有価証券報告書-第53期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

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2018/06/27 12:03
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文中の将来に関する記載は、当年度末現在において当社が判断したものであり、当社としてその実現を約束するものではありません。
(1) 連結経営成績等の状況の概要
① 連結経営成績の状況
当年度の日本経済は、企業収益や企業の景況感の改善とともに国内景気は緩やかな回復が続きました。企業収益の改善とともに、情報システム投資は堅調に推移しました。
このような環境の下、当社グループ(当社及び連結子会社をいう。以下同じ。)は、コンサルティングからシステム開発・運用まで一貫して提供できる総合力をもって事業活動に取り組みました。当年度は、長期経営ビジョン「Vision2022」の実現に向け策定した中期経営計画(2016年度~2018年度)の2年目となり、より一層の生産性向上と既存事業の拡大に取り組むとともに、グローバルやデジタルビジネス分野等の新領域において、事業基盤の形成や実績の蓄積をさらに進めました。
既存事業の拡大に向けた取組みとして、業界標準ビジネスプラットフォーム(共同利用型システム)においては、国債の決済期間短縮化や証券保管振替機構の次期システムへの移行など関連する制度改正への着実な対応を進めるとともに、顧客業務の高度化や効率化の支援を進めました。デジタルビジネスにおいては、顧客のIT活用が、新たな事業を創出しビジネスの拡大に直結する投資(ビジネスIT)へ広がる中、新たな事業の創出を進めました。また、政府、企業が働き方改革を推進する中、顧客に対してITを活用して働き方改革を支援するサービスの提供を進めており、当社自身も働き方改革に積極的に取り組んでいます。
グローバル事業においては、日系企業のグローバル展開のサポートや現地政府・企業向け事業の開拓に加え、新たな事業領域の拡大に向け、新技術や経験、優れたネットワークを持つ企業との協業やM&Aなども進めました。M&Aにより取得した子会社については、更なるシナジーの創出に向け、経営管理制度や業務管理体制の構築など買収後の経営統合プロセスを進めています。豪州ITサービス市場の事業拡大を目的に、豪州のSMS Management & Technology Limitedを子会社とし、同社は産業ITソリューションセグメントの主要な関係会社となっています。豪州地域の事業拡大に伴い、域内のガバナンス体制を強化するため、Nomura Research Institute Holdings Australia Pty Ltdを設立しました。
また、当年度に横浜地区・大阪地区の新オフィスへの移転を実施し、昨年度に移転が完了した本社ビルを含め、主要オフィスにおける事業継続に向けた機能が大幅に強化されました。
なお、当社は、成長と還元の両立を意識した資本政策の一環として、記念配当(NRI合併30周年記念配当)の実施及び49,999百万円の自己株式取得を行いました。
当社グループの当年度の売上高は、運用サービスやコンサルティングサービスを中心に全てのサービスで増加し471,488百万円(前年度比11.1%増)となりました。売上原価は311,868百万円(同11.1%増)、売上総利益は159,619百万円(同11.0%増)となりました。販売費及び一般管理費は、オフィス移転関連費用の発生やのれん償却費の増加、また子会社が増えたこともあり94,481百万円(同10.8%増)となりました。この結果、営業利益は65,138百万円(同11.3%増)、営業利益率は前年度と同水準の13.8%、経常利益は66,161百万円(同9.6%増)となりました。特別損益については、保有株式の売却に伴い投資有価証券売却益を計上し、また、研修施設・寮の見直しや主要オフィスの再編を更に進めたことにより特別損失を計上しました。この結果、親会社株主に帰属する当期純利益は55,145百万円(同22.4%増)となりました。
② 連結キャッシュ・フローの状況
当年度末の現金及び現金同等物は、前年度末から6,251百万円増加し158,303百万円となりました。
当年度において、営業活動により得られた資金は73,493百万円となり、前年度と比べ12,345百万円多くなりました。税金等調整前当期純利益の増加や法人税等の支払額が少なくなりましたが、売上債権の増減額が増加に転じました。
投資活動による支出は17,882百万円となり、前年度と比べ12,459百万円少なくなりました。当年度は、豪州の
SMS Management & Technology Limitedの株式を取得しましたが、前年度に豪州のASG Group Limitedの株式などを取得しており、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が減少しました。また、当年度は、横浜野村ビルの信託受益権やオフィス設備等の有形固定資産の取得、共同利用型システムの開発に伴う無形固定資産の取得、資金運用目的での有価証券の取得などの投資を行った一方で、有価証券の売却及び償還による収入がありました。
財務活動による支出は46,829百万円となり、前年度と比べ12,502百万円多くなりました。取締役会決議に基づく自己株式の取得を前年度に9,999百万円、当年度に49,999百万円実施しました。また、前年度は、普通社債15,000百万円の償還による支出や普通社債(NRIグリーンボンド)10,000百万円の発行による収入があり、当年度は円建普通社債20,000百万円、豪ドル建普通社債(カブキ債※)50百万豪ドル(4,082百万円)の発行による収入がありました。
※国内の発行体が日本国内において公募で外貨を調達する債券。当社が今世紀初めて発行。
(2) 生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの生産実績は次のとおりです。
セグメントの名称金額
(百万円)
前年度比
(%)
コンサルティング19,83129.8
金融ITソリューション187,836△0.0
産業ITソリューション101,97031.5
IT基盤サービス89,8403.3
その他9,1107.3
小 計408,5898.6
調整額△104,544-
304,0449.5

(注)1. 金額は製造原価によっています。各セグメントの金額は、セグメント間の内部振替前の数値であり、調整額で内部振替高を消去しています。
2. 外注実績は次のとおりです。なお、外注実績の割合は、生産実績に対する割合を、中国企業への外注実績の割合は、総外注実績に対する割合を記載しています。
前連結会計年度当連結会計年度前年度比
(%)
金額
(百万円)
割合
(%)
金額
(百万円)
割合
(%)
外注実績126,36145.5135,52244.67.2
うち、中国企業への外注実績18,81514.919,53214.43.8

② 受注実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの受注実績(外部顧客からの受注金額)は次のとおりです。
セグメントの名称受注高受注残高
金額
(百万円)
前年度比
(%)
金額
(百万円)
前年度比
(%)
コンサルティング35,8713.68,415△3.4
金融ITソリューション244,556△0.6141,573△4.9
産業ITソリューション162,94540.188,93331.5
IT基盤サービス30,393△3.314,2952.0
その他11,72712.13,5371.9
485,49410.6256,7545.8

(注)1. 金額は販売価格によっています。
2. 継続的な役務提供サービスや利用度数等に応じて料金をいただくサービスについては、各年度末時点で翌年度の売上見込額を受注額に計上しています。
③ 販売実績
a. セグメント別販売実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの外部顧客への売上高は次のとおりです。
セグメントの名称金額
(百万円)
前年度比
(%)
コンサルティング36,16818.3
金融ITソリューション251,8762.0
産業ITソリューション141,66232.1
IT基盤サービス30,1173.0
その他11,66310.6
471,48811.1

b. 主な相手先別販売実績
前連結会計年度及び当連結会計年度における主な相手先別の売上高及び当該売上高の連結売上高に対する割合は次のとおりです。
前連結会計年度当連結会計年度前年度比
(%)
金額
(百万円)
割合
(%)
金額
(百万円)
割合
(%)
野村ホールディングス㈱71,60016.977,93716.58.8
㈱セブン&アイ・ホールディングス45,28510.747,00110.03.8

(注) 相手先別の売上高には、相手先の子会社に販売したもの及びリース会社等を経由して販売したものを含めています。
c. サービス別販売実績
当連結会計年度におけるサービスごとの外部顧客への売上高は次のとおりです。
サービスの名称金額
(百万円)
前年度比
(%)
コンサルティングサービス78,98725.9
開発・製品販売138,1114.7
運用サービス241,19811.0
商品販売13,1914.4
471,48811.1

(3) 経営者の視点による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する分析・検討内容
① 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されています。その作成には、資産、負債、収益及び費用の額に影響を与える仮定や見積りを必要とします。これらの仮定や見積りは、過去の実績や現在の状況等を勘案し合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果はこれらの見積りと異なる可能性があります。
当社の連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」等に記載していますが、特に以下の重要な会計方針及び見積りが連結財務諸表に大きな影響を与えると考えています。
a. 工事進行基準の適用について
当社グループは、受注制作のソフトウエア及びコンサルティングプロジェクトの売上高及び売上原価の認識方法について、原則として工事進行基準を適用しています。具体的には、売上原価を発生基準で計上し、原価進捗率(プロジェクトごとの見積総原価に対する実際発生原価の割合)に応じて売上高を計上しています。期末時点で未完成のプロジェクトに係る売上高に対応する債権を、連結貸借対照表上「開発等未収収益」として計上しています。
工事進行基準の採用に当たっては、売上高を認識する基となるプロジェクトごとの総原価及び進捗率が合理的に見積り可能であることが前提となります。当社グループでは、プロジェクト管理体制を整備し、受注時の見積りと受注後の進捗管理を適切に行うとともに、見積総原価に一定割合以上の変動があったときはその修正を速やかに行っており、売上高計上額には相応の精度を確保していると判断しています。
b. ソフトウエアの会計処理について
パッケージ製品の開発、共同利用型サービス及びアウトソーシングサービスで使用する情報システムの開発において、発生した外注費や労務費等を費用処理せず、当社グループの投資としてソフトウエア及びソフトウエア仮勘定に資産計上することがあります。その場合、完成した情報システムを顧客に販売又はサービスを提供することによって、中長期的に開発投資を回収しています。
その資金の回収形態に対応して、パッケージ製品等の販売目的ソフトウエアは、残存有効期間(原則3年)に基づく均等配分額を下限として、見込販売数量若しくは見込販売収益に基づき償却しています。また、共同利用型システム等で使用するサービス提供目的の自社利用ソフトウエアについては、利用可能期間(最長5年)に基づく定額法により償却しています。これらの償却に加えて、事業環境が急変した場合等には、回収可能額を適切に見積もり、損失を計上することがあります。
c. 退職給付会計について
退職給付債務及び年金資産は、割引率、年金資産の長期期待運用収益率等の将来に関する一定の見積数値に基づいて算定されています。退職給付債務の計算に用いる割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定しています。また、年金資産の長期期待運用収益率は、将来の収益に対する予測や過去の運用実績を考慮して決定しています。
見積数値と実績数値との差異や、見積数値の変更は、将来の退職給付債務及び退職給付費用に重要な影響を及ぼす可能性があります。
退職給付の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(退職給付関係)」をご覧ください。
d. 繰延税金資産について
当社グループは、将来の課税所得を合理的に見積もり、回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上しています。将来の課税所得は過去の業績等に基づいて見積もっているため、税制改正や経営環境の変化等により課税所得の見積りが大きく変動した場合等には、繰延税金資産の計上額が変動する可能性があります。
繰延税金資産の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(税効果会計関係)」をご覧ください。
e. 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引について
当社は、従業員(連結子会社の従業員を含む。以下この項において同じ。)に対する中長期的な当社企業価値向上へのインセンティブ付与及び福利厚生の拡充等により当社の恒常的な発展を促すことを目的として、信託型従業員持株インセンティブ・プランを導入しています。
同プランは、NRIグループ社員持株会に加入する全ての従業員を対象に、当社株式の株価上昇メリットを還元するインセンティブ・プランであり、同プランを実施するため当社はNRIグループ社員持株会専用信託(以下この項において「持株会信託」という。)を設定しています。持株会信託は、信託の設定後3年間にわたりNRIグループ社員持株会が取得すると見込まれる規模の当社株式を、あらかじめ一括して取得し、NRIグループ社員持株会の株式取得に際して当該株式を売却していきます。株価が上昇し信託終了時に持株会信託内に利益がある場合には、従業員に金銭が分配されます。なお、当社は持株会信託が当社株式を取得するために行った借入れについて保証しており、信託終了時に借入債務が残っている場合には保証契約に基づき当社が弁済することになります。
会計処理については、期末における持株会信託の資産及び負債を当社の連結貸借対照表に計上し、持株会信託が保有する当社株式については、持株会信託の帳簿価額で純資産の部の自己株式に計上します。持株会信託における利益は、将来精算されることになる仮勘定として負債に計上します。持株会信託が損失となる場合は、将来精算されることになる仮勘定として資産に計上した上で、信託終了時に借入債務が残ることが見込まれるときは引当金を計上します。
② 当年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a. 経営成績
「(1) 連結経営成績等の状況の概要 ① 連結経営成績の状況」に記載のとおり、当年度の当社グループの売上高は471,488百万円(前年度比11.1%増)、営業利益は65,138百万円(同11.3%増)となり、営業利益率は前年度と同水準の13.8%となりました。
営業外収益は、為替相場が円高に推移し為替差益から為替差損に転じたことなどにより、2,004百万円(同5.1%減)となりました。また、営業外費用は、自己株式取得費用や社債発行費が増加したことなどにより、981百万円(同259.7%増)となりました。この結果、営業外損益は1,023百万円(同44.4%減)となり、経常利益は66,161百万円(同9.6%増)となりました。
特別損益は、保有株式の売却に伴い投資有価証券売却益を計上し、また、研修施設・寮の見直しや主要オフィスの再編を更に進めたことにより特別損失を計上しました。この結果、特別損益は16,366百万円(前年度は
4,638百万円)となりました。
税効果会計適用後の法人税等は、26,356百万円(前年度比25.3%増)となりました。
以上の結果、親会社株主に帰属する当期純利益は55,145百万円(同22.4%増)となりました。
法人税等の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(税効果会計関係)」をご覧ください。
b. 財政状態
当年度末における当社グループの財政状態は、流動資産309,781百万円(前年度末比4.7%増)、固定資産
342,890百万円(同3.0%増)、流動負債162,133百万円(同45.3%増)、固定負債57,160百万円(同17.8%減)、純資産432,783百万円(同3.2%減)となり、総資産は652,671百万円(同3.8%増)となりました。
前年度末と比べ増減した主な内容は、次のとおりです。
当年度は3月に完了した案件が多かったことから、売掛金は8,526百万円増加し75,817百万円、開発等未収収益は9,991百万円増加し36,250百万円となりました。
横浜野村ビルの入居に伴い信託受益権及びオフィス設備を取得したことなどにより、信託建物は8,309百万円となり、建物及び構築物は1,493百万円増加し36,955百万円、工具、器具及び備品は290百万円増加し9,772百万円となりました。
のれんは、豪州のSMS Management & Technology Limitedを子会社化したことなどにより3,624百万円増加し39,028百万円となりました。
有価証券は、余資の運用目的による有価証券の償還により5,059百万円減少し1,218百万円となりました。投資有価証券は、保有株式の価格上昇がありましたが、保有株式の一部売却や余資の運用目的による有価証券の償還により14,841百万円減少し88,999百万円となりました。関係会社株式は、KDDI㈱と共同出資により、KDDIデジタルデザイン㈱を設立したことなどにより3,388百万円増加し5,230百万円となりました。
年金資産の増加により、退職給付に係る資産は14,929百万円増加し55,700百万円となり、退職給付に係る負債は890百万円増加し5,661百万円となりました。
第2回社債が償還まで1年内となり、固定負債から流動負債に振り替えたことにより、1年内償還予定の社債が15,000百万円増加しました。また、新たに円建普通社債を20,000百万円、豪ドル建普通社債(カブキ債)を50百万豪ドル(4,082百万円)発行しました。この結果、社債は9,082百万円増加し34,082百万円となりました。
シンジケートローン20,000百万円が返済まで1年内となり、固定負債から流動負債に振り替えたことなどにより、長期借入金が23,988百万円減少し、1年内返済予定の長期借入金が19,161百万円増加しました。
子会社による金融事業において、信用取引資産が4,676百万円減少し6,945百万円、短期差入保証金が5,442百万円減少し3,404百万円、信用取引負債が7,772百万円減少し1,014百万円、短期受入保証金が3,165百万円減少し、4,540百万円となりました。
自己株式は、取締役会決議に基づく自己株式の取得による増加49,999百万円、自己株式の消却による減少41,275百万円などにより、前年度末から3,901百万円増加し41,218百万円となりました。
このほか、現金及び預金が6,931百万円増加の159,541百万円、未払費用が4,222百万円増加の15,309百万円、未払法人税等が12,836百万円増加の21,233百万円となりました。
c. キャッシュ・フローの状況
「(1) 連結経営成績等の状況の概要 ② 連結キャッシュ・フローの状況」をご覧ください。
d. 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの経営成績等に特に影響を与える大きな要因としては、情報技術動向、市場動向、品質及び事業継続に対する取組みなどがあります。
情報技術動向については、クラウド、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの新しい情報技術が次々に登場し、従来の技術、手法では対応できないテーマが増えています。当社グループは、情報技術に関する先端技術や基盤技術、生産・開発技術の調査・研究に、社内横断的な体制で取り組むことで、技術革新への迅速な対応に努めています。
市場動向については、他業種からの新規参入や海外企業の台頭、パッケージ製品やクラウドサービスの普及などが進んでおり、情報サービス産業は厳しい競争の環境下にあります。あわせて、新しい技術が次々と登場する中で、企業のITに対する期待が変化してきています。コーポレートITは、品質を重視しながらも可能な限りコスト削減を目指し、パッケージ製品やクラウドサービス、ユーティリティ・サービスを利用することが一般化し、ビジネスITは、新たなデジタル技術を活用しながら事業を変革する「デジタル変革」の取組みが拡大しています。顧客のデジタル変革に対する取組みを実現するためには、顧客のビジネスを深く理解していなければ実現することが出来ません。当社グループは、さまざまな業界や業務プロセスに精通したコンサルタントと、実用性までを考慮して最新のITを駆使できるシステムエンジニアという2つの人的資本があり、顧客のデジタル変革の取組みの拡大において、大きな競争優位性があると考えています。
品質及び事業継続に対する取組みについては、複数のデータセンターを保有し、社会インフラとしての情報システムを担う責任に加え、不測の不採算案件が発生した場合の業績への影響もあることから、当社グループの事業活動の根幹として特に重視しています。品質監理を専門とする組織を中心に、受注前の見積り審査や受注後のプロジェクト管理を適切に行う体制を整えていることに加え、一定規模以上のプロジェクトは、システム開発会議など専用の審査体制を整え、プロジェクト計画から安定稼動まで進捗状況に応じたレビューの徹底を図り、不測の不採算案件の発生防止に取り組んでいます。災害やシステム障害などの事業継続に対しては、大規模災害、大規模障害などの発生に備えて、初動体制と行動指針をまとめたコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を策定し、事前対策や訓練を重ね、より円滑な事業継続に向けた体制の構築や事業計画に必要なインフラの整備など、危機管理体制の整備・強化に取り組んでいます。
e. 当社グループの資本の財源及び資金の流動性
当社グループの事業活動における運転資金需要の主なものは、コンサルティングやシステム開発を担う従業員の労務費及び協力会社に対する外注費のほか、事業活動を支える不動産費や販売費及び一般管理費などがあります。投資資金需要としては、共同利用型サービスやアウトソーシングサービスを提供するためのデータセンターの建設やサービス提供用機器、自社利用ソフトウエアの開発費用に加え、事業拡大のためのM&A資金などがあります。
当社グループはこれらの資金需要に対して、事業の継続的な拡大を背景に、安定的にキャッシュ・フローを創出しており、事業運営上必要な資金は、自己資金でまかなうことを基本としています。毎期のソフトウエア投資など平時の設備投資資金については、減価償却費の範囲内で行うことを基本としていますが、M&Aをはじめとした中長期的な投資資金については、資本と負債のバランスなどの財務健全性やマーケットとの対話を考慮し、一定以上、社債や借入れによる負債を活用した資金調達を行う方針としており、D/Eレシオ(デット・エクイティ・レシオ(負債資本倍率):有利子負債÷自己資本)0.1倍前後を基本とし、0.3倍を上限としています。当年度末におけるD/Eレシオは0.19倍となっています。
また、当社グループは社会インフラとしての情報システムを担う企業として、不測の事態が発生した場合にもサービス提供を継続する必要があることから、比較的厚めの自己資金を保持することとしており、また、高い信用格付の維持を目指しています。本有価証券報告書提出日現在において、㈱格付投資情報センターより
「AA-」の格付を取得しています。
なお、当年度末における有利子負債の残高は81,680百万円(前年度末比39.3%増)であり、現金及び現金同等物の残高は158,303百万円(同4.1%増)です。
f. 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、事業の継続的な拡大を通じて企業価値を向上させていくことを経営の目標としており、経営指標としては、事業の収益力を表す営業利益及び営業キャッシュ・フローを重視し、これらの拡大を目指しています。また、資本効率の観点からROEを重視し、EPSの成長を通じた持続的な株主価値の向上に努めています。
当年度におけるこれらの指標は、営業利益は65,138百万円(前年度比11.3%増)、EBITDAマージン(※)は21.5%(同0.5ポイント増)、ROEは12.9%(同2.3ポイント増)、EPSは228円21銭(同46円43銭増)となり、全ての指標において増加又は改善しました。
※ EBITDAマージン=EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却費)÷売上高
当社グループは、2022年度を最終年度とする8ヵ年の長期経営ビジョン「Vision2022」(2015年度~2022年度)を策定しています。「Vision2022」は、当社の既存の強みである業界標準ビジネスプラットフォームなどの強化、グローバル化の飛躍的拡大、ビジネスIT領域での新たな価値創造など、成長戦略の5つの柱と数値目標で構成されています。
また、「Vision2022」の実現に向けた中期経営計画(2016年度~2018年度)を策定しており、中期経営計画の目標達成に向けて、生産性向上と既存事業の拡大に取り組むとともに、グローバルやデジタル分野等の新領域において、事業基盤の形成や実績の蓄積を進めています。
当年度は中期経営計画の2年目であり、これまでの2年間の実績は目標に対して順調に進捗しており、進捗状況は下記のとおりです。
指標実績実績中期経営計画Vision2022
2016年度2017年度2018年度2022年度
連結売上高(百万円)424,548471,488510,000-
連結営業利益(百万円)58,51465,13870,000100,000
連結営業利益率13.8%13.8%13.7%14%以上
連結海外売上高(百万円)--65,000100,000
ROE(株主資本利益率)10.7%12.9%12%前後14%

(注)1. 平成31年3月期連結業績予想において、中期経営計画最終年度の連結売上高及び連結海外売上高を上方修正しており、上記中期経営計画の数値は、上方修正後の平成31年3月期連結業績予想を記載しています。
2. 連結海外売上高の実績は、連結売上高の10%未満であるため記載を省略しています。
g. セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当年度のセグメントごとの財政状態及び経営成績(売上高には内部売上高を含む。)は次のとおりです。
(コンサルティング)
当セグメントは、政策提言や戦略コンサルティング、業務改革をサポートする業務コンサルティング、ITマネジメント全般にわたるシステムコンサルティングを提供しています。
顧客の経営環境やIT部門の環境が変化する中、経営・ITの両面でコンサルティングの需要が高まっています。当社グループは、顧客のビジネス全般を支援する変革パートナーとなる体制を整えていくとともに、海外も含めた顧客基盤の拡大に努めました。
当年度は、ASG Group Limitedの寄与のほか、顧客のデジタル変革を支援するコンサルティングや顧客の大型開発プロジェクトを支援するシステムコンサルティングが増加しましたが、一方でのれん償却費が増加しました。この結果、売上高36,923百万円(前年度比18.5%増)、営業利益5,954百万円(同1.7%増)となりました。
セグメント資産は、売上高の増加に加え、3月に完了した案件が多かったことから、売掛金及び開発等未収収益が増加したことにより、661百万円増加し26,554百万円(前年度末比2.6%増)となりました。
(金融ITソリューション)
当セグメントは、主に証券業や保険業、銀行業等の金融業顧客向けに、システムコンサルティング、システム開発及び運用サービスの提供、共同利用型システム等のITソリューションの提供を行っています。
事業領域の拡大に向け、業界標準ビジネスプラットフォームの生産革新を進めるとともに、金融とITを融合したFinTech(フィンテック)等を活用した新事業の開発に取り組んでいます。
既存事業の拡大に向けた取組みとして、業界標準ビジネスプラットフォームにおいては、国債の決済期間短縮化や証券保管振替機構の次期システムへの移行など関連する制度改正への着実な対応を進めるとともに、顧客業務の高度化や効率化の支援を進めました。
当年度の売上高は、証券業及び保険業向け開発・製品販売が減少しましたが、証券業を中心に運用サービスが増加したことに加え、保険業向けコンサルティングサービスが増加し、253,281百万円(前年度比2.1%増)となりました。前年度に子会社において計上した事業構造改善費用がなくなりましたが、新規事業の企画開発や海外事業拡大に向けた営業費用が増加し、営業利益は27,349百万円(同3.4%増)となりました。
セグメント資産は、売上高の増加に加え、3月に完了した案件が多かったことから、売掛金及び開発等未収収益が増加しましたが、子会社による金融事業において、信用取引資産や短期差入保証金が減少したことにより、3,052百万円減少し、151,412百万円(前年度末比2.0%減)となりました。
(産業ITソリューション)
当セグメントは、流通業、製造業、サービス業や公共向けに、システムコンサルティング、システム開発及び運用サービス等の提供を行っています。
顧客基盤の拡大に向け、産業分野においても多くの顧客を持つコンサルティング部門と連携してITソリューションの提案を行う取組みを進めました。企業によるIT投資は、事務効率化を目的とする投資(コーポレートIT)のみならず、新たな事業を創出しビジネスの拡大に直結する投資(ビジネスIT)にも広がっており、当社グループはコンサルティングとITソリューションを生かして、顧客のビジネスITも支援しています。豪州ITサービス市場の事業拡大を目的に、豪州のSMS Management & Technology Limitedを子会社とし、同社は産業ITソリューションセグメントの主要な関係会社となっています。また、KDDI㈱と共同出資により、企業のデジタル変革を支援するKDDIデジタルデザイン㈱を設立し、関連会社としました。
当年度は、ASG Group Limited及びSMS Management & Technology Limitedの寄与もあり、運用サービス、開発・製品販売が流通業、製造・サービス業ともに増加し、売上高は142,214百万円(前年度比32.1%増)となりました。外部委託費抑制による採算性向上に加え、良好な受注環境を背景に、営業利益は13,652百万円(同50.4%増)となりました。
セグメント資産は、SMS Management & Technology Limitedの子会社化に伴う関係会社株式の増加や、売掛金及び開発等未収収益をはじめとした同社資産の増加により20,597百万円増加し、109,185百万円(前年度末比23.3%増)となりました。
(IT基盤サービス)
当セグメントは、主に金融ITソリューションセグメント及び産業ITソリューションセグメントに対し、データセンターの運営管理やIT基盤・ネットワーク構築等のサービスを提供しています。また、様々な業種の顧客に対してIT基盤ソリューションや情報セキュリティサービスを提供しています。このほか、ITソリューションに係る新事業・新商品の開発に向けた実験的な取組みや先端的な情報技術等に関する調査、研究を行っています。
顧客基盤の拡大に向け、顧客に対し、IT基盤の刷新だけでなく、業務改善や収益改善につながるIT基盤ソリューションを提案する取組みを進めています。また、デジタルマーケティングを始めとするビジネスIT関連の新事業の開発や、AI(人工知能)を活用した顧客業務の効率化と高度化を支援するサービスの開発に取り組んでいます。
当年度の外部顧客に対する売上高は、セキュリティ事業で増加し、内部売上高は、ネットワークサービスなどが増加しました。この結果、売上高128,839百万円(前年度比5.5%増)、営業利益15,101百万円(同7.8%増)となりました。
セグメント資産は、主にデータセンター関連設備やクラウドサービスに係る自社利用ソフトウエアの取得が前年度に比べ減少し、設備投資金額に対して減価償却費が大きく上回ったことにより、3,029百万円減少し、
79,189百万円(前年度末比3.7%減)となりました。
(その他)
上記4つ以外の事業セグメントとして、システム開発や運用サービスの提供を行う子会社などがあります。
当年度において、売上高14,534百万円(前年度比8.0%増)、営業利益2,079百万円(同5.6%増)となりました。
セグメント資産は、現金及び預金(子会社における当社に対する預け金を含む。)が増加したことにより、前年度末に比べ753百万円増加し、6,989百万円(前年度末比12.1%増)となりました。