有価証券報告書-第152期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/20 16:14
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研究開発活動

帝人グループでは、「社員の多様性を活かし、社会が必要とする新たな価値を創造し続け、未来の社会を支える会社になる」という長期ビジョンを掲げ、10年後の「目指す姿」を実現するための研究開発をグローバルな視野で推進しています。研究開発活動への積極的かつ効率的な投資を継続して実施しており、国内10ケ所、海外9ケ所のグローバル研究開発ネットワークにおいて、研究開発者が基礎研究を含めたグループ全体の研究開発戦略に基づく研究開発活動を推進しています。
10年後には、マテリアル領域とヘルスケア領域を2本の柱とし、それぞれの領域で基礎収益力の更なる強化を目指す「成長戦略」と、既存事業の延長線だけでなく「今はまだ利益に貢献していない新しい事業」を収益の柱とすべく、新規コアビジネスの確立を目指す「発展戦略」を、着実に実行することにより、新たな高収益事業を核とした事業ポートフォリオへと変革を進めていきます。長期ビジョンの実現に向けた、次の3か年における実行計画を明確にするために、平成29年2月に中期経営計画2017-2019「ALWAYS EVOLVING」を定めました。この計画の実現に向け、必要な基盤技術を強化・活用するとともに、技術や機能の融合・複合によりイノベーションを実現する「発展戦略」と、既存事業の中でも“環境価値ソリューション”、“安心・安全・防災ソリューション”及び“少子高齢化・健康志向ソリューション”を重点領域として収益最大化を図る「成長戦略」の推進のため、研究開発を着実に進めていきます。
組織体に関しては、成長戦略・発展戦略の加速を促すべく、研究開発体制の再編を継続中です。当期は、素材関連事業を一つのマテリアル事業に統合し、事業間融合を図るとともに、新事業推進をマテリアルとヘルスケアに分割・吸収し、連携を強化しました。
また、産官学連携等のオープンイノベーションの推進、知財戦略や構造解析能力等、研究開発活動を支える機能・組織の見直しとインフラ機能の強化、技術系人財の育成を一層推進しています。
人財育成に関しては、複合材料・ヘルスケア関連分野を中心とした大学教授や研究者が集まるフォーラムの開催、学界・学術研究機関等の有識者による技術アドバイザリー会議の開催、国内外の最先端研究機関への若手研究員派遣等を積極的に推進しています。平成22年度ノーベル化学賞を受賞され、帝人グループの名誉フェローにご就任頂いている根岸英一米国パデュー大学特別教授には、国内研究員のコンサルテーションを継続してお願いしています。
なお、当連結会計年度の研究開発費は359億円(前期比5億円増)でした。
また、報告セグメントごとの研究開発活動の概要は次のとおりです。
マテリアル領域: ◆マテリアル事業
アラミド分野では、昨年4月から、Teijin Aramid B.V.(オランダ)を中心とした開発一体運営を開始しました。同年5月には、Teijin Aramid B.V.が、高性能タイヤ向けの商品開発や原糸サプライヤーとしての活動が認められ、サプライチェーンのサスティナビリティの評価機関であるEcoVadisが実施した調査において、最高ランクであるゴールド評価を獲得しました。また、新規防護衣料ファブリックとして、熱防護性に優れながら吸汗速乾性にも優れた「Teijinconex」 Coolnex Super Wickingを開発しました。
炭素繊維分野では、Toho Tenax Europe GmbH(ドイツ)において、炭素繊維の加工工程で発生する端材の有効活用として、リサイクル素材を使用した熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)「テナックス」Eコンパウンド rPEEK CF30を開発しました。また、東邦テナックス㈱においては、カーボンナノチューブを添加した樹脂を炭素繊維に含侵させた高弾性・高耐衝撃性プリプレグを開発し、ミズノ㈱のゴルフシャフトに採用が決定しました。航空機をはじめとする高収益・高成長分野での事業拡大を進めるため、引き続き、プリプレグ等の中間材料の開発を強化しています。
樹脂分野では、高度な分子設計技術と重合制御技術を活かした特殊PC樹脂の開発を加速し、デュアルカメラ化・顏認証センサーへの採用により成長が続くスマートフォンカメラレンズ市場や、自動運転・ミラーレス化等で成長が見込まれる車載用カメラレンズ市場に向けて顧客のニーズを先取りした複数の新規光学樹脂を開発しました。また、自動車・エレクトロニクス分野における部品の軽量化や耐熱性の向上等の顧客ニーズに幅広いソリューションを提供するため、SK Chemicals Co., Ltd.との合弁会社で生産するPPS樹脂と、帝人グループの高機能素材群を組み合わせた特殊コンパウンドを開発し本格的な展開を開始しました。更に、ASEANにおける樹脂コンパウンド製品の技術サポート・開発拠点をタイに新設することを決定し、建設を開始しました。
フィルム分野では、独自のポリマー改質技術と製膜技術を駆使することにより耐ガソリン性と成形性を両立した、植物由来のバイオポリカーボネート樹脂「PLANEXT」製のフィルムを開発しました。このフィルムは、クロムメッキに代わる意匠性の付与が可能であり、スマートエントリーシステム用のドアハンドルに採用されました。今後、特に自動車部材のマルチマテリアル化を見据えて、塗装代替フィルムの開発に取り組んでいきます。
◆繊維・製品事業
タイにおけるポリエステルを中心とした繊維の研究開発拠点として、帝人フロンティア・タイ・イノベーション研究室(タイランド)(Teijin Frontier Thai Innovation Laboratory)を本年1月に開設しました。これにより、原料の研究開発から生産・加工まで一貫での対応が可能になります。今後は、同研究室での研究開発を通じ、グローバル需要への対応力を更に強化していきます。
一方、産業資材用途には、超極細のポリエステルナノファイバー「ナノフロント」のショートカットファイバーと、高度な不織布製造技術から成る、粉塵・粉体の捕集効率に優れ、省エネルギーや長寿命化が期待できる「ナノフロント」バグフィルターを開発しました。今後の中国における排塵規制強化に対応可能な商品として販売活動を強化しています。また、関西大学と共同し、昨年開発した組紐状のウェアラブルセンサー「圧電組紐」を活用し、使用する生地や刺繍する位置によらず簡単にセンシングでき、ファッション性も表現可能な世界初のセンシング技術「圧電刺繍」の開発に成功しました。
◆複合成形材料事業ほか
複合成形材料分野では、北米で自動車向け量産部品を製造販売するContinental Structural Plastics Holdings Corporationが、シボレー「コルベット」平成28年モデルに採用された自動車外板部材用の超軽量成形部材「TCA Ultra Lite」により、自動車産業における革新的な技術に贈られる「PACEアワード」を受賞しました。また、樹脂グレージングにおいて、京都大学発の電気自動車メーカーであるGLM㈱が製造・販売するスポーツEV「トミーカイラZZ」向けにポリカーボネート樹脂製のピラーレスフロントウィンドウを開発し、世界で初めて市販車に採用されました。更に、東邦テナックス㈱及び㈱ジーエイチクラフトにおいて、外観性が高く形状が複雑な大型一体部品であるルーフカバーの製造技術を確立し、量産バスとして世界で初めて販売予定のトヨタ自動車㈱の燃料電池バスに採用されました。
また、その他の分野では、消防活動の安全性向上への取り組みの一環で、ウェアラブルデバイスを内蔵したスマート消防服を開発しました。
新事業分野では、高機能メンブレン「MIRAIM」について、半導体液体フィルター用途向けの需要が拡大していることから、松山事業所内に量産設備を新設することとしました。
当セグメントに係る研究開発費は156億円です。

ヘルスケア領域: 医薬品分野では、昨年5月に新規アルツハイマー病治療薬の候補化合物について、Merck & Co., Inc.に全世界における独占的開発・製造・販売権を供与するライセンス契約を締結しました。同年7月には、厚生労働省から、「ソマチュリン」について効能・効果への「膵・消化管神経内分泌腫瘍」の追加承認を取得しました。同年10月には、Merz Pharma GmbH & Co.KGaAが創製したA型ボツリヌス毒素製剤「Xeomin」について、医療用医薬品として期待される全ての適応症につき、日本における共同開発・独占販売権を取得しました。
新規ヘルスケア分野では、再生医療分野において、昨年7月にJCRファーマ㈱と日本国内における他家(同種)歯髄由来幹細胞を用いた急性期脳梗塞を適応症とする再生医療等製品の共同開発契約及び実施許諾契約を締結しました。
当セグメントに係る研究開発費は195億円です。

上記セグメントに属さない研究開発活動として、グループ共通の基礎研究やエンジニアリング分野に関する研究開発等を行っています。これに係る研究開発費は8億円です。