有価証券報告書-第90期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

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2014/06/26 15:09
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業績等の概要

(1) 業績
<電気事業を取り巻く経営環境>平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故から3年余りが経過した。この間,わが国のエネルギーを巡る環境は,大きく変化した。
先ず,東日本大震災以降,国内の原子力発電所が長期間にわたり停止しており,石炭やLNGなど化石燃料への依存が大幅に増大し,多額の国富が流出している。こうした化石燃料への依存度の高まりは,電気料金をはじめとしたエネルギーコストの増大となって,わが国の経済活動や家計に影響を及ぼすとともに,CO2排出量の大幅な増加をもたらしている。
また,原子力規制委員会は,原子力発電所の安全規制に係る新規制基準を策定し,同基準は昨年7月に施行された。現在,同基準への適合性審査を申請した原子力発電所について,審査が慎重に進められている。
さらに,電力システム改革については,改正電気事業法が昨年11月及び本年6月に成立し,需給逼迫時の広域的な需給調整等を行う広域的運営推進機関の業務開始に向けた検討や,小売分野における全面自由化に関する詳細制度の検討が進められている。
一方,本年4月,国の中長期的なエネルギー政策の指針として,新たなエネルギー基本計画が策定された。この基本計画において,電力供給については,「安定供給,低コスト,環境適合等をバランスよく実現できる供給構造を実現すべく,各エネルギー源の特性を踏まえて活用することが重要」とされている。そのなかで,再生可能エネルギーは「重要な低炭素の国産エネルギー源」として,これまでの基本計画をさらに上回る水準の導入を目指すとの方向性が示された。また,原子力発電は「安全性の確保を大前提に,エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けられている。
<大規模自然災害からの復旧と電力需給の状況>このようななかで,当社は,東日本大震災や,平成23年7月の新潟,福島両県における記録的な集中豪雨によって被害を受けた電力供給設備の早期復旧を最優先課題とし,以来,企業グループ一丸となって全力で取り組んできた。
こうした取り組みにより,供給面では,原町火力発電所第1号機及び第2号機(合計200万キロワット)について,甚大な被害を受けたにもかかわらず,復旧計画を大幅に繰り上げて運転を再開することができ,当社の供給力として大きく貢献している。また,緊急電源として設置した八戸火力発電所第5号機(39.4万キロワット)については,高効率コンバインドサイクル発電設備として長期間使用できる電源とするための工事を行い,本年3月,試運転による発電を開始した。
新潟・福島豪雨により被災した水力発電所29カ所(合計約133万キロワット)についても,地域のみなさまのご理解をいただきながら復旧作業を進めた。その結果,大きな供給力を有する第二沼沢発電所(46万キロワット)が本年1月に,柳津発電所(7.5万キロワット)が本年3月に運転を再開するなど,本年3月末までに26カ所(合計約119万キロワット)で運転を再開した。
さらに,供給力の向上を図るため,緊急電源の設置・運用,被災した発電所の早期復旧,発電設備の点検時期の調整及び長期計画停止していた火力発電所の運転再開など,設備の保守・運用面での諸対策を実施してきた。
一方,需要面においては,前年度に引き続き,産業用のお客さまにピーク抑制などに努めていただいたほか,一般のお客さまには節電への多大なご協力をいただいた。
こうした需給両面にわたる,あらゆる対策を積み重ねた結果,厳しい状況ながらも電力の安定供給を維持することができた。
しかしながら,東日本大震災以降,原子力発電所が長期間にわたり停止しており,火力発電所は,経年化したものを含め高稼働状態が続いている。この結果,火力設備トラブルの発生も懸念され,安定供給に対しては,未だ脆弱な状況が続いている。
<原子力発電所の安全性向上に向けた取り組み>当社は,東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故から得られた教訓や東日本大震災における女川原子力発電所での経験を活かしながら,原子力発電所の安全性向上に向けて,緊急的な対策を進めてきた。
さらに,昨年7月に施行された新規制基準などを踏まえ,さらなる安全対策を設備と運用の両面から進めている。設備面では,地震や津波に対する耐性強化や冷却機能に係る代替設備の設置など,設備の強化,多様化及び多重化という対策を最適に組み合わせることにより,安全対策をさらに充実させていくこととしている。また,厳冬期や夜間などの様々な条件下での電源確保訓練をはじめとし,より実践的な訓練を継続的に実施するなど,運用面での安全対策の強化,充実にも取り組んでいる。
女川原子力発電所については,これまでに発生した地震を考慮し,発電所敷地周辺で想定される最大の揺れの強さ(基準地震動Ss)を従来の580ガルから1,000ガルに見直すこととした。現在,土木設備や原子炉建屋などにおいて耐震工事を行っているところである。
また,発電所への想定津波を海抜23.1メートルと評価し,海抜約29メートルの防潮堤を設置する工事や,放射性物質の放出を抑制する「フィルター付格納容器ベント設備」を設置する工事を行っている。さらに,大型ポンプなどに電力を供給するガスタービン発電機の設置などを行い,重大事故対策を進めている。
東通原子力発電所については,当社は,原子炉設置許可申請時より,膨大な地質調査データに基づき,敷地内断層に活動性がないことを都度確認してきた。さらに,原子力規制委員会による「東通原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」でのご意見を踏まえて,ボーリング調査や水平掘削面調査などの敷地内断層の追加調査を実施してきた。本年1月,その調査結果を取りまとめ,原子力規制委員会に報告した。
当社は,過去の調査結果も含め,多くのデータを積み重ねて総合的に検討した結果,敷地内断層は「将来活動する可能性のある断層等」ではないと評価しており,地質学をはじめとする複数の外部専門家からも,当社の評価を支持する見解が示されている。こうした当社の報告に対しては,現在,有識者による評価会合において議論がなされており,審議が継続されている。
東通原子力発電所の設備面の安全対策としては,昨年5月,防潮堤のかさ上げが完了した。また,基準地震動Ssを450ガルから600ガルに見直し,耐震性向上の観点から必要と判断した設備について,順次,耐震工事を進めている。さらに,外部電源や原子炉の冷却機能などの強化対策を進めるとともに,「フィルター付格納容器ベント設備」の設置なども進めている。
当社は,こうした原子力発電所の安全性向上に向けた取り組みについて,早期に新規制基準への適合性審査を受けることが,より確実な安全確保を図っていくうえでも重要であると考えている。このため,女川原子力発電所第2号機については昨年12月,東通原子力発電所第1号機については本年6月,原子力規制委員会から技術的,専門的な確認を受けるため,同基準への適合性審査に係る申請を行った。
今後とも原子力規制委員会の審査に真摯に対応していくとともに,新規性基準への適合にとどまらず,原子力発電所のさらなる安全性の向上に努めていく。
<電気料金の値上げとさらなる経営効率化>当社は,東日本大震災や新潟・福島豪雨による甚大な設備被害に加え,原子力発電所の長期停止に伴う燃料費の大幅な増加などにより,3年連続で多額の純損失を計上した。このため,自己資本が大幅に減少するなど,財務状況が急激に悪化した。こうしたなか,徹底した効率化に取り組み,被災地の復興の妨げとならないよう一日でも長く,それまでの電気料金を維持するよう努めてきた。
しかしながら,これ以上の財務状況の悪化は,資金調達や設備保全に悪影響が生じ,電力の安定供給に支障をきたすおそれがあった。このため,昨年9月1日から,ご家庭用など規制部門のお客さまの電気料金については平均8.94%,また,自由化部門のお客さまについても,平均15.24%の値上げを実施させていただいた。
値上げにあたっては,新料金についてお客さまに丁寧にご説明するとともに,被災地をはじめ,お客さまのご負担が少しでも緩和されるよう取り組んできた。具体的には,ご家庭向けの料金について,使用電力量の少ないお客さまへの値上げの影響が小さくなるよう電気料金を設定した。加えて,お客さまに対し,その使用状況を踏まえながら,エネルギーの効率的な利用に資するコンサルティング活動やセミナーを開催してきた。
さらに,当社は,値上げ申請にあたり年平均806億円の経営効率化を織り込んでおり,これを達成するため,人件費や修繕費などあらゆる分野で徹底した効率化に取り組んできた。
また,当年度は,東日本大震災以降続いてきた赤字を回避し財務体質を早期に回復するため,電気料金の値上げとともに緊急的な支出抑制や繰り延べなどを実施した結果,後述のとおり利益を計上することができた。しかしながら,特別利益の計上など一時的な要因によるところも大きく,当社の収益基盤は未だ安定していない状況にある。
こうしたことを踏まえ,特に中長期的に効果が持続する構造的なコスト低減に向けた取り組みを進めている。その一つとして,昨年7月に「調達改革委員会」を設置し,外部有識者にも参加いただきながら,競争拡大などによる調達価格低減及び資材や役務調達の透明性,公平性の確保に向けた検討を進めている。
<決算概要>当連結会計年度の企業グループの収支については,収益面では,当社において,販売電力量は減少したものの,料金改定や燃料費調整額の影響などにより,電灯・電力料が増加したことに加え,地帯間販売電力料が増加したことなどから,売上高(営業収益)は前連結会計年度に比べ2,462億円(13.7%)増の2兆388億円,経常収益は前連結会計年度に比べ2,436億円(13.5%)増の2兆466億円となった。
一方,費用面では,経費全般にわたる徹底した効率化に継続して取り組んだものの,燃料費や減価償却費が増加したことなどから,経常費用は前連結会計年度に比べ1,113億円(5.9%)増の2兆75億円となった。
この結果,経常損益は前連結会計年度に比べ1,322億円増の390億円の利益となった。
また,当期純損益は,当社の退職給付制度改定益162億円並びに東日本大震災及び新潟・福島豪雨により生じた設備被害に対する受取保険金87億円を特別利益に計上したことなどから,前連結会計年度に比べ1,380億円増の343億円の利益となった。
当連結会計年度におけるセグメントの業績(セグメント間の内部取引消去前)は次のとおりである。
[電気事業]
売上高は,販売電力量は減少したものの,料金改定や燃料費調整額の影響などにより,電灯・電力料が増加したことに加え,地帯間販売電力料が増加したことなどから,前連結会計年度に比べ2,401億円(15.2%)増の1兆8,184億円となった。一方,営業費用は,経費全般にわたる徹底した効率化に継続して取り組んだものの,燃料費や減価償却費が増加したことなどから,前連結会計年度に比べ1,092億円(6.7%)増の1兆7,330億円となった。
この結果,営業損益は前連結会計年度に比べ1,308億円増の854億円の利益となった。
[建設業]
売上高は,受注工事が増加したことなどから,前連結会計年度に比べ82億円(3.5%)増の2,422億円となった。一方,営業費用は,受注工事の増加に伴う工事原価の増加などから,前連結会計年度に比べ54億円(2.3%)増の2,477億円となった。
この結果,営業損失は前連結会計年度に比べ28億円損失幅縮小の55億円の損失となった。
[その他]
売上高は,ガス事業において増加したことなどから,前連結会計年度に比べ44億円(2.3%)増の1,952億円となった。一方,営業費用は,情報通信事業における減少などから,前連結会計年度に比べ13億円(0.7%)減の1,925億円となった。
この結果,営業損益は前連結会計年度に比べ58億円増の27億円の利益となった。
(2) キャッシュ・フロー
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純損益が利益となったことなどから,前連結会計年度に比べ1,897億円(406.6%)増の2,364億円の収入となった。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得による支出が増加したことなどから,前連結会計年度に比べ108億円(4.6%)増の2,475億円の支出となった。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
借入金による収入が減少したことなどから,前連結会計年度に比べ2,172億円(82.7%)減の454億円の収入となった。
この結果,現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は,前連結会計年度末残高に比べ344億円(11.7%)増の3,293億円となった。