有価証券報告書-第156期(2023/04/01-2024/03/31)

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2024/06/21 14:16
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世界経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から回復しつつありますが、中東情勢など、地政学的リスクの高まり、欧米等のインフレ抑制のための利上げや、米中対立等の世界経済の分断の懸念が継続しました。一方、国内経済は、サービス消費やインバウンド需要の回復を背景に、緩やかに成長しました。
海運市況は、自営事業では、ドライバルク事業において中国経済の低迷の影響を受け市況が軟化した一方、エネルギー資源輸送事業においては継続して安定し、自動車船事業では好調な荷動きが継続し、堅調に推移しました。コンテナ船市況では、新造船竣工の増加や貨物需要の落ち込みにより軟化しましたが、期末に中東情勢に起因するサプライチェーンの逼迫から上昇しました。
このような事業環境のなか、当社は2022年度から5か年の中期経営計画を着実に実行しています。低炭素・脱炭素社会への実現を事業機会として成長戦略を策定し、ポートフォリオ戦略に基づき、成長の牽引役となる3つの事業に対して経営資源を集中的に配分し、また、当社グループの重要な事業部門であるコンテナ船事業については、株主として持分法適用関連会社であるONE社の持続的な成長と発展のために支援を強化します。そのうえで最適資本構成を目指し、バランスのとれた成長投資と株主還元を軸としたキャッシュアロケーションも進めます。これらの取組みを通じて、環境負荷を軽減し、持続可能な社会の実現に向けて、企業価値を継続的に向上させることで、全てのステークホルダーに信頼され続ける会社を目指してまいります。
当期業績について、自営事業は全てのセグメントで黒字を確保しました。市況の下落に伴いドライバルクセグメントの業績が前期比で悪化したものの、自動車船事業を中心とした製品物流セグメントの業績改善と為替影響により、自営事業全体としては前期を上回りました。また、ONE社の業績は船腹需給の軟化に伴う運賃市況の下落を背景に悪化したものの、黒字となりました。
株主還元政策に関しては、業績動向を見極め、最適資本構成を常に意識し、企業価値向上に必要な投資及び財務健全性を確保のうえ、適正資本を超える部分についてはキャッシュ・フローを踏まえて、自己株式取得を含めた株主還元を積極的に実施しました。
これらの結果、当期の連結売上高は9,623億円、営業利益は847億円、経常利益は1,357億円、親会社株主に帰属する当期純利益は1,047億円となりました。
なお、持分法による投資利益として517億円を計上しました。うち、当社の持分法適用関連会社であるONE社からの持分法による投資利益の計上額は456億円です。
経営計画の主な内容は「第2 事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中期的な会社の経営戦略、(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。
事業環境が大きく変化しているなか、当社グループは2022年5月9日に2022年度から2026年度までの5か年の中期経営計画を公表しました。当社グループならではの強みである専門機能を磨き上げ、2050年に向けた自社と社会の低炭素・脱炭素化の実現と、収益成長を両立させるための長期経営ビジョンを達成していくため、中期経営計画で策定した施策を実行しています。
業績等の概要
(1)業績
(単位:億円)

前連結会計年度
(2023年3月期)
当連結会計年度
(2024年3月期)
増減額 (増減率)
売上高9,4269,623196(2.1%)
営業利益78884759(7.5%)
経常利益6,9081,357△5,550(△80.3%)
親会社株主に帰属する当期純利益6,9491,047△5,901(△84.9%)


為替レートと燃料油価格が経常利益に与えた影響は以下のとおりです。
前連結会計年度当連結会計年度増減額影響額
為替レート(円/US$)1351449142億円
燃料油価格(US$/MT)769620△1499億円

<為替の推移(円/US$)> <消費燃料油価格の推移(US$/MT)>0102010_040.png0102010_041.png(注)為替・消費燃料油価格(平均補油価格)とも、当社社内値です。
また、当連結会計年度の事業セグメントごとの業績は、次のとおりです。
(単位:億円)
前連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
当連結会計年度
(自 2023年4月1日
至 2024年3月31日)
増減額 (増減率)
ドライバルク売上高3,1222,950△172(△5.5%)
セグメント損益19136△155(△81.1%)
エネルギー
資源
売上高1,0021,06967(6.7%)
セグメント損益9079△11(△12.2%)
製品物流売上高5,1975,501303(5.8%)
セグメント損益6,6991,311△5,387(△80.4%)
その他売上高103101△2(△2.1%)
セグメント損益8146(78.6%)

なお、各セグメントの状況をより適切に反映させるため、全社費用の配賦方法を一部変更しています。前連結会計年度のセグメント情報につきましても、変更後の方法により表示しています。
① ドライバルクセグメント
[ドライバルク事業]
大型船市況は、上半期は前期の市況低迷が継続しましたが、下半期は堅調な中国向け輸送需要が続き、大西洋地域から東アジア向けのボーキサイトやブラジル積み鉄鉱石の輸送需要が増加するなか、紅海を迂回する船舶の増加や中国揚港周辺での荒天等が船腹供給を引き締め、改善しました。
中・小型船市況は、上半期は欧州等遠隔地向け石炭・鋼材輸送の減少、穀物先物価格の下落、収穫の遅れなどを背景とした輸送需要の減退などにより低調に推移しましたが、下半期に中国・インド向け石炭輸送需要が増加、北米・南米からの穀物輸送需要が回復・本格化するなか、パナマ運河渇水の長期化や紅海を迂回する船舶の増加により船腹需給が引き締まり、市況は改善しました。
このような状況下、市況エクスポージャーを適切に管理すると同時に運航コストの削減や配船効率向上に努めましたが、前年度に締結した契約などの遅効的影響や一過性要因により、ドライバルクセグメント全体では、前期比で減収減益となりました。
② エネルギー資源セグメント
[液化天然ガス輸送船事業・電力事業・油槽船事業・海洋事業]
LNG船、電力炭船、大型原油船、LPG船、ドリルシップ(海洋掘削船)及びFPSO(浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)は、中長期の傭船契約のもとで順調に稼働し、安定的に収益に貢献しました。
一方で、前年度に実施した運航船舶の見直し等もあり、エネルギー資源セグメント全体では、前期比で増収となるも減益となりました。
③ 製品物流セグメント
[自動車船事業]
世界自動車販売市場は、半導体及び自動車部品の供給不足を背景とした生産・出荷への影響が漸減するなかで、回復基調が継続しました。また、運賃修復及び運航効率の改善に引き続き取り組みました。
[物流事業]
国内物流・港湾事業では、コンテナターミナル取扱量が前年同期を下回りました。曳船事業の作業数及び倉庫事業の取扱量は継続して堅調に推移しました。国際物流事業では、年初からフォワーディング事業における市況が低調に推移し、海上及び航空輸送需要の減少傾向が継続しました。完成車物流事業は、豪州での滞船問題は継続しているものの、需要は依然高く、陸送取扱台数及び保管台数が増加しました。
[近海・内航事業]
近海事業では、鋼材やバイオマス燃料輸送は安定した輸送量を確保しましたが、バルク輸送はロシア炭が大幅に減少し、輸送量は前期比で大幅に減少しました。内航事業では、旅客・乗用車は繁忙期の利用者が増加したものの、貨物輸送量は物価高による荷動き低迷や荒天による稼働減により前年を下回りました。不定期船輸送の専用船では、火力発電所での長期定期点検があり前期比で輸送量が減少しました。
[コンテナ船事業]
当社持分法適用関連会社であるONE社の業績は、第4四半期以降中東情勢に起因する喜望峰経由の迂回ルートの利用が継続したことで、船腹の余剰が緩和し短期運賃水準に一定の上昇が見られたものの、第3四半期末まで荷動きの伸び悩みと新造船竣工に伴う供給圧力により短期運賃市況の低迷が続いた結果、前期比で大幅な減収減益となりました。
製品物流セグメント全体では、前期比で増収となるも減益となりました。
④ その他
その他には、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等が含まれており、当期業績は前期比で減収となるも増益となりました。
(2)キャッシュ・フロー
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は2,694億円となり、前連結会計年度末より773億円減少しました。各キャッシュ・フローの状況は次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益等により、当連結会計年度は2,030億円のプラス(前連結会計年度は4,560億円のプラス)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、船舶を中心とする固定資産の取得等により、当連結会計年度は669億円のマイナス(前連結会計年度は467億円のマイナス)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済、配当金の支払い及び自己株式の取得等により、当連結会計年度は2,237億円のマイナス(前連結会計年度は3,007億円のマイナス)となりました。
生産、受注及び販売の状況
当社グループは、海運業を中核とする海運事業グループであり、ドライバルク事業、エネルギー資源事業、製品物流事業を行っています。この他、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等を展開しています。従って、生産、受注を行っておらず、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)
セグメント別売上高(外部顧客に対する売上高)の実績は、下記のとおりです。
セグメントの名称前連結会計年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
当連結会計年度
(自 2023年4月1日
至 2024年3月31日)
金額(百万円)比率(%)金額(百万円)比率(%)
ドライバルク312,26733.1295,05730.7
エネルギー資源100,22510.6106,98511.1
製品物流519,79455.1550,15457.2
その他10,3181.110,1021.0
合計942,606100.0962,300100.0

当社(川崎汽船㈱)の営業収益実績(参考)
提出会社のセグメント別営業収益の実績は、下記のとおりです。
区分前事業年度
(自 2022年4月1日
至 2023年3月31日)
当事業年度
(自 2023年4月1日
至 2024年3月31日)
金額(百万円)比率(%)金額(百万円)比率(%)
(ドライバルク)294,27340.5280,79736.7
(エネルギー資源)82,47811.484,81011.1
(製品物流)349,46348.1398,67652.2
海運業収益726,215100.0764,284100.0
(その他)500.0490.0
その他事業収益500.0490.0
合計726,266100.0764,334100.0

経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析
(1)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、一定の会計基準の範囲内にて合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っています。
詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
(2)当連結会計年度の経営成績の分析
① 売上高
売上高は前年度に比べ2.1%増収の9,623億円となりました。報告セグメント別では、ドライバルクセグメントは、前年度に比べ、5.5%減収の2,950億円となりました。エネルギー資源セグメントは、前年度に比べ、6.7%増収の1,069億円となり、製品物流セグメントは、前年度に比べ、5.8%増収の5,501億円となりました。その他の区分は、2.1%減収となりました。
② 売上原価、販売費及び一般管理費
売上原価は、前年度の7,998億円から12億円増加し、8,011億円(前年度比0.2%増)となりました。営業収入に対する売上原価の比率は1.6ポイント減少して83.3%となりました。販売費及び一般管理費は125億円増加し、764億円(前年度比19.6%増)となりました。
③ 営業利益
売上総利益の増加により、前年度の788億円の営業利益に対し847億円の営業利益となりました。
④ 営業外収益(費用)
517億円の持分法による投資利益(前年度は6,277億円の持分法による投資利益)を計上したことが主な要因となり、営業外損益は510億円の利益(前年度は6,119億円の利益)となりました。
⑤ 税金等調整前当期純利益
固定資産売却益などにより特別利益は34億円となりました。また、独占禁止法関連損失引当金繰入額などにより特別損失は55億円となりました。これらの結果、税金等調整前当期純利益は1,337億円(前年度は6,928億円の税金等調整前当期純利益)となりました。
⑥ 法人税等
法人税等は、主として法人税、住民税及び事業税の増加により、前年度の△61億円から329億円増加し268億円となりました。
⑦ 非支配株主に帰属する当期純利益
非支配株主に帰属する当期純利益は、ケイラインネクストセンチュリー(同)などの非支配株主に帰属する当期純利益が減少し、前年度の40億円から19億円減少し、21億円となりました。
⑧ 親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、前年度の6,949億円に対し、1,047億円となりました。1株当たり当期純利益は、前年度の857.01円に対し、145.24円となりました。
(注)2022年10月1日付及び2024年4月1日付でそれぞれ普通株式1株につき3株の割合で株式分割を行っています。前連結会計年度の期首にこれらの株式分割が行われたと仮定して1株当たり当期純利益金額を算定しています。
(3)資本の財源及び資金の流動性についての分析
① キャッシュ・フローの状況
「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (2) キャッシュ・フロー」をご参照ください。
② 資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、当社グループのドライバルク事業や自動車船事業の運営に関わる海運業費用です。この中には港費・貨物費・燃料費などの運航費、船員費・船舶修繕費などの船費及び借船料などが含まれます。このほか物流事業の運営に関わる労務費等の役務原価、各事業についての人件費・情報処理費用・その他物件費等の一般管理費があります。また、設備資金需要としては船舶投資や物流設備・ターミナル設備等への投資があります。当連結会計年度中に858億円の設備投資を実施しました。
③ 財務政策
当社グループの事業維持・拡大を支える低コストで安定的な資金の確保を重視しています。長期の資金需要に対しては金融機関からの長期借入金を中心に、社債発行、新株発行により調達しています。短期的な運転資金を銀行借入、コマーシャルペーパー(CP)発行等により調達し、一時的な余資は安定性・流動性の高い金融資産で運用しています。また、キャッシュマネージメントシステム等を利用して、国内・海外グループ会社の余剰資金を有効活用しています。
流動性の確保としまして、CP発行枠600億円に加え、国内金融機関と約1,400億円の複数年のコミットメントラインを設定し、緊急の資金需要に備えています。
当社は日本格付研究所(JCR)から格付を取得しており、2024年3月31日現在の発行体格付は、「A-」となっています。また、短期債格付(CP格付)については「J-1」を取得しています。
(4)財政状態
当連結会計年度末の資産合計は、前年度末比568億円増加し2兆1,094億円となりました。流動資産は、有価証券の減少等により、前年度末比466億円減少し4,882億円となりました。
固定資産は前年度末比1,034億円増加し1兆6,211億円となりました。固定資産のうち有形固定資産は、建設仮勘定の増加等により、前年度末比381億円増加し4,103億円となりました。投資その他の資産は、投資有価証券の増加等により、前年度末比630億円増加し1兆2,047億円となりました。
当連結会計年度末の負債合計は、前年度末比211億円減少し4,848億円となりました。支払手形及び営業未払金の増加等により、流動負債は2,099億円となり、長期借入金の減少等により、固定負債は2,749億円となりました。
当連結会計年度末の純資産合計は、前年度末比779億円増加し、1兆6,246億円となりました。純資産のうち株主資本は、主に利益剰余金が694億円減少したことにより、1兆3,301億円となりました。その他の包括利益累計額は、為替換算調整勘定が増加したことを主な要因として、前年度末比1,471億円増加し2,617億円となりました。