有価証券報告書-第100期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/29 14:25
【資料】
PDFをみる
【項目】
169項目
(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績
当期のわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、人の移動や経済活動が抑制され、飲食や宿泊等のサービスを中心に個人消費が落ち込むなか、企業収益も大幅に減少するなど、厳しい状況が続きました。
このような状況のもと、当社グループの営業収益は385,978百万円(前期比27.7%減)にとどまり、設備投資の抑制および費用の削減を推進したものの、営業損失は24,190百万円(前期 営業利益41,103百万円)となったほか、経常損失は31,223百万円(前期 経常利益38,299百万円)、親会社株主に帰属する当期純損失は39,804百万円(前期 親会社株主に帰属する当期純利益19,923百万円)となりました。
セグメントごとの業績は、次のとおりです。
ア 運輸業
鉄道事業では、輸送面において、本年3月、鉄道工事を取り巻く環境変化や新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を踏まえ、鉄道メンテナンス体制の持続性を高めるため、最終列車と一部の始発列車の運転時刻の変更を中心としたダイヤ改正を実施しました。また、通勤車両5000形4編成を増備したほか、ロマンスカー30000形(EXE)や通勤車両1000形のリニューアルを引き続き実施するなど、輸送サービスの向上を図りました。このほか、箱根登山電車については、一昨年の台風19号の被害を受け、箱根湯本駅~強羅駅間で運転を見合わせていましたが、昨年7月、全線で営業運転を再開しました。
営業面は、複合経路検索機能や電子チケット発行サービスを備えるMaaSアプリケーション「EMot(エモット)」において「デジタル箱根フリーパス」や「デジタル丹沢・大山フリーパス」の通年発売を開始するなど、次世代の技術を活用した移動サービスを提供しました。
施設面は、列車運行の安全性を一層高めるため、下北沢駅(地下2階ホーム)および登戸駅(1、2番ホーム)でホームドアを設置したほか、自然災害による土砂崩壊等の被害を抑制すべく、愛甲石田駅~伊勢原駅間等での法面改修工事を引き続き実施しました。また、地域のシンボルとして愛着を感じられる駅を目指し、昨年7月、片瀬江ノ島駅において、新江ノ島水族館とコラボレーションしたクラゲ水槽を新たに設置したほか、昨年11月、参宮橋駅において、「東京の木 多摩産材」を用いた木の温もりを感じられる駅舎へのリニューアルが完了するなど、駅施設の充実を図りました。このほか、小田急箱根グループ各社において、箱根登山ケーブルカーと箱根ロープウェイの乗換駅である早雲山駅舎について、昇降式ホーム柵の設置により安全性を強化したほか、同駅舎内に展望テラスや足湯を楽しめる新スポット「cu-mo箱根」をオープンするなど、全面リニューアルを完了しました。
自動車運送事業は、小田急バス㈱において、昨年9月に創立70周年を迎えたことを記念し、ラッピングバスを運行するなど、年間を通じて各種記念事業を実施しました。また、各社でお客さまのニーズに対応した路線の開設やダイヤ改正を実施し、利便性の向上を図りました。
しかしながら、当社の鉄道事業において、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛等の影響を受けて定期・定期外ともに輸送人員が大幅に減少したことなどから、営業収益は116,230百万円(前期比32.9%減)、営業損失は25,937百万円(前期 営業利益21,641百万円)となりました。
(提出会社の鉄道事業運輸成績表)
種別単位当連結会計年度
(2020.4.1~2021.3.31)
対前期増減率(%)
営業日数365△0.3
営業キロキロ120.50.0
客車走行キロ千キロ192,3460.7
定期千人331,963△30.5
輸送人員定期外193,262△32.8
525,225△31.4
定期百万円34,290△29.1
旅客運輸収入定期外43,575△36.8
77,866△33.6
運輸雑収3,191△16.0
運輸収入合計81,057△33.1
乗車効率%28.6

(注) 乗車効率の算出方法
乗車効率=延人キロ(駅間通過人員×駅間キロ程)/(客車走行キロ×平均定員)×100
イ 流通業
百貨店業では、㈱小田急百貨店において、昨年3月にリニューアルを行った「小田急百貨店オンラインショッピング」について、幅広い年代のお客さまに安心してご利用いただくため、オペレーターがお客さまの画面を確認しながら操作案内や注文サポートを実施できる画面共有サービス「Withdesk Browse(ウィズデスク ブラウズ)」を導入しました。また、中国のメッセンジャーアプリWeChat上で提供されるミニプログラムを通じた中国向け越境Eコマース事業を開始するなど、新たな生活様式や多様な顧客ニーズに対応した事業領域の拡大に努めました。
ストア業等では、小田急商事㈱が運営するスーパーマーケット「Odakyu OX」において、小型店タイプにおけるモデル店として新しい売場づくりに取り組んだ向ヶ丘遊園店が新規オープンしたほか、新型コロナウイルス感染症対策を講じつつ、地域の方々の暮らしを支えるスーパーマーケットとして、各店で厳選した付加価値の高い商品の提供等に努めるなど、積極的な営業活動を推進しました。
しかしながら、百貨店業において、新型コロナウイルス感染症の拡大により2020年4月に発出された緊急事態宣言に伴い食品フロアを除く全てのフロアを臨時休業(2020年4月8日~2020年5月25日)したことや、外出自粛や入国制限に伴う顧客の減少等の影響を受け、営業収益は157,685百万円(前期比23.7%減)、営業損失は1,741百万円(前期 営業利益4,373百万円)となりました。
ウ 不動産業
不動産分譲業では、小田急不動産㈱において、「リーフィア祖師ヶ谷大蔵」等の戸建住宅や、「リーフィアタワー海老名ブリスコート」をはじめとしたマンションを分譲するなど、収益の確保に努めました。また、急速に普及した在宅勤務等に対応するため、仕事・プライベートの両面において快適な住まいを提案する新たなプラン「ウチBiz」を開発し、一部の分譲戸建住宅に導入しました。
不動産賃貸業では、昨年4月、商業施設の開発から運営までを一貫して担う㈱小田急SCディベロップメントを新設し、商業施設運営の効率化を図りました。また、東北沢駅~世田谷代田駅間の地下化により創出された線路跡地「下北線路街」において、個性豊かなテナントが揃う新たなスタイルの商店街「BONUS TRACK」や居住型教育施設「SHIMOKITA COLLEGE」を開業するなど、開発計画を推進しました。
しかしながら、不動産賃貸業において、新型コロナウイルス感染症の拡大により2020年4月に発出された緊急事態宣言に伴い一部の商業施設を臨時休業(2020年4月8日~2020年5月31日)して入居テナントに対する賃料を減免したことなどにより、営業収益は72,872百万円(前期比9.5%減)となりました。一方、営業利益は、不動産分譲業における当社分譲用地の販売や不動産賃貸業における費用削減等により16,459百万円(同27.2%増)となりました。
エ その他の事業
ホテル業では、当社グループが運営する各ホテルにおいて、Gо Tо トラベル事業による宿泊需要を積極的に取り込みました。また、㈱ホテル小田急サザンタワーが運営する「小田急ホテルセンチュリーサザンタワー」やUDS㈱が運営する「ONSEN RYOKAN 由縁 新宿」等において、快適なテレワークをサポートするプランを販売するなど、収益の確保に努めました。
レストラン飲食業では、㈱小田急レストランシステムおよびジローレストランシステム㈱において、テイクアウトメニューの充実を図るなど、変化する顧客ニーズを捉えた新たなサービスの提供に努めました。
しかしながら、ホテル業における新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛や入国制限に伴う顧客の減少に加え、レストラン飲食業における一部店舗の臨時休業等の影響を受け、営業収益は68,131百万円(前期比39.3%減)、営業損失は13,020百万円(前期 営業利益2,090百万円)となりました。
② キャッシュ・フロー
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純損失41,261百万円に減価償却費等を加減した結果、27,178百万円の資金収入となり、前連結会計年度に比べ、47,718百万円の資金収入の減少となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、43,582百万円の資金支出となり、有形固定資産の取得による支出が減少したことなどから、前連結会計年度に比べ、41,872百万円の資金支出の減少となりました。
この結果、これらを差し引いたフリー・キャッシュ・フローは16,403百万円の資金支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、37,207百万円の資金収入と、社債の発行による収入等により、前連結会計年度に比べ20,035百万円の資金収入の増加となりました。
なお、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末と比べ20,803百万円増加し、49,267百万円となりました。
③ 生産、受注および販売の実績
当社グループの主たる事業は、鉄道事業を中核とする運輸業、百貨店業を中核とする流通業、建物の賃貸、土地および建物の販売を行う不動産業およびその他の事業であり、役務の提供を主体とする事業の性格上、生産および受注の実績を金額あるいは数量で示すことはしていません。
そのため生産、受注および販売の実績については、「(1) 経営成績等の状況の概要」におけるセグメントの業績に関連付けて示しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 重要な会計方針および見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成に際し、経営者は、決算日における資産・負債および報告期間における収入・費用の金額ならびに開示に影響を与える見積りを行わなければなりません。これらの見積りについては、過去の実績や状況等に応じ合理的に判断を行っていますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。重要な会計方針および見積りには、以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当報告書提出日現在において判断したものです。
また、連結財務諸表の作成における会計上の見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等[注記事項](重要な会計上の見積り)」に記載しています。
ア たな卸資産の評価
当社グループは、多くのたな卸資産を保有しており、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号 2008年9月26日)を適用しています。これらのうち、分譲土地建物については原価法(貸借対照表価額は収益性の低下による簿価切り下げの方法により算定)を採用しており、市場価格が下落した場合には、簿価の切り下げにより費用が発生する可能性があります。
イ 有価証券の減損
当社グループは、金融機関や取引先の有価証券を保有しています。これらのうち、時価のある有価証券については、時価が取得原価に比べて50%以上下落した場合には減損処理を行い、30~50%程度下落した場合には回復可能性等を考慮して必要と認められた額について減損処理を行っています。
これらの有価証券は価格変動リスクを負っているため、損失が発生する可能性がありま
す。
ウ 固定資産の減損
当社グループは、多くの固定資産を保有しています。これらの固定資産の回収可能価額については、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等多くの前提条件に基づき算出しているため、前提条件が変更された場合には、損失が発生する可能性があります。
エ 繰延税金資産
当社グループは、繰延税金資産について実現可能性が高いと考えられる金額へ減額するために評価性引当額を計上しています。評価性引当額は将来年度の課税所得の見込額等を考慮して計上しますが、将来の業績変動により課税所得の見込額が減少または増加した場合には、評価性引当額の追加計上または取り崩しが必要となる場合があります。
オ 退職給付債務および費用
従業員の退職給付債務および費用は、数理計算上で設定される諸前提条件に基づいて算出しています。これらの前提条件には、割引率、長期期待運用収益率、予想昇給率等が含まれます。実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、退職給付債務および費用に影響する可能性があります。
② 財政状態および経営成績
(財政状態)
総資産は、社債の発行に伴い現金及び預金が増加した一方で、減損損失の計上により有形固定資産が減少したことなどから、1,326,996百万円(前連結会計年度末比1,307百万円減)となりました。
負債の部についても、社債の発行に伴い有利子負債が増加したことなどから、974,539百万円(同36,418百万円増)となりました。
純資産の部は、親会社株主に帰属する当期純損失の計上により利益剰余金が減少したことなどから、352,456百万円(同37,726百万円減)となりました。
(経営成績)
ア 営業収益および営業利益
当連結会計年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を受け、営業収益は385,978百万円(前期比27.7%減)、営業損失は24,190百万円(前期 営業利益41,103百万円)となりました。なお、各セグメントの営業収益および営業利益の分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載しています。
イ 営業外損益および経常利益
営業利益の減少に伴い、経常損失は31,223百万円(前期 経常利益38,299百万円)となりました。
ウ 特別損益および親会社株主に帰属する当期純利益
税金等調整前当期純損失は41,261百万円(前期 税金等調整前当期純利益35,998百万円)となり、ここから法人税等および非支配株主に帰属する当期純損失を控除した結果、親会社株主に帰属する当期純損失は39,804百万円(前期 親会社株主に帰属する当期純利益19,923百万円)となりました。
③ 資本の財源および資金の流動性についての分析
ア 設備投資による資本の投下
当社グループは、鉄道事業において、安全防災対策に積極的に取り組みながら、快適かつスピーディーな鉄道運行の実現に努めているほか、他の事業においても、沿線の魅力を高めることを目指して継続的な設備投資を行っています。当連結会計年度は総額62,943百万円の設備投資を実施しました。
なお、各セグメントの設備投資等の概要については、「第3 設備の状況」の「1 設備投資等の概要」に記載しています。
イ 資金需要の主な内容と動向
当社グループの主要な資金需要は、安心・便利・快適に鉄道をご利用いただくために不可欠な設備や施設への投資や、沿線価値の向上に資する開発への投資等の設備投資の支出ですが、その他に人件費等の事業運営のための運転資金の支出があります。また、今後の動向としては、設備投資が資金需要の中で最も高い割合を占める状況が続くと考えています。
ウ 資金調達
当社グループの資金調達は、鉄道事業における設備投資に対する㈱日本政策投資銀行からの借入金のほか、社債および民間金融機関からの借入金等、市場環境や金利動向等を総合的に勘案しながら決定しています。
なお、当社グループでは資金効率向上のため、キャッシュマネジメントシステム
(CMS)を導入し、資金繰りの波動により、短期的な資金需要が発生する場合には、極力グ
ループ内資金を活用するほか、適宜、コマーシャルペーパー(CP)の発行等により緊急時の
流動性を確保しています。
エ 資金の流動性
当社グループは、鉄道事業や流通業を中心に日々の収入金があることから、必要な流動性資金は十分に確保しており、これらの資金をCMSにより集中管理することでグループ内において有効に活用しています。
なお、新型コロナウイルス感染症の拡大により資金繰りへの影響が生じていますが、社債の発行等により、手元資金は十分に確保できています。
また、今後急激に資金繰りが悪化した場合においても、迅速に追加での資金調達が可能な体制を構築しています。
④ 経営指標
当社グループでは、2023年度における財務健全性の回復の目安として「有利子負債残高7,000億円、有利子負債/EBITDA倍率7倍台」を掲げ、各事業における収支構造の改善施策や、投資案件のこれまで以上の選別等に取り組みます。
なお、当連結会計年度については、以下のとおりです。
(EBITDA・有利子負債/EBITDA倍率)
前連結会計年度
(百万円)
当連結会計年度
(百万円)
借入金・社債等652,412703,173
鉄道・運輸機構長期未払金(注1)88,61479,649
有利子負債計(注2)741,027782,822
EBITDA(注3)90,73126,355
有利子負債/EBITDA倍率8.2倍29.7倍

(注) 1 鉄道・運輸機構長期未払金は、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 ⑤ 連結附属明細表[借入金等明細表]」における鉄道・運輸機構長期未払金の額とは異なり、上表では消費税等相当額を加えています。
2 リース債務および社内預金は除いています。
3 EBITDAは、営業利益に減価償却費を加えたものです。