有価証券報告書-第183期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)
※当連結会計年度から、セグメントを変更しています。
また、前連結会計年度との比較数値については、前連結会計年度の数値を新たなセグメントに組み替えて表示しています。
なお、「調整後営業損益」は、営業損益から、買収により認識した無形資産の償却費およびM&A関連費用(ファイナンシャルアドバイザリー費用等)を控除し、買収会社の全社への貢献を明確化した、本源的な事業の業績を測る利益指標です。また、「親会社の所有者に帰属する調整後当期損益」は、当期損益から営業損益に係る調整項目およびこれらに係る税金相当・非支配持分相当を控除した、親会社所有者に帰属する本源的な事業の業績を測る利益指標です。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度におけるNECグループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
① 財政状態および経営成績の状況
当連結会計年度の経済環境は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴う外出制限や営業・生産活動の停止等の影響から、世界経済、日本経済ともに、第1四半期に大きく悪化し、第2四半期以降はやや持ち直したものの、総じて低調に推移しました。
このような事業環境のもと、NECグループは、2018年1月に発表した「2020中期経営計画」に基づき、「収益構造の改革」、「成長の実現」、「実行力の改革」に取り組みました。
「収益構造の改革」では、従来、収益を押し下げる要因になっていた不採算プロジェクトや低収益プロジェクトを抑制するとともに、当社子会社であるNECディスプレイソリューションズ㈱の株式の過半数の売却による非連結化、蓄電システム事業を担う米国子会社であるNECエナジーソリューションズ社の新規受注の停止による事業縮小など事業ポートフォリオの改革を進めました。また、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う業績へのインパクトを極小化するため、あらゆる費用の見直しと節減の徹底、New Normalにおける新たなビジネス機会の積極的な開拓、相模原事業場の土地の売却や保有する株式の売却などの資産の圧縮を進め、急激に変化する事業環境にも迅速かつ柔軟に対応し、安定的に事業を運営する力を高めました。
「成長の実現」では、2018年以降に買収したノースゲート・パブリック・サービシズ社およびケーエムディ社における事業運営のNECグループとしての一体化の推進や、両社におけるさらなる企業買収により、グローバルにおけるデジタル・ガバメント領域の事業を強化しました。さらに2020年12月には、スイスの大手金融ソフトウェア会社であるアバロク・グループ社を買収し、グローバルでデジタル・ファイナンス領域に事業参入しました。
第5世代移動通信システム(5G)領域では、通信事業者への基地局の提供が本格化し、加えて様々なパートナーと戦略的な協業も進め、2020年6月には、楽天モバイル㈱と、RANからコアネットワークまでを5Gの通信技術に基づき構成したスタンドアローン方式の5Gコアネットワークの共同開発に合意するとともに、日本電信電話㈱と革新的な光・無線の技術を活用したICT製品の共同研究開発およびグローバル展開を目指した資本業務提携に合意し、中長期的な事業推進体制を強化しました。また、2020年11月には、英国にOpen RANの事業開発拠点を設立し、英国政府が主導する5G Open RANを活用した実証プロジェクト「NeutrORAN」に参加するなど、海外展開に向けた活動も拡大しました。
また、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中、観光・ビジネス客の安全・安心な旅と、現地の人々の安全対策の実現のため、2020年7月から米国ハワイ州の主要5空港に生体認証や映像分析の技術とサーマルカメラを組み合わせた感染症対策ソリューションの導入を開始するなど、生体認証やAI等のデジタル技術を活かした事業の推進を通じて社会価値創造に取り組みました。
「実行力の改革」では、最新技術を活かした顧客価値創造への挑戦と社員の力を最大限に引き出す改革に取り組みました。最新技術を活かした顧客価値創造への挑戦としては、課題や技術を産官学で持ち寄り研究開発を行う「共創型R&D」という新たな研究開発の仕組みを活用した、デジタル技術に関連する研究開発および受託研究、コンサルティング、投資などの新事業を行うため、2020年9月に当社を含めた異業種6社でBIRD INITIATIVE㈱を設立しました。次に、社員の力を最大限に引き出す改革としては、NECグループ社員全員が共有すべき軸として、会社の存在意義を明確にし、会社の姿勢と一人ひとりの価値観・行動とのつながりを示すため、2020年4月に「NEC Way」を改定しました。2020年7月には、新しい働き方をDX(デジタルトランスフォーメーション)で実現するデジタルオフィス化のプロジェクトを始動し、生体認証や映像解析等のデジタル技術を活用した様々なシステム実証実験を当社本社ビル内にて開始しました。また、多様な価値観やライフスタイルを持つ社員が成長し続け、安心して働くため、適時・適所・適材の人材活用を目指し、2020年10月に社員の主体的なキャリア形成を支援するNECライフキャリア㈱を設立しました。
このような経営環境のもと、当連結会計年度の売上収益は2兆9,940億円(前連結会計年度比3.3%減)、営業損益は1,538億円の利益(同262億円改善)、調整後営業損益は1,782億円の利益(同324億円改善)、税引前損益は1,578億円の利益(同339億円改善)、親会社の所有者に帰属する当期損益は1,496億円の利益(同496億円改善)、親会社の所有者に帰属する調整後当期損益は1,654億円の利益(同542億円改善)となりました。また、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フロー(「営業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」の合計額)は、1,524億円の収入となりました。当連結会計年度末の有利子負債(短期借入金、コマーシャル・ペーパー、1年内返済予定の長期借入金、1年内償還予定の社債、社債、長期借入金およびリース負債を合計したもの)残高は、前連結会計年度末に比べ274億円増加し、7,029億円となり、デット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ、自己資本(「資本合計」から「非支配持分」を控除したもの)に対する有利子負債の割合)は、0.54倍(前連結会計年度末比0.20ポイント改善)となりました。なお、有利子負債残高から現金及び現金同等物の残高を控除した有利子負債残高(NETベース)は、前連結会計年度末に比べ1,367億円減少の1,795億円となり、デット・エクイティ・レシオ(NETベース)は0.14倍(前連結会計年度末比0.21ポイント改善)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、2,749億円の収入で、前連結会計年度に比べ130億円改善しました。これは運転資金が改善したことおよび税引前利益が改善したことなどによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,225億円の支出で、前連結会計年度に比べ385億円支出額が増加しました。これは有価証券および有形固定資産の売却による収入が増加したものの、アバロク・グループ社の買収に伴う子会社の取得による支出を計上したことなどによるものです。
この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合算したフリー・キャッシュ・フローは1,524億円の収入となり、前連結会計年度に比べ254億円悪化しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、リース負債の返済、社債の償還および長期借入金の返済による支出があったものの、長期借入れ、株式の発行、非支配持分への子会社持分売却および社債の発行による収入などにより、14億円の収入となりました。
上記の結果、現金及び現金同等物は、5,233億円となり、前連結会計年度末に比べ1,641億円増加しました。
③ 生産、受注および販売の実績
NECグループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模、受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
このため、生産、受注および販売の状況については、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」におけるセグメントの業績に関連づけて示しています。
なお、外部顧客への売上収益のうち、連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先がないため、主要な販売先に関する記載を省略しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点によるNECグループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
なお、将来に関する事項は、当連結会計年度末(2021年3月31日)において判断したものです。連結財務諸表の作成には、期末日における資産、負債、偶発資産および偶発債務ならびに会計期間における収益および費用に影響を与えるような見積りや仮定を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。
① 当社の概要(主な事業内容)および経営成績に重要な影響を与える要因
NECグループの売上は、5つの主要なセグメントである社会公共事業、社会基盤事業、エンタープライズ事業、ネットワークサービス事業およびグローバル事業から生じます。
各セグメントの製品およびサービス等の概要は、「第一部 企業情報 第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおりです。
NECグループの各セグメントの業績は、景気動向およびIT投資の動向や通信事業者の投資動向等に左右されます。
経営成績に重要な影響を与えるその他の要因につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりです。
② 重要な会計方針および見積り
経営陣は、次の重要な会計方針の適用における見積りや仮定が連結財務諸表に重要な影響を与えると考えています。
重要な会計方針および見積りにつきましては、「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」と「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりです。
③ 当連結会計年度の経営成績の分析
当連結会計年度の売上収益は、2兆9,940億円と前連結会計年度に比べ1,012億円(3.3%)減少しました。これは、ネットワークサービス事業および社会基盤事業が増収だったものの、社会公共事業や、エンタープライズ事業、グローバル事業などが減収となったことによるものです。
収益面につきましては、営業損益は、前連結会計年度に比べ262億円改善し、1,538億円の利益となりました。これは、売上収益が減少したものの、不採算プロジェクトの抑制による収益性の改善や、費用の効率化による販売費及び一般管理費の改善に加え、土地売却益および子会社株式売却益の計上によるその他の損益の改善があったことなどによるものです。また、調整後営業損益は、前期に比べ324億円改善し、1,782億円の利益となりました。
税引前損益は、営業損益が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ339億円改善し、1,578億円の利益となりました。
親会社の所有者に帰属する当期損益は税引前損益が改善したことなどにより、前連結会計年度に比べ496億円改善し、1,496億円の利益となりました。また、親会社の所有者に帰属する調整後当期損益は、前連結会計年度に比べ542億円改善し、1,654億円の利益となりました。
セグメント別実績については次のとおりです。なお、各セグメント別の売上収益については、外部顧客に対する売上収益を記載しています。
a.社会公共事業
売上収益 | 4,251億円 | (前連結会計年度比 11.1%減) |
調整後営業損益 | 394億円 | ( 同 51億円改善) |
社会公共事業の売上収益は、医療向けや地域産業向けが減少したことに加え、企業向けパソコンの更新需要の一巡などにより、前連結会計年度に比べ533億円(11.1%)減少し、4,251億円となりました。
調整後営業損益は、不採算プロジェクトの抑制をはじめとする収益性の改善などにより、前連結会計年度に比べ51億円改善し、394億円の利益となりました。
b.社会基盤事業
売上収益 | 6,929億円 | (前連結会計年度比 2.1%増) |
調整後営業損益 | 594億円 | ( 同 48億円悪化) |
社会基盤事業の売上収益は、政府のGIGAスクール構想を背景にして教育機関向けパソコンを中心に官公向けが増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ141億円(2.1%)増加し、6,929億円となりました。
調整後営業損益は、官公向けが売上の増加に伴い増益となった一方、連結子会社が減益となったことなどにより、前連結会計年度に比べ48億円悪化し、594億円の利益となりました。
c.エンタープライズ事業
売上収益 | 5,031億円 | (前連結会計年度比 8.5%減) |
調整後営業損益 | 482億円 | ( 同 39億円悪化) |
エンタープライズ事業の売上収益は、前期にあった大型案件の売上の減少や企業向けパソコンの更新需要の一巡に加え、製造業や流通・サービス業におけるIT投資の抑制などにより、前連結会計年度に比べ467億円(8.5%)減少し、5,031億円となりました。
調整後営業損益は、不採算プロジェクトを抑制したものの、売上が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ39億円悪化し、482億円の利益となりました。
d.ネットワークサービス事業
売上収益 | 5,388億円 | (前連結会計年度比 11.6%増) |
調整後営業損益 | 412億円 | ( 同 106億円改善) |
ネットワークサービス事業の売上収益は、通信事業者の5G導入を背景に移動ネットワーク領域や固定ネットワーク領域で増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ561億円(11.6%)増加し、5,388億円となりました。
調整後営業損益は、売上が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ106億円改善し、412億円の利益となりました。
e.グローバル事業
売上収益 | 4,500億円 | (前連結会計年度比 8.7%減) |
調整後営業損益 | 75億円 | ( 同 107億円改善) |
グローバル事業の売上収益は、海洋システムの増加に加え、アバロク・グループ社の連結化に伴いセーファーシティが増加したものの、ディスプレイの減少およびディスプレイ事業を展開する子会社の非連結化やワイヤレスバックホールの減少などにより、前連結会計年度に比べ431億円(8.7%)減少し、4,500億円となりました。
調整後営業損益は、サービスプロバイダ向けやセーファーシティの収益性の改善、海洋システムの売上の増加に加え、子会社株式売却益の計上などにより、前連結会計年度に比べ107億円改善し、75億円の利益となりました。
f.その他
売上収益 | 3,842億円 | (前連結会計年度比 6.9%減) |
調整後営業損益 | 77億円 | ( 同 167億円悪化) |
その他の売上収益は、前連結会計年度に比べ283億円(6.9%)減少し、3,842億円となりました。
調整後営業損益は、前連結会計年度に比べ167億円悪化し、77億円の利益となりました。
④ 流動性と資金の源泉
NECグループは、手許流動性、すなわち、現金及び現金同等物と複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約の未使用額との合計額を今後の事業活動のための適切な水準に維持することを財務活動の重要な方針としています。当連結会計年度末は、現金及び現金同等物5,233億円、コミットメントライン未使用枠3,260億円、合計8,493億円の手許流動性を確保し、必要な流動性水準を維持しました。なお、現金及び現金同等物は主に円貨であり、その他は米ドルやユーロなどの外国通貨です。
また、NECグループは、短期・長期の資金需要を満たすのに十分な調達の枠を維持しています。まず短期資金調達では、その多くを国内コマーシャル・ペーパーの機動的な発行で賄っており、5,000億円の発行枠を維持しています。さらに、不測の短期資金需要の発生やコマーシャル・ペーパーによる調達が不安定になった場合の備えとして、コミットメントライン枠計3,280億円を維持し、常時金融機関からの借入れが可能な体制を敷いています。このうち800億円については、2024年3月までの契約期間において、短期借入を実行できるコミットメントラインとなります。一方、長期資金調達では、国内普通社債の発行枠3,000億円を維持しています。
負債構成の考え方に関しては、必要資金の安定的な確保の観点から、十分な長期資金の確保、およびバランスのとれた直接・間接調達比率の維持を当面の基本方針としており、その状況を示すと次のとおりです。
前連結会計年度末 | 当連結会計年度末 | |
長期資金調達比率 *1 | 70.1% | 85.9% |
直接調達比率 *2 | 29.6% | 25.6% |
*1 長期資金調達比率は、社債、長期借入金およびその他(1年超のリース債務)の合計を有利子負債で除して計算したものです。
*2 直接調達比率は、社債(1年以内償還予定を含む)およびコマーシャル・ペーパーの合計を有利子負債で除して計算したものです。
当連結会計年度末の長期資金調達比率は85.9%、直接調達比率は25.6%となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況について
キャッシュ・フローの状況につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおりです。
(4)経営戦略と今後の方針について
経営戦略と今後の方針につきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
(5)新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症について、大きな売上の減少等はなく当連結会計年度の連結財務諸表に与える影響は軽微と判断しています。
なお、事業等のリスクにつきましては、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 事業等のリスク」、重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断につきましては、「第一部 企業情報 第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりです。