有価証券報告書-第105期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/21 15:42
【資料】
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【項目】
122項目
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。また、当社はオンライン証券取引サービスの単一セグメントであるため、セグメントごとの記載を省略しております。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末(2021年3月31日)現在において、当社が判断したものであります。
(1) 経営成績の状況及び分析
当事業年度の国内株式市場は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により低迷した日本経済の状況とは異なり、世界各国の大規模な金融緩和や経済対策等を背景に、株価は堅調に推移しました。期初18,600円台であった日経平均株価は、欧米における経済活動再開の期待や国内における緊急事態宣言の解除、ワクチン開発の進展期待等から続伸し、6月上旬には23,000円を回復しました。その後は、新型コロナウイルスの感染再拡大への懸念や米国における追加経済対策の先行き不透明感の強まりなどから、上値の重い展開が続きましたが、11月に入ると、ワクチン開発の進展や米大統領選におけるバイデン候補優勢の報道を受けて、株価は大きく上昇する展開となりました。1月以降も米政権移行に目途が立ったことや、追加経済政策への期待が高まったこと、ワクチン普及に伴うコロナ禍終息への期待から株価は上昇し、2月中旬に日経平均株価は約30年半ぶりに30,000円台を記録しました。その後は、米長期金利の上昇が相場の重しとなるなど、28,000円台から30,000円台で上下を繰り返し、3月末の日経平均株価は29,100円台で取引を終えました。
このような市場環境の中で、二市場(東京、名古屋の各証券取引所)合計の株式等売買代金は、前事業年度と比較して18%増加しました。当社の主たる顧客層である個人投資家についても、株価上昇に伴う買い余力の増加等を背景に取引が拡大し、二市場全体における個人の株式等委託売買代金は、同48%と大幅に増加しました。その結果、二市場における個人の株式等委託売買代金の割合は22%と、前事業年度の18%から大きく上昇しました。また、当社の株式等委託売買代金についても、個人投資家の売買が活発化したことを受け、同48%の増加となりました。
当事業年度における当社の取組みとしては、良好な市場環境を背景に、投資や資産形成に対する関心が高まっている状況を踏まえ、テレビCMの配信や東京ドームにおける広告の出稿、インターネット広告の強化など、認知度向上に向けた施策及びプロモーションの強化に取り組みました。商品・サービスについては、株式取引において、新たに「短期信用取引」を開始し、信用取引の新規売り銘柄の拡充に努めたほか、株主優待の権利取得などを目的とした「クロス注文」をオンラインで受け付けるサービスを大手ネット証券で初めて導入しました。また、新スマートフォンアプリ「松井証券 株アプリ」の提供を開始し、取引の利便性向上に努めました。FXについては、「初めての方でも少額から簡単に始められる“あんしんFX”」をコンセプトに、新ブランド「松井証券MATSUI FX」を開始しました。投資信託については、信託報酬の一部をお客様に現金で還元する「投信毎月現金還元サービス」を開始したほか、取扱銘柄を継続的に拡充しました。その他、株式投資の銘柄探しや取引タイミングをサポートする「株の取引相談窓口」の開設や、資産運用が楽しく学べる動画の配信など、顧客向けサービスの拡充を実施しました。
なお、証券取引システムの開発・運用業務の委託先であるSCSK株式会社の元従業員が、当社のお客様になりすまして有価証券を売却し、その売却代金や別途お預かりしていた現金を不正に取得した事案を3月に公表しました。被害に遭われたお客様への返金費用は前事業年度においてSCSK社から補償を受けており、本事案が当事業年度の業績に与える重要な影響はありません。
当事業年度においては、株式等委託売買代金の増加等により受入手数料が18,557百万円(対前事業年度比37.6%増)となりました。また、信用取引平均買残高の増加等により金融収支も同20.1%増の9,286百万円となりました。
この結果、営業収益は30,082百万円(同24.6%増)、純営業収益は28,672百万円(同28.3%増)となりました。また、営業利益は12,827百万円(同44.0%増)、経常利益は12,919百万円(同43.3%増)、当期純利益は10,283百万円(同67.6%増)となりました。前事業年度と比較して、営業収益、純営業収益、営業利益、経常利益、当期純利益は大幅な増加となりました。新型コロナウイルスの感染拡大は株式市場に影響を与えておりますが、市場の動向そのものを別とすれば、オンライン証券という当社の業態の性質もあり、業績への重要な影響はありませんでした。
収益・費用の主な項目については以下の通りです。
(受入手数料)
受入手数料は18,557百万円(同37.6%増)となりました。そのうち、委託手数料は17,812百万円(同38.6%増)となりました。これは主として、株式等委託売買代金が同48%増となったことによるものです。
(トレーディング損益)
トレーディング損益は、主としてFX取引のトレーディング益により、828百万円の利益となりました。
(金融収支)
金融収益から金融費用を差し引いた金融収支は9,286百万円(同20.1%増)となりました。これは主として、信用取引平均買残高の増加によるものです。
(販売費・一般管理費)
販売費・一般管理費は、同17.9%増の15,845百万円となりました。これは主として、広告宣伝費や取引所費の増加等による取引関係費の増加(同29.9%増)によるものです。
(営業外損益)
営業外損益は合計で92百万円の利益となりました。これは主として、受取配当金81百万円によるものです。
(特別損益)
特別損益は合計で1,899百万円の利益となりました。これは主として、投資有価証券売却益1,994百万円を計上したことによるものです。
なお、当社は、株主資本コスト(8%)を上回るROE(自己資本当期純利益率)を中長期的に達成することを経営目標としておりますが、当事業年度のROEは、株式等委託売買代金の増加や信用取引平均買残高の増加等を背景に12.9%となりました。上記の目標値を達成しており、今後も中長期的な資本効率の向上に努めてまいります。
(2) 経営成績に重要な影響を与える要因について
当社の主たる事業は、個人投資家向けの株式等委託売買業務であり、収入項目としては受入手数料、とりわけ株式等売買に関する委託手数料が当社の業績に重要な影響を及ぼします。また、主として信用取引に起因する金融収益についても当社の業績に重要な影響を及ぼす要因となります。しかしながら、その水準はともに株式市場の相場環境に大きく左右されます。
(3) 財政状態の状況及び分析
当社の主な資産は、顧客からの預り金や受入保証金等を信託銀行に預託した顧客分別金信託(預託金に含まれます)と、信用取引貸付金を中心とする信用取引資産です。一方、信用取引貸付金に充当することを目的として、短期借入金等による調達を行っております。当社の主な負債は、預り金、受入保証金及び短期借入金です。
当事業年度末の資産合計は、対前事業年度末比35.8%増の961,791百万円となりました。これは主として、信用取引貸付金が同79.6%増の277,143百万円となったことや、預り金や受入保証金等の増加に伴い預託金が同25.5%増の564,012百万円となったことによるものです。
負債合計は、同40.5%増の882,578百万円となりました。これは主として、信用取引貸付金の増加等に伴い短期借入金が同163.5%増の207,900百万円となったことや、預り金が同24.4%増の335,941百万円となったこと、また、受入保証金が同16.8%増の248,255百万円となったことによるものです。
純資産合計は、同1.3%減の79,213百万円となりました。当事業年度においては、2020年3月期期末配当金及び2021年3月期中間配当金計10,919百万円を計上する一方、当期純利益10,283百万円を計上しております。
(4) キャッシュ・フローの状況及び分析
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、111,926百万円のマイナス(前事業年度は60,195百万円のプラス)となりました。これは、預託金の増加や信用取引資産及び信用取引負債の増減が主な要因です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,607百万円のマイナス(前事業年度は2,749百万円のマイナス)となりました。当事業年度においては、無形固定資産の取得による支出2,638百万円を計上する一方、投資有価証券の売却による収入2,000百万円を計上しております。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、117,986百万円のプラス(前事業年度は41,209百万円のマイナス)となりました。これは、短期借入金の純増加が主な要因です。
以上の結果、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は、59,798百万円(前事業年度末は55,345百万円)となりました。
(5) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は、株式ブローキング事業の強化と商品・サービスの拡充を経営戦略として位置付けております。各事業年度において、オンライン証券取引サービスを継続的に提供するとともに、各種新サービスの追加や取引システムの能力強化あるいは改良等に必要なシステム投資を中心とする設備投資を継続的に行っており、このための成長資金を必要としております。一方で、日々の業務運営に手元資金を必要としておりますが、ともに当事業年度末現在では内部留保の範囲で十分カバーできる水準です。
手元資金は、株式等委託売買や株券貸借取引等に伴う決済の他、顧客への出金等に対応するために十分な水準を確保しておりますが、日々の決済等の状況により、必ずしもその水準は一定しません。
当社が行う資金調達は、主として信用取引貸付金の増加に対応するものですが、経常的な信用取引貸付金の増減については、銀行等金融機関からの短期借入金の増減を中心に対応しております。信用取引貸付金の水準が大きく増加する場合に備えて、社債による資金調達を機動的に行えるよう発行登録も行っておりますが、当事業年度末現在においては、信用取引貸付金と内部留保の水準を踏まえ、資金調達の大部分はコール・マネーを含む短期借入金によっております。
なお、複数の金融機関と当座貸越契約やコミットメントライン契約を締結することで、資金調達の安全性を確保しております。
また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う資金調達への重要な影響はありませんでした。
当社は、中長期的に株主資本コストを上回るROEを達成することを経営目標としており、株主還元は、株主資本コスト相当額以上を配当として実施する方針です。当事業年度末現在の株主資本コストは、資本資産評価モデルを参考に8%と想定していることから、経営目標として中長期的に8%を上回るROEを達成するとともに、配当政策として各期8%以上の純資産配当率(DOE)を実現することとしております。併せて、各期の配当性向については60%以上とすることとしております。
当社は当事業年度末現在で十分な水準の自己資本規制比率を維持しておりますが、株主還元の結果内部留保が増加する場合においては、信用取引貸付金の原資や設備投資資金等として有効に活用いたします。
(6) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。