有価証券報告書-第128期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
当社グループの財政状態及び経営成績は次の通りです。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、判断したものであります。
なお、当社グループの業績管理は、事業セグメント損益及び営業損益により行われております。事業セグメント損益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績」という。)の状況の概要は次の通りであります。
①経営成績の状況
当期における世界経済は、米中貿易摩擦の拡大懸念の長期化に加え、年度末に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、経済活動全般での減速が懸念され、景気の先行きに対する不透明感は一段と強まっています。
当社グループの関連市場では、モノクロレーザー複合機、プリンターの需要は、中国、新興国などでの景気減速の影響はあるものの、グローバルで概ね安定的に推移しました。インクジェット複合機は、先進国での需要は縮小傾向が続いているものの、新興国では大容量タンクモデルの需要が引き続き拡大しました。家庭用ミシンは、概ね安定的に推移しました。マシナリー事業の関連分野では、アジアを中心に投資に慎重な姿勢が見られ、需要が低迷しました。国内におけるカラオケ市場は概ね安定的に推移していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、需要が急激に冷え込みました。ドミノ事業の関連分野では、コーディング・マーキング機器、デジタルラベル印刷機とも需要の拡大が持続しました。
このような状況の中、当期における当社グループの連結業績は、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業では、主にモノクロレーザーにおいて、OEM販売の減少や、中国の景気減速に伴う需要の低迷などにより、製品の販売数量は減少したものの、インクジェット複合機では、新興国向けの大容量タンクモデル、先進国向けの大容量カートリッジモデルともに堅調に推移しました。消耗品については、レーザー、インクジェットともにグローバルで堅調に推移しました。マシナリー事業では、産業機器が、自動車・一般機械向け、IT向けともに需要が低迷し、事業全体で大幅な減収となりました。ドミノ事業は、グローバルに安定的な成長が続き、堅調に推移しました。
これらの結果、売上収益は、前期比6.8%の減収となる637,259百万円、事業セグメント利益は、前期比7.0%の減益となる66,942百万円となりました。営業利益は、前期比6.4%の減益となる67,329百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比8.0%の減益となる49,566百万円となりました。
*平均為替レート(連結)は次の通りであります。
当期 米ドル :109.10円 ユーロ :121.14円
前期 米ドル :110.69円 ユーロ :128.43円
セグメント別の業績は、次の通りであります。
1)プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
売上収益 390,687百万円(前期比△3.1%)
〇通信・プリンティング機器 341,698百万円(前期比△3.2%)
インクジェット複合機では、新興国向けの大容量タンクモデル、先進国向けの大容量カートリッジモデルともに堅調に推移しました。消耗品については、レーザー、インクジェットともグローバルで堅調に推移しました。一方で、円高による為替のマイナス影響に加え、主にモノクロレーザーにおいて、OEM販売の減少に加え、中国の景気減速による需要の低迷もあり、事業全体では減収となりました。
〇電子文具 48,988百万円(前期比△1.9%)
ラベルライターがグローバルで堅調に推移したことに加え、モバイルプリンターを中心とするソリューション分野が好調に推移したものの、円高による為替のマイナス影響もあり、減収となりました。
事業セグメント利益 57,105百万円(前期比+9.4%)
営業利益 57,080百万円(前期比+7.9%)
円高による為替のマイナス影響があったものの、購買活動などによる原価低減効果に加え、製品ミックスの改善、及び消耗品が堅調に推移しました。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響による在宅勤務の需要拡大でのインクジェット複合機などの一時的な需要増や、供給面への懸念からの消耗品の前倒し購入需要の拡大、販管費の抑制による効果もあり、増益となりました。
2)パーソナル・アンド・ホーム事業
売上収益 40,864百万円(前期比△10.1%)
昨年発売した最高級刺しゅうミシンの新モデルの投入効果が一巡したことに加えて、クラフト事業では欧米を中心に需要が低迷したことにより、減収となりました。
事業セグメント利益 3,129百万円(前期比△22.5%)
営業利益 3,174百万円(前期比△21.2%)
減収に加え、円高による為替のマイナス影響により、減益となりました。
3)マシナリー事業
売上収益 74,814百万円(前期比△28.2%)
〇工業用ミシン 27,648百万円(前期比△15.3%)
ガーメントプリンターは、グローバルで需要拡大が続いたものの、工業用ミシンは、中国やアジアを中心に投資に慎重な姿勢が見られ、需要が低迷したことにより、事業全体で減収となりました。
〇産業機器 29,823百万円(前期比△42.4%)
自動車・一般機械向けは、主に中国及びアジアでの需要が低迷したことに加え、IT向けの売上がほぼなくなったことにより、事業全体で大幅な減収となりました。
〇工業用部品 17,342百万円(前期比△12.1%)
国内向けは、製造業全般の生産活動鈍化や設備投資抑制の動きが高まったこと、海外向けは、主にアジア向けの需要が低迷したことにより、減収となりました。
事業セグメント利益 694百万円(前期比△92.9%)
営業利益 612百万円(前期比△93.8%)
主に産業機器が減収となった影響により、大幅な減益となりました。
4)ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
売上収益 49,108百万円(前期比+2.5%)
6月に発売した通信カラオケ機器の新モデルの販売が好調に推移したことにより、増収となりました。
事業セグメント利益 2,087百万円(前期比+17.4%)
営業利益 1,864百万円(前期比+17.0%)
年度末にかけての新型コロナウイルス感染症の拡大によるカラオケ自粛の動きを受け、店舗事業の需要が落
込んだものの、6月に発売した新モデルの販売が堅調に推移したことに加え、販管費の抑制による効果もあり、通期では増益となりました。
5)ドミノ事業
売上収益 67,537百万円(前期比△5.2%) 製品本体は、コーディング・マーキング機器の需要が低迷したものの、デジタル印刷機は堅調に推移しました。消耗品は、コーディング・マーキング機器、デジタル印刷機とも、グローバルで堅調に推移しました。一方で、為替のマイナス影響があり、事業全体では減収となりました。
事業セグメント利益 3,786百万円(前期比△4.1%)
営業利益 3,918百万円(前期比+36.8%)
研究開発費等の先行投資は増加したものの、社内計画に対しては概ね想定どおりの水準となりました。営業利益は、昨年度に計上した開発資産の除却損がなくなったことにより、増益となりました。
②財政状態の状況
資産合計は、営業債権及びその他の債権や棚卸資産、円高に伴う為替影響によるのれん及び無形資産の減少の一方、IFRS第16号の適用により使用権資産を25,727百万円計上したことや現金及び現金同等物の増加により、前連結会計年度末に比べ22,868百万円増加し、731,472百万円となりました。
負債合計は、IFRS第16号の適用によるその他の金融負債の増加や、新型コロナウイルス感染症による事業や金融環境の変化に対応するための手元資金の借入等による社債及び借入金の増加などにより、前連結会計年度末に比べ19,290百万円増加し、286,300百万円となりました。
資本合計は、前連結会計年度末に比べ3,578百万円増加し、445,171百万円となりました。
当期における期末為替レートは、次の通りです。
米ドル :108.83円 ユーロ :119.55円
③キャッシュ・フローの状況
キャッシュ・フローの状況については、現金及び現金同等物(以下「資金」)は、営業活動により87,748百万円増加、投資活動により27,955百万円減少、財務活動により14,916百万円減少等の結果、当連結会計年度末は前連結会計年度末と比べ37,270百万円増加し、168,422百万円となりました。
当期における各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は、次の通りです。
1)営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前利益は67,046百万円で、減価償却費及び償却費40,197百万円など、非資金損益の調整などによる資金の増加、営業債権及びその他の債権の減少による資金の増加1,658百万円、棚卸資産の減少による資金の増加6,053百万円、営業債務及びその他の債務の減少による資金の減少9,366百万円などがあり、法人所得税の支払額20,772百万円などを差し引いた結果、87,748百万円の資金の増加となりました。
2)投資活動によるキャッシュ・フロー
有形固定資産の取得による支出16,872百万円、無形資産の取得による支出9,212百万円などにより、27,955百万円の資金の減少となりました。
3)財務活動によるキャッシュ・フロー
新型コロナウイルス感染症による事業や金融環境の変化に対応するため等による短期借入による収入29,873百万円による資金の増加の一方、長期借入金の返済による支出20,197百万円、リース負債の返済による支出8,813百万円、配当金の支払額15,607百万円などにより、14,916百万円の資金の減少となりました。
④生産、受注及び販売の状況
1)生産実績
当社グループの生産実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。
2)受注実績
当社グループの生産活動は、その多くを見込生産で行っておりますので、受注実績は記載しておりません。
3)販売実績
当社グループの販売実績は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6.セグメント情報」を参照下さい。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討事項
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成されております。
IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営者は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を行うことが要求されております。当社グループの判断、見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。
なお、当社グループの連結財務諸表において採用する重要な会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
1)当連結会計年度の経営成績
経営成績は、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照下さい。
2)経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループは、製品・サービスの販売、製品の製造など、事業活動の大半を海外で展開しております。よって、グループの業績は、各国の市場動向、為替動向、海外工場におけるモノづくり力の維持・強化など、様々な要因により影響を受ける可能性があると認識しております。
まず為替リスクに対する対応としては、利益への影響が大きいユーロについては、一定の基準に基づき為替予約を行うことで、急激な為替レートの変動が業績に与える影響をコントロールしております。
製造面に関しては、コストダウンや様々なリスクヘッジを目的に、各事業とも中国を中心とした体制から、ベトナムやフィリピンといったアジア地域を中心とした体制へとシフトを進めております。製造拠点を分散化させることで、災害や事故などのリスクを低減し、安定した製品供給を実現してまいります。
また、事業別に見ると、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業が占める割合は売上収益の61.3%、事業セグメント利益の85.3%を占めており、P&S事業の業績動向が経営成績に重要な影響を与える最大の要因となっております。当社グループは、SOHO向けのレーザー複合機・プリンターにおいて、米国や西欧などの先進国地域を筆頭にグローバルで高いシェアを保持しているだけでなく、収益性についても、事業セグメント利益率14.6%と、高い収益性を実現しております。この分野においては、競合企業間の事業再編の影響などもあり、競争環境は比較的穏やかな状況が継続していることから、今後もグループ全体の収益を支える事業として、持続的な成長を実現してまいります。一方でこの分野は、デジタルデバイスの普及や、インターネットを中心としたテクノロジーの進化、オフィスにおける働き方の変化、顧客の購買方法の変化など、ビジネス環境が刻々と変化していることから、持続的な成長の実現に向けて、変化への対応力が求められております。
ブラザーグループは、このような状況に対応するため、2021年度を最終年度とする中期戦略「CS B2021」(2019年度~2021年度)を策定し、「次なる成長に向けて」をテーマに、成長基盤の構築を目指してまいります。
3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
中期戦略「CS B2021」では、2021年度の業績目標を以下に設定しております。
2019年度実績 | CS B2021業績目標 | |
売上収益 | 6,373億円 | 7,500億円 |
営業利益 | 673億円 | 750億円 |
4)セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
事業セグメントごとの経営成績の状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照下さい。
5)当社グループの資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、現在及び将来の事業活動のために適切な水準の流動性維持及び、柔軟で効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としております。この方針に従って、当社グループは、グループ会社が保有する資金をグループ内で効率よく活用するキャッシュマネジメントシステムを構築し運用しております。資金の偏在をならし、グループ全体で借入を極力削減する体制を整えております。
流動性管理
当社グループは、現金及び現金同等物を手元流動性と位置付けております。当連結会計年度末現在、当社グループは、売上収益の約3ヶ月分に相当する現金及び現金同等物168,422百万円を保有しております。
当社グループは、当社及び金融子会社などの資金調達拠点を通じたキャッシュマネジメントシステムの活用により、資金の効率化を図り、流動性を確保しております。
これにより、季節的な資金需要の変動、1年以内に期限の到来する借入及び償還予定の社債、新型コロナウイルス感染症などによる事業環境リスク等を考慮の上、通年に渡り十分な手元流動性を確保していると考えております。
資金調達
運転資金等の短期資金は、原則として期限が1年以内の短期借入金を現地通貨で調達することとし、生産設備等の長期資金は、内部留保資金の他、固定金利の長期借入金及び社債等で調達することを基本方針としております。当連結会計年度末現在、短期借入金の残高は30,012百万円で、通貨は主に日本円であります。1年内返済予定の長期借入金の残高は、200百万円で、通貨は日本円であります。長期借入金の残高は56,650百万円であり、通貨は米ドル、日本円であります。また、1年内償還予定の社債の残高は20,148百万円で、通貨は日本円、英ポンドであります。
当社は、株式会社格付投資情報センターから格付けを取得しています。当連結会計年度末現在、長期債及び発行体格付けがA、コマーシャルペーパーがa-1であります。金融・資本市場へのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持は重要と考えております。
当社グループでは、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力に加えて、手元流動性、健全な財務体質により、当社グループの成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資・研究開発資金等を確保することが可能と考えております。
資金の需要動向
中期計画「CS B2021」では、成長のための投資枠として50,000百万円を設定しており、産業用領域の更なる拡大、新規事業の創出、育成、インクジェット関連の設備補強やM&Aを含めた成長投資を加速します。
次なる成長に向けた成長基盤の構築のための投資を行う一方で、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載の方針による利益還元を実施してまいります。
また、年間20,000百万円の有利子負債の返済も滞りなく実施してまいります。
これらの資金需要に対応するため、営業キャッシュ・フローの獲得、また、必要に応じて、成長投資のための資金調達を機動的に実施する方針であります。