有価証券報告書-第172期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/26 14:41
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139項目

対処すべき課題

当社グループの事業環境は近年大きな変化の渦中にあります。生活者はデジタル化の進展により個人化された顧客体験を求め、これに対応するため、広告会社の事業モデルは従来的なエージェンシーモデルから顧客企業とのパートナーシップへと移行しつつあります。また、価値提供の手法はテクノロジー、オートメーション、アウトソーシングの活用が進展しています。
2020年はコロナ禍がこれらの変化を加速させました。新型コロナウイルスの世界的蔓延は、生活者の行動様式と価値観を大きく変化させ、Eコマースへの急速な傾倒に代表される消費行動、メディア接触行動などに顕著な変化が認められます。また、世界的な危機に際し、社会的課題への意識が従来以上に高まっています。
企業においても、こうした生活者の意識・行動の変化への対応に加え、リモートワーク対応など企業活動の本質的な転換が迫られ、いわゆるデジタルトランスフォーメーションと呼ばれる企業経営全般の基盤のデジタル化が求められるなど、各企業の経営および事業課題は広範化・複合化し、より高度なアプローチを必要としています。国内・海外を問わず、当社グループの顧客のニーズは従来の広告・コミュニケーション領域を超え、顧客各社の事業戦略に基づいた統合的な課題解決力や、データを駆使した企画提案・実施力が求められています。それに伴い、コンサルティング業界など広告業界以外の企業と競合するケースが増えつつあり、当社グループを取り巻く競争環境は厳しさを増しています。加えて、社会課題への適切な対応が、当社グループを含む全ての企業の命題となっており、その成否が企業の存亡を左右することも広く認識されていると考えます。
こうした急速な変化に迅速に対応すべく、当社グループは2020年8月より「包括的な事業オペレーションと資本効率に関する見直し」と呼ぶ構造改革に着手し、2020年度中に海外事業の構造改革や保有株式の売却などの一部施策を実施してきました。2021年度は国内外でのさらなる構造改革やバランスシートの効率化に向けた施策を遂行します。
さらに、新たな事業環境に即応し、そこに見出される事業機会を的確に捉えるための事業変革と、その先の事業成長を具体化していくために、2021年度から2024年度までの4年間を対象とする「中期経営計画―構造改革と事業変革による持続的な成長の実現―」を策定し、2021年2月に公表いたしました。本計画では、既に着手している構造改革を加速するとともに、業績の回復から事業変革を通じた成長の実現と企業価値の持続的な向上を図るべく、以下の4点に注力してまいります。
1. 事業変革による成長戦略の実践
2. 収益性と効率性の改善
3. 株主価値の持続的向上、財務基盤の改善
4. ESG経営の推進
(1)中期経営計画における4つの柱
① 事業変革による成長戦略の実践
高度化・複合化する顧客の課題に対し、当社グループは保有するユニークかつ多岐に渡る事業資産・ケイパビリティを活かし、それらを適切に組み合わせた統合的解決手段として提供する「Integrated Growth Solutions」による顧客事業の成長貢献を事業戦略の核に据えています。
クリエーティビティなどマーケティング・コミュニケーションで培ったノウハウを、データとテクノロジーと融合して進化させるとともに、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」事業と位置づけた顧客企業の事業変革を支援する領域を強化し、データとインサイトによるコンシューマー・インテリジェンスを活用した統合ソリューションとして提供するモデルを確立してまいります。
当社グループは、その発展の歴史の中で、ケイパビリティを拡張し収益源を多様化してまいりました。「マーケティング・コミュニケーション」領域には、コンテンツ、メディア、クリエーティブがあり、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域には、マーケティング・テクノロジー、カスタマーエクスペリエンスマネジメント、コマース、システム・インテグレーション、トランスフォーメーション & グロース戦略が含まれます。このサービスカバレッジの多様さが当社グループの競争優位の源泉となります。更に、独自のデータ基盤に基づく、コンシューマー・インテリジェンス(生活者の行動理解に結びつけるデータ・アナリティクスとインサイト)によってこれらの幅広いケイパビリティを支えております。加えて、テクノロジー企業やプラットフォーマーとのアライアンスを構築し、これら企業のマーケティング・テクノロジーの導入支援・分析ツールの活用におけるリソースを拡充しており、その規模・質は市場において競争力を発揮しております。
これらの優位性を活かしながら、新しいテクノロジーやソリューション開発、イノベーションへの投資を通じたオーガニック成長と、成長領域であるカスタマートランスフォーメーション&テクノロジーへフォーカスしたM&A・投資によりケイパビリティとスケールを拡充し、事業変革の実現を目指します。
② 収益性と効率性の改善
包括的見直しにより、国内事業・海外事業における構造改革を進めてまいります。
国内事業では、「ビジネスフォーメーションの変革」、「人財フォーメーションの変革」、「オフィス環境の進化」を推進します。「ビジネスフォーメーションの変革」により、最高品質かつ最も効率的なバリューチェーンで顧客企業へ提供するため、現在の国内事業の事業領域である「広告」、「クリエーティブ」、「マーケティング・プロモーション」、「デジタル」、「メディア」、「コンテンツ」などを、4つの事業領域(「AX(Advertising Transformation)領域」、「BX(Business Transformation)領域」、「CX(Customer Experience Transformation)領域」、「DX(Digital Transformation)領域)」)に変革します。2021年度末までにこの変革の完了を目指します。この4つの事業領域が生み出す価値を高めるため国内事業を構成する電通ジャパンネットワーク(DJN)各社の機能を、専門領域やシナジー創出の観点からグルーピングし、バーチャル組織の設置も含めて、最適化していきます。「人材フォーメーションの変革」では人財の再配置、および新たな成長のために必要な人財を見据えた採用戦略の見直しの実施を検討しています。「オフィス環境の進化」では、汐留の電通本社ビルをDJN全体の中核となる事業拠点とし、各社が相互に繋がりシナジーを高度化し、事業を創発する場へと進化させます。DJN各社の執務・共有スペースを新しい働き方に適した設計のもとに配置することで、固定費の低減と同時に、従業員がより生き生きと効率的に働ける環境を整備します。
海外事業では、2年間で、現在160以上あるエージェンシーブランドの数を6つのグローバルリーダーシップブランドへ統合します。より統合され、効率化された組織構造に変革することで、アイデアが先導し、データが推進し、テクノロジーが実現するソリューションを、個々の顧客企業に最適な形で提供できる状態を目指します。
これらの包括的見直しを端緒とした構造改革の諸施策の着実な遂行に加え、収益性改善を恒常的な効果とするための施策を継続的に検討してまいります。ニアショア・オフショアやRPAの活用などの事業基盤構築による効率化や、国内外での事業再編を通じた重複機能の排除、業務の標準化とIT基盤の整備などを通じた管理コストの縮減を進めてまいります。また、リモートワークの浸透などを踏まえた最適なオフィス活用のあり方を再考し、不動産保有の方針も含めて検討してまいります。
③ 株主価値の持続的向上と、財務基盤の改善
構造改革・事業変革に必要な資金を確保する観点から、健全なバランスシートの維持は重要な経営課題です。短期的にはコロナ禍による不透明な事業環境をマネージしつつ、中長期的な事業変革や成長戦略を支える財務基盤を維持するために適切なレバレッジ水準を設定するとともに、非事業資産の処分なども含めた総合的な施策を続けてまいります。また、より明確な株主還元を行うため、利益に応じた配当方針へ変更し、利益の回復・成長に応じた適切な還元を行います。他方、成長に向けた投資については事業環境を注視した保守的な水準を維持し、規律ある投資を行ってまいります。事業変革および投資を通じた事業成長、利益成長を通じた株主価値の持続的向上に努めてまいります。
④ ESG経営の推進
当社グループは、ESG経営を一層重視してまいります。当社グループ自身の取組みとして、気候変動への影響緩和に寄与する活動、ダイバーシティとインクルージョンの企業文化の醸成と機会の提供によるグループ内のすべての人財の成長支援など多様な活動を積極的に推進します。また、広告事業におけるノウハウを活用し、より良い選択を生活者に促し、持続可能な消費と生産を促進する対外的活動にも取り組んでまいります。加えて、当社グループ内と顧客に対し、協働で持続可能な社会的価値を創造し、世界の発展と成長に貢献することを目指してまいります。
コーポレートガバナンス面においても、長期的な事業成長に資するガバナンス体制の高度化を図るべく、様々な施策を検討してまいります。
当社グループの環境負荷低減活動、ダイバーシティ&インクルージョン対応、責任あるコミュニケーション・コンテンツ制作方針、SDGsアクションなど、個別活動の詳細については、「電通統合レポート」(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/reports/)をご覧ください。
(2)中期経営計画の経営目標と経営方針
中期経営計画の経営目標と経営方針は以下のとおりです。
経営目標
・オーガニック成長率
2021~24年度の平均成長率で3~4%
・オペレーティング・マージン
2021年度から2024年度にかけて漸進的に改善
・売上構成比に占めるカスタマートランスフォーメーション&テクノロジー構成比
当中期経営計画期間を通じて向上させ、将来的には50%へ
・ESG経営の推進
2030年までにCO2排出量を46%削減、2030年までに再生可能エネルギー使用率100%を達成など、複数の目標とアクションプランを設定
従業員エンゲージメントスコアの向上
従業員のダイバーシティ&インクルージョンを推進
経営方針
・新たな配当方針:配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース)を今後数年で35%へと漸進的に引き上げ
・中期的なNet Debt/EBITDA倍率を1.5倍水準(IFRS第16号の適用影響を控除したベース)(但し、短期的にはより低
い水準)で管理