有価証券報告書-第13期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たって、決算日における資産・負債の報告数値及び報告期間における収益・費用の報告数値に影響を与える見積り及び仮定の設定を行っています。当該見積りは、過去の実績や状況に応じて合理的と考えられる各種の要因に関して仮定設定、情報収集を行い、見積金額を算出していますが、実際の結果は見積り自体に不確実性があるために、これらの見積りと異なる可能性があります。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響の仮定に関する情報は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表 (1) 連結財務諸表 注記事項 追加情報」に記載の通りです。
(2) 経営成績等の概況及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 経営成績
当社グループを取り巻く経営環境については、国内情報サービス業の売上高規模は2020年においては12兆913億円(前年比0.2%増加)と、9年連続で成長を続けています(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査(2021年2月公表)」)。その中で、SaaS(Software as a Serviceの略称。月額課金や年額課金の仕組みを取っているウェブサービス)の国内市場規模は、年平均成長率が約12%で拡大しており、2025年に向けてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みが加速しており、カテゴリーを問わずパッケージソフトからSaaSへの移行ニーズがますます高まっています。加えて新型コロナウイルスの影響でリモートワークが拡大し、IT投資に消極的であった中堅、中小企業においてもソフトウェア導入が進展しており、それらの流れもあり、SaaSの国内市場規模は2023年には約1兆574億円に拡大する見込みです(富士キメラ総研「2020 クラウドコンピューティングの現状と将来展望」)。また、スマートフォンの個人保有率は2019年において67.6%(前年比2.9ポイント増)と普及が進んでいます(総務省「令和元年通信利用動向調査(2020年5月29日公表)」)。更に、インターネット広告費の国内の市場規模は、2019年に初めて2兆円を超え、テレビメディア広告費を抜き2兆1,048億円と前年比で22.9%と拡大しています(株式会社電通「2019年 日本の広告費(2020年3月公表)」)。また、米国における2019年のインターネット広告市場は、1,246億米ドル(1ドル110円換算で13兆7,060億円)と前年比で115.9%と拡大しています(PwC及びIABによる共同調査「IAB internet advertising revenue report (2020年5月公表)」)。
一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により世界規模で経済活動の制限を受けることを余儀なくされ、米国では4~6月期のGDPは年率換算で31.4%減となりました。ただし、その後は国内外の経済活動が徐々に再開されつつあり、7~9月期のGDPについては、前期に大幅な落ち込みとなった反動もあり米国は前期比年率換算で33.4%と市場予想を超え過去最大の伸びを見せ、10~12月期のGDPも例年よりも低水準ではあるものの2.1%増となりました。しかしながら、新型コロナウイルスの変異種の流行も確認されるなど、新型コロナウイルス感染再加速に関するリスク等、まだ予断は許さない状況が続いています。
今後、withコロナ時代において、クラウドサービス導入や良質なメディアコンテンツなど、当社グループの提供サービスへのニーズは、より一層高まっていくものと認識しています。
このような環境の下、SPEEDA事業では国内の新規獲得ID数は順調に積み上げられたものの、解約率が悪化し、MRR(Monthly Recurring Revenueの略称。継続課金による月次収益で、初期費用等の一時的な売上は含まない)は前年同期比13%増となりました。また第3四半期連結会計期間以降は各プロダクトとのクロスセル案件も進みました。
NewsPicks事業では第2四半期連結累計期間にかけて新型コロナウイルス関連の良質なコンテンツをスピーディーに、かつ多数配信したことで、有料課金ユーザー数が大幅に増加しMRRも大幅に拡大しました。その反動から第3四半期連結会計期間においては、新規有料会員の獲得ベースは鈍化しましたが、第4四半期連結会計期間においては法人向け有料会員数の伸びにより純増ペースが回復し、有料会員数は増加しました。またコロナ下における良質なメディアコンテンツの発信により、媒体としてのプレゼンスをさらに高めたことから動画広告を含め広告受注は過去最高売上額を更新し、当連結会計年度における広告売上高は前年同期比で40.4%増加しました。
Quartz事業においては、年初来、新型コロナウイルスの感染拡大により、米国を中心に企業の広告出稿を抑制する動きが強く、2020年5月14日に広告事業を中心としたリストラクチャリングの実行を決定し、広告市況の回復状況を見ながら事業運営を行ってきましたが、買収当初に掲げた3年間で黒字化させるという目標の達成が困難な状況になっていることを踏まえ、当社の投資に関する規律に従い、当社グループの経営資源をより高い成長が見込めるSPEEDA事業とNewsPicks事業に集中させるべく、2020年11月9日付の取締役会にて決議し、Quartz事業から撤退しました。本撤退に伴い当連結会計年度においてのれん等の減損損失7,810百万円及び関係会社株式売却損1,042百万円を計上しています。また、当連結会計年度において、本撤退を主な原因として生じた繰越欠損金に係る繰延税金資産を、回収可能性を考慮したうえで3,060百万円計上しています。
その結果、当連結会計年度における売上高は13,809百万円(前年同期比10.3%増加)、EBITDAは917百万円(前年同期は△411百万円)、営業利益は104百万円(前年同期は営業損失1,236百万円)、経常損失は281百万円(前年同期は経常損失1,429百万円)となりました。なお、株式会社ミーミルを連結子会社化したことに伴う段階取得に係る差益104百万円を計上した一方、Quartz社の構造改革に係る費用279百万円を計上したこと、Quartz事業ののれん等の減損損失7,810百万円及び関係会社株式売却損1,042百万円を計上したこと、並びに法人税等を△2,771百万円計上したこと等により、親会社株主に帰属する当期純損失は6,472百万円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純損失1,620百万円)となりました。
セグメントの業績は次の通りです。
なお、当社グループにおいては複数の事業の国内外での展開を進めており、コーポレート業務に係るコストが複雑化しています。そこで、報告セグメント別の経営成績をより適切に反映させるため、当連結会計年度より、グループ共通のコーポレート業務に係るコストの配賦方法を、より各セグメントの事業実態に合った合理的な配賦基準に基づき配賦する方法に変更しています。
具体的には、当社グループのコーポレート業務に係るコストを以下の2つに分類し、Direct Costに関しては、費目ごとに事業実態に合った合理的な配賦基準に基づき配賦し、Indirect Costに関しては、各報告セグメントの売上高を基準として配賦しています。
・Direct Cost:提供サービスや事業に直接紐づくコスト
・Indirect Cost:提供サービスや事業に直接紐づかない連結グループ全体経営のために発生する全社費用(例:上場維持コスト、監査報酬、役員報酬など)
また、従来より報告セグメントごとに開示をしていたセグメント別のEBITDAの金額については、より適切に各報告セグメントの収益力を表示する観点から、経営上の業績評価となる指標であるDirect EBITDA及びセグメントEBITDAを表示しています。
セグメント利益又は損失、Direct EBITDA及びセグメントEBITDAは下記の通り算出しています。
・セグメント利益又は損失:Direct Costのみ配賦して算出した金額
・Direct EBITDA:セグメント利益又は損失に、減価償却費及びのれんの償却費を加えた金額(上記Indirect Costである全社費用配賦前の金額)
・セグメントEBITDA:Direct EBITDAに、Indirect Costである全社費用を配賦した金額
■ SPEEDA事業
SPEEDA事業においては、第1四半期連結会計期間から引き続き、中国における新型コロナウイルス感染症の影響により、中国を中心としたアジア地域における契約IDの獲得が鈍化したものの、日本国内における契約IDの獲得は順調に進みました。また、第2四半期連結会計期間において、日本国内に約7,000名(100%子会社化当時の数値で現在は約8,000名)のエキスパート・ネットワークを有する株式会社ミーミルを100%子会社化し、第3四半期連結会計期間において、ミーミルのエキスパートリサーチ事業をSPEEDAに統合し、多様な業界・分野の第一線で活躍する専門家の知見を含む、総合的な経済情報プラットフォームとしてSPEEDAを刷新しました。第一段のサービスとして、「今、専門家に聞く」機能、FLASH Opinionをリリースしています。これらにより、当連結会計年度末におけるMRRは前年同期比13.1%増の463百万円となりました。また、今後は、2020年5月に資本業務提携を実施した、世界180か国以上、約10,000名のエキスパート・ネットワークを保有する米国GlobalWonks, Inc.とのアライアンスも活かして世界中の専門家の知見へのアクセスを可能にし、意思決定に必要な質の高い情報を得ることができるグローバルな経済情報プラットフォームを目指していきます。
これらの結果、当連結会計年度におけるセグメント売上高は5,509百万円(前年同期比21.3%増加)、セグメントEBITDAは2,000百万円(前年同期比25.2%増加)、セグメント利益は2,282百万円(前年同期比27.8%増加)となりました。
なお、前年同期との比較・分析は、変更後の新セグメントに基づいて記載しています(以下、他の事業についても同様です)。
■ NewsPicks事業
NewsPicks事業においては、第2四半期連結累計期間にかけてwithコロナの世界を見据えた良質な特集記事や動画コンテンツをスピーディーに、かつ多数配信することで、有料会員数が大幅に増加しました。また、第2四半期連結会計期間において、新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動が停滞し、受注が遅れていた法人向け有料会員数も第3四半期連結会計期間から回復傾向となっています。その結果、重要指標であるMRRは、当連結会計年度末において前年同期比37.8%増の243百万円となりました。
広告事業においては、コロナ下における良質なメディアコンテンツの発信により、媒体としてのプレゼンスをさらに高めたことから、動画広告を含め広告受注は順調に増加し、当連結会計年度における広告売上は前年同期比で40.4%増加となりました。
これらの結果、当連結会計年度におけるセグメント売上高は5,950百万円(前年同期比42.0%増加)、セグメントEBITDAは492百万円(前年同期比74.4%増加)、セグメント利益は711百万円(前年同期比65.9%増加)となりました。
■ Quartz事業
Quartz事業においては、新規に注力している有料課金事業は拡大している一方で、既存事業である広告事業は新型コロナウイルスの広がりによる景気悪化影響を強く受け、売上高は前年同期比で大幅に減少しました。しかしながら昨年来の運営コストの削減と第2四半期連結会計期間に実施した広告事業を中心とした事業構造改革によって、第3四半期連結会計期間において販売費及び一般管理費は前年同期比で圧縮されました。
これらの結果、Quartz事業の当連結会計年度におけるセグメント売上高は972百万円(前年同期比67.0%減少)、セグメントEBITDAは△1,527百万円(前年同期は△2,160百万円)、セグメント損失は1,961百万円(前年同期は2,693百万円)となりました。
なお、当社は2020年11月9日付の取締役会にて決議し、第4四半期連結会計期間においてQuartz事業から撤退しました。当連結会計年度における連結対象となる期間は、2020年1月から10月であり、前年同期比は参考値となります。
■ その他事業
その他事業においては、B2BマーケティングプラットフォームFORCAS(フォーカス)が順調に顧客獲得を進め、当連結会計年度末におけるFORCASのMRRは前年同期比33.2%増の100百万円まで増加しました。また、スタートアップデータベースのINITIAL(イニシャル)が成長を加速させており、2017年1月に買収してから3年後である前連結会計年度において通期黒字化を達成し、当連結会計年度においても継続してEBITDAは黒字となっています。その他事業のセグメントEBITDAは損益分岐点に近い水準まで赤字幅が縮小されました。今後は、売上成長と収益のバランスを見ながら事業拡大を図っていく方針です。
これらの結果、その他事業の当連結会計年度におけるセグメント売上高は1,421百万円(前年同期比63.1%増加)、セグメントEBITDAは△11百万円(前年同期は△144百万円)、セグメント利益は46百万円(前年同期はセグメント損失122百万円)となりました。
② 財政状態
(資産の部)
資産合計は、前連結会計年度末と比較して5,043百万円減少し、15,915百万円となりました。これは主に、流動資産において現金及び預金が369百万円減少したこと、受取手形及び売掛金が931百万円減少したこと、固定資産において、のれんが減損、償却及び為替換算等により8,058百万円減少した一方、投資その他の資産において繰延税金資産が3,004百万円増加したこと等によるものです。
(負債の部)
負債合計は、前連結会計年度末と比較して5,029百万円減少し、8,796百万円となりました。これは主に、流動負債において、1年内返済予定の長期借入金が361百万円減少したこと、未払法人税等が589百万円減少した一方、SPEEDA事業における売上高成長により前受収益が752百万円増加したこと等により流動負債が91百万円増加したこと、また、固定負債において、長期借入金が5,107百万円減少したこと等により固定負債が5,121百万円減少したことによるものです。
(純資産の部)
純資産合計は、前連結会計年度末と比較して13百万円減少し、7,118百万円となりました。これは主に、第三者割当増資及び公募増資等により資本金が3,074百万円増加、資本剰余金が3,076百万円増加した一方、親会社株主に帰属する当期純損失6,472百万円を計上したことにより利益剰余金が6,472百万円減少したこと等によるものです。
③ キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末と比べ441百万円減少し、7,513百万円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次の通りです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、1,026百万円の収入(前年同期は60百万円の収入)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失9,366百万円を計上した一方、減損損失7,810百万円を計上したこと、のれん償却額533百万円を計上したこと、関係会社株式売却損1,042百万円を計上したこと、また債権の回収が進んだこと等により売上債権が612百万円減少したこと、SPEEDA事業を始めとする事業拡大に伴い、前受収益が754百万円増加したこと等によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、2,028百万円の支出(前年同期は851百万円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出404百万円、無形固定資産の取得による支出330百万円、株式会社UB Venturesの運営するファンドによる投資有価証券の取得等による支出604百万円、ミーミル社の連結子会社化に伴い連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出170百万円、Quartz事業からの撤退に伴う連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による支出451百万円等によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、613百万円の収入(前年同期は3,282百万円の収入)となりました。これは主に、リファイナンス等に伴い長期借入れによる収入1,500百万円及び長期借入金の返済による支出7,037百万円、第三者割当増資及び海外公募増資等に伴う株式発行による収入6,043百万円等によるものです。
(3) 生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
生産に該当する事項がないため、生産実績に関する記載はしておりません。
② 受注実績
受注生産を行っていないため、受注実績に関する記載はしておりません。なお、NewsPicks事業及びQuartz事業における広告サービスにおいて受注はありますが、受注から役務提供までの期間が短いため、受注状況に関する記載を省略しています。
③ 販売実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの販売実績は、次のとおりです。
(注)1 セグメント間取引は相殺消去しています。
2 上記の金額には、消費税等は含まれていません。
3 前連結会計年度及び当連結会計年度の主な相手先別販売実績及び当該販売実績に対する割合については、その割合が100分の10以上に該当する相手先がないため、記載を省略しています。
(4) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況分析 (2) 経営成績等の概況及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ③キャッシュ・フロー」に記載しています。
当社グループにおける各事業はシステムを利用したプラットフォームサービスの提供を主としており、多額の設備投資などは必要とせず、主たる資金需要は人件費や広告宣伝費などの運転資金です。収益基盤の確立した既存ビジネスの獲得するキャッシュ・フローを原資に、新規に開始するビジネスの運転資金を賄うことを基本方針としていますが、足元における米国事業の成長投資資金の一部については、既存ビジネスによる獲得資金に加え、金融機関からの借入によって賄っています。
当連結会計年度においては、2020年4月の三菱地所株式会社からの第三者割当増資及び2020年7月に実施した海外公募増資による資金調達6,092百万円を実施しました。なお、2019年においてQuartz社買収時に調達した借入金のリファイナンスを行っていますが、2020年11月のQuartz事業の撤退に伴い期限前返済を行うとともに、事業成長資金及び運転資金の確保を目的として金融機関から新規借入を実施しています。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループの将来の財政状態及び経営成績に重要な影響を与えるリスク要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載しています。
(6) 経営戦略の現状と見通し
経営戦略の現状と見通しについては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しています。
(7) 経営者の問題認識と今後の方針について
当社グループが今後業容を拡大し、より高品質なサービスを継続的に提供していくためには、経営者は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の課題に対処していく必要があると認識しています。それらの課題に対応するため、経営者は常に市場におけるニーズや事業環境の変化に関する情報の入手及び分析を行い、現在及び将来における事業環境を認識したうえで、当社グループの経営資源を最適に配分し、最適な解決策を実施していく方針です。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たって、決算日における資産・負債の報告数値及び報告期間における収益・費用の報告数値に影響を与える見積り及び仮定の設定を行っています。当該見積りは、過去の実績や状況に応じて合理的と考えられる各種の要因に関して仮定設定、情報収集を行い、見積金額を算出していますが、実際の結果は見積り自体に不確実性があるために、これらの見積りと異なる可能性があります。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響の仮定に関する情報は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表 (1) 連結財務諸表 注記事項 追加情報」に記載の通りです。
(2) 経営成績等の概況及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 経営成績
当社グループを取り巻く経営環境については、国内情報サービス業の売上高規模は2020年においては12兆913億円(前年比0.2%増加)と、9年連続で成長を続けています(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査(2021年2月公表)」)。その中で、SaaS(Software as a Serviceの略称。月額課金や年額課金の仕組みを取っているウェブサービス)の国内市場規模は、年平均成長率が約12%で拡大しており、2025年に向けてDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みが加速しており、カテゴリーを問わずパッケージソフトからSaaSへの移行ニーズがますます高まっています。加えて新型コロナウイルスの影響でリモートワークが拡大し、IT投資に消極的であった中堅、中小企業においてもソフトウェア導入が進展しており、それらの流れもあり、SaaSの国内市場規模は2023年には約1兆574億円に拡大する見込みです(富士キメラ総研「2020 クラウドコンピューティングの現状と将来展望」)。また、スマートフォンの個人保有率は2019年において67.6%(前年比2.9ポイント増)と普及が進んでいます(総務省「令和元年通信利用動向調査(2020年5月29日公表)」)。更に、インターネット広告費の国内の市場規模は、2019年に初めて2兆円を超え、テレビメディア広告費を抜き2兆1,048億円と前年比で22.9%と拡大しています(株式会社電通「2019年 日本の広告費(2020年3月公表)」)。また、米国における2019年のインターネット広告市場は、1,246億米ドル(1ドル110円換算で13兆7,060億円)と前年比で115.9%と拡大しています(PwC及びIABによる共同調査「IAB internet advertising revenue report (2020年5月公表)」)。
一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により世界規模で経済活動の制限を受けることを余儀なくされ、米国では4~6月期のGDPは年率換算で31.4%減となりました。ただし、その後は国内外の経済活動が徐々に再開されつつあり、7~9月期のGDPについては、前期に大幅な落ち込みとなった反動もあり米国は前期比年率換算で33.4%と市場予想を超え過去最大の伸びを見せ、10~12月期のGDPも例年よりも低水準ではあるものの2.1%増となりました。しかしながら、新型コロナウイルスの変異種の流行も確認されるなど、新型コロナウイルス感染再加速に関するリスク等、まだ予断は許さない状況が続いています。
今後、withコロナ時代において、クラウドサービス導入や良質なメディアコンテンツなど、当社グループの提供サービスへのニーズは、より一層高まっていくものと認識しています。
このような環境の下、SPEEDA事業では国内の新規獲得ID数は順調に積み上げられたものの、解約率が悪化し、MRR(Monthly Recurring Revenueの略称。継続課金による月次収益で、初期費用等の一時的な売上は含まない)は前年同期比13%増となりました。また第3四半期連結会計期間以降は各プロダクトとのクロスセル案件も進みました。
NewsPicks事業では第2四半期連結累計期間にかけて新型コロナウイルス関連の良質なコンテンツをスピーディーに、かつ多数配信したことで、有料課金ユーザー数が大幅に増加しMRRも大幅に拡大しました。その反動から第3四半期連結会計期間においては、新規有料会員の獲得ベースは鈍化しましたが、第4四半期連結会計期間においては法人向け有料会員数の伸びにより純増ペースが回復し、有料会員数は増加しました。またコロナ下における良質なメディアコンテンツの発信により、媒体としてのプレゼンスをさらに高めたことから動画広告を含め広告受注は過去最高売上額を更新し、当連結会計年度における広告売上高は前年同期比で40.4%増加しました。
Quartz事業においては、年初来、新型コロナウイルスの感染拡大により、米国を中心に企業の広告出稿を抑制する動きが強く、2020年5月14日に広告事業を中心としたリストラクチャリングの実行を決定し、広告市況の回復状況を見ながら事業運営を行ってきましたが、買収当初に掲げた3年間で黒字化させるという目標の達成が困難な状況になっていることを踏まえ、当社の投資に関する規律に従い、当社グループの経営資源をより高い成長が見込めるSPEEDA事業とNewsPicks事業に集中させるべく、2020年11月9日付の取締役会にて決議し、Quartz事業から撤退しました。本撤退に伴い当連結会計年度においてのれん等の減損損失7,810百万円及び関係会社株式売却損1,042百万円を計上しています。また、当連結会計年度において、本撤退を主な原因として生じた繰越欠損金に係る繰延税金資産を、回収可能性を考慮したうえで3,060百万円計上しています。
その結果、当連結会計年度における売上高は13,809百万円(前年同期比10.3%増加)、EBITDAは917百万円(前年同期は△411百万円)、営業利益は104百万円(前年同期は営業損失1,236百万円)、経常損失は281百万円(前年同期は経常損失1,429百万円)となりました。なお、株式会社ミーミルを連結子会社化したことに伴う段階取得に係る差益104百万円を計上した一方、Quartz社の構造改革に係る費用279百万円を計上したこと、Quartz事業ののれん等の減損損失7,810百万円及び関係会社株式売却損1,042百万円を計上したこと、並びに法人税等を△2,771百万円計上したこと等により、親会社株主に帰属する当期純損失は6,472百万円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純損失1,620百万円)となりました。
セグメントの業績は次の通りです。
なお、当社グループにおいては複数の事業の国内外での展開を進めており、コーポレート業務に係るコストが複雑化しています。そこで、報告セグメント別の経営成績をより適切に反映させるため、当連結会計年度より、グループ共通のコーポレート業務に係るコストの配賦方法を、より各セグメントの事業実態に合った合理的な配賦基準に基づき配賦する方法に変更しています。
具体的には、当社グループのコーポレート業務に係るコストを以下の2つに分類し、Direct Costに関しては、費目ごとに事業実態に合った合理的な配賦基準に基づき配賦し、Indirect Costに関しては、各報告セグメントの売上高を基準として配賦しています。
・Direct Cost:提供サービスや事業に直接紐づくコスト
・Indirect Cost:提供サービスや事業に直接紐づかない連結グループ全体経営のために発生する全社費用(例:上場維持コスト、監査報酬、役員報酬など)
また、従来より報告セグメントごとに開示をしていたセグメント別のEBITDAの金額については、より適切に各報告セグメントの収益力を表示する観点から、経営上の業績評価となる指標であるDirect EBITDA及びセグメントEBITDAを表示しています。
セグメント利益又は損失、Direct EBITDA及びセグメントEBITDAは下記の通り算出しています。
・セグメント利益又は損失:Direct Costのみ配賦して算出した金額
・Direct EBITDA:セグメント利益又は損失に、減価償却費及びのれんの償却費を加えた金額(上記Indirect Costである全社費用配賦前の金額)
・セグメントEBITDA:Direct EBITDAに、Indirect Costである全社費用を配賦した金額
■ SPEEDA事業
SPEEDA事業においては、第1四半期連結会計期間から引き続き、中国における新型コロナウイルス感染症の影響により、中国を中心としたアジア地域における契約IDの獲得が鈍化したものの、日本国内における契約IDの獲得は順調に進みました。また、第2四半期連結会計期間において、日本国内に約7,000名(100%子会社化当時の数値で現在は約8,000名)のエキスパート・ネットワークを有する株式会社ミーミルを100%子会社化し、第3四半期連結会計期間において、ミーミルのエキスパートリサーチ事業をSPEEDAに統合し、多様な業界・分野の第一線で活躍する専門家の知見を含む、総合的な経済情報プラットフォームとしてSPEEDAを刷新しました。第一段のサービスとして、「今、専門家に聞く」機能、FLASH Opinionをリリースしています。これらにより、当連結会計年度末におけるMRRは前年同期比13.1%増の463百万円となりました。また、今後は、2020年5月に資本業務提携を実施した、世界180か国以上、約10,000名のエキスパート・ネットワークを保有する米国GlobalWonks, Inc.とのアライアンスも活かして世界中の専門家の知見へのアクセスを可能にし、意思決定に必要な質の高い情報を得ることができるグローバルな経済情報プラットフォームを目指していきます。
これらの結果、当連結会計年度におけるセグメント売上高は5,509百万円(前年同期比21.3%増加)、セグメントEBITDAは2,000百万円(前年同期比25.2%増加)、セグメント利益は2,282百万円(前年同期比27.8%増加)となりました。
なお、前年同期との比較・分析は、変更後の新セグメントに基づいて記載しています(以下、他の事業についても同様です)。
■ NewsPicks事業
NewsPicks事業においては、第2四半期連結累計期間にかけてwithコロナの世界を見据えた良質な特集記事や動画コンテンツをスピーディーに、かつ多数配信することで、有料会員数が大幅に増加しました。また、第2四半期連結会計期間において、新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動が停滞し、受注が遅れていた法人向け有料会員数も第3四半期連結会計期間から回復傾向となっています。その結果、重要指標であるMRRは、当連結会計年度末において前年同期比37.8%増の243百万円となりました。
広告事業においては、コロナ下における良質なメディアコンテンツの発信により、媒体としてのプレゼンスをさらに高めたことから、動画広告を含め広告受注は順調に増加し、当連結会計年度における広告売上は前年同期比で40.4%増加となりました。
これらの結果、当連結会計年度におけるセグメント売上高は5,950百万円(前年同期比42.0%増加)、セグメントEBITDAは492百万円(前年同期比74.4%増加)、セグメント利益は711百万円(前年同期比65.9%増加)となりました。
■ Quartz事業
Quartz事業においては、新規に注力している有料課金事業は拡大している一方で、既存事業である広告事業は新型コロナウイルスの広がりによる景気悪化影響を強く受け、売上高は前年同期比で大幅に減少しました。しかしながら昨年来の運営コストの削減と第2四半期連結会計期間に実施した広告事業を中心とした事業構造改革によって、第3四半期連結会計期間において販売費及び一般管理費は前年同期比で圧縮されました。
これらの結果、Quartz事業の当連結会計年度におけるセグメント売上高は972百万円(前年同期比67.0%減少)、セグメントEBITDAは△1,527百万円(前年同期は△2,160百万円)、セグメント損失は1,961百万円(前年同期は2,693百万円)となりました。
なお、当社は2020年11月9日付の取締役会にて決議し、第4四半期連結会計期間においてQuartz事業から撤退しました。当連結会計年度における連結対象となる期間は、2020年1月から10月であり、前年同期比は参考値となります。
■ その他事業
その他事業においては、B2BマーケティングプラットフォームFORCAS(フォーカス)が順調に顧客獲得を進め、当連結会計年度末におけるFORCASのMRRは前年同期比33.2%増の100百万円まで増加しました。また、スタートアップデータベースのINITIAL(イニシャル)が成長を加速させており、2017年1月に買収してから3年後である前連結会計年度において通期黒字化を達成し、当連結会計年度においても継続してEBITDAは黒字となっています。その他事業のセグメントEBITDAは損益分岐点に近い水準まで赤字幅が縮小されました。今後は、売上成長と収益のバランスを見ながら事業拡大を図っていく方針です。
これらの結果、その他事業の当連結会計年度におけるセグメント売上高は1,421百万円(前年同期比63.1%増加)、セグメントEBITDAは△11百万円(前年同期は△144百万円)、セグメント利益は46百万円(前年同期はセグメント損失122百万円)となりました。
② 財政状態
(資産の部)
資産合計は、前連結会計年度末と比較して5,043百万円減少し、15,915百万円となりました。これは主に、流動資産において現金及び預金が369百万円減少したこと、受取手形及び売掛金が931百万円減少したこと、固定資産において、のれんが減損、償却及び為替換算等により8,058百万円減少した一方、投資その他の資産において繰延税金資産が3,004百万円増加したこと等によるものです。
(負債の部)
負債合計は、前連結会計年度末と比較して5,029百万円減少し、8,796百万円となりました。これは主に、流動負債において、1年内返済予定の長期借入金が361百万円減少したこと、未払法人税等が589百万円減少した一方、SPEEDA事業における売上高成長により前受収益が752百万円増加したこと等により流動負債が91百万円増加したこと、また、固定負債において、長期借入金が5,107百万円減少したこと等により固定負債が5,121百万円減少したことによるものです。
(純資産の部)
純資産合計は、前連結会計年度末と比較して13百万円減少し、7,118百万円となりました。これは主に、第三者割当増資及び公募増資等により資本金が3,074百万円増加、資本剰余金が3,076百万円増加した一方、親会社株主に帰属する当期純損失6,472百万円を計上したことにより利益剰余金が6,472百万円減少したこと等によるものです。
③ キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末と比べ441百万円減少し、7,513百万円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次の通りです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、1,026百万円の収入(前年同期は60百万円の収入)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失9,366百万円を計上した一方、減損損失7,810百万円を計上したこと、のれん償却額533百万円を計上したこと、関係会社株式売却損1,042百万円を計上したこと、また債権の回収が進んだこと等により売上債権が612百万円減少したこと、SPEEDA事業を始めとする事業拡大に伴い、前受収益が754百万円増加したこと等によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、2,028百万円の支出(前年同期は851百万円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出404百万円、無形固定資産の取得による支出330百万円、株式会社UB Venturesの運営するファンドによる投資有価証券の取得等による支出604百万円、ミーミル社の連結子会社化に伴い連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出170百万円、Quartz事業からの撤退に伴う連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による支出451百万円等によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、613百万円の収入(前年同期は3,282百万円の収入)となりました。これは主に、リファイナンス等に伴い長期借入れによる収入1,500百万円及び長期借入金の返済による支出7,037百万円、第三者割当増資及び海外公募増資等に伴う株式発行による収入6,043百万円等によるものです。
(3) 生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
生産に該当する事項がないため、生産実績に関する記載はしておりません。
② 受注実績
受注生産を行っていないため、受注実績に関する記載はしておりません。なお、NewsPicks事業及びQuartz事業における広告サービスにおいて受注はありますが、受注から役務提供までの期間が短いため、受注状況に関する記載を省略しています。
③ 販売実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの販売実績は、次のとおりです。
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 前年同期比(%) |
SPEEDA事業 | 5,492 | 121.2 |
NewsPicks事業 | 5,932 | 142.0 |
Quartz事業 | 972 | 33.0 |
その他事業 | 1,412 | 162.2 |
合計 | 13,809 | 110.3 |
(注)1 セグメント間取引は相殺消去しています。
2 上記の金額には、消費税等は含まれていません。
3 前連結会計年度及び当連結会計年度の主な相手先別販売実績及び当該販売実績に対する割合については、その割合が100分の10以上に該当する相手先がないため、記載を省略しています。
(4) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況分析 (2) 経営成績等の概況及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ③キャッシュ・フロー」に記載しています。
当社グループにおける各事業はシステムを利用したプラットフォームサービスの提供を主としており、多額の設備投資などは必要とせず、主たる資金需要は人件費や広告宣伝費などの運転資金です。収益基盤の確立した既存ビジネスの獲得するキャッシュ・フローを原資に、新規に開始するビジネスの運転資金を賄うことを基本方針としていますが、足元における米国事業の成長投資資金の一部については、既存ビジネスによる獲得資金に加え、金融機関からの借入によって賄っています。
当連結会計年度においては、2020年4月の三菱地所株式会社からの第三者割当増資及び2020年7月に実施した海外公募増資による資金調達6,092百万円を実施しました。なお、2019年においてQuartz社買収時に調達した借入金のリファイナンスを行っていますが、2020年11月のQuartz事業の撤退に伴い期限前返済を行うとともに、事業成長資金及び運転資金の確保を目的として金融機関から新規借入を実施しています。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループの将来の財政状態及び経営成績に重要な影響を与えるリスク要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載しています。
(6) 経営戦略の現状と見通し
経営戦略の現状と見通しについては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しています。
(7) 経営者の問題認識と今後の方針について
当社グループが今後業容を拡大し、より高品質なサービスを継続的に提供していくためには、経営者は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の課題に対処していく必要があると認識しています。それらの課題に対応するため、経営者は常に市場におけるニーズや事業環境の変化に関する情報の入手及び分析を行い、現在及び将来における事業環境を認識したうえで、当社グループの経営資源を最適に配分し、最適な解決策を実施していく方針です。