有価証券報告書-第127期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)
当社グループの財政状態及び経営成績は次の通りです。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、判断したものであります。
なお、当社グループの業績管理は、事業セグメント損益及び営業損益により行われております。事業セグメント損益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績」という。)の状況の概要は次の通りであります。
①経営成績の状況
当期における世界経済を振り返りますと、米国においては、雇用や所得環境の回復を背景に個人消費は拡大が持続したことに加え、内需の拡大により企業収益も改善するなど、景気は回復基調が続いているものの、米中貿易摩擦による中国の景気減速や、英国Brexitをめぐる不透明感の高まりなどにより、欧州を中心に景気の見通しは予断を許さない状況となっています。
当社グループの関連市場では、モノクロレーザー複合機・プリンターの需要は、グローバルで概ね安定的に推移しました。インクジェット複合機は、先進国での需要は若干縮小したものの、新興国では大容量タンクモデルの需要が拡大しました。家庭用ミシンは、概ね安定的に推移しました。工業用ミシンは、中国・アジアを中心に需要が拡大しました。産業機器は、中国向けを中心に外需が落ち込み、内需にも減速感が出てきました。国内におけるカラオケ市場は、概ね安定的に推移しました。ドミノ事業は、コーディング・マーキング機器、デジタル印刷機とも需要の拡大が持続しました。
このような状況の中、当社グループの連結業績は、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業は、モノクロレーザー複合機がグローバルで堅調に推移したほか、インクジェット複合機では、大容量タンクモデルの新製品が好調に推移しました。マシナリー事業は、産業機器の中国における需要低迷、及びIT関連における需要減の影響が大きく、事業全体で大幅な減収となりました。ドミノ事業は、グローバルに安定的な成長が続き、堅調に推移しました。
これらの結果、売上収益は、前期比4.1%の減収となる683,972百万円、事業セグメント利益は、前期比6.8%の減益となる71,973百万円となりました。営業利益は、為替予約の評価損の影響がなくなったことにより、前期比4.7%の増益となる71,925百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比7.8%の増益となる53,902百万円となりました。
*平均為替レート(連結)は次の通りであります。当期 米ドル :110.69円 ユーロ :128.43円
前期 米ドル :110.81円 ユーロ :129.45円
セグメント別の業績は、次の通りであります。
1) プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
売上収益 403,036百万円(前期比△2.2%)
○通信・プリンティング機器 353,120百万円(前期比△3.2%)
主にSOHO市場向けのモノクロレーザー製品がグローバルで堅調に推移したことに加え、インクジェット複合機の新興国向けの大容量タンクモデルの販売が計画を上回るペースで進捗したものの、IFRS第15号の適用による影響や為替のマイナス影響もあり、事業全体では減収となりました。
○電子文具 49,916百万円(前期比+5.6%)
「ピータッチ」ブランドで展開するラベルライター・ラベルプリンターが、グローバルで堅調に推移したことに加え、モバイルプリンターを中心とするソリューション分野が好調に推移し、事業全体で増収となりました。
事業セグメント利益 52,181百万円(前期比△1.3%)
営業利益 52,903百万円(前期比+11.7%)
事業セグメント利益は、ほぼ前年並みの水準となりました。営業利益は、為替予約に関する評価損の影響がなくなったことにより、大幅な増益となりました。
2) パーソナル・アンド・ホーム事業
売上収益 45,445百万円(前期比+2.2%)
米国で販売を開始した最高級刺しゅうミシンが好調に推移したことなどにより、増収となりました。
事業セグメント利益 4,037百万円(前期比+103.8%)
営業利益 4,028百万円(前期比+283.1%)
最高級刺しゅうミシンの販売好調による製品構成の変化により、大幅な利益改善となりました。
3) マシナリー事業
売上収益 104,130百万円(前期比△18.2%)
○工業用ミシン 32,626百万円(前期比+4.9%)
工業用ミシンは、中国での需要が堅調に推移しました。ガーメントプリンターも欧米を中心に需要拡大が続きました。これらにより、事業全体でも増収となりました。
○産業機器 51,768百万円(前期比△31.9%)
自動車・一般機械関連は、国内向けの需要は堅調に推移したものの、後半は中国向けの需要に減速感が出
てきました。IT関連でも、中国向けを中心に需要が落ち込み、事業全体では大幅な減収となりました。
○工業用部 19,735百万円(前期比△2.2%)
海外の景気減速の影響により、減収となりました。
事業セグメント利益 9,753百万円(前期比△32.4%)
営業利益 9,910百万円(前期比△29.9%)
主に産業機器が減収となった影響により、減益となりました。
4) ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
売上収益 47,926百万円(前期比△2.3%)
前期に発売した新モデル「JOYSOUND MAX2」の需要が一巡したことに加え、売買取引が中心であった前期と比較して、当期はレンタルでの取引が増加したこともあり、減収となりました。
事業セグメント利益 1,778百万円(前期比△33.2%)
営業利益 1,593百万円(前期比+18.6%)
減収に伴い、事業セグメント利益は大幅な減益となりました。営業利益は、前期に計上した減損損失がなくなったことにより増益となりました。
5) ドミノ事業
売上収益 71,234百万円(前期比+4.2%)
コーディング・マーキング機器、デジタル印刷機とも、グローバルで堅調に推移し、増収となりました。
事業セグメント利益 3,948百万円(前期比△14.9%)
営業利益 2,864百万円(前期比△28.4%)
事業セグメント利益は、減益となりましたが、社内計画に対しては概ね想定どおりの水準となりました。営業利益は、開発プロジェクトの見直しにより、開発資産の除却損を計上したことにより、減益となりました。
②財政状態の状況
資産合計は、営業債権及びその他の債権や円高に伴う為替影響によるのれん及び無形資産が減少した一方、現金及び現金同等物や棚卸資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ325百万円増加し、708,604百万円となりました。
負債合計は、営業債務及びその他の債務、社債及び借入金の減少などにより、前連結会計年度末に比べ28,773百万円減少し、267,010百万円となりました。
資本合計は、当期利益による利益剰余金の増加、在外営業活動体の換算差額の影響などにより、前連結会計年度末に比べ29,098百万円増加し、441,593百万円となりました。
*当期における期末為替レートは、次の通りです。
米ドル :110.99円 ユーロ :124.56円
③キャッシュ・フローの状況
現金及び現金同等物(以下「資金」)は、営業活動により73,280百万円増加、投資活動により22,624百万円減少、財務活動により39,040百万円減少等の結果、当連結会計年度は前連結会計年度に比べ9,767百万円増加し、131,152百万円となりました。
当期における各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は、次の通りです。
1)営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前利益は72,274百万円で、減価償却費及び償却費33,674百万円など、非資金損益の調整による資金の増加や、棚卸資産の増加による資金の減少12,179百万円などがあり、法人所得税の支払額17,459百万円などを差し引いた結果、73,280百万円の資金の増加となりました。
2)投資活動によるキャッシュ・フロー
有形固定資産の取得による支出17,673百万円、無形資産の取得による支出7,794百万円などにより、22,624百万円の資金の減少となりました。
3)財務活動によるキャッシュ・フロー
配当金の支払額15,603百万円、社債の償還による支出20,231百万円などにより、39,040百万円の資金の減少となりました。
④生産、受注及び販売の状況
1)生産実績
当社グループの生産実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。
2)受注実績
当社グループの生産活動は、その多くを見込生産で行っておりますので、受注実績は記載しておりません。
3)販売実績
当社グループの販売実績は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6.セグメント情報」を参照ください。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討事項
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成されております。
IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営者は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を行うことが要求されております。当社グループの判断、見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。
なお、当社グループの連結財務諸表において採用する重要な会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
1)当連結会計年度の経営成績
経営成績は、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照ください。
2)経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループは、製品・サービスの販売、製品の製造など、事業活動の大半を海外で展開しております。よって、グループの業績は、各国の市場動向、為替動向、海外工場におけるモノづくり力の維持・強化など、様々な要因により影響を受ける可能性があると認識しております。
まず為替リスクに対する対応としては、利益への影響が大きいユーロについては、一定の基準に基づき為替予約を行うことで、急激な為替レートの変動が業績に与える影響をコントロールしております。
製造面に関しては、コストダウンや様々なリスクヘッジを目的に、各事業とも中国を中心とした体制から、ベトナムやフィリピンといったアジア地域を中心とした体制へとシフトを進めております。製造拠点を分散化させることで、災害や事故などのリスクを低減し、安定した製品供給を実現してまいります。
また、事業別に見ると、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業が占める割合は売上収益の58.9%、事業セグメント利益の72.5%を占めており、P&S事業の業績動向が経営成績に重要な影響を与える最大の要因となっております。当社グループは、SOHO向けのレーザー複合機・プリンターにおいて、米国や西欧などの先進国地域を筆頭にグローバルで高いシェアを保持しているだけでなく、収益性についても、事業セグメント利益率12.9%と、高い収益性を実現しております。この分野においては、競合企業間の事業再編の影響などもあり、競争環境は比較的穏やかな状況が継続していることから、今後もグループ全体の収益を支える事業として、持続的な成長を実現してまいります。一方でこの分野は、デジタルデバイスの普及や、インターネットを中心としたテクノロジーの進化、オフィスにおける働き方の変化、顧客の購買方法の変化など、ビジネス環境が刻々と変化していることから、持続的な成長の実現に向けて、変化への対応力が求められております。
ブラザーグループは、このような状況に対応するため、2021年度を最終年度とする中期戦略「CS B2021」(2019年度~2021年度)を策定し、「次なる成長に向けて」をテーマに、成長基盤の構築を目指してまいります。
3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
中期戦略「CS B2021」では、2021年度の業績目標を以下に設定しております。
2018年度実績 | 2019年度計画 | CS B2021業績目標 | |
売上収益 | 6,840億円 | 6,900億円 | 7,500億円 |
営業利益 | 719億円 | 650億円 | 750億円 |
4)セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
事業セグメントごとの経営成績の状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照ください。
5)当社グループの資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、現在及び将来の事業活動のために適切な水準の流動性維持及び、柔軟で効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としております。この方針に従って、当社グループは、グループ会社が保有する資金をグループ内で効率よく活用するキャッシュマネジメントシステムを構築し運用しております。また、手元流動性の補完として複数の金融機関とコミットメントライン契約を締結しております。これらの結果、資金の偏在をならし、グループ全体で借入を極力削減する体制を整えております。
流動性管理
当社グループは、現金及び現金同等物と未使用のコミットメントラインを合わせた金額を手元流動性と位置付けております。当連結会計年度末現在、当社グループは現金及び現金同等物131,152百万円を保有しております。
また、複数の金融機関と合計10,000百万円のコミットメントライン契約を締結しており、未使用額は10,000百万円です。これらを合わせると、当社グループは手元流動性を141,152百万円確保しております。これにより、季節的な資金需要の変動、1年以内に期限の到来する借入、事業環境リスク等を考慮の上、通年に渡り十分な手元流動性を確保していると考えております。
資金調達
運転資金等の短期資金は、原則として期限が1年以内の短期借入金を現地通貨で調達することとし、生産設備等の長期資金は、内部留保資金の他、固定金利の長期借入金及び社債等で調達することを基本方針としております。当連結会計年度末現在、短期借入金の残高は122百万円で、通貨は主にマレーシアリンギットであります。1年内返済予定の長期借入金の残高は、19,189百万円で、通貨は米ドル、日本円であります。長期借入金の残高は57,243百万円であり、通貨は米ドル、日本円であります。また、1年内償還予定の社債の残高は248百万円で、通貨は英ポンドであります。社債の残高は19,989百万円で、通貨は日本円であります。
当社は、株式会社格付投資情報センターから格付けを取得しています。当連結会計年度末現在、長期債及び発行体格付けがA、コマーシャルペーパーがa-1であります。金融・資本市場へのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持は重要と考えております。
当社グループでは、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力に加えて、コミットメントライン契約を含めた手元流動性、健全な財務体質により、当社グループの成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資・研究開発資金等を確保することが可能と考えております。
(経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報)
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と連結財務諸表規則(第7章及び第8章を除く。以下「日本基準」という。)により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項は、以下の通りであります。
(のれん及び無形資産)
日本基準において、のれんはその効果の及ぶ年数にて均等償却を行っておりましたが、IFRSでは、のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無に関わらず毎期減損テストを実施しております。
この影響により、IFRSでは日本基準に比べて営業利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益が54億円増加しております。