有価証券報告書-第81期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)
本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた会計基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積もりを行っており、これらの見積もりは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積もりと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。
① 金融商品の評価
当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。評価に用いる時価は、市場で取引が行われている有価証券やデリバティブ取引については当連結会計年度末時点の市場価格を、市場価格のない有価証券やデリバティブ取引については理論価格を、それぞれ使用しております。理論価格を算出する際には、対象となる商品や取引について最も適切と考えられるモデルを採用しております。
② 有価証券の減損
当社グループでは、投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。このうち時価のある有価証券については、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における時価の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。時価の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、時価の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがないと判断したものについては、減損処理を行っております。また、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券については、実質価額が著しく低下し、かつ、回復する見込みがないと判断した場合には、減損処理を行っております。
③ 固定資産の減損
当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、継続使用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。
④ 繰延税金資産の状況
(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠
当社グループでは、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。
(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)
(単位:百万円)
(注) 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。
なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産128億円のうち、提出会社を親会社とする連結納税会社の計上額合計は100億円であります。
(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額
提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を2,383億円と見積もっております。
(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。
(2) 当連結会計年度の財政状態の分析
<資産の部>当連結会計年度末の総資産は前年度末比1兆3,144億円(6.6%)増加の21兆1,417億円となりました。内訳は流動資産が同1兆2,285億円(6.4%)増加の20兆4,874億円であり、このうち現金・預金が同1,343億円(3.5%)減少の3兆6,942億円、有価証券が同7,549億円(43.3%)減少の9,872億円、トレーディング商品が同1,208億円(1.8%)増加の6兆6,670億円、営業貸付金が同7,872億円(120.1%)増加の1兆4,429億円、有価証券担保貸付金が同1兆1,912億円(22.5%)増加の6兆4,967億円となっております。固定資産は同858億円(15.1%)増加の6,542億円となっております。
<負債の部・純資産の部>当連結会計年度末の負債合計は前年度末比1兆2,873億円(7.0%)増加の19兆7,712億円となりました。内訳は流動負債が同1兆283億円(6.4%)増加の17兆362億円であり、このうちトレーディング商品が同3,722億円(8%)増加の5兆308億円、有価証券担保借入金が同2,429億円(4.0%)減少の5兆7,758億円、銀行業における預金が同4,027億円(13.5%)増加の3兆3,884億円、短期借入金が同1,728億円(18.8%)増加の1兆917億円となっております。固定負債は同2,590億円(10.5%)増加の2兆7,310億円であり、このうち社債が同960億円(7.9%)増加の1兆3,153億円、長期借入金が同1,485億円(12.6%)増加の1兆3,277億円となっております。
当連結会計年度末の純資産合計は同270億円(2.0%)増加の1兆3,705億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,781億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことから、同674億円(9.4%)増加の7,857億円となっております。自己株式の控除額は同415億円(327.0%)増加の543億円、その他有価証券評価差額金は同12億円(2.1%)増加の611億円、為替換算調整勘定は同43億円(63.0%)減少の25億円、非支配株主持分は同47億円(5.7%)増加の885億円となっております。
(3) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 事業全体の状況
当連結会計年度の営業収益は前年度比15.6%増の7,126億円、純営業収益は同6.9%増の5,053億円となりました。
受入手数料は3,136億円と、同14.7%の増収となりました。委託手数料は、株式取引が増加したことにより、同21.1%増の737億円となりました。引受業務では、複数の大型エクイティ募集案件等が貢献し、引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、同18.3%増の351億円となりました。
トレーディング損益は、金融市場における顧客フローの低迷が継続したこと等から前年度比14.9%減の1,090億円となりました。
販売費・一般管理費は前年度比4.7%増の3,702億円となりました。取引関係費は販売促進に関連する費用の増加により同3.9%増の724億円、人件費は業績に連動する賞与等の増加及び米国のM&Aアドバイザリー2社の連結に伴う給与の計上により同5.7%増の1,858億円、減価償却費はシステム関連費用等の増加により同4.0%増の243億円となっております。
以上より、経常利益は同14.8%増の1,556億円となりました。
また、投資有価証券売却益等により特別利益が102億円(前年度173億円)、訴訟損失引当金繰入額の計上等により特別損失が120億円(前年度139億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比6.3%増の1,105億円となりました。
② セグメント情報に記載された区分ごとの状況
純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
[リテール部門]
リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社の顧客の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、顧客動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、顧客のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。
当連結会計年度においては、4月より、お客様目線をより重視した営業推進体制へ移行し、個別商品の販売目標を廃止したことなどにより、営業員が、今まで以上に多くの時間を、お客様のニーズやマーケットの動向をより的確に捉えた提案に割けるようになりました。その結果、市場環境が特に好調であった米国株式を中心に、外国株式の売買代金が大幅に増加したほか、外国株式の預り資産残高についても過去最高の水準となりました。
株式投信販売については、マーケットのニーズに沿ったテーマ型投信の取扱いにより、募集・販売額が大幅に向上し、投信募集手数料も前年度比大幅増となりました。
また、ラップ口座サービスの拡充に取り組んだ結果、平成29年度末のラップ口座契約資産残高は過去最高水準となりました。
好調な市場環境に加え、これらの取組みが寄与し、当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比13.9%増の2,142億円、経常利益は同74.7%増の513億円となりました。リテール部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ42.4%および33.0%でした。
[ホールセール部門]
ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行なうグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引き受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益およびトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、国際的な地政学リスクや経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。
グローバル・マーケッツにおいては、当連結会計年度の期初に地政学リスクの高まり等から顧客フローが減速しエクイティ収益が落ち込んだものの、下期にかけて回復したため増加しましたが、金融市場では低ボラティリティが継続したことを受けフィクスト・インカム収益が低水準で推移したため、当連結会計年度の純営業収益は前年度比13.4%減の1,236億円、経常利益は同36.0%減の342億円となりました。
グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、複数の大型エクイティ募集・売出し案件でJGC(ジョイント・グローバル・コーディネーター)や主幹事を務めたこと等により、当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、前年度比18.3%増の351億円となりました。その結果、純営業収益は同18.7%増の474億円となりました。M&Aビジネスにおいては、米国のSagent Holdings, Inc. とSignal Hill Holdings LLCを買収統合してDCS Advisory Holdings Inc.を発足させ、各海外拠点との連携により、今後増加が見込まれる日本とのクロスボーダー案件や、市場規模の大きい欧米間の案件に対応できる体制をより強化しています。一方で、統合による給与の増加や、買収に伴うのれんを含む無形固定資産の償却により、販売費・一般管理費が増加しました。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの経常利益は前年度比11.1%減の101億円となりました。
当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比6.4%減の1,711億円、経常利益は同30.7%減の453億円となりました。ホールセール部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ33.9%および29.1%でした。
[アセット・マネジメント部門]
アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和証券投資信託委託における投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメントの不動産運用収益によって構成されます。また、当社持分法適用関連会社である大和住銀投信投資顧問の投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益および同じく持分法適用関連会社である大和証券オフィス投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動する顧客の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、顧客の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及び大和証券オフィス投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向に左右されます。
当連結会計年度において、大和証券投資信託委託では、複数のファンドにおいてR&Iファンド大賞の基準を満たす高パフォーマンスを維持するなど運用力の強化を図ったほか、「グローバルIoT関連株ファンド」などの残高を拡大させ、公募投資信託の運用資産残高は前年比7.8%増の15.5兆円となりました。大和住銀投信投資顧問では、顧客ニーズに対応した商品として、「グローバルEV関連株ファンド」を設定したほか、EUなど海外向けの日本株ファンドを設定するなど、グローバルビジネスの拡大にも注力し、公募株式投資信託及び投資顧問の運用資産残高は前年比6.1%増の4.9兆円となりました。不動産アセットマネジメントでは、大和リアル・エステート・アセット・マネジメントが運用する不動産及びインフラ資産は拡大した一方で、大和証券オフィス投資法人における運用資産残高は保有物件の入替えにより減少しました。不動産アセット・マネジメントビジネスの運用資産残高は前年比2.1%減の80.2兆円となりました。その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比6.4%増の493億円、経常利益は同9.6%増の291億円となりました。アセット・マネジメント部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ9.8%および18.7%でした。
[投資部門]
投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資と大和PIパートナーズで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬です。
当連結会計年度においては、大和企業投資において国内外の成長企業への投資を積極的に実行するとともに、投資先企業と大手企業とのマッチングを実施したほか、大和PIパートナーズは、エネルギー等の重点分野やミャンマー等の重点地域で積極的に投資を実行しながら、エクイティ投資先の売却益により、着実に収益を確保しました。
その結果、投資部門の純営業収益は前年度比74.1%増の274億円、経常利益は同87.9%増の244億円となりました。投資部門の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ5.4%および15.7%でした。
[その他]
その他の事業には、主に大和総研と大和総研ビジネス・イノベーションからなる大和総研グループによるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。
大和総研は、取引所発注システムのインフラ更改等、過去最大規模のシステム開発を遂行したほか、高付加価値のソリューション提案により、顧客との関係を強化し、当社グループのビジネスに貢献しました。
大和総研ビジネス・イノベーションでは、地域金融機関から証券子会社システムの導入案件を獲得したほか、当社グループと連携した、FinTech企業の証券子会社設立に向けたシステム面でのサポートを行っています。
大和ネクスト銀行では、外貨建てローン債権を裏付資産とする資産流動化ローンの積み増しにより貸出金利息が増加しました。また11月より、定期預金に「金利」以外の魅力を付加するため、企業・団体とタイアップした預金商品を提供する「えらべる預金」を開始しました。
その結果、その他・調整等に係る純営業収益は431億円(前年度396億円)、経常利益は53億円(前年度11億円)となりました。なお、大和証券オフィス投資法人において所有物件入替に伴い発生した売却益が、調整項目として経常利益に含まれています。
③ 目標とする経営指標の達成状況等
当社グループでは、平成27年度から平成29年度にかけての中期経営計画“Passion for the Best” 2017において、数値目標として自己資本利益率(ROE)と固定費カバー率の指標を掲げています。固定費カバー率は当社独自の指標であり、販売費・一般管理費に含まれる人件費・不動産関係費等の「固定費」を「安定収益」でどの程度カバーできるかを示します。安定収益には、投資信託の運用報酬(投資顧問運用報酬を含む)、投信代理事務手数料、SMA・ファンドラップの運用報酬等が含まれます。当連結会計年度のROEは前年度比+0.4ポイント増の8.8%、固定費カバー率は68.5%となりました。3ヵ年にわたる当中期経営計画は当連結会計年度が最終年度であり、数値目標であるROE10%以上及び固定費カバー率最終年度75%以上は未達となりましたが、中期経営計画策定時に意図した「外部環境に左右されにくい強靭な経営基盤の構築」については、完成度の高いものとなり、今後の成長戦略の基盤が確立できたものと評価しております。
④ 経営成績の前提となる平成29年度のマクロ経済環境
<海外の状況>世界経済は緩やかに拡大しており、IMF(国際通貨基金)の推計によれば、平成29年の世界経済成長率は前年を上回り、5年ぶりの高い伸びとなったとみられます。米国経済は、引き続き内外の政治的な混乱に対する懸念を払拭できないものの、平成29年末に成立した税制改革などの拡張的な財政政策によって、国内景気は一段と押し上げられようとしています。また、ユーロ圏の景気も拡大し、デフレ懸念が後退したことから、緩和的な金融政策も徐々に縮小しつつあります。さらに、先進国だけでなく、新興国経済も回復基調にあり、中国が安定的に推移しているほか、ブラジルやロシアはプラス成長に転じています。
米国経済は、平成30年1-3月期こそ個人消費の伸びが抑制され、実質GDP成長率は前期比年率2%台前半の成長に留まりましたが、平成29年4-6月期からの3四半期は3%前後の高成長となりました。平成30年1-3月期の減速は、個人消費が約5年ぶりの低い伸びになったことが響きましたが、消費の裏付けとなる雇用・所得環境が安定しており、平成29年12月に成立した税制改革による可処分所得の押し上げも見られます。また、税制改革の恩恵は、企業業績や企業マインドの改善にも及んでおり、設備投資は堅調な伸びを維持しています。また、労働市場の逼迫に伴う省力化投資へのニーズが高まっている点も設備投資の追い風となっています。しかし、平成30年2月以降、トランプ大統領が保護主義的な通商政策を強力に推進しており、中国をはじめとする世界各国との摩擦が激化すれば、輸入価格の上昇だけでなく、米国からの輸出量が減少し、企業の生産活動や投資計画に悪影響が及ぶ恐れがあります。金融面では、底堅い景気拡大を受けて、FRB(連邦準備制度理事会)は平成29年の計3回の利上げに続いて、平成30年3月にも政策金利を引き上げました。同時に、平成29年10月からは、FRBが保有する資産の規模縮小も開始しています。一方、米国株式市場では、底堅い米国経済や税制改革への期待から騰勢が続き、NYダウ平均株価は平成30年1月に過去最高値を更新しました。もっとも、その後は、インフレへの懸念から長期金利が上昇したり、通商摩擦への懸念の高まりとともに株価が大きく下落する場面もありました。
欧州経済は、緩やかながら安定した成長が続いており、平成29年のユーロ圏の実質GDP成長率は2.4%と10年ぶりの高成長になりました。平成30年1-3月期は前期比年率1.5%増、前年比では2.5%増となり、過去3四半期平均の前期比年率2.9%増から大きく鈍化しましたが、1%程度とされる潜在成長率を上回り、堅調に推移しているといえます。ユーロ圏の雇用情勢は改善傾向にあり、家計の所得環境も良好なことから、個人消費が底堅く、内需を中心にバランスの取れた形で成長しています。もっとも、ユーロ高が進行してきたために、輸出依存度が高いドイツなどでは、景気減速感が見られます。一方、金融面では、デフレ懸念の後退を受けて、ECB(欧州中央銀行)は非伝統的な金融緩和政策の軌道修正を進めています。平成29年4月から量的緩和の規模を縮小させたのに続き、平成30年1月以降、資産買取額を毎月300億ユーロに半減させています。ただ、平成30年に入ってからのユーロ圏のインフレ率は、ECBが目指すインフレ目標「2%をやや下回る水準」とは大きな乖離が見られることから、ECBは、非伝統的な金融緩和政策の修正を慎重に進めていくとみられます。
新興国経済は、平成27年をボトムにして成長率が加速しており、平成29年は4年ぶりの高成長となりました。中国経済は、平成30年1-3月期の実質GDP成長率が前年比6.8%増と、平成29年の6.9%成長から僅かに減速したものの、堅調に成長を続けています。もっとも、前期比では、平成29年7-9月期をピークに2四半期連続で減速しています。個人消費が成長の最大の牽引役となっており、総資本形成の伸びの鈍化をある程度カバーしています。平成30年1-3月期に入って、消費関連にやや減速感が見られますが、底堅く推移しています。固定資産投資は、過剰生産能力を指摘される製造業やインフラ投資が減速する一方、不動産開発投資は大きく伸びたことから、投資全体ではやや加速しています。また、米国との通商摩擦問題は今後のリスク要因ではありますが、互いに制裁を発動し合うというように状況がエスカレートしない限り、影響は限定的とみられます。一方、中国以外の新興国では、総じて平成29年の経済成長率は当初の想定を上回る回復が見られ、原油などの資源価格の上昇は資源国経済にとって追い風になっています。ただ、一部では、米国など先進国の金利上昇の影響から資本が国外に流出し、通貨安に伴う高インフレや通貨防衛のための政策金利の引き上げなど、経済的な困難に直面しているケースも散見されます。
<日本の状況>日本経済は、平成28年半ば以降、内需を中心に緩やかな回復基調が続きましたが、平成30年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率0.6%減と9四半期ぶりのマイナス成長に陥り、過去4四半期の平均年率2%弱の成長から大幅に減速しました。背景には、個人消費や住宅投資が軟調であったことに加えて、これまで堅調に拡大してきた設備投資や輸出の伸びも鈍化したことがあります。内需の弱さを反映して輸入も減速したために、外需の寄与度はプラスとなったものの、内需の寄与度のマイナス幅が上回ったことから、全体でマイナス成長になりました。このように、直近では内需項目が軒並み小幅なマイナス成長になり、景気拡大の足踏みが見られましたが、平成29年度全体では1.6%成長に加速し4年ぶりの高い伸びとなりました。平成28年度の成長が外需に依存した形だったことと比べると、平成29年度は内需の寄与度が1.2%ポイント、外需の寄与度が0.4%ポイントとなり、よりバランスの取れた成長であったといえます。
GDPに占めるウエイトの大きい個人消費は、平成30年1-3月期に小幅ながらも2四半期ぶりに減少しました。自動車を中心とした耐久消費財をはじめ総じて弱い内容になりましたが、天候不順による生鮮食品の高騰や原油価格の上昇、人手不足などに伴うコスト増などを受けて、消費者が直面する物価上昇率は高止まり、消費者の生活に影響を及ぼしているとみられます。また、年度全体でみると、失業率が2%台半ばまで一段と低下したほか、企業の採用意欲が引き続き強く、賃金も緩やかに増加するなど雇用・所得環境の改善が続き、消費者マインドは高い水準を維持しました。
住宅投資については、日本銀行の緩和的な金融政策によって、低い住宅ローン金利が下支え要因となったものの、建材コストや人件費の上昇もあって、大都市圏を中心に住宅価格が上昇したことが需要を抑制したほか、相続税対策などの特殊要因によって押し上げられてきた貸家建設の減速感が強まりました。この結果、平成29年7-9月期以降、3四半期連続で前期比マイナス成長となっています。
一方、企業の設備投資は、平成29年度全体では前年比3.2%増と8年連続で増加しました。企業収益が高水準にあることや労働需給の逼迫を背景に、深刻な人手不足に対応した合理化・省人化投資や、競争力を維持するための設備の更新、研究開発投資などが増加しました。もっとも、企業は支出全般に慎重な姿勢を崩しておらず、設備投資の水準は、キャッシュ・フローを大きく下回り、減価償却費を一定程度上回る水準に留まっています。また、平成30年1-3月期の設備投資はプラス成長を維持したものの、伸び率が鈍化している背景には、輸出の伸びが減速したために生産活動が一服したことが考えられます。
外需に関しては、海外経済が底堅く拡大していることから輸出は増加基調にあり、平成29年度は前年比6.2%の成長と、前年度から伸び率が加速しました。地域別に見ると、アジア向けの輸出が持ち直したほか、米国やEU(欧州連合)向けは概ね横ばいとなるなど、総じて堅調に推移しました。自動車や半導体等製造装置の輸出が好調でしたが、引き続き、海外経済の動向には留意が必要です。特に、平成30年に入って、米国が保護主義的な通商政策を推し進めており、この先、世界貿易の縮小につながるリスクがあります。また、米国など先進国の金利上昇により、資本流出に直面する新興国経済に変調が生じると、日本からの輸出にネガティブに作用するとみられます。一方、輸入は、平成29年度全体では内需の回復を受けて持ち直し、2年ぶりに増加しました。
金融面では、日本銀行による強力な金融緩和措置が続いています。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環として、イールドカーブ・コントロールを導入し、短期金利と長期金利の両方を事実上管理するという政策を実行しています。米国の市場金利の上昇を受けて、日本の国債利回りが上昇する局面もありましたが、長期金利(10年国債利回り)は、平成29年度を通じて、概ね0.0%~0.1%という狭いレンジで安定的に推移しました。為替レートは平成29年に入ると、7月から9月上旬にかけて、地政学的リスクの高まりを受けてリスク回避の動きが強まり、円高が進む局面がみられましたが、総じて109~114円という狭いレンジのなかでの変動を繰り返しました。ただ、平成30年に入って、米国の長期金利上昇をきっかけに世界的な株安が進み、さらに、米国の保護主義的な通商政策によって、米中の貿易摩擦激化への警戒感が強まると、リスク回避の動きから円高が加速し、平成30年3月下旬には、1年4カ月ぶりの円高水準となる104円台を記録しました。一方、対ユーロでは、欧州経済の順調な拡大やECBの金融政策の正常化への思惑を背景に、年末にかけて、円安・ユーロ高が進みました。しかし、平成30年2月に入ると、対ドル同様にリスク回避の動きが強まり、円高・ユーロ安に振れました。
平成30年3月末の日経平均株価は21,454円30銭(前年3月末比2,545円04銭高)、10年国債利回りは0.043%(同0.024ポイントの低下)、為替は1ドル106円19銭(同5円61銭の円高)となりました。
(4) 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析
① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、トレーディング商品の増減、営業貸付金の増減、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減などにより、1兆3,192億円の減少(前年度は445億円の増加)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、定期預金の預入による支出や定期預金の払戻による収入、有価証券の取得による支出や有価証券の売却及び償還による収入などにより、7,778億円の増加(同3,077億円の増加)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増減、長期借入れによる収入や長期借入金の返済による支出などにより、4,328億円の増加(同1,432億円の増加)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比1,126億円減少の3兆6,534億円となりました。
② 資本の財源及び流動性に係る情報
(ⅰ) 流動性の管理
<財務の効率性と安定性の両立>当社グループは、多くの資産及び負債を用いて有価証券関連業務を中心としたビジネスを行っており、ビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。
当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。
財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めております。特に近年においては、世界的金融危機及び信用危機による不測の事態に備え、市場からの資金調達、金融機関からの借入等により、手元流動性の更なる積み増しを行っております。同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。
当社は、平成26年金融庁告示第61号による連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」)の最低基準(平成27年3月末から段階的に導入)の遵守が求められております。当社の当第4四半期日次平均のLCRは146.6%となっており、上記金融庁告示による要件を満たしております。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しております。その他、1年以上の長期間に亘りストレス環境が継続することを想定した場合に、保有資産を維持するための長期性資金調達状況の十分性を計測及びモニタリングしており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。
当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。
(単位:億円)
<グループ全体の資金管理>当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。
<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。
当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。
また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。
なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。
(ⅱ) 株主資本
当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開するためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。
当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比258億円増加し、1兆2,095億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,781億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益1,105億円を計上したほか、配当金434億円の支払いを行った結果、前連結会計年度末比674億円増加の7,857億円となりました。自己株式の控除額は同415億円増加し、543億円となっております。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた会計基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積もりを行っており、これらの見積もりは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積もりと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。
① 金融商品の評価
当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。評価に用いる時価は、市場で取引が行われている有価証券やデリバティブ取引については当連結会計年度末時点の市場価格を、市場価格のない有価証券やデリバティブ取引については理論価格を、それぞれ使用しております。理論価格を算出する際には、対象となる商品や取引について最も適切と考えられるモデルを採用しております。
② 有価証券の減損
当社グループでは、投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。このうち時価のある有価証券については、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における時価の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。時価の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、時価の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがないと判断したものについては、減損処理を行っております。また、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券については、実質価額が著しく低下し、かつ、回復する見込みがないと判断した場合には、減損処理を行っております。
③ 固定資産の減損
当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、継続使用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。
④ 繰延税金資産の状況
(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠
当社グループでは、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。
(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)
(単位:百万円)
回次 | 第76期 | 第77期 | 第78期 | 第79期 | 第80期 |
決算年月 | 平成25年3月 | 平成26年3月 | 平成27年3月 | 平成28年3月 | 平成29年3月 |
連結納税グループの課税所得 | △12,727 | 16,566 | △19,262 | 89,190 | 31,973 |
(注) 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。
なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産128億円のうち、提出会社を親会社とする連結納税会社の計上額合計は100億円であります。
(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額
提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を2,383億円と見積もっております。
(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。
(2) 当連結会計年度の財政状態の分析
<資産の部>当連結会計年度末の総資産は前年度末比1兆3,144億円(6.6%)増加の21兆1,417億円となりました。内訳は流動資産が同1兆2,285億円(6.4%)増加の20兆4,874億円であり、このうち現金・預金が同1,343億円(3.5%)減少の3兆6,942億円、有価証券が同7,549億円(43.3%)減少の9,872億円、トレーディング商品が同1,208億円(1.8%)増加の6兆6,670億円、営業貸付金が同7,872億円(120.1%)増加の1兆4,429億円、有価証券担保貸付金が同1兆1,912億円(22.5%)増加の6兆4,967億円となっております。固定資産は同858億円(15.1%)増加の6,542億円となっております。
<負債の部・純資産の部>当連結会計年度末の負債合計は前年度末比1兆2,873億円(7.0%)増加の19兆7,712億円となりました。内訳は流動負債が同1兆283億円(6.4%)増加の17兆362億円であり、このうちトレーディング商品が同3,722億円(8%)増加の5兆308億円、有価証券担保借入金が同2,429億円(4.0%)減少の5兆7,758億円、銀行業における預金が同4,027億円(13.5%)増加の3兆3,884億円、短期借入金が同1,728億円(18.8%)増加の1兆917億円となっております。固定負債は同2,590億円(10.5%)増加の2兆7,310億円であり、このうち社債が同960億円(7.9%)増加の1兆3,153億円、長期借入金が同1,485億円(12.6%)増加の1兆3,277億円となっております。
当連結会計年度末の純資産合計は同270億円(2.0%)増加の1兆3,705億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,781億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことから、同674億円(9.4%)増加の7,857億円となっております。自己株式の控除額は同415億円(327.0%)増加の543億円、その他有価証券評価差額金は同12億円(2.1%)増加の611億円、為替換算調整勘定は同43億円(63.0%)減少の25億円、非支配株主持分は同47億円(5.7%)増加の885億円となっております。
(3) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 事業全体の状況
当連結会計年度の営業収益は前年度比15.6%増の7,126億円、純営業収益は同6.9%増の5,053億円となりました。
受入手数料は3,136億円と、同14.7%の増収となりました。委託手数料は、株式取引が増加したことにより、同21.1%増の737億円となりました。引受業務では、複数の大型エクイティ募集案件等が貢献し、引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、同18.3%増の351億円となりました。
トレーディング損益は、金融市場における顧客フローの低迷が継続したこと等から前年度比14.9%減の1,090億円となりました。
販売費・一般管理費は前年度比4.7%増の3,702億円となりました。取引関係費は販売促進に関連する費用の増加により同3.9%増の724億円、人件費は業績に連動する賞与等の増加及び米国のM&Aアドバイザリー2社の連結に伴う給与の計上により同5.7%増の1,858億円、減価償却費はシステム関連費用等の増加により同4.0%増の243億円となっております。
以上より、経常利益は同14.8%増の1,556億円となりました。
また、投資有価証券売却益等により特別利益が102億円(前年度173億円)、訴訟損失引当金繰入額の計上等により特別損失が120億円(前年度139億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比6.3%増の1,105億円となりました。
② セグメント情報に記載された区分ごとの状況
純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
純営業収益 | 経常利益 | |||||||
平成29年 3月期 | 平成30年 3月期 | 対前年度 増減率 | 構成比率 | 平成29年 3月期 | 平成30年 3月期 | 対前年度 増減率 | 構成比率 | |
リテール部門 | 188,051 | 214,247 | 13.9% | 42.4% | 29,375 | 51,331 | 74.7% | 33.0% |
ホールセール部門 | 182,875 | 171,192 | △6.4% | 33.9% | 65,437 | 45,373 | △30.7% | 29.1% |
アセット・マネジメント部門 | 46,438 | 49,390 | 6.4% | 9.8% | 26,572 | 29,119 | 9.6% | 18.7% |
投資部門 | 15,736 | 27,401 | 74.1% | 5.4% | 13,041 | 24,499 | 87.9% | 15.7% |
その他・調整等 | 39,647 | 43,118 | ― | 8.5% | 1,196 | 5,353 | ― | 3.4% |
連結 計 | 472,750 | 505,350 | 6.9% | 100.0% | 135,623 | 155,676 | 14.8% | 100.0% |
[リテール部門]
リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社の顧客の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、顧客動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、顧客のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。
当連結会計年度においては、4月より、お客様目線をより重視した営業推進体制へ移行し、個別商品の販売目標を廃止したことなどにより、営業員が、今まで以上に多くの時間を、お客様のニーズやマーケットの動向をより的確に捉えた提案に割けるようになりました。その結果、市場環境が特に好調であった米国株式を中心に、外国株式の売買代金が大幅に増加したほか、外国株式の預り資産残高についても過去最高の水準となりました。
株式投信販売については、マーケットのニーズに沿ったテーマ型投信の取扱いにより、募集・販売額が大幅に向上し、投信募集手数料も前年度比大幅増となりました。
また、ラップ口座サービスの拡充に取り組んだ結果、平成29年度末のラップ口座契約資産残高は過去最高水準となりました。
好調な市場環境に加え、これらの取組みが寄与し、当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比13.9%増の2,142億円、経常利益は同74.7%増の513億円となりました。リテール部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ42.4%および33.0%でした。
[ホールセール部門]
ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行なうグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引き受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益およびトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、国際的な地政学リスクや経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。
グローバル・マーケッツにおいては、当連結会計年度の期初に地政学リスクの高まり等から顧客フローが減速しエクイティ収益が落ち込んだものの、下期にかけて回復したため増加しましたが、金融市場では低ボラティリティが継続したことを受けフィクスト・インカム収益が低水準で推移したため、当連結会計年度の純営業収益は前年度比13.4%減の1,236億円、経常利益は同36.0%減の342億円となりました。
グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、複数の大型エクイティ募集・売出し案件でJGC(ジョイント・グローバル・コーディネーター)や主幹事を務めたこと等により、当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、前年度比18.3%増の351億円となりました。その結果、純営業収益は同18.7%増の474億円となりました。M&Aビジネスにおいては、米国のSagent Holdings, Inc. とSignal Hill Holdings LLCを買収統合してDCS Advisory Holdings Inc.を発足させ、各海外拠点との連携により、今後増加が見込まれる日本とのクロスボーダー案件や、市場規模の大きい欧米間の案件に対応できる体制をより強化しています。一方で、統合による給与の増加や、買収に伴うのれんを含む無形固定資産の償却により、販売費・一般管理費が増加しました。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの経常利益は前年度比11.1%減の101億円となりました。
当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比6.4%減の1,711億円、経常利益は同30.7%減の453億円となりました。ホールセール部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ33.9%および29.1%でした。
[アセット・マネジメント部門]
アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和証券投資信託委託における投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメントの不動産運用収益によって構成されます。また、当社持分法適用関連会社である大和住銀投信投資顧問の投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益および同じく持分法適用関連会社である大和証券オフィス投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動する顧客の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、顧客の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及び大和証券オフィス投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向に左右されます。
当連結会計年度において、大和証券投資信託委託では、複数のファンドにおいてR&Iファンド大賞の基準を満たす高パフォーマンスを維持するなど運用力の強化を図ったほか、「グローバルIoT関連株ファンド」などの残高を拡大させ、公募投資信託の運用資産残高は前年比7.8%増の15.5兆円となりました。大和住銀投信投資顧問では、顧客ニーズに対応した商品として、「グローバルEV関連株ファンド」を設定したほか、EUなど海外向けの日本株ファンドを設定するなど、グローバルビジネスの拡大にも注力し、公募株式投資信託及び投資顧問の運用資産残高は前年比6.1%増の4.9兆円となりました。不動産アセットマネジメントでは、大和リアル・エステート・アセット・マネジメントが運用する不動産及びインフラ資産は拡大した一方で、大和証券オフィス投資法人における運用資産残高は保有物件の入替えにより減少しました。不動産アセット・マネジメントビジネスの運用資産残高は前年比2.1%減の80.2兆円となりました。その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比6.4%増の493億円、経常利益は同9.6%増の291億円となりました。アセット・マネジメント部門の当連結会計年度の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ9.8%および18.7%でした。
[投資部門]
投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資と大和PIパートナーズで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬です。
当連結会計年度においては、大和企業投資において国内外の成長企業への投資を積極的に実行するとともに、投資先企業と大手企業とのマッチングを実施したほか、大和PIパートナーズは、エネルギー等の重点分野やミャンマー等の重点地域で積極的に投資を実行しながら、エクイティ投資先の売却益により、着実に収益を確保しました。
その結果、投資部門の純営業収益は前年度比74.1%増の274億円、経常利益は同87.9%増の244億円となりました。投資部門の純営業収益および経常利益のグループ全体の連結純営業収益および連結経常利益に占める割合は、それぞれ5.4%および15.7%でした。
[その他]
その他の事業には、主に大和総研と大和総研ビジネス・イノベーションからなる大和総研グループによるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。
大和総研は、取引所発注システムのインフラ更改等、過去最大規模のシステム開発を遂行したほか、高付加価値のソリューション提案により、顧客との関係を強化し、当社グループのビジネスに貢献しました。
大和総研ビジネス・イノベーションでは、地域金融機関から証券子会社システムの導入案件を獲得したほか、当社グループと連携した、FinTech企業の証券子会社設立に向けたシステム面でのサポートを行っています。
大和ネクスト銀行では、外貨建てローン債権を裏付資産とする資産流動化ローンの積み増しにより貸出金利息が増加しました。また11月より、定期預金に「金利」以外の魅力を付加するため、企業・団体とタイアップした預金商品を提供する「えらべる預金」を開始しました。
その結果、その他・調整等に係る純営業収益は431億円(前年度396億円)、経常利益は53億円(前年度11億円)となりました。なお、大和証券オフィス投資法人において所有物件入替に伴い発生した売却益が、調整項目として経常利益に含まれています。
③ 目標とする経営指標の達成状況等
当社グループでは、平成27年度から平成29年度にかけての中期経営計画“Passion for the Best” 2017において、数値目標として自己資本利益率(ROE)と固定費カバー率の指標を掲げています。固定費カバー率は当社独自の指標であり、販売費・一般管理費に含まれる人件費・不動産関係費等の「固定費」を「安定収益」でどの程度カバーできるかを示します。安定収益には、投資信託の運用報酬(投資顧問運用報酬を含む)、投信代理事務手数料、SMA・ファンドラップの運用報酬等が含まれます。当連結会計年度のROEは前年度比+0.4ポイント増の8.8%、固定費カバー率は68.5%となりました。3ヵ年にわたる当中期経営計画は当連結会計年度が最終年度であり、数値目標であるROE10%以上及び固定費カバー率最終年度75%以上は未達となりましたが、中期経営計画策定時に意図した「外部環境に左右されにくい強靭な経営基盤の構築」については、完成度の高いものとなり、今後の成長戦略の基盤が確立できたものと評価しております。
④ 経営成績の前提となる平成29年度のマクロ経済環境
<海外の状況>世界経済は緩やかに拡大しており、IMF(国際通貨基金)の推計によれば、平成29年の世界経済成長率は前年を上回り、5年ぶりの高い伸びとなったとみられます。米国経済は、引き続き内外の政治的な混乱に対する懸念を払拭できないものの、平成29年末に成立した税制改革などの拡張的な財政政策によって、国内景気は一段と押し上げられようとしています。また、ユーロ圏の景気も拡大し、デフレ懸念が後退したことから、緩和的な金融政策も徐々に縮小しつつあります。さらに、先進国だけでなく、新興国経済も回復基調にあり、中国が安定的に推移しているほか、ブラジルやロシアはプラス成長に転じています。
米国経済は、平成30年1-3月期こそ個人消費の伸びが抑制され、実質GDP成長率は前期比年率2%台前半の成長に留まりましたが、平成29年4-6月期からの3四半期は3%前後の高成長となりました。平成30年1-3月期の減速は、個人消費が約5年ぶりの低い伸びになったことが響きましたが、消費の裏付けとなる雇用・所得環境が安定しており、平成29年12月に成立した税制改革による可処分所得の押し上げも見られます。また、税制改革の恩恵は、企業業績や企業マインドの改善にも及んでおり、設備投資は堅調な伸びを維持しています。また、労働市場の逼迫に伴う省力化投資へのニーズが高まっている点も設備投資の追い風となっています。しかし、平成30年2月以降、トランプ大統領が保護主義的な通商政策を強力に推進しており、中国をはじめとする世界各国との摩擦が激化すれば、輸入価格の上昇だけでなく、米国からの輸出量が減少し、企業の生産活動や投資計画に悪影響が及ぶ恐れがあります。金融面では、底堅い景気拡大を受けて、FRB(連邦準備制度理事会)は平成29年の計3回の利上げに続いて、平成30年3月にも政策金利を引き上げました。同時に、平成29年10月からは、FRBが保有する資産の規模縮小も開始しています。一方、米国株式市場では、底堅い米国経済や税制改革への期待から騰勢が続き、NYダウ平均株価は平成30年1月に過去最高値を更新しました。もっとも、その後は、インフレへの懸念から長期金利が上昇したり、通商摩擦への懸念の高まりとともに株価が大きく下落する場面もありました。
欧州経済は、緩やかながら安定した成長が続いており、平成29年のユーロ圏の実質GDP成長率は2.4%と10年ぶりの高成長になりました。平成30年1-3月期は前期比年率1.5%増、前年比では2.5%増となり、過去3四半期平均の前期比年率2.9%増から大きく鈍化しましたが、1%程度とされる潜在成長率を上回り、堅調に推移しているといえます。ユーロ圏の雇用情勢は改善傾向にあり、家計の所得環境も良好なことから、個人消費が底堅く、内需を中心にバランスの取れた形で成長しています。もっとも、ユーロ高が進行してきたために、輸出依存度が高いドイツなどでは、景気減速感が見られます。一方、金融面では、デフレ懸念の後退を受けて、ECB(欧州中央銀行)は非伝統的な金融緩和政策の軌道修正を進めています。平成29年4月から量的緩和の規模を縮小させたのに続き、平成30年1月以降、資産買取額を毎月300億ユーロに半減させています。ただ、平成30年に入ってからのユーロ圏のインフレ率は、ECBが目指すインフレ目標「2%をやや下回る水準」とは大きな乖離が見られることから、ECBは、非伝統的な金融緩和政策の修正を慎重に進めていくとみられます。
新興国経済は、平成27年をボトムにして成長率が加速しており、平成29年は4年ぶりの高成長となりました。中国経済は、平成30年1-3月期の実質GDP成長率が前年比6.8%増と、平成29年の6.9%成長から僅かに減速したものの、堅調に成長を続けています。もっとも、前期比では、平成29年7-9月期をピークに2四半期連続で減速しています。個人消費が成長の最大の牽引役となっており、総資本形成の伸びの鈍化をある程度カバーしています。平成30年1-3月期に入って、消費関連にやや減速感が見られますが、底堅く推移しています。固定資産投資は、過剰生産能力を指摘される製造業やインフラ投資が減速する一方、不動産開発投資は大きく伸びたことから、投資全体ではやや加速しています。また、米国との通商摩擦問題は今後のリスク要因ではありますが、互いに制裁を発動し合うというように状況がエスカレートしない限り、影響は限定的とみられます。一方、中国以外の新興国では、総じて平成29年の経済成長率は当初の想定を上回る回復が見られ、原油などの資源価格の上昇は資源国経済にとって追い風になっています。ただ、一部では、米国など先進国の金利上昇の影響から資本が国外に流出し、通貨安に伴う高インフレや通貨防衛のための政策金利の引き上げなど、経済的な困難に直面しているケースも散見されます。
<日本の状況>日本経済は、平成28年半ば以降、内需を中心に緩やかな回復基調が続きましたが、平成30年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率0.6%減と9四半期ぶりのマイナス成長に陥り、過去4四半期の平均年率2%弱の成長から大幅に減速しました。背景には、個人消費や住宅投資が軟調であったことに加えて、これまで堅調に拡大してきた設備投資や輸出の伸びも鈍化したことがあります。内需の弱さを反映して輸入も減速したために、外需の寄与度はプラスとなったものの、内需の寄与度のマイナス幅が上回ったことから、全体でマイナス成長になりました。このように、直近では内需項目が軒並み小幅なマイナス成長になり、景気拡大の足踏みが見られましたが、平成29年度全体では1.6%成長に加速し4年ぶりの高い伸びとなりました。平成28年度の成長が外需に依存した形だったことと比べると、平成29年度は内需の寄与度が1.2%ポイント、外需の寄与度が0.4%ポイントとなり、よりバランスの取れた成長であったといえます。
GDPに占めるウエイトの大きい個人消費は、平成30年1-3月期に小幅ながらも2四半期ぶりに減少しました。自動車を中心とした耐久消費財をはじめ総じて弱い内容になりましたが、天候不順による生鮮食品の高騰や原油価格の上昇、人手不足などに伴うコスト増などを受けて、消費者が直面する物価上昇率は高止まり、消費者の生活に影響を及ぼしているとみられます。また、年度全体でみると、失業率が2%台半ばまで一段と低下したほか、企業の採用意欲が引き続き強く、賃金も緩やかに増加するなど雇用・所得環境の改善が続き、消費者マインドは高い水準を維持しました。
住宅投資については、日本銀行の緩和的な金融政策によって、低い住宅ローン金利が下支え要因となったものの、建材コストや人件費の上昇もあって、大都市圏を中心に住宅価格が上昇したことが需要を抑制したほか、相続税対策などの特殊要因によって押し上げられてきた貸家建設の減速感が強まりました。この結果、平成29年7-9月期以降、3四半期連続で前期比マイナス成長となっています。
一方、企業の設備投資は、平成29年度全体では前年比3.2%増と8年連続で増加しました。企業収益が高水準にあることや労働需給の逼迫を背景に、深刻な人手不足に対応した合理化・省人化投資や、競争力を維持するための設備の更新、研究開発投資などが増加しました。もっとも、企業は支出全般に慎重な姿勢を崩しておらず、設備投資の水準は、キャッシュ・フローを大きく下回り、減価償却費を一定程度上回る水準に留まっています。また、平成30年1-3月期の設備投資はプラス成長を維持したものの、伸び率が鈍化している背景には、輸出の伸びが減速したために生産活動が一服したことが考えられます。
外需に関しては、海外経済が底堅く拡大していることから輸出は増加基調にあり、平成29年度は前年比6.2%の成長と、前年度から伸び率が加速しました。地域別に見ると、アジア向けの輸出が持ち直したほか、米国やEU(欧州連合)向けは概ね横ばいとなるなど、総じて堅調に推移しました。自動車や半導体等製造装置の輸出が好調でしたが、引き続き、海外経済の動向には留意が必要です。特に、平成30年に入って、米国が保護主義的な通商政策を推し進めており、この先、世界貿易の縮小につながるリスクがあります。また、米国など先進国の金利上昇により、資本流出に直面する新興国経済に変調が生じると、日本からの輸出にネガティブに作用するとみられます。一方、輸入は、平成29年度全体では内需の回復を受けて持ち直し、2年ぶりに増加しました。
金融面では、日本銀行による強力な金融緩和措置が続いています。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環として、イールドカーブ・コントロールを導入し、短期金利と長期金利の両方を事実上管理するという政策を実行しています。米国の市場金利の上昇を受けて、日本の国債利回りが上昇する局面もありましたが、長期金利(10年国債利回り)は、平成29年度を通じて、概ね0.0%~0.1%という狭いレンジで安定的に推移しました。為替レートは平成29年に入ると、7月から9月上旬にかけて、地政学的リスクの高まりを受けてリスク回避の動きが強まり、円高が進む局面がみられましたが、総じて109~114円という狭いレンジのなかでの変動を繰り返しました。ただ、平成30年に入って、米国の長期金利上昇をきっかけに世界的な株安が進み、さらに、米国の保護主義的な通商政策によって、米中の貿易摩擦激化への警戒感が強まると、リスク回避の動きから円高が加速し、平成30年3月下旬には、1年4カ月ぶりの円高水準となる104円台を記録しました。一方、対ユーロでは、欧州経済の順調な拡大やECBの金融政策の正常化への思惑を背景に、年末にかけて、円安・ユーロ高が進みました。しかし、平成30年2月に入ると、対ドル同様にリスク回避の動きが強まり、円高・ユーロ安に振れました。
平成30年3月末の日経平均株価は21,454円30銭(前年3月末比2,545円04銭高)、10年国債利回りは0.043%(同0.024ポイントの低下)、為替は1ドル106円19銭(同5円61銭の円高)となりました。
(4) 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析
① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
平成29年3月期 | 平成30年3月期 | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | 44,543 | △1,319,248 |
投資活動によるキャッシュ・フロー | 307,713 | 777,872 |
財務活動によるキャッシュ・フロー | 143,231 | 432,813 |
現金及び現金同等物に係る換算差額 | △1,836 | △5,046 |
現金及び現金同等物の増減額(△は減少) | 493,651 | △113,608 |
現金及び現金同等物の期首残高 | 3,273,640 | 3,766,145 |
現金及び現金同等物の期末残高 | 3,766,145 | 3,653,464 |
当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、トレーディング商品の増減、営業貸付金の増減、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減などにより、1兆3,192億円の減少(前年度は445億円の増加)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、定期預金の預入による支出や定期預金の払戻による収入、有価証券の取得による支出や有価証券の売却及び償還による収入などにより、7,778億円の増加(同3,077億円の増加)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増減、長期借入れによる収入や長期借入金の返済による支出などにより、4,328億円の増加(同1,432億円の増加)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比1,126億円減少の3兆6,534億円となりました。
② 資本の財源及び流動性に係る情報
(ⅰ) 流動性の管理
<財務の効率性と安定性の両立>当社グループは、多くの資産及び負債を用いて有価証券関連業務を中心としたビジネスを行っており、ビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。
当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。
財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めております。特に近年においては、世界的金融危機及び信用危機による不測の事態に備え、市場からの資金調達、金融機関からの借入等により、手元流動性の更なる積み増しを行っております。同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。
当社は、平成26年金融庁告示第61号による連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」)の最低基準(平成27年3月末から段階的に導入)の遵守が求められております。当社の当第4四半期日次平均のLCRは146.6%となっており、上記金融庁告示による要件を満たしております。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しております。その他、1年以上の長期間に亘りストレス環境が継続することを想定した場合に、保有資産を維持するための長期性資金調達状況の十分性を計測及びモニタリングしており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。
当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。
(単位:億円)
日次平均 (自 平成30年1月 至 平成30年3月) | |||
適格流動資産 | (A) | 26,876 | |
資金流出額 | (B) | 37,446 | |
資金流入額 | (C) | 19,117 | |
連結流動性カバレッジ比率(LCR) | |||
算入可能適格流動資産の合計額 | (D) | 26,876 | |
純資金流出額 | (B)-(C) | 18,328 | |
連結流動性カバレッジ比率 | (D)/((B)-(C)) | 146.6% |
<グループ全体の資金管理>当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。
<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。
当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。
また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。
なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。
(ⅱ) 株主資本
当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開するためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。
当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比258億円増加し、1兆2,095億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,781億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益1,105億円を計上したほか、配当金434億円の支払いを行った結果、前連結会計年度末比674億円増加の7,857億円となりました。自己株式の控除額は同415億円増加し、543億円となっております。