有価証券報告書-第10期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/26 15:42
【資料】
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【項目】
138項目
(1) 分析の前提
財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析は、当社グループの連結財務諸表に基づいて実施されております。当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。
連結財務諸表の作成にあたっては一部に見積りによる金額を含んでおりますが、見積りにつきましては、過去実績や状況に応じ合理的と考えられる要因等に基づいており、妥当性についての継続的な評価を行っています。しかしながら、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果はこれらの見積りと異なる場合があります。連結財務諸表に影響を与え、より重要な経営判断や見積りを必要とする会計方針は以下のとおりであります。
a. 貸倒引当金
債権の貸倒による損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権につ
いては個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しております。
相手先の財政状態が悪化し支払能力が低下した場合、追加の引当金を計上する可能性があります。
b. 固定資産の減損
市場価格、営業活動から生ずる損益等から減損の兆候が識別された場合、将来の事業計画等を考慮して、減損
損失の認識の判定を行い、減損損失を認識すべきであると判定した場合は帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を計上しております。
将来の市況悪化等により事業計画が修正される場合、減損処理を行う可能性があります。
c. 投資有価証券・関係会社株式
市場価格のない投資有価証券又は関係会社株式を所有しており、実質価額が取得原価に比べ50%程度以上低下した場合には実質価額まで減額を行うこととしている。ただし、非上場の子会社株式の実質価額について、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において減額は行わないこととしております。
実質価額は、通常は、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額ですが、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合があるものとしております。
超過収益力については、四半期毎に、会社の業績等を把握するとともに将来の事業計画に基づく決算予測数値との比較分析を実施すること等により、当該超過収益力の毀損の有無を確認しております。
なお、将来の市況悪化または投資先の業績不振等により、現在の帳簿価額に反映されていない損失が生じ、減損処理を行う可能性があります。
d. 繰延税金資産
財務諸表と税務上の資産または負債の額に相違が発生する場合、将来減算一時差異に係る税効果について、繰
延税金資産を計上しております。繰延税金資産のうち、実現が不確実であると考えられる金額に対し評価性引当
額を計上して繰延税金資産を減額しております。
繰延税金資産の実現の可能性により、評価性引当額が変動し損益に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの連結財務諸表作成にあたって採用しているその他の重要な会計方針は、「第5 経理の状況1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)及び(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
なお、当社グループは、AP事業を主要な事業としており、他の事業セグメントの重要性が乏しいため、セグメント情報の記載を省略しております。当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分に基づいて記載しております。
本項に記載した将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(2) 当社グループの事業に影響を与える経営環境に対する評価
当社グループは、機械(コンピュータやロボット)の「眼」に相当する人工知覚のアルゴリズムの研究開発とライセンス提供を行っております。人工知覚は機械の「脳」に相当する人工知能と並び相互補完するDeep Tech(深層技術)として、機械が自律的に機能できるように進化させる技術です。
当社グループの基幹技術は、独自のSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術であり、機械が動きながらリアルタイムでの位置認識と地図作成を行うものです。2021年3月期には、当業界における当社グループの優位性を強化するため、同研究分野を世界的にリードしている独ミュンヘン工科大学発のArtisense Corporation(本社:米国カリフォルニア州、以下アーティセンス社)をグループ会社化しました。これにより、アーティセンス社の独自技術である次世代アルゴリズム(直接法SLAM)や、人工知覚と人工知能の融合技術(GN-net)等を販売ラインナップに加え、より幅広い顧客ニーズへの対応を強化しました。前期2023年3月期には、技術戦略における複数のマイルストーンを達成いたしました。一つ目は、アーティセンス社の直接法SLAMと当社が従来から保有する間接法SLAMとのハイブリッド化に成功し、基本性能の向上を実現しました。二つ目は、当社技術を組み込んだ顧客の商用製品の販売開始(顧客製品化)を複数達成し、中でもIntel社のロボット開発プラットフォームへの本格採用は、当技術領域の専門企業による世界初の大手半導体メーカーのプラットフォームへの商用SLAM採用として、業界における大きなマイルストーンとなりました。三つ目は、今後の更なる顧客製品化の促進のため、顧客製品の開発・試験運用の期間を短縮し、直接製品として実用化も可能な、マッピング用製品向けパッケージを当社グループ自ら開発、販売開始しております。当期2024年3月期には、今後の成長の二本柱となる「顧客製品化」と、当社人工知覚技術を活用して最終顧客に対して運用や付加価値サービスの提供までをパートナーと共に行う「ソリューション化」を推進してまいりました。顧客製品化においては、ドローンや自動運転などより幅広い領域における案件拡大を達成し、また、ロボット用の製品向けパッケージの販売を開始し、ロボティクス案件拡大の加速に向けて取り組んでおります。ソリューション化においては、欧州の新エネルギー設備管理向けのデジタルツイン用途のソリューション提供が立ち上がり、案件の大型化に向けて進めております。これらにより、当社グループの技術優位性を大きく強化することができましたが、今後は公共案件を含むロボティクス・自動運転領域におけるソリューション化や半導体や生成AIを含む人工知能との技術融合なども推し進め、より革新性の高い人工知覚技術の開発を推進してまいります。
経営体制については、グローバルにおける機動的な執行及び短期と中長期の二軸経営の強化を目的として複数代表取締役体制の採用をしております。これにより代表取締役CEOの項が当社グループ全般の事業経営を統括し、代表取締役大野は中長期の成長に向けた次世代Deep Techへの投資や新領域強化を目指します。
事業戦略については、次世代産業の発展と人工知覚技術の市場拡大が急激に進むことを見据えて、代替や置き換えが困難なアルゴリズム層への集中を行なっています。最終製品の普及にともなう評価・開発フェーズ売上から製品化フェーズにおける製品関連売上中心への移行、売上拡大を目指しており、短中期では製品普及の早いロボティクス・マッピング領域中心に継続的な顧客製品化及び市場販売の拡大を目指しながら、中長期では更なる注力領域の拡大と製品関連売上の積み上げ、飛躍的な利益拡大を目指してまいります。加えて、販売戦略として、人工知覚と補完性が高いセンサ・半導体企業、システムインテグレータ、技術商社との提携拡大を通して、販売チャンネルとラインナップの拡大を進めています。
市場環境については、人と人の交流や共同作業を要しないオペレーションの省人化やリモート化需要が全ての産業で急増しており、特に、物流・製造・建設・インフラ等の領域におけるロボティクス・マッピング等の自動化技術のニーズ増大が顕著であります。加えて、足元での人工知能技術の進化に伴い、機械と現実空間を繋げる人工知覚のニーズの今後益々の拡大が見込まれています。この影響により、更なる顧客製品化に向けた案件は着実に進捗しており、足元で特に注力しているロボティクス・マッピングに加えて、自動運転やその他次世代産業など特定の技術領域や産業での利用に限定されない幅広い範囲でのSLAM産業の高成長及び当社グループ技術の社会実装に伴う収益機会の拡大を引き続き見込んでおります。
(3) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討
①経営成績
顧客製品化案件の伸長・領域拡大による製品関連売上の増加やソリューション化の進展により売上拡大を継続しております。
継続的な事業拡大及び体制拡大に伴い、販売費及び一般管理費は966,177千円(前年同期比24.6%増)に増加し、主な内訳は人件費357,578千円、経費及び償却費287,844千円、研究開発費320,714千円であります。その他、急激な為替レートの変動による為替差益384,399千円(前年同期比163.0%増)、研究開発に対する補助金収入100,457千円、取得した固定資産の評価減に伴う減損損失18,249千円が発生しております。
この結果、当連結会計年度の売上高は490,952千円(前年同期比47.5%増)、営業損失は527,176千円(前年同期は営業損失598,699千円)、経常損失は50,494千円(前年同期は経常損失394,518千円)、親会社株主に帰属する当期純損失は69,918千円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純損失413,571千円)となりました。
(4) 生産、受注及び販売の状況
①生産実績
当連結会計年度における生産実績は、当社グループ全体の事業活動において重要性が乏しいため、記載を省略しております。
②受注実績
当連結会計年度における受注生産に関する実績は、当社グループ全体の事業活動において重要性が乏しいため、記載を省略しております。
③販売実績
当連結会計年度における販売実績は、次のとおりであります。
(単位:千円)
セグメントの名称販売高前年同期比(%)
AP事業490,952147.5%
合計490,952147.5%

CVC事業について量的な重要性が乏しくなったため、報告セグメントから「その他」に変更しております。この変更に伴い、当社グループの報告セグメントがAP事業のみとなっております。
(単位:千円)
顧客前連結会計年度当連結会計年度
販売高割合販売高割合
Whale Dynamic Holding (Hong Kong) Limited―%240,00048.9%
Nissan Mortor Manufacturing (UK) Limited48,46014.6%―%
NTTグループ88,59226.6%―%

(注)1 前連結会計年度又は当連結会計年度の総販売実績に対する割合が10%未満の場合、該当する連結会計年度の実
績値の記載を省略しております。
2 売上高には、当該顧客と同一の企業集団に属する顧客に対する売上高を含めております。
②財政状態
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は1,953,600千円(前連結会計年度末比962,133千円増)となりました。これは主に、現金及び預金の増加(同867,656千円増)、売掛金及び契約資産の増加(同61,517千円増)によるものであります。
また、固定資産は424,815千円(前連結会計年度末比408,206千円増加)となりました。これは主に、投資有価証券が増加(同400,000千円増)したことによるものであります。
以上の結果、資産合計は2,378,416千円(前連結会計年度末比1,370,339千円増)となりました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は280,887千円(前連結会計年度末比39,308千円増)となりました。これは主に、契約負債の増加(同10,090千円増)及び未払法人税等の増加(同10,726千円増)によるものであります。
また、固定負債は6,716千円(前連結会計年度末同額)となりました。
以上の結果、負債合計は287,603千円(前連結会計年度末比39,308千円増)となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産は2,090,813千円(前連結会計年度末比1,331,031千円増)となりました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純損失(69,918千円)、株式発行に伴う資本金及び資本剰余金の増加(前連結会計年度末比計1,767,553千円増)及び為替換算調整勘定の減少(同363,410千円減)によるものであります。
③キャッシュ・フロー
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、490,837千円の支出(前年同期は619,044千円の支出)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失68,743千円、減損損失18,249千円、為替差益390,608千円、棚卸資産の増加額12,266千円、売上債権及び契約資産の増加額41,901千円及び法人税等の還付額17,502千円によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、432,784千円の支出(前年同期は20,338千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出18,249千円、投資有価証券の取得による支出400,000千円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは1,759,564千円の収入(前年同期は870,087千円の収入)となりました。これは主に、株式の発行による収入1,755,991千円によるものです。
以上の他、現金及び現金同等物に係る換算差額の影響もあり、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末と比べ867,656千円増加し、1,719,733千円となりました。
④資本の財源及び資金の流動性に関する分析
当社グループは、円滑な事業活動に必要なレベルの流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金政策の基本方針とし、事業展開および研究開発に係る資金需要に対して機動的に対応できるだけの十分な現金及び現金同等物の保有を図っております。
当社グループは、アルゴリズムの研究開発による事業を行っていることから運転資金の大部分は研究開発費を含む人件費関連コストであり、かつ少数の従業員での事業展開を行ってきております。したがって、必要となる運転資金の水準は相対的に低く、資金需要を満たすための資金は、原則として、営業活動によるキャッシュ・フローを財源といたします。しかしながら、ロボティクス・自動運転・ドローン等多くの産業で自動化技術のニーズが高まりAP(人工知覚)関連産業の規模拡大が見込まれる中で、AP(人工知覚)市場における専業独立企業としてのシェアの維持・更なる拡大を推進するための中長期的な経営体制を構築するため、必要に応じて金融機関からの借入・新規株式発行を含む資金調達を実行し、顧客製品化案件の拡大を含む当社グループの中長期における飛躍的な成長を目指してまいります。