(1)経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度における世界経済は、長引くインフレやロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東情勢の緊迫化等により、先行きが不透明な状況が継続しました。国内経済は緩やかな回復が続く中、世界的な金融引締めの影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが景気の下押しリスクとなりました。
当社が属する医薬品業界におきましては、がんや認知症等、世界的に患者数が増えている疾患の治療法の確立が継続的な重要課題になっております。当社におきましては、創薬領域を中心に、積極的な事業展開を図りました。
各領域における成果は次のとおりです。
a.創薬
当事業年度における創薬事業の売上はありませんでしたが、当社の効率的な抗体取得プラットフォームを活用し、主にがん領域で抗体開発を進めております。カドヘリン3(CDH3)及びトランスフェリン受容体(TfR)を標的とする3つの抗体の開発を進めているほか、これに続く多くの候補抗体が研究開発段階にあります。当社のパイプラインの開発状況は次のとおりです。
(a)PPMX-T002
PPMX-T002は、がん細胞で多数発現しているCDH3を標的とする抗体に、イットリウム90(90Y)という放射性同位元素(RI)を標識した抗がん剤候補です。がん細胞上の標的に抗体が集積し、90Yが放射線を照射してがん細胞を殺傷する仕組みです。導出先の富士フイルム株式会社(以下「富士フイルム社」)の事業方針の変更により、2022年3月に実施権が返還されており、新たな医薬品候補として開発を進めております。なお、富士フイルム社の子会社が米国で行った拡大第I相試験においては、本抗体が標的のがん細胞へ集積することが確認されております。当社は現在、RI医薬品開発会社への導出に向けて、90Yから、最も高い有効性が期待されるアクチニウム225(225Ac)を中心に変更を検討し、導出先候補と開発戦略を詰めております。
(b)PPMX-T003
PPMX-T003は、当社独自のファージライブラリの中から、当社が特許を保有するICOS法というスクリーニング技術を活用して取得したユニークな完全ヒト抗体です。標的は、細胞内への鉄の取り込みに関与し、増殖が盛んながん細胞に極めて多く発現するTfR1です。本抗体がTfR1に結合すると、がん細胞内への鉄の取り込みを阻害し、それによってがん細胞の増殖を抑制する抗腫瘍効果が得られます。PPMX-T003は、その増殖抑制効果から様々ながんに対する治療効果が期待できると考えられ、鋭意研究開発を進めております。
TfR1は、がん細胞のほかに、赤芽球細胞(赤血球になる前の細胞)にも極めて多く発現しています。このため、赤血球が異常に増える疾患である真性多血症(PV)において、赤血球数を正常化する効果が期待できることから、まずはPVの治療薬を目指して、国内で第I相試験(以下「本治験」)を実施しており、本資料提出日現在、6名中5名の患者さんでの試験が終了しております。本治験の終了予定時期は、2024年3月から2024年6月に変更いたしましたが、2024年5月10日にお知らせしたとおり、最後の患者さんについて、患者さん固有の背景を考慮した医師の総合的な判断によって高用量での投与が行われたことにより、2024年7月末を見込むこととなりました。
なお、2023年5月の第118回近畿血液学地方会において本治験の中間報告が行われ、3名の治験者でのPPMX-T003の安全性及び薬理効果が報告されました。2023年12月には治験責任医師による第65回全米血液学会(ASH)年次総会での発表も行われております。
一方、本抗体はアグレッシブNK細胞白血病(ANKL)という超希少疾患に対する有効な治療薬となる可能性も見出されております。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」への採択を受けて実施されている医師主導第I/Ⅱ相試験では、2023年9月に2名の患者さんに投与が行われました。広島大学病院を中心に、治験実施施設を全国7か所に設けて、被験者が見つかった際にはすぐに治験に参加いただき、治験薬を投与できる体制を整えております。また、血液内科医だけでなく、全国の一般内科や消化器内科の医師に対しても協力を呼び掛けて、被験者の方の登録が進むよう対策を講じております。
このほか、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんに対する治療薬としての作用機序を明確化するため、名古屋大学等と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。
(c)PPMX-T004
PPMX-T004は、CDH3を標的とし、薬剤を結合した抗体薬物複合体(ADC)です。最新の薬物と、これを結合させるためのリンカー等の最適な組み合わせを検討しており、試験管での試験で見出した有望な組み合わせについて、マウスによる実験でも高い抗腫瘍効果を認めました。これを受けて、現在はサルによる予備毒性試験を進めております。
ADCは、抗体に結合した薬物を細胞内に取り込ませることで、対象の細胞を特異的に殺傷することができるため、患者さん自身の免疫機能の状態に関わらず高い臨床効果が期待できます。
b.抗体研究支援
抗体研究支援の売上高は、従来よりも規模の大きい案件の受注や案件数の増加、また、創薬企業ならではの知見を活かしたサービスの提供等により、20,735千円(前事業年度比72.2%増)と大幅に改善しました。
c.抗体・試薬販売
抗体・試薬販売の売上高は79,667千円(前事業年度比3.0%減)となり、ほぼ計画どおりに進捗しました。2023年10月には新製品も発表しており、今後もラインナップの拡充を図ってまいります。また、湧永製薬株式会社と共同で血中のPTX3濃度を簡易に測定し、血管障害や心疾患など炎症に関する疾患の重篤化を予測するためのPTX3迅速計測キットの開発も継続的に進めております。
以上の結果、当事業年度の売上高は100,402千円(前事業年度比6.6%増)となり、計画を達成しました。
損益につきましては、PPMX-T003の第I相試験が遅延したことやPPMX-T004の非臨床試験の費用を削減したことにより、研究開発費が616,004千円となり、計画よりも減少した結果、営業損失は894,729千円(前事業年度は営業損失697,769千円)となり、当初計画より損失額が減少しました。経常損失は為替差益等による営業外収益21,111千円の計上並びに新株予約権発行費等による営業外費用5,762千円の計上により、879,380千円(前事業年度は経常損失689,604千円)となり、当初計画より損失額が減少しました。また、当社が保有する固定資産につきまして「固定資産の減損に係る会計基準」に基づく減損損失として153,887千円を、本社移転に関する費用として69,403千円を、それぞれ特別損失に計上した結果、当期純損失は1,104,460千円(前事業年度は当期純損失786,999千円)となり、当初計画より損失額は減少しました。
また、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
財政状態については、次のとおりであります。
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べ872,840千円減少し、1,693,810千円となりました。主に、研究開発費及び本社移転関連費用の支払い等により現金及び預金903,514千円が減少したことによるものであります。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べ125,360千円増加し、295,465千円となりました。主に、未払費用が28,852千円、AMEDの「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」への採択により交付された助成金である長期預り金が107,500千円それぞれ増加した一方、資産除去債務が12,800千円減少したことによるものであります。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べ998,200千円減少し、1,398,344千円となりました。主に、資本金と資本準備金がそれぞれ31,766千円増加した一方、当期純損失1,104,460千円の計上により利益剰余金が減少したことによるものであります。
② キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物は、前事業年度末に比べ903,514千円減少し、1,541,419千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、833,898千円の支出となりました。主に、AMEDからの助成金である長期預り金等によるキャッシュ・フローの増加があった一方、税引前当期純損失1,102,533千円の計上等による減少があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、150,343千円の支出となりました。主に、新本社設備及び研究開発用の有形固定資産の取得による支出142,998千円等による減少があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、63,943千円の収入となりました。主に新株予約権の行使による株式の発行による収入によるものであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
b.受注実績
当社で行う事業は、提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
c.販売実績
当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。当事業年度における販売実績は次のとおりであります。
セグメントの名称 | 金額(千円) | 前年同期比(%) |
医薬品事業 | 100,402 | 106.6 |
合計 | 100,402 | 106.6 |
相手先 | 前事業年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) | 当事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) | ||
金額(千円) | 割合(%) | 金額(千円) | 割合(%) | |
R&D Systems, Inc. | 27,033 | 28.7 | 27,812 | 27.7 |
Pierce Biotechnology, Inc. | 23,894 | 25.4 | 27,433 | 27.3 |
フナコシ株式会社(※) | - | - | 15,703 | 15.6 |
Abcam plc | 14,316 | 15.2 | 10,403 | 10.4 |