有価証券報告書-第160期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/25 11:55
【資料】
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【項目】
151項目
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2021年6月25日)現在において当社グループが判断したものです。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたって、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような見積り・予測を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。
なお、連結財務諸表作成にあたっての重要な会計方針及び見積り等については、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表] [連結財務諸表注記] 2.作成上の基礎 (6) 見積り及び判断の利用、3.重要な会計方針の要約」に記載のとおりです。
(2) 財政状態及び経営成績の状況
①事業全体の概況
当社グループは、「次の成長に向けた事業基盤の強化」を目標に、2019年度から2021年度までの3年間を第6次中期経営計画期間として位置づけ、様々な取り組みを推進しています。安全・品質・コンプライアンス・環境を当社グループのコアバリューとした上で、「オペレーショナル・エクセレンス(競争力の不断の追求)」と「イノベーションへのチャレンジ(あたらしい価値の創造)」の2つの方針を掲げ、成長への新たな仕掛け、経営資源の強化、環境・社会への貢献の3つの経営課題に取り組んでいます。
当連結会計年度の世界経済を概観すると、第1四半期は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受け、各国において景気は急速に悪化しました。第2四半期以降、経済活動の再開が段階的に進められるなかで、再び新型コロナウイルスの感染者が急増した影響により一部地域では活動制限が一段と強化されるなど足踏みもみられましたが、景気は持ち直しの動きが継続しました。
日本は世界的に自動車市場などが回復に転じたことにより輸出が増加しましたが、緊急事態宣言の再発出に伴い個人消費の一部に弱さがみられるなど依然として厳しい状況にあります。米国ではワクチン普及を背景に経済活動の再開が進んだことに加え、追加経済対策の効果などにより持ち直しが続きました。欧州は制限緩和後に生産活動の持ち直しや設備投資に下げ止まりの兆しがみられたものの、感染再拡大の影響を受けて回復ペースは緩慢になりました。中国では生産活動がいち早く再開したことに加えて、政府の購入補助金に支えられて自動車販売が増加するなど回復傾向が続きました。
このような経済環境下、当連結会計年度の売上高は7,475億59百万円と前期に比べて10.0%の減収となりました。営業利益は63億64百万円(前期比△73.0%)、税引前利益は58億89百万円(前期比△75.5%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は3億55百万円と前期に比べて98.0%の減益となりました。
②セグメントごとの業績
(産業機械事業)
第1四半期には新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の収縮を背景にグローバルで設備投資に慎重な動きが見られました。その後、中国では他地域に先行して生産活動の正常化が進み、中国以外の地域の需要も期末にかけて回復しましたが、期前半での需要低迷が影響して、当期連結累計期間では産業機械事業は対前期比で減収となりました。
地域別では、日本は期末にかけて工作機械向けが増加しましたが、全体ではその他産業の需要が低迷し減収となりました。米州では半導体製造装置向けの販売は増加しましたが、アフターマーケット向けの減少に加えて為替影響もあり減収となりました。欧州はアフターマーケットや電機・電装向けの販売が減少し減収となりました。一方、中国では風力発電、工作機械及び電機・電装向けの需要が堅調に推移し増収となりました。
この結果、産業機械事業の売上高は2,752億26百万円(前期比△3.2%)となりました。営業利益は中国を除く各地域で販売が減少した影響により76億97百万円(前期比△47.8%)となりました。
当事業では、今後も需要動向の変化に機動的な対応をしていきます。また、IoTや5Gの進展をはじめ、ロボティクスや再生可能エネルギーなどの社会的ニーズが高まる中、これらの成長分野に対応した新たな事業基盤の構築を進めていくことで、市場におけるプレゼンスの中長期的な向上と、収益を伴う事業の拡大を図っていきます。
(自動車事業)
第1四半期には新型コロナウイルスの流行による移動制限、サプライチェーンの混乱及び生産活動停止の影響を受け、世界的に自動車生産台数が大幅に減少しました。第2四半期以降、自動車市場は回復に転じましたが、第1四半期での落ち込みが影響して、当期連結累計期間では自動車事業は対前期比で減収となりました。
地域別では、日本は自動車市場の需要低迷により減収となりました。米州及び欧州では経済活動の制限により自動車販売が落ち込み減収となりました。一方、中国では電動パワーステアリング(EPS)は減少しましたが、軸受製品やオートマチックトランスミッション(AT)関連製品が増加し増収となりました。
この結果、自動車事業の売上高は4,497億22百万円(前期比△13.8%)となりました。営業損失は中国を除く各地域で販売が減少した影響により40億18百万円(前期は91億74百万円の利益)となりました。
当事業では、ATの搭載率向上や多段化、自動車の電動化などへ対応することでパワートレインビジネスの拡大を図るとともに、ステアリングビジネスの再成長や、搭載の義務化が期待される電動ブレーキシステムにも注力していきます。さらに、これまで蓄積してきた技術と新たに取り組む技術開発によって、電動化・自動運転といった自動車の技術革新への貢献を目指します。また、生産性向上や固定費抑制を進めることで、収益力の改善を図っていきます。
③財政状態の分析
当連結会計年度は、新型コロナウイルス感染拡大をはじめとする不測の事態による流動性リスクに備えた借入れを実行したことにより、その他の金融負債(流動)は前連結会計年度末に比べて583億98百万円増加しました。一方、状態監視システム(CMS)事業の買収に伴う支出201億18百万円があり、現金及び現金同等物は393億40百万円の増加となりました。
また、経済活動の再開に伴い事業環境が回復したことにより、売上債権及びその他の債権は310億2百万円増加し、仕入債務及びその他の債務は144億16百万円増加しました。さらに、株価上昇により、その他の金融資産(非流動)が237億4百万円増加しました。
以上の結果、当連結会計年度末において、資産合計は前連結会計年度末に比べ1,376億14百万円増加した1兆1,674億98百万円となり、負債合計は前連結会計年度末に比べ907億4百万円増加した5,940億70百万円となりました。
当連結会計年度末の資本合計は、剰余金の配当による減少があるものの、親会社の所有者に帰属する当期利益、その他の資本の構成要素の増加等により前連結会計年度末に比べて469億9百万円増加し、5,734億28百万円となりました。
④キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて393億40百万円増加し、1,766億38百万円となりました。
主に利益の減少やCMS事業買収に伴う支出等のキャッシュ減少要因があったものの、設備投資の抑制により、フリー・キャッシュ・フローはプラス(27億45百万円)を維持しています。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により得られたキャッシュ・フローは、税引前利益58億89百万円から減価償却費及び償却費、運転資本等の加減算を行った結果、前連結会計年度に比べて185億44百万円減少し、538億42百万円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動に使用されたキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べて113億12百万円増加し、510億96百万円の支出となりました。主な内訳は、有形固定資産の取得による支出337億97百万円、CMS事業の買収に伴う子会社株式の取得による支出201億18百万円です。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により得られたキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べて513億26百万円増加し、299億92百万円の収入となりました。主な収入の内訳は、新型コロナウイルス感染拡大をはじめとする不測の事態に備えた短期借入金の純増減額391億94百万円、長期借入れによる収入167億27百万円です。一方で主な支出の内訳は、長期借入金の返済による支出101億42百万円、配当金の支払額102億53百万円です。
⑤目標とする経営指標の達成状況等
当連結会計年度は、第6次中期経営計画(2020年3月期から2022年3月期)の2年目であり、当計画に基づき「次の成長に向けた事業基盤の強化」に向けて経営課題に取り組んできました。一方で、当社グループを取り巻く環境は、期後半にかけて需要は回復に転じましたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による第1四半期での落ち込みが影響して、産業機械事業及び自動車事業の販売は前期に比べて減少しました。
この結果、当連結会計年度における当社が経営上の目標として掲げる指標は、以下のとおりとなりました。
経営指標第6次中期経営計画
目標
2020年3月期
実績
2021年3月期
実績
①売上高/成長率売上成長2%/年8,310億円7,476億円/
対前期比△10.0%
②営業利益率8%以上2.8%0.9%
③ROE10%以上3.3%0.1%
④ネットD/Eレシオ0.3倍程度0.28倍0.28倍

足元では、新型コロナウイルスの更なる感染拡大や車載用半導体等一部部材の供給不足など、世界経済の先行きは不透明な状況ですが、このような環境下においても、当社グループは引き続き第6次中期経営計画を推進していきます。本中期経営計画で掲げた3つの経営課題(成長への新たな仕掛け、経営資源の強化、環境・社会への貢献)の取り組みを進め、中長期的な持続的成長を可能にする企業基盤の確立を目指していきます。
(3) 資本の財源及び資金の流動性
①財務戦略の基本方針
当社グループは、安定した財務体質のもと、成長投資と利益還元を両立することを財務戦略の基本方針としています。
(a) 財務基盤の安定
当社グループの持続的な成長を支え、景気変動の影響にも耐え得るには「財務基盤の安定維持」が前提となります。当社グループのキャッシュ創出力は過去に比べて着実に高まり、財務基盤も安定的に推移しています。今後も債券格付A格の維持と、ネットD/Eレシオを0.3倍程度に抑制し、自己資本比率を50%程度に保つことで、当社グループの財務安定性は確保できると認識しています。
(b) 収益を伴う成長
キャッシュ・フローを創出して、次の成長につなげるための設備投資や研究開発投資を実施し、株主の皆様に安定的な利益還元を行うためには「収益を伴う成長」を持続的に達成することが必要です。
株主・投資家の皆様が期待する資本コストを上回る収益率をあげることは、株式上場会社の使命と言えます。当社グループは、過去の株価動向と事業特性、および株式市場の現況から推計した当社の株主資本コスト(概ね8%~9%)を上回る「ROE 10%以上」を第6次中期経営計画の目標としました。この目標を中期的に達成し続けることが、さらなる株主価値の向上につながると考えています。
(c) 安定的な利益還元
当社グループは株主の皆様に対する「安定的な利益還元」を重要な経営方針の一つとしています。
第6次中期経営計画では株主還元を一層強化し、配当性向を30%~50%として、1株当たり配当金は年40円以上という目標を掲げました。
さらに、当社グループは配当による利益還元に加えて、自己株式取得による機動的な資本政策の実行も選択肢の一つと認識しています。自己株式の取得は、当社のキャッシュ・ポジションや、株式市場の動向等を勘案して、適切かつ機動的に実施したいと考えており、第6次中期経営計画の3年間での総還元性向は50%とすることを目安としています。なお、これらの実行にあたっては、財務状況等を勘案して適切に決定していきます。

②財務状況
当連結会計年度の財政状態は次のとおりです。
財務戦略の基本方針経営指標第6次中期
経営計画目標
2020年3月期
実績
2021年3月期
実績
評価・
コメント
(a)財務基盤の安定維持ネットD/Eレシオ0.3倍程度0.28倍0.28倍中計目標の0.3倍程度を維持
自己資本比率50%程度49.1%47.5%コロナ禍でも中計目標の50%近くを維持
(b)収益を伴う成長ROE10%以上3.3%0.1%利益減少に伴い低下
(c)安定的な利益還元配当性向30%~50%88.2%2,885.8%利益減少に伴い減配したが、安定的な利益還元を実施
総還元性向50%目安88.2%2,885.8%


③資金調達
当社グループは現在、自己資金及び金融機関の借入れ等により資金調達することとしています。運転資金について借入れによる資金調達を行う場合、期限が一年以内の短期借入金で各連結会社がその現地通貨で調達することが一般的で、生産設備などの長期資金は、主として長期借入金及び社債で調達しています。
本報告書提出時点において、格付投資情報センターから「A」、日本格付研究所から「A+」の格付を取得しており、外部からの資金調達に関しては問題なく実施可能と認識しています。当社グループは、その健全な財務状況、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力、金融機関のコミットメントライン契約800億円や、コマーシャルペーパー発行枠500億円などにより必要資金の確保と緊急時の流動性を確保しています。
④財務活動の振り返り
当連結会計年度においては、前年度後半から顕在化した新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済活動の縮小や需要減退が見込まれたため、不測の事態による流動性リスクに備えて、年度初め(2020年4月)に総額516億47百万円の借入れを実行しました。また、新たに550億円のコミットメントライン契約を締結し、既存契約と合わせて総額800億円としました。その結果、年度初めの手元流動性(現金及び現金同等物とコミットメントライン契約を含む借入余力の合計金額)は売上高の約6ヶ月分を確保しました。
その後、経済活動の再開に伴い事業環境が回復し、状態監視システム事業の買収に伴う支出201億18百万円があったものの、設備投資の抑制もあり、当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローはプラス(27億45百万円)を維持しています。
また、当連結会計年度末の有利子負債残高は、前連結会計年度末から532億69百万円増えた3,324億40百万円となりました。なお、コミットメントライン契約による借入残高はありません。
利益還元については、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う経済活動の縮小の影響を受け、売上高、利益が前連結会計年度に比べて減少したことから、当連結会計年度の配当金は1株当たり年30円から年20円に減配しました。配当性向と総還元性向は、共に前連結会計年度の88.2%から当連結会計年度は2,885.8%へ上昇しました。
また、コロナウイルス感染拡大の収束が未だ不透明なこともあり、一定の手元流動性を確保した上で配当を優先したことから、自己株式の取得は実施しませんでした。
(4) 生産、受注及び販売の実績
当社グループの販売・生産品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また見込み生産を行う製品もあるため、生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。このため、販売及び生産の状況については、「(2)財政状態及び経営成績の状況」に関連づけて記載しています。
(5) 経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループの事業展開、経営成績及び財務状況等に重要な影響を与えるリスク要因については、「2[事業等のリスク]」に記載のとおりです。