有価証券報告書-第129期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)
当社グループの財政状態及び経営成績は次の通りです。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、判断したものであります。
なお、当社グループの業績管理は、事業セグメント損益及び営業損益により行われております。事業セグメント損益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績」という。)の状況の概要は次の通りであります。
①経営成績の状況
当期における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、年度前半において急速に減速したのち、緩やかな回復の兆しを見せています。地域別には、中国経済は順調な回復を見せる一方、感染が再拡大した欧州などにおいては経済活動の制限が長期化し、依然として先行き不透明な状況が続いています。
当社グループに関連する事業環境は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、プリンティング市場では、在宅勤務や在宅学習用途として、小型複合機・プリンターの需要は大きく増加しました。一方で、各国のオフィスの閉鎖等による影響や、在宅勤務などへの働き方の変化に伴い、オフィスでの印刷需要は減少しました。家庭用ミシンは、自宅で過ごす時間が増えたことによる手作り需要の高まりを受け、普及機を中心に需要が拡大しました。マシナリー事業の関連分野では、産業機器は中国を中心として需要回復の兆しが出てきているものの、工業用ミシンに関しては、新規投資への抑制傾向が続き、需要は低迷しました。国内におけるカラオケ市場は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、カラオケ利用者が大幅に減少し、厳しい状況となりました。ドミノ事業の関連分野では、コーディング・マーキング機器の需要は堅調に推移したものの、大型のデジタル印刷機などへの新規設備投資の抑制傾向が続きました。
このような状況の中、当期における当社グループの連結業績は、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業では、在宅需要の堅調さが持続し、レーザー製品本体が好調に推移したものの、オフィスでの印刷需要の減少、インクジェット本体の供給不足による影響などにより、事業全体では減収となりました。パーソナル・アンド・ホーム事業では、マスクなどの手作り需要の拡大を受け、大幅な増収となりました。マシナリー事業では、工業用ミシンの設備投資需要の落ち込みが続いているものの、産業機器の需要が回復し、事業全体で増収となりました。ネットワーク・アンド・コンテンツ事業では、店舗の休業や時間短縮営業の影響などにより、大幅な減収となりました。ドミノ事業は、生活必需品の需要の底堅さに支えられコーディング・マーキング機器が堅調に推移し、増収となりました。
これらの結果、売上収益は、前期比0.9%の減収となる631,812百万円、事業セグメント利益は、前期比16.6%の増益となる78,076百万円となりました。営業利益は、ドミノ事業におけるのれんの減損損失、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業の一部の連結子会社における拠点再編費用、ネットワーク・アンド・コンテンツ事業での店舗事業における資産の減損損失を計上したことなどにより、前期比36.5%の減益となる42,731百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比50.5%の減益となる24,520百万円となりました。
*平均為替レート(連結)は次の通りであります。
当期 米ドル :106.17円 ユーロ :123.73円
前期 米ドル :109.10円 ユーロ :121.14円
セグメント別の業績は、次の通りであります。
1)プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
売上収益 384,766百万円(前期比△1.5%)
〇通信・プリンティング機器 337,950百万円(前期比△1.1%)
レーザー複合機・プリンターでは、在宅勤務や在宅学習の機会が増加したことにより、製品本体の販売数量は増加しました。インクジェット複合機においても、在宅勤務や在宅学習の機会が増加したことにより需要は拡大しましたが、工場の操業が停止していたことによる供給への制約が影響し、製品本体の販売数量は大幅に減少しました。消耗品は、在宅勤務などへの働き方へのシフトに伴いオフィスでの印刷量が低下し、売上は減少しました。 これらにより、事業全体での売上は、ほぼ前年度並みとなりました。
〇電子文具 46,816百万円(前期比△4.4%)
モバイルプリンターを中心とするソリューション分野は、大口案件の獲得などにより堅調に推移しました。ラベルライター・ラベルプリンターでは、需要は緩やかに回復しているものの年度前半における各国のロックダウンが影響し、事業全体では減収となりました。
事業セグメント利益 65,151百万円(前期比+14.1%)
営業利益 60,989百万円(前期比+6.8%)
消耗品の販売減に伴う粗利の減少があったものの、販売にかかる費用の抑制などにより、事業セグメント利益は、増益となりました。営業利益については、一部の連結子会社における拠点再編の一時的な費用の発生があったものの、事業全体では増益となりました。
2)パーソナル・アンド・ホーム事業
売上収益 53,668百万円(前期比+31.3%)
家庭用ミシンは、自宅で過ごす時間が増えたことで、手作り需要が喚起され、普及機を中心に販売が好調に推移したことに加え、欧米を中心に副業用途での中高級刺しゅう機の需要も拡大し、大幅な増収となりました。
事業セグメント利益 9,803百万円(前期比+213.3%)
営業利益 9,641百万円(前期比+203.7%)
巣ごもり消費及び副業用途での需要の高まりを受け、家庭用ミシンの販売が好調に推移したことにより大幅な増益となり、事業として過去最高益となりました。
3)マシナリー事業
売上収益 78,917百万円(前期比+5.5%)
〇工業用ミシン 24,154百万円(前期比△12.6%)
ガーメントプリンターは需要拡大が続いたものの、工業用ミシンはアパレル需要減少による縫製工場の稼働率低下を受けた設備投資の抑制により売上が減少し、事業全体で減収となりました。
〇産業機器 38,714百万円(前期比+29.8%)
自動車・一般機械向けでの中国における需要の回復に加え、IT向けでの在宅勤務の増加を受けたノートPCなどの需要の拡大により、増収となりました。
〇工業用部品 16,047百万円(前期比△7.5%)
国内向けを中心に製造業全般の生産活動鈍化や設備投資抑制の動きにより低迷していた需要は緩やかに回復しつつあるものの、事業全体で減収となりました。
事業セグメント利益 4,120百万円(前期比+493.4%)
営業利益 3,303百万円(前期比+439.2%)
事業セグメント利益は、工業用ミシンの需要低迷による影響があるものの、産業機器の需要の回復に加えて販管費の抑制による効果もあり、事業全体で大幅な増益となりました。営業利益は、工業用ミシンの生産体制見直しに伴う一時的な費用の発生があったものの、事業全体で大幅な増益となりました。
4)ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
売上収益 31,044百万円(前期比△36.8%)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響による直営店舗の一定期間の全店休業、時間短縮営業要請への対応などによりカラオケ利用者数は大幅に落ち込み、店舗事業の売上は低迷しました。加えて、業務用カラオケ機器の新規需要の落ち込みにより、大幅な減収となりました。
事業セグメント損失 5,159百万円 (前期同期 事業セグメント利益 2,087百万円)
営業損失 7,348百万円 (前年同期 営業利益 1,864百万円)
事業セグメント利益は、年間を通じて販管費の削減を行ったものの、店舗の休業や時間短縮営業による影響及びカラオケ機器販売の落ち込みによる売上の減収を受け、大幅な赤字となりました。営業利益については、雇用調整助成金(新型コロナ特例)による効果があったものの、店舗事業の採算性悪化に伴う資産の減損損失を計上したことなどにより、大幅な赤字となりました。
5)ドミノ事業
売上収益 69,824百万円(前期比+3.4%)
各国のロックダウンを受け欧州を中心に製品本体の需要は減少したものの、食品・飲料・医薬品などの生活必需品の需要の底堅さに支えられ、第2四半期からは、コーディング・マーキング機器の製品本体は堅調に推移しました。一方で、デジタル印刷機の製品本体は、顧客の設備投資需要の抑制や営業活動の制限により、低調に推移しました。消耗品は、コーディング・マーキング機器、デジタル印刷機ともに堅調に推移し、増収となりました。
事業セグメント利益 4,753百万円(前期比+25.5%)
営業損失 23,940百万円 (前年同期 営業利益 3,918百万円)
事業セグメント利益は、売上の回復により増益となりました。営業利益は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により今後の事業計画を慎重に見直した結果、のれんの一部について減損損失を計上したことにより、大幅な赤字となりました。
②財政状態の状況
資産合計は、減損損失の計上などによるのれん及び無形資産の減少の一方、現金及び現金同等物、棚卸資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ12,424百万円増加し、743,896百万円となりました。
負債合計は、営業債務及びその他の債務の増加の一方、社債の償還や新型コロナウイルス感染症による事業や金融環境の変化に対応するため前連結会計年度に借り入れた手元資金の借入金返済による社債及び借入金の減少などにより、前連結会計年度末に比べ42,111百万円減少し、244,189百万円となりました。
資本合計は、前連結会計年度末に比べ54,535百万円増加し、499,707百万円となりました。
当期における期末為替レートは、次の通りです。
米ドル :110.71円 ユーロ :129.80円
③キャッシュ・フローの状況
キャッシュ・フローの状況については、現金及び現金同等物(以下「資金」)は、営業活動により109,265百万円増加、投資活動により25,080百万円減少、財務活動により74,038百万円減少等の結果、当連結会計年度末は前連結会計年度末と比べ22,580百万円増加し、191,002百万円となりました。
当期における各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は、次の通りです。
1)営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前利益は42,944百万円で、減価償却費及び償却費38,252百万円、減損損失30,787百万円など非資金損益の調整などによる資金の増加、営業債権及びその他の債権の減少による資金の増加7,484百万円、棚卸資産の減少による資金の増加3,953百万円、営業債務及びその他の債務の増加による資金の増加1,232百万円などがあり、法人所得税の支払額16,945百万円などを差し引いた結果、109,265百万円の資金の増加となりました。
2)投資活動によるキャッシュ・フロー
有形固定資産の取得による支出20,655百万円、無形資産の取得による支出6,859百万円などにより、25,080百万円の資金の減少となりました。
3)財務活動によるキャッシュ・フロー
新型コロナウイルス感染症による事業や金融環境の変化に対応するために前連結会計年度に借り入れた短期借入金の返済による支出30,012百万円、リース負債の返済による支出8,798百万円、配当金の支払額14,830百万円、社債の償還による支出20,140百万円などにより、74,038百万円の資金の減少となりました。
④生産、受注及び販売の状況
1)生産実績
当社グループの生産実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。
2)受注実績
当社グループの生産活動は、その多くを見込生産で行っておりますので、受注実績は記載しておりません。
3)販売実績
当社グループの販売実績は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6.セグメント情報」を参照下さい。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討事項
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成されております。
IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営者は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を行うことが要求されております。当社グループの判断、見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。
なお、当社グループの連結財務諸表において採用する重要な会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
1)当連結会計年度の経営成績
経営成績は、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照下さい。
2)経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループは、製品・サービスの販売、製品の製造など、事業活動の大半を海外で展開しております。よって、グループの業績は、各国の市場動向、為替動向、海外工場におけるモノづくり力の維持・強化など、様々な要因により影響を受ける可能性があると認識しております。
まず為替リスクに対する対応としては、利益への影響が大きいユーロについては、一定の基準に基づき為替予約を行うことで、急激な為替レートの変動が業績に与える影響をコントロールしております。
製造面に関しては、コストダウンや様々なリスクヘッジを目的に、各事業とも中国を中心とした体制から、ベトナムやフィリピンといったアジア地域を中心とした体制へとシフトを進めております。製造拠点を分散化させることで、災害や事故などのリスクを低減し、安定した製品供給を実現してまいります。
また、事業別に見ると、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業が占める割合は売上収益の60.9%、事業セグメント利益の83.5%を占めており、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業の業績動向が経営成績に重要な影響を与える最大の要因となっております。当社グループは、SOHO向けのレーザー複合機・プリンターにおいて、米国や西欧などの先進国地域を筆頭にグローバルで高いシェアを保持しているだけでなく、収益性についても、事業セグメント利益率16.9%と、高い収益性を実現しております。この分野においては、競合企業間の事業再編の影響などもあり、競争環境は比較的穏やかな状況が継続していることから、今後もグループ全体の収益を支える事業として、持続的な成長を実現してまいります。一方でこの分野は、デジタルデバイスの普及や、インターネットを中心としたテクノロジーの進化、オフィスにおける働き方の変化、顧客の購買方法の変化など、ビジネス環境が刻々と変化していることから、持続的な成長の実現に向けて、変化への対応力が求められております。
ブラザーグループは、このような状況に対応するため、2021年度を最終年度とする中期戦略「CS B2021」(2019年度~2021年度)を策定し、「次なる成長に向けて」をテーマに、成長基盤の構築を目指してまいります。
3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
中期戦略「CS B2021」では、2021年度の業績目標を以下に設定しております。
2020年度実績 | CS B2021業績目標 | |
売上収益 | 6,318億円 | 7,500億円 |
営業利益 | 427億円 | 750億円 |
4)セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
事業セグメントごとの経営成績の状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」を参照下さい。
5)当社グループの資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、現在及び将来の事業活動のために適切な水準の流動性維持及び、柔軟で効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としております。この方針に従って、当社グループは、グループ会社が保有する資金をグループ内で効率よく活用するキャッシュマネジメントシステムを構築し運用しております。資金の偏在をならし、グループ全体で借入を極力削減する体制を整えております。
流動性管理
当社グループは、現金及び現金同等物を手元流動性と位置付けております。当連結会計年度末現在、当社グループは、売上収益の約4ヶ月分に相当する現金及び現金同等物191,002百万円を保有しております。
当社グループは、当社及び金融子会社などの資金調達拠点を通じたキャッシュマネジメントシステムの活用により、資金の効率化を図り、流動性を確保しております。
これにより、季節的な資金需要の変動、1年以内に期限の到来する借入、新型コロナウイルス感染症などによる事業環境リスク等を考慮の上、通年にわたり十分な手元流動性を確保していると考えております。
資金調達
運転資金等の短期資金は、原則として期限が1年以内の短期借入金を現地通貨で調達することとし、生産設備等の長期資金は、内部留保資金の他、固定金利の長期借入金及び社債等で調達することを基本方針としております。当連結会計年度末現在、1年内返済予定の長期借入金の残高は、19,167百万円で、通貨は米ドル、日本円であります。長期借入金の残高は38,290百万円であり、通貨は米ドル、日本円であります。
当社は、株式会社格付投資情報センターから格付けを取得しています。当連結会計年度末現在、発行体格付けがA、コマーシャルペーパーがa-1であります。金融・資本市場へのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持は重要と考えております。
当社グループでは、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力に加えて、手元流動性、健全な財務体質により、当社グループの成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資・研究開発資金等を確保することが可能と考えております。
資金の需要動向
中期計画「CS B2021」では、成長のための投資枠として50,000百万円を設定しており、産業用領域の更なる拡大、新規事業の創出、育成、インクジェット関連の設備補強やM&Aを含めた成長投資を加速します。
次なる成長に向けた成長基盤の構築のための投資を行う一方で、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記
載の基本方針に基づき、株主利益還元を実施してまいります。
これらの資金需要に対応するため、営業キャッシュ・フローの獲得、また、必要に応じて、成長投資のための資金調達を機動的に実施する方針であります。