有価証券報告書-第21期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)
当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要、及び経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における世界経済は、引き続き新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きな影響を受けました。ワクチンの接種も進んでおりますが、変異株による感染症の拡大も懸念されております。
当社が属する医薬品業界におきましては、こうした新たな感染症への対策とともに、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が、継続的な重要課題になっております。当社事業におきましても、新型コロナウイルス感染症の拡大により、抗体・試薬の売上高の減少や抗体研究機関における研究開発の遅延などの影響を受けましたが、徐々に改善する兆しが見られました。
各領域における当事業年度の成果は次のとおりです。
a.創薬
当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、アンメット・メディカル・ニーズを満たすべく、主にがん領域で抗体開発を進めております。シーズ探索で得られた候補抗体のうち、多面的な検討から先ず選別されたGPC3, CDH3, トランスフェリン受容体という3つの抗体の開発を進めているほか、これに続く多くの候補抗体が研究開発段階にあります。当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。(a) PPMX-T002
PPMX-T002は細胞間接着因子と考えられているCDH3を標的としています。2011年に当社と実施許諾契約を締結した富士フイルム株式会社(以下富士フイルム社)によって、放射性同位体(RI)を標識した抗がん剤として開発が進められています。進行性固形がん患者さんに対して、富士フイルム社が米国にて行った第Ⅰ相試験では、PPMX-T002の抗体が、投与された患者さんのがん組織に集積することが認められたほか、一部症例においては腫瘍の縮小が確認されました。2019年より第Ⅰ相試験を拡大し、最大耐容用量で症例数を増やして、日本の厚生労働省の定める第II相試験相当が実施されています。
さらに、2020年4月からは富士フイルム富山化学株式会社により、国内での第I相試験も進められています。
(b) PPMX-T003
PPMX-T003は、当社独自のスクリーニング技術であるICOS法により取得したユニークな完全ヒト抗体であり、トランスフェリン受容体(TfR)を標的とします。TfRは細胞内への鉄の取り込みに関与しており、増殖が盛んながん細胞に多く発現しています。本抗体がTfRに結合すると、がん細胞内への鉄の取り込みを阻害し、それによってがん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍効果が得られます。当社は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラムの支援を得て、2018年にサルを用いた非臨床毒性試験を完了し、その後自社での対応に切り替えました。PPMX-T003は、その抑制効果から様々ながんに対する治療効果を期待できると考えており、まず血液がんの一種である真性多血症の治療薬開発を目指して、2019年11月に国内で第I相試験を開始しました。2021年3月には、健常人での安全性が確認できたことから、次のステップとして真性多血症患者さんに投与して第I相試験を完了するため、2021年5月31日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に治験計画届を提出いたしました。
さらに、真性多血症、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。
(c) PPMX-T004
PPMX-T004は、PPMX-T002と同じCDH3を標的としており、薬物を標識した抗体薬物複合体(ADC)をコンセプトとしています。ADCは抗体に標識した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象とした細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。また、RIを使用していないため、使用する設備の制約も受けません。なお、導出先との契約により、開発状況は開示しておりません。
(d) PPMX-T001
PPMX-T001は、肝臓がんで高い発現率が見られるGPC3を標的としています。2006年に特許を受ける権利等を譲渡した中外製薬株式会社によって、肝臓がん等治療薬として「GC33」及び「ERY974」という2種類の異なった形態での薬剤開発が進められています。GC33は、単剤は第Ⅰ相試験で患者さんでの有効性が確認されましたが、第Ⅱ相試験は、主要評価項目が未達となり、現在、試験は実施されておりません。一方、免疫療法薬のアテゾリズマブとの併用による第Ⅰ相試験では、患者さんでの有効性が確認されたことが学会で発表されております。また、ERY974(抗GPC3-抗CD3)は、2つの標的に同時に結合することができるバイスペシフィック抗体で、米国及び欧州での第Ⅰ相試験が2019年8月に終了し、現在は国内で第I相試験が進められております。
b.抗体研究支援
当事業年度には、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、前事業年度より売上高は減少しました。
c.抗体・試薬販売
研究用抗体の販売は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて落ち込みましたが、徐々に回復しております。また、PTX3測定キット(血管炎症マーカー)を用いた、新型コロナウイルス感染症による肺炎重症化予測診断キットの開発も進めております。
以上の結果、当事業年度の売上高は、67,947千円(前事業年度85,759千円、前年同期比20.8%減)となりました。当事業年度は、創薬の売上はなく、また、新型コロナウイルス感染症の影響により、抗体・試薬販売、抗体研究支援共に業績は落ちこみ、売上高は減少となりました。
損益につきましては、営業損失411,749千円(前事業年度は営業損失812,394千円)、経常損失410,107千円(前事業年度は経常損失834,362千円)となり、当期純損失は413,216千円(前事業年度は当期純損失841,731千円)となりました。損失額の減少は、主にPPMX-T003の研究開発費減少によるものであります。
なお、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
財政状態については、次のとおりであります。
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ570,736千円増加し、1,118,626千円となりました。
主な要因は、2020年11月に実施された1,008,000千円の第三者割当増資による現金及び預金586,835千円の増加、及び前事業年度に計上した研究開発委託業務に係る前渡金の委託業務完了による10,770千円の減少によるものであります。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ27,086千円減少し、34,912千円となりました。
主な要因は、PPMX-T003の健常者の第Ⅰ相試験に係る前事業年度の病院費用の未払金23,259千円を当事業年度に支払ったこと等による未払金24,758千円の減少、及び資本金等の額が減少したことに伴う事業税(外形標準課税)の減少による未払法人税等4,291千円の減少によるものであります。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ597,823千円増加し、1,083,713千円となりました。
2020年9月に欠損填補のための減資を行い、資本金が699,970千円、資本剰余金が671,280千円それぞれ減少しましたが、2020年11月に第三者割当増資を行い、資本金が504,000千円、資本剰余金が504,000千円それぞれ増加し、その結果、資本金が604,000千円、資本剰余金が889,889千円となりました。利益剰余金は、2020年9月の減資により1,371,250千円の欠損を填補し、△413,216千円となりました。また、2020年10月及び12月に有償新株予約権を発行し、新株予約権が3,040千円となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ586,835千円増加し、1,069,300千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、422,836千円の支出(前事業年度は608,524千円の支出)となりました。
主な要因は、前事業年度の研究開発委託業務に係る前渡金が、委託業務完了により10,770千円減少したことによる営業キャッシュ・フローの増加があった一方、税引前当期純損失411,289千円の計上、及びPPMX-T003の健常者第Ⅰ相試験に係る前事業年度の未払病院費用を当事業年度に支払ったこと等による未払金の減少23,171千円等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、2,824千円の支出(前事業年度は3,409千円の支出)となりました。
これは研究開発用の有形固定資産の取得による支出2,824千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、1,011,040千円の収入(前事業年度は発生しておりません)となりました。
これは第三者割当増資による株式の発行による収入1,008,000千円と新株予約権の発行による収入3,040千円によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
b.受注実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
c.販売実績
当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。
(注) 1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当社の財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。また、財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りを行うにあたり、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる結果をもたらす場合があります。
特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。
(固定資産の減損処理)
当社は、固定資産のうち営業活動から生ずる損益が継続してマイナスになっている資産について、回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。
(繰延税金資産)
繰延税金資産の回収可能性の判断については、将来の課税所得を合理的に見積り、将来の税金負担を軽減する効果を有すると考えられる範囲内で繰延税金資産を計上することになります。当社は、税務上の欠損金が継続しており、繰延税金資産の回収可能性を合理的に見積もることは困難と判断し、繰延税金資産を計上していません。
② 財政状態の分析
財政状態の分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。
③ 経営成績の分析
(売上高)
当事業年度の売上高は、67,947千円(前事業年度85,759千円、前年同期比20.8%減)となりました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響により研究機関の研究活動が停滞したためと考えております。
(売上原価、売上総利益)
当事業年度の売上原価は、抗体研究支援における研究受託の減少及び研究用抗体・試薬販売の減少により3,847千円(前年同期比39.7%減)となりました
この結果、当事業年度の売上総利益は、64,099千円(前年同期比19.2%減)となりました。
(販売費及び一般管理費、営業損失)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、475,849千円(前年同期比46.6%減)となりました。
販売費及び一般管理費の減少の主な要因は、研究開発費を押し上げる要因であったPPMX-T003の治験薬の製造が前年度で終了したことであり、研究開発費は313,398千円(前事業年度713,651千円、前年同期比56.1%減)となりました。
この結果、営業損失は411,749千円(前事業年度は営業損失812,394千円)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当事業年度の営業外収益は、13,040千円(前年同期比3,520.8%増)となりました。主なものは、新型コロナウイルス感染症関連の助成金収入11,140千円であります。
当事業年度の営業外費用は、11,397千円(前年同期比49.0%減)となりました。主なものは、第三者割当増資に係る支払手数料4,433千円及び租税公課3,527千円であります。
この結果、経常損失は、410,107千円(前事業年度は経常損失834,362千円)となりました。
(特別利益、特別損失、当期純損失)
当事業年度の特別利益の計上はありません。
当事業年度の特別損失は、1,182千円(前年同期比78.3%減)となりました。当社の事業の特性上、現段階では、将来の収入の不確実性が高いことから、医薬品事業に係る資産の帳簿価額の回収可能額をゼロとし、帳簿価額と備忘価額との差額1,182千円を減損損失として特別損失に計上しました。
これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、413,216千円(前事業年度は当期純損失841,731千円)となりました。
(パイプライン)
PPMX-T002については、米国において、日本の厚生労働省の定める第II相試験相当が行われています。さらに、2020年4月には富士フイルム富山化学株式会社により、国内での第Ⅰ相試験も開始されました。
PPMX-T003については、国内における第Ⅰ相試験が一時的に中断されましたが、その後再開され、健常人への投与が終了し、安全性が確認できました。
パイプラインの状況については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 当社の開発品」をご参照ください。
また、真性多血症、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんの治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 当社の開発品」をご参照ください。
④ キャッシュ・フローの分析
キャッシュ・フローの分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
「2 事業等のリスク」に記載したとおり、外部環境、事業内容、組織体制等の様々なリスク要因が経営成績に重要な影響を与える可能性があると認識しております。そのため、当社は常に業界の動向を注視しつつ、優秀な人材の確保と適切な教育を実施するとともに、内部管理体制の強化と整備を進めることで、経営成績に重要な影響を与えるリスク要因に適切な対応を図ってまいります。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社の主な資金需要は、PPMX-T003の開発及び創薬研究に係る研究開発費、並びに事業運営費等であります。これらの費用は、当期は自己資金で賄い、自己資金は、すべて銀行預金とし、資金の流動性を確保しております。当事業年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、422,836千円の支出、投資活動によるキャッシュ・フローは、2,824千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローは、1,011,040千円の収入となり、現金及び現金同等物の期末残高は、1,069,300千円となりました。
⑦ 経営者の問題意識と課題について
当社は、「最先端の抗体技術で世界の医療に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念実現のために、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載の課題に対して取り組んでまいります。
⑧ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 目標とする経営指標」に記載のとおり、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった数値的な目標となる経営指標は用いておりませんが、経営指標として、将来の売上に繋がるパイプラインの開発の進捗、パイプラインの拡充及び売上高を重要な目標と考え、事業活動を推進しております。なお、パイプラインの開発の進捗については、「③ 経営成績の分析」に記載しております。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における世界経済は、引き続き新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きな影響を受けました。ワクチンの接種も進んでおりますが、変異株による感染症の拡大も懸念されております。
当社が属する医薬品業界におきましては、こうした新たな感染症への対策とともに、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が、継続的な重要課題になっております。当社事業におきましても、新型コロナウイルス感染症の拡大により、抗体・試薬の売上高の減少や抗体研究機関における研究開発の遅延などの影響を受けましたが、徐々に改善する兆しが見られました。
各領域における当事業年度の成果は次のとおりです。
a.創薬
当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、アンメット・メディカル・ニーズを満たすべく、主にがん領域で抗体開発を進めております。シーズ探索で得られた候補抗体のうち、多面的な検討から先ず選別されたGPC3, CDH3, トランスフェリン受容体という3つの抗体の開発を進めているほか、これに続く多くの候補抗体が研究開発段階にあります。当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。(a) PPMX-T002
PPMX-T002は細胞間接着因子と考えられているCDH3を標的としています。2011年に当社と実施許諾契約を締結した富士フイルム株式会社(以下富士フイルム社)によって、放射性同位体(RI)を標識した抗がん剤として開発が進められています。進行性固形がん患者さんに対して、富士フイルム社が米国にて行った第Ⅰ相試験では、PPMX-T002の抗体が、投与された患者さんのがん組織に集積することが認められたほか、一部症例においては腫瘍の縮小が確認されました。2019年より第Ⅰ相試験を拡大し、最大耐容用量で症例数を増やして、日本の厚生労働省の定める第II相試験相当が実施されています。
さらに、2020年4月からは富士フイルム富山化学株式会社により、国内での第I相試験も進められています。
(b) PPMX-T003
PPMX-T003は、当社独自のスクリーニング技術であるICOS法により取得したユニークな完全ヒト抗体であり、トランスフェリン受容体(TfR)を標的とします。TfRは細胞内への鉄の取り込みに関与しており、増殖が盛んながん細胞に多く発現しています。本抗体がTfRに結合すると、がん細胞内への鉄の取り込みを阻害し、それによってがん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍効果が得られます。当社は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラムの支援を得て、2018年にサルを用いた非臨床毒性試験を完了し、その後自社での対応に切り替えました。PPMX-T003は、その抑制効果から様々ながんに対する治療効果を期待できると考えており、まず血液がんの一種である真性多血症の治療薬開発を目指して、2019年11月に国内で第I相試験を開始しました。2021年3月には、健常人での安全性が確認できたことから、次のステップとして真性多血症患者さんに投与して第I相試験を完了するため、2021年5月31日に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に治験計画届を提出いたしました。
さらに、真性多血症、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。
(c) PPMX-T004
PPMX-T004は、PPMX-T002と同じCDH3を標的としており、薬物を標識した抗体薬物複合体(ADC)をコンセプトとしています。ADCは抗体に標識した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象とした細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。また、RIを使用していないため、使用する設備の制約も受けません。なお、導出先との契約により、開発状況は開示しておりません。
(d) PPMX-T001
PPMX-T001は、肝臓がんで高い発現率が見られるGPC3を標的としています。2006年に特許を受ける権利等を譲渡した中外製薬株式会社によって、肝臓がん等治療薬として「GC33」及び「ERY974」という2種類の異なった形態での薬剤開発が進められています。GC33は、単剤は第Ⅰ相試験で患者さんでの有効性が確認されましたが、第Ⅱ相試験は、主要評価項目が未達となり、現在、試験は実施されておりません。一方、免疫療法薬のアテゾリズマブとの併用による第Ⅰ相試験では、患者さんでの有効性が確認されたことが学会で発表されております。また、ERY974(抗GPC3-抗CD3)は、2つの標的に同時に結合することができるバイスペシフィック抗体で、米国及び欧州での第Ⅰ相試験が2019年8月に終了し、現在は国内で第I相試験が進められております。
b.抗体研究支援
当事業年度には、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、前事業年度より売上高は減少しました。
c.抗体・試薬販売
研究用抗体の販売は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて落ち込みましたが、徐々に回復しております。また、PTX3測定キット(血管炎症マーカー)を用いた、新型コロナウイルス感染症による肺炎重症化予測診断キットの開発も進めております。
以上の結果、当事業年度の売上高は、67,947千円(前事業年度85,759千円、前年同期比20.8%減)となりました。当事業年度は、創薬の売上はなく、また、新型コロナウイルス感染症の影響により、抗体・試薬販売、抗体研究支援共に業績は落ちこみ、売上高は減少となりました。
損益につきましては、営業損失411,749千円(前事業年度は営業損失812,394千円)、経常損失410,107千円(前事業年度は経常損失834,362千円)となり、当期純損失は413,216千円(前事業年度は当期純損失841,731千円)となりました。損失額の減少は、主にPPMX-T003の研究開発費減少によるものであります。
なお、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
財政状態については、次のとおりであります。
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ570,736千円増加し、1,118,626千円となりました。
主な要因は、2020年11月に実施された1,008,000千円の第三者割当増資による現金及び預金586,835千円の増加、及び前事業年度に計上した研究開発委託業務に係る前渡金の委託業務完了による10,770千円の減少によるものであります。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ27,086千円減少し、34,912千円となりました。
主な要因は、PPMX-T003の健常者の第Ⅰ相試験に係る前事業年度の病院費用の未払金23,259千円を当事業年度に支払ったこと等による未払金24,758千円の減少、及び資本金等の額が減少したことに伴う事業税(外形標準課税)の減少による未払法人税等4,291千円の減少によるものであります。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ597,823千円増加し、1,083,713千円となりました。
2020年9月に欠損填補のための減資を行い、資本金が699,970千円、資本剰余金が671,280千円それぞれ減少しましたが、2020年11月に第三者割当増資を行い、資本金が504,000千円、資本剰余金が504,000千円それぞれ増加し、その結果、資本金が604,000千円、資本剰余金が889,889千円となりました。利益剰余金は、2020年9月の減資により1,371,250千円の欠損を填補し、△413,216千円となりました。また、2020年10月及び12月に有償新株予約権を発行し、新株予約権が3,040千円となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ586,835千円増加し、1,069,300千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、422,836千円の支出(前事業年度は608,524千円の支出)となりました。
主な要因は、前事業年度の研究開発委託業務に係る前渡金が、委託業務完了により10,770千円減少したことによる営業キャッシュ・フローの増加があった一方、税引前当期純損失411,289千円の計上、及びPPMX-T003の健常者第Ⅰ相試験に係る前事業年度の未払病院費用を当事業年度に支払ったこと等による未払金の減少23,171千円等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、2,824千円の支出(前事業年度は3,409千円の支出)となりました。
これは研究開発用の有形固定資産の取得による支出2,824千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、1,011,040千円の収入(前事業年度は発生しておりません)となりました。
これは第三者割当増資による株式の発行による収入1,008,000千円と新株予約権の発行による収入3,040千円によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
b.受注実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
c.販売実績
当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。
セグメントの名称 | 金額(千円) | 前年同期比(%) |
医薬品事業 | 67,947 | 79.2 |
合計 | 67,947 | 79.2 |
(注) 1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先 | 第20期事業年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 第21期事業年度 (自 2020年4月1日 至 2021年3月31日) | ||
金額(千円) | 割合(%) | 金額(千円) | 割合(%) | |
R&D Systems, Inc. | 27,457 | 32.0 | 17,242 | 25.4 |
Abcam plc | 14,426 | 16.8 | 12,707 | 18.7 |
Pierce Biotechnology, Inc. | 14,021 | 16.3 | 12,057 | 17.7 |
2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当社の財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載しております。また、財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りを行うにあたり、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りと異なる結果をもたらす場合があります。
特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。
(固定資産の減損処理)
当社は、固定資産のうち営業活動から生ずる損益が継続してマイナスになっている資産について、回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。
(繰延税金資産)
繰延税金資産の回収可能性の判断については、将来の課税所得を合理的に見積り、将来の税金負担を軽減する効果を有すると考えられる範囲内で繰延税金資産を計上することになります。当社は、税務上の欠損金が継続しており、繰延税金資産の回収可能性を合理的に見積もることは困難と判断し、繰延税金資産を計上していません。
② 財政状態の分析
財政状態の分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。
③ 経営成績の分析
(売上高)
当事業年度の売上高は、67,947千円(前事業年度85,759千円、前年同期比20.8%減)となりました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響により研究機関の研究活動が停滞したためと考えております。
(売上原価、売上総利益)
当事業年度の売上原価は、抗体研究支援における研究受託の減少及び研究用抗体・試薬販売の減少により3,847千円(前年同期比39.7%減)となりました
この結果、当事業年度の売上総利益は、64,099千円(前年同期比19.2%減)となりました。
(販売費及び一般管理費、営業損失)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、475,849千円(前年同期比46.6%減)となりました。
販売費及び一般管理費の減少の主な要因は、研究開発費を押し上げる要因であったPPMX-T003の治験薬の製造が前年度で終了したことであり、研究開発費は313,398千円(前事業年度713,651千円、前年同期比56.1%減)となりました。
この結果、営業損失は411,749千円(前事業年度は営業損失812,394千円)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当事業年度の営業外収益は、13,040千円(前年同期比3,520.8%増)となりました。主なものは、新型コロナウイルス感染症関連の助成金収入11,140千円であります。
当事業年度の営業外費用は、11,397千円(前年同期比49.0%減)となりました。主なものは、第三者割当増資に係る支払手数料4,433千円及び租税公課3,527千円であります。
この結果、経常損失は、410,107千円(前事業年度は経常損失834,362千円)となりました。
(特別利益、特別損失、当期純損失)
当事業年度の特別利益の計上はありません。
当事業年度の特別損失は、1,182千円(前年同期比78.3%減)となりました。当社の事業の特性上、現段階では、将来の収入の不確実性が高いことから、医薬品事業に係る資産の帳簿価額の回収可能額をゼロとし、帳簿価額と備忘価額との差額1,182千円を減損損失として特別損失に計上しました。
これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、413,216千円(前事業年度は当期純損失841,731千円)となりました。
(パイプライン)
PPMX-T002については、米国において、日本の厚生労働省の定める第II相試験相当が行われています。さらに、2020年4月には富士フイルム富山化学株式会社により、国内での第Ⅰ相試験も開始されました。
PPMX-T003については、国内における第Ⅰ相試験が一時的に中断されましたが、その後再開され、健常人への投与が終了し、安全性が確認できました。
パイプラインの状況については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 当社の開発品」をご参照ください。
また、真性多血症、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんの治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 当社の開発品」をご参照ください。
④ キャッシュ・フローの分析
キャッシュ・フローの分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
「2 事業等のリスク」に記載したとおり、外部環境、事業内容、組織体制等の様々なリスク要因が経営成績に重要な影響を与える可能性があると認識しております。そのため、当社は常に業界の動向を注視しつつ、優秀な人材の確保と適切な教育を実施するとともに、内部管理体制の強化と整備を進めることで、経営成績に重要な影響を与えるリスク要因に適切な対応を図ってまいります。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社の主な資金需要は、PPMX-T003の開発及び創薬研究に係る研究開発費、並びに事業運営費等であります。これらの費用は、当期は自己資金で賄い、自己資金は、すべて銀行預金とし、資金の流動性を確保しております。当事業年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、422,836千円の支出、投資活動によるキャッシュ・フローは、2,824千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローは、1,011,040千円の収入となり、現金及び現金同等物の期末残高は、1,069,300千円となりました。
⑦ 経営者の問題意識と課題について
当社は、「最先端の抗体技術で世界の医療に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念実現のために、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載の課題に対して取り組んでまいります。
⑧ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 目標とする経営指標」に記載のとおり、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった数値的な目標となる経営指標は用いておりませんが、経営指標として、将来の売上に繋がるパイプラインの開発の進捗、パイプラインの拡充及び売上高を重要な目標と考え、事業活動を推進しております。なお、パイプラインの開発の進捗については、「③ 経営成績の分析」に記載しております。