有価証券報告書-第180期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)
※当連結会計年度から、セグメントを変更しています。
また、前連結会計年度との比較数値については、前連結会計年度の数値を新たなセグメントに組み替えて表示しています。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度におけるNECグループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
① 財政状態および経営成績の状況
当連結会計年度の世界経済は、欧州等での政治リスクが低下したことや、資源価格が安定的に推移したことなどにより、緩やかに改善しました。
日本経済も、設備・雇用不足等を背景に設備投資が堅調だったことに加え、良好な雇用環境を背景に個人消費が底堅く推移したことなどにより、緩やかに改善しました。
このような事業環境のもと、NECグループでは、2016年4月に発表した「2018中期経営計画」に基づき、「収益構造の立て直し」および「成長軌道への回帰」に取り組み、社会ソリューション事業への注力を継続しました。
「収益構造の立て直し」では、エネルギー事業の構造改革を進めました。電極事業については、当社が保有するNECエナジーデバイス㈱およびオートモーティブエナジーサプライ㈱の全株式の売却により撤退することとし、小型蓄電事業については、開発および製造を終了しました。
「成長軌道への回帰」では、①国内市場におけるNECグループのAI(人工知能)技術や生体認証、セキュリティ、ネットワークサービスなどの強みを活かした事業成長、②海外向けセーフティ事業の拡大に取り組みました。
具体的には、国内では、住友電気工業㈱とAIやIoT(Internet of Things)技術を活用した自動車部品の企画・開発に関する協業を開始したほか、日本航空㈱とAIを活用した航空券の購入予測分析の実証実験や、国立研究開発法人国立がん研究センターとAIを活用したリアルタイム大腸内視鏡診断サポートシステムの技術検証を実施するなど、NECグループの技術を活かし、市場の変曲点を捉えた事業成長への取り組みを進めました。
海外では、英国のサウス・ウェールズ警察に顔認証システムを提供し、カメラに映る人物と予め監視リストに登録された容疑者や要注意人物等とのリアルタイム照合を行うことで、UEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグ決勝戦の安全な試合運営に貢献しました。また、ワシントン・ダレス国際空港をはじめとする複数の米国主要空港では、搭乗ゲートで出国者の本人確認を行いセキュリティ強化とスムーズな搭乗を実現するため、顔認証システムの実証実験が行われています。ジョージア(旧グルジア)では顔認証技術が街中監視システムに利用されるなど、NECグループの顔認証技術は、様々な場面で安全・安心な社会の実現に貢献しています。さらに、セーフティ事業の成長加速に向けて、英国の地方政府や警察に強固な顧客基盤を有し、NECグループの生体認証技術、AI、映像解析などの最新技術とのシナジー効果が期待できる、英国のノースゲート・パブリック・サービシズ社を買収しました。
このような経営環境のもと、当連結会計年度の売上収益は2兆8,444億円(前連結会計年度比6.7%増)、営業損益は639億円の利益(同220億円改善)、税引前損益は869億円の利益(同189億円改善)、親会社の所有者に帰属する当期損益は459億円の利益(同186億円改善)となりました。また、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フロー(「営業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」の合計額)は、1,158億円の収入となりました。当連結会計年度末の有利子負債(短期借入金、コマーシャル・ペーパー、1年内返済予定の長期借入金、1年内償還予定の社債、社債、長期借入金およびその他(リース債務)を合計したもの)残高は、前連結会計年度末に比べ538億円増加し、5,207億円となり、デット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ、自己資本(「資本合計」から「非支配持分」を控除したもの)に対する有利子負債の割合)は、0.59倍(前連結会計年度末比0.04ポイント悪化)となりました。なお、有利子負債残高から現金及び現金同等物の残高を控除した有利子負債残高(NETベース)は、前年度末に比べ523億円減少の1,747億円となり、デット・エクイティ・レシオ(NETベース)は0.20倍(前年度末比0.07ポイント改善)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当期の営業活動によるキャッシュ・フローは、1,300億円の収入で、前連結会計年度に比べ375億円改善しました。これは税引前利益が改善したことなどによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、142億円の支出で、前連結会計年度に比べ207億円支出額が増加しました。これは、関連会社株式の売却による収入があったものの、子会社の取得による支出が増加したことなどによるものです。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合算したフリー・キャッシュ・フローは1,158億円の収入となり、前連結会計年度に比べ168億円改善しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、社債の発行による収入などがあったものの、借入金の返済による支出などにより、72億円の支出となりました。
上記の結果、現金及び現金同等物は、3,460億円となり、前連結会計年度末に比べ1,061億円増加しました。
③ 生産、受注および販売の実績
NECグループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
このため、生産、受注および販売の状況については、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」におけるセグメントの業績に関連づけて示しています。
なお、外部顧客への売上収益のうち、連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先がないため、主要な販売先に関する記載を省略しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点によるNECグループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、将来に関する事項は、当連結会計年度末(2018年3月31日)においてNECグループが判断したものです。連結財務諸表の作成には、期末日における資産、負債、偶発資産および偶発債務ならびに会計期間における収益および費用に影響を与えるような見積りや仮定を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。
① 当社の概要(主な事業内容)および経営成績に重要な影響を与える要因
NECグループの売上は、4つの主要なセグメントであるパブリック事業、エンタープライズ事業、テレコムキャリア事業およびシステムプラットフォーム事業から生じます。当連結会計年度において、NECグループの売上収益の33.0%がパブリック事業、14.4%がエンタープライズ事業、20.4%がテレコムキャリア事業、25.1%がシステムプラットフォーム事業によるものです。(各セグメントの売上収益比率は、各セグメントの外部顧客に対する売上収益に基づき算出しています。)
各セグメントの製品およびサービス等の概要は次のとおりです。
パブリック事業の売上は、主に公共、医療、官公およびメディア向けに、システム・インテグレーション(システム構築、コンサルティング)、サポート(保守)、アウトソーシング・クラウドサービスおよびシステム機器などの提供によるものです。
エンタープライズ事業の売上は、主に製造業、流通・サービス業および金融業向けに、システム・インテグレーション(システム構築、コンサルティング)、サポート(保守)およびアウトソーシング・クラウドサービスなどの提供によるものです。
テレコムキャリア事業の売上は、主に通信事業者向けに、ネットワークインフラ(コアネットワーク、携帯電話基地局、海洋システム(海底ケーブル、海洋観測システム)、光伝送システム、ルータ・スイッチ、モバイルバックホール)およびサービス&マネジメント(TOMS(通信運用管理ソリューション)、サービスソリューション)などの提供によるものです。
システムプラットフォーム事業の売上は、ハードウェア(サーバ、メインフレーム、スーパーコンピュータ、ストレージ、企業向けパソコン、タブレット端末、POS、ATM、制御機器、無線LANルータ、ディスプレイ、プロジェクタ)、ソフトウェア(統合運用管理、アプリケーションサーバ、セキュリティ、データベース)、企業ネットワーク(IPテレフォニーシステム、WAN・無線アクセス装置、LAN製品)およびサービス(データセンター基盤、サポート(保守))などの提供によるものです。
NECグループの各セグメントの業績は、景気動向およびIT投資の動向や通信事業者の投資動向等に左右されます。
経営成績に重要な影響を与えるその他の要因につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりです。
② 重要な会計方針および見積り
経営陣は、次の重要な会計方針の適用における見積りや仮定が連結財務諸表に重要な影響を与えると考えています。
重要な会計方針および見積りにつきましては、「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」と「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりです。
③ 当連結会計年度の経営成績の分析
当連結会計年度の売上収益は、2兆8,444億円と前連結会計年度に比べ1,794億円(6.7%)増加しました。これは、主にパブリック事業が増収となったことなどによるものです。
収益面につきましては、営業損益は、前連結会計年度に比べ220億円改善し、639億円の利益となりました。これは、売上収益が増加したことなどによるものです。
税引前損益は、営業損益が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ189億円改善し、869億円の利益となりました。
親会社の所有者に帰属する当期損益は、税引前損益が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ186億円改善し、459億円の利益となりました。
セグメント別実績については次のとおりです。なお、各セグメント別の売上収益については、外部顧客に対する売上収益を記載しています。
a.パブリック事業
売上収益 | 9,391億円 | (前連結会計年度比 22.6%増) |
営業損益 | 544億円 | ( 同 213億円改善) |
パブリック事業の売上収益は、消防・防災システムが減少したものの、前第4四半期連結会計期間から日本航空電子工業㈱を連結子会社化したことなどにより、前連結会計年度に比べ1,729億円(22.6%)増加し、9,391億円となりました。
営業損益は、売上の増加などにより、前連結会計年度に比べ213億円改善し、544億円の利益となりました。
b.エンタープライズ事業
売上収益 | 4,087億円 | (前連結会計年度比 0.0%増) |
営業損益 | 357億円 | ( 同 40億円悪化) |
エンタープライズ事業の売上収益は、前連結会計年度並みの4,087億円となりました。
営業損益は、IoT関連の投資費用の増加などにより、前連結会計年度に比べ40億円悪化し、357億円の利益となりました。
c.テレコムキャリア事業
売上収益 | 5,797億円 | (前連結会計年度比 3.4%減) |
営業損益 | 20億円 | ( 同 160億円悪化) |
テレコムキャリア事業の売上収益は、海外においてTOMS(通信運用管理ソリューション)が増加したものの、モバイルバックホールや海洋システムが減少したことに加え、国内の通信事業者の設備投資が低調に推移したことなどにより、前連結会計年度に比べ206億円(3.4%)減少し、5,797億円となりました。
営業損益は、売上の減少に加え、海外での構造改革費用の計上などにより、前連結会計年度に比べ160億円悪化し、20億円の利益となりました。
d.システムプラットフォーム事業
売上収益 | 7,143億円 | (前連結会計年度比 0.8%減) |
営業損益 | 314億円 | ( 同 18億円改善) |
システムプラットフォーム事業の売上収益は、保守サービスの減少などにより、前連結会計年度に比べ55億円(0.8%)減少し、7,143億円となりました。
営業損益は、費用の効率化などにより、前連結会計年度に比べ18億円改善し、314億円の利益となりました。
e.その他
売上収益 | 2,026億円 | (前連結会計年度比 19.2%増) |
営業損益 | △119億円 | ( 同 81億円改善) |
その他の売上収益は、海外向けセーフティ事業が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ326億円(19.2%)増加し、2,026億円となりました。
営業損益は、売上の増加に加え、費用の効率化などにより、前連結会計年度に比べ81億円改善し、119億円の損失となりました。
④ 流動性と資金の源泉
NECグループは、手許流動性、すなわち、現金及び現金同等物と複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約の未使用額との合計額を今後の事業活動のための適切な水準に維持することを財務活動の重要な方針としています。当連結会計年度末は、現金及び現金同等物3,460億円、コミットメントライン未使用枠3,290億円、合計6,750億円の手許流動性を確保し、必要な流動性水準を維持しました。なお、現金及び現金同等物は主に円貨であり、その他は米ドルやユーロなどの外国通貨です。
また、NECグループは、短期・長期の資金需要を満たすのに十分な調達の枠を維持しています。まず短期資金調達では、その多くを国内コマーシャル・ペーパーの機動的な発行で賄っており、5,000億円の発行枠を維持しています。さらに、不測の短期資金需要の発生やコマーシャル・ペーパーによる調達が不安定になった場合の備えとして、コミットメントライン枠計3,310億円を維持し、常時金融機関からの借入れが可能な体制を敷いています。このうち800億円については、2021年3月までの契約期間において、短期借入を実行できるコミットメントラインとなります。一方、長期資金調達では、国内普通社債の発行枠3,000億円を維持しています。
負債構成の考え方に関しては、必要資金の安定的な確保の観点から、十分な長期資金の確保、およびバランスのとれた直接・間接調達比率の維持を当面の基本方針としており、その状況を示すと次のとおりです。
前連結会計年度末 | 当連結会計年度末 | |
長期資金調達比率 *1 | 74.2% | 72.8% |
直接調達比率 *2 | 21.4% | 28.7% |
*1 長期資金調達比率は、社債、長期借入金およびその他(1年超のリース債務)の合計を有利子負債で除して計算したものです。
*2 直接調達比率は、社債(1年以内償還予定を含む)およびコマーシャル・ペーパーの合計を有利子負債で除して計算したものです。
当連結会計年度末の長期資金調達比率は72.8%、直接調達比率は28.7%となりました。
(3) 経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と連結財務諸表規則(第7章および第8章を除く。以下「日本基準」という。)により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項は、以下のとおりです。
[従業員給付費用]
日本基準では数理計算上の差異を、その発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数による定額法により翌年度から純損益として処理していましたが、IFRSではすべての数理計算上の差異を発生時点でその他の包括利益として処理し、定額法による純損益への振替は行っていません。
また、日本基準では過去勤務費用を、その発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数による定額法により純損益として処理していましたが、IFRSでは当該費用を即時に純損益として処理しています。
さらに日本基準では利息費用および制度資産に係る期待運用収益を使用していましたが、IFRSでは確定給付負債(資産)の純額に係る利息純額を使用しています。
この結果、売上原価ならびに販売費及び一般管理費が12,517百万円増加しています。
[のれんの償却]
日本基準ではのれんを20年以内のその効果の及ぶ期間で規則的に償却を行っていましたが、IFRSでは償却を行いません。この結果、販売費及び一般管理費が10,232百万円減少しています。
(4)キャッシュ・フローの状況について
キャッシュ・フローの状況につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおりです。
(5)経営戦略と今後の方針について
経営戦略と今後の方針につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。