有価証券報告書-第123期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/30 15:14
【資料】
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【項目】
161項目
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営成績等の状況の概要
①経営成績
当連結会計年度の業績は次のとおりです。
(単位:億円)
前連結会計年度当連結会計年度前年同期比現地通貨ベース
前年同期比
売上高7,6867,012△8.8%△6.2%
営業利益413397△4.0%+1.5%
経常利益413365△11.7%
親会社株主に帰属する当期純利益235132△43.7%
EBITDA674556△17.5%
US$/円(平均)109.11106.37△2.5%
EUR/円(平均)122.13121.43△0.6%

EBITDA:親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償却額
当連結会計年度(2020年1月~12月)における当社グループの業績は、売上高は前年同期比8.8%減の7,012億円でした。コロナ禍が世界的に長期化するなか、第4四半期(10~12月)は幅広い地域で経済活動が回復したことで、自動車向け材料、出版用インキを中心に多くの製品の出荷が戻りましたが、通年では全てのセグメントで前年同期比で減収となりました。第3四半期(7~9月)との比較では、第4四半期は9.6%の増収となりました。
営業利益は前年同期比4.0%減の397億円でした。通年で減収となったものの、原料価格の低下、活動経費の減少と合理化を含めたコスト削減効果や第4四半期における出荷数量の回復もあり、現地通貨ベースでは1.5%の増益となりましたが、新興国通貨安などによる海外事業の換算目減りが利益を押し下げました。
経常利益は、前年同期比11.7%減の365億円でした。 親会社株主に帰属する当期純利益は、前年同期比43.7%減の132億円でした。2019年8月29日に公表したBASF社の顔料事業取得に伴う買収関連の一時費用が発生したことに加え、同事業取得に関連した特別損失を計上しました。
EBITDAは、前年同期比17.5%減の556億円でした。
また、各セグメントの業績は次のとおりです。
(単位:億円)
セグメント売 上 高営 業 利 益
前連結
会計年度
当連結
会計年度
前年
同期比
現地通貨
ベース
前年同期比
前連結
会計年度
当連結
会計年度
前年
同期比
現地通貨
ベース
前年同期比
パッケージング&
グラフィック
4,1643,884△6.7%△2.9%192218+13.5%+23.3%
カラー&ディスプレイ1,1641,058△9.1%△6.7%10884△21.7%△19.7%
ファンクショナル
プロダクツ
2,6862,360△12.1%△11.6%192171△11.1%△10.6%
その他、全社・消去△328△290--△79△76--
7,6867,012△8.8%△6.2%413397△4.0%+1.5%


[パッケージング&グラフィック]
前連結会計年度当連結会計年度前年同期比現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高4,164億円3,884億円△6.7%△2.9%
営 業 利 益192億円218億円+13.5%+23.3%

売上高は、前年同期比6.7%減の3,884億円でした。食品包装分野では、パッケージ用インキは需要が堅調なアジア及び米州や欧州で出荷が伸び、増収となりましたが、コロナ禍でコンビニ向けなどの販売が伸び悩んだ国内では減収となりました。商業印刷や新聞を主用途とする出版用インキは、各地域において広告及びカタログなどの商業向けの需要が第3四半期から更に回復しましたが、コロナ禍で落ち込んだ出荷分を取り戻すには至らず、通年では各地域とも減収となりました。デジタル印刷で使用されるジェットインキは、第3四半期に落ち込んだ需要の反動から出荷が好調に推移し、増収となりました。
営業利益は、前年同期比13.5%増の218億円でした。コロナ禍における食品パッケージ需要の高まりにより、アジア及び米州や欧州でのパッケージ用インキや国内での多層フィルムの出荷が年間通して堅調に推移したことに加え、合理化効果を中心としたコストダウンが進んだことにより大幅な増益となりました。
[カラー&ディスプレイ]
前連結会計年度当連結会計年度前年同期比現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高1,164億円1,058億円△9.1%△6.7%
営 業 利 益108億円84億円△21.7%△19.7%

売上高は、前年同期比9.1%減の1,058億円でした。色材分野では、世界的なマスク着用の生活様式の定着により、化粧品用顔料を中心に出荷が引き続き停滞したほか、インキ用顔料も低調に推移した結果、大幅な減収となりました。一方、ディスプレイ分野では、在宅時間の増加などによる液晶パネル市場の旺盛な需要に伴い、カラーフィルタ用顔料やTFT液晶の出荷が伸び、通年では増収となりました。また、欧州での建材用発泡コンクリートの需要増により、光輝材も増収となりました。
営業利益は、前年同期比21.7%減の84億円でした。第4四半期において、付加価値が高いディスプレイ分野の製品出荷が伸びましたが、米州や欧州において、化粧品用顔料などの出荷が停滞するなか、生産調整に伴う一部工場の稼働率の低下により、固定費などのコストを依然として吸収できず、前年同期比で大幅な減益となりました。
[ファンクショナルプロダクツ]
前連結会計年度当連結会計年度前年同期比現地通貨ベース
前 年 同 期 比
売 上 高2,686億円2,360億円△12.1%△11.6%
営 業 利 益192億円171億円△11.1%△10.6%

売上高は、前年同期比12.1%減の2,360億円でした。半導体分野を主用途とするエポキシ樹脂は車載関連の需要が第4四半期に入って戻り、出荷が好調に推移しました。また、スマートフォンを主用途とする工業用テープの出荷も伸びました。サステナブル樹脂※の需要は自動車関連を中心に出荷が大幅に回復しましたが、通年では減収となりました。自動車の軽量化や電装化に伴って用途が拡大しているPPSコンパウンドにつきましても、各地域とも自動車市場の回復に伴い、第4四半期は前年同期を大幅に上回る出荷数量となりましたが、通年では減収となりました。
営業利益は、前年同期比11.1%減の171億円でした。高付加価値品であるエポキシ樹脂の出荷が戻りましたが、自動車や建材など幅広い工業製品の年間通しての出荷の減少を原料費の低下やコスト削減効果などによってカバーできず、前年同期比で減益となりました。
※サステナブル樹脂:環境対応と機能性を高めることを目指した樹脂戦略製品の総称で、水性、UV硬化型、ポリエステル、アクリル、ウレタン樹脂が含まれます。
②キャッシュ・フロー
[営業活動によるキャッシュ・フロー] 545億円(前連結会計年度 506億円)
当連結会計年度は、税金等調整前当期純利益が251億円、減価償却費が326億円となりました。また、運転資本の減少により85億円の資金を取得した一方、法人税等に74億円を支払いました。以上の結果、営業活動により得られた資金の総額は545億円となりました。
[投資活動によるキャッシュ・フロー] △330億円(前連結会計年度 △249億円)
当連結会計年度は、設備投資に340億円、子会社株式の取得により28億円の資金を使用しました。一方で、有形固定資産の売却により59億円を取得しました。以上の結果、投資活動に使用した資金の総額は330億円となりました。
[財務活動によるキャッシュ・フロー] 63億円(前連結会計年度 △268億円)
当連結会計年度は、借入等により179億円の資金を調達した一方で、剰余金の配当として85億円を支払いました。以上の結果、財務活動により得られた資金の総額は63億円となりました。
(キャッシュ・フロー関連指標の推移)
2018年度2019年度2020年度
自己資本比率(%)37.338.938.9
時価ベースの自己資本比率(%)39.835.830.1
キャッシュ・フロー対
有利子負債比率
(年)5.25.04.9
事業収益インタレスト・
カバレッジ・レシオ
(倍)10.311.918.6

(注)1.各指標の算式は以下のとおりです。
自己資本比率 :(純資産-非支配株主持分)/総資産
時価ベースの自己資本比率 :株式時価総額(期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後))/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率 :有利子負債/営業キャッシュ・フロー
事業収益インタレスト・カバレッジ・レシオ:(営業利益+受取利息+受取配当金)/支払利息
2.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。
3.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている借入金、社債及びリース債務を対象にしています。
営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。
また、支払利息については、連結損益計算書の支払利息を使用しています。
4.「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号 2018年2月16日) 等を2019年度の期首から適用しており、2018年度に係るキャッシュ・フロー関連指標については、当該会計基準等を遡って適用した後の指標となっています。
③生産、受注及び販売の実績
(イ) 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
セグメント金額(百万円)前年同期比(%)
パッケージング&グラフィック351,49991.1%
カラー&ディスプレイ100,79092.0%
ファンクショナルプロダクツ232,40788.6%
報告セグメント計684,69690.3%
その他40-
684,73690.3%

(注)1.生産実績は期中平均販売価格により算出しています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
(ロ) 受注実績
当社グループは、主として見込生産を行っているため、該当事項はありません。
(ハ) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
セグメント金額(百万円)前年同期比(%)
パッケージング&グラフィック388,42393.3%
カラー&ディスプレイ79,40491.8%
ファンクショナルプロダクツ232,97987.8%
報告セグメント計700,80691.2%
その他41794.0%
701,22391.2%

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
(2)経営者の視点による財政状態、経営成績等の状況の分析
①経営成績の分析
経営成績の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績」に記載しています。
②財政状態の分析
当連結会計年度の資産の部は、主に現金及び預金の増加などにより、前連結会計年度末と比べて149億円増加し、8,180億円となりました。負債の部は、主に有利子負債の増加などにより、前連結会計年度末比70億円増の4,666億円となりました。また、純資産の部は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上や配当金の支払などにより、前連結会計年度比79億円増の3,514億円となりました。
③資本の財源及び資金の流動性
(a) キャッシュ・フローの状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フロー」に記載しています。
(b) 財務戦略
当社グループは、経営指標としてD/Cレシオ※を設定し、これを50%程度以下に維持することを目標としています。2021年度末は欧州化学メーカー最大手のドイツBASF社が保有するグローバル顔料事業(BASF Colors & Effects)の買収により有利子負債の増加が見込まれますが、資本性の認められる借入の実施や資産売却、運転資本管理の強化を通じて、D/Cレシオを50%程度に維持する見込みです。
(※)D/Cレシオ=有利子負債/(有利子負債+純資産)
(c) 資金需要の主な内容
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、原材料等の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資を目的とした資金需要は、設備投資、子会社株式及び出資金の取得、関連会社株式及び出資金の取得等によるものです。今後の設備投資計画等については、「第3 設備の状況 3.設備の新設、除却等の計画」に記載しています。
(d) 資金調達
これらの資金需要に対して当社グループは、運転資金については、自己資金のほか短期借入金及びコマーシャル・ペーパーの発行により、また設備投資等の長期資金については、長期借入金及び社債で調達を行っています。
なお、当連結会計年度末における借入金及びリース債務を含む有利子負債の残高は2,667億円、D/Cレシオは43.2%です。また、コロナ禍における金融市場の混乱に備えて、手元流動性を高めた結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は414億円です。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度における資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える将来に関する見積りを実施する必要があります。経営者は、これらの見積りについて、当連結会計年度末時点において過去の実績やその他の様々な要因を勘案し、合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は将来においてこれらの見積りとは異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表作成において採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、当社グループの連結財務諸表に重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う会計上の見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載しています。
(a) 固定資産の減損
当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローを過去の実績や将来事業計画等を勘案のうえ合理的に見積り、見積られた割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。減損損失の認識及び測定で利用する将来キャッシュ・フロー等の見積りは、企業の固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測を用いており、今後、当社グループの資産又は資産グループに関連する経営環境等が変化し、仮定及び予測の修正が必要になった場合には、追加の減損処理が必要となる可能性があります。
(b) 繰延税金資産
当社グループは、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産の回収可能性に不確実性がある場合は、評価性引当額の計上を行い、将来実現する可能性が高いと考えられる金額を繰延税金資産として計上しています。繰延税金資産の回収可能性は、主に将来の課税所得の見積りによるところが大きく、課税所得の予測は将来の市場動向や当社グループの事業活動の状況及びその他の要因により変化します。このため、繰延税金資産の回収可能性の変化により、評価性引当額が変動し、損益に影響を及ぼす可能性があります。
(c) 退職給付債務及び費用
当社グループの確定給付型の制度に関わる退職給付債務及び退職給付費用は、簡便法を採用している連結子会社を除き、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されています。これらの前提条件には、割引率、退職率、昇給率、死亡率及び年金資産の長期期待運用収益率等が含まれます。実際の結果が前提条件と異なる場合又は前提条件が変更された場合には、数理計算上の差異が発生し、退職給付費用及び債務が変動する可能性があります。
(d) 事業整理損
当社グループは、当連結会計年度に米国の高級顔料に関わる事業を売却する方針を固めたことに伴い、売却対象資産の処分により発生が見込まれる損失を事業整理損として計上しました。売却により見込まれる損失は、売却コスト控除後の公正価値に基づいて合理的な見積りを行っていますが、将来の予測不能な前提条件の変化により、公正価値が変動し、損益に影響を及ぼす可能性があります。
(3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度における中期経営計画「DIC111」の達成状況は次のとおりです。
(単位:億円)
2019年度実績2020年度計画2020年度実績2021年度計画
売上高7,6869,0007,0129,500
営業利益413600397700
売上高営業利益率5.4%6.7%5.7%7.4%
親会社株主に帰属する
当期純利益
235370132450
EBITDA(注)6749105561,020
売上高EBITDA率8.8%10.1%7.9%10.7%
ROE7.7%10~12%4.2%10~12%

(注)EBITDA=親会社株主に帰属する当期純利益+法人税等合計+支払利息-受取利息+減価償却費+のれん償却額
翌連結会計年度の経済状況については、国内外で新型コロナウイルス感染拡大の防止策を講じるなかで、持ち直しの動きが続くことが期待されますが、感染再拡大による下振れリスクの高まりに十分注意する必要があります。また、原油の需要が2020年と比べて高まる可能性があることから、原油価格の上昇とそれに伴う原料価格の動向に留意する必要があります。
このような状況下、当社グループは中期経営計画「DIC111」において、成長の加速に向け、Value Transformation(質的転換による事業体質強化)とNew Pillar Creation(社会の課題・変革に対応した新事業創出)といった二つの基軸による事業ポートフォリオ転換を基本戦略に掲げ、取り組んでいます。最終年度となる2021年度はその方針を加速し、マクロ環境変化の影響を受けにくい、より差別化された高付加価値品の上市・拡販や更なるコストダウン施策に取り組むことで全セグメントで増収増益を見込んでいます。
また、BASF社グローバル顔料事業の買収については、2021年第1四半期中のクロージング及びその後のスムーズな事業移管に向けて引き続き作業を進めていきます。
なお、本件のクロージングは米連邦取引委員会からの承認を前提としているため、承認手続きの進捗次第では買収実行日が2021年上期中に変更となる可能性があります。