有価証券報告書-第104期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)
(1)経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
ア.一般経済情勢及び当社グループを取り巻く環境
当連結会計年度におけるわが国経済は、設備投資や雇用環境の改善傾向が続き緩やかな回復基調にある一方で、米中貿易摩擦の激化や中国経済の急減速などの影響により先行きが不透明な状態が続きました。
国内石油製品は、ガソリンについては車両の燃費改善など構造的要因による若干の需要減に加え、暖冬の影響による灯油等の中間留分、電源の多様化などの影響に伴う電力向け重油の需要減少により、石油製品全体では前年度を下回りました。
ドバイ原油価格は、米国の対イラン経済制裁に伴う供給懸念などを背景に秋口まで1バレル80ドル超まで上昇していたものの、11月以降は需給の緩和や世界経済の先行き不透明感などにより50ドル台まで下落しました。その後、OPEC協調減産の効果などにより戻り基調となりました。この結果、平均価格では前期比13.5ドル/バレル上昇の69.3ドル/バレルとなりました。
石油化学製品は、アジアを中心に需要が堅調に推移しました。石油化学原料であるナフサの平均価格は、前期比で101ドル/トン上昇の621ドル/トンとなりました。
円の対米ドルレートは、年度初めは107円台でスタートしましたが、米国の政策金利の引き上げなどにより10月には114円台まで円安が進みました。その後、概ね1ドル109円台から113円台の範囲で安定して推移し、平均レートはほぼ前期と同じ110.8円/ドルとなりました。
イ.業績
このような環境下、当社グループの当期の売上高は、原油価格及びナフサ価格の上昇による石油製品セグメント及び石油化学製品セグメントでの増収などにより4兆4,251億円(前期比+18.6%)となりました。
売上原価は、原油価格及びナフサ価格の上昇などにより3兆9,374億円(前期比+21.6%)となりました。販売費及び一般管理費は、3,084億円(前期比+5.4%)となりました。 営業利益は、資源価格上昇による資源セグメントでの増益があった一方で、精製用燃料費の増加や在庫評価影響による石油製品セグメントの減益などにより1,793億円(前期比△10.9%)となりました。
営業外損益は、利息や配当金の受取が増加したものの、持分法投資損益の減少などにより102億円(前期比△352億円)の損失となりました。その結果、経常利益は1,691億円(前期比△25.3%)となりました。 特別損益は、石油開発事業において油田プレミアム契約解消益を計上した一方で、固定資産の減損損失やLPG事業に係る違約金負担額などを計上したことにより、244億円(前期比△103億円)の損失となりました。 法人税、住民税及び事業税と法人税等調整額を合わせた税金費用は、税金等調整前当期純利益が減少したものの、前期に関係会社株式に係る過年度損失額を税務上損金算入したことによる税金費用の減額などがあったことにより579億円(前期比+126億円)となりました。
非支配株主に帰属する当期純利益は、資源セグメントでの増益などにより53億円(前期比+18.5%)となりました。 以上の結果、親会社株主に帰属する当期純利益は815億円(前期比△49.8%)となりました。
ウ.事業の経過及び成果
セグメント別の事業の経過及び成果は以下のとおりです。
セグメント別売上高
(単位:億円)
セグメント別営業利益
(単位:億円)
(ア)石油製品セグメント
石油製品セグメントにおいては、国内の供給・販売体制の競争力強化及び海外市場への事業拡大を基本戦略として、次のような取り組みを行いました。
(燃料油事業)
供給においては、需給環境や販売状況を踏まえた原油処理を行い、供給コスト削減と安定供給に努めました。
また、愛知製油所ではFuel to Chemicalの推進のためミックスキシレン回収装置の商業運転を開始しました。
販売においては、新たな事業モデルの構築の柱である「出光オートフラット」を軸としたTCS事業を強化するとともに、「PIT in plus」や「ドライブコンサルタント」といった新たなWeb施策を打ち出すことで、カーライフステーションへの転換に取り組みました。
海外においては、ベトナムにおいてニソンリファイナリー・ペトロケミカルリミテッドの運営するニソン製油所が2018年11月14日付で商業運転を開始し、成長するアジア市場での事業展開を進めています。また、環太平洋地域等の海外成長市場での燃料油の供給から販売に至る事業基盤構築のため、シンガポール現地法人の出光アジア(IDEMITSU INTERNATIONAL(ASIA) PTE. LTD.)を中心に海外拠点の事業拡充を進めました。
(潤滑油事業)
潤滑油販売数量は、好調なアジア・北米を中心とした海外販売の伸長を背景に国内・海外合計で120万KLを超え、過去最高を更新しました。グローバルマーケットでの強固な販売・供給体制の構築に向け、販売体制の見直しと海外生産能力の増強検討を進めました。
石油製品セグメントの売上高は、原油の輸入価格が上昇したことなどにより3兆4,889億円(前期比+21.5%)となりました。営業利益は、製品マージンの改善があったものの、精製用燃料費の増加や在庫評価影響の減少などにより565億円(前期比△36.3%)となりました。なお、営業利益に含まれる在庫評価益は60億円です。
(イ)石油化学製品セグメント
石油化学製品セグメントにおいては、基礎化学品事業の更なる収益基盤の強化と、機能化学品事業の成長市場における事業規模拡大を基本戦略として、次のような取り組みを行いました。
(基礎化学品事業)
基礎化学品事業においては、三井化学㈱と共同運営している千葉ケミカル製造有限責任事業組合のエチレン装置の改修により原料選択の多様化を図りました。また、良好な市場環境下でエチレン装置、芳香族装置等の主要装置の安定稼働を維持することにより、コンビナート各社、自社誘導品へのオレフィン・芳香族の安定供給を実施しました。
(機能化学品事業)
エンジニアリングプラスチック事業においては、ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン®)とシンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック®)等を中心に国内外への増販を図りました。
粘接着基材事業では、ホットメルト接着材の粘着付与剤として需要伸長が期待できる水添石油樹脂(商品名:アイマーブ®)において、台湾FPCC社(Formosa Petrochemical Corporation)と共同で新プラントを建設中です。また、従来の結晶性ポリプロピレン樹脂と比べて大幅に融点が低く軟質特性を有する機能性軟質ポリプロピレン(商品名:エルモーデュ®)については、従来からの衛生材向け接着基剤、不織布の改質材などに加え新たな用途開拓に国内外で取り組んでいます。
石油化学製品セグメントの売上高は、ナフサ価格が上昇したことなどにより5,554億円(前期比+10.9%)となりました。営業利益は、製造用燃料費の増加及びスチレンモノマー等の市況要因などにより318億円(前期比△24.7%)となりました。
(ウ)資源セグメント
資源セグメントは、安定生産の継続、徹底したコスト削減と生産性向上による保有資産の価値向上と資産ポートフォリオ見直しを基本方針として、次のような取り組みを行いました。
(石油開発事業・地熱事業)
石油開発事業においては、既存油田の安定操業・生産とともに操業改善活動を行った結果、ノルウェー領北海において原油換算で日量2.7万バレルの原油・ガスを生産しました。また、ベトナム沖において発見したガス田について、オペレーターとして開発作業に取り組みました。
地熱事業においては、大分県滝上地区にてバイナリー発電を含めて順調な操業を継続するとともに、秋田県湯沢市小安地域にて、事業実証を目的に環境アセスメントに着手しました。その他、東北地区等での調査活動を行いました。
石油開発事業・地熱事業の売上高は、原油価格が上昇したものの、生産数量の減少などにより775億円(前期比△4.1%)となりました。営業利益は370億円(前期比+36.0%)となりました。
(石炭事業・その他事業)
石炭事業においては、日本企業唯一のオペレーターシップを活かし競争力ある鉱山経営を行い、その結果、豪州・インドネシアの自社炭合計で12.5百万トンを生産しました。また、低炭素ソリューションの提供のため、当社、郵船商事㈱、日本郵船㈱の3社で共同開発した石炭ボイラ制御最適化システム「ULTY-V plus」の販売を進めるとともに、バイオマス燃料のサンプル製造を開始しました。
その他、ウラン事業においては、カナダのシガーレイク鉱山において生産したウラン精鉱の販売をしています。
石炭事業・その他事業の売上高は、石炭事業で石炭価格が大幅に上昇した影響などにより2,305億円(前期比+10.5%)となりました。営業利益は501億円(前期比+26.6%)となりました。
以上の結果、資源セグメントの売上高は3,080億円(前期比+6.4%)、営業利益は871億円(前期比+30.4%)となりました。
(エ)その他セグメント
その他セグメントのうち、電子材料事業、アグリバイオ事業、再生可能エネルギー事業においては、次のような取り組みを行いました。
(電子材料事業)
有機EL材料分野においては、中国における需要拡大に備えて四川省成都市に現地法人を設立しました。また、「有機EL素子及び有機発光媒体の発明」において、2018年度全国発明表彰「恩賜発明賞」と「発明実施功績賞」を受賞しました。
(アグリバイオ事業)
農業緑化資材においては、販売会社である出光アグリ㈱を通じ、先進的生産団体への生物農薬の拡販活動に取り組んでいます。
家畜用補助飼料においては、牛、鳥、豚の胃腸を健康に保つ「ルミナップ®」「クロストップ®」「モルッカ」について、国内での大型農場を中心とした採用拡大に取り組むとともに、海外の販路拡大に向けた準備を進めました。
(再生可能エネルギー事業)
再生可能エネルギーへの取り組みとして、北九州市門司区、兵庫県姫路市、福島県いわき市において太陽光発電所(メガソーラー、発電能力計 15,210kW)を運営しています。バイオマス発電は、稼働中の土佐グリーンパワー㈱(当社出資比率50%、発電出力6,250kW)及び㈱福井グリーンパワー(当社出資比率10%、発電出力7,340kW)が稼働中です。また、風力発電は、二又風力開発㈱(当社出資比率40%、発電出力51,000kW)が稼働中です。
以上の結果、その他セグメントの売上高は728億円(前期比+4.3%)、営業利益は78億円(前期比+6.9%)となりました。
② 財政状態の状況
要約連結貸借対照表
(単位:億円)
ア.資産の部
当期末における資産合計は、原油の輸入価格の上昇によるたな卸資産の増加などがあったものの、スノーレ鉱区買収時に締結した油田プレミアム契約の解消に伴う油田プレミアム資産の取り崩しや持分法投資損失の計上に伴い投資有価証券が減少したことなどにより、2兆8,903億円(前期末比△300億円)となりました。
イ.負債の部
当期末における負債合計は、原油の輸入価格の上昇などによる一時的な運転資金需要に伴い有利子負債(9,514億円)が増加した一方、スノーレ鉱区買収時に締結した油田プレミアム契約の解消に伴う油田プレミアム負債の取り崩しなどの影響により、2兆114億円(前期末比△30億円)となりました。
ウ.純資産の部
当期末の純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益815億円を計上した一方、自己株式の取得(559億円)や配当金の支払い(185億円)及び円高による為替換算調整勘定の減少などにより8,789億円(前期末比△270億円)となりました。
以上の結果、自己資本比率は前期末の29.7%から当期末は29.1%(前期末比△0.6ポイント)となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
要約連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:億円)
当期末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、907億円となり、前期末に比べ、39億円増加しました。その主な要因は次のとおりです。
ア.営業活動におけるキャッシュ・フロー
原油の輸入価格の上昇に伴うたな卸資産の増加や法人税等の支払などの資金減少要因を、税金等調整前当期純利益や減価償却費などの資金増加要因が上回ったため、1,510億円の収入となりました。
イ.投資活動におけるキャッシュ・フロー
設備投資による有形固定資産の取得(763億円)や長期貸付金の増加(197億円)などにより、1,223億円の支出となりました。
ウ.財務活動におけるキャッシュ・フロー
短期借入金・コマーシャル・ペーパーによる資金調達が増加した一方で、自己株式の取得(559億円)や配当金の支払い(185億円)などにより、202億円の支出となりました。
④ 生産、受注及び販売の実績
ア.生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注)1.上記の金額は、製造会社は製品生産額、資源部門については、販売金額によって記載をしています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
イ.受注実績
当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。
ウ.販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しています。
2.「主な相手先別の販売実績」に該当する販売相手先はないため、記載を省略しています。
3.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
4.各部門の販売実績は、外部顧客への売上高を記載しています。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 経営成績の分析
経営成績の分析については、「3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」における「イ.業績」及び「ウ.事業の経過及び成果」に記載しています。
② 資本の財源及び資金の流動性についての分析
ア.資金需要
当社グループの主な運転資金需要は、製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用及び税金の支払いなどによるものです。営業費用の主なものは、人件費、物流費、作業費、研究開発費等です。
設備資金については、各事業分野別に以下の資金需要があります。
(ア)燃料油事業・基礎化学品事業については、販売・供給体制の再構築と競争力強化を目的とした投資や海外成長市場への進出による事業拡大のための投資
(イ)潤滑油事業・機能化学品事業・電子材料事業・アグリバイオ事業については、環境配慮型商品の開発強化やグローバル展開による事業拡大に向けた投資
(ウ)石油開発事業・石炭事業・ウラン事業については、保有鉱区の安定生産の継続と探鉱開発による埋蔵量確保に向けた投資
イ.財務政策
当社グループは、中長期的な成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資資金を、財務体質とのバランスを勘案しつつ、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入、社債やコマーシャル・ペーパーの発行及び特定融資枠契約(コミットメントライン契約)の活用、更に資本増強等を効果的に組み合わせて調達していきます。
当期末の短期借入金の残高は1,547億円、長期借入金の残高は5,312億円、社債(1年以内償還分を含む)の残高は600億円、コマーシャル・ペーパーの残高は2,040億円となりました。
なお、国内子会社は、当社が一括して資金調達し子会社に融通するグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。また、海外子会社は、各々の子会社が現地通貨を借入にて調達するほか、子会社間のグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。
(特定融資枠契約)
当社グループは、運転資金の効率的な調達及び十分な流動性確保並びに、災害発生時の円滑な資金調達のため、取引先銀行5行で作られるシンジケート団と、2020年3月までの契約期間において短期借入を実行できる特定融資枠契約(災害型コミットメントライン契約)を締結し、機動的・安定的な資金調達が可能な体制を敷いています。なお、当連結会計年度末において同契約にかかる借入残高はありません。
特定融資枠契約の極度額 1,000億円
③ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、レジリエントな事業ポートフォリオの実現と持続的な成長を目指しています。この経営の基本戦略を達成するため、自己資本利益率(ROE)、ネットD/Eレシオ、自己資本比率を主要な経営指標と考えています。
当該指標のうち前期対比で変動した自己資本利益率(ROE)の主な悪化要因は、以下のとおりです。
(ア)在庫評価影響の減少などによる石油製品セグメントの減益、及び製造用燃料費の増加などによる石油化学製品セグメントの減益
(イ)事業構造改善に伴う損失やLPG事業に係る違約金負担額などの特別損失の計上
(ウ)上記などによる親会社株主に帰属する当期純利益の減少
当社グループの主要な経営指標のトレンドは次のとおりです。
(注)1.各指標は、以下の計算式によって計算しています。
自己資本利益率(ROE):当期純利益/自己資本(期首期末平均)
ネットD/Eレシオ:(有利子負債-現預金及び短期運用有価証券)/(純資産-非支配株主持分)
自己資本比率:(純資産-非支配株主持分)/総資産
2.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及び長期借入金として連結貸借対照表に計上されている金額及びリース債務の金額を使用しています。
3.2015年3月期及び2016年3月期の自己資本利益率(ROE)については、親会社株主に帰属する
当期純損失を計上しているため記載していません。
① 経営成績の状況
ア.一般経済情勢及び当社グループを取り巻く環境
当連結会計年度におけるわが国経済は、設備投資や雇用環境の改善傾向が続き緩やかな回復基調にある一方で、米中貿易摩擦の激化や中国経済の急減速などの影響により先行きが不透明な状態が続きました。
国内石油製品は、ガソリンについては車両の燃費改善など構造的要因による若干の需要減に加え、暖冬の影響による灯油等の中間留分、電源の多様化などの影響に伴う電力向け重油の需要減少により、石油製品全体では前年度を下回りました。
ドバイ原油価格は、米国の対イラン経済制裁に伴う供給懸念などを背景に秋口まで1バレル80ドル超まで上昇していたものの、11月以降は需給の緩和や世界経済の先行き不透明感などにより50ドル台まで下落しました。その後、OPEC協調減産の効果などにより戻り基調となりました。この結果、平均価格では前期比13.5ドル/バレル上昇の69.3ドル/バレルとなりました。
石油化学製品は、アジアを中心に需要が堅調に推移しました。石油化学原料であるナフサの平均価格は、前期比で101ドル/トン上昇の621ドル/トンとなりました。
円の対米ドルレートは、年度初めは107円台でスタートしましたが、米国の政策金利の引き上げなどにより10月には114円台まで円安が進みました。その後、概ね1ドル109円台から113円台の範囲で安定して推移し、平均レートはほぼ前期と同じ110.8円/ドルとなりました。
イ.業績
このような環境下、当社グループの当期の売上高は、原油価格及びナフサ価格の上昇による石油製品セグメント及び石油化学製品セグメントでの増収などにより4兆4,251億円(前期比+18.6%)となりました。
売上原価は、原油価格及びナフサ価格の上昇などにより3兆9,374億円(前期比+21.6%)となりました。販売費及び一般管理費は、3,084億円(前期比+5.4%)となりました。 営業利益は、資源価格上昇による資源セグメントでの増益があった一方で、精製用燃料費の増加や在庫評価影響による石油製品セグメントの減益などにより1,793億円(前期比△10.9%)となりました。
営業外損益は、利息や配当金の受取が増加したものの、持分法投資損益の減少などにより102億円(前期比△352億円)の損失となりました。その結果、経常利益は1,691億円(前期比△25.3%)となりました。 特別損益は、石油開発事業において油田プレミアム契約解消益を計上した一方で、固定資産の減損損失やLPG事業に係る違約金負担額などを計上したことにより、244億円(前期比△103億円)の損失となりました。 法人税、住民税及び事業税と法人税等調整額を合わせた税金費用は、税金等調整前当期純利益が減少したものの、前期に関係会社株式に係る過年度損失額を税務上損金算入したことによる税金費用の減額などがあったことにより579億円(前期比+126億円)となりました。
非支配株主に帰属する当期純利益は、資源セグメントでの増益などにより53億円(前期比+18.5%)となりました。 以上の結果、親会社株主に帰属する当期純利益は815億円(前期比△49.8%)となりました。
ウ.事業の経過及び成果
セグメント別の事業の経過及び成果は以下のとおりです。
セグメント別売上高
(単位:億円)
前連結会計年度 | 当連結会計年度 | 増減 | ||
(2018年3月期) | (2019年3月期) | 増減額 | 増減率 | |
石油製品 | 28,708 | 34,889 | +6,181 | +21.5% |
石油化学製品 | 5,007 | 5,554 | +547 | +10.9% |
資源 | 2,894 | 3,080 | +186 | +6.4% |
その他 | 698 | 728 | +30 | +4.3% |
合計 | 37,307 | 44,251 | +6,945 | +18.6% |
セグメント別営業利益
(単位:億円)
前連結会計年度 | 当連結会計年度 | 増減 | ||
(2018年3月期) | (2019年3月期) | 増減額 | 増減率 | |
石油製品 (在庫評価影響除き) | 886 (575) | 565 (505) | △321 (△70) | △36.3% (△12.2%) |
石油化学製品 | 422 | 318 | △104 | △24.7% |
資源 | 668 | 871 | +203 | +30.4% |
その他 | 73 | 78 | +5 | +6.9% |
調整額 | △36 | △39 | △3 | - |
合計 (在庫評価影響除き) | 2,013 (1,702) | 1,793 (1,733) | △220 (+31) | △10.9% (+1.8%) |
(ア)石油製品セグメント
石油製品セグメントにおいては、国内の供給・販売体制の競争力強化及び海外市場への事業拡大を基本戦略として、次のような取り組みを行いました。
(燃料油事業)
供給においては、需給環境や販売状況を踏まえた原油処理を行い、供給コスト削減と安定供給に努めました。
また、愛知製油所ではFuel to Chemicalの推進のためミックスキシレン回収装置の商業運転を開始しました。
販売においては、新たな事業モデルの構築の柱である「出光オートフラット」を軸としたTCS事業を強化するとともに、「PIT in plus」や「ドライブコンサルタント」といった新たなWeb施策を打ち出すことで、カーライフステーションへの転換に取り組みました。
海外においては、ベトナムにおいてニソンリファイナリー・ペトロケミカルリミテッドの運営するニソン製油所が2018年11月14日付で商業運転を開始し、成長するアジア市場での事業展開を進めています。また、環太平洋地域等の海外成長市場での燃料油の供給から販売に至る事業基盤構築のため、シンガポール現地法人の出光アジア(IDEMITSU INTERNATIONAL(ASIA) PTE. LTD.)を中心に海外拠点の事業拡充を進めました。
(潤滑油事業)
潤滑油販売数量は、好調なアジア・北米を中心とした海外販売の伸長を背景に国内・海外合計で120万KLを超え、過去最高を更新しました。グローバルマーケットでの強固な販売・供給体制の構築に向け、販売体制の見直しと海外生産能力の増強検討を進めました。
石油製品セグメントの売上高は、原油の輸入価格が上昇したことなどにより3兆4,889億円(前期比+21.5%)となりました。営業利益は、製品マージンの改善があったものの、精製用燃料費の増加や在庫評価影響の減少などにより565億円(前期比△36.3%)となりました。なお、営業利益に含まれる在庫評価益は60億円です。
(イ)石油化学製品セグメント
石油化学製品セグメントにおいては、基礎化学品事業の更なる収益基盤の強化と、機能化学品事業の成長市場における事業規模拡大を基本戦略として、次のような取り組みを行いました。
(基礎化学品事業)
基礎化学品事業においては、三井化学㈱と共同運営している千葉ケミカル製造有限責任事業組合のエチレン装置の改修により原料選択の多様化を図りました。また、良好な市場環境下でエチレン装置、芳香族装置等の主要装置の安定稼働を維持することにより、コンビナート各社、自社誘導品へのオレフィン・芳香族の安定供給を実施しました。
(機能化学品事業)
エンジニアリングプラスチック事業においては、ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン®)とシンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック®)等を中心に国内外への増販を図りました。
粘接着基材事業では、ホットメルト接着材の粘着付与剤として需要伸長が期待できる水添石油樹脂(商品名:アイマーブ®)において、台湾FPCC社(Formosa Petrochemical Corporation)と共同で新プラントを建設中です。また、従来の結晶性ポリプロピレン樹脂と比べて大幅に融点が低く軟質特性を有する機能性軟質ポリプロピレン(商品名:エルモーデュ®)については、従来からの衛生材向け接着基剤、不織布の改質材などに加え新たな用途開拓に国内外で取り組んでいます。
石油化学製品セグメントの売上高は、ナフサ価格が上昇したことなどにより5,554億円(前期比+10.9%)となりました。営業利益は、製造用燃料費の増加及びスチレンモノマー等の市況要因などにより318億円(前期比△24.7%)となりました。
(ウ)資源セグメント
資源セグメントは、安定生産の継続、徹底したコスト削減と生産性向上による保有資産の価値向上と資産ポートフォリオ見直しを基本方針として、次のような取り組みを行いました。
(石油開発事業・地熱事業)
石油開発事業においては、既存油田の安定操業・生産とともに操業改善活動を行った結果、ノルウェー領北海において原油換算で日量2.7万バレルの原油・ガスを生産しました。また、ベトナム沖において発見したガス田について、オペレーターとして開発作業に取り組みました。
地熱事業においては、大分県滝上地区にてバイナリー発電を含めて順調な操業を継続するとともに、秋田県湯沢市小安地域にて、事業実証を目的に環境アセスメントに着手しました。その他、東北地区等での調査活動を行いました。
石油開発事業・地熱事業の売上高は、原油価格が上昇したものの、生産数量の減少などにより775億円(前期比△4.1%)となりました。営業利益は370億円(前期比+36.0%)となりました。
(石炭事業・その他事業)
石炭事業においては、日本企業唯一のオペレーターシップを活かし競争力ある鉱山経営を行い、その結果、豪州・インドネシアの自社炭合計で12.5百万トンを生産しました。また、低炭素ソリューションの提供のため、当社、郵船商事㈱、日本郵船㈱の3社で共同開発した石炭ボイラ制御最適化システム「ULTY-V plus」の販売を進めるとともに、バイオマス燃料のサンプル製造を開始しました。
その他、ウラン事業においては、カナダのシガーレイク鉱山において生産したウラン精鉱の販売をしています。
石炭事業・その他事業の売上高は、石炭事業で石炭価格が大幅に上昇した影響などにより2,305億円(前期比+10.5%)となりました。営業利益は501億円(前期比+26.6%)となりました。
以上の結果、資源セグメントの売上高は3,080億円(前期比+6.4%)、営業利益は871億円(前期比+30.4%)となりました。
(エ)その他セグメント
その他セグメントのうち、電子材料事業、アグリバイオ事業、再生可能エネルギー事業においては、次のような取り組みを行いました。
(電子材料事業)
有機EL材料分野においては、中国における需要拡大に備えて四川省成都市に現地法人を設立しました。また、「有機EL素子及び有機発光媒体の発明」において、2018年度全国発明表彰「恩賜発明賞」と「発明実施功績賞」を受賞しました。
(アグリバイオ事業)
農業緑化資材においては、販売会社である出光アグリ㈱を通じ、先進的生産団体への生物農薬の拡販活動に取り組んでいます。
家畜用補助飼料においては、牛、鳥、豚の胃腸を健康に保つ「ルミナップ®」「クロストップ®」「モルッカ」について、国内での大型農場を中心とした採用拡大に取り組むとともに、海外の販路拡大に向けた準備を進めました。
(再生可能エネルギー事業)
再生可能エネルギーへの取り組みとして、北九州市門司区、兵庫県姫路市、福島県いわき市において太陽光発電所(メガソーラー、発電能力計 15,210kW)を運営しています。バイオマス発電は、稼働中の土佐グリーンパワー㈱(当社出資比率50%、発電出力6,250kW)及び㈱福井グリーンパワー(当社出資比率10%、発電出力7,340kW)が稼働中です。また、風力発電は、二又風力開発㈱(当社出資比率40%、発電出力51,000kW)が稼働中です。
以上の結果、その他セグメントの売上高は728億円(前期比+4.3%)、営業利益は78億円(前期比+6.9%)となりました。
② 財政状態の状況
要約連結貸借対照表
(単位:億円)
前連結会計年度 (2018年3月期) | 当連結会計年度 (2019年3月期) | 増減 | |
流動資産 | 12,082 | 12,254 | +172 |
固定資産 | 17,120 | 16,649 | △471 |
資産合計 | 29,203 | 28,903 | △300 |
流動負債 | 11,616 | 11,958 | +342 |
固定負債 | 8,527 | 8,156 | △372 |
負債合計 | 20,143 | 20,114 | △30 |
純資産合計 | 9,059 | 8,789 | △270 |
負債純資産合計 | 29,203 | 28,903 | △300 |
ア.資産の部
当期末における資産合計は、原油の輸入価格の上昇によるたな卸資産の増加などがあったものの、スノーレ鉱区買収時に締結した油田プレミアム契約の解消に伴う油田プレミアム資産の取り崩しや持分法投資損失の計上に伴い投資有価証券が減少したことなどにより、2兆8,903億円(前期末比△300億円)となりました。
イ.負債の部
当期末における負債合計は、原油の輸入価格の上昇などによる一時的な運転資金需要に伴い有利子負債(9,514億円)が増加した一方、スノーレ鉱区買収時に締結した油田プレミアム契約の解消に伴う油田プレミアム負債の取り崩しなどの影響により、2兆114億円(前期末比△30億円)となりました。
ウ.純資産の部
当期末の純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益815億円を計上した一方、自己株式の取得(559億円)や配当金の支払い(185億円)及び円高による為替換算調整勘定の減少などにより8,789億円(前期末比△270億円)となりました。
以上の結果、自己資本比率は前期末の29.7%から当期末は29.1%(前期末比△0.6ポイント)となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
要約連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:億円)
前連結会計年度 (2018年3月期) | 当連結会計年度 (2019年3月期) | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | 1,368 | 1,510 |
投資活動によるキャッシュ・フロー | △899 | △1,223 |
財務活動によるキャッシュ・フロー | △519 | △202 |
現金及び現金同等物に係る換算差額 | 8 | △47 |
現金及び現金同等物の増減額(△は減少) | △43 | 39 |
現金及び現金同等物の期首残高 | 901 | 868 |
連結の範囲の変更に伴う現金及び現金同等物の 増減額(△は減少) | 10 | △1 |
現金及び現金同等物の期末残高 | 868 | 907 |
当期末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、907億円となり、前期末に比べ、39億円増加しました。その主な要因は次のとおりです。
ア.営業活動におけるキャッシュ・フロー
原油の輸入価格の上昇に伴うたな卸資産の増加や法人税等の支払などの資金減少要因を、税金等調整前当期純利益や減価償却費などの資金増加要因が上回ったため、1,510億円の収入となりました。
イ.投資活動におけるキャッシュ・フロー
設備投資による有形固定資産の取得(763億円)や長期貸付金の増加(197億円)などにより、1,223億円の支出となりました。
ウ.財務活動におけるキャッシュ・フロー
短期借入金・コマーシャル・ペーパーによる資金調達が増加した一方で、自己株式の取得(559億円)や配当金の支払い(185億円)などにより、202億円の支出となりました。
④ 生産、受注及び販売の実績
ア.生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 前年同期比(%) |
石油製品 | 1,837,286 | 120.0 |
石油化学製品 | 494,876 | 109.8 |
資源 | 223,940 | 101.7 |
その他 | 14,523 | 89.3 |
合計 | 2,570,628 | 115.9 |
(注)1.上記の金額は、製造会社は製品生産額、資源部門については、販売金額によって記載をしています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
イ.受注実績
当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。
ウ.販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 | 金額(百万円) | 前年同期比(%) |
石油製品 | 3,488,938 | 121.5 |
石油化学製品 | 555,405 | 110.9 |
資源 | 307,976 | 106.4 |
その他 | 72,824 | 104.3 |
合計 | 4,425,144 | 118.6 |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しています。
2.「主な相手先別の販売実績」に該当する販売相手先はないため、記載を省略しています。
3.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
4.各部門の販売実績は、外部顧客への売上高を記載しています。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 経営成績の分析
経営成績の分析については、「3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」における「イ.業績」及び「ウ.事業の経過及び成果」に記載しています。
② 資本の財源及び資金の流動性についての分析
ア.資金需要
当社グループの主な運転資金需要は、製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用及び税金の支払いなどによるものです。営業費用の主なものは、人件費、物流費、作業費、研究開発費等です。
設備資金については、各事業分野別に以下の資金需要があります。
(ア)燃料油事業・基礎化学品事業については、販売・供給体制の再構築と競争力強化を目的とした投資や海外成長市場への進出による事業拡大のための投資
(イ)潤滑油事業・機能化学品事業・電子材料事業・アグリバイオ事業については、環境配慮型商品の開発強化やグローバル展開による事業拡大に向けた投資
(ウ)石油開発事業・石炭事業・ウラン事業については、保有鉱区の安定生産の継続と探鉱開発による埋蔵量確保に向けた投資
イ.財務政策
当社グループは、中長期的な成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資資金を、財務体質とのバランスを勘案しつつ、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入、社債やコマーシャル・ペーパーの発行及び特定融資枠契約(コミットメントライン契約)の活用、更に資本増強等を効果的に組み合わせて調達していきます。
当期末の短期借入金の残高は1,547億円、長期借入金の残高は5,312億円、社債(1年以内償還分を含む)の残高は600億円、コマーシャル・ペーパーの残高は2,040億円となりました。
なお、国内子会社は、当社が一括して資金調達し子会社に融通するグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。また、海外子会社は、各々の子会社が現地通貨を借入にて調達するほか、子会社間のグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。
(特定融資枠契約)
当社グループは、運転資金の効率的な調達及び十分な流動性確保並びに、災害発生時の円滑な資金調達のため、取引先銀行5行で作られるシンジケート団と、2020年3月までの契約期間において短期借入を実行できる特定融資枠契約(災害型コミットメントライン契約)を締結し、機動的・安定的な資金調達が可能な体制を敷いています。なお、当連結会計年度末において同契約にかかる借入残高はありません。
特定融資枠契約の極度額 1,000億円
③ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、レジリエントな事業ポートフォリオの実現と持続的な成長を目指しています。この経営の基本戦略を達成するため、自己資本利益率(ROE)、ネットD/Eレシオ、自己資本比率を主要な経営指標と考えています。
当該指標のうち前期対比で変動した自己資本利益率(ROE)の主な悪化要因は、以下のとおりです。
(ア)在庫評価影響の減少などによる石油製品セグメントの減益、及び製造用燃料費の増加などによる石油化学製品セグメントの減益
(イ)事業構造改善に伴う損失やLPG事業に係る違約金負担額などの特別損失の計上
(ウ)上記などによる親会社株主に帰属する当期純利益の減少
当社グループの主要な経営指標のトレンドは次のとおりです。
2015年 3月期 | 2016年 3月期 | 2017年 3月期 | 2018年 3月期 | 2019年 3月期 | |
自己資本利益率(ROE)(%) | - | - | 16.3 | 22.3 | 9.5 |
ネットD/Eレシオ(倍) | 1.5 | 1.6 | 1.6 | 0.9 | 1.0 |
自己資本比率(%) | 21.5 | 20.8 | 22.1 | 29.7 | 29.1 |
(注)1.各指標は、以下の計算式によって計算しています。
自己資本利益率(ROE):当期純利益/自己資本(期首期末平均)
ネットD/Eレシオ:(有利子負債-現預金及び短期運用有価証券)/(純資産-非支配株主持分)
自己資本比率:(純資産-非支配株主持分)/総資産
2.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及び長期借入金として連結貸借対照表に計上されている金額及びリース債務の金額を使用しています。
3.2015年3月期及び2016年3月期の自己資本利益率(ROE)については、親会社株主に帰属する
当期純損失を計上しているため記載していません。