有価証券報告書-第139期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

【提出】
2017/06/27 16:04
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67項目

対処すべき課題

Ⅰ.私たちの目指すもの
味の素グループは、地球的な視野に立ち、“食”と“健康”そして、明日のよりよい生活に貢献し、先端バイオ・ファインの技術が先導する、確かなグローバル・スペシャリティ食品企業グループを目指します。
Ⅱ.「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」に向けて
1.ASV(Ajinomoto Group Shared Value)の進化による持続的成長
味の素グループは、うま味を通じて粗食をおいしくし、国民の栄養を改善するという創業の志を受け継ぎ、創業以来一貫した、事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組みにより成長してきました。この取り組みをASV(Ajinomoto Group Shared Value)と称し、これからも事業を通じて「21世紀の人類社会の課題」である「地球持続性」、「食資源」、「健康な生活」に積極的に貢献することで、ASV進化による持続的な成長を目指します。
2.現状の課題 -グローバル食品企業トップ10クラス入りのために
現在の味の素グループは、グローバル食品企業トップ10クラスの企業と比較すると、財務指標、すなわち、事業の規模、利益を創出する効率性に課題があります。また、「環境」、「社会」、「ガバナンス」(いわゆるE・S・G)に関するポリシーや非財務目標をより明確にすべきであると考えています。これらに対し、我々の強みである独自のコア技術、すなわち、アミノ酸を起点とした独自の先端バイオ・ファイン技術や「おいしさ」を解析し自在に設計する「おいしさ設計技術」と徹底した現地・顧客適合で具体的な解決に取り組み、2020年のグローバル食品企業トップ10クラス入りを実現する所存です。
3.2014-2016中期経営計画の振り返り(成果と課題)
この3年間、「FIT&GROW with Specialty」を合言葉に、事業構造の強化(FIT)、成長ドライバーの展開(GROW)を進めてまいりました。2016年度は、中期経営計画のグループ全体での利益目標、ROE目標ともに未達となりましたが、株主還元は中期経営計画の目標以上を実行し、3か年の総還元性向、配当性向ともに中期計画値を達成いたしました。
2016年度の利益目標未達は、医薬事業の構造強化のため味の素製薬株式会社についてエーザイ株式会社との合弁事業化を実行したこと、グローバル競争激化に伴う動物栄養事業の大幅な減益が主たる要因です。一方、成長ドライバーである日本食品、海外食品、アミノサイエンスのスペシャリティ事業を合わせると2013年度から毎年100億円近い着実な利益成長を実現し、2016年度はこれらの事業すべてで目標を上回りました。
<主な戦略遂行状況>① 事業構造の強化(FIT)
・EAファーマ株式会社設立による医薬事業の構造改革が進展。
・動物栄養事業は、スペシャリティ事業は成長したがコモディティ事業再構築に課題を残す。
② 成長ドライバーの展開(GROW)
<食品事業>・主要市場タイの成長が減速し、「Five Stars」(注1)の成長に課題。
・積極的なM&A戦略の実行。
北米・味の素ウィンザー社発足。味の素ゼネラルフーヅ株式会社の全株式取得。
トルコ・オルゲン社買収。アフリカ・プロマシドール・ホールディングス社との提携など。
(注1)タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ブラジル
<アミノサイエンス事業>・先端バイオ医薬周辺領域(培地事業、中・高分子医薬開発製造受託事業)への積極投資。
北米・味の素アルテア社発足。韓国・味の素ジェネクシン社設立。株式会社ジーンデザイン買収など。
また、経営基盤では、グローバルにグループ経営におけるガバナンスを強化するために、2016年度から共通ルールである「グローバル・ガバナンス・ポリシー」による統治と執行に移行。グローバル・コーポレート部門の組織改編、グローバル人財マネジメントシステムの導入と合わせた三位一体の改革を進めてきましたが、グローバルトップクラス企業としての人財の多様化はまだ途上にあります。
Ⅲ.目標とする経営指標
2017-2019(for 2020)中期経営計画において、味の素グループが創造する経済価値、社会価値を財務指標、非財務指標として設定。新たに統合目標としてコーポレートブランド価値を指標として設定し味の素グループが目指すところを明確にした経営を行っていきます。
1.財務目標(経済価値)
<2019年度目標(連結ベース)>・事業利益(注2):1,240億円
(注2)IFRS導入に際し、経営管理のため当社が独自に定義した利益指標
事業利益=売上高 – 売上原価 - 販売費・研究開発費及び一般管理費 + 持分法による損益
・事業利益率:9.4%
・ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率):9.8%
・ROA(資産合計事業利益率):8.8%
・EPS(基本的1株当たり当期利益)成長率:年二桁成長
・海外(コンシューマー食品)売上成長率:年二桁成長
<参考/2017年度業績予想(連結ベース)>・事業利益:1,020億円
・事業利益率:8.6%
・ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率):8.9%
・ROA(資産合計事業利益率):7.4%
2.非財務目標(社会価値)
事業を通じた「地球持続性」、「食資源」、「健康な生活」への貢献を目指し、「環境」、「社会」、「ガバナンス」(E・S・G)の項目に沿って定量的な目標を定めています。
例えば、「社会」(Social)では、「味の素グループ調味料による肉・野菜の摂取量」を目標として定めています(注3)。
(注3)日本と主要国(味の素グループが展開する主要国。「Five Stars」)における代表製品の提供を通じて人が摂取する肉と野菜の量。(肉:年860万トン(9.7kg/人/年)、野菜:年550万トン(6.2kg/人/年))
これは、日々の食事においてうま味(味の素グループ製品)を通じて、たんぱく質(肉など)・野菜をおいしく摂取し、栄養バランスを改善するという「社会価値」の創造と味の素グループ製品の売上拡大による「経済価値」の創造を関連づけて表現したものです。
また、「環境」(Environment)では、「調達・生産から消費までを通じた環境課題の解決」を掲げています。国連などの国際的な目標に先行することで積極的に地球環境へ貢献する「社会価値」の創造と味の素グループのコスト削減(「経済価値」の創造)を目指してまいります。
例:GHG(グリーンハウスガス(温室効果ガス)を2030年に50%削減など)
Ⅳ.会社の対処すべき課題及び中長期的な会社の経営戦略
<2017-2019(for 2020)中期経営計画の推進>味の素グループは、2017-2019(for 2020)中期経営計画においても、「FIT&GROW with Specialty」を継承し、土台となる「経営基盤の強化」にも取り組み、「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」を目指してまいります。
1.更なる事業構造改革(FIT)
① コモディティ事業からの抜本的な転換
・動物栄養事業は、コモディティ製品の生産を外部化してスペシャリティ製品向けの生産設備に転換することで事業の構造転換を加速させます。
・加工用うま味調味料事業は、当社製品の原料向け供給拡大と併せて、低資源利用発酵技術によるコスト削減を進めます。
・甘味料事業は、リテール・外食向け製品のスペシャリティ化を強化します。
・製薬カスタムサービス事業は、低分子から中分子・高分子医薬へのシフトを加速させます。
② 事業横断でのサステナブルバリューチェーンの構築
・日本では、グループ会社を含めた国内全体でのバリューチェーン再編に取り組み、事業構造を強化します。最新鋭工場への転換、他社との共同物流改革、事業横断での伸長チャネル向け提案力強化など効率化への取り組みを進めます。また、グループで共通するコーポレート機能の一体運営も強化していきます。
・グローバルでは、バリューチェーン全体における資源利用の削減を目指します。従来の原燃料削減や低資源利用発酵の継続に加え、ICT(情報通信技術)活用によるグループ横断での発酵プロセスの自動化・効率化にも取り組みます。さらには製品が消費される場面での環境負荷低減も進めていきます。
2.成長ドライバーの展開(GROW)
① 食品の地域ポートフォリオ強化を通じた確かな成長
・日本食品では、強みである「おいしさ設計技術」の進化による主要ブランド製品の継続強化と併せ、当社独自のサイエンスとデジタル・ICT活用により、お客様に提供するこころとからだの健康、共食の喜び、食文化価値の増大に取り組みます。
・海外食品では、ジョイントベンチャーなどローカルトッププレイヤーとの連携による新地域展開を加速して地域ポートフォリオ強化を進め、市場成長や為替変動に左右されにくい強固な事業基盤を確立して着実な成長を実現していきます。
② 新たな事業の柱の構築による事業ポートフォリオの拡張
・食品事業では、新たな柱として、中食・外食・加工食品向けに「おいしさ」実現へのソリューションを総合的に提案する事業(おいしさソリューション事業)をグローバルに立ち上げます。強みである呈味や食感に加えてフレーバーに関する素材や技術の強化を進め、顧客企業起点に立ったグループ横断の営業体制を構築し、スイーツ分野へも拡大していきます。その上で、「うま味調味料・風味調味料」領域におけるNo.1を目指します。
・アミノサイエンス事業では、複数のスペシャリティ事業によって構成された強い事業構造への転換を進めます。特に事業の柱の一つとして積極投資してきた先端バイオ医療周辺領域は成長を加速させてまいります。
3.経営基盤の強化
・経営全般にコーポレートガバナンスコードに適合する基盤強化を更に進め、イノベーションによる持続的成長を果たしてまいります。
・「組織」面ではグローバルな戦略的コーポレート機能の強化と、グループ会社も含めた事業をサポートするコーポレート機能の最適化を更に進めます。
・「人財」面では、分厚く多様なグローバル人財層の形成に向けて、次世代グローバル人財の育成や女性マネージャーの登用を更に推進します。
・日本における「働き方改革」は、グローバル基準の働き方に基づく時短(年間平均労働時間1,800時間(2018年度目標))を目指す過程でICTを活用した仕事の効率化や、育児、介護へのサポートを強化し、従業員の心身の健康増進を進めます。
・グローバル33,000人の従業員を対象にエンゲージメントサーベイを新たに実施し、全グループを挙げて「働きがい」向上に取り組んでまいります。