有価証券報告書-第170期(平成30年1月1日-平成30年12月31日)
(経営成績等の状況の概要)
(1) 財政状態及び経営成績の状況
事業全体の概況
当社グループは、当連結会計年度よりIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を適用しております。これにより一部の取引で、履行義務の充足時の認識につき変更しております。また、一部の取引につき、収益の認識を純額から総額へ変更することといたしました。これらの影響を補正した増減率を以下、「実質」として記載しております。
2018年の日本経済は、企業収益や雇用・所得環境の改善が続く中、緩やかな回復基調が続きました。一方、世界経済は、米国の保護主義政策に端を発した貿易摩擦の激化懸念などから、先行きに不透明感があるものの、引き続き堅調に推移いたしました。
2018年の「日本の広告費」(当社調べ)は前年比2.2%増と、7年連続のプラス成長となりました。また、当社の海外本社である電通イージス・ネットワークが2019年1月に発表した2018年の世界の広告費成長率予測は4.1%、地域別では、ヨーロッパ、中東およびアフリカ(以下「EMEA」)が3.3%、米州(以下「Americas」)が4.0%、アジア太平洋(日本を除く。以下「APAC」)が6.3%となっています。
こうした環境下、当連結会計年度(2018年1月1日~2018年12月31日)の収益は1兆185億12百万円(前連結会計年度比9.7%増、実質7.2%増)、売上総利益は9,326億80百万円(同6.3%増、実質6.3%増)となりました。売上総利益のオーガニック成長率は3.4%と、2020年までの連結ガイドラインとして設定した「売上総利益のオーガニック成長率3%以上(2020年までの3年間のCAGR)」を上回りました。国内事業における労働環境改革のための費用増や海外事業における新しい成長フェーズのための企業基盤整備を目的とした費用の増加などにより、調整後営業利益は1,532億29百万円(同6.5%減、実質6.5%減)、営業利益は1,116億38百万円(同18.7%減、実質18.7%減)、親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は974億19百万円(同9.7%減、実質9.7%減)親会社の所有者に帰属する当期利益は903億16百万円(同14.4%減、実質14.4%減)となりました。
調整後営業利益は、営業利益から、買収に伴う無形資産の償却費、M&Aに伴う費用、被買収会社に帰属する株式報酬費用ならびに減損、固定資産の売却損益などの一時的要因を排除した恒常的な事業の業績を測る利益指標であります。
親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は、当期利益から、営業利益に係る調整項目、アーンアウト債務・買収関連プットオプション再評価損益、関連会社株式売却損益、これらに係る税金相当・非支配持分損益相当などを排除した、親会社の所有者に帰属する恒常的な損益を測る指標であります。
報告セグメントの収益実績
a.国内事業
国内事業の売上総利益は、デジタル領域での増収、連結グループ会社の好調などにより、3,692億58百万円(前連結会計年度比2.0%増、実質2.0%増)と前連結会計年度を上回りましたが、労働環境改革の推進に伴うコスト増により、調整後営業利益は802億68百万円(同9.6%減、実質9.6%減)となりました。調整後営業利益は、前期比では減少しましたが、計画を上回ることができました。
国内事業では、2018年の労働環境改革の目標をほぼ達成するとともに、2018年12月の株式会社セプテーニ・ホールディングスとの資本業務提携、および2019年1月の株式会社VOYAGE GROUPと株式会社サイバー・コミュニケーションズとの経営統合により、デジタル領域の更なる強化を図りました。
なお、当社単体の業績(日本基準。2018年1月1日~2018年12月31日)は、売上高は1兆5,399億62百万円(前連結会計年度比1.4%減)、売上総利益は2,315億20百万円(同1.3%増)、営業利益は486億4百万円(同10.5%減)、経常利益は754億14百万円(同1.9%減)となりました。関係会社株式売却益等の計上により、当期純利益は948億41百万円(同49.2%増)となりました。
b.海外事業
海外事業の売上総利益のオーガニック成長率(為替やM&Aの影響を除いた内部成長率)は、地域別では、EMEAが7.4%、Americasが4.9%、APACが△1.7%となりました。APACはインド、タイ、台湾は好調でしたが、中国とオーストラリアの不振が響きました。堅調に推移したEMEAとAmericasがけん引し、全体では4.3%となりました。引き続きデジタル領域の強化に取り組み、堅調なオーガニック成長を実現することができました。M&Aの貢献もあり海外事業の売上総利益は、5,638億52百万円(前期比9.3%増、実質9.3%増)となりました。
調整後営業利益は、新しい成長フェーズのための企業基盤整備を目的とした費用の増加などにより、729億63百万円(同2.9%減、実質2.9%減)となりました。前期比では減少しましたが、ほぼ計画通りの結果となりました。
当連結会計年度末の財政状態については、前連結会計年度末と比べ、主に現金及び現金同等物が増加したことから、資産合計で756億31百万円の増加となりました。一方、主に社債及び借入金が増加したことから、負債合計で1,150億15百万円の増加となりました。また、主に在外営業活動体の換算差額が減少したことから、資本合計は393億84百万円の減少となりました。
(2) キャッシュ・フロー
当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、4,166億68百万円(前連結会計年度末3,057億60百万円)となりました。営業活動による収入および財務活動による収入が投資活動による支出を上回ったため、前連結会計年度末に比べ1,109億7百万円の増加となりました。
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動の結果により得た資金は、1,330億49百万円(前連結会計年度1,415億57百万円の収入)となりました。主に税引前利益の計上によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動の結果支出した資金は、613億82百万円(前連結会計年度855億31百万円の支出)となりました。主に、有価証券の売却による収入により資金が増加した一方で、固定資産の取得による支出、子会社の取得による支出および有価証券の取得による支出により資金が減少したことによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動の結果により得た資金は、575億22百万円(前連結会計年度12億26百万円の収入)となりました。主に社債の発行による収入によるものです。
(生産、受注及び販売の状況)
販売実績
当連結会計年度におけるセグメントの販売実績(売上高)は次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間取引については相殺消去しております。
2 売上高は当社グループが顧客に対して行った請求額および顧客に対する請求可能額の総額(割引および消費税等の関連する税金を除く)であり、IFRSに準拠した開示ではありません。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会により公表されたIFRSに基づき作成されております。
また、当社経営陣は、連結財務諸表の作成に際し、決算日における資産・負債の報告数値および偶発債務等オフバランス取引の開示、報告期間における財政状態および経営成績について影響を与える見積りを行わなければなりません。経営陣は、例えば、投資、企業結合、退職金、法人税等、偶発事象や訴訟等に関する見通しや判断に対して、継続して評価を行っております。経営陣は、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積りおよび判断を行い、その結果は、資産・負債の簿価、収益・費用の報告数字についての根拠となります。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。
当社は、特に以下の重要な会計方針について、当社グループの財政状態および経営成績に特に影響を与える、あるいは、当社の連結財務諸表の作成において使用される当社の重要な判断と見積りにより、大きな影響を受けると考えております。
① 収益の認識
「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 (15)収益」をご参照下さい。
② 有形固定資産、のれん、無形資産および投資不動産の減損
当社グループは決算日において、棚卸資産および繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、または減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産または資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産または資金生成単位の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には、当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。
これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
③ 金融商品の評価
当社グループは有価証券やデリバティブ等の金融資産を保有しており、当該金融資産の評価に当たり一定の仮定を用いております。公正価値は、市場価格の他、マーケット・アプローチ等の算出手順に基づき決定しております。具体的には、株式およびその他の金融資産のうち活発な市場が存在する銘柄の公正価値は市場価格に基づいて算定し、活発な市場が存在しない銘柄の公正価値は観察可能な市場データを用いて算定した金額若しくは観察不能なインプットを用いて主としてマーケット・アプローチで算定した金額で評価しております。
企業結合の結果生じる条件付対価および株式買取債務の公正価値等は、観察不能なインプットを用いて割引キャッシュ・フロー法で算定した価額で評価しております。
当社経営陣は金融商品の公正価値等の評価は合理的であると判断しておりますが、予測不能な前提条件の変化等により見積りの変更が必要となった場合、認識される公正価値等の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
④ 確定給付制度債務の評価
確定給付制度債務および退職給付費用は、年金数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の報酬水準、退職率、死亡率等が含まれます。
当社経営陣はこれらの前提条件は合理的であると判断しておりますが、実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、認識される費用および計上される債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 引当金
当社グループは、過去の事象の結果として現在の法的または推定的債務を有しており、債務の決済を要求される可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性のある見積りが可能である場合に引当金を認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。
これらの引当金は、決算日における不確実性を考慮した最善の見積りにより算定しておりますが、予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、計上される債務の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除および将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。
当社グループは、将来の課税所得および慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用および計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(2) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 収益および売上総利益
当連結会計年度における当社グループの収益は1兆185億12百万円(前連結会計年度比9.7%増)、売上総利益は9,326億80百万円(同6.3%増)となりました。
売上総利益のうち、国内事業は、3,692億58百万円(同2.0%増)と前連結会計年度を上回りました。
海外事業の売上総利益は5,638億52百万円(同9.3%増)となりました。また、海外事業の売上総利益のオーガニック成長率は、4.3%となりました。地域別では、EMEAが7.4%、Americasが4.9%、APACが△1.7%となりました。
② 販売費及び一般管理費、その他の収益、その他の費用および営業利益
当連結会計年度における当社グループの販売費及び一般管理費は、8,200億58百万円(前連結会計年度比9.1%増)となりました。
また、その他の収益は111億68百万円(同52.2%減)、その他の費用は121億51百万円(同4.6%増)となりました。
これらの結果、当連結会計年度における営業利益は1,116億38百万円(同18.7%減)となりました。
③ 持分法投資利益、関連会社株式売却益、金融損益および当期利益
当連結会計年度の持分法投資利益は26億99百万円(前連結会計年度比36.1%減)、関連会社株式売却益は521億27百万円、金融収益から金融費用を減じた金融損失は177億13百万円となり、この結果、税引前利益は1,487億51百万円(同0.6%減)となりました。
税引前利益から法人所得税費用を控除した当期利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期利益は903億16百万円(同14.4%減)となりました。
(3) 経営成績に重要な影響を与える要因について
「2 事業等のリスク」をご参照下さい。
(4) 経営戦略の現状と見通し
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。
(5) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
① 資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、広告作業実施のための媒体料金および制作費の支払等ならびに人件費をはじめとする販売費及び一般管理費であります。
また、近年においては既存事業の拡大、新規事業の発掘および開発のため、グローバル事業やデジタルテクノロジー領域をはじめとした様々な領域への投資に係る資金需要が生じております。
② 財務政策
当社グループは、運転資金につきましては、内部資金、社債、コマーシャル・ペーパーまたは短期借入金により調達することとしております。流動資産から流動負債を控除した運転資本については、当社グループでは流動資産が上回っています。前連結会計年度および当連結会計年度における当社グループの運転資本は、それぞれ943億円および1,499億円の超過となっております。
当社は、資金の短期流動性を確保するため、シンジケーション方式による極度額500億円の銀行融資枠を設定しています。また、電通イージス・ネットワーク社においては、緊急時対応として、500百万ポンド(約700億円)の銀行融資枠を設定しています。さらに、グループ内の資金効率の向上を図るべく、日本においては、資金余剰状態にある国内子会社から当社が資金を借り入れ、資金需要が発生している国内子会社に貸出を行うキャッシュ・マネジメント・システム(以下CMS)を導入しております。電通イージス・ネットワークでは、海外の資金をロンドンに集約させるグローバルCMSを導入しています。
当社は、今後の事業展開に必要な資金の確保を目的として、2018年3月15日開催の取締役会において、無担保普
通社債の発行に関する包括決議を行いました。当該社債の発行総額は1,000億円以内、日本国内で公募し、2018年10月25日に800億円の社債を発行いたしました。資金の使途は、投融資資金、借入金返済資金および運転資金への充当を行うこととしております。
なお、当社は、格付機関である㈱格付投資情報センター(R&I)から長期格付AA-、短期格付a-1+を取得しております。
(6) 経営者の問題意識と今後の方針について
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。
(経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報)
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と日本基準により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項
(1) のれんの償却
日本基準の下ではのれんをその効果が発現すると合理的に見積もられる期間にわたり規則的に償却しておりましたが、IFRSでは移行日以降の償却を停止しております。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、販売費及び一般管理費が前連結会計年度は378億52百万円減少、当連結会計年度は411億93百万円減少しております。
(2) 資本性金融商品の処分に係る利得又は損失
日本基準の下では資本性金融商品の処分に係る利得または損失は収益または費用として計上しておりましたが、IFRSではその他の包括利益として認識しております。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、前連結会計年度は金融収益が13億72百万円減少、当連結会計年度は金融収益が44億77百万円減少、金融費用が43億69百万円減少しております。
(1) 財政状態及び経営成績の状況
事業全体の概況
当社グループは、当連結会計年度よりIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を適用しております。これにより一部の取引で、履行義務の充足時の認識につき変更しております。また、一部の取引につき、収益の認識を純額から総額へ変更することといたしました。これらの影響を補正した増減率を以下、「実質」として記載しております。
2018年の日本経済は、企業収益や雇用・所得環境の改善が続く中、緩やかな回復基調が続きました。一方、世界経済は、米国の保護主義政策に端を発した貿易摩擦の激化懸念などから、先行きに不透明感があるものの、引き続き堅調に推移いたしました。
2018年の「日本の広告費」(当社調べ)は前年比2.2%増と、7年連続のプラス成長となりました。また、当社の海外本社である電通イージス・ネットワークが2019年1月に発表した2018年の世界の広告費成長率予測は4.1%、地域別では、ヨーロッパ、中東およびアフリカ(以下「EMEA」)が3.3%、米州(以下「Americas」)が4.0%、アジア太平洋(日本を除く。以下「APAC」)が6.3%となっています。
こうした環境下、当連結会計年度(2018年1月1日~2018年12月31日)の収益は1兆185億12百万円(前連結会計年度比9.7%増、実質7.2%増)、売上総利益は9,326億80百万円(同6.3%増、実質6.3%増)となりました。売上総利益のオーガニック成長率は3.4%と、2020年までの連結ガイドラインとして設定した「売上総利益のオーガニック成長率3%以上(2020年までの3年間のCAGR)」を上回りました。国内事業における労働環境改革のための費用増や海外事業における新しい成長フェーズのための企業基盤整備を目的とした費用の増加などにより、調整後営業利益は1,532億29百万円(同6.5%減、実質6.5%減)、営業利益は1,116億38百万円(同18.7%減、実質18.7%減)、親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は974億19百万円(同9.7%減、実質9.7%減)親会社の所有者に帰属する当期利益は903億16百万円(同14.4%減、実質14.4%減)となりました。
調整後営業利益は、営業利益から、買収に伴う無形資産の償却費、M&Aに伴う費用、被買収会社に帰属する株式報酬費用ならびに減損、固定資産の売却損益などの一時的要因を排除した恒常的な事業の業績を測る利益指標であります。
親会社の所有者に帰属する調整後当期利益は、当期利益から、営業利益に係る調整項目、アーンアウト債務・買収関連プットオプション再評価損益、関連会社株式売却損益、これらに係る税金相当・非支配持分損益相当などを排除した、親会社の所有者に帰属する恒常的な損益を測る指標であります。
報告セグメントの収益実績
a.国内事業
国内事業の売上総利益は、デジタル領域での増収、連結グループ会社の好調などにより、3,692億58百万円(前連結会計年度比2.0%増、実質2.0%増)と前連結会計年度を上回りましたが、労働環境改革の推進に伴うコスト増により、調整後営業利益は802億68百万円(同9.6%減、実質9.6%減)となりました。調整後営業利益は、前期比では減少しましたが、計画を上回ることができました。
国内事業では、2018年の労働環境改革の目標をほぼ達成するとともに、2018年12月の株式会社セプテーニ・ホールディングスとの資本業務提携、および2019年1月の株式会社VOYAGE GROUPと株式会社サイバー・コミュニケーションズとの経営統合により、デジタル領域の更なる強化を図りました。
なお、当社単体の業績(日本基準。2018年1月1日~2018年12月31日)は、売上高は1兆5,399億62百万円(前連結会計年度比1.4%減)、売上総利益は2,315億20百万円(同1.3%増)、営業利益は486億4百万円(同10.5%減)、経常利益は754億14百万円(同1.9%減)となりました。関係会社株式売却益等の計上により、当期純利益は948億41百万円(同49.2%増)となりました。
b.海外事業
海外事業の売上総利益のオーガニック成長率(為替やM&Aの影響を除いた内部成長率)は、地域別では、EMEAが7.4%、Americasが4.9%、APACが△1.7%となりました。APACはインド、タイ、台湾は好調でしたが、中国とオーストラリアの不振が響きました。堅調に推移したEMEAとAmericasがけん引し、全体では4.3%となりました。引き続きデジタル領域の強化に取り組み、堅調なオーガニック成長を実現することができました。M&Aの貢献もあり海外事業の売上総利益は、5,638億52百万円(前期比9.3%増、実質9.3%増)となりました。
調整後営業利益は、新しい成長フェーズのための企業基盤整備を目的とした費用の増加などにより、729億63百万円(同2.9%減、実質2.9%減)となりました。前期比では減少しましたが、ほぼ計画通りの結果となりました。
当連結会計年度末の財政状態については、前連結会計年度末と比べ、主に現金及び現金同等物が増加したことから、資産合計で756億31百万円の増加となりました。一方、主に社債及び借入金が増加したことから、負債合計で1,150億15百万円の増加となりました。また、主に在外営業活動体の換算差額が減少したことから、資本合計は393億84百万円の減少となりました。
(2) キャッシュ・フロー
当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、4,166億68百万円(前連結会計年度末3,057億60百万円)となりました。営業活動による収入および財務活動による収入が投資活動による支出を上回ったため、前連結会計年度末に比べ1,109億7百万円の増加となりました。
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動の結果により得た資金は、1,330億49百万円(前連結会計年度1,415億57百万円の収入)となりました。主に税引前利益の計上によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動の結果支出した資金は、613億82百万円(前連結会計年度855億31百万円の支出)となりました。主に、有価証券の売却による収入により資金が増加した一方で、固定資産の取得による支出、子会社の取得による支出および有価証券の取得による支出により資金が減少したことによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動の結果により得た資金は、575億22百万円(前連結会計年度12億26百万円の収入)となりました。主に社債の発行による収入によるものです。
(生産、受注及び販売の状況)
販売実績
当連結会計年度におけるセグメントの販売実績(売上高)は次のとおりであります。
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 前連結会計年度比(%) |
国内事業 | 1,877,080 | 100.8 |
海外事業 | 3,480,198 | 104.7 |
計 | 5,357,278 | 103.3 |
(注) 1 セグメント間取引については相殺消去しております。
2 売上高は当社グループが顧客に対して行った請求額および顧客に対する請求可能額の総額(割引および消費税等の関連する税金を除く)であり、IFRSに準拠した開示ではありません。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会により公表されたIFRSに基づき作成されております。
また、当社経営陣は、連結財務諸表の作成に際し、決算日における資産・負債の報告数値および偶発債務等オフバランス取引の開示、報告期間における財政状態および経営成績について影響を与える見積りを行わなければなりません。経営陣は、例えば、投資、企業結合、退職金、法人税等、偶発事象や訴訟等に関する見通しや判断に対して、継続して評価を行っております。経営陣は、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積りおよび判断を行い、その結果は、資産・負債の簿価、収益・費用の報告数字についての根拠となります。実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。
当社は、特に以下の重要な会計方針について、当社グループの財政状態および経営成績に特に影響を与える、あるいは、当社の連結財務諸表の作成において使用される当社の重要な判断と見積りにより、大きな影響を受けると考えております。
① 収益の認識
「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 (15)収益」をご参照下さい。
② 有形固定資産、のれん、無形資産および投資不動産の減損
当社グループは決算日において、棚卸資産および繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、または減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産または資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産または資金生成単位の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には、当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。
これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
③ 金融商品の評価
当社グループは有価証券やデリバティブ等の金融資産を保有しており、当該金融資産の評価に当たり一定の仮定を用いております。公正価値は、市場価格の他、マーケット・アプローチ等の算出手順に基づき決定しております。具体的には、株式およびその他の金融資産のうち活発な市場が存在する銘柄の公正価値は市場価格に基づいて算定し、活発な市場が存在しない銘柄の公正価値は観察可能な市場データを用いて算定した金額若しくは観察不能なインプットを用いて主としてマーケット・アプローチで算定した金額で評価しております。
企業結合の結果生じる条件付対価および株式買取債務の公正価値等は、観察不能なインプットを用いて割引キャッシュ・フロー法で算定した価額で評価しております。
当社経営陣は金融商品の公正価値等の評価は合理的であると判断しておりますが、予測不能な前提条件の変化等により見積りの変更が必要となった場合、認識される公正価値等の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
④ 確定給付制度債務の評価
確定給付制度債務および退職給付費用は、年金数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の報酬水準、退職率、死亡率等が含まれます。
当社経営陣はこれらの前提条件は合理的であると判断しておりますが、実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、認識される費用および計上される債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 引当金
当社グループは、過去の事象の結果として現在の法的または推定的債務を有しており、債務の決済を要求される可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性のある見積りが可能である場合に引当金を認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。
これらの引当金は、決算日における不確実性を考慮した最善の見積りにより算定しておりますが、予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、計上される債務の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除および将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。
当社グループは、将来の課税所得および慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用および計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(2) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 収益および売上総利益
当連結会計年度における当社グループの収益は1兆185億12百万円(前連結会計年度比9.7%増)、売上総利益は9,326億80百万円(同6.3%増)となりました。
売上総利益のうち、国内事業は、3,692億58百万円(同2.0%増)と前連結会計年度を上回りました。
海外事業の売上総利益は5,638億52百万円(同9.3%増)となりました。また、海外事業の売上総利益のオーガニック成長率は、4.3%となりました。地域別では、EMEAが7.4%、Americasが4.9%、APACが△1.7%となりました。
② 販売費及び一般管理費、その他の収益、その他の費用および営業利益
当連結会計年度における当社グループの販売費及び一般管理費は、8,200億58百万円(前連結会計年度比9.1%増)となりました。
また、その他の収益は111億68百万円(同52.2%減)、その他の費用は121億51百万円(同4.6%増)となりました。
これらの結果、当連結会計年度における営業利益は1,116億38百万円(同18.7%減)となりました。
③ 持分法投資利益、関連会社株式売却益、金融損益および当期利益
当連結会計年度の持分法投資利益は26億99百万円(前連結会計年度比36.1%減)、関連会社株式売却益は521億27百万円、金融収益から金融費用を減じた金融損失は177億13百万円となり、この結果、税引前利益は1,487億51百万円(同0.6%減)となりました。
税引前利益から法人所得税費用を控除した当期利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期利益は903億16百万円(同14.4%減)となりました。
(3) 経営成績に重要な影響を与える要因について
「2 事業等のリスク」をご参照下さい。
(4) 経営戦略の現状と見通し
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。
(5) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
① 資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、広告作業実施のための媒体料金および制作費の支払等ならびに人件費をはじめとする販売費及び一般管理費であります。
また、近年においては既存事業の拡大、新規事業の発掘および開発のため、グローバル事業やデジタルテクノロジー領域をはじめとした様々な領域への投資に係る資金需要が生じております。
② 財務政策
当社グループは、運転資金につきましては、内部資金、社債、コマーシャル・ペーパーまたは短期借入金により調達することとしております。流動資産から流動負債を控除した運転資本については、当社グループでは流動資産が上回っています。前連結会計年度および当連結会計年度における当社グループの運転資本は、それぞれ943億円および1,499億円の超過となっております。
当社は、資金の短期流動性を確保するため、シンジケーション方式による極度額500億円の銀行融資枠を設定しています。また、電通イージス・ネットワーク社においては、緊急時対応として、500百万ポンド(約700億円)の銀行融資枠を設定しています。さらに、グループ内の資金効率の向上を図るべく、日本においては、資金余剰状態にある国内子会社から当社が資金を借り入れ、資金需要が発生している国内子会社に貸出を行うキャッシュ・マネジメント・システム(以下CMS)を導入しております。電通イージス・ネットワークでは、海外の資金をロンドンに集約させるグローバルCMSを導入しています。
当社は、今後の事業展開に必要な資金の確保を目的として、2018年3月15日開催の取締役会において、無担保普
通社債の発行に関する包括決議を行いました。当該社債の発行総額は1,000億円以内、日本国内で公募し、2018年10月25日に800億円の社債を発行いたしました。資金の使途は、投融資資金、借入金返済資金および運転資金への充当を行うこととしております。
なお、当社は、格付機関である㈱格付投資情報センター(R&I)から長期格付AA-、短期格付a-1+を取得しております。
(6) 経営者の問題意識と今後の方針について
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。
(経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報)
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と日本基準により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項
(1) のれんの償却
日本基準の下ではのれんをその効果が発現すると合理的に見積もられる期間にわたり規則的に償却しておりましたが、IFRSでは移行日以降の償却を停止しております。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、販売費及び一般管理費が前連結会計年度は378億52百万円減少、当連結会計年度は411億93百万円減少しております。
(2) 資本性金融商品の処分に係る利得又は損失
日本基準の下では資本性金融商品の処分に係る利得または損失は収益または費用として計上しておりましたが、IFRSではその他の包括利益として認識しております。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、前連結会計年度は金融収益が13億72百万円減少、当連結会計年度は金融収益が44億77百万円減少、金融費用が43億69百万円減少しております。