(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における世界経済は緩やかな回復を示したものの、中国経済の先行き懸念、ウクライナや中東の情勢等から、不透明な状況が継続しました。国内経済は、一部に足踏みが残るものの緩やかに回復しましたが、物価上昇や米国の今後の政策動向、中東地域をめぐる情勢等の影響に注意が必要な状況が続きました。
当社が属する医薬品業界におきましては、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が継続的な重要課題になっております。当社におきましては、創薬領域を中心に、積極的な事業展開を図りました。
各領域における成果は次のとおりです。
a.創薬
当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、主にがん領域で抗体開発を進めております。カドヘリン3(CDH3)を標的とするPPMX-T002及びPPMX-T004、トランスフェリン受容体1(TfR1)を標的とするPPMX-T003という3つの抗体の開発を進めているほか、これらに続く候補抗体の評価・検討を進めております。
当事業年度には、PPMX-T002及びPPMX-T003の導出を目指しておりましたが、達成できませんでした。できる限り早期の導出に向けて活動を継続いたします。
次世代の創薬につきましては、効率的な抗体取得技術の整備を進めており、当事業年度には当社ファージライブラリを改良したPPMX抗体ライブラリ2の作製に成功いたしました。これを用いて当社のデータベースを整備し、当社が独自に開発を進めているAI創薬により、取得が難しい高難度抗原に対する抗体取得を進めてまいります。
当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。
(a)PPMX-T002
PPMX-T002は、がん細胞で多数発現しているCDH3を標的とする抗体に、イットリウム90(90Y)という放射性同位体(RI)を標識した抗がん剤候補です。がん細胞上の標的に抗体が集積し、90Yが放射線を照射してがん細胞を殺傷する仕組みです。導出先の富士フイルム株式会社(以下「富士フイルム社」)の事業方針の変更により、2022年3月に実施権が返還され、新たな医薬品候補として開発を進めております。富士フイルム社の子会社が米国で行った第I相試験においては、本抗体が標的のがん細胞へ集積することが確認されております。当社は、抗腫瘍効果をさらに高める目的でRIを90Yからアクチニウム225(225Ac)へ変更し、動物実験で効果を検証しました。これをもとに放射性医薬品開発会社を中心に導出を目指しております。
(b)PPMX-T003
PPMX-T003は、当社のファージライブラリの中から、ICOS法という独自のスクリーニング技術を活用して取得したユニークな完全ヒト抗体です。標的は、細胞内への鉄の取り込みに関与し、増殖が盛んながん細胞に極めて多く発現するTfR1です。本抗体がTfR1に結合すると、がん細胞内では鉄の取り込みが阻害され、それによってがん細胞は増殖が抑制され抗腫瘍効果が得られます。PPMX-T003は、その増殖抑制効果から様々ながんに対する治療効果が期待できると考えられ、鋭意研究開発を進めております。
TfR1は、がん細胞のほかに、赤芽球細胞(赤血球になる前の細胞)にも極めて多く発現しています。このため、まずは赤血球が異常に増える疾患である真性多血症(PV)を対象疾患と定めて第I相試験を国内で実施し、2024年6月に終了しました。
なお、この第I相試験の結果につきましては、2024年12月に行われた第66回全米血液学会(ASH)年次総会で、被験者都合により中止となった1例を除く5例において12週間の瀉血不要期間が達成されたことや、全6例においてヘマトクリット、ヘモグロビン等の赤血球パラメータで薬効が示唆されたことを報告しました。
本抗体はまた、アグレッシブNK細胞白血病(ANKL)という超希少疾患に対する有効な治療薬となる可能性も見出されており、2022年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」(以下「本事業」)に採択され、3ヵ年の支援を受けてきました。本事業を受けて開始された医師主導第I/Ⅱ相試験(以下「本治験」)は、当事業年度内に終了する計画でしたが、超希少疾患のため予定どおりに被験者登録が進まず、治験調整医師の判断により、治験期間が1年延長されました。
なお、本治験は2025年2月に再び本事業に採択されております。今後の被験者登録を加速するため、本報告書提出日現在、治験実施施設を7か所から9か所に増やしております。
このほか、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学等と共同で創薬研究を推進しております。
当社は、PPMX-T003の価値最大化に向けて研究開発を進めると共に、早期の導出に向けて活動を継続いたします。
(c)PPMX-T004
PPMX-T004は、CDH3を標的とする抗体に薬物を結合した抗体薬物複合体(ADC)です。ADCは、抗体に結合した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象のがん細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。
当社はPPMX-T004の抗体に結合させる最新の薬物及びリンカー等の最適な組み合わせを見出し、マウスによる実験でも高い抗腫瘍効果を認めました。これを受けて、現在は予備毒性試験を進めております。薬効と毒性のバランスの最適化は2026年3月期以降となる見込みです。
なお、当社は2024年10月にUBE株式会社とADCに関する共同研究契約を締結し、PPMX-T004のみならず、様々ながん抗原に対するADCの探索研究を進めております。
b.抗体研究支援
抗体研究支援の売上高は、規模の大きい案件の受注や案件数の増加、また、創薬企業ならではの知見を活かしたサービスの提供等により、24,351千円(前事業年度比17.4%増)となり、5期連続で増加しました。なお、新たな抗体研究支援サービスとして、VHH抗体ライブラリを用いた抗体スクリーニング・作製サービスの提供を、2025年5月に開始しております。
c.抗体・試薬販売
抗体・試薬販売の売上高は96,024千円(前事業年度比20.5%増)となり、順調に進捗しました。2024年11月には、ADCの研究開発に活用するための抗MMAE抗体を発売しました。さらに、別のADC研究開発用抗体として抗Exatecan抗体を、疾患研究用抗体として抗GPR87抗体を、それぞれ2025年4月に発売しております。
また、湧永製薬株式会社と共同で開発しているPTX3迅速計測キットについては、2024年12月末時点で、心血管疾患の一種(非公開)を対象とした体外診断用医薬品としての臨床性能試験が完了し、現在製造販売承認へ向けた準備を進めております。PTX3は、血管炎だけでなく、種々の炎症によっても血中濃度が上がることが知られており、今後多様な炎症性疾患の予後を予測する体外診断用医薬品としての研究開発を進めてまいります。
以上の結果、当事業年度の売上高は120,375千円(前事業年度比19.9%増)となりました。損益につきましては、主にPPMX-T004の開発が計画より遅れていることにより、研究開発費が594,547千円となり、計画よりも減少した結果、営業損失は826,430千円(前事業年度は営業損失894,729千円)となり、損失額が前事業年度に比べ68,299千円減少しました。経常損失は受取利息1,951千円や業務受託料等1,776千円による営業外収益3,727千円の計上、並びに新株予約権の行使による株式の発行に伴う租税公課3,271千円や為替差損2,887千円、及び新株発行費用等966千円による営業外費用7,126千円の計上により、829,829千円(前事業年度は経常損失879,380千円)となり、損失額は前事業年度に比べ49,551千円減少しました。また、当社が保有する固定資産につきまして「固定資産の減損に係る会計基準」に基づく減損損失として72,510千円を特別損失に計上したこと等により、当期純損失は904,800千円(前事業年度は当期純損失1,104,460千円)と前事業年度に比べ199,660千円減少しました。
なお、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
財政状態については、次のとおりであります。
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ125,027千円増加し、1,818,837千円となりました。主に、新株予約権の行使による株式の発行等により現金及び預金が126,501千円増加したことによるものであります。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ90,965千円増加し、386,431千円となりました。主に、AMEDの「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」への採択により交付された助成金である長期預り金が95,077千円増加したことによるものであります。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ34,061千円増加し、1,432,406千円となりました。主に、新株予約権の行使による株式の発行等により資本金と資本準備金がそれぞれ466,889千円増加した一方、当期純損失904,800千円の計上により利益剰余金が減少したことによるものであります。
経営成績については、次のとおりであります。
(売上高)
当事業年度の売上高は、120,375千円(前事業年度100,402千円、前事業年度比19.9%増)で、抗体研究支援、抗体試薬販売の売上はそれぞれ前事業年度比17.4%、20.5%増となりました。
(売上原価、売上総利益)
当事業年度の売上原価は、16,324千円(前事業年度12,717千円、前事業年度比28.4%増)となりました。
この結果、当事業年度の売上総利益は、104,051千円(前事業年度87,685千円、前事業年度比18.7%増)となりました。
(販売費及び一般管理費、営業損失)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、930,481千円(前事業年度982,415千円、前事業年度比5.3%減)となりました。
うち研究開発費は594,547千円(前事業年度616,004千円、前事業年度比3.5%減)となりました。
この結果、営業損失は826,430千円(前事業年度は営業損失894,729千円)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当事業年度の営業外収益は、3,727千円(前事業年度は21,111千円、前事業年度比82.3%減)となりました。主なものは、受取利息1,951千円や業務受託料等1,776千円であります。
当事業年度の営業外費用は、7,126千円(前事業年度は5,762千円、前事業年度比23.7%増)となりました。主なものは、新株予約権の行使による株式の発行に伴う租税公課3,271千円や為替差損2,887千円であります。
この結果、経常損失は、829,829千円(前事業年度は経常損失879,380千円)となりました。
(特別利益、特別損失、当期純損失)
当事業年度の特別損失は、72,510千円(前事業年度は223,290千円、前事業年度比67.5%減)となりました。当社の事業の特性上、現段階では、将来の収入の不確実性が高いことから、医薬品事業に係る資産の回収可能額をゼロとし、帳簿価額と備忘価額との差額72,510千円を特別損失に計上しました。
これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、904,800千円(前事業年度は当期純損失1,104,460千円)となりました。
(パイプライン)
パイプラインの状況については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の開発品」をご参照ください。
② キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ126,501千円増加し、1,667,921千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、719,485千円の支出となりました。主に、AMEDからの助成金である長期預り金等によるキャッシュ・フローの増加があった一方、税引前当期純損失902,340千円の計上等による減少があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、75,157千円の支出となりました。研究開発用の有形固定資産の取得による支出75,157千円による減少があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、923,381千円の収入となりました。主に新株予約権の行使による株式の発行による収入932,269千円等によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
b.受注実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
c.販売実績
当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。
セグメントの名称 | 金額(千円) | 前事業年度比(%) |
医薬品事業 | 120,375 | 119.9 |
合計 | 120,375 | 119.9 |
相手先 | 前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) | 当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) | ||
金額(千円) | 割合(%) | 金額(千円) | 割合(%) | |
R&D Systems, Inc. | 27,812 | 27.7 | 40,324 | 33.5 |
Pierce Biotechnology, Inc. | 27,433 | 27.3 | 28,490 | 23.7 |
フナコシ株式会社(※) | 15,703 | 15.6 | - | - |
Abcam plc(※) | 10,403 | 10.4 | - | - |