 変化を恐れず、新たな価値を生み出すことに挑戦し続け、今日の、そして未来の課題解決に取り組みます。
向上心 現状に満足せず、一人ひとりの研鑽・自己実現を通じて、会社と個人がともに成長し続けます。
当社グループは、この「JXTGグループ理念」の実現のために、基幹事業の強化・イノベーションの推進・グローバルな事業展開を図ります。あわせて、これらを推進していくうえで欠かせない高い倫理観とチャレンジ精神を持った人材を育成し、国際的な競争力を有するアジア有数の総合エネルギー・資源・素材企業グループを目指します。
(2)目標とする経営指標
当社は、2017年5月に2017年度から3ヵ年の第1次中期経営計画(2017-2019年度中期経営計画)を次のとおり策定しています。
基本方針
0102010_001.png
取り組む諸施策
0102010_002.png0102010_003.png
経営目標
0102010_004.png
(3)長期ビジョンの策定
当社グループは、世界的な低炭素社会形成に向けた動きの加速、IoT・AI等の普及によるイノベーションの急速な進展、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめ企業に求められる社会的責任の高まりなど、過去に例を見ない社会環境・事業環境の変化に直面しています。加えて、国内の燃料油需要は、年々減少し、2040年には現在の約半分となることが想定されます。このように事業環境の先行きに対する不安が増しつつある一方、当社グループには、その事業特性上、長期的展望に基づく戦略的な投資が不可欠であることから、未来を見据えたビジョンの構築が必要です。
そのため、当社は、「長期グローバルトレンド」を分析して「2040年の社会シナリオ」を想定した上で、同年における当社グループの「ありたい姿」とその実現のための「事業の将来像」を描き、これらを「2040年JXTGグループ長期ビジョン」として取りまとめました。当社グループは、これを長期的な事業ポートフォリオの指針として2020年度から始まる第2次中期経営計画を策定し、成長戦略の追求とキャッシュ・フロー重視経営との両立による持続的な企業価値の向上を図り、すべてのステークホルダーの期待に応えてまいります。
・「長期グローバルトレンド」と「2040年の社会シナリオ」
「長期グローバルトレンド」としては、低炭素・循環型社会の形成に向けた取り組みが進み、デジタル革命の進展と相まって、人々のライフスタイルは大きく変化することが予想されます。こうした潮流の下、世界の一次エネルギー需要は、非化石エネルギーの割合が増加し、世界の石油化学製品需要・銅地金需要は、アジアの新興国の経済成長を背景に拡大すると見込まれます。
このような「長期グローバルトレンド」を踏まえると、「2040年の社会シナリオ」としては、安価な再生可能エネルギーの大量導入、EVやカーシェアリングの普及、各施設・住宅への分散型太陽光発電及び蓄電池の設置等が進むと想定されます。また、プラスチック・金属をはじめとする資源のリサイクルインフラが拡充されていくものと考えられます。さらに、これらの変化に伴い、人々の生活を快適にするべく、多様なサービス提供者が現れると思われます。
・2040年における当社グループの「ありたい姿」とその実現のための「事業の将来像」
以上の「長期グローバルトレンド」と「2040年の社会シナリオ」を前提に、当社グループが将来にわたって社会に必要とされる企業集団であるための要素を検討し、2040年における当社グループの「ありたい姿」を定めました。当社グループは、この「ありたい姿」を実現するため、安全・環境・健康を最優先に考えるとともに、多様性に富んだグローバル人材の育成・登用やICT(情報通信技術)活用による業務品質の劇的向上等により、企業風土の変革を図ってまいります。
0102010_005.png
さらに、この「ありたい姿」の実現のため、2040年に向けた当社グループの「事業の将来像」を描き、当社グループの既存の事業分野を「成長事業」と「基盤事業」に大別した上、それぞれの事業の方向性を定めました。「成長事業」については戦略投資を強化し、化学品事業・潤滑油事業における石油の高付加価値化、電材加工事業・機能材事業における技術力の発展的強化を図るとともに、再生可能エネルギー事業を含む発電事業、地域サービス事業及びリサイクル事業の拡大を通じて低炭素・循環型社会の形成に貢献してまいります。地域サービス事業とは、当社グループが有する多様なエネルギーの供給ノウハウを活かした「エネルギーサービスプラットフォーム」の構築、国内最大のSSネットワークの「生活プラットフォーム」化の推進等を企図する新しい事業分野です。一方、「基盤事業」として位置付けた石油精製販売事業、石油・天然ガス開発事業、銅の資源開発事業及び製錬事業については、安定供給、効率化及びバリューチェーンの最適化に努め、「成長事業」を支えるためのキャッシュ・フロー最大化を図ります。こうした取り組みにより、成長戦略の追求とキャッシュ・フロー重視経営の両立を目指します。なお、当社は、当社グループが一丸となって新たな企業価値を創造するための組織として、2019年4月1日付で「未来事業推進部」を設置しており、「ありたい姿」の実現に向けた活動を開始しています。
当社グループは、2019年度を最終年度とする第1次中期経営計画の目標達成を目指して「キャッシュ・フローと資本効率を重視した経営」を継続するとともに、社会環境・事業環境の変化に対応して持続的な成長を果たすべく、ESGに関する取り組みを一層強化してまいります。加えて、長期ビジョンを礎とした第2次中期経営計画を策定・実行することにより、「アジアを代表するエネルギー・素材企業グループ」へと発展し、企業価値のさらなる向上を図ってまいります。
(4)ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組み
・ESGの推進
当社グループは、すべての事業活動の根本となる「JXTGグループ理念」の下、この理念を実現するために実践すべき具体的な基準を定めた「JXTGグループ行動基準」を制定しています。また、企業が持続的な成長を目指す上でESGが欠かせない要素であることを認識し、この行動基準を踏まえて「高い倫理観」「コンプライアンス」「安全・環境」「人権」「人材育成」「健康」「品質」「社会貢献」の8項目を当社グループで積極的に取り組むべき重点分野として定めています。
当期においては、次のとおり環境・社会・ガバナンスに関する取り組みを推進し、さらに、ESGを重視した企業経営によって持続的成長・企業価値の向上を実現するため、2019年4月1日付で「ESG推進部」を設置しました。
・具体的な取り組み
[環境]
当社グループは、中期環境経営計画(2017年度から2019年度まで)の重点テーマとして「低炭素社会の形成」と「循環型社会の形成」を掲げ、製油所、製錬所等における省エネルギー対策、環境配慮型商品の販売・開発推進等によりCO2排出量の削減に努めるとともに、廃棄物の発生抑制及び再資源化を推進しました。加えて、エネルギー事業における再生可能エネルギー事業の拡充、石油・天然ガス開発事業におけるCO2-EORプロジェクトの遂行及び金属事業における環境リサイクル事業の強化に取り組んでいます。
<中期環境経営計画に定めるJXTGグループの環境目標>1.サプライチェーン全体におけるCO2排出削減量(2009年度比)
・2019年度目標 272万トン削減
・2030年度目標 408万トン削減
2.廃棄物最終処分率
・ゼロエミッション(最終処分率1%未満)の維持
[社会]
当社グループは、「JXTGグループ行動基準」において人権尊重の基本原則を定め、人権研修の実施、相談窓口の運営等に取り組んでまいりました。当期においては、人権尊重の方針をより明確にするため、新たに「人権ポリシー」を制定しました。
また、性別・国籍を問わず、意欲ある従業員が自身のキャリアをしっかり考え、成長を目指すことを支援するため、社内諸制度の整備を進める一方、外部講師を招いたセミナー及び社内ロールモデルの紹介企画を定期的に実施し、働き方の意識改革を推進しました。
このほか、国内外の事業拠点における地域イベントへの協賛、JXTG童話賞、JXTG児童文化賞及びJXTG音楽賞の開催等により、地域社会との信頼関係の構築及び次世代育成支援に努めました。
[ガバナンス]
当社は、取締役会の経営機能及び監督機能の一層の強化並びに業務執行の機動性のさらなる向上を目的として、2018年6月27日付で、監査等委員会設置会社に移行しました。
また、改訂コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえ、「JXTGグループのコーポレートガバナンスに関する基本方針」を改正し、新たに経営陣幹部の解任方針及びその手続を定めるとともに、後継者計画への社外取締役の関与を強化しました。
加えて、外部コンサルタントを起用し、前期に引き続き当社の取締役会の実効性を評価しました。外部コンサルタントによる分析の結果、ガバナンスは全体として改善傾向にあり、取締役会の実効性は概ね確保されていることが確認された一方、経営・監督と業務執行の分離、社外取締役への情報提供のあり方等について課題が示されました。これらの内容を取締役会に報告し、課題については一層の改善に取り組むこととしました。
さらに、当社グループは、新たに「腐敗防止ポリシー」を制定し、「JXTGグループ行動基準」で定めた贈収賄防止の基本原則と併せて、腐敗行為に関わらないことをより明確にしました。
(5)対処すべき課題
今後の事業環境を展望しますと、世界経済は、米中貿易摩擦の長期化、英国のEU離脱問題の影響等が懸念され、先行きに対する不透明感が高まっているものの、中長期的には成長が続く見通しです。これに伴い、アジアの新興国では、燃料油、LNG、潤滑油及び石油化学製品の需要増加が見込まれます。他方、原油価格は、経済の先行き不透明感、米国のシェールオイル増産といった価格押下げ要因により、上値の重い展開が予想されます。
また、銅地金及び銅製品の需要は、アジアを中心とするインフラ投資の拡大に加え、IoT・AI社会の進展やEVの普及に伴う上積みも期待され、底堅く推移する見通しです。一方、供給面では銅精鉱の銅品位低下により大幅な増産が困難とみられることから、銅価格は堅調に推移すると予想されます。
日本経済は、雇用・所得環境の改善が見込まれるものの、世界経済の動向によっては輸出・雇用等が悪影響を受けるおそれがあり、予断を許さない状況です。国内の石油製品需要は、EV・低燃費車の普及、燃料転換の進展等の要因により引き続き減少基調で推移することが想定されます。
このような事業環境下、エネルギー事業については、国内需要減少への対応が喫緊の課題であり、効率化の徹底と次世代の柱となる事業の育成が急務です。また、石油・天然ガス開発事業については、プロジェクトの選択と集中及び低油価に耐えられる強靭な体質の構築、金属事業については、上流・中流事業の一層の操業安定化と成長が見込まれる電材加工等の下流事業の拡大が重要な課題です。
当社グループは、これらの諸課題に対し、第1次中期経営計画に沿って次のとおり対処してまいります。
(エネルギー事業)
石油精製販売・化学品事業については、引き続きサプライチェーン全体の効率化を推進し、統合シナジーの最大化を図ります。また、石油製品の国内安定供給を前提に、輸出拡大、石油化学製品への生産シフト及び国際競争力強化に向けた製油所ネットワークの構築を進めることに加え、さまざまなサービスを地域の皆様に提供する「生活プラットフォーム」へとSSネットワークを進化させることを目指します。
電気事業及びガス事業については、「ENEOSでんき」・「ENEOS都市ガス」のさらなる拡販を図るとともに、環境負荷が小さいLNGを燃料とする発電所の新設を検討してまいります。また、再生可能エネルギー事業については、全国各地で展開しているメガソーラー発電、北海道室蘭市において準備を進めているバイオマス発電等に加え、新たに設置した専門部署を中心に、洋上風力発電や地熱発電を含む事業拡大に取り組み、低炭素社会の形成に貢献します。
水素事業については水素ステーションの運営基盤の強化、海外事業については新規海外プロジェクトの探索、技術立脚型事業である潤滑油事業・機能材事業については国内外での拡販及び高付加価値商品の開発・市場投入等を推進し、将来の成長を見据えた重点分野として育成・拡大に努めます。
これらに加え、東京2020ゴールドパートナー(石油・ガス・電気供給)であるJXTGエネルギー株式会社は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会におけるFCV・FCバス向け水素、競技場・大会施設向け電気・ガス等のエネルギー供給を通じて、新たなエネルギー社会の創造に貢献することを目指します。
以上のとおり各事業において諸施策に取り組むほか、事業インフラ整備による経営管理強化の一環として、2020年の稼働開始を目標に統合基幹業務システム(ERPシステム)の構築を進めます。
(石油・天然ガス開発事業)
マレーシア、ベトナム等で生産段階にあるプロジェクトについては、安全・安定操業を前提に一層の操業コスト削減に努めます。
また、選択と集中による資産ポートフォリオの見直しを継続し、知見を有する東南アジアや中東等に経営資源を優先配分することで、既存プロジェクトの事業価値最大化を図るとともに、将来の事業の柱となり得る新規プロジェクトを探索してまいります。
一方、石油に比べて環境負荷が小さい天然ガスのプロジェクトに注力してまいります。具体的には、英国北海のカリーンガス田の2019年中の生産開始を目指すとともに、インドネシアのタングーLNGプロジェクトでは、既存のLNG設備の拡張と新規ガス田開発に取り組みます。加えて、豊富な埋蔵量が期待できるパプアニューギニアのプニャンガス田については、開発ライセンスの取得に向け、同国政府との協議を進めます。
さらに、低炭素社会形成に貢献するべく、インドネシアのPertamina社との共同事業検討を推進し、CO2-EOR技術を活用できる新たなプロジェクトの獲得を目指します。
(金属事業)
資源開発事業については、チリのカセロネス銅鉱山において、さらなる操業安定化とコスト削減を図るべく、設備メンテナンスの水準向上と操業の自動制御化を推進します。また、製錬事業については、佐賀関製錬所において銅精鉱を溶解する自溶炉の付帯設備の改善により鉱石処理能力を増強するなど、競争力強化に努めます。
電材加工事業については、生産性改善、コストダウン及び設備増強により、既存製品の収益力を向上させるとともに、高機能・多機能な先端素材の供給を目指し、大学・研究機関との連携やスタートアップ企業との協業といったオープンイノベーションに取り組み、新規事業の発掘や新規技術の開発を進めます。
タンタル・ニオブ事業については、金属事業内の他の事業部門とH.C. Starck Tantalum and Niobium社とのコラボレーションを通じ、販売力・開発力強化、新規事業進出等のシナジーを早期に実現します。
環境リサイクル事業については、海外からの高品位原料の集荷拡大・安定化に努めることに加え、日立事業所において、AIによる画像識別技術を活用した物理選別機を導入することにより、リサイクル原料処理の効率化を図ります。また、今後のEV普及を見据え、廃リチウムイオン電池リサイクルの技術開発を進め、事業化を目指します。
チタン事業については、徹底的なコスト削減、供給体制の充実及びさらなる品質の向上・安定化に引き続き取り組むとともに、サウジアラビアでのスポンジチタン製造合弁事業の商業生産開始に向けて、着実に準備を進めてまいります。