有価証券報告書-第83期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/26 15:18
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186項目
本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められた会計基準に基づき作成されております。また、当社は、連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針に基づいていくつかの重要な見積もりを行っており、これらの見積もりは一定の条件や仮定を前提としております。そのため、条件や仮定が変化した場合には、実際の結果が見積もりと異なることがあり、結果として連結財務諸表に重要な影響を与える場合があります。重要な会計方針のうち、特に重要と考える項目は、次の4項目です。
① トレーディング商品の評価
当社グループでは、トレーディング商品に属する有価証券及びデリバティブ取引は、時価をもって連結貸借対照表価額とし、評価損益はトレーディング損益として連結損益計算書に計上しております。
時価測定に用いた評価技法及びインプットの詳細は以下のとおりであります。これらは、市場参加者が商品を評価するときに考慮するであろう当社グループによる仮定及び見積りを含んでおります。
(ⅰ) 商品有価証券等
主に同一又は類似の商品に関する市場価格を用いております。また、特定の負債性金融商品及び資産担保証券については、デリバティブ取引に準じた評価技法もしくは、ディスカウント・キャッシュ・フロー・モデルにより時価を測定しております。
(ⅱ) デリバティブ
上場デリバティブについては原則として市場価格を、店頭デリバティブについては、評価技法により理論価格を算定しております。
デリバティブ取引の理論価格には、信用リスク及び流動性リスクを考慮した調整が含まれており、時価測定においては、市場で一般に用いられるリスク中立測度の仮定のもとでの期待キャッシュ・フローの現在価値を、主に数値積分法、有限差分法及びモンテカルロ法による価格算定モデルにより算定しております。
価格算定モデルには、金利、為替レート、株価、ボラティリティ、相関係数などの様々なインプットがあります。また、市場で観察可能でないインプットとしては、相関係数、長期のボラティリティ、長期のクレジット・スプレッドなどがあります。
価格算定モデルの選択及びその価格算定モデルに投入するインプットの決定、信用リスク及び流動性リスクにかかる評価調整には見積り及び前提を含んでおり、特に、市場で観察可能でないインプットを使用する場合には、その見積り及び前提は、トレーディング商品の評価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
算定に用いたインプットを含め、価格算定モデルは社内における指針に基づいて承認され、価格算定モデルの開発部署から独立した部署が、モデル内の仮定及び技法、算定に用いたインプットについて検証を行っております。また、価格算定モデルを観察可能な市場情報や代替可能なモデルとの比較分析等により、市場動向に合わせて調整する体制を構築しております。
経営者は、時価測定に用いられた前提は合理的であると考えております。しかしながら、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来キャッシュ・フローや時価の下落を引き起こすような見積りの変化が、評価金額に不利に影響し、結果として、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。
② 有価証券の評価
当社グループでは、投資有価証券、営業投資有価証券等のトレーディング商品に属さない有価証券を保有しております。
(ⅰ) 投資有価証券
時価のあるものについては、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、減損処理を行っております。具体的には、当連結会計年度末における時価の下落率が取得原価の50%以上の場合は、著しい下落かつ回復する見込みがないものと判断して、減損処理を行っております。時価の下落率が取得原価の30%以上50%未満の場合は、時価の推移及び発行会社の財政状態等を総合的に勘案して回復する見込みを検討し、回復する見込みがないと判断したものについては、減損処理を行っております。時価を把握することが極めて困難と認められるものについては、実質価額が著しく低下し、かつ、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。
(ⅱ) 営業投資有価証券
営業投資有価証券は、投資部門における非上場株式、金銭債権、国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等により構成されております。
営業投資有価証券の評価については、その評価額に基づき実質価額を見積もり、その実質価額が帳簿価額を下回り、損失発生の可能性が高い場合には投資損失引当金を計上しております。さらに、実質価額が帳簿価額に比して50%以上下落し、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられない場合には、減損処理を行っております。実質価額の算定の前提となる当社の財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。
1) 非上場株式
株式の評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、類似取引事例との比較などにより算定しております。
2) 金銭債権
主に担保不動産の評価に基づいて評価額を算定しております。簿価が一定額以上の債権については外部専門家による不動産鑑定評価をもとに評価額を算定しております。事業からの返済を中心とした簿価が一定額以上の債権については、財政状態等をもとに個別評価しております。
また、回収期間が一定年数を経過した債権については、過去の回収実績に基づき経過年数に応じて引当金を計上しております。
3)国内外の再生可能エネルギー、インフラストラクチャーへの投資等
評価額は、投資先の事業計画等をもとにした将来キャッシュ・フロー、財政状態などにより算定しております。
これらの評価額の測定には経営者が妥当と判断する見積り及び前提を使用しており、これらの見積り及び前提は、減損損失又は投資損失引当金の計上の要否の判断及び認識される損失金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
経営者は、実質価額の見積りに用いられた前提は合理的であると判断しております。ただし、これらの見積りには不確実性が含まれているため、将来の予測不能な前提条件の変化などにより、これらの評価に関する見積りが変化した場合には、結果として将来において当社及び連結子会社が減損処理又は投資損失引当金の計上を行う可能性があります。
③ 固定資産の減損
当社グループでは、各資産グループにおいて、収益性が著しく低下した資産については、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。なお、資産のグルーピングは、継続使用資産のうち、証券店舗等の個別性の強い資産については個別物件単位で行い、その他の事業用資産については管理会計上の区分に従って行っております。
④ 繰延税金資産の状況
(ⅰ)繰延税金資産の算入根拠
当社グループでは、会計基準に従い、税務上の繰越欠損金や企業会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差額である一時差異について税効果会計を適用し、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しております。繰延税金資産の回収可能性については、将来の合理的な見積可能期間における課税所得の見積額を限度として、当該期間における一時差異等のスケジューリングの結果に基づき判断しております。
(ⅱ)過去5年間の課税所得(繰越欠損金使用前の各年度の実績値)
(単位:百万円)
回次第78期第79期第80期第81期第82期
決算年月2015年3月2016年3月2017年3月2018年3月2019年3月
連結納税グループの課税所得△19,26289,19031,97397,46774,613

注) 提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの所得を記載しております。また、記載した課税所得は法人
税確定申告書上の繰越欠損金控除前の数値であり、その後の変動は反映されておりません。
なお、当連結会計年度末に係る連結貸借対照表上の繰延税金資産171億円のうち、提出会社を親会社とする連結納税会社の計上額合計は151億円であります。
(ⅲ)見積りの前提とした税引前当期純利益の見込額
提出会社を連結納税親会社とする連結納税グループの課税所得見積期間を3年とし、同期間の税引前当期純利益を1,708億円と見積もっております。
(ⅳ)繰延税金資産・負債の主な発生原因
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 税効果会計関係 1」に記載のとおりであります。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済情勢や相場環境の悪化及び外出自粛に伴う経済、企業活動の停滞・悪化は、現時点においてはこれらの見積りに重大な影響を及ぼしておりませんが、今後、入手可能となる情報等により新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化し、会計上の見積りに用いられた前提条件に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループにおきましては、投資事業における保有資産の評価に関する見積りの変化による減損又は評価損の計上、不動産アセットマネジメント事業における資産の稼働率低下による財務内容悪化懸念などの可能性があります。
(2) 当連結会計年度の財政状態の分析
<資産の部>当連結会計年度末の総資産は前年度末比2兆6,953億円(12.8%)増加の23兆8,220億円となりました。内訳は流動資産が同2兆4,410億円(12.0%)増加の22兆8,466億円であり、このうち現金・預金が同1,887億円(4.5%)減少の3兆9,645億円、トレーディング商品が同1兆3,112億円(19.5%)増加の8兆272億円、営業貸付金が同2,036億円(13.0%)増加の1兆7,684億円、有価証券担保貸付金が同7,119億円(11.9%)増加の6兆6,857億円となっております。固定資産は同2,543億円(35.3%)増加の9,754億円となっております。
<負債の部・純資産の部>負債合計は前年度末比2兆6,940億円(13.6%)増加の22兆5,643億円となりました。内訳は流動負債が同2兆8,367億円(16.6%)増加の19兆9,187億円であり、このうちトレーディング商品が同6,144億円(12.9%)増加の5兆3,622億円、約定見返勘定が同2,888億円(112.9%)増加の5,446億円、有価証券担保借入金が同1兆2,507億円(21.0%)増加の7兆1,987億円、銀行業における預金が同4,046億円(11.1%)増加の4兆372億円となっております。固定負債は同1,426億円(5.1%)減少の2兆6,416億円であり、このうち社債が同173億円(1.3%)増加の1兆3,792億円、長期借入金が同1,535億円(11.5%)減少の1兆1,832億円となっております。
純資産合計は同13億円(0.1%)増加の1兆2,577億円となりました。資本金及び資本剰余金の合計は4,782億円となりました。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益を603億円計上したほか、配当金311億円の支払いを行ったこと等により、同286億円(3.6%)増加の8,344億円となっております。自己株式の控除額は同230億円(26.4%)増加の1,103億円、その他有価証券評価差額金は同208億円(43.7%)減少の268億円、為替換算調整勘定は同114億円減少の△55億円、非支配株主持分は12倍の388億円となっております。
(3) 当連結会計年度の経営成績の分析
① 事業全体の状況
当連結会計年度の営業収益は前年度比6.7%減の6,722億円、純営業収益は同3.4%減の4,262億円となりました。
受入手数料は2,665億円と、同5.8%の減収となりました。委託手数料は、株式取引が減少したことにより、同3.1%減の565億円となりました。引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、複数の大型エクイティ引受案件等が貢献した前年度から減収となり、同28.7%減の298億円となりました。
トレーディング損益は、米州における債券収益が好調だったこと等から、同1.7%増の938億円となりました。
販売費・一般管理費は同0.5%減の3,719億円となりました。取引関係費は投信販売会社への支払手数料等の減少により同4.2%減の688億円、人件費は国内の賞与が減少したこと等により同0.8%減の1,840億円、減価償却費はシステムの更改や、海外子会社における新リース基準の適用により同21.6%増の308億円となっております。
以上より、経常利益は同15.5%減の702億円となりました。
また、大和住銀投信投資顧問株式会社の三井住友アセットマネジメント株式会社との合併に伴う持分変動利益や投資有価証券売却益等を計上したことにより特別利益が374億円(前年度143億円)、収支構造の改善に向けた構造改革関連費用や時価の下落による投資有価証券評価損等の計上により特別損失が229億円(前年度23億円)となり、法人税等及び非支配株主に帰属する当期純利益を差し引いた結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比5.4%減の603億円となりました。
② セグメント情報に記載された区分ごとの状況
純営業収益及び経常利益をセグメント別に分析した状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
純営業収益経常利益又は経常損失(△)
2019年
3月期
2020年
3月期
対前年同期
増減率
構成比率2019年
3月期
2020年
3月期
対前年同期
増減率
構成比率
リテール部門185,865166,430△10.5%39.0%24,6746,405△74.0%9.0%
ホールセール部門158,903172,2898.4%40.4%25,40038,03449.7%53.4%
グローバル・マーケッツ107,232121,30113.1%28.5%17,17928,19164.1%39.6%
グローバル・インベストメント
・バンキング
51,67050,988△1.3%12.0%7,2879,33028.0%13.1%
アセット・マネジメント部門48,23248,091△0.3%11.3%28,35926,580△6.3%37.4%
投資部門1,7662,50241.7%0.6%△1,093△877--
その他・調整等46,47336,943-8.7%5,817140-0.2%
連結 計441,240426,259△3.4%100.0%83,15970,283△15.5%100.0%

[リテール部門]
リテール部門の主な収益源は、国内の個人投資家及び未上場会社のお客様の資産管理・運用に関する商品・サービスの手数料であり、経営成績に重要な影響を与える要因には、お客様動向を左右する国内外の金融市場及び経済環境の状況に加え、お客様のニーズに合った商品の開発状況や引受け状況及び販売戦略が挙げられます。
当連結会計年度においては、以下の事業計画に沿って活動を行いました。
1. お客様満足に立脚した営業体制の構築
2. お客様のあらゆるニーズに応える、属性に応じた最適なサービス・ソリューションの提供
3. 収益基盤の持続的な拡大
4. 外部チャネル・外部リソースを活用したビジネス展開
各項目の実績は以下のとおりです。
1. 大和版NPS®(注)の定着に向けた本部・営業店のPDCAサイクルを確立し、お客様の理解を深めるためのオペレーションの整備、営業支援ツールの拡充を行いました。また営業体制において上席者のコーチング力・ソリューション提供力の強化を行いました。
2. 非対面チャネルでの問合せ・相談機能の提供を強化、営業員のサポート体制を強化するなどサービス品質の向上に努めるとともに、相続ビジネス拡大に向け家族信託を導入、富裕層向けアジアPBサービスの強化を行うなど、商品・ソリューションを拡充しました。
3. 多様なニーズに対応した各種ラップ口座サービスを活用した中長期目線での収益基盤の構築を進めました。ラップ口座サービスにおける資産純増は堅調に推移しました。
4. 外部提携先の獲得に向けた提案・外部提携先のサポート体制構築を進めました。
米中貿易問題への懸念や新型コロナウイルスの感染拡大等により株式相場の変動が大きかったことを背景に、収益環境としては、不透明感への懸念等から年間を通じての個人投資家のアクティビティが低調であり、株式の取引及び投資信託の販売が減少し、エクイティ収益・投信募集手数料が減少しました。新型コロナウイルス感染症の影響で3月に株式相場が急落した際には、一時的に新規口座の開設や資産導入の増加も見られましたが、当連結会計年度の業績への影響は限定的でした。
当連結会計年度のリテール部門における純営業収益は前年度比10.5%減の1,664億円、経常利益は同74.0%減の64億円となりました。リテール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ39.0%及び9.0%でした。
(注)NPS®:Net Promoter Scoreの略であり、お客様のロイヤルティを数値化する指標。なお、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
[ホールセール部門]
ホールセール部門は、機関投資家等を対象に有価証券のセールス及びトレーディングを行うグローバル・マーケッツと、事業法人、金融法人等が発行する有価証券の引受けやM&Aのアドバイザリー業務を行うグローバル・インベストメント・バンキングによって構成されます。グローバル・マーケッツの主な収益源は、機関投資家に対する有価証券の売買に伴って得る顧客フロー収益及びトレーディング収益です。グローバル・インベストメント・バンキングの主な収益源は、引受業務やM&Aアドバイザリー業務によって得る引受け・売出し手数料とM&A手数料です。グローバル・マーケッツにおいては、地政学リスクや国際的な経済状況等で変化する市場の動向や、それに伴う顧客フローの変化が、経営成績に重要な影響を与える要因となります。グローバル・インベストメント・バンキングにおいては、顧客企業の資金調達手段の決定やM&Aの需要を左右する国内外の経済環境等に加え、当社が企業の需要を捉え、案件を獲得できるかどうかが経営成績に重要な影響を与える要因となります。
ホールセール部門として以下の事業計画を実行しました。
1. 企業の高付加価値化を促進
2. お客様ニーズを捉えたプロダクト・サービスの提供
3. 事業構造や日本の産業構造転換を支援
4. アジアのリージョナル・ブローカーとしての汎アジアビジネスサポート
各項目の実績は、以下のとおりです。
1~3. M&Aビジネスへの取組みとしてミッドキャップの海外クロスボーダー案件獲得に努めました。IPOビジネスへの取組みとしてはDaiwa Innovation Networkを開催するなどスタートアップ企業の発掘・育成を推進しました。その他、大型ファイナンス案件獲得に取り組みました。
4. 国内外のリサーチ力強化に注力した結果、日経ヴェリタスのアナリストランキング2020で会社別1位を2年連続で獲得したほか、Institutional Investorsの2020 Institutional Investor All-Japan Research Teamでも1位を獲得しました。またリテール部門のお客様に向けた外国株式の情報提供拡充の結果、外国株式の残高が増加、ミドル法人顧客開拓に向けたオーダーメイド型商品を拡充した結果、新規顧客の開拓に繋がりました。
グローバル・マーケッツのエクイティ収益は、世界経済の先行き不透明感が続き顧客フローが低下したことにより減収となりました。フィクスト・インカム収益は、特に米州で金融市場緩和政策の影響もあり主要プロダクトの顧客フローが増加し、増収となりました。その結果、当連結会計年度の純営業収益は前年度比13.1%増の1,213億円、経常利益は同64.1%増の281億円となりました。
グローバル・インベストメント・バンキングのエクイティ引受けでは、複数の大型エクイティ募集・売出し案件でJGC(ジョイント・グローバル・コーディネーター)や主幹事を務めた前年度比で、当連結会計年度の引受け・売出し手数料は、28.7%減の298億円となりました。M&Aビジネスにおいては、オランダに拠点を持つ再生可能エネルギー分野のアドバイザリーに強みを持つGreen Giraffeに出資し、グローバルネットワークのさらなる拡充を図り、また各海外拠点との連携をより強化しており、M&A関連手数料は前年度比26.8%増の289億円となりました。なお、第4四半期には新型コロナウイルスの感染拡大により進捗に影響のあった案件もありましたが、連結業績に対する影響は限定的でした。これらの結果、グローバル・インベストメント・バンキングの当連結会計年度の純営業収益は前年度比1.3%減の509億円となりましたが、経常利益は同28.0%増の93億円となりました。
当連結会計年度のホールセール部門における純営業収益は前年度比8.4%増の1,722億円、経常利益は同49.7%増の380億円となりました。ホールセール部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ40.4%及び53.4%でした。
[アセット・マネジメント部門]
アセット・マネジメント部門の収益は、主に当社連結子会社の大和証券投資信託委託(現大和アセットマネジメント)における投資信託の組成と運用に関する報酬と、連結子会社の大和リアル・エステート・アセット・マネジメントの不動産運用収益によって構成されます。また、当社持分法適用関連会社である三井住友DSアセットマネジメントの投資信託の組成と運用及び投資顧問業務に関する報酬からの利益及び同じく持分法適用関連会社である大和証券オフィス投資法人の不動産運用収益からの利益は、それぞれ当社の持分割合に従って経常利益に計上されます。経営成績に重要な影響を与える要因としては、マーケット環境によって変動するお客様の投資信託及び投資顧問サービスへの需要と、マーケット環境に対するファンドの運用パフォーマンスや、お客様の関心を捉えたテーマ性のある商品開発等による商品自体の訴求性が挙げられます。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及び大和証券オフィス投資法人の経営成績は、国内の不動産市場・オフィス需要の動向の影響を受けます。
当連結会計年度において、アセット・マネジメント部門は以下の事業計画を実行しました。
1. 運用力の強化・向上によるお客様利益の追求
2. 幅広いお客様ニーズを捉えた商品開発力の強化
3. お客様の資産運用に資する商品拡充及び情報発信・サポート力の強化
4. 不動産を中心としたオルタナティブ投資商品の拡大
各項目の実績は以下のとおりです。
1. 大和証券投資信託委託では運用パフォーマンスの向上のために運用体制・手法・プロセスの改善に努めたほか、エンゲージメント活動の強化、人材育成・強化に取り組みました。
2. 大和証券投資信託委託では各販売会社のお客様ニーズに対応した戦略を策定し、市場中長期展望を見据えたファンド開発を行いました。
3. お客様向け情報コンテンツを充実したほか、お客様ニーズに応じたセミナー及び販売用資料の拡充を行いました。スマートフォン向けアプリやオウンドメディアも活用し、わかりやすい情報の提供に努めました。
4. サムティ・レジデンシャル投資法人を連結子会社化しました。大和リアル・エステート・アセット・マネジメントでは大和証券ホテル・プライベート投資法人の運用残高拡大及び大和証券ロジスティクス・プライベート投資法人の運用開始によって運用資産残高が増加しました。大和リアル・エステート・アセット・マネジメント及びサムティ・レジデンシャル投資法人の2社を合わせた運用資産残高は前年度末比682億円増の1兆693億円となりました。
大和証券投資信託委託における公募株式投信及び公募公社債投信の運用資産残高は前年度末比1.1兆円減の14.9兆円となり、委託者報酬が減少したこと等により、営業収益は前年度比8.6%減の701億円、経常利益は同7.9%減の156億円となりました。第4四半期には株式市況が下落したことで公募株式投信の運用資産残高が減少し、前年度比6億円の減収となりましたが、当連結会計年度を通しての新型コロナウイルス感染症の影響は限定的です。
その結果、当連結会計年度のアセット・マネジメント部門の純営業収益は前年度比0.3%減の480億円、経常利益は同6.3%減の265億円となりました。アセット・マネジメント部門の当連結会計年度の純営業収益及び経常利益のグループ全体の連結純営業収益及び連結経常利益に占める割合は、それぞれ11.3%及び37.4%でした。
[投資部門]
投資部門は主に、連結子会社である大和企業投資、大和PIパートナーズ及び大和エナジー・インフラで構成されます。投資部門の主な収益源は、投資先の新規上場(IPO)・M&A等による売却益や、投資事業組合への出資を通じたキャピタルゲインのほか、契約に基づきファンドから受領する、管理運営に対する管理報酬や投資成果に応じた成功報酬です。
投資部門では以下の事業計画を実行しました。
1. 新規産業の発掘・育成によるファンド・エコシステムへの貢献
2. アジアへの投資拡大
3. 社会的意義のある投資対象の開拓
4. 運用力の更なる進化による投資リターンの追求
各項目の実績は以下のとおりです。
1. 大和企業投資では、新規に投資を実行したほか、顧客紹介など大和証券グループ協働による投資先へのハンズオンの着実な遂行を行いました。
2. 大和企業投資では後継ファンド・新ファンド設立に向けた現地パートナーとの継続的な協議を実施しました。大和PIパートナーズでは東南アジア各国の企業への投資を実行しました。
3. 大和エナジー・インフラの投資残高は前年度末比500億円増加し、810億円となりました。
4. 大和企業投資では、M&A関連事業会社と連携し、エグジット準備体制を強化しました。大和エナジー・インフラでは投資案件のエグジットを行い、キャピタル・リサイクリングモデル構築を推進しました。
大和PIパートナーズにおける金銭債権投資による収益、大和エナジー・インフラにおける投資先の売却益等により前年度比で増収となる一方、投資先の再評価に伴う損失を計上しました。なお、新型コロナウイルス感染症を起因とする投資先の株価下落や業績悪化等、当連結会計年度の投資部門の業績に大きな影響を与えたものはありません。当連結会計年度における投資部門の純営業収益は前年度比41.7%増の25億円、経常損失は8億円となりました。投資部門の純営業収益のグループ全体の連結純営業収益に占める割合は0.6%でした。
[その他]
その他の事業には、主に大和総研と大和総研ビジネス・イノベーションからなる大和総研グループによるリサーチ・コンサルティング業務及びシステム業務のほか、大和ネクスト銀行による銀行業務などが含まれます。
当連結会計年度において大和総研グループは以下の事業計画を実行しました。
1. ハイブリッド型総合証券グループのシンクタンクとして、グループ連携によるビジネス強化へ貢献
2. デジタル化の加速による不透明な未来の道標となる経済・金融における先見性の高い情報発信
3. お客様のビジネスへ貢献する、競争力のあるソリューションをスピーディに提供
4. 先端技術の活用による「新たな価値」の創出を通じたビジネスの拡大
各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。
1. 大和証券グループへの開発案件を実行し生産性向上やお客様の利便性向上に貢献するとともに、大和証券のお客様へソリューションを提供し、お客様とのリレーション構築に寄与しました。
2. 経済・社会の潮流を読んだタイムリーな問題提起や政策提言、2020年後の経済・社会・市場、地方創生、ESG、金融業の未来など持続可能な社会の実現をサポートする情報提供を実施しました。英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)や中国社会科学院との連携や国際会議等の機会を活用した積極的な情報発信を行いました。
3. 外部企業との協業体制を強化するとともに、地域金融機関と連携した地方中堅企業の海外進出に向けた支援などを行いました。
4. データサイエンス・AI分野におけるサービス提供の拡大に向けて、データサイエンス組織を強化しました。
当連結会計年度において大和ネクスト銀行は以下の事業計画を実行しました。
1. 証銀連携によるお客様本位の商品・サービス展開
2. グループ全体の将来的な収益基盤構築に向けた仕組み作り
3. 市場環境の変化に即応可能なポートフォリオ運営
4. 健全な利益の確保を通じた持続的成長
各項目の当連結会計年度における実績は以下のとおりです。
1. 大和証券と連携し、各種キャンペーンを実施しました。
2. 銀行取引サイト上での為替取引(外貨預金預入)対応のお客様へのサービスを開始しました。
3. リスクヘッジに加え、金利上昇やクレジットスプレッドの拡大時に機動的に対応しました。
4. マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策の強化に向けた態勢を整備し、リスク管理のさらなる改善を行いました。
大和ネクスト銀行の当連結会計年度末の預金残高(譲渡性預金含む)は前年度比10.4%増の4.0兆円、銀行口座数は前年度比3.0%増の140万口座となりました。
その結果、その他・調整等に係る純営業収益は369億円(前年度464億円)、経常利益は1億円(前年度58億円)となりました。
③ 目標とする経営指標の達成状況等
当社グループでは、2018年度から2020年度にかけての中期経営計画“Passion for the Best”2020において、お客様本位KPIとしてお客様満足度及び大和証券預り資産、業績KPIとして自己資本利益率(ROE)及び経常利益、財務KPIとして連結総自己資本規制比率を数値目標として掲げています。お客様満足度は「大和版NPS®(注)1」を中心とした指標を計測しており、お客様目線に立脚した営業体制の構築を進めています。
中期経営計画2年目である当連結会計年度においては、最終年度である2020年度に達成すべき目標に関して、業績KPIはROE10%以上目標に対し4.9%、連結経常利益2,000億円以上目標に対し702億円となりました。財務KPIの連結総自己資本規制比率は21.12%(注)2と、目標の18%以上を上回って推移しています。お客様本位KPIのうちお客様満足度については、昨年度全店導入した「大和版NPS®」が外部評価で対面証券部門No.1を獲得しております。大和証券預り資産は、厳しい相場環境で時価の減少があったものの、資産導入が堅調であり、2020年度80兆円以上とする目標に対し、59.8兆円となっています。
2019年度は、年度末において新型コロナウイルス感染症により市場が混乱する中においても、「お客様第一の業務運営」のクオリティを追求すると共に、新規ビジネス領域と伝統的な証券業との融合による「新たな価値」の創出及び拡大に向けた挑戦を続け、一定の成果を得た1年でありました。また、経営戦略の根底に取り入れたSDGsへの取組み推進においても、ESG格付けの格上げ等といった外部からの高評価を得る等、飛躍的な進捗を実現できたと評価しています。
(注)1 NPS®:Net Promoter Scoreの略であり、お客様のロイヤルティを数値化する指標。なお、NPS®は、ベイ
ン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
(注)2 連結総自己資本規制比率には有価証券報告書提出日における速報値を記載しており、確定値は算出完了
次第、当社ホームページにて公表する予定です。
④ 経営成績の前提となる2019年度のマクロ経済環境
<海外の状況>2019年の世界経済は、米中貿易摩擦などから減速感が強まりつつも緩やかな拡大が続いていました。しかし、2020年に入って、新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、世界経済は急激に悪化することになりました。
IMF(国際通貨基金)によれば、2019年の世界経済成長率は2.9%であり、米中間の貿易摩擦を主因とした国際貿易の停滞により、リーマン・ショックによってマイナス成長となった2009年以降で最も低い成長にとどまりました。また、2020年については、新型コロナウイルス感染症の影響により先進国、新興国ともにマイナス成長に転じ、世界経済成長率は△3.0%とリーマン・ショック時を上回る大幅なマイナスが見込まれています。
米国経済では、2019年4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率2.0%、続く7-9月期、および10-12月期がいずれも前期比年率2.1%と、2019年内は安定的な成長が続きました。海外経済の減速や貿易摩擦懸念などから、企業の設備投資が3四半期連続で減少する一方で、雇用・所得環境の改善を背景とした個人消費の安定的な増加がGDPの増加を下支えしました。加えて、低金利を背景にそれまで軟調に推移していた住宅投資も、2019年後半には持ち直し基調を強めました。しかし、2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症という新たなリスク要因が米国経済の下押し要因となりました。とりわけ、米国内での感染者数の増加を受け、トランプ大統領が緊急事態を宣言し、外出自粛を要請した3月半ば以降、外食や娯楽関連など不要不急のサービスを中心に個人消費は急激に減少し、2020年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率△5.0%と大きく落ち込みました。また、活動自粛を余儀なくされたサービス業を中心に、失業者はかつてないペースで増加しています。
こうした急激な景気悪化を受けて、トランプ政権および連邦議会は景気の底割れを回避するため、矢継ぎ早に対策を打ち出しています。3月27日に成立した総額2兆ドル超の過去最大規模の経済対策では、家計への現金給付や失業給付の拡充、企業への融資などが盛り込まれました。
また金融面では、FRB(連邦準備制度理事会)が景気悪化に対応して、積極的な金融緩和を行っています。新型コロナウイルスの感染が拡大する以前においても、景気減速懸念への対応のため、2019年7月、9月および10月のFOMC(連邦公開市場委員会)において、3度にわたる利下げが決定されました。加えて、新型コロナウイルス感染症の影響によって急速に世界経済が減速する中、FRBは2020年3月にも2度の緊急利下げを実施し、2015年12月以来となる実質的なゼロ金利政策を復活させました。さらに、無制限の量的緩和の拡大も決定し、FRBのバランスシートは急速に拡大しました。
欧州経済(ユーロ圏経済)も、米国と同様に2019年内は減速しつつも緩やかな成長が続いていたものの、2020年に入って急速に悪化しています。2019年4-6月期の実質GDP成長率は、米中摩擦の激化や長引くイギリスのEU離脱問題などによる不透明感が外需の下押し要因となり、前期比年率0.6%の低成長となりました。7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率1.2%と幾分持ち直しましたが、10-12月期に入ると、外需の停滞に加えて、雇用者数の増加ペースが鈍化したことで、それまで成長を下支えしてきた個人消費も減速し、前期比年率0.4%の低成長にとどまりました。そして2020年1-3月期には、新型コロナウイルス感染症が広がる中、3月には特に感染者数が多いイタリアをはじめスペイン、フランス、ドイツなど広い地域で移動制限措置などが実施され、実質GDP成長率は前期比年率△14.2%と、1995年の統計開始以降で最大の落ち込みとなりました。
金融面では、ECB(欧州中央銀行)は、世界経済の不透明さが増し、ユーロ圏の景気減速が鮮明になる中でハト派傾向を強めました。ECBは2019年9月に3年半ぶりとなる利下げを実施したことに加えて、量的緩和政策の再開を決定しました。さらに、2020年3月には、新型コロナウイルスの感染拡大による急激な景気悪化を受けて、量的緩和策の拡大を決定しました。
新興市場国・発展途上国経済は、2019年の実質GDP成長率が3.7%と、2年連続で成長が鈍化し、2009年以来の低成長となりました。また、IMFによれば、2020年の実質GDP成長率は新型コロナウイルス感染症の影響によって、△1.0%とマイナス成長に落ち込むことが見込まれています。新興国のうち、世界第2位の経済規模を持つ中国は、新型コロナウイルス感染症による影響が顕在化する以前から、米国との貿易摩擦を主因に成長率が減速傾向にあり、四半期ごとの実質GDP成長率を見ると、2019年1-3月期が前年同期比6.4%、4-6月期が同6.2%、7-9月期は同6.0%と鈍化していました。こうした事態に対して、中国政府は景気減速失速に対処すべく財政・金融の両面から大規模な経済対策を打ち出したため、10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比6.0%と前期から横ばいとなり、下げ止まりの兆しが見られました。しかし、2020年1-3月期に入ると新型コロナウイルス感染症により、中国の一部で都市閉鎖などの措置が実施され、企業は経済活動の停止を余儀なくされたため、実質GDP成長率は前年同期比△6.8%と大幅に落ち込むことになりました。
中国以外の新興国についても総じて厳しい状況に置かれています。2019年は米中貿易摩擦に端を発した世界的な貿易停滞が新興国経済を下押ししました。また、2020年に入ってからは、先進国や中国と同様に、多くの新興国でも新型コロナウイルス感染防止のために経済活動を抑制せざるを得ない状況となりました。加えて、世界的な景気悪化を受けた新興国からの資金流出や、資源価格の急激な低下も、新興国経済を大きく下押しする要因となっています。
<日本の状況>日本経済は2019年度前半までは回復基調が続いていましたが、年度後半に入って急速に悪化しました。2019年度前半は個人消費の堅調な増加を主因に、GDPの増加基調が続きました。しかし、2019年10月以降は増税前の駆け込み需要からの反動減が顕在化し、10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率△7.2%と大幅に落ち込むことになりました。さらに、2020年1-3月期の後半になると新型コロナウイルスの感染拡大に伴う活動自粛によって経済が一段と悪化し、2020年1-3月期の実質GDPは前期比年率△2.2%と、2四半期連続のマイナス成長となりました。この結果、2019年度の実質GDP成長率は前年度比0.0%の低成長となりました。
需要項目ごとに見ると、個人消費は年度前半まで好調でしたが、年度後半にかけて急激に減少しました。年度前半については、個人消費の裏付けとなる雇用・所得環境の着実な改善が続いたことに加え、ゴールデンウィークの10連休による特需や、10月の消費増税に向けた駆け込み需要が押し上げ要因となりました。一方、10-12月期に入ると、駆け込み需要からの反動減によって個人消費は大幅に減少しました。また、2020年1-3月期には、新型コロナウイルスの感染拡大によって自粛の動きが広がり、外食などをはじめとする不要不急のサービス消費の減少を主因に、個人消費は2四半期連続で減少しました。住宅投資についても同様に、消費増税前の駆け込み需要によって2019年7-9月期は増加しましたが、その後は2四半期連続で減少しています。
企業の設備投資は、高水準の企業収益や低金利、労働需給の逼迫などを背景として、2019年4-6月期および7-9月期は2四半期連続で増加しました。10-12月期には減少しましたが、2020年1-3月期は再び増加に転じ、総じて底堅く推移しました。日銀短観(2020年3月調査)によれば、2020年度の設備投資計画では、大企業を中心に設備投資の増加が見込まれています。もっとも、新型コロナウイルス感染症の影響によって世界的に景気が急速に悪化する中、日本企業の景況感も大幅に悪化しており、設備投資に対する態度にも慎重さが増しています。
金融面では、日本銀行による短期金利に加えて長期金利も操作対象とする金融緩和措置が継続しています。また、世界経済の減速懸念が強まる中、日本銀行は2019年4月の金融政策決定会合において、少なくとも2020年春頃まで金融緩和措置を続けることを表明しました。また、10月には政策金利のフォワード・ガイダンス(指針)を修正し、将来の利下げの可能性を明示しました。
長期金利は、2019年度前半は、FRBによる利下げへの期待の高まりと7月、9月の利下げ実施によって世界的に金利が低下する中、低下基調を強めました。さらに9月には、米国による対中追加関税の拡大を受け、世界的にリスク回避の動きが強まる中、安全資産とされる日本国債の需要が高まり、10年国債利回りは一時△0.29%前後と、2016年7月以来の水準まで低下しました。しかし、FRBによる2019年の3回の利下げによって米国経済および世界経済の見通しが改善する中で米国の長期金利は9月には下げ止まり、低下基調を強めていた日本の10年国債利回りは、9月を底に上昇基調に転じました。2020年に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の悪化懸念や米国の金利低下を受け、再び日本の長期金利は低下傾向に転じましたが、年度末にかけては現金需要の増加などから急激に上昇しました。
為替市場をみると、対ドルでは2019年年初から円安・ドル高傾向で推移し、4月には一時112円台まで円安が進みました。しかし、5月に入ると米国による対中関税率の追加引き上げをきっかけに米中貿易摩擦激化への警戒感が高まり、再びリスク回避の動きが強まりました。また、世界経済の減速感が強まる中、FRBによる金融緩和およびさらなる追加緩和への期待によって日米金利差が縮小したことも円高・ドル安要因となり、8月には一時105円台前半まで円高が進みました。リスク回避傾向が弱まった9月以降は再び円安傾向となりましたが、新型コロナウイルス感染症が広がる中、2020年3月には一時102円台まで進むなど、振れが大きい展開となりました。対ユーロでは、2019年年初から4月にかけて円安傾向で推移した後、4月半ばから9月初旬までは円高傾向となり、9月中旬以降は円安方向で推移しました。しかし、2020年に入ると再び円高方向へと転じています。
株式市場は、海外経済・市場の動向に大きく左右される展開となりました。2019年度前半は米中貿易摩擦の動向に影響を受ける形で、株価は上昇と下落を繰り返しました。10-12月期に入ると、FRB、ECBによる金融緩和策を受けて世界的に株価は上昇基調となり、米国の株価が史上最高値を更新し続ける中、日経平均も2020年1月には、一時24,000円台に回復しました。しかし、2020年1-3月期に入り、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済が急速に悪化する中、株価は世界的に急落し、日経平均も2月以降は大きく下落することとなりました。
2020年3月末の日経平均株価は18,917円01銭(前年3月末比2,288円80銭安)、10年国債利回りは0.031%(同0.113ポイントの上昇)、為替は1ドル108円42銭(同2円33銭の円高)となりました。
(4) 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析
① 営業活動、投資活動及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。
(単位:百万円)
2019年3月期2020年3月期
営業活動によるキャッシュ・フロー304,857167,190
投資活動によるキャッシュ・フロー108,243△215,397
財務活動によるキャッシュ・フロー55,741△135,794
現金及び現金同等物に係る換算差額4,425△4,950
現金及び現金同等物の増減額(△は減少)473,267△188,952
現金及び現金同等物の期首残高3,653,4644,122,102
現金及び現金同等物の期末残高4,122,1023,933,149

当連結会計年度において、営業活動によるキャッシュ・フローは、トレーディング商品の増減、営業貸付金の増減、有価証券担保貸付金及び有価証券担保借入金の増減、銀行業における預金の増減などにより、1,671億円(前年度は3,048億円)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の取得による支出、投資有価証券の取得による支出などにより、△2,153億円(同1,082億円)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出などにより、△1,357億円(同557億円)となりました。これらに為替変動の影響等を加えた結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比1,889億円減少の3兆9,331億円となりました。
② 資本の財源及び流動性に係る情報
(ⅰ) 流動性の管理
<財務の効率性と安定性の両立>当社グループは、多くの資産及び負債を用いる有価証券関連業務や、投融資業務を行っており、これらのビジネスを継続する上で十分な流動性を効率的かつ安定的に確保することを資金調達の基本方針としております。
当社グループの資金調達手段には、社債、ミディアム・ターム・ノート、金融機関借入、コマーシャル・ペーパー、コールマネー、預金受入等の無担保調達、現先取引、レポ取引等の有担保調達があり、これらの多様な調達手段を適切に組み合わせることにより、効率的かつ安定的な資金調達の実現を図っております。
財務の安定性という観点では、環境が大きく変動した場合においても、業務の継続に支障をきたすことのないよう、平時から安定的に資金を確保するよう努めると同時に、危機発生等により、新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、調達資金の償還期限及び調達先の分散を図っております。
当社は、平成26年金融庁告示第61号による連結流動性カバレッジ比率(以下、「LCR」という。)の最低基準の遵守が求められております。当社の当第4四半期日次平均のLCRは150.6%となっており、上記金融庁告示による要件を満たしております。また、当社は、上記金融庁告示による規制上のLCRのほかに、独自の流動性管理指標を用いた流動性管理態勢を構築しております。即ち、一定期間内に期日が到来する無担保調達資金及び同期間にストレスが発生した場合の資金流出見込額に対し、様々なストレスシナリオを想定したうえで、それらをカバーする流動性ポートフォリオが保持されていることを日次で確認しており、1年間無担保資金調達が行えない場合でも業務の継続が可能となるように取り組んでおります。
当第4四半期日次平均のLCRの状況は次のとおりです。
(単位:億円)
日次平均
(自 2020年1月
至 2020年3月)
適格流動資産(A)23,510
資金流出額(B)34,336
資金流入額(C)18,748
連結流動性カバレッジ比率(LCR)
算入可能適格流動資産の合計額(D)23,510
純資金流出額(E)15,606
連結流動性カバレッジ比率(D)/(E)150.6%


<グループ全体の資金管理>当社グループでは、グループ全体での適正な流動性確保という基本方針の下、当社が一元的に資金の流動性の管理・モニタリングを行っております。当社は、当社グループ固有のストレス又は市場全体のストレスの発生により新規の資金調達及び既存資金の再調達が困難となる場合も想定し、短期の無担保調達資金について、当社グループの流動性ポートフォリオが十分に確保されているかをモニタリングしております。また、当社は、必要に応じて当社からグループ各社に対し、機動的な資金の配分・供給を行うと共に、グループ内で資金融通を可能とする態勢を整えることで、効率性に基づく一体的な資金調達及び資金管理を行っております。
<コンティンジェンシー・ファンディング・プラン>当社グループは、流動性リスクへの対応の一環として、コンティンジェンシー・ファンディング・プランを策定しております。同プランは、信用力の低下等の内生的要因や金融市場の混乱等の外生的要因によるストレスの逼迫度に応じた報告体制や資金調達手段の確保などの方針を定めており、これにより当社グループは機動的な対応により流動性を確保する態勢を整備しております。
当社グループのコンティンジェンシー・ファンディング・プランは、グループ全体のストレスを踏まえて策定しており、変動する金融環境に機動的に対応するため、定期的な見直しを行っております。
また、金融市場の変動の影響が大きく、その流動性確保の重要性の高い大和証券株式会社、株式会社大和ネクスト銀行及び海外証券子会社においては、更に個別のコンティンジェンシー・ファンディング・プランも策定し、同様に定期的な見直しを行っております。
なお、当社は、子会社のコンティンジェンシー・ファンディング・プランの整備状況について定期的にモニタリングしており、必要に応じて想定すべき危機シナリオを考慮して子会社の資金調達プランやコンティンジェンシー・ファンディング・プランそのものの見直しを行い、更には流動性の積み増しを実行すると同時に資産圧縮を図るといった事前の対策を講じることとしております。
(ⅱ) 株主資本
当社グループが株式や債券、デリバティブ等のトレーディング取引、貸借取引、引受業務、ストラクチャード・ファイナンス、M&A、プリンシパル・インベストメント、証券担保ローン等の有価証券関連業を中心とした幅広い金融サービスを展開し、ハイブリッド型総合証券グループとしての新たな価値の提供に資する投融資を行うためには、十分な資本を確保する必要があります。また、当社グループは、日本のみならず、海外においても有価証券関連業務を行っており、それぞれの地域において法規制上必要な資本を維持しなければなりません。
当連結会計年度末の株主資本は、前連結会計年度末比58億円増加し、1兆2,023億円となりました。また、資本金及び資本剰余金の合計は4,782億円となっております。利益剰余金は親会社株主に帰属する当期純利益603億円を計上したほか、配当金311億円の支払いを行った結果、前連結会計年度末比286億円増加の8,344億円となりました。自己株式の控除額は同230億円増加し、1,103億円となっております。
③ 財務戦略
当社グループの財務戦略の基本は、成長投資、資本効率性、財務健全性及び株主還元の最適なバランスを図り、健全な利益の確保を通じた持続的成長を実現することです。
持続的な成長の実現に際しては、規制ならびに制度対応と適正な自己資本水準を維持することを重視しております。強固な財務基盤を堅持するため、財務KPIとして連結総自己資本規制比率を採用しております。同比率については、今後のバーゼル規制の最終化による影響と過去の金融危機時のストレス・シナリオにも耐えうる資本のバッファーを加味し、18%を最低水準と設定しております。2019年度には規制上その他Tier1資本に係る基礎項目として取り扱われる、当社として初めての無担保永久社債(債務免除特約および劣後特約付)を2本立てで計1,500億円発行し、財務基盤の拡充を図りました。
成長投資に関しましては、当連結会計年度も既存事業の競争力強化のための投資や事業ポートフォリオ多様化のための出資などを数多く実行いたしました。その結果、財務KPIとして設定している連結総自己資本規制比率は18%を上回っており、今後も継続的な成長投資を行うための十分な資本余力を有しております。このため、証券ビジネスの顧客基盤拡大に向けた投資やハイブリッド型総合証券グループとしてコアビジネスと親和性のある周辺領域への投資は今後も常に検討してまいります。
株主還元策については「第4提出会社の状況 3配当政策」に記載のとおりです。
当社の資金調達の方法については、「② 資本の財源及び流動性に係る情報」に記載しております。