有価証券報告書-第84期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/24 15:18
【資料】
PDFをみる
【項目】
181項目
本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた会計基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積りを行っており、これらの見積りは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積りと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。
① トレーディング商品の評価
当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。なお、当連結会計年度の期首より、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号 2019年7月4日)等を早期適用しており、トレーディング商品の時価は、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じて、3つのレベルに分類しております。これらの時価は「第5 経理の状況 (金融商品関係) 2. 金融商品の時価等及び時価のレベルごとの内訳等に関する事項」に記載しております。
時価測定に用いた評価技法及びインプットの詳細は以下のとおりであります。これらは、市場参加者が商品を評価するときに考慮するであろう当社グループによる仮定及び見積りを含んでおります。
(ⅰ)商品有価証券等
主に同一又は類似の商品に関する市場価格を用いております。また、特定の負債性金融商品及び資産担保証券については、デリバティブ取引に準じた評価技法もしくは、ディスカウント・キャッシュ・フロー・モデルにより時価を測定しております。
(ⅱ)デリバティブ
上場デリバティブについては原則として市場価格を、店頭デリバティブについては、評価技法により理論価格を算定しております。
デリバティブ取引の理論価格には、信用リスク及び流動性リスクを考慮した調整が含まれており、時価測定においては、市場で一般に用いられるリスク中立測度の仮定のもとでの期待キャッシュ・フローの現在価値を、主に数値積分法、有限差分法及びモンテカルロ法による価格算定モデルにより算定しております。
価格算定モデルには、金利、為替レート、株価、ボラティリティ、相関係数などの様々なインプットがあります。また、市場で観察可能でないインプットとしては、相関係数、長期のボラティリティ、長期のクレジット・スプレッドなどがあります。
価格算定モデルの選択及びその価格算定モデルに投入するインプットの決定、信用リスク及び流動性リスクにかかる評価調整には見積り及び前提を含んでおり、特に、市場で観察可能でないインプットを使用する場合には、その見積り及び前提は、トレーディング商品の評価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
算定に用いたインプットを含め、価格算定モデルは社内における指針に基づいて承認され、価格算定モデルの開発部署から独立した部署が、モデル内の仮定及び技法、算定に用いたインプットについて検証を行っております。また、価格算定モデルを観察可能な市場情報や代替可能なモデルとの比較分析等により、市場動向に合わせて調整する体制を構築しております。
経営者は、時価測定に用いられた前提は合理的であると考えております。しかしながら、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来キャッシュ・フローや時価の下落を引き起こすような見積りの変化が、評価金額に不利に影響し、結果として、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。
② 有価証券の評価
当社グループでは、投資有価証券、営業投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。
(ⅰ)投資有価証券
市場価格のあるものについては、市場価格が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における市場価格の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。市場価格の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、市場価格の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがないと判断したものについては、減損処理を行っております。市場価格のないものについては、実質価額が著しく低下し、かつ、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。
(ⅱ)営業投資有価証券
営業投資有価証券は、投資部門における非上場株式、国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等により構成されております。
営業投資有価証券の評価については、その評価額に基づき実質価額を見積り、その実質価額が帳簿価額を下回り、損失発生の可能性が高い場合には投資損失引当金を計上しております。さらに、実質価額が帳簿価額に比して50%以上下落し、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。実質価額の算定の前提となる当社の財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。
1) 非上場株式
株式の評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、類似取引事例との比較などにより算定しております。
2) 国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等
評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、財政状態などにより算定しております。
これらの評価額の測定には経営者が妥当と判断する見積り及び前提を使用しており、これらの見積り及び前提は、減損損失又は投資損失引当金の計上の要否の判断及び認識される損失金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
経営者は、実質価額の見積りに用いられた前提は合理的であると判断しております。ただし、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来の予測不能な前提条件の変化などにより、これらの評価に関する見積りが変化した場合には、結果として将来において当社及び連結子会社が減損処理又は投資損失引当金の計上を行う可能性があります。
③ 固定資産の減損
当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、継続使用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。
④ 繰延税金資産の状況
(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠
当社グループでは、会計基準に従い、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。
(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)
(単位:百万円)
回次第79期第80期第81期第82期第83期
決算年月2016年3月2017年3月2018年3月2019年3月2020年3月
連結納税グループの課税所得89,19031,97397,46774,61360,907

注) 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。
なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産113億円のうち、提出会社を親会社とする連結納税会社の計上額合計は92億円であります。
(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額
提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を2,243億円と見積もっております。
(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済情勢や相場環境の悪化及び外出自粛に伴う経済、企業活動の停滞・悪化は、現時点においてはこれらの見積りに重大な影響を及ぼしておりませんが、今後、入手可能となる情報等により新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化し、会計上の見積りに用いられた前提条件に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループにおきましては、投資事業における保有資産の評価に関する見積りの変化による減損又は評価損の計上、不動産アセットマネジメント事業における資産の稼働率低下による財務内容悪化懸念などの可能性があります。
(2)当連結会計年度の財政状態の分析
<資産の部>当連結会計年度末の総資産は前年度末比2兆2,772億円(9.6%)増加の26兆993億円となりました。内訳は流動資産が同1兆7,996億円(7.9%)増加の24兆6,463億円であり、このうち現金・預金が同7,986億円(20.1%)増加の4兆7,631億円、トレーディング商品が同1,931億円(2.4%)減少の7兆8,340億円、営業貸付金が同2,276億円(12.9%)増加の1兆9,961億円、有価証券担保貸付金が同7,625億円(11.4%)増加の7兆4,483億円となっております。固定資産は同4,775億円(49.0%)増加の1兆4,530億円となっております。
<負債の部・純資産の部>負債合計は前年度末比1兆9,431億円(8.6%)増加の24兆5,074億円となりました。内訳は流動負債が同1兆3,006億円(6.5%)増加の21兆2,193億円であり、このうちトレーディング商品が同9,944億円(18.5%)減少の4兆3,678億円、約定見返勘定が同7,755億円(142.4%)増加の1兆3,202億円、有価証券担保借入金が同9,773億円(13.6%)増加の8兆1,760億円、銀行業における預金が同3,788億円(9.4%)増加の4兆4,160億円となっております。固定負債は同6,427億円(24.3%)増加の3兆2,844億円であり、このうち社債が同1,781億円(12.9%)増加の1兆5,573億円、長期借入金が同4,036億円(34.1%)増加の1兆5,869億円となっております。
純資産合計は同3,340億円(26.6%)増加の1兆5,918億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,780億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を1,083億円計上したほか、配当金304億円の支払いを行ったこと等により、同772億円(9.3%)増加の9,117億円となっております。自己株式の控除額は同27億円(2.5%)減少の1,076億円、その他有価証券評価差額金は同147億円(54.9%)増加の415億円、為替換算調整勘定は同184億円増加の128億円、非支配株主持分は6.4倍の2,491億円となっております。
(3)当連結会計年度の経営成績の分析
① 事業全体の状況
当連結会計年度の営業収益は前年度比14.3%減の5,761億円、純営業収益は同9.5%増の4,666億円となりました。
受入手数料は2,868億円と、同7.6%の増収となりました。委託手数料は、株式取引が増加したことにより、同38.1%増の780億円となりました。引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、複数の大型エクイティ引受案件等が貢献し増収となり、同27.8%増の380億円となりました。
トレーディング損益は、エクイティ・FICCともに増加し、同26.8%増の1,188億円となりました。
販売費・一般管理費は同0.5%増の3,738億円となりました。取引関係費は広告宣伝費及び旅費・交通費等の減少により同16.4%減の576億円、人件費は賞与等が増加したこと等により同4.9%増の1,930億円、減価償却費はシステムの更改等により同10.1%増の339億円となっております。
以上より、経常利益は同63.9%増の1,151億円となりました。
また、大和証券オフィス投資法人が連結子会社化したことに伴う段階取得に係る差益等により特別利益が516億円(前年度374億円)、収支構造の改善に向けた構造改革関連費用や減損損失及び投資損失引当金繰入額の計上により特別損失が222億円(前年度229億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比79.6%増の1,083億円となりました。
② セグメント情報に記載された区分ごとの状況
純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
純営業収益経常利益又は経常損失(△)
2020年
3月期
2021年
3月期
対前年同期
増減率
構成比率2020年
3月期
2021年
3月期
対前年同期
増減率
構成比率
リテール部門166,430169,5051.8%36.3%6,40520,070213.3%15.6%
ホールセール部門172,289215,86025.3%46.3%38,03474,73796.5%58.1%
グローバル・マーケッツ121,301161,73033.3%34.7%28,19162,777122.7%48.8%
グローバル・インベストメント・バンキング50,98854,1296.2%11.6%9,33011,02118.1%8.6%
アセット・マネジメント部門48,09151,1456.3%11.0%26,58032,77523.3%25.5%
投資部門2,5024,60283.9%1.0%△8771,123-0.9%
その他・調整等36,94325,546-5.5%140△13,532--
連結 計426,259466,6609.5%100.0%70,283115,17563.9%100.0%

(注)構成比率は経常利益のセグメントの合計に占める割合としております。
[リテール部門]
リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社のお客様の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、お客様動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、お客様のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。
当連結会計年度においては、以下の事業計画に沿って活動を行いました。
1.プリンシプルベースの営業体制の構築
2.お客様のあらゆるニーズに応える魅力的な商品・サービスの開発、ソリューション提案の高度化
3.外部チャネル・外部リソースを活用したビジネス展開
4.収益構造の転換、コスト構造の見直し
各項目の実績は以下のとおりです。
1.お客様の声を起点とする商品・サービスの向上を目的に、「お客様満足度協議会」を半期毎に開催し、ラップ口座サービスにおける投資対象ファンドの見直しや口座開設手続きのペーパレス化などに取り組みました。
2.投資信託の購入時手数料を無料とし、評価額や保有期間に応じた手数料とする新プラン「投信フレックスプラン」を導入し、お客様の投資スタイルに合わせた手数料体系が選択できるようになりました。また、「ダイワのフューチャー・デザイナー~未来のカルテ~」に「資産運用プランニング」が加わり、資産運用のあらゆるシーンで最適なソリューションを提供することが可能となりました。
3.お客様基盤の拡大や資産形成分野における商品・サービス提供を目的として、外部提携先との協業について推進・検討しました。
4.ラップサービスの統合・刷新や、投信フレックスプランの導入など、資産管理型ビジネスモデルへの進化を進めました。また、大型店舗の統合・効率化、デジタル化の推進による業務効率化を進めました。
当連結会計年度は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響による初の緊急事態宣言が東京をはじめとする各地域で発出されたことから、第1四半期は商品募集・販売額が減少しましたが、当該緊急事態宣言の解除後は段階的に回復しました。一方で株式売買代金は第1四半期から好調で、株式相場の上昇にともない国内株・外国株ともに四半期ごとに増加しました。加えて、複数の大型エクイティ引受案件が貢献し、エクイティ収益が増加しました。
また、リテール部門における販売費・一般管理費は収支構造改革の取組みの結果減少し、利益率が向上しました。
当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比1.8%増の1,695億円、経常利益は同213.3%増の200億円となりました。リテール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ36.3%及び15.6%でした。
[ホールセール部門]
ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行うグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益及びトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、地政学リスクや国際的な経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。
ホールセール部門として以下の事業計画を実行しました。
1.企業の高付加価値化を促進
2.お客様ニーズを捉えたプロダクト・サービスの提供
3.事業構造や日本の産業構造転換を支援
4.アジアのリージョナル・ブローカーとしての汎アジアビジネスサポート
各項目の実績は、以下のとおりです。
1~3.M&Aビジネスへの取組みとしてミッドキャップの海外クロスボーダー案件獲得に努めました。IPOビジネスへの取組みとしてはDaiwa Innovation Networkを開催するなどスタートアップ企業の発掘・育成を推進しました。その他、大型ファイナンス案件獲得に取り組みました。
4.国内外のリサーチ力強化に注力した結果、日経ヴェリタスのアナリストランキング2021で会社別1位を3年連続で獲得したほか、Institutional Investorsの2021 Institutional Investor All-Japan Research Teamでも1位を2年連続で獲得しました。
グローバル・マーケッツでは良好なマーケット環境の中、リテール部門との連携によるタイムリーな商品提供、金利動向の変化を適切に捉えた債券などのトレーディング、及び市場環境の変化に対応した株式トレーディングが、収益に大きく貢献しました。フィクスト・インカム収益は第1四半期にJGBとクレジットの顧客フロー増加及びポジション運営が奏功し特に伸長しましたが、第2四半期以降も堅調に推移しました。その結果、当連結会計年度の純営業収益は前年度比33.3%増の1,617億円、経常利益は同122.7%増の627億円となりました。
グローバル・インベストメント・バンキングのエクイティ引受けは、新型コロナウィルスの影響で第1四半期には市場全体で案件数が減少しましたが、第2四半期以降、ソフトバンク株式会社や日本航空株式会社など複数の大型ファイナンスにおいてジョイント・グローバル・コーディネーターを務めたほか、株式会社ポピンズホールディングスによるSDGs-IPO(注)1、株式会社学研ホールディングスによるソーシャルPO(注)2など、多くの主幹事を務めました。デット引受けは新型コロナウィルスの影響で企業のニーズが堅調であったことに加え、国立大学法人東京大学によるソーシャルボンド(注)3などの本邦初となる案件の主幹事を務めました。当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、前年度比27.8%増の380億円となりました。M&Aアドバイザリー業務では新型コロナウィルスの影響で第1四半期には案件の進行が遅れる等の影響がありましたが、一方で社会的な変化を受けて企業のM&Aニーズは増加しており、案件のパイプラインは第4四半期にかけて国内外で高水準となり、収益も回復しました。M&A関連手数料は前年度比7.6%減の266億円となりました。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの当連結会計年度の純営業収益は前年度比6.2%増の541億円となりました。経常利益は同18.1%増の110億円となりました。
当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比25.3%増の2,158億円、経常利益は同96.5%増の747億円となりました。ホールセール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ46.3%及び58.1%でした。
(注)1 SDGs-IPO(Initial Public Offering):新規株式公開時の株式公募において、その資金使途及び発行
体について、SDGsへの貢献、ソーシャルボンド原則への準拠性についての評価を第三者評価機関から取得したもの。
(注)2 ソーシャルPO(Public Offering):ソーシャルボンド原則などに適合しているとの評価を第三者評価
機関から取得したソーシャルエクイティ・ファイナンス・フレームワークに則って実施する公募による資金調達。
(注)3 ソーシャルボンド:特定の社会的課題への対処や軽減、あるいはポジティブな社会的成果の達成を目指
す新規又は既存のプロジェクトに必要な資金を調達するために発行する債券。
[アセット・マネジメント部門]
アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和アセットマネジメントにおける投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の不動産運用収益によって構成されます。また、当社持分法適用関連会社である三井住友DSアセットマネジメントの投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益、及び同じく持分法適用関連会社である大和証券リビング投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。なお、従来は持分法適用関連会社であり、当連結会計年度中に連結子会社となった大和証券オフィス投資法人の不動産運用収益からの利益も、当連結会計年度では同じく当社の持分法適用関連会社時の持分割合に従って経常利益に計上されます。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動するお客様の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、お客様の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和証券オフィス投資法人、サムティ・レジデンシャル投資法人及び大和証券リビング投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向の影響を受けます。
当連結会計年度において、アセット・マネジメント部門は以下の事業計画を実行しました。
1.既存ファンドのプロモーション強化、新ファンドの戦略的投入によるヒット商品の育成
2.販売会社拡大等を通じた資金純増の実現
3.戦略別運用チーム体制への移行、運用解析チームの新設等による運用力の強化
4.不動産を中心としたオルタナティブ投資商品の拡大
各項目の実績は以下のとおりです。
1.大和アセットマネジメントでは各販売会社のお客様ニーズに対応した戦略を策定し、市場中長期展望を見据えたファンド開発を行いました。
2.チャネル特性に合わせたお客様向け情報コンテンツを充実したほか、お客様ニーズに応じたセミナーなどのリプロモーションの強化を行いました。
3.運用パフォーマンスの向上のために運用哲学の刷新をはじめ、運用体制・手法・プロセスの改善に努めたほか、エンゲージメント活動の強化、人材育成・強化に取り組みました。
4.大和証券オフィス投資法人を連結子会社化しました。大和リアル・エステート・アセット・マネジメントでは大和証券リビング投資法人、大和証券レジデンシャル・プライベート投資法人及び大和証券ロジスティクス・プライベート投資法人の運用残高拡大によって運用資産残高が増加しました。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高は前年度末比1,419億円増の1兆2,129億円となりました。
大和アセットマネジメントにおける公募株式投信及び公募公社債投信の運用資産残高は、資金純増の確保に加え相場の上昇も寄与し、主にETFの運用資産残高が増加し、前年度末比6.0兆円増の20.9兆円、うちETFの運用資産残高は前年度比4.4兆円増の11.8兆円となりました。大和アセットマネジメントの営業収益は前年度比6.0%減の659億円、経常利益は同6.5%減の146億円となりました。
不動産アセット・マネジメントでは、新規物件の取得や資産の入替を行い、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及び、前連結会計年度中に連結子会社化したサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高は1兆2,129億円となり、収益も増加しました。
その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比6.3%増の511億円、経常利益は同23.3%増の327億円となりました。アセット・マネジメント部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ11.0%及び25.5%でした。
[投資部門]
投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資、大和PIパートナーズ及び大和エナジー・インフラで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬です。
投資部門では以下の事業計画を実行しました。
1.新規産業の発掘・育成によるファンド・エコシステムへの貢献
2.アジアへの投資拡大
3.社会的意義のある投資対象の開拓
4.運用力の更なる進化による投資リターンの追求
各項目の実績は以下のとおりです。
1.大和企業投資では、新規に投資を実行したほか、顧客紹介など大和証券グループとの連携を推進し、投資先企業価値向上に向けたハンズオンを着実に遂行しました。
2.大和企業投資では現地パートナーと継続的な協議を実施し、新ファンドの設立を遂行しました。大和PIパートナーズでは東南アジア各国の企業への投資を実行しました。
3.大和エナジー・インフラでは新規に国内太陽光発電及び海外再生エネルギー事業に関連する投資を実行しました。
4.大和PIパートナーズでは、機会を逃さず投資を実現し、大和証券グループと連携した案件についても着実に遂行しました。大和エナジー・インフラでは投資案件のエグジットを行い、キャピタル・リサイクリングモデルの定着化を推進しました。
大和企業投資で投資先の上場などを通じた既存投資案件の回収を行ったほか、大和エナジー・インフラでインカムゲインに加えキャピタルゲインを計上しました。当連結会計年度における投資部門の純営業収益は前年度比83.9%増の46億円、経常損益は前年度8億円の経常損失から11億円の経常利益となりました。投資部門の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び経常利益に占める割合は、1.0%及び0.9%でした。
[その他]
その他の事業には、主に大和総研と大和総研ビジネス・イノベーションからなる大和総研グループによるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。
当連結会計年度において大和総研グループは以下の事業計画を実行しました。
1.ハイブリッド型総合証券グループのシンクタンクとして、グループ連携によるビジネス強化へ貢献
2.デジタル化により加速する社会の変化に対応した経済・金融における先見性の高い情報発信
3.お客様ビジネスの競争力強化へ貢献するソリューションの提供
4.先端技術の活用による「新たな価値」の創出を通じたビジネスの拡大
各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。
1.大和証券グループのテレワークへの移行支援や各種事務手続きのデジタル化などのソリューション提供を通じて、グループのデジタルトランスフォーメーションの推進に貢献すると共に、大和証券のお客様の関心が高いテーマのリサーチ、コンサルティングに注力しリレーション構築に寄与しました。
2.新型コロナウイルスによる経済状況の変化やSDGsをはじめ、世の中の関心が高まる気候変動問題、ゼロエミッションなど経済・社会の潮流を読んだ情報をタイムリーに発信しました。
3.オープンAPIに向けた認証基盤の構築や、パブリッククラウドを活用したソリューションの提供、外部企業との連携強化によるサービスの拡充などを行いました。
4.機械学習を用いたAIによる「株価予測モデルを用いて選定した銘柄情報」などのサービスを提供すると共に、データサイエンス・AI分野におけるソリューションの更なる拡大に向けて、先端技術の調査研究や高度IT人材の育成を目的とした組織を設置しました。
当連結会計年度において大和ネクスト銀行は以下の事業計画を実行しました。
1.証銀連携によるお客様本位の商品・サービス展開
2.グループ全体の将来的な収益基盤構築に向けた仕組み作り
3.市場環境の変化に即応可能なポートフォリオ運営
4.健全な利益の確保を通じた持続的成長
各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。
1.外貨預金において、業界トップ水準の金利を維持するとともに、大和証券と連携し、各種キャンペーンを実施しました。
2.株式会社CONNECTの開業に伴い、CONNECT専用口座の取り扱いを開始しました。
3.リスクヘッジに加え、金利上昇やクレジットスプレッドの拡大時に機動的に対応しました。
4.マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策の強化に向けた態勢を整備し、リスク管理のさらなる改善を行いました。
大和ネクスト銀行の当連結会計年度末の預金残高(譲渡性預金含む)は前年度比9.0%増の4.4兆円、銀行口座数は前年度比7.1%増の150万口座となりました。しかし、金利低下により金融収支の黒字幅が縮小した結果、当連結会計年度の業績は減収減益となりました。
またその他事業においても、世界的な金利低下により金融収支の黒字幅が縮小しました。
その結果、その他・調整等に係る純営業収益は255億円(前年度369億円)、経常損失は135億円(前年度経常利益1億円)となりました。
③ 目標とする経営指標の達成状況等
当社グループでは、2018年度から2020年度にかけての中期経営計画“Passion for the Best”2020において、お客様本位KPIとしてお客様満足度及び大和証券預り資産、業績KPIとして自己資本利益率(ROE)及び経常利益、財務KPIとして連結総自己資本規制比率を数値目標として掲げました。お客様満足度は「大和版NPS®(注)1」を中心とした指標を計測しており、お客様目線に立脚した営業体制の構築を進めました。
中期経営計画最終年となる当連結会計年度においては、業績KPIはROE10%以上目標に対し8.5%、連結経常利益2,000億円以上目標に対し1,151億円となりました。財務KPIの連結総自己資本規制比率は21.90%(注)2と、目標の18%以上を上回って推移しています。お客様本位KPIの大和証券預り資産は、好調な株式市場も後押しし、80兆円以上とする目標には達しなかったものの、過去最高の75.3兆円となりました。
2020年度は、新型コロナウイルス感染症により市場が混乱する中においても、「お客様第一の業務運営」のクオリティを追求すると共に、新規ビジネス領域と伝統的な証券業との融合による「新たな価値」の創出及び拡大に向けた挑戦を続け、一定の成果を得た1年でありました。また、DX推進によるお客様への機動的な対応、ニューノーマル時代における柔軟な働き方の実現に向けたインフラ整備を進め、新たな時代への礎を築いた枢要な年でありました。経営戦略の根底に取り入れたSDGsへの取組み推進においても、コロナ禍を契機としたサステナブルファイナンスへの関心の一層の高まりを受け、当社グループにおいても社内体制の更なる強化を行い、グリーンボンド及びソーシャルボンド等をはじめとしたSDGs債の引受け実績を積み上げる等、着実な進捗があったと評価しております。
(注)1 NPS®:Net Promoter Scoreの略であり、お客様のロイヤルティを数値化する指標。なお、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
(注)2 連結総自己資本規制比率には有価証券報告書提出日における速報値を記載しており、確定値は算出完了次第、当社ホームページにて公表する予定です。
④ 経営成績の前提となる2020年度のマクロ経済環境
<海外の状況>世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大を主な要因として、2020年前半に急激に悪化しましたが、2020年後半以降は総じて持ち直しの動きが見られています。IMF(国際通貨基金)が2021年4月に公表した世界経済見通しによれば、2020年は先進国、新興国ともにマイナス成長に転じ、世界経済成長率は△3.3%とリーマン・ショック時を上回る大幅なマイナス成長となる一方、2021年は前年の落ち込みからの反動もあり+6.0%と高い成長が見込まれています。もっとも、最悪期を脱した2020年後半以降も、世界経済は新型コロナウイルスの感染状況によって左右される状況が続いており、引き続き非常に不安定な状態が続いています。
米国経済は、新型コロナウイルスの感染者数の急増を受けて2020年前半に急速に悪化しましたが、その後は持ち直しの動きが続いています。2020年3月半ばに当時のトランプ大統領が緊急事態を宣言し、小売店や飲食店、娯楽施設などの営業規制や外出制限を実施したことによって、外食や娯楽関連など不要不急のサービスを中心に個人消費が急減しました。これにより、2020年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率△5.0%と6年ぶりのマイナス成長となり、続く4-6月期の実質GDP成長率は同△31.4%と、1947年の現行統計開始以来最大のマイナス幅を記録しました。しかし、営業規制・外出制限の段階的な解除に伴い経済活動が再開されたことに加え、政府による経済対策が下支えとなり、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+33.4%と大幅なプラスに転じました。10-12月期に入ると新型コロナウイルスの新規感染者数が大幅に増加する中、一部の州・地域で営業規制・外出制限が再び導入され、実質GDP成長率は前期比年率+4.3%と、経済の回復ペースは大幅に鈍化しました。しかし、2021年に入って新型コロナウイルスワクチンの接種が順調に進む中、政府による行動規制の緩和が進んだことに加え、2020年12月、および2021年3月に成立した追加経済対策の効果もあり、2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.4%と再加速しました。
金融面では、FRB(連邦準備制度理事会)が積極的な金融緩和を行いました。新型コロナウイルス感染症の影響によって経済が急激に悪化したことを受け、FRBは2020年3月に2度の緊急利下げを実施し、2015年12月以来となる実質的なゼロ金利政策を復活させました。また、量的緩和の拡大も決定し、FRBのバランスシートは大幅に拡大しています。12月のFOMCでは、経済が十分に回復するまでFRBのバランスシートの拡大を続けることが約束されたことに加え、2021年3月時点では少なくとも2023年末まで政策金利がゼロで据え置かれる見通しが示され、緩和的な金融環境を長期にわたって維持する方針が引き続き示されています。
欧州経済(ユーロ圏経済)は、新型コロナウイルス感染症の影響が長引く中、厳しい状況が続いています。ユーロ圏でも多くの国が2020年3月半ばからロックダウンに踏み切ったことにより、個人消費や生産など、幅広い分野で経済が大きく落ち込み、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率△14.2%と大幅なマイナスとなりました。また、4-6月期には同△38.8%とさらにマイナス幅が拡大し、2四半期連続で統計開始以降の最悪値を更新しました。その後、早い国では4月半ばから、遅い国でも5月以降はロックダウンを緩和したことで、5月以降、ユーロ圏経済は持ち直しに転じ、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+60.3%とプラスに転じました。しかし、新型コロナウイルスの感染者数が再び増加に転じたことを受け、ドイツ、フランスなど、多くの国で再びロックダウンを余儀なくされ、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率△2.7%、続く2021年1-3月期も同△2.5%と2四半期連続のマイナス成長となり、一時的に持ち直していた欧州経済は再び悪化しました。
金融面では、ECB(欧州中央銀行)による金融緩和が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大による急激な景気悪化を受けて、ECBは2020年3月の緊急会合で、新型コロナウイルス感染症対応のための新規の資産買い取りプログラムを設定し、量的緩和策の拡大を決定しました。その後、6月、12月には資産の買い取り枠が拡大されたほか、当初は2020年末までとされていた買い入れ期間も、12月に「少なくとも2022年3月まで」延長されるなど、金融緩和策が強化されました。新興市場国・発展途上国経済は、先進国と同様に2020年前半に急激に悪化した後、2020年後半以降持ち直しの動きが続いています。IMFによれば、新興国の実質GDP成長率は2020年に△2.2%とマイナス成長に陥った後、2021年は+6.7%と高い成長が見込まれています。
新興国のうち、世界第2位の経済規模を持つ中国では、2020年1-3月期には新型コロナウイルス感染症によって経済活動の停止を余儀なくされ、実質GDP成長率は前年同期比△6.8%と、1992年に四半期ベースの統計が開始されて以降、初めてのマイナス成長となりました。しかし、他国に先んじて新型コロナウイルスの感染が収束へ向かったこともあり、4-6月期以降は着実に経済が持ち直しています。4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.2%と、新型コロナウイルスの感染拡大以前に比べると成長率は小幅ながらプラス成長へと転じ、政策による下支えを背景とした投資の回復を主な要因として、7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%とプラス幅が拡大しました。また、10-12月期以降も、世界の多くの地域で感染再拡大によって経済活動が制限されたのとは対照的に、中国国内での感染拡大は抑制された状況が続き、10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.5%、2021年1-3月期は同+18.3%と成長ペースが加速しました。
中国以外の新興国についても、2020年後半以降持ち直しの動きが続いています。2020年前半は、新興国でも新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために経済活動を制限せざるを得ない状況になったことに加えて、世界的な景気悪化を受けた資金流出や、資源価格の低迷などが、新興国経済を下押しする要因となりました。一方、2020年後半からは、米国や中国を中心とした海外経済の回復や、世界的な金融緩和を背景とした資金流入が新興国経済を下支えしています。ただし、新興国ではワクチン接種の実施が遅れている国が多く、感染再拡大による経済の下振れリスクが高い状況が続いています。
<日本の状況>日本経済は、2020年初めから新型コロナウイルス感染症の影響によって大幅に悪化した後、2020年後半に一時持ち直しに転じたものの、感染再拡大によって2021年に入り再び回復が足踏みしています。
日本の実質GDP成長率は、消費増税に伴う反動減があった2019年10-12月期から3四半期連続でマイナス成長となり、特に新型コロナウイルス感染症の影響が本格的に顕在化した2020年4-6月期は前期比年率△28.6%と、戦後最大のマイナス幅を記録しました。その後、緊急事態宣言が全面解除された5月下旬以降、社会経済活動が徐々に再開されたことで日本経済は持ち直しに転じ、7-9月期の実質GDPは前期比年率+22.9%と大幅な回復を見せました。また、10-12月期も政策による下支えなどを背景に、前期比+11.7%と持ち直しが続きました。しかし、感染再拡大に伴う緊急事態宣言の再発出による個人消費の低迷を主因に、2021年1-3月期は前期比年率△3.9%と再びマイナス成長に転じ、実質GDPは新型コロナウイルスの感染拡大前を下回る水準での推移が続いています。2020年度の実質GDP成長率は前年比△4.6%と、2年連続のマイナス成長となりました。
需要項目ごとに見ると、個人消費は低い水準での推移が続いています。2020年1-3月期は、2019年10月に実施された消費増税による落ち込みからの持ち直しが期待されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による自粛の動きによって、外食などをはじめとする不要不急のサービス消費を中心に減少しました。さらに、個人消費を手控える動きは2020年4月7日の緊急事態宣言によって加速し、個人消費は大幅に減少することとなりました。その後、5月下旬に緊急事態宣言が全面解除されたことに加えて、特定定額給付金などの経済対策による下支えなどから、個人消費は持ち直しへと向かいました。しかし、感染拡大への懸念が強い状況が続く中、対面や移動を伴う接触型サービスの回復は緩やかなものとなり、緊急事態宣言の再発出により2021年に入って再び個人消費は悪化することとなりました。住宅投資については、消費増税に伴う反動減があった2019年10-12月期から2020年7-9月期にかけて減少し、その後は横ばい圏で推移しました。コロナ禍に伴う販売の低迷や建設の遅れに加えて、雇用環境の悪化や先行きに対する不透明感が、住宅投資の下押し要因となりました。
企業部門の需要である設備投資についても、新型コロナウイルス感染症の影響による収益環境の急速な悪化をうけて、2020年4-6月期から7-9月期にかけて減少傾向となりました。経済活動の再開が進む中で収益の悪化に歯止めがかかったことや、輸出の持ち直しを受けて2020年10-12月期は一時持ち直しの動きも見られましたが、緊急事態宣言の再発出によって2021年1-3月期には再び減少に転じました。日銀短観(2021年3月調査)によれば、2021年度の設備投資計画(含む土地投資額)は、前年比+0.5%の増加が見込まれています。もっとも、新型コロナウイルスの影響を強く受けた業種などでは、引き続き設備投資に対して慎重であり、全体の回復ペースは緩やかなものにとどまっています。
金融面では、日本銀行による短期金利に加えて長期金利も操作対象とする金融緩和措置が継続しています。日本銀行は、新型コロナウイルスの感染拡大による急激な景気の悪化を受けて、2020年4月に、国債の購入額の上限を撤廃したほか、社債などの買い入れ枠を拡大するなど、量的緩和を強化しました。日本銀行による追加緩和策を受けて、日本の10年国債利回りは2020年4月に一時△0.04%台まで低下しました。世界的に経済活動再開の動きが広まる中で、5月末にはプラス圏を回復しつつも、2020年末頃までゼロ%近傍と非常に低い水準で安定的に推移しました。しかし、2021年に入って、景気過熱や財政悪化への懸念から米国の長期金利が上昇したのに伴い日本の長期金利も小幅ながら上昇し、2月末には一時、2018年10月以来初めて0.15%を上回りました。
為替市場をみると、対ドルでは2020年4月から2020年末にかけては、総じて円高傾向で推移しました。世界的に経済活動再開への期待が高まった6月前半には、リスク回避の動きが弱まり、一時109円台まで円安が進みましたが、6月後半以降は、米国で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、FRBによる追加金融緩和への期待感が強まったことなどから円高傾向に転じ、11月には2020年3月以来の103円台まで円高が進みました。しかし、2021年に入ると、経済対策による米国経済回復への期待感の高まりや米国での金利上昇を受け、それまでの円高傾向から一転して、3月末にかけて円安が進行しました。対ユーロについては、世界経済が急激に悪化し、リスク回避の動きが強まった4月から5月前半までは、対ドルと同様に円高傾向で推移しました。しかし、5月後半には欧州の景気回復期待から円安傾向へと転じ、さらにEU27カ国による復興基金案の合意を受けて、7月以降は円安が進行しました。欧州での新型コロナウイルスの感染再拡大などを懸念して、一時円高が進む局面もありましたが、ワクチン普及に伴う行動制限の緩和による欧州経済の回復期待から、年度末にかけて一層の円安が進みました。
株式市場は、2020年度に入って以降、総じて上昇基調で推移しました。新型コロナウイルスの感染拡大をうけて世界的に金融緩和が強化されたことによる低金利や、量的緩和拡大による需給の改善が株価を押し上げる要因となりました。また、2020年後半以降は、ワクチンの世界的な普及や、経済対策を背景とした米国経済の力強い回復への期待感が株価の押し上げ要因となり、2021年2月、日経平均株価は一時、1990年8月以来となる30,000円台まで上昇しました。
2021年3月末の日経平均株価は29,178円80銭(前年3月末比10,261円79銭高)、10年国債利回りは0.104%(同0.073ポイントの上昇)、為替は1ドル110円74銭(同2円32銭の円安)となりました。
(4)当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析
① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
2020年3月期2021年3月期
営業活動によるキャッシュ・フロー167,190390,979
投資活動によるキャッシュ・フロー△215,397△91,641
財務活動によるキャッシュ・フロー△135,794438,067
現金及び現金同等物に係る換算差額△4,9506,796
現金及び現金同等物の増減額(△は減少)△188,952744,201
現金及び現金同等物の期首残高4,122,1023,933,149
現金及び現金同等物の期末残高3,933,1494,723,526

当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減、トレーディング商品の増減、短期差入保証金の増減などにより、3,909億円(前年度は1,671億円)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の取得による支出、投資有価証券の取得による支出などにより、△916億円(同△2,153億円)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増減などにより、4,380億円(同△1,357億円)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比7,903億円増加の4兆7,235億円となりました。
② 資本の財源及び流動性に係る情報
(ⅰ)流動性の管理
<財務の効率性と安定性の両立>当社グループは、多くの資産及び負債を用いる有価証券関連業務や、投融資業務を行っており、これらのビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。
当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。
財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めると同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。
当社は、平成26年金融庁告示第61号による連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」という。)の最低基準の遵守が求められております。当社の当第4四半期日次平均のLCRは161.2%となっており、上記金融庁告示による要件を満たしております。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。
当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。
(単位:億円)
日次平均
(自 2021年1月
至 2021年3月)
適格流動資産(A)27,608
資金流出額(B)35,385
資金流入額(C)18,261
連結流動性カバレッジ比率(LCR)
算入可能適格流動資産の合計額(D)27,608
純資金流出額(E)17,124
連結流動性カバレッジ比率(D)/(E)161.2%

<グループ全体の資金管理>当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社グループ固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。
<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。
当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。
また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。
なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。
(ⅱ)株主資本
当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開し、ハイブリッド型総合証券グループとしての新たな価値の提供に資する投融資を行うためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。
当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比798億円増加し、1兆2,821億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,780億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益1,083億円を計上したほか、配当金304億円の支払いを行った結果、前連結会計年度末比772億円増加の9,117億円となりました。自己株式の控除額は同27億円減少し、1,076億円となっております。
③ 財務戦略
当社グループの財務戦略の基本は、成長投資、資本効率性、財務健全性及び株主還元の最適なバランスを図り、健全な利益の確保を通じた持続的成長を実現することです。
持続的な成長の実現に際しては、規制ならびに制度対応と適正な自己資本水準を維持することを重視しております。強固な財務基盤を堅持するため、財務KPIとして連結総自己資本規制比率を採用しております。同比率については、今後のバーゼル規制の最終化による影響と過去の金融危機時のストレス・シナリオにも耐えうる資本のバッファーを加味し、18%を最低水準と設定しております。2019年度には規制上その他Tier1資本に係る基礎項目として取り扱われる、当社として初めての無担保永久社債(債務免除特約および劣後特約付)を2本立てで計1,500億円発行し、財務基盤の拡充を図りました。
成長投資に関しましては、当連結会計年度も既存事業の競争力強化のための投資や事業ポートフォリオ多様化のための出資などを数多く実行いたしました。その結果、財務KPIとして設定している連結総自己資本規制比率は18%を上回っており、今後も継続的な成長投資を行うための十分な資本余力を有しております。このため、証券ビジネスの顧客基盤拡大に向けた投資やハイブリッド型総合証券グループとしてコアビジネスと親和性のある周辺領域への投資は今後も常に検討してまいります。
株主還元策については「第4提出会社の状況 3配当政策」に記載のとおりです。
当社の資金調達の方法については、「② 資本の財源及び流動性に係る情報」に記載しております。