有価証券報告書-第84期(平成27年4月1日-平成28年3月31日)

【提出】
2016/06/21 14:56
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116項目

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 重要な会計方針および見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。
連結財務諸表の作成に際し、決算日における資産・負債の数値ならびに報告期間における収益・費用の数値に影響を与える見積りを行っております。当社は、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積りおよび判断を行っておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループは、特に以下の重要な会計方針が、当社の連結財務諸表の作成において使用される見積りに大きな影響を及ぼすと考えております。
①貸倒引当金
当社グループは、顧客の支払い不能時に発生する損失の見積額について、貸倒引当金を計上しております。顧客の財務状態が悪化し、その支払い能力が低下した場合、追加引当が必要となる可能性があります。
②繰延税金資産
当社グループは、繰延税金資産について、将来の課税所得および、実現可能性の高い継続的な税務計画を検討しますが、繰延税金資産の全部または一部を将来実現できないと判断した場合、当該判断を行った期間に繰延税金資産の調整額を費用として計上します。同様に、計上金額の純額を上回る繰延税金資産を今後実現できると判断した場合、繰延税金資産への調整により当該判断を行った期間に利益を増加させることになります。
③退職給付費用
退職給付費用および債務は、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の報奨水準、退職率、死亡率および年金資産の収益率などが含まれます。実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、その影響は累積され、将来にわたって規則的に認識されるため、一般的には将来期間において認識される費用に影響を及ぼします。未認識数理計算上の差異の償却は、退職給付費用の一部を構成しておりますが、前提条件の変化による影響や前提条件と実際との結果の違いの影響を規則的に費用認識したものであります。
(2) 当連結会計年度の経営成績の分析
①概要
当連結会計年度のわが国経済は、中国やアジア新興国をはじめとした海外景気の下振れ懸念等により、一部に弱さが見られるなど楽観視できない状況ではありましたが、政府の経済対策や金融政策等を背景に、企業収益、雇用情勢に改善が見られるなど、緩やかな回復傾向にありました。
このような経済環境下、当社の事業領域であるICT(※1)市場におきましては、分野ごとに強弱が見られました。
まず企業におきましては、経営者の投資効果に対する意識の厳しさは継続していますが、景気回復を受けてICT投資が回復しており、特に働き方改革などの企業の経営強化・競争力強化を目指した投資が堅調に推移いたしました。通信事業者におきましては、ネットワークインフラへの設備投資が大きく抑制されるなど、厳しさが拡大いたしました。官庁・自治体、公益関連では、安心・安全をテーマとしたICT関連の公共投資などが堅調に推移いたしました。消防救急無線システムのデジタル化投資は、平成28年5月のアナログからの移行期限に向け、発注面では大きくピークアウト、構築面では高水準を維持いたしましたが、徐々にピークアウトが顕在化してきました。一方、海外においては、アジア圏を中心として移動体通信をはじめとするインフラ構築の需要が顕在化しております。
こうした市場環境のなか、当社グループでは、営業力の強化や、「EmpoweredOffice(※2)」の事業体制を強化し、拡販を進めたほか、消防救急無線システムのデジタル化対応など活況なプロジェクトへの着実な対応を行ってまいりました。また、平成27年4月には、昨今需要が拡大している多言語サービスに関する専門会社であるランゲージワン株式会社を設立、平成27年10月には、今後成長が期待されるIoT(※3)分野を主なターゲットとしたMVNO(※4)サービスを立ち上げ、さらに平成28年2月には、ニーズが高まっているサイバーセキュリティ事業の強化を目的にセキュリティ監視センターの機能拡大を図るなど、サービス事業拡大に向けた事業基盤の強化や新サービスの拡充などを行いました。加えて、海外においても、平成27年4月に、今後のインフラ投資拡大が期待されるミャンマーに海外子会社であるNESIC(Thailand)Ltd.の支店を開設し、本格的な活動を開始いたしました。
②売上高
売上高は2,799億61百万円(前期比4.2%減少)となりました。
企業ネットワーク事業の売上高は、お客様のICT投資の回復や経営改革のニーズ、さらにはPBX(※5)の更改需要に積極的に対応し、オフィス改革ソリューション「EmpoweredOffice」を軸にさらなる拡販を行い、1,095億84百万円(前期比6.6%増加)となりました。
キャリアネットワーク事業の売上高は、通信事業者の設備投資抑制の影響により、693億6百万円(前期比19.6%減少)となりました。
社会インフラ事業の売上高は、消防救急無線システムのデジタル化対応が、平成28年5月のアナログからの移行期限に向け、減少となりましたが、安心・安全をテーマとしたICT関連の公共投資や衛星通信地上局整備投資などに積極的に対応するとともに、海外事業が拡大し、962億60百万円(前期比0.5%減少)となりました。
③売上総利益
売上総利益は、収益が悪化したことにより451億62百万円(前期比6.1%減少)となり、売上総利益率は16.1%となりました。
④販売費及び一般管理費、営業利益
販売費及び一般管理費は、前期比9億円減少の310億51百万円となりました。
この結果、売上高の減少などにより、営業利益は141億11百万円(前期比12.7%減少)となりました。
⑤営業外損益、経常利益
営業外損益は、前期比9百万円悪化の21百万円の益(純額)となりました。
この結果、経常利益は141億33百万円(前期比12.7%減少)となりました。
⑥親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比23.0%減少し、金額にして17億95百万円減少の59億96百万円となりました。
※1 ICT:
Information and Communication Technology (情報通信技術)の略。
※2 EmpoweredOffice(エンパワードオフィス):
当社の提供するオフィス改革ソリューション。当社の強みであるICTとファシリティ施工力を融合し、より知的で創造的なワークスタイルへの業務プロセス改革を実現するとともに、セキュリティ強化や環境対応力といった社会的責任に応える「働き方」と「働く場」の改革を提案するもの。
※3 IoT:
Internet of Thingsの略。
コンピュータ、ルーターなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な個体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットなどのネットワークに接続、通信することで、自動認識や自動制御、遠隔計測などを実現する概念のこと。
※4 MVNO:
Mobile Virtual Network Operatorの略。
仮想移動体通信事業者のこと。
※5 PBX:
Private Branch eXchangeの略。
外線からの発着信の制御や内線同士の通話機能などを持つ構内交換機のこと。
(3) 戦略的現状と見通し
平成29年3月期のわが国経済は、海外景気の下振れ懸念など、不透明な要素がありますが、企業業績、雇用情勢の改善などを背景に景況感の改善が継続するものと期待されます。
当社の事業領域であるICT分野におきましても、企業の投資意欲の拡大や、政府による公共投資の継続など堅調な環境が期待される分野がある一方、通信事業者におけるネットワークインフラへの設備投資抑制は継続されるなど厳しい状況が続くものと見込んでおります。
当社では、堅調な事業環境を背景に企業・公共分野において成長の継続を図っておりますが、次期におきましては、過去数年にわたって活況であった消防救急無線システムのデジタル化対応プロジェクトの終了や通信事業者における設備投資抑制の影響などにより、売上高は、当期比3.6%減少の2,700億円を見込まざるを得ない状況です。
企業ネットワーク事業におきましては、お客様のICT投資意欲の拡大を捉え、積極的な事業拡大を図ります。特に、オフィス改革ソリューション「EmpoweredOffice」事業について、引き続き各地の一般企業、官庁自治体への拡販を行うとともに、当期(平成28年3月期)に強化したセキュリティ監視センターを核にサイバーセキュリティ事業の拡大を図ります。
キャリアネットワーク事業におきましては、通信事業者の設備投資抑制が継続されるなど厳しい状況が続きますが、通信事業者向けのアセットを活かし、企業・公共分野ならびに今後成長が期待されるIoT分野などへの取組みを強化し、新たな付加価値サービスの創造、提案など、積極的な対応を図ってまいります。
社会インフラ事業は、過去数年にわたり活況であった消防救急無線システムのデジタル化対応プロジェクトが終了しますが、安心・安全分野を中心とした公共投資は堅調に推移すると見込まれ、積極的に取り込んでまいります。
収益面では、キャリアネットワーク分野におけるコスト削減施策効果の顕在化を図ってまいりますが、消防救急無線システムのデジタル化対応プロジェクトの終了などによる売上高減少により営業利益、経常利益それぞれ135億円と減少を見込んでいます。一方、親会社株主に帰属する当期純利益については、当期にあった繰延税金資産の取崩しなどによる影響がなくなることから、80億円と増加を見込んでいます。
(4) 資本の財源および資金の流動性についての分析
①資産
当期末の総資産は、前期末に比べ53億95百万円減少し、1,965億69百万円となりました。流動資産は、前期末に比べ34億23百万円減少し、1,676億38百万円となりました。この主な要因は、受取手形及び売掛金が90億80百万円、たな卸資産が9億44百万円減少し、現金及び預金が49億38百万円増加したことなどによるものであります。固定資産は、前期末に比べ19億71百万円減少し、289億31百万円となりました。
②負債
当期末の負債は、前期末に比べ56億19百万円減少し、1,021億71百万円となりました。この主な要因は、支払手形及び買掛金が94億72百万円、1年内返済予定の長期借入金が30億4百万円、未払消費税が11億79百万円、未払法人税等が4億74百万円減少し、退職給付に係る負債が31億28百万円、長期借入金が28億36百万円、短期借入金が25億21百万円、前受金が5億46百万円増加したことなどによるものであります。
③純資産
当期末の純資産は、前期末に比べ2億24百万円増加し、943億97百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金が26億65百万円増加し、退職給付に係る調整累計額が20億90百万円、為替換算調整勘定が3億78百万円減少したことなどによるものであります。
④キャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、売上債権の減少、たな卸資産の減少、仕入債務の減少、法人税等の支払による減少などにより、94億35百万円の資金の増加となりました。前期比69億75百万円の増加となっております。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産および無形固定資産の取得による支出などにより28億22百万円の資金の減少となりました。前期比11億6百万円の増加となっております。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合算したフリー・キャッシュ・フローは、66億13百万円の資金の増加となりました。前期比80億82百万円の増加となっております。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入による収入、1年内返済予定の長期借入金の返済、長期借入による収入、配当金の支払などにより、14億2百万円の資金の減少となりました。前期比27億25百万円の増加となっております。なお、利益配当金につきましては、前期末の1株当たり配当金を32円、中間の1株当たり配当金を35円にしたことにより、前期比2億48百万円増加し、33億26百万円の支払を行っております。
これらの活動の結果により、現金及び現金同等物の期末残高は、前期末に比べ49億38百万円増加し、438億89百万円となりました。
⑤資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループの事業展開のための材料および機器の購入のほか、外注費、販売費及び一般管理費等の経費によるものであります。販売費及び一般管理費の主なものは、人件費および当社グループの事業所の不動産賃借料等であります。
(5) 経営者の問題意識と今後の方針について
国内ICT関連市場については、今後、企業や社会・公共分野において、一層の利便性や効率化追求を目指したICT基盤整備やネットワーク高度化への投資が拡大することが期待されます。加えて、顧客ニーズの変化やICTサービスの利便性・信頼性向上に伴い、サービス領域へと投資がシフトしていくことが見込まれます。また、海外においては、ASEANを中心に、通信ネットワークの高度化・高速化や、道路・鉄道・空港等の社会資本整備への投資が高水準で拡大することが見込まれます。
このようななか、当社では、「サービス/インフラ/グローバル事業の強化・深耕」を中期的な事業成長に向けた基本戦略として、さらなる進化・拡大を目指してまいります。
サービス事業においては、サービス型事業の拡大に注力するとともに、IoT/M2Mやサイバーセキュリティなど今後の市場成長が期待される分野での新たな事業・サービス開発の推進や、リソースの育成・拡充など、成長戦略の実行および投資を積極的に展開していく方針であります。また、インフラ事業では、東京オリンピック・パラリンピックや地方創生、国土強靭化などを契機とした需要拡大が見込まれる事業分野を中心とした事業拡大・対応力強化を図ってまいります。さらに、ASEANでの通信インフラ・社会インフラ事業などのアウトバウンド市場への対応に加え、海外からの訪日観光客の急増により活性化する国内関連市場(インバウンド市場)での事業拡大を含む、グローバル事業にも注力してまいります。
このように、成長戦略の実行と成長投資を積極的に展開し、平成31年3月期を最終年度とする中期経営目標として、売上高3,000億円以上、営業利益165億円以上(営業利益率5.5%以上)の過去最高業績を目指しております。また、資本効率の向上の面から、ROE(自己資本利益率)について10%以上の達成を目指しております。