有価証券報告書-第82期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/29 11:00
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(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
1.財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度におきましては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が引き続き予断を許さない状況が続く中、経済社会活動は停滞と再開を繰り返し、出口が見えない状況が続きました。国内では、政府や各行政庁による企業・個人に対する各種支援や緊急事態宣言発出等の施策が続けられたものの、新型コロナウイルス感染症(変異株)の出現等もあり、経済への影響の長期化が懸念されております。
住宅市場においては、新設住宅着工戸数で分譲戸建・持家・貸家・マンション全てにおいて着工戸数が前年比マイナスとなり、一般建設市場においても、倉庫及び鉱業・採石業・砂利採取業・建設業用が建築着工棟数で前年比プラスとなったものの、他の用途では減少し、全体は前年比マイナスとなりました。
このような事業環境の中で当社グループは、昨年度より開始した3ヶ年計画「大和ハウスグループ第6次中期経営計画」に基づきながらも各事業戦略を見直し、「攻め」と「守り」を高い次元で両立するため、社会・ライフスタイルの変化に対応したまちづくり・商品開発を推進するとともに、グループガバナンスの再構築に関する各強化策を着実に実行してまいりました。
当連結会計年度の業績については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けたことから、当連結会計年度における売上高は4,126,769百万円(前連結会計年度比5.8%減)、営業利益は357,121百万円(前連結会計年度比6.3%減)、経常利益は337,830百万円(前連結会計年度比8.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は195,076百万円(前連結会計年度比16.5%減)となりました。
セグメント別の概況は次のとおりです。

戸建住宅部門では、お客様の住まいづくりに真摯に向き合い地域に密着した事業展開を推進し、販売拡大に努めてまいりました。
国内においては、「敷地対応力」の強化と、大空間・大開口を実現する3階建て新商品「skye3(スカイエスリー)」を発売するなど、多彩な商品ラインアップでお客様のニーズに対応してまいりました。
また、コロナ禍においてもWebサイト上で楽しく簡単に家づくりを体験できる「Lifegenic(ライフジェニック)」の販売を進める一方、ニューノーマル時代を見据えた住まい提案として、快適に在宅勤務ができる当社オリジナルのテレワークスタイル「快適ワークプレイス」と「つながりワークピット」、「吸着性光触媒コーティング」と「空気浄化ef(イーエフ・excellent fresh)」を組み合わせた「抗ウイルス・きれい空気提案」、さらには家で過ごす時間が長くなる中でペットとより快適に自宅で過ごすための業界初の猫専用ユニットバス「ネコレット」の販売を開始するなど、社会や生活の変化をとらえ、お客様の課題解決に積極的に取組んでまいりました。
海外では、豪州シドニー近郊にて開発・分譲中の「ボックス・ヒル・プロジェクト(Box Hill Project)」において、政府による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抑え込みの成功と住宅購入補助金制度の実施に伴い、秋口より来場者数、契約数ともに増加いたしました。米国では、コロナ禍の影響によるライフスタイルの変化に伴う郊外での住宅需要の拡大が追い風となり、東海岸エリアを中心に事業展開しているStanley Martin Holdings, LLCが期初計画を上回る業績を達成するとともに、前年に引き続き業績拡大を継続しております。
以上の結果、当事業の売上高は516,109百万円(前連結会計年度比3.7%増)、営業利益は21,818百万円(前連結会計年度比20.7%増)となりました。

賃貸住宅部門では、ご入居者様に選ばれ、長く住み続けたいと思っていただける住まいをご提供するため、市場性と顧客ニーズに適った質の高い賃貸住宅を土地オーナー様にご提案することにより、ご入居者様の安心・安全・快適な暮らしと、土地オーナー様の長期安定経営をサポートしております。
当社においては、2020年7月に都市部・中心市街地向け3階建て商品「GRACA(グラサ)」をリリースいたしました。対面での営業活動やイベントの開催が困難な環境の中、土地活用をご検討中の方や当社オーナー様を対象にしたWebセミナーを定期的に開催し、コロナ禍における賃貸市場動向や入居者ニーズなど、今だからこそ知りたいお役立ち情報の提供を通じて、お客様との継続的な関係づくりを行ってまいりました。
大和リビングマネジメント株式会社においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により経済的な影響を受けたご入居者様に対し、2020年4月に賃料支払猶予措置を発表いたしました。あわせて行政による助成金や給付金制度等の情報提供を行い、当社管理物件にお住まいのご入居者様の生活を守る取組みを実施してまいりました。
また、2020年11月には同社子会社の大和リビングケア株式会社にて、サービス付き高齢者向け住宅「D-Festa(ディーフェスタ)小平」(東京都)をオープンいたしました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響等で請負工事の受注が減少したことなどにより、当事業の売上高は982,785百万円(前連結会計年度比2.3%減)、営業利益は90,832百万円(前連結会計年度比7.9%減)となりました。

マンション部門では、お客様の住みやすさに加え、環境負荷低減に配慮した付加価値の高いマンションづくりに努めてまいりました。また、ご購入いただいた皆様の安心・安全・快適な暮らしを支えるため、当社グループによる管理サービスの充実に取組んでまいりました。
当社においては、旧耐震マンションの建替事業物件「プレミスト文京千石」(東京都)が都市部への快適なアクセスと歴史ある街並みが評価され、好評のうちに短期間で完売いたしました。また、二重サッシや高性能断熱材等により建物の基本性能を向上させると同時に、エコジョーズやエコファーム、床暖房等の高効率設備導入を進めるなど、環境負荷低減を実現した「プレミストタワー靱本町」(大阪府)は、経済産業省より「超高層ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」に採択されました。本町駅や都心のオアシスである靭公園へ各々徒歩1分のロケーションに加え、IoTの採用による快適な住空間やタワーの眺望が評価され、販売が順調に進捗しております。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や新規物件の販売スケジュールが遅れたことにより、当事業の売上高は339,790百万円(前連結会計年度比8.8%減)、営業利益は5,397百万円(前連結会計年度比66.0%減)となりました。

大和ハウスリフォーム株式会社では、当社施工の戸建・賃貸住宅を所有されているオーナー様に対し、インスペクション(点検・診断)を通じたリレーションの強化や保証期間延長のためのリフォーム提案を強化してまいりました。併せて法人のお客様の事業用資産に向けたメンテナンス提案に注力し、受注拡大を図ってまいりました。
また、より良質な既存住宅の流通の活性化に向けた「Livness(リブネス)」事業においては、戸建住宅・マンションオーナー様に向けたキャンペーンの実施や、コロナ禍における営業活動としてオンラインセミナーを実施してまいりました。また、オーナー様を中心としたあらゆるお客様の住まいのお悩みにお応えするため、リブネス課を設置し60拠点まで拡大してまいりました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に伴いリフォーム工事の受注が減少したことなどにより、当事業の売上高は124,718百万円(前連結会計年度比14.4%減)、営業利益は10,438百万円(前連結会計年度比37.6%減)となりました。

商業施設部門では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況・影響を考慮しながら、テナント企業様の事業戦略に対応した適切な出店計画の提案や、エリアの特性を活かし、様々なニーズに応じたバリエーション豊かな企画提案を行ってまいりました。特に、複合商業施設やオフィスビルなどの大型物件への取組みの強化や、投資用不動産の購入を検討されているお客様に向け、当社で土地取得・建物建築・テナントリーシングまで行った物件を販売する取組みを強化するなど業容の拡大を図ってまいりました。また、愛知県春日井市において約70店舗のテナント構成での開発を予定している大型商業施設「iias(イーアス)春日井」に2020年8月に着手、広島県広島市において当社子会社の大和情報サービス株式会社が運営するショッピングセンター「ALPARK(アルパーク)」の大規模リニューアル(2023年春に全面リニューアルオープン:総店舗数160店舗予定)に着手するなど、当社グループが保有する経営資源を組み合わせ、お客様のニーズに合わせた複合施設開発に取組んでおります。
ダイワロイヤル株式会社においては、「ダイワロイネットホテル福山駅前」(広島県)等をオープンさせ、地域特性や立地条件に配慮した展開を進めてまいりました。
また、大和リース株式会社においては、都市型公園の建設・維持管理・運営を行う事業として2020年7月、大阪府泉南市に「泉南りんくう公園(愛称:SENNAN LONG PARK)」を開業いたしました。本事業は府営公園の一部を当社が整備したスポーツ・食・レジャーが楽しめる都市型公園となっております。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に伴い一部の業態の設備投資が減少したことなどにより、当事業の売上高は808,395百万円(前連結会計年度比0.2%増)、営業利益は122,898百万円(前連結会計年度比12.6%減)となりました。

事業施設部門では、法人のお客様の様々なニーズに応じた施設建設のプロデュースや資産の有効活用をトータルサポートすることで業容の拡大を図ってまいりました。
国内においては、物流施設開発の次の柱にすべく、千葉県印西市の千葉ニュータウンにおいて、日本最大のデータセンター団地の開発を計画し、1棟目のデータセンターを着工いたしました。
物流施設関連では、沖縄県豊見城市において沖縄県最大(※1)のマルチテナント型物流施設「DPL沖縄豊見城」をはじめ全国39ヶ所の物流施設を、また海外においてもマレーシアのクアラルンプール近郊において開発するマルチテナント型物流施設第2弾「D Project Malaysia Ⅱ(ディープロジェクト・マレーシア・ツー)」を着工し、豊富な経験とノウハウでお客様の物流戦略をバックアップしてまいりました。
医療介護施設関連では、老朽化・耐震基準を満たしていない建物を持つ病院をターゲットに建替えや移転の提案、また高齢者住宅・複合介護施設等医療法人の経営課題を解決するソリューション提案を強化してまいりました。
事務所・工場等の拠点サポート関連では、開発造成工事中である山口県防府市の「防府第二テクノタウン」において初の進出企業が決定するなど当社開発の工業団地への企業誘致を強化してまいりました。加えて食品工場においては、食品製造・加工事業者を対象に、HACCP(※2)義務化に向けたセミナーを開催するとともに、安全認証に適応した施設建設の提案を強化してまいりました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に伴い一部の企業の設備投資計画が中止・延期されたことなどにより、当事業の売上高は989,984百万円(前連結会計年度比14.1%減)、営業利益は115,910百万円(前連結会計年度比3.9%減)となりました。
※1.「DPL沖縄豊見城」、「DPL沖縄豊見城Ⅱ」を合わせた延床面積で沖縄県最大
※2. 食品の製造・加工等のあらゆる段階で発生する恐れのある微生物汚染等の危害を事前分析・管理する衛生管理手法

ホームセンター事業では、ロイヤルホームセンター株式会社が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による巣ごもり需要を捉えつつ、「ロイヤルホームセンター戸田公園店」(埼玉県)、「ロイヤルプロ藤沢並木台店」(神奈川県)を新たにオープンするなど、様々なお客様の暮らしに役立つ店舗を展開してまいりました。
物流事業では、大和物流株式会社において、「京都物流センター」をはじめ4ヶ所を新たに開設し、お客様のビジネスに最適な物流拠点の整備を行っております。
フィットネスクラブ事業では、スポーツクラブNAS株式会社において、「スポーツクラブNAS 小阪」(大阪府)をオープンいたしました。
しかしながら、リゾートホテル事業やスポーツクラブ事業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受けたことにより、当事業の売上高は507,359百万円(前連結会計年度比4.3%減)、営業利益は10,771百万円(前連結会計年度比44.1%減)となりました。
(注) 1.各セグメント別の売上高は、外部顧客への売上高にセグメント間の内部売上高又は振替高を加算したものです。(「第5 経理の状況 1 (1) 連結財務諸表 注記事項 (セグメント情報等)」を参照。)
2.上記金額に消費税等は含んでおりません。



2.キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加430,314百万円、投資活動による資金の減少389,980百万円、財務活動による資金の増加102,731百万円等により、あわせて140,253百万円増加しました。この結果、当連結会計年度末には416,321百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において営業活動による資金の増加は430,314百万円(前連結会計年度比187.5%増)となりました。これは、主に法人税等の支払いや仕入債務の減少があったものの、税金等調整前当期純利益を311,210百万円計上したことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において投資活動による資金の減少は389,980百万円(前連結会計年度は317,273百万円の減少)となりました。これは、主に大規模物流施設や商業施設等の有形固定資産の取得を行ったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において財務活動による資金の増加は102,731百万円(前連結会計年度比39.3%減)となりました。これは主に、株主配当金の支払いを行ったものの、たな卸資産や投資用不動産の取得等のために、借入金や社債の発行による資金調達を行ったことによるものです。
3.生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
当社グループの生産・販売品目は、広範囲かつ多種多様であり、生産実績を定義することが困難であるため「生産の実績」は記載しておりません。
② 受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称受注高
(百万円)
前連結会計
年度比 (%)
受注残高
(百万円)
前連結会計
年度比 (%)
戸建住宅548,80514.3214,28130.1
賃貸住宅966,961△2.5239,294△5.4
マンション324,101△11.047,859△14.9
住宅ストック122,522△10.114,4687.1
商業施設749,338△10.7161,046△22.6
事業施設965,257△14.1755,798△1.9
その他373,231△11.047,447△37.7
合計4,050,216△7.01,480,196△4.0

(注) 1.各セグメントの金額は外部顧客への受注高・受注残高を表示しております。
2.上記金額に消費税等は含んでおりません。
③ 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称金額 (百万円)前連結会計年度比 (%)
戸建住宅513,6653.7
賃貸住宅980,718△2.4
マンション332,497△8.7
住宅ストック121,557△14.5
商業施設796,470△0.3
事業施設979,889△14.3
その他401,970△6.8
合計4,126,769△5.8

(注) 1.各セグメントの金額は外部顧客への売上高を表示しております。(「第5 経理の状況 1 (1)連結財務諸表 注記事項 (セグメント情報等)」を参照。)
2.総販売実績に対する割合が10%以上の相手先はありません。
3.上記金額に消費税等は含んでおりません。
(参考)提出会社個別の事業の状況は次のとおりです。
受注高、売上高及び繰越高
期別部門別前期
繰越高
(百万円)
当期
受注高
(百万円)

(百万円)
当期
売上高
(百万円)
次期
繰越高
(百万円)
第81期
自 2019年
4月1日
至 2020年
3月31日
建築請負部門774,7501,350,8402,125,5901,376,990748,600
不動産事業部門90,770572,429663,199564,42698,772
その他事業部門-33,73333,73333,733-
865,5201,957,0032,822,5231,975,150847,372
第82期
自 2020年
4月1日
至 2021年
3月31日
建築請負部門748,6001,123,7861,872,3871,220,318652,068
不動産事業部門98,772598,750697,523598,13599,387
その他事業部門-45,48045,48045,480-
847,3721,768,0172,615,3901,863,934751,455

(注) 1.損益計算書においては、建築請負部門は「完成工事高」、不動産事業部門は「不動産事業売上高」、その他事業部門は「その他の売上高」として表示しております。
2.前期以前に受注したもので契約の更改により金額に変更あるものについては、当期受注高及び当期売上高にその増減を含めております。
3.次期繰越高は(前期繰越高+当期受注高-当期売上高)です。
4.上記金額に消費税等は含んでおりません。
4.重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表作成にあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであり、その達成を保証
するものではありません。
財務健全性を維持しながら成長投資を継続するとともに、
資本効率を重視した経営戦略を推進します。

代表取締役副社長/CFO 香曽我部 武

財務健全性と成長投資を両立させる財務戦略
D/Eレシオは0.5倍を上回るも、財務規律に変更なし
2020年度の財務状況は、D/Eレシオ0.69倍※と、財務規律としている0.5倍を上回っている状況です。これは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、ホテルやスポーツ施設などを運営するグループ会社の運転資金需要に対応したことや、将来の収益源となる不動産開発への投資を積極的に進めたことによるものです。2021年度においても同様の状況が続くため、この1年で0.5倍程度とすることは難しいと考えていますが、一時的に規律を上回ってでも新たなビジネスチャンスに果敢に挑むべき環境にあるという判断に基づいた戦略を展開しています。もちろん、当社が重視する指標のうち、ROEは株主様へのコミットメントであると同時に、D/Eレシオは債権者へのコミットメントであるという認識に変わりはありません。事業環境や各事業における投資・売却計画を踏まえながら、2022年度からスタートする第7次中期経営計画でも、0.5倍程度に戻す努力を継続したいと考えています。 ※公募ハイブリッド社債及びハイブリッドローンの資本性を考慮すると0.59倍。
財務健全性を維持するための柔軟な資金調達
持続的成長のために、財務健全性を維持することはきわめて重要であると考えています。2019年9月には1,500億円の公募ハイブリッド社債を発行、2020年10月には1,000億円のハイブリッドローンを実行し、D/Eレシオの改善にもつながる資金調達を実施しました。現在、当社が取得している格付はAA格ですが、これを引き続き維持したいという考えに基づくものです。2009年のリーマンショックの際にシングルA以下の会社が資金調達、社債発行が困難であったという状況を目の当たりにしたことから、厳しい経済環境のなかでも投資余力を持つためには、格付維持が大切であると考えています。 また、環境配慮型施設の開発や再生可能エネルギーの活用など環境負荷低減のための資金調達として、2020年9月に200億円のグリーンボンドを発行しました。世界的に環境への意識が高まる中、当社では従来からCO₂削減、省エネなどに取組むとともに、環境に配慮した事業も推進しており、今後もこうした取組みをさらに拡大していく考えです。
コロナ禍における不動産開発への投資・売却ともに順調に進捗
物流施設を中心に不動産開発投資を拡大
不動産開発投資は、積極的に進める方針です。コロナ禍において巣ごもり消費の拡大によるeコマース関連の物流量が増加していることから、物流施設のニーズがますます高まると考え、2020年6月に、事業施設における第6次中期経営計画3ヵ年の投資計画を3,000億円増額し、6,500億円としました。現在は、取得済の土地に係る建設投資を積極的に進めており、これらを早く完成・稼働させ、売却できるステージに持って行きたいと考えています。
アセットタイプの多様化によるリスク分散
投資不動産の稼働状況については、ホテルやサービスアパートメント、商業施設の利回りがコロナ禍において一時的に悪化しましたが、物流施設は順調に稼働しており、多くの引き合いをいただいています。ただ、当社の不動産ポートフォリオは、物流施設の比率が圧倒的に高くなっており、投資の中心が物流施設に偏っていることはある意味リスクでもあると認識しています。従来から手掛けている賃貸住宅、商業施設、介護施設などにバランスよく投資することが理想的だと考えており、今後は、データセンターの開発などアセットタイプの多様化も図ってまいります。
出口戦略の多様化によるキャッシュ創出力の強化
当社の新規投資においては、IRRを投資判断基準としています。当社の資本コストは6.5%程度と認識しておりますが、それを上回るハードルレートを設定しております。加えて、海外での投資については、海外事業の投資管理ガイドラインに沿って海外戦略委員会で審議され、国ごとのリスクを考慮したカントリー・リスクプレミアムが加味されています。
投資回収についても、投資計画の増額と同時に積み増したのですが、計画通り順調に進捗しています。2020年12月に大和ハウスロジスティクスコアファンドの運用を開始し、三大都市圏の物流施設を中心にファンドの資産規模を拡大させていく予定です。当社は、長期視点に立ち、優良な物件をグループ傘下で運営・管理していくことを基本方針としています。今後は、物件取得の優先交渉権を保有している総合型リートである大和ハウスリート投資法人を中心に、海外の開発物件の出口を想定した大和ハウスグローバルリート投資法人、今回の大和ハウスロジスティクスコアファンドを積極的に活用し、機動的な資金調達を図っていく考えです。
キャピタルゲインとインカムゲインのバランスについては、売却を加速させつつ稼働物件を徐々に増やし、インカムゲインを獲得できる保有物件も少しずつ積み上げていきたいと思っています。現在は、バランスシート上の投資不動産の約5割が稼働前となっていますが、積極的に建設投資を進め、投資不動産の7割が常に稼働し、安定的なインカムゲインを取得しながら、キャピタルゲインも得られるようなバランスを目指します。それにより、長期的な収益の安定性が高まると考えています。
経営改革・働き方改革を進め
変化する大和ハウス
事業本部制を導入し、ROIC経営へ舵を切る
2021年4月より事業本部制がスタートしました。これまでの事業部制からの変更点は大きく3つです。1つ目は、営業活動だけではなく設計・施工などサプライチェーン全体を統括すること、2つ目は関連するグループ会社の管理も行い、バリューチェーンを強化すること、3つ目は損益だけではなくバランスシートも考慮した経営を行うことです。従来CEOに集中していた多くの権限が事業本部長に委譲され、各本部長は経営全般への責任を負うこととなります。
そして、事業本部制の運用にあたっては、新たな指標としてROIC(投下資本利益率)を導入し、事業本部ごとに資本効率の目標を定め、管理していきます。私自身、CFOとして従来からキャッシュ・フロー経営を推進してまいりましたが、請負中心の業態から、賃貸管理や不動産開発といったストック事業も拡大するなかで、各事業における資本効率をより厳格に管理する体制を整備し、会社全体のROEの維持・向上につなげたいと考えています。今後はROICを社内評価に織り込むことを検討し、現場への浸透にむけた取組みを進めていきます。
また、経営体制が変化する中、現在社内では経営改革プロジェクトを強力に推進し、事業ポートフォリオの見直しも含め、さまざまな検討を進めています。すでに実施したリフォーム事業の分社化やビジネスホテル事業の統合などに加え、今後もグループ各社で重複している事業の統合などを検討し、資本効率をより重視した経営を目指しています。
多様な人財が能力を発揮できる働き方改革の加速
第6次中期経営計画では働き方改革及び技術基盤整備に1,000億円を投資する計画としていましたが、働き方改革はコロナ禍を背景に大きく加速しました。従業員の安全確保を第一に、人と人との接触機会を削減するオペレーションの再構築を進め、直面する課題に迅速に対応してまいりました。テレワークについては、情報セキュリティの確保を進めながら、コロナ収束後も50%を継続する方針です。この4月からはフレックスタイム制も導入し、場所と時間の制約を柔軟にして、社員自身が効率的・生産性の高い働き方を選択し、行動できる環境を整備しました。
当社は社是の冒頭に「事業を通じて人を育てること」を掲げており、人財の育成は当社の価値創造の源泉です。長年にわたって蓄積し、育んできたこの企業文化をしっかりと引き継いでいきながら、多様な人財が個々の能力を最大限に発揮できる環境をこれからも整備してまいります。
株主還元について
2020年度は11期連続の増配を達成
当社は株主還元方針として、配当性向30%以上かつ安定的な配当の維持を掲げています。2020年度は、コロナ禍の影響で減収減益となったものの、安定的な配当の維持に努めた結果、年間配当116円、11期連続の増配を達成しました。
自社株買いについては、2020年度に1,000万株、取得金額260億円を実行しました。今後については、足下はコロナ禍によりキャッシュ・フローが減少しているため、当面は手元資金を厚くしつつ成長投資に余剰資金を振り向けたい考えですが、株価の状況も見ながら機動的に実施を検討してまいります。
ステークホルダーの皆様へ
第6次中期経営計画は、計画がスタートする前からいくつかの不祥事案件を公表したこともあり、ステークホルダーの皆様には多大なるご心配・ご迷惑をおかけいたしました。この2年間は、これらの問題に真摯に対応し、ガバナンスの一層の強化に努め、さまざまな企業改革の取組みを進めてまいりました。改革はいまだ道半ばではありますが、順調に進んでいます。グループ全体の意識改革も含め、大和ハウスグループの変わっていく姿を、ぜひ見守っていただきたいと思います。

Ⅰ.財政状態

財務の状況[ 図1 ]

2020年度末の総資産は、2019年度末比で4,256億円増加し、5兆530億円となりました。その主な要因は、投資用不動産等の取得により有形固定資産が増加したことや、販売用不動産の仕入によりたな卸資産が増加したことによるものです。
負債合計については、2019年度末比で3,055億円の増加となり、3兆1,595億円となりました。その主な要因は、仕入債務が減少したものの、たな卸資産や投資用不動産の取得等のために借入金や社債の発行による資金調達を行ったことによるものです。
純資産合計については、2019年度末比で1,201億円増加し、1兆8,935億円となりました。その主な要因は、株主配当金の支払いや自己株式の取得を行った一方、1,950億円の親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことによるものです。
リース債務等を除く有利子負債残高は、2019年度末比で2,314億円増加し、1兆2,748億円となりました。D/Eレシオについては、2011年度が始まる時点の2010年度末の0.62倍と比較すると、内部留保と2013年度に実施した増資によって一時改善したものの、2020年度末においては0.69倍と上昇しております。その主な要因は、賃貸等不動産の残高が1兆2,454億円となり、近年大きな割合を占める状況となっているためです。今後も、開発用不動産の取得等により、資産が膨らむことが予測されますが、最適資本構成の検証により財務の健全性維持に努めていきます。
①流動比率は174%から184%へと上昇。
②固定比率は197%から147%へと低下。
③固定長期適合率は81%から72%へと低
下。
④自己資本は6,341億円から1兆8,351億円へと成長。

①運転資本(売上債権+たな卸資産-仕入債務)は、2,682億円から1兆2,787億円へと増加。
②リース債務等を除く有利子負債は3,955億円から1兆2,748億円へと増加、また自己資本に対する比率(D/Eレシオ)も0.62倍から0.69倍へ上昇。
③賃貸等不動産を増加させつつ、自己資本に対する賃貸等不動産及び固定資産の比率は1.23倍から1.08倍へと低下。


Ⅱ.キャッシュ・フロー(CF)

基本的な考え方

キャッシュ・マネジメントについては、事業活動によるキャッシュ創出額を基準として投資を行うことを基本的な考え方としております。優良な投資機会に対しては、積極的な投資を行う必要があり、外部から調達する資金を含めて投資枠の設定を行っております。そのため、D/Eレシオが一時的に0.5倍を超えることがありますが、中長期的には、0.5倍程度に有利子負債の水準をコントロールし、成長投資と財務健全性の維持の均衡を図っております。
キャッシュ・フローの状況[ 図2・3 ]

2020年度における営業活動CFは、4,303億円となり、2019年度に比べ2,806億円増加しました。自己資本に対する営業活動CFは、2019年度の14%から9ポイント上昇し23%で推移しております。主な要因としては、2019年度は請負工事に係る仕入債務の支払日程及び支払手段の見直しをしたことなどにより営業活動CFが減少した一方で、2020年度においては、3,112億円の税金等調整前当期純利益を計上したことや、海外におけるマンション販売の進捗に伴い前受金が増加したことなどによるものです。
投資活動CFについては、第6次中期経営計画における投資計画に基づき、賃貸等不動産等の取得や、不動産開発事業への投資を3,030億円実行したことなどにより、△3,899億円となりました。その結果フリー・キャッシュ・フロー(営業活動CF+投資活動CF)は403億円となり、また、たな卸資産や投資用不動産の取得等のために、借入金や社債の発行による資金調達を行ったことなどにより、財務活動CFは1,027億円となりました。
資金調達においては、D/Eレシオの改善につなげるため、ハイブリッドローン(劣後特約付ローン)の実行、また環境配慮型施設の開発や再生可能エネルギーの活用など環境負荷低減のための資金調達としてグリーンボンドを発行いたしました。
これらの結果、現金及び現金同等物の2020年度末残高は2019年度末から1,402億円増加し、4,163億円となりました。

企業価値・キャッシュ創出力[ 図4・5 ]

キャッシュ創出力を示す減価償却前の営業利益(EBITDA)(※1)は4,355億円となっており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下においてもキャッシュを生み出す力を維持し続けております。今後についても、有利子負債の水準を一定程度に維持しつつ、優良な投資案件への積極的な投資を行うという方針を継続するとともに、新たな収益の柱を育てることによって、キャッシュ創出力をさらに高め、企業価値を向上させていきます。
2020年度末の企業価値(EV)(※2)は、時価総額2兆1,592億円にリース債務等を除くネット有利子負債8,489億円を合算し3兆81億円となっております。企業価値とキャッシュ創出力の倍率を示すEV/EBITDA倍率は2020年度末で6.9倍となっております。

Ⅲ.損益の状況

売上高/総資産回転率[ 図6 ]

売上高は4兆1,267億円となり、2011年度からの10年間における年平均成長率は9.3%となりました。
総資産回転率(※3)については、2011年度から2019年度にかけて概ね1倍程度で推移しておりましたが、2020年度においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が続く中、ホテルやスポーツ施設等の一部事業における売上高の減少に加えて、物流施設を中心とした事業施設への投資機会の増加に伴い積極的な不動産開発の投資を実行したことにより低下しました。
今後、回転率の改善のため、たな卸資産の販売促進や投資不動産の売却、政策保有株式の売却等、資産の効率的な活用の徹底に引き続き取組んでいきます。
※3 総資産は期中平均で算出

売上総利益/営業利益率[ 図7 ]

売上総利益は8,268億円となり、2011年度からの10年間における年平均成長率は9.0%となりました。売上高総利益率は、2019年度と比べ0.1ポイント上昇し20.0%となりました。また、営業利益は、3,571億円となり、2011年度からの年平均成長率は13.4%となりました。
営業利益率は2019年度と変わらず、8.7%となりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下においても売上高総利益率は0.1ポイント上昇しました。引き続き生産性の向上等により従業員1人当たりの売上高を増加させ、売上高販管費率を低下させることで、営業利益率が大きく低下しないように努めております。

投下資本利益率(ROIC)/株主資本利益率(ROE)[ 図8・9 ]

税引後営業利益(NOPAT)(※4)は、2,479億円となり、投下資本(自己資本+有利子負債)2兆9,402億円(※5)に対する利益率(ROIC)は8.4%となりました。
当社は、第6次中期経営計画においてはROE13%以上を経営目標のひとつに掲げておりましたが、D/Eレシオ0.5倍を目安として借入等を行い事業を展開しているため、事業投資においては投下資本全体に対するリターンがWACC(株主資本コストと負債コストの加重平均)を上回るように意識をして取組んでおります。ROICの維持・向上によって、株主資本に対する利益率(ROE)の維持・向上に努めていきます。
※4 税引後営業利益(NOPAT)=営業利益×(1-実効法人税率)
※5 期中平均



Ⅳ.事業別経営成績

成長性分析[ 図10 ]

2011年度に対する2020年度の利益成長率は、事業施設事業において4倍、商業施設事業において3倍、住宅ストック事業において2倍を超える水準となっております。
賃貸住宅事業においては、10年前において既に高い利益水準にあったため、2011年度比の成長率は相対的に低く示されておりますが、引き続き高い利益率で推移しております。
また、当社の強みは、事業領域間の隔たりなく事業提案ができることです。社会の変化するスピードが加速度的に増す中で、多様化する建築ニーズに対して、各事業が有する商品・サービスを複合的に組み合わせることや、周辺領域での事業展開によって得られる新たな事業機会が今後さらに増加することを見込んでおります。
これらの新たな市場が全社の成長率を牽引するよう、全体の収益性とのバランスを考慮しながら成長に向けた取組みを進めていきます。

収益性分析[ 図11 ]

営業利益においては、賃貸住宅、商業施設、事業施設事業の3つのセグメントで全体の80%以上を占めております。
また、住宅ストック事業においては、売上高構成比としては2.9%にとどまるものの、高い利益率・資本効率( 図12 )を示しております。市場の成長が見込まれる事業分野であるため、住宅ストック市場を中心としたグループ統一のブランド「Livness(リブネス)」を立ち上げ、積極的に取組んでおります。
また、戸建住宅、マンション事業については、人口減少に伴い、新設住宅着工戸数の減少も見込まれる中、エリアの選択やターゲットの明確化により利益率の改善を図っていきます。


セグメント資産に対する営業利益率[ 図12 ]

セグメント資産に対する営業利益率については、住宅ストック、賃貸住宅、商業施設事業が高い数値を示しております。
事業施設事業については、物流施設等の市場の急成長に対応し、積極的な投資を行っております。現在は取得済みの土地に係る建設投資を進めていることから、現時点における資産利益率は低い水準となっていますが、今後の投資回収期にはキャッシュ・フローに大きく寄与してくることを見込んでおります。

事業投資の状況[ 図13 ]

事業投資の状況としては、高い収益性・成長率を示している事業施設事業への投資を積極的に実施しております。次いで、収益性の高い商業施設、賃貸住宅事業への投資を行っております。また、これらのコア事業によって創出された資金を活用し、新たな収益の柱として育成すべく新規事業や海外事業等への投資も併せて実施しております。