有価証券報告書-第119期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)
(1)経営成績等の状況の概要、経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)並びに持分法適用会社の経営成績、財政状態及びキャッシュ・フローの状況の概要、経営者の視点によるグループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2019年3月31日)現在において判断したものであります。
文中において、当連結会計年度は当年度、前連結会計年度は前年度と、省略して記載しております。
① 当社グループの課題及び取り組み
現在、世界中のあらゆる場面において最新のデジタル技術をビジネスの中核となる業務プロセスに組み込むことで、ビジネスの仕組みを大きく変えるデジタル革新が加速しており、AIやIoT(Internet of Things)などの最先端技術が私たちの世界や生活をより良いものに変えていくと期待されています。
当社はセキュアなICT基盤をベースに、つながるものから生み出される膨大なデータの整理・可視化と、AIによるお客様の意思決定の高度化を実現することを「つながるサービス」と名付け、お客様の事業強化や新たなイノベーション創出といった価値を提供しています。また、「つながるサービス」を通じて、ビジョンを共有し価値を共感できる組織とのCo-creationを行い、新たなビジネスモデルの構築を加速させています。
当社は2015年10月に経営方針を策定し、中期的な経営目標として(ⅰ)営業利益率10%以上、(ⅱ)フリー・キャッシュ・フロー1,500億円以上、(ⅲ)自己資本比率40%以上、(ⅳ)海外売上比率50%以上の達成を掲げ、ビジネスモデル変革に向けた事業構造の抜本的見直しを進めてきました。その主要な柱は、「テクノロジーソリューション」「ユビキタスソリューション」「デバイスソリューション」の3事業分野にわたる垂直統合型から、「テクノロジーソリューション」を軸としたビジネスへの移行、すなわち「形を変える」変革と、デジタルテクノロジーをベースとした「つながるサービス」の拡大を目指す「質を変える」変革の2つです。
この3年間の取り組みを振り返ると、「形を変える」変革については、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションの主要ビジネスを独立事業化するなど、着実な前進がありました。特に当年度には、パソコン事業を独立分社化するとともにLSI事業では三重工場および販社機能の譲渡が決定し、テクノロジーソリューション事業にグループのエネルギーを注力できる体制となったことから、「形を変える」変革については一山越えたと考えています。一方で、「質を変える」変革については、想定したスピードで進んでおらず、成長ドライバーとしてのデジタルビジネスの本格化など十分な成果を出しているとは言えない状況です。このため、2018年10月に、成長に向けた新たな施策を打ち出すとともに、経営目標として掲げた数値項目のうち、営業利益率については達成までの時間軸を見直すこと、海外売上比率については売上規模を追うのではなくお客様へのさらなる価値提供を目指し、より強固な収益体質を築くことを優先し当面の経営指標から除外することを決定しました。
[「形を変える」変革の進捗(テクノロジーソリューションへの経営資源集中)]
2018年5月に、当社とLenovo Group Limited及び日本政策投資銀行は、グローバル市場に向けたパソコン及び関連製品の研究開発・設計・製造・販売を行う合弁会社(持株比率はそれぞれ、44%、51%、5%)を設立しました。当社は引き続き、高品質かつ革新的で信頼性の高い富士通ブランドのPC製品とサポートサービスをグローバルな法人のお客様に提供し、テクノロジーソリューションと合わせて、お客様のデジタル革新に貢献していきます。
2018年6月に、半導体子会社である富士通セミコンダクター株式会社(以下、FSL)はユナイテッド・マイクロエレクトロニクス・コーポレーション(以下、UMC)と、両社合弁運営の300mm半導体製造工場である三重富士通セミコンダクター株式会社(以下、MIFS)の全株式をUMCに譲渡することを決定しました。UMCが現在保有するMIFS株式15.9%に加え、残りの84.1%のMIFS株式をFSLからUMCに譲渡することにより、MIFSは100%子会社として台湾に本拠を置くUMCに加わります。また2019年1月に、FSLは加賀電子株式会社(以下、加賀電子)に対して、半導体販売子会社である富士通エレクトロニクス株式会社(以下、FEI)の株式70%を譲渡しました。なお、FSL保有の30%のFEI株式については、2021年内を目途に今後段階的に加賀電子に譲渡していく予定です。
2019年1月に、電子部品事業子会社である富士通コンポーネント株式会社(以下、FCL)の資本構成を変更しました。FCLは独立系投資会社ロングリーチグループの関連会社からの増資を受け、さらに当社がFCLの自社株買いに応じることで、資本持分は当社25%、ロングリーチグループ75%となりました。FCLの財務基盤を強化し、独立性を高めつつ成長力を強化します。
2019年4月に、富士通エフ・アイ・ピー株式会社(以下、FIP)のデータセンターサービス事業を吸収分割により当社に統合しました。近年のクラウドサービスの普及とともに、より高度な知見が求められるマルチクラウドやHybrid IT(注1)などデジタルサービスへのお客様のニーズの高まりに対し、データセンターを共通基盤としてタイムリーにサービス提供するための体制を強化しています。
(注1) オンプレミスとパブリック・プライベートクラウドといった異なるICT環境をつなぐシステムを指します。
[「質を変える」変革の加速に向けた施策]
2018年10月に発表した成長に向けた施策は、お客様に対するアプローチを転換し、「パートナー」としての新たな関係の構築を目指すものです。従来はお客様の要望を受けてからのサービス提供となっていましたが、今後はお客様の経営・事業戦略を検討するいわゆる「上流」の段階で、お客様とともに課題を検討する提案型のサービス提供へ転換いたします。そのための具体的な方策が、「国内ビジネスの営業改革」と「事業の強化」です。
「国内ビジネスの営業改革」に関しては、国内ビジネスのさらなる強化に向けて、営業体制を刷新します。営業部門の専門性と機動性を従来以上に高めます。当社グループは現在、国内に1万人を超える営業人員を擁していますが、せっかくの人材がグループ内で分散しています。この状況を見直し、営業人員を重点分野であるデジタルビジネスにシフトし、従来型のお客様業種別のアカウント営業に加え、「LoB(注2)」「デジタルテクノロジー」「クロスインダストリー」に対応した専門営業を拡充します。
(注2) Line of Businessの略。企業の間接機能に対して、事業部などの現場部門を指します。
「事業の強化」に関しては、開発のグローバル化、自前主義からの脱却、市場特性に合ったスピーディなサービス提供、グローバルな人材の強化という4つの基本方針に沿って施策を展開します。この基本方針に基づく具体的な施策としては、(ⅰ)サービスインテグレーションビジネスの強化、(ⅱ)グローバルな商品力の強化、(ⅲ)ネットワークビジネスの再構築、(ⅳ)海外ビジネス、特にEMEIAビジネスの再構築です。
[成長に向けたリソースシフト]
営業部門、デリバリー部門に加え、現在、グループ会社含め約1.6万人が在籍する間接/支援部門について、5,000人規模のリソースシフトを実施しています。Service-Oriented Companyとしての適材適所の観点から、間接部門の中でもコンサルティングや専門営業に適した業務知識が豊富な人材については、配置転換を実施しています。こうした職種変更にあわせ、社員のスキル強化やマインドセットの変化を促す研修コースを充実させ、受講機会を提供しています。また、グループ会社の間接/支援部門についても当社に集約し、グループ経営の効率化を図っています。なお、当施策の一環としてグループ外へのキャリア転進を希望する従業員2,850名に対し一定の支援を実施しました。
[経営体制の見直し]
経営の意思決定と実行のスピードアップを目的に、執行役員を執行役員常務以上とすることで役員数を半減し事業責任を明確化しました。また、複数の事業部門を「テクノロジーソリューション部門」に一本化することにより、指揮系統のシンプル化と従来の部門の枠組みを越えたシナジー創出を図っています。さらに、一部の主要子会社の社長を当社の担当役員が兼務することにより、全体最適の視点でグループフォーメーション改革を加速し、グループガバナンスのさらなる強化を図っています。
当社は今後のデジタル時代において高い成長力と競争力を維持し、激しいグローバル競争を勝ち抜いていくため、ビジネスモデル変革を完遂します。Service-Oriented Companyとして「つながるサービス」をベースとしたデジタル革新から生まれる成功がさらなるCo-creationを生み出す循環を作り出すことで、お客様や社会に提供する価値を高め、持続的な成長を生み出していきます。
② 経営成績
<要約連結損益計算書>(億円)
(ご参考)財務指標 (億円)
(注1)EMEIA:欧州・中近東・インド・アフリカ
(注2)ROE :親会社の所有者に帰属する当期利益÷{(期首の親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
+期末の親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本))÷2}
(ご参考)期中平均レート
(ⅰ)売上収益
当年度の売上収益は3兆9,524億円と、前年度から1,459億円、3.6%の減収となりました。携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった減収影響が約1,600億円、半導体販売子会社及び電子部品事業子会社が連結対象外となった減収影響が約500億円ありました。国内は2.9%の減収となりました。システムインテグレーションが公共分野と製造、流通分野の牽引により過去最高の売上を更新するなど大きく伸長したほか、システムプロダクトも大幅増収となりましたが、LSIやネットワークプロダクトが減収となりました。スマートフォン向けLSIの所要が低調に推移したほか、国内向け携帯電話基地局が通信キャリアの投資の端境期である影響を受け低調に推移しました。海外は4.7%の減収となりました。アメリカやオセアニアにおいてインフラサービスが低調であったほか、LSIやネットワークプロダクトが減収となりました。また、為替の円高影響も受けました。
当年度の米国ドル、ユーロ及び英国ポンドの平均為替レートはそれぞれ111円、128円、146円と、前年度に比べてユーロが2円、英国ポンドが1円の円高となりました。ユーロとの為替レートの変動により約60億円、また英国ポンドとの変動で約30億円の売上収益が前年度比で減少しています。この結果、当年度は為替レートの変動により前年度比で約90億円の売上収益の減少影響がありました。
海外売上比率は36.3%と、前年度比0.5ポイント低下しました。
(ⅱ)売上原価、販売費及び一般管理費、その他の損益並びに営業利益
当年度の売上原価は2兆8,798億円で、売上総利益は1兆725億円、売上総利益率は前年度から0.5ポイント低下し、27.1%になりました。
販売費及び一般管理費は9,333億円と、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編などにより前年度比で762億円減少しました。販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費については1,349億円と、再編したパソコン及び携帯電話事業を中心に前年度比で237億円減少しました。研究開発費の売上収益に対する比率は3.4%となりました。
その他の損益は89億円の損失と、前年度比で692億円悪化しました。退職給付制度の変更に伴う一時利益919億円及び、パソコンや電子部品事業の譲渡益160億円を計上した一方、ビジネスモデル変革費用1,175億円を計上しました。ビジネスモデル変革費用の主な内訳は、ドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などEMEIA再編に関する費用が638億円、成長に向けたリソースシフトのうち外部転進希望者に対する支援費用が458億円、製造体制見直しとクラウド事業の方向性見直しに関する費用が78億円です。
この結果、営業利益は1,302億円と、前年度比で522億円の減益となりました。事業譲渡の一時利益を中心とした前年度の特殊事項の利益がなくなった影響が527億円、当年度に実施した特殊事項のマイナス影響が122億円、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションで実施した事業再編により連結対象外となった営業利益の減少影響が214億円ありました。なお、特殊要因及び事業再編影響を除いたベースでは国内サービスの大幅な増益を中心に前年度比341億円の増益となりました。営業利益率は3.3%と、前年度から1.2ポイント低下しました。
為替レートの変動による営業利益への影響は次のとおりです。国内拠点での円貨に対する米国ドル、ユーロ及び英国ポンドの影響は前年度比で約20億円と軽微でした。パソコンやサーバなどのプロダクト製品における米国ドル建部材の調達と、LSIや電子部品における米国ドル建の輸出売上がおおむね均衡していることに加え、為替の変動が年間を通じて小さかったことによります。当年度の為替レートが1円円高に変動した場合の営業利益への影響額は、米国ドルが約1.5億円、ユーロが約3.2億円、英国ポンドが約0.1億円となりました。また、一部の欧州拠点では、米国ドルに対しユーロが変動した場合、米国ドル建の部材調達コストが変動する影響があります。当年度のユーロ/米国ドルの為替レートは1.16と、前年度に比べて0.01ユーロ安と変動が小さかったため、為替変動による損益影響は限定的でした。当社グループは引き続き、コストダウンの推進のほか、欧州の製造・物流拠点の効率化など、為替変動による損益影響を極力低減すべく努めます。
(ⅲ)金融損益、持分法による投資利益及び税引前利益
金融収益と金融費用をあわせた金融損益は89億円の利益と、前年度比で388億円の悪化となりました。前年度計上した富士電機株式会社との株式持ち合い見直しに伴う株式売却益273億円がなくなった影響などによります。一方、持分法による投資利益は226億円と、前年度比で104億円の増益となりました。
税引前利益は1,617億円と、営業利益ならびに金融損益の減少などにより前年度比で807億円の減益となりました。
(ⅳ)法人所得税費用、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益
当期利益は1,107億円と、前年度比で665億円の減益となりました。当期利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,045億円、非支配持分に帰属する金額は61億円と、前年度比でそれぞれ647億円の減益、17億円の減少となりました。法人所得税費用は510億円と、前年度比で233億円減少しました。税引前利益の利益額に対する税負担率は、前年度の30.7%から当年度は31.6%となりました。
親会社の所有者に帰属する当期利益を親会社の所有者に帰属する持分(自己資本)で除して算定したROEは9.4%となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益の減少により、前年度比7.8ポイント低下しました。
当年度の親会社の所有者に帰属する当期利益は1,045億円となりました。財務体質の改善が進み今後も継続して安定的なフリー・キャッシュ・フローの創出が見込めることから、当年度の1株あたり年間配当は150円とし、前年度から年間で40円増額しました。また、2018年5月に100億円の自己株式取得を実施し、2018年11月、2019年3月にもあわせて123億円の自己株式取得を実施しました。
(ⅴ)税引後その他の包括利益及び当期包括利益
税引後その他の包括利益は152億円のマイナスとなりました。持ち合い株式の売却影響などがありました。
当期利益と税引後その他の包括利益をあわせた当期包括利益は955億円となりました。当期包括利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期包括利益は893億円、非支配持分に帰属する当期包括利益は62億円となりました。
(ⅵ)セグメント情報
当社グループは、経営組織の形態、製品・サービスの特性及び販売市場の類似性に基づき、複数の事業セグメントを集約した上で、「テクノロジーソリューション」、「ユビキタスソリューション」及び「デバイスソリューション」の3つを報告セグメントとしています。また、報告セグメントに含まれない事業セグメントとして、次世代スーパーコンピュータ事業、次世代クラウド事業、当社グループ会社向け情報システム開発・ファシリティサービス事業及び当社グループ従業員向け福利厚生事業等を「その他」の区分に含めて表示しています。
当年度のセグメント別の売上収益(セグメント間の内部売上収益を含む)及び営業利益は以下のとおりです。
(億円)
a テクノロジーソリューション
「テクノロジーソリューション」は、プロダクト・ソフトウェア・サービスが一体となった総合的なサービスをお客様に最適な形で提供しています。ITシステムのコンサルティング、構築などを行うソリューション/SI、アウトソーシング(情報システムの一括運用管理)などを中心とするインフラサービス、ICTの基盤となるサーバやストレージシステムなどのシステムプロダクトと携帯電話基地局や光伝送システムなどの通信インフラを提供するネットワークプロダクトにより構成されています。
売上収益は3兆1,237億円と、前年度比2.3%の増収となりました。国内は5.6%の増収となりました。通信キャリアによる携帯電話基地局投資が低調でネットワークプロダクトが減収となりましたが、システムインテグレーションは、大規模プロジェクトに加え中小規模の商談を着実に積み上げた公共分野が大きく伸長したほか、製造や流通分野が引き続き好調に推移しました。また、国内のインフラサービスやIAサーバ、ソフトウェアも増収となりました。一方、海外は3.9%の減収となりました。アメリカやオセアニアにおいてインフラサービスが低調であったほか、為替の円高影響がありました。
営業利益は1,879億円と、前年度比で14億円の減益となりました。ドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などEMEIA再編に関するビジネスモデル変革費用474億円を計上し、前年度から390億円費用が増加しました。この影響を除いたベースでは376億円の増益です。海外のインフラサービスの減収影響はありましたが、国内のシステムインテグレーションやインフラサービスの増収効果、不採算損失の圧縮効果により前年度から大幅に増益となりました。
b ユビキタスソリューション
「ユビキタスソリューション」は、当社グループが実現を目指す「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」(テクノロジーの力で実現される、より安全で、豊かな、持続可能な社会)において、人や組織の行動パターンから生み出される様々な情報や知識を収集・活用するユビキタス端末あるいはセンサーとして、パソコンのほか、携帯電話やモビリティIoT/ヒューマンセントリックIoTなどにより構成されています。
売上収益は5,099億円と、前年度比23.2%の減収となりました。国内は28.8%の減収となりました。携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった影響によるものです。海外は5.9%の減収となりました。欧州でのパソコン事業の減収影響がありました。
営業利益は204億円の損失となりましたが、EMEIA再編に関するビジネスモデル変革費用203億円を除くとほぼブレークイーブンの水準です。前年度比では317億円の悪化となりました。ビジネスモデル変革費用を計上した影響があったほか、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により連結対象外となった営業利益の減少影響がありました。
c デバイスソリューション
「デバイスソリューション」は、最先端テクノロジーとして携帯電話やデジタル家電、自動車、サーバなどに搭載されるLSIのほか、半導体パッケージ、電池をはじめとする電子部品により構成されています。
売上収益は4,870億円と、前年度比13.0%の減収となりました。国内は18.5%の減収となりました。半導体販売子会社譲渡及び電子部品事業子会社再編による減収影響があったほか、スマートフォン向けLSIの所要が低調に推移しました。海外は8.0%の減収となりました。LSIの所要が減少しました。
営業利益は45億円と、前年度比で91億円の減益となりました。減収影響によります。
d その他及び消去又は全社
「その他」の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、次世代スーパーコンピュータ事業、次世代クラウド事業、当社グループ会社向け情報システム開発・ファシリティサービス事業及び当社グループ従業員向け福利厚生事業等が含まれています。
また、事業セグメントとして識別されないものは、基礎的試験研究やIT戦略投資などの戦略費用及び親会社におけるグループ経営に係る共通費用です。
営業利益は417億円の損失と、前年度比で98億円の悪化となりました。次世代クラウドや次世代スーパーコンピュータ、基礎的試験研究費、AIやITなどの戦略投資に、引き続き高水準の投資を継続しています。また、当年度は富士通企業年金基金の制度改訂による一時利益919億円を計上したほか、国内リソースシフトによるキャリア転進支援費用458億円を計上しています。
(ⅶ)所在地別の損益情報
当社グループは、成長市場である海外における売上収益の拡大と収益力向上を経営上の重要な課題の1つであると考えています。所在地別の損益情報は当社グループの事業管理において重要な項目であるとともに、株主、投資家の皆様に当社グループの損益概況をご理解頂くための有益な情報であると考えています。
(億円)
a 日本
売上収益は2兆9,727億円と、前年度比で1.1%の減収となりました。システムインテグレーションが公共分野と製造、流通分野の牽引により過去最高の売上を更新するなど大きく伸長しましたが、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった減収影響や、半導体販売子会社及び電子部品事業子会社が連結対象外となった減収影響がありました。営業利益は2,103億円と、前年度比で278億円の改善となりました。システムインテグレーションやインフラサービスの増収効果、不採算損失の圧縮効果などによります。
b EMEIA(欧州・中近東・インド・アフリカ)
売上収益は7,929億円と、前年度比2.1%の減収となりました。パソコン事業が減収となったほか、ユーロ及び英国ポンドに対して円高が進行した影響がありました。営業利益は439億円の損失と、前年度比で529億円の悪化となりました。当年度はドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などビジネスモデル変革費用638億円を計上しました。
c アメリカ
売上収益は2,479億円と、前年度比11.7%の減収となりました。インフラサービスやネットワークビジネスなどが減収となりました。営業利益は48億円の損失と、前年度比で113億円の悪化となりました。インフラサービスにおける減収影響などによります。
d アジア
売上収益は2,704億円と、前年度比2.4%の減収となりました。LSIや電子部品などが減収となりました。営業利益は39億円と、前年度比で8億円の減益となりました。減収影響によります。
e オセアニア
売上収益は 870億円と、前年度比13.4%の減収となりました。インフラサービスなどが減収となりました。営業利益は28億円と、前年度比で12億円の減益となりました。減収影響によります。
③ 財政状態
<要約連結財政状態計算書>(億円)
(注)自己資本 :親会社の所有者に帰属する持分合計
有利子負債 :社債、借入金及びリース債務等
ネット有利子負債 :有利子負債-現金及び現金同等物
(ご参考)財務指標
(注)自己資本比率 :親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)÷資産合計
D/Eレシオ :有利子負債÷親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
ネットD/Eレシオ :(有利子負債-現金及び現金同等物)÷親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
(ご参考)確定給付型退職給付制度の状況 (億円)
当年度末の資産合計は3兆1,048億円と、前年度末から166億円減少しました。流動資産は1兆9,593億円と、前年度末から920億円増加しました。国内サービスの売上増加に伴う売上債権・その他の流動資産が増加した影響がありました。現金及び現金同等物は4,166億円と、前年度末から358億円減少しました。社債の償還や借入金の返済を進めたことなどによります。棚卸資産は2,260億円と、前年度末から155億円減少し、資産効率を示す月当たり回転数は1.22回と、ほぼ前年並みとなりました。非流動資産は1兆1,454億円と、前年度末から1,087億円減少しました。有形固定資産が865億円減少しました。300mm半導体製造工場の台湾ユナイテッド・マイクロエレクトロニクス・コーポレーションへの譲渡合意に伴い当該工場の有形固定資産を売却目的で保有する資産に振り替えたことなどによります。
負債合計は1兆8,512億円と、前年度末から654億円減少しました。流動負債は1兆3,649億円と、前年度末から422億円増加しました。その他の債務が633億円増加しました。間接/支援部門の外部キャリア転進支援に係る未払金を計上した影響がありました。非流動負債は4,863億円と、前年度末から1,076億円減少しました。社債、借入金及びリース債務が前年度末から811億円減少したほか、富士通企業年金基金の制度改訂などにより退職給付に係る負債が767億円減少しました。流動負債及び非流動負債の社債、借入金及びリース債務をあわせた有利子負債は3,162億円と、社債を一部償還したほか借入金の返済を進めたことにより前年度末から860億円減少しました。D/Eレシオは0.28倍と、前年度末より0.09ポイント下降しました。有利子負債から現金及び現金同等物を控除したネット有利子負債残高は1,004億円のマイナスとネットキャッシュのポジションが拡大しました。前年度末から502億円改善するなど財務体質の改善を進めることが出来ました。
資本合計は1兆2,536億円と、前年度末から487億円増加しました。利益剰余金は5,768億円と、前年度末から970億円増加しました。親会社の所有者に帰属する当期利益1,045億円を計上したことなどによります。その他の資本の構成要素は246億円と前年度末から320億円減少しました。IFRS第9号(金融商品)を適用した影響があったほか、持ち合い株式の売却を進めた影響がありました。また、自己株式は295億円のマイナスと、自己株式の取得を進めたことなどにより前年度末から223億円保有額が増加しました。これらの結果、親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)は1兆1,320億円となりました。親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)は36.5%と、前年度末から1.7ポイント上昇しました。
当社は、経営目標として自己資本比率40%以上を掲げています。今後、ビジネスモデルの変革をさらに進め収益性を高めることにより、自己資本を充実させ財務の健全性を高めていきます。
連結財政状態計算書に計上されないオフバランスの負債は、IAS第17号(リース)に規定される解約不能オペレーティング・リース取引に係る将来の最低リース料総額が1,488億円、IAS第16号(有形固定資産)及びIAS第38号(無形資産)に規定される資産の取得に関する契約上のコミットメントが378億円です。
従業員の確定給付型退職給付制度の退職給付債務は1兆6,118億円と、前年度末から8,018億円減少し、年金資産は1兆5,026億円と、前年度末から6,958億円減少しました。この結果、確定給付型退職給付制度の積立状況(退職給付債務から年金資産を控除した金額)は1,092億円の不足と、前年度末から1,060億円改善しました。国内制度の積立状況は、2018年6月に実施した富士通企業年金基金の制度改訂などにより、前年度末から853億円改善しました。海外制度の積立状況は、退職給付債務の減少もあり前年度末から207億円改善しました。
④ キャッシュ・フロー
<要約連結キャッシュ・フロー計算書>(億円)
当年度の営業活動によるキャッシュ・フローは994億円のプラスと、前年度からは1,009億円の収入減となりました。税引前利益が減少したほか、法人所得税の支払額が増加しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは41億円のプラスと、前年度からは267億円の支出減となりました。サービスや電子部品関連設備など有形固定資産の取得やソフトウェアを中心とした無形資産の取得で1,206億円を支出しています。一方で、持ち合い株式の売却を進めたことなどにより投資有価証券の売却による収入779億円があったほか、ビジネスモデル変革に伴う事業譲渡収入、貸付金の回収による収入が437億円ありました。
営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたフリー・キャッシュ・フローは1,035億円のプラスと、前年度からは742億円の収入減となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは1,366億円のマイナスとなりました。社債の償還や借入金の返済を進めたほか、自己株式の取得による支出がありました。前年度からは241億円の支出増となりました。
この結果、現金及び現金同等物の期末残高は前年度末から359億円減少し、4,167億円となりました。
当社グループは、資金需要に応じた効率的な資金調達を確保するため、手許流動性を適切な水準に維持することを財務活動上の重要な指針としています。手許流動性は、現金及び現金同等物と、複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約に基づく融資枠のうち未使用枠残高の合計額です。当年度末の手許流動性は5,414億円で、現金及び現金同等物を4,167億円、コミットメントライン未使用枠を1,247億円保有しています。
当社は、グローバルに資本市場から資金調達するため、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(以下、ムーディーズ)、スタンダード&プアーズ(以下、S&P)及び株式会社格付投資情報センター(以下、R&I)から債券格付けを取得しています。当年度末現在における格付け(長期/短期)は前年度末から変更なく、ムーディーズ:A3(長期)、S&P:BBB+(長期)、R&I :A(長期)/a-1(短期)です。
当年度の有形固定資産の設備投資額は835億円(前年度比11.2%減)になりました。テクノロジーソリューションでは、国内外のデータセンターやクラウドサービス設備などを中心に493億円(前年度比6.8%増)を投資しています。ユビキタスソリューションでは、12億円(前年度比83.6%減)を投資しています。携帯端末事業の譲渡及びパソコン事業再編により減少しています。デバイスソリューションでは、LSIの製造設備のほか、電子部品のうち半導体パッケージの製造設備などに264億円(前年度比19.7%減)を投資しています。また、上記セグメント以外では65億円の設備投資を行っています。
なお、当年度後1年間の設備投資計画は、第3「設備の状況」3「設備の新設、除却等の計画」にて記載しています。
⑤ 生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、当社グループの経営管理においては、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。なお、当年度におけるセグメントごとの販売実績は、(1)②(vi)セグメント情報にて記載しております。
⑥ 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準(以下、IFRS)に準拠して作成しております。当社の連結財務諸表に適用している重要な会計方針については、「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 3. 重要な会計方針」をご参照ください。
IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営陣は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用に影響を与える判断、見積り及び仮定を必要としておりますが、実際の結果と異なる場合があります。また、見積り及びその基礎となる仮定は継続して見直されます。会計上の見積りの見直しによる影響は、その見積りを見直した連結会計期間及び影響を受ける将来の連結会計期間において認識されます。現在の状況と将来の展望に関する仮定は、当社グループにとって制御不能な市場の変化又は状況により変化する可能性があります。こうした仮定の変更は、それが起きた時点で反映しております。経営陣は、以下の会計方針の適用における仮定及び見積りが、連結財務諸表に重要な影響を与えると考えております。
(ⅰ)有形固定資産
有形固定資産の減価償却費は、事業ごとの実態に応じた回収期間を反映した見積耐用年数に基づき、主として定額法で算定しております。将来、技術革新等による設備の陳腐化や用途変更が発生した場合には、現在の見積耐用年数を短縮させる必要性が生じ、連結会計期間あたりの償却負担が増加する可能性があります。また、事業環境の急激な変化に伴う生産設備の遊休化や稼働率低下のほか、事業再編などにより、保有資産から得られる将来キャッシュ・フロー見込額が減少した場合には、減損損失が発生する可能性があります。
(ⅱ)のれん
のれんは、年次で、また、減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを行っております。のれんが配分された資金生成単位(Cash Generating Unit。以下、CGU)の回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に、減損損失を認識しております。回収可能価額は主に使用価値により算定しております。使用価値は、割引キャッシュ・フロー・モデルにより算定しており、事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローのほか、成長率、各CGUが属するグループ企業の加重平均資本コストを基礎とした割引率等の仮定を使用しております。これらの仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業環境の変化等により見直しが必要となった場合、減損損失が発生する可能性があります。
(ⅲ)無形資産
ソフトウェアの減価償却について、市場販売目的のソフトウェアについては、見込有効期間における見込販売数量に基づいて償却しております。自社利用ソフトウェアやその他の無形資産のうち耐用年数を確定できるものは、利用可能期間に基づく定額法により償却しております。事業環境の変化等により、販売数量が当初販売計画を下回る場合や利用可能期間の見直しの結果、耐用年数を短縮させる場合には、連結会計期間あたりの償却負担が増加する可能性があります。
(ⅳ)繰延税金資産
法人所得税の算定に際しては、当社グループが事業活動を行う各国の税法規定の解釈や税法の改正、将来課税所得の金額及び時期など、様々な要因について合理的な見積り及び判断が必要になります。繰延税金資産は、未使用の税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は連結会計期間末に見直し、一部又は全部の繰延税金資産の便益を実現させるだけの十分な課税所得を稼得する可能性が高くない場合は、繰延税金資産の計上額を減額しております。課税所得が生じる時期及び金額は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があります。また、税制改正により実効税率が変更された場合には、繰延税金資産の残高が増減する可能性があります。
(ⅴ)確定給付型退職給付制度
当社グループは、確定給付型及びリスク分担型ならびに確定拠出型の退職給付制度を設けております。確定給付型の退職給付制度の積立状況(確定給付制度債務から制度資産の公正価値を控除した金額)の変動額については、再測定した時点で、税効果を調整した上でその他の包括利益で認識し、その他の資本の構成要素から直ちに利益剰余金に振り替えております。運用収益の悪化により制度資産の公正価値が減少した場合や、制度債務算出にあたっての種々の前提条件(割引率、退職率、死亡率等)が変更され制度債務が増加した場合には、積立状況が悪化し、資本が減少する可能性があります。
(2)経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と、当社グループが従前採用していた日本基準により作成した場合の連結財務諸表の主要な差異は以下のとおりであります。なお、当該差異の金額については、当社グループは日本基準に基づく連結財務諸表を作成していないため概算額で記載しております。
[連結貸借対照表]
(退職給付に係る調整累計額)
退職給付に係る負債(資産)の純額(数理計算上の差異)898億円は、日本基準ではその他の包括利益累計額に含めて表示されますが、IFRSでは利益剰余金に含めて表示しております。
(投資有価証券の減損)
投資有価証券について、日本基準では時価が著しく下落した場合などに減損処理されます。一方、IFRSではIFRS第9号「金融商品」の適用により公正価値が著しく下落した場合における減損処理は廃止され、当年度の期首において、利益剰余金の減額となった過去の減損処理額をその他の資本の構成要素へ振り替えております。また、投資有価証券の売却時にその他の包括利益として認識されていた累積利得及び損失を利益剰余金に振り替えているため、期中における投資有価証券の売却による影響も加味すると、IFRSでは日本基準に比べて、当年度末における利益剰余金が129億円増加しており、その他の資本の構成要素が129億円減少しております。
[連結損益計算書及び連結包括利益計算書]
(退職給付に係る費用)
退職給付に係る負債(資産)の純額(数理計算上の差異)について、日本基準では原則として一定期間で償却しますが、数理計算上の差異として一時の費用としない理由が失われている場合は即時償却いたします。一方、IFRSでは数理計算上の差異は償却しません。過去勤務費用については、日本基準では一定期間で償却されますが、IFRSでは発生時に即時認識されます。利息の計算において、日本基準では退職給付債務に割引率を乗じて算定した利息費用と、年金資産に長期期待運用収益率を乗じて算定した期待運用収益を使用しておりますが、IFRSでは確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除した金額に割引率を乗じて算定した利息純額を使用しております。
これらの影響により、IFRSでは日本基準に比べて、売上原価並びに販売費及び一般管理費、税引前利益がそれぞれ406億円減少、810億円増加し、税引後その他の包括利益は622億円減少しております。
(のれんの償却)
のれんは、日本基準では一定期間で償却されますが、IFRSでは償却されません。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、販売費及び一般管理費が48億円減少しております。
(投資有価証券の売却損益)
投資有価証券の売却損益について、日本基準では純損益で認識されますが、IFRSではその他の包括利益で認識されます。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、税引前利益が52億円減少しております。
(関連会社株式の公正価値評価損益)
子会社株式の譲渡により、親会社としての持分比率が低下し、子会社が関連会社に該当することとなった場合、日本基準では残存する当該会社の株式は、当該会社に対する持分を基礎として評価されますが、IFRSでは支配を喪失した日における公正価値で評価され、発生した差額は損益として認識されます。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、持分法による投資利益が116億円増加しております。
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)並びに持分法適用会社の経営成績、財政状態及びキャッシュ・フローの状況の概要、経営者の視点によるグループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2019年3月31日)現在において判断したものであります。
文中において、当連結会計年度は当年度、前連結会計年度は前年度と、省略して記載しております。
① 当社グループの課題及び取り組み
現在、世界中のあらゆる場面において最新のデジタル技術をビジネスの中核となる業務プロセスに組み込むことで、ビジネスの仕組みを大きく変えるデジタル革新が加速しており、AIやIoT(Internet of Things)などの最先端技術が私たちの世界や生活をより良いものに変えていくと期待されています。
当社はセキュアなICT基盤をベースに、つながるものから生み出される膨大なデータの整理・可視化と、AIによるお客様の意思決定の高度化を実現することを「つながるサービス」と名付け、お客様の事業強化や新たなイノベーション創出といった価値を提供しています。また、「つながるサービス」を通じて、ビジョンを共有し価値を共感できる組織とのCo-creationを行い、新たなビジネスモデルの構築を加速させています。
当社は2015年10月に経営方針を策定し、中期的な経営目標として(ⅰ)営業利益率10%以上、(ⅱ)フリー・キャッシュ・フロー1,500億円以上、(ⅲ)自己資本比率40%以上、(ⅳ)海外売上比率50%以上の達成を掲げ、ビジネスモデル変革に向けた事業構造の抜本的見直しを進めてきました。その主要な柱は、「テクノロジーソリューション」「ユビキタスソリューション」「デバイスソリューション」の3事業分野にわたる垂直統合型から、「テクノロジーソリューション」を軸としたビジネスへの移行、すなわち「形を変える」変革と、デジタルテクノロジーをベースとした「つながるサービス」の拡大を目指す「質を変える」変革の2つです。
この3年間の取り組みを振り返ると、「形を変える」変革については、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションの主要ビジネスを独立事業化するなど、着実な前進がありました。特に当年度には、パソコン事業を独立分社化するとともにLSI事業では三重工場および販社機能の譲渡が決定し、テクノロジーソリューション事業にグループのエネルギーを注力できる体制となったことから、「形を変える」変革については一山越えたと考えています。一方で、「質を変える」変革については、想定したスピードで進んでおらず、成長ドライバーとしてのデジタルビジネスの本格化など十分な成果を出しているとは言えない状況です。このため、2018年10月に、成長に向けた新たな施策を打ち出すとともに、経営目標として掲げた数値項目のうち、営業利益率については達成までの時間軸を見直すこと、海外売上比率については売上規模を追うのではなくお客様へのさらなる価値提供を目指し、より強固な収益体質を築くことを優先し当面の経営指標から除外することを決定しました。
[「形を変える」変革の進捗(テクノロジーソリューションへの経営資源集中)]
2018年5月に、当社とLenovo Group Limited及び日本政策投資銀行は、グローバル市場に向けたパソコン及び関連製品の研究開発・設計・製造・販売を行う合弁会社(持株比率はそれぞれ、44%、51%、5%)を設立しました。当社は引き続き、高品質かつ革新的で信頼性の高い富士通ブランドのPC製品とサポートサービスをグローバルな法人のお客様に提供し、テクノロジーソリューションと合わせて、お客様のデジタル革新に貢献していきます。
2018年6月に、半導体子会社である富士通セミコンダクター株式会社(以下、FSL)はユナイテッド・マイクロエレクトロニクス・コーポレーション(以下、UMC)と、両社合弁運営の300mm半導体製造工場である三重富士通セミコンダクター株式会社(以下、MIFS)の全株式をUMCに譲渡することを決定しました。UMCが現在保有するMIFS株式15.9%に加え、残りの84.1%のMIFS株式をFSLからUMCに譲渡することにより、MIFSは100%子会社として台湾に本拠を置くUMCに加わります。また2019年1月に、FSLは加賀電子株式会社(以下、加賀電子)に対して、半導体販売子会社である富士通エレクトロニクス株式会社(以下、FEI)の株式70%を譲渡しました。なお、FSL保有の30%のFEI株式については、2021年内を目途に今後段階的に加賀電子に譲渡していく予定です。
2019年1月に、電子部品事業子会社である富士通コンポーネント株式会社(以下、FCL)の資本構成を変更しました。FCLは独立系投資会社ロングリーチグループの関連会社からの増資を受け、さらに当社がFCLの自社株買いに応じることで、資本持分は当社25%、ロングリーチグループ75%となりました。FCLの財務基盤を強化し、独立性を高めつつ成長力を強化します。
2019年4月に、富士通エフ・アイ・ピー株式会社(以下、FIP)のデータセンターサービス事業を吸収分割により当社に統合しました。近年のクラウドサービスの普及とともに、より高度な知見が求められるマルチクラウドやHybrid IT(注1)などデジタルサービスへのお客様のニーズの高まりに対し、データセンターを共通基盤としてタイムリーにサービス提供するための体制を強化しています。
(注1) オンプレミスとパブリック・プライベートクラウドといった異なるICT環境をつなぐシステムを指します。
[「質を変える」変革の加速に向けた施策]
2018年10月に発表した成長に向けた施策は、お客様に対するアプローチを転換し、「パートナー」としての新たな関係の構築を目指すものです。従来はお客様の要望を受けてからのサービス提供となっていましたが、今後はお客様の経営・事業戦略を検討するいわゆる「上流」の段階で、お客様とともに課題を検討する提案型のサービス提供へ転換いたします。そのための具体的な方策が、「国内ビジネスの営業改革」と「事業の強化」です。
「国内ビジネスの営業改革」に関しては、国内ビジネスのさらなる強化に向けて、営業体制を刷新します。営業部門の専門性と機動性を従来以上に高めます。当社グループは現在、国内に1万人を超える営業人員を擁していますが、せっかくの人材がグループ内で分散しています。この状況を見直し、営業人員を重点分野であるデジタルビジネスにシフトし、従来型のお客様業種別のアカウント営業に加え、「LoB(注2)」「デジタルテクノロジー」「クロスインダストリー」に対応した専門営業を拡充します。
(注2) Line of Businessの略。企業の間接機能に対して、事業部などの現場部門を指します。
「事業の強化」に関しては、開発のグローバル化、自前主義からの脱却、市場特性に合ったスピーディなサービス提供、グローバルな人材の強化という4つの基本方針に沿って施策を展開します。この基本方針に基づく具体的な施策としては、(ⅰ)サービスインテグレーションビジネスの強化、(ⅱ)グローバルな商品力の強化、(ⅲ)ネットワークビジネスの再構築、(ⅳ)海外ビジネス、特にEMEIAビジネスの再構築です。
[成長に向けたリソースシフト]
営業部門、デリバリー部門に加え、現在、グループ会社含め約1.6万人が在籍する間接/支援部門について、5,000人規模のリソースシフトを実施しています。Service-Oriented Companyとしての適材適所の観点から、間接部門の中でもコンサルティングや専門営業に適した業務知識が豊富な人材については、配置転換を実施しています。こうした職種変更にあわせ、社員のスキル強化やマインドセットの変化を促す研修コースを充実させ、受講機会を提供しています。また、グループ会社の間接/支援部門についても当社に集約し、グループ経営の効率化を図っています。なお、当施策の一環としてグループ外へのキャリア転進を希望する従業員2,850名に対し一定の支援を実施しました。
[経営体制の見直し]
経営の意思決定と実行のスピードアップを目的に、執行役員を執行役員常務以上とすることで役員数を半減し事業責任を明確化しました。また、複数の事業部門を「テクノロジーソリューション部門」に一本化することにより、指揮系統のシンプル化と従来の部門の枠組みを越えたシナジー創出を図っています。さらに、一部の主要子会社の社長を当社の担当役員が兼務することにより、全体最適の視点でグループフォーメーション改革を加速し、グループガバナンスのさらなる強化を図っています。
当社は今後のデジタル時代において高い成長力と競争力を維持し、激しいグローバル競争を勝ち抜いていくため、ビジネスモデル変革を完遂します。Service-Oriented Companyとして「つながるサービス」をベースとしたデジタル革新から生まれる成功がさらなるCo-creationを生み出す循環を作り出すことで、お客様や社会に提供する価値を高め、持続的な成長を生み出していきます。
② 経営成績
<要約連結損益計算書>(億円)
前年度 (自 2017年4月 1日 至 2018年3月31日) | 当年度 (自 2018年4月 1日 至 2019年3月31日) | 前年度比 | 増減率 (%) | ||
売上収益 | 40,983 | 39,524 | △1,459 | △3.6 | |
売上原価 | △29,665 | △28,798 | 866 | △2.9 | |
売上総利益 | 11,317 | 10,725 | △592 | △5.2 | |
販売費及び一般管理費 | △10,095 | △9,333 | 762 | △7.5 | |
その他の損益 | 602 | △89 | △692 | ― | |
営業利益 | 1,824 | 1,302 | △522 | △28.6 | |
金融損益 | 478 | 89 | △388 | △81.3 | |
持分法による投資利益 | 121 | 226 | 104 | 85.9 | |
継続事業からの税引前利益 | 2,424 | 1,617 | △807 | △33.3 | |
法人所得税費用 | △744 | △510 | 233 | △31.4 | |
非継続事業からの当期利益 | 92 | ― | △92 | ― | |
非支配持分に帰属する当期利益 | 79 | 61 | △17 | △22.2 | |
親会社の所有者に帰属する当期利益 | 1,693 | 1,045 | △647 | △38.3 |
(ご参考)財務指標 (億円)
前年度 | 当年度 | 前年度比 | ||
海外売上比率 | 36.8% | 36.3% | △0.5% | |
EMEIA(注1) | 7,996 | 7,899 | △97 | |
アメリカ | 2,768 | 2,486 | △281 | |
アジア | 3,321 | 3,122 | △199 | |
オセアニア | 981 | 846 | △135 | |
顧客所在地別海外売上収益 | 15,068 | 14,354 | △714 | |
売上総利益率 | 27.6% | 27.1% | △0.5% | |
営業利益率 | 4.5% | 3.3% | △1.2% | |
ROE(注2) | 17.2% | 9.4% | △7.8% |
(注1)EMEIA:欧州・中近東・インド・アフリカ
(注2)ROE :親会社の所有者に帰属する当期利益÷{(期首の親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
+期末の親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本))÷2}
(ご参考)期中平均レート
前年度 | 当年度 | 前年度比 | ||
米国ドル/円 | 111円 | 111円 | ― | |
ユーロ/円 | 130円 | 128円 | △2円 | |
英国ポンド/円 | 147円 | 146円 | △1円 | |
ユーロ/米国ドル | 1.17ドル | 1.16ドル | △0.01ドル |
(ⅰ)売上収益
当年度の売上収益は3兆9,524億円と、前年度から1,459億円、3.6%の減収となりました。携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった減収影響が約1,600億円、半導体販売子会社及び電子部品事業子会社が連結対象外となった減収影響が約500億円ありました。国内は2.9%の減収となりました。システムインテグレーションが公共分野と製造、流通分野の牽引により過去最高の売上を更新するなど大きく伸長したほか、システムプロダクトも大幅増収となりましたが、LSIやネットワークプロダクトが減収となりました。スマートフォン向けLSIの所要が低調に推移したほか、国内向け携帯電話基地局が通信キャリアの投資の端境期である影響を受け低調に推移しました。海外は4.7%の減収となりました。アメリカやオセアニアにおいてインフラサービスが低調であったほか、LSIやネットワークプロダクトが減収となりました。また、為替の円高影響も受けました。
当年度の米国ドル、ユーロ及び英国ポンドの平均為替レートはそれぞれ111円、128円、146円と、前年度に比べてユーロが2円、英国ポンドが1円の円高となりました。ユーロとの為替レートの変動により約60億円、また英国ポンドとの変動で約30億円の売上収益が前年度比で減少しています。この結果、当年度は為替レートの変動により前年度比で約90億円の売上収益の減少影響がありました。
海外売上比率は36.3%と、前年度比0.5ポイント低下しました。
(ⅱ)売上原価、販売費及び一般管理費、その他の損益並びに営業利益
当年度の売上原価は2兆8,798億円で、売上総利益は1兆725億円、売上総利益率は前年度から0.5ポイント低下し、27.1%になりました。
販売費及び一般管理費は9,333億円と、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編などにより前年度比で762億円減少しました。販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費については1,349億円と、再編したパソコン及び携帯電話事業を中心に前年度比で237億円減少しました。研究開発費の売上収益に対する比率は3.4%となりました。
その他の損益は89億円の損失と、前年度比で692億円悪化しました。退職給付制度の変更に伴う一時利益919億円及び、パソコンや電子部品事業の譲渡益160億円を計上した一方、ビジネスモデル変革費用1,175億円を計上しました。ビジネスモデル変革費用の主な内訳は、ドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などEMEIA再編に関する費用が638億円、成長に向けたリソースシフトのうち外部転進希望者に対する支援費用が458億円、製造体制見直しとクラウド事業の方向性見直しに関する費用が78億円です。
この結果、営業利益は1,302億円と、前年度比で522億円の減益となりました。事業譲渡の一時利益を中心とした前年度の特殊事項の利益がなくなった影響が527億円、当年度に実施した特殊事項のマイナス影響が122億円、ユビキタスソリューション、デバイスソリューションで実施した事業再編により連結対象外となった営業利益の減少影響が214億円ありました。なお、特殊要因及び事業再編影響を除いたベースでは国内サービスの大幅な増益を中心に前年度比341億円の増益となりました。営業利益率は3.3%と、前年度から1.2ポイント低下しました。
為替レートの変動による営業利益への影響は次のとおりです。国内拠点での円貨に対する米国ドル、ユーロ及び英国ポンドの影響は前年度比で約20億円と軽微でした。パソコンやサーバなどのプロダクト製品における米国ドル建部材の調達と、LSIや電子部品における米国ドル建の輸出売上がおおむね均衡していることに加え、為替の変動が年間を通じて小さかったことによります。当年度の為替レートが1円円高に変動した場合の営業利益への影響額は、米国ドルが約1.5億円、ユーロが約3.2億円、英国ポンドが約0.1億円となりました。また、一部の欧州拠点では、米国ドルに対しユーロが変動した場合、米国ドル建の部材調達コストが変動する影響があります。当年度のユーロ/米国ドルの為替レートは1.16と、前年度に比べて0.01ユーロ安と変動が小さかったため、為替変動による損益影響は限定的でした。当社グループは引き続き、コストダウンの推進のほか、欧州の製造・物流拠点の効率化など、為替変動による損益影響を極力低減すべく努めます。
(ⅲ)金融損益、持分法による投資利益及び税引前利益
金融収益と金融費用をあわせた金融損益は89億円の利益と、前年度比で388億円の悪化となりました。前年度計上した富士電機株式会社との株式持ち合い見直しに伴う株式売却益273億円がなくなった影響などによります。一方、持分法による投資利益は226億円と、前年度比で104億円の増益となりました。
税引前利益は1,617億円と、営業利益ならびに金融損益の減少などにより前年度比で807億円の減益となりました。
(ⅳ)法人所得税費用、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益
当期利益は1,107億円と、前年度比で665億円の減益となりました。当期利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,045億円、非支配持分に帰属する金額は61億円と、前年度比でそれぞれ647億円の減益、17億円の減少となりました。法人所得税費用は510億円と、前年度比で233億円減少しました。税引前利益の利益額に対する税負担率は、前年度の30.7%から当年度は31.6%となりました。
親会社の所有者に帰属する当期利益を親会社の所有者に帰属する持分(自己資本)で除して算定したROEは9.4%となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益の減少により、前年度比7.8ポイント低下しました。
当年度の親会社の所有者に帰属する当期利益は1,045億円となりました。財務体質の改善が進み今後も継続して安定的なフリー・キャッシュ・フローの創出が見込めることから、当年度の1株あたり年間配当は150円とし、前年度から年間で40円増額しました。また、2018年5月に100億円の自己株式取得を実施し、2018年11月、2019年3月にもあわせて123億円の自己株式取得を実施しました。
(ⅴ)税引後その他の包括利益及び当期包括利益
税引後その他の包括利益は152億円のマイナスとなりました。持ち合い株式の売却影響などがありました。
当期利益と税引後その他の包括利益をあわせた当期包括利益は955億円となりました。当期包括利益のうち、親会社の所有者に帰属する当期包括利益は893億円、非支配持分に帰属する当期包括利益は62億円となりました。
(ⅵ)セグメント情報
当社グループは、経営組織の形態、製品・サービスの特性及び販売市場の類似性に基づき、複数の事業セグメントを集約した上で、「テクノロジーソリューション」、「ユビキタスソリューション」及び「デバイスソリューション」の3つを報告セグメントとしています。また、報告セグメントに含まれない事業セグメントとして、次世代スーパーコンピュータ事業、次世代クラウド事業、当社グループ会社向け情報システム開発・ファシリティサービス事業及び当社グループ従業員向け福利厚生事業等を「その他」の区分に含めて表示しています。
当年度のセグメント別の売上収益(セグメント間の内部売上収益を含む)及び営業利益は以下のとおりです。
(億円)
前年度 (自 2017年4月 1日 至 2018年3月31日) | 当年度 (自 2018年4月 1日 至 2019年3月31日) | 前年度比 | 増減率 (%) | |||
テクノロジーソリューション | ||||||
売上収益 | 30,527 | 31,237 | 710 | 2.3 | ||
営業利益 | 1,893 | 1,879 | △14 | △0.8 | ||
(営業利益率) | ( 6.2%) | (6.0%) | (△0.2%) | |||
ユビキタスソリューション | ||||||
売上収益 | 6,639 | 5,099 | △1,539 | △23.2 | ||
営業利益 | 113 | △204 | △317 | ― | ||
(営業利益率) | ( 1.7%) | (△4.0%) | (△5.7%) | |||
デバイスソリューション | ||||||
売上収益 | 5,600 | 4,870 | △730 | △13.0 | ||
営業利益 | 136 | 45 | △91 | △66.9 | ||
(営業利益率) | ( 2.4%) | (0.9%) | (△1.5%) | |||
その他及び消去又は全社 | ||||||
売上収益 | △1,782 | △1,682 | 100 | ― | ||
営業利益 | △318 | △417 | △98 | ― | ||
連結 | ||||||
売上収益 | 40,983 | 39,524 | △1,459 | △3.6 | ||
営業利益 | 1,824 | 1,302 | △522 | △28.6 | ||
(営業利益率) | ( 4.5%) | (3.3%) | (△1.2%) |
a テクノロジーソリューション
「テクノロジーソリューション」は、プロダクト・ソフトウェア・サービスが一体となった総合的なサービスをお客様に最適な形で提供しています。ITシステムのコンサルティング、構築などを行うソリューション/SI、アウトソーシング(情報システムの一括運用管理)などを中心とするインフラサービス、ICTの基盤となるサーバやストレージシステムなどのシステムプロダクトと携帯電話基地局や光伝送システムなどの通信インフラを提供するネットワークプロダクトにより構成されています。
売上収益は3兆1,237億円と、前年度比2.3%の増収となりました。国内は5.6%の増収となりました。通信キャリアによる携帯電話基地局投資が低調でネットワークプロダクトが減収となりましたが、システムインテグレーションは、大規模プロジェクトに加え中小規模の商談を着実に積み上げた公共分野が大きく伸長したほか、製造や流通分野が引き続き好調に推移しました。また、国内のインフラサービスやIAサーバ、ソフトウェアも増収となりました。一方、海外は3.9%の減収となりました。アメリカやオセアニアにおいてインフラサービスが低調であったほか、為替の円高影響がありました。
営業利益は1,879億円と、前年度比で14億円の減益となりました。ドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などEMEIA再編に関するビジネスモデル変革費用474億円を計上し、前年度から390億円費用が増加しました。この影響を除いたベースでは376億円の増益です。海外のインフラサービスの減収影響はありましたが、国内のシステムインテグレーションやインフラサービスの増収効果、不採算損失の圧縮効果により前年度から大幅に増益となりました。
b ユビキタスソリューション
「ユビキタスソリューション」は、当社グループが実現を目指す「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」(テクノロジーの力で実現される、より安全で、豊かな、持続可能な社会)において、人や組織の行動パターンから生み出される様々な情報や知識を収集・活用するユビキタス端末あるいはセンサーとして、パソコンのほか、携帯電話やモビリティIoT/ヒューマンセントリックIoTなどにより構成されています。
売上収益は5,099億円と、前年度比23.2%の減収となりました。国内は28.8%の減収となりました。携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった影響によるものです。海外は5.9%の減収となりました。欧州でのパソコン事業の減収影響がありました。
営業利益は204億円の損失となりましたが、EMEIA再編に関するビジネスモデル変革費用203億円を除くとほぼブレークイーブンの水準です。前年度比では317億円の悪化となりました。ビジネスモデル変革費用を計上した影響があったほか、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により連結対象外となった営業利益の減少影響がありました。
c デバイスソリューション
「デバイスソリューション」は、最先端テクノロジーとして携帯電話やデジタル家電、自動車、サーバなどに搭載されるLSIのほか、半導体パッケージ、電池をはじめとする電子部品により構成されています。
売上収益は4,870億円と、前年度比13.0%の減収となりました。国内は18.5%の減収となりました。半導体販売子会社譲渡及び電子部品事業子会社再編による減収影響があったほか、スマートフォン向けLSIの所要が低調に推移しました。海外は8.0%の減収となりました。LSIの所要が減少しました。
営業利益は45億円と、前年度比で91億円の減益となりました。減収影響によります。
d その他及び消去又は全社
「その他」の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、次世代スーパーコンピュータ事業、次世代クラウド事業、当社グループ会社向け情報システム開発・ファシリティサービス事業及び当社グループ従業員向け福利厚生事業等が含まれています。
また、事業セグメントとして識別されないものは、基礎的試験研究やIT戦略投資などの戦略費用及び親会社におけるグループ経営に係る共通費用です。
営業利益は417億円の損失と、前年度比で98億円の悪化となりました。次世代クラウドや次世代スーパーコンピュータ、基礎的試験研究費、AIやITなどの戦略投資に、引き続き高水準の投資を継続しています。また、当年度は富士通企業年金基金の制度改訂による一時利益919億円を計上したほか、国内リソースシフトによるキャリア転進支援費用458億円を計上しています。
(ⅶ)所在地別の損益情報
当社グループは、成長市場である海外における売上収益の拡大と収益力向上を経営上の重要な課題の1つであると考えています。所在地別の損益情報は当社グループの事業管理において重要な項目であるとともに、株主、投資家の皆様に当社グループの損益概況をご理解頂くための有益な情報であると考えています。
(億円)
前年度 (自 2017年4月 1日 至 2018年3月31日) | 当年度 (自 2018年4月 1日 至 2019年3月31日) | 前年度比 | 増減率 (%) | |||
日本 | ||||||
売上収益 | 30,057 | 29,727 | △329 | △1.1 | ||
営業利益 | 1,825 | 2,103 | 278 | 15.3 | ||
(営業利益率) | ( 6.1%) | (7.1%) | (1.0%) | |||
EMEIA(欧州・中近東・インド・アフリカ) | ||||||
売上収益 | 8,101 | 7,929 | △172 | △2.1 | ||
営業利益 | 90 | △439 | △529 | ― | ||
(営業利益率) | ( 1.1%) | (△5.5%) | (△6.6%) | |||
アメリカ | ||||||
売上収益 | 2,807 | 2,479 | △327 | △11.7 | ||
営業利益 | 65 | △48 | △113 | ― | ||
(営業利益率) | ( 2.3%) | (△2.0%) | (△4.3%) | |||
アジア | ||||||
売上収益 | 2,771 | 2,704 | △67 | △2.4 | ||
営業利益 | 48 | 39 | △8 | △17.8 | ||
(営業利益率) | ( 1.7%) | (1.5%) | (△0.2%) | |||
オセアニア | ||||||
売上収益 | 1,005 | 870 | △134 | △13.4 | ||
営業利益 | 40 | 28 | △12 | △30.1 | ||
(営業利益率) | ( 4.1%) | (3.3%) | (△0.8%) | |||
消去又は全社 | ||||||
売上収益 | △3,759 | △4,186 | △427 | ― | ||
営業利益 | △245 | △381 | △136 | ― | ||
連結 | ||||||
売上収益 | 40,983 | 39,524 | △1,459 | △3.6 | ||
営業利益 | 1,824 | 1,302 | △522 | △28.6 | ||
(営業利益率) | ( 4.5%) | (3.3%) | (△1.2%) |
a 日本
売上収益は2兆9,727億円と、前年度比で1.1%の減収となりました。システムインテグレーションが公共分野と製造、流通分野の牽引により過去最高の売上を更新するなど大きく伸長しましたが、携帯端末事業譲渡及びパソコン事業再編により個人向けパソコンが連結売上の対象外となった減収影響や、半導体販売子会社及び電子部品事業子会社が連結対象外となった減収影響がありました。営業利益は2,103億円と、前年度比で278億円の改善となりました。システムインテグレーションやインフラサービスの増収効果、不採算損失の圧縮効果などによります。
b EMEIA(欧州・中近東・インド・アフリカ)
売上収益は7,929億円と、前年度比2.1%の減収となりました。パソコン事業が減収となったほか、ユーロ及び英国ポンドに対して円高が進行した影響がありました。営業利益は439億円の損失と、前年度比で529億円の悪化となりました。当年度はドイツの製造工場の閉鎖や低採算国からの撤退など経営資源を採算性の高い国に集中するための費用、間接部門の見直しと効率化などビジネスモデル変革費用638億円を計上しました。
c アメリカ
売上収益は2,479億円と、前年度比11.7%の減収となりました。インフラサービスやネットワークビジネスなどが減収となりました。営業利益は48億円の損失と、前年度比で113億円の悪化となりました。インフラサービスにおける減収影響などによります。
d アジア
売上収益は2,704億円と、前年度比2.4%の減収となりました。LSIや電子部品などが減収となりました。営業利益は39億円と、前年度比で8億円の減益となりました。減収影響によります。
e オセアニア
売上収益は 870億円と、前年度比13.4%の減収となりました。インフラサービスなどが減収となりました。営業利益は28億円と、前年度比で12億円の減益となりました。減収影響によります。
③ 財政状態
<要約連結財政状態計算書>(億円)
前年度末 (2018年3月31日) | 当年度末 (2019年3月31日) | 前年度末比 | ||
資産 | ||||
流動資産 | 18,672 | 19,593 | 920 | |
非流動資産 | 12,542 | 11,454 | △1,087 | |
資産合計 | 31,215 | 31,048 | △166 | |
負債 | ||||
流動負債 | 13,226 | 13,649 | 422 | |
非流動負債 | 5,939 | 4,863 | △1,076 | |
負債合計 | 19,166 | 18,512 | △654 | |
資本 | ||||
自己資本 | 10,877 | 11,320 | 442 | |
非支配持分 | 1,171 | 1,215 | 44 | |
資本合計 | 12,049 | 12,536 | 487 | |
負債及び資本合計 | 31,215 | 31,048 | △166 |
現金及び現金同等物 | 4,525 | 4,166 | △358 | |
有利子負債 | 4,022 | 3,162 | △860 | |
ネット有利子負債 | △502 | △1,004 | △502 |
(注)自己資本 :親会社の所有者に帰属する持分合計
有利子負債 :社債、借入金及びリース債務等
ネット有利子負債 :有利子負債-現金及び現金同等物
(ご参考)財務指標
前年度末 (2018年3月31日) | 当年度末 (2019年3月31日) | 前年度末比 | ||
自己資本比率 | 34.8% | 36.5% | 1.7% | |
D/Eレシオ | 0.37倍 | 0.28倍 | △0.09倍 | |
ネットD/Eレシオ | △0.05倍 | △0.09倍 | △0.04倍 |
(注)自己資本比率 :親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)÷資産合計
D/Eレシオ :有利子負債÷親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
ネットD/Eレシオ :(有利子負債-現金及び現金同等物)÷親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)
(ご参考)確定給付型退職給付制度の状況 (億円)
前年度末 (2018年3月31日) | 当年度末 (2019年3月31日) | 前年度末比 | ||
a.確定給付制度債務 | △24,137 | △16,118 | 8,018 | |
b.年金資産 | 21,984 | 15,026 | △6,958 | |
c.積立状況 (a)+(b) | △2,152 | △1,092 | 1,060 |
当年度末の資産合計は3兆1,048億円と、前年度末から166億円減少しました。流動資産は1兆9,593億円と、前年度末から920億円増加しました。国内サービスの売上増加に伴う売上債権・その他の流動資産が増加した影響がありました。現金及び現金同等物は4,166億円と、前年度末から358億円減少しました。社債の償還や借入金の返済を進めたことなどによります。棚卸資産は2,260億円と、前年度末から155億円減少し、資産効率を示す月当たり回転数は1.22回と、ほぼ前年並みとなりました。非流動資産は1兆1,454億円と、前年度末から1,087億円減少しました。有形固定資産が865億円減少しました。300mm半導体製造工場の台湾ユナイテッド・マイクロエレクトロニクス・コーポレーションへの譲渡合意に伴い当該工場の有形固定資産を売却目的で保有する資産に振り替えたことなどによります。
負債合計は1兆8,512億円と、前年度末から654億円減少しました。流動負債は1兆3,649億円と、前年度末から422億円増加しました。その他の債務が633億円増加しました。間接/支援部門の外部キャリア転進支援に係る未払金を計上した影響がありました。非流動負債は4,863億円と、前年度末から1,076億円減少しました。社債、借入金及びリース債務が前年度末から811億円減少したほか、富士通企業年金基金の制度改訂などにより退職給付に係る負債が767億円減少しました。流動負債及び非流動負債の社債、借入金及びリース債務をあわせた有利子負債は3,162億円と、社債を一部償還したほか借入金の返済を進めたことにより前年度末から860億円減少しました。D/Eレシオは0.28倍と、前年度末より0.09ポイント下降しました。有利子負債から現金及び現金同等物を控除したネット有利子負債残高は1,004億円のマイナスとネットキャッシュのポジションが拡大しました。前年度末から502億円改善するなど財務体質の改善を進めることが出来ました。
資本合計は1兆2,536億円と、前年度末から487億円増加しました。利益剰余金は5,768億円と、前年度末から970億円増加しました。親会社の所有者に帰属する当期利益1,045億円を計上したことなどによります。その他の資本の構成要素は246億円と前年度末から320億円減少しました。IFRS第9号(金融商品)を適用した影響があったほか、持ち合い株式の売却を進めた影響がありました。また、自己株式は295億円のマイナスと、自己株式の取得を進めたことなどにより前年度末から223億円保有額が増加しました。これらの結果、親会社の所有者に帰属する持分合計(自己資本)は1兆1,320億円となりました。親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率)は36.5%と、前年度末から1.7ポイント上昇しました。
当社は、経営目標として自己資本比率40%以上を掲げています。今後、ビジネスモデルの変革をさらに進め収益性を高めることにより、自己資本を充実させ財務の健全性を高めていきます。
連結財政状態計算書に計上されないオフバランスの負債は、IAS第17号(リース)に規定される解約不能オペレーティング・リース取引に係る将来の最低リース料総額が1,488億円、IAS第16号(有形固定資産)及びIAS第38号(無形資産)に規定される資産の取得に関する契約上のコミットメントが378億円です。
従業員の確定給付型退職給付制度の退職給付債務は1兆6,118億円と、前年度末から8,018億円減少し、年金資産は1兆5,026億円と、前年度末から6,958億円減少しました。この結果、確定給付型退職給付制度の積立状況(退職給付債務から年金資産を控除した金額)は1,092億円の不足と、前年度末から1,060億円改善しました。国内制度の積立状況は、2018年6月に実施した富士通企業年金基金の制度改訂などにより、前年度末から853億円改善しました。海外制度の積立状況は、退職給付債務の減少もあり前年度末から207億円改善しました。
④ キャッシュ・フロー
<要約連結キャッシュ・フロー計算書>(億円)
前年度 (自 2017年4月 1日 至 2018年3月31日) | 当年度 (自 2018年4月 1日 至 2019年3月31日) | 前年度比 | ||
Ⅰ営業活動によるキャッシュ・フロー | 2,004 | 994 | △1,009 | |
Ⅱ投資活動によるキャッシュ・フロー | △225 | 41 | 267 | |
Ⅰ+Ⅱフリー・キャッシュ・フロー | 1,778 | 1,035 | △742 | |
Ⅲ財務活動によるキャッシュ・フロー | △1,124 | △1,366 | △241 | |
Ⅳ現金及び現金同等物の期末残高 | 4,526 | 4,167 | △359 |
当年度の営業活動によるキャッシュ・フローは994億円のプラスと、前年度からは1,009億円の収入減となりました。税引前利益が減少したほか、法人所得税の支払額が増加しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは41億円のプラスと、前年度からは267億円の支出減となりました。サービスや電子部品関連設備など有形固定資産の取得やソフトウェアを中心とした無形資産の取得で1,206億円を支出しています。一方で、持ち合い株式の売却を進めたことなどにより投資有価証券の売却による収入779億円があったほか、ビジネスモデル変革に伴う事業譲渡収入、貸付金の回収による収入が437億円ありました。
営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたフリー・キャッシュ・フローは1,035億円のプラスと、前年度からは742億円の収入減となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは1,366億円のマイナスとなりました。社債の償還や借入金の返済を進めたほか、自己株式の取得による支出がありました。前年度からは241億円の支出増となりました。
この結果、現金及び現金同等物の期末残高は前年度末から359億円減少し、4,167億円となりました。
当社グループは、資金需要に応じた効率的な資金調達を確保するため、手許流動性を適切な水準に維持することを財務活動上の重要な指針としています。手許流動性は、現金及び現金同等物と、複数の金融機関との間で締結したコミットメントライン契約に基づく融資枠のうち未使用枠残高の合計額です。当年度末の手許流動性は5,414億円で、現金及び現金同等物を4,167億円、コミットメントライン未使用枠を1,247億円保有しています。
当社は、グローバルに資本市場から資金調達するため、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(以下、ムーディーズ)、スタンダード&プアーズ(以下、S&P)及び株式会社格付投資情報センター(以下、R&I)から債券格付けを取得しています。当年度末現在における格付け(長期/短期)は前年度末から変更なく、ムーディーズ:A3(長期)、S&P:BBB+(長期)、R&I :A(長期)/a-1(短期)です。
当年度の有形固定資産の設備投資額は835億円(前年度比11.2%減)になりました。テクノロジーソリューションでは、国内外のデータセンターやクラウドサービス設備などを中心に493億円(前年度比6.8%増)を投資しています。ユビキタスソリューションでは、12億円(前年度比83.6%減)を投資しています。携帯端末事業の譲渡及びパソコン事業再編により減少しています。デバイスソリューションでは、LSIの製造設備のほか、電子部品のうち半導体パッケージの製造設備などに264億円(前年度比19.7%減)を投資しています。また、上記セグメント以外では65億円の設備投資を行っています。
なお、当年度後1年間の設備投資計画は、第3「設備の状況」3「設備の新設、除却等の計画」にて記載しています。
⑤ 生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、当社グループの経営管理においては、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。なお、当年度におけるセグメントごとの販売実績は、(1)②(vi)セグメント情報にて記載しております。
⑥ 重要な会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準(以下、IFRS)に準拠して作成しております。当社の連結財務諸表に適用している重要な会計方針については、「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 3. 重要な会計方針」をご参照ください。
IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営陣は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用に影響を与える判断、見積り及び仮定を必要としておりますが、実際の結果と異なる場合があります。また、見積り及びその基礎となる仮定は継続して見直されます。会計上の見積りの見直しによる影響は、その見積りを見直した連結会計期間及び影響を受ける将来の連結会計期間において認識されます。現在の状況と将来の展望に関する仮定は、当社グループにとって制御不能な市場の変化又は状況により変化する可能性があります。こうした仮定の変更は、それが起きた時点で反映しております。経営陣は、以下の会計方針の適用における仮定及び見積りが、連結財務諸表に重要な影響を与えると考えております。
(ⅰ)有形固定資産
有形固定資産の減価償却費は、事業ごとの実態に応じた回収期間を反映した見積耐用年数に基づき、主として定額法で算定しております。将来、技術革新等による設備の陳腐化や用途変更が発生した場合には、現在の見積耐用年数を短縮させる必要性が生じ、連結会計期間あたりの償却負担が増加する可能性があります。また、事業環境の急激な変化に伴う生産設備の遊休化や稼働率低下のほか、事業再編などにより、保有資産から得られる将来キャッシュ・フロー見込額が減少した場合には、減損損失が発生する可能性があります。
(ⅱ)のれん
のれんは、年次で、また、減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを行っております。のれんが配分された資金生成単位(Cash Generating Unit。以下、CGU)の回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に、減損損失を認識しております。回収可能価額は主に使用価値により算定しております。使用価値は、割引キャッシュ・フロー・モデルにより算定しており、事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローのほか、成長率、各CGUが属するグループ企業の加重平均資本コストを基礎とした割引率等の仮定を使用しております。これらの仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業環境の変化等により見直しが必要となった場合、減損損失が発生する可能性があります。
(ⅲ)無形資産
ソフトウェアの減価償却について、市場販売目的のソフトウェアについては、見込有効期間における見込販売数量に基づいて償却しております。自社利用ソフトウェアやその他の無形資産のうち耐用年数を確定できるものは、利用可能期間に基づく定額法により償却しております。事業環境の変化等により、販売数量が当初販売計画を下回る場合や利用可能期間の見直しの結果、耐用年数を短縮させる場合には、連結会計期間あたりの償却負担が増加する可能性があります。
(ⅳ)繰延税金資産
法人所得税の算定に際しては、当社グループが事業活動を行う各国の税法規定の解釈や税法の改正、将来課税所得の金額及び時期など、様々な要因について合理的な見積り及び判断が必要になります。繰延税金資産は、未使用の税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は連結会計期間末に見直し、一部又は全部の繰延税金資産の便益を実現させるだけの十分な課税所得を稼得する可能性が高くない場合は、繰延税金資産の計上額を減額しております。課税所得が生じる時期及び金額は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があります。また、税制改正により実効税率が変更された場合には、繰延税金資産の残高が増減する可能性があります。
(ⅴ)確定給付型退職給付制度
当社グループは、確定給付型及びリスク分担型ならびに確定拠出型の退職給付制度を設けております。確定給付型の退職給付制度の積立状況(確定給付制度債務から制度資産の公正価値を控除した金額)の変動額については、再測定した時点で、税効果を調整した上でその他の包括利益で認識し、その他の資本の構成要素から直ちに利益剰余金に振り替えております。運用収益の悪化により制度資産の公正価値が減少した場合や、制度債務算出にあたっての種々の前提条件(割引率、退職率、死亡率等)が変更され制度債務が増加した場合には、積立状況が悪化し、資本が減少する可能性があります。
(2)経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報
IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目と、当社グループが従前採用していた日本基準により作成した場合の連結財務諸表の主要な差異は以下のとおりであります。なお、当該差異の金額については、当社グループは日本基準に基づく連結財務諸表を作成していないため概算額で記載しております。
[連結貸借対照表]
(退職給付に係る調整累計額)
退職給付に係る負債(資産)の純額(数理計算上の差異)898億円は、日本基準ではその他の包括利益累計額に含めて表示されますが、IFRSでは利益剰余金に含めて表示しております。
(投資有価証券の減損)
投資有価証券について、日本基準では時価が著しく下落した場合などに減損処理されます。一方、IFRSではIFRS第9号「金融商品」の適用により公正価値が著しく下落した場合における減損処理は廃止され、当年度の期首において、利益剰余金の減額となった過去の減損処理額をその他の資本の構成要素へ振り替えております。また、投資有価証券の売却時にその他の包括利益として認識されていた累積利得及び損失を利益剰余金に振り替えているため、期中における投資有価証券の売却による影響も加味すると、IFRSでは日本基準に比べて、当年度末における利益剰余金が129億円増加しており、その他の資本の構成要素が129億円減少しております。
[連結損益計算書及び連結包括利益計算書]
(退職給付に係る費用)
退職給付に係る負債(資産)の純額(数理計算上の差異)について、日本基準では原則として一定期間で償却しますが、数理計算上の差異として一時の費用としない理由が失われている場合は即時償却いたします。一方、IFRSでは数理計算上の差異は償却しません。過去勤務費用については、日本基準では一定期間で償却されますが、IFRSでは発生時に即時認識されます。利息の計算において、日本基準では退職給付債務に割引率を乗じて算定した利息費用と、年金資産に長期期待運用収益率を乗じて算定した期待運用収益を使用しておりますが、IFRSでは確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除した金額に割引率を乗じて算定した利息純額を使用しております。
これらの影響により、IFRSでは日本基準に比べて、売上原価並びに販売費及び一般管理費、税引前利益がそれぞれ406億円減少、810億円増加し、税引後その他の包括利益は622億円減少しております。
(のれんの償却)
のれんは、日本基準では一定期間で償却されますが、IFRSでは償却されません。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、販売費及び一般管理費が48億円減少しております。
(投資有価証券の売却損益)
投資有価証券の売却損益について、日本基準では純損益で認識されますが、IFRSではその他の包括利益で認識されます。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、税引前利益が52億円減少しております。
(関連会社株式の公正価値評価損益)
子会社株式の譲渡により、親会社としての持分比率が低下し、子会社が関連会社に該当することとなった場合、日本基準では残存する当該会社の株式は、当該会社に対する持分を基礎として評価されますが、IFRSでは支配を喪失した日における公正価値で評価され、発生した差額は損益として認識されます。この影響により、IFRSでは日本基準に比べて、持分法による投資利益が116億円増加しております。