有価証券報告書-第96期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)
(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
当期における当社グループの経営成績の状況の概要は、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しています。
② 当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー
当連結会計年度末における資産、負債、資本については、下記の通りです。
連結総資産は7兆5,739億円と、前連結会計年度に比べて1,289億円増加しました。負債は4兆4,425億円と、前連結会計年度に比べて57億円の減少となりました。資本は3兆1,313億円と、前連結会計年度に比べて1,347億円増加しました。なお、当期末の親会社の所有者に帰属する持分は2兆7,599億円となり、有利子負債は当期末2兆5,592億円となりました。この結果、親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.93倍(劣後ローン・劣後債資本性調整後0.70倍)となりました。
(総資産)
現金及び現金同等物は、前期末(2,894億円)から700億円増加し、当期末3,594億円となりました。これは、上期に新型コロナウイルスの感染拡大の影響等を踏まえ、手元流動性確保のために現預金を積み増したこと等によるものです。
棚卸資産は、前期末(1兆5,321億円)から1,828億円減少し、当期末1兆3,493億円となりました。これは、主に国内外の鉄鋼需要の変化に即した生産対応等によるものです。
有形固定資産は、前期末(2兆8,125億円)から1,423億円増加し、当期末2兆9,549億円となりました。これは、設備の健全性の維持・強化とさらなる生産性向上を図るべく、北海製鉄㈱(室蘭製鉄所構内)における第2高炉の改修、名古屋製鉄所の第3コークス炉パドアップに向けた建設等実行に加え、自動車・電力向け需要の拡大とハイグレード化のニーズに対応すべく、九州製鉄所八幡地区や瀬戸内製鉄所広畑地区における電磁鋼板製造設備を増強したこと等によるものです。
持分法で会計処理されている投資は、前期末(8,782億円)から609億円減少し、当期末8,173億円となりました。これは、米国の冷延・メッキ鋼板事業を営むI/N Tek・I/N Koteの売却や、ブラジルのシームレスパイプ事業を営むVSBの売却等、事業の選択と集中を進めたこと等によるものです。
非流動資産のその他の金融資産は前期末(4,811億円)から1,471億円増加し、当期末6,282億円となりました。これは前期末に比べ、株価の上昇により保有する投資有価証券の公正価値が増加したこと等によるものです。
(負債)
有利子負債は前期末(2兆4,887億円)から705億円増加し、当期末2兆5,592億円となりました。これは、下期は営業キャッシュ・フローが改善した一方、上期に必要となる資金を劣後ローンを増額して借り換えたこと等によるものです。
営業債務及びその他の債務は、前期末(1兆4,498億円)から670億円減少し、当期末1兆3,827億円となりました。これは、主に買掛金の減少によるものです。
(資本)
利益剰余金は、前期末(1兆8,709億円)から393億円増加し、当期末1兆9,103億円となりました。これは、親会社の所有者に帰属する当期損失(324億円)による減少があったものの、従業員給付に係る制度資産の公正価値の上昇や、保有株式の売却等によって、その他の資本の構成要素が利益剰余金へ振り替わったことによるものです。
その他の資本の構成要素は、前期末(152億円)から800億円増加し、当期末953億円となりました。これは、保有株式の時価の上昇による、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産の公正価値の増加等によるものです。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローについては、下記の通りです。
営業活動によるキャッシュ・フローは4,031億円の収入となりました(前期は4,943億円の収入)。
投資活動によるキャッシュ・フローは3,890億円の支出となりました(前期は3,456億円の支出)。
この結果、フリーキャッシュ・フローは141億円の収入となりました(前期は1,487億円の収入)。
財務活動によるキャッシュ・フローは526億円の収入となりました(前期は145億円の支出)。
以上により、当期末における現金及び現金同等物は3,594億円(前期は2,894億円)となっております。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前損失86億円に、減価償却費及び償却費(2,908億円)、事業再編損(986億円)の加算、棚卸資産の減少(1,713億円)等による収入があった一方、持分法による投資損益(552億円)の控除の調整、営業債務及びその他の債務の減少(663億円)等による支出がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
2020年中期経営計画で予定しておりました資産圧縮を上積みして進めたこと等による投資有価証券の売却による収入(373億円)、海外事業を中心とした関係会社株式の売却による収入(205億円)等がありました。
一方、国内マザーミルの競争力強化に向け、設備の新鋭化を進めており、北海製鉄㈱(室蘭製鉄所構内)における第2高炉の改修、名古屋製鉄所の第3コークス炉パドアップ等を実行しております。この結果、有形固定資産及び無形資産の取得による支出(4,598億円)等がありました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
下期は営業キャッシュ・フローが改善した一方、上期に新型コロナウイルスの感染拡大の影響等に備え、必要となる劣後ローンを増額して借り換えを行いました。この結果、有利子負債の増加(459億円)等がありました。
③ 生産、受注及び販売の状況
a. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) 1 金額は製造原価による。
2 上記の金額には、グループ向生産分を含む。
b. 受注状況
当連結会計年度における受注状況をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注)1 上記の金額には、グループ内受注分を含まない。
2 「製鉄」、「ケミカル&マテリアル」は、多種多様な製品毎に継続的且つ反復的に注文を受けて生産・出荷する形態を主としており、その受注動向は、生産実績や販売実績に概ね連動していく傾向にあり、また、需要動向等についても、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」において記載していることから、金額又は数量についての記載を省略している。
c. 販売実績
当連結会計年度における外部顧客に対する販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) 1 前連結会計年度及び当連結会計年度における輸出販売高及び輸出割合は、次のとおりである。
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
2 主な輸出先及び輸出販売高に対する割合は、次のとおりである。
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
3 前連結会計年度及び当連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりである。
当連結会計年度において、生産及び販売の実績が著しく減少しております。なお、生産、受注及び販売等に関する特記事項については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」等に記載しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(経営成績の分析)
当期の世界経済は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大等を受けて、上期を中心に経済活動が縮小し、景気は大幅に減速しました。日本経済も、世界経済の動向や、新型コロナウイルス感染拡大の影響等を受けて悪化しました。下期においては、国内外の経済は回復に向かいましたが、そのペースは各国で異なり、日本においては、持ち直しを見せていた個人消費等が再び低迷した一方で、いち早く経済活動が再開された中国においては、固定資産投資等を中心に堅調に回復しました。
鉄鋼需要については、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、国内外ともに急激に減少しました。下期は、国内においては、自動車をはじめとした製造業向けを中心に回復しましたが、新型コロナウイルス感染拡大前に対しては低位にとどまりました。鉄鋼市況については、世界の粗鋼生産の約6割を占める中国において高水準の内需と生産が継続したことにより上昇し、また、他地域においても経済活動の再開に伴い鋼材需給が引き締まったことにより、上昇傾向となりました。
当期の連結業績につきましては、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響による鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量の減少やグループ会社の収益悪化等の影響により大幅な赤字となりましたが、下期は製造業向けを中心とした鉄鋼需要の回復に迅速かつ適切に対応した生産に取り組むとともに、固定費の大幅圧縮や変動費改善等による単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、通期の売上収益は4兆8,292億円(前期は5兆9,215億円)、連結事業利益は1,100億円(前期は△2,844億円)となりました。これに加えて、事業再編損の計上等により、親会社の所有者に帰属する当期利益は△324億円(前期は△4,315億円)となりました。
セグメント別の業績は以下のとおりです。当社グループは、製鉄事業を中核として、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しており、製鉄セグメントが連結売上収益の約9割を占めています。
(当期のセグメント別の業績の概況)
<製鉄>製鉄セグメントの売上収益は4兆2,284億円となり、前期(5兆2,573億円)に対して減少した一方で、セグメント利益は635億円となり、前期(△3,253億円)に対して増加しました。
製鉄セグメント利益の前期に対する増減(3,888億円)のうち、減損損失等の増減等(3,580億円)を除いた310億円の主な要因は次のとおりです。
生産・出荷数量減少 △2,490億円
マージン(販売価格・構成・原料価格) △50億円
コスト改善 1,650億円
減価償却費 1,200億円
在庫評価差 △180億円
グループ会社損益悪化 △300億円
為替影響 10億円
2019年度災害影響の戻り 420億円
その他 50億円
―――――――――――――――――――――――――――
合計 310億円
上期の鉄鋼需要は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内外ともに急激に減少しました。下期は、国内においては、自動車をはじめとした製造業向けを中心に回復しましたが、新型コロナウイルス感染拡大前に対しては低位にとどまりました。当社は、新型コロナウイルス感染症の影響による鉄鋼需要の変化に対しては、高炉の一時休止・再稼働等の生産対応、BCP(事業継続計画)の実行、臨時休業の実施、営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえた対策等に迅速かつ適切に取り組みました。当期における鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量減少の影響は、前期に対して△2,490億円となり、大幅な減益要因となりました。一方で、当社は固定費の大幅圧縮2,300億円(うち減価償却費1,200億円)と変動費改善550億円を実現し、損益分岐点を大幅に引き下げることで、単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、新型コロナウイルス影響下においても635億円のセグメント利益を確保しました。
<エンジニアリング>日鉄エンジニアリング㈱においては、製鉄・環境・エネルギー関連のプラント建設・施設運営から、海洋・港湾鋼構造物やパイプライン建設、建築等の多様な領域で、総合エンジニアリング技術を活かしたサービスをグローバルに提供しております。当期は、社会・環境の変化をより広く捉え、スピード感を持ってマーケットに対峙しニーズに応えていくため、事業部を廃止し、より広い事業分野を束ねる事業推進管理体制であるセクター制を導入しました。エンジニアリングセグメントの売上収益は3,244 億円(前期は3,404 億円)、セグメント利益は177億円(前期は107億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
製鉄プラントセクターは、高炉改修案件の完工や大型案件の着実なプロジェクト実行管理により、563億円と前期(550億円)に対して増加しました。環境・エネルギーセクターは、海外海洋ではタイのガス田開発案件の進捗により前期比で売上増となりましたが、電力での規模減少等があり、1,931億円と前期(2,149億円)に対して減少しました。都市インフラセクターは、大型物流倉庫を中心に堅調な受注環境が継続し、着実にプロジェクト管理を行ったことにより761億円と前期(739億円)に対して増加しました。
<ケミカル&マテリアル>日鉄ケミカル&マテリアル㈱においては、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で世界的に景気が低迷するなか、上期は厳しい収益状況となりましたが、下期においては事業環境が改善し、コスト削減等の収益改善努力や退職金制度変更等の影響もあり、通期では黒字を確保しました。ケミカル&マテリアルセグメントの売上収益は1,786億円(前期は2,157億円)、セグメント利益は76億円(前期は184億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
コールケミカル事業につきましては、主力の黒鉛電極向けニードルコークスの需要低迷が継続し、260億円と前期(490億円)に対して減少しました。化学品事業では、昨年初めから低迷していたスチレンモノマーやビスフェノールAの市況が下期に入って回復しましたが、売上収益は760億円と前期(930億円)に対して減少しました。機能材料事業では、半導体関連材料や液晶ディスプレイ用材料の販売が年度を通じて堅調に推移したことに加えて、年度当初低迷したスマートフォン向け材料の販売が回復に転じ、600億円と前期(560億円)に対して増加しました。複合材料事業では、炭素繊維による土木・建築分野向け補強材料が過去最高の年間売上を記録するとともに、エポキシ樹脂も車載機器及び半導体パッケージ基板向けに販売を伸ばし、170億円で前期(180億円)並となりました。
<システムソリューション>日鉄ソリューションズ㈱においては、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動水準が厳しい状況にあるなかで、新しい働き方へのITニーズに対してデジタルワークプレースソリューションの提供等を行いました。また、お客様のDXの推進を支援するため、デジタルイノベーション共創プログラムの提供や製造・エネルギー業界を中心としたローカル5Gソリューション及びIoXソリューションの推進等に取り組みました。しかしながら、前期における大型基盤案件の反動減等の影響により、売上収益は減収となりました。事業利益につきましても、主に売上総利益が減少した結果、減益となりました。システムソリューションセグメントの売上収益は2,524億円(前期は2,732億円)、セグメント利益は239億円(前期は261億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
業務ソリューション事業は、金融分野向けにおける規制対応案件等の増加に加えて、産業、流通・サービス分野向けにおいて主に小売・輸送向け等が堅調でしたが、製造業向けの大型基盤案件、公共分野における官公庁向けの基盤案件及びテレコム分野向けのITプロダクトの反動減等により、1,622億円と前期(1,800億円)に対して減少しました。サービスソリューション事業は、ITインフラ分野向けにおいて主にITプロダクト等の減少、また鉄鋼分野においては前年度の当社の商号変更対応及び製鉄所組織の統合・再編成案件の反動減等により、897億円と前期(947億円)に対して減少しました。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
2020年度を実行最終年度とする「2020年中期経営計画」の収益、財務体質の各目標とそれに対する当期までの状況は以下のとおりです。
2020年度の連結業績につきましては、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響による鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量の減少やグループ会社の収益悪化等の影響により大幅な赤字となりましたが、下期は製造業向けを中心とした鉄鋼需要の回復に迅速かつ適切に対応した生産に取り組むとともに、固定費の大幅圧縮や変動費改善等による単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、通期の売上収益は4兆8,292億円(うち上期2兆2,419億円、下期2兆5,872億円)、連結事業利益は1,100億円(うち上期△1,065億円、下期2,165億円)、ROSは2.3%(うち上期△4.8%、下期8.4%)となりました。
(*1) 劣後ローン・劣後債資本性調整後
(*2) 2018年度~2020年度の3カ年累計
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー」 に記載しております。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(資本政策)
一定水準の財務健全性が維持されることを前提として、当社グループは投下資本の運用効率を重視し、投資先への資本の投入(資本的支出、R&D、M&A含む)によって企業価値を最大化する資本政策を推進しています。それは、資本コストを超過する収益の創出が期待され、持続的な成長を可能にすると同時に、株主への利益還元によって株主の要求を満たすものです。
当社グループは、上記資本政策の達成に必要な資金を、主として「稼ぐ力」の維持と向上によって生み出される営業キャッシュ・フローから獲得することに加え、必要に応じて銀行借入や社債の発行等、外部からの資金調達も実施しております。
また当社グループは、ROS、ROE及びD/Eレシオを中長期的な収益の成長と財務体質の健全性を達成する上での主要な経営管理指標としております。
剰余金の配当等につきましては、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載しております。
また、自己株式の取得については、機動性を確保する観点から、定款第33条の規定に基づき取締役会の決議によることと致します。取締役会においては、機動的な資本政策等の遂行の必要性、財務体質への影響等を考慮したうえで、総合的に判断することと致しております。
(資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法)
1)2020年中期経営計画の実行状況
2020年度は、上期での新型コロナウイルス感染拡大の影響等による営業キャッシュ・フローの悪化も踏まえ、安定生産力の完全定着、紐付き価格の是正及び変動費改善と固定費の大幅圧縮等の収益施策に取り組みました。これらに加え財務健全性を維持すべく、以下の対策を実行いたしました。
a. 資産圧縮の追加
2020年中期経営計画での資産圧縮目標を当初計画の1,000億円から、2018年度:1,000億円、2019年度:2,800億円、2カ年累計:3,800億円と増額し実行してまいりましたが、2020年度においても政策保有株式の売却を中心に更に1,400億円を追加で実行し(2018年度から2020年度までの累積実行額は5,200億円)、キャッシュ・フローの確保に努めました。
b. 設備投資の厳選と効率化の実施
長期更新計画に基づき、将来にわたり収益に貢献する品種・地域への選択投資を徹底すること等による投資の厳選と効率化を図った結果、国内設備投資額は2020年中期経営計画(約1兆7,000億円/3カ年)から3,000億円程度圧縮した1兆4,000億円となりました。
c. 劣後ローンによる資金調達の拡大
2020年7月に、新たに劣後ローンにて4,500億円の資金調達を実行いたしました(2015年7月に実行した劣後ローン3,000億円は、全額期限前弁済)。なお、格付け機関より資本性50%認定を取得しております。
財務体質については、これらの対策によりD/Eレシオ(※)0.7倍となり2020年中期経営計画の目標を達成いたしました。(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
2)日本製鉄グループ中長期経営計画
2021年3月に公表した「日本製鉄グループ中長期経営計画」では、成長の実現に向けた経営資源投入として、強靭な国内生産体制を再構築するための投資、戦略商品の対応力強化に資する投資等を積極的に実施することとし、5年間で2兆4,000億円の設備投資を実施します。具体的には、自動車鋼板製造の中核拠点である名古屋製鉄所において超ハイテン鋼板等の高級薄板の生産体制の抜本的強化に向けた次世代型熱延ラインの新設や、変圧器に対する効率化規制の強化や電動車需要拡大でニーズが高まる方向性・無方向性電磁鋼板について、九州製鉄所・瀬戸内製鉄所での既決定の能力向上対策に加え、瀬戸内製鉄所広畑地区で追加の能力向上対策を実施します。
また、成長著しい海外市場では、グローバル粗鋼1億トン体制を目指し、AM/NS Indiaの能力拡張施策の確実な推進に加え、中国・ASEAN等における一貫製鉄所の買収・資本参加(ブラウンフィールド)の実行に備え、5年間の事業投資規模を6,000億円とします。
加えて、ゼロカーボン・スチールを世界各社に先駆けて実現することを目指し、政府の各種施策と連携しながら、積極的に研究開発や設備投資の実行に取り組んでまいります。
さらに、デジタルトランスフォーメーション戦略にも資金投入を行い、データとデジタル技術を駆使して、生産プロセス改革および業務プロセス改革に取り組み、事業競争力を強化することで、デジタル先進企業となることを目指します。
なお、これら経営計画に必要な投資を実行する前提で、2025年度断面では、D/Eレシオ(※)(0.7以下)を実現することを目指します。(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
(流動性管理及び資金調達の方針について)
当社グループの円滑な事業活動に必要な資金を確保するため、手許資金及び外部借入を有効に活用しております。手許資金については、実需に見合った最低限の現預金を保有する方針としており、過去及び将来の資金繰りを勘案し、最適な保有残高を志向しております。外部借入については、安全性・安定性・柔軟性を担保する観点から基本的な調達の枠組みを決定しております。具体的には、不測の事態発生時における、当社の支払余力を確保すべく、適正な長期固定適合比率を維持するとともに、安全性の補完のためにコミットメントライン(当社連結:6,108億円)契約を締結しております。
また短期資金と長期資金のバランスを踏まえた有利子負債残高の設計により自由度を確保しており、当該枠組みの範囲内で、最適な資金調達の実現を志向しております。
③会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されております。重要な会計方針については、本報告書「第一部企業情報 第5 経理の状況」に記載しております。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、引当金の計上、非金融資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の判断等につきましては、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っております。但し、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果はこれら見積りと異なる場合があります。
当社が特に重要と判断している会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下です。
a.非金融資産の減損
当社グループは、資産が減損している可能性を示す兆候のいずれかが存在する場合、資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を回収可能価額として見積り、回収可能価額が資産又は資金生成単位の帳簿価額を下回る場合、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しており、使用価値は見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算出しております。当該キャッシュ・フローは中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎としており、これらの計画には鋼材需要の予測及び製造コスト改善等を主要な仮定として織り込んでおります。鋼材需要及び製造コスト改善の予測には高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が将来キャッシュ・フローに重要な影響を及ぼすと予想されます。なお、当期においては、当期末における有形固定資産の残高は2兆9,549億円、無形資産の残高は958億円です。
b.繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、鋼材需要の予測及び製造コスト削減等の仮定に基づいて算定された将来における課税所得の見積り等の予想など、現状入手可能な全ての将来情報を用いて、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。当社グループは、税務上の便益が実現する可能性が高いと判断した範囲内でのみ繰延税金資産を認識していますが、経営環境悪化に伴う中長期経営計画及び事業計画の目標未達等による将来における課税所得の見積りの変更や、法定税率の変更を含む税制改正などにより回収可能額が変動する可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債との相殺前)の残高は3,134億円です。
(新型コロナウイルス感染症が当社グループにおける重要な会計上の見積りに与える影響について)
新型コロナウイルス感染症が当社グループの非金融資産の減損及び繰延税金資産の回収可能性に与える影響については、鉄鋼需給構造の変化が新型コロナウイルスの影響で加速化し、さらに厳しい事業環境が継続すると仮定した中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎として会計上の見積りを行っています。この仮定は高い不確実性を伴っており、翌期以降において、仮定の見直しにより、見積り額及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があります。
① 経営成績の状況
当期における当社グループの経営成績の状況の概要は、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しています。
② 当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー
当連結会計年度末における資産、負債、資本については、下記の通りです。
連結総資産は7兆5,739億円と、前連結会計年度に比べて1,289億円増加しました。負債は4兆4,425億円と、前連結会計年度に比べて57億円の減少となりました。資本は3兆1,313億円と、前連結会計年度に比べて1,347億円増加しました。なお、当期末の親会社の所有者に帰属する持分は2兆7,599億円となり、有利子負債は当期末2兆5,592億円となりました。この結果、親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.93倍(劣後ローン・劣後債資本性調整後0.70倍)となりました。
(総資産)
現金及び現金同等物は、前期末(2,894億円)から700億円増加し、当期末3,594億円となりました。これは、上期に新型コロナウイルスの感染拡大の影響等を踏まえ、手元流動性確保のために現預金を積み増したこと等によるものです。
棚卸資産は、前期末(1兆5,321億円)から1,828億円減少し、当期末1兆3,493億円となりました。これは、主に国内外の鉄鋼需要の変化に即した生産対応等によるものです。
有形固定資産は、前期末(2兆8,125億円)から1,423億円増加し、当期末2兆9,549億円となりました。これは、設備の健全性の維持・強化とさらなる生産性向上を図るべく、北海製鉄㈱(室蘭製鉄所構内)における第2高炉の改修、名古屋製鉄所の第3コークス炉パドアップに向けた建設等実行に加え、自動車・電力向け需要の拡大とハイグレード化のニーズに対応すべく、九州製鉄所八幡地区や瀬戸内製鉄所広畑地区における電磁鋼板製造設備を増強したこと等によるものです。
持分法で会計処理されている投資は、前期末(8,782億円)から609億円減少し、当期末8,173億円となりました。これは、米国の冷延・メッキ鋼板事業を営むI/N Tek・I/N Koteの売却や、ブラジルのシームレスパイプ事業を営むVSBの売却等、事業の選択と集中を進めたこと等によるものです。
非流動資産のその他の金融資産は前期末(4,811億円)から1,471億円増加し、当期末6,282億円となりました。これは前期末に比べ、株価の上昇により保有する投資有価証券の公正価値が増加したこと等によるものです。
(負債)
有利子負債は前期末(2兆4,887億円)から705億円増加し、当期末2兆5,592億円となりました。これは、下期は営業キャッシュ・フローが改善した一方、上期に必要となる資金を劣後ローンを増額して借り換えたこと等によるものです。
営業債務及びその他の債務は、前期末(1兆4,498億円)から670億円減少し、当期末1兆3,827億円となりました。これは、主に買掛金の減少によるものです。
(資本)
利益剰余金は、前期末(1兆8,709億円)から393億円増加し、当期末1兆9,103億円となりました。これは、親会社の所有者に帰属する当期損失(324億円)による減少があったものの、従業員給付に係る制度資産の公正価値の上昇や、保有株式の売却等によって、その他の資本の構成要素が利益剰余金へ振り替わったことによるものです。
その他の資本の構成要素は、前期末(152億円)から800億円増加し、当期末953億円となりました。これは、保有株式の時価の上昇による、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産の公正価値の増加等によるものです。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローについては、下記の通りです。
営業活動によるキャッシュ・フローは4,031億円の収入となりました(前期は4,943億円の収入)。
投資活動によるキャッシュ・フローは3,890億円の支出となりました(前期は3,456億円の支出)。
この結果、フリーキャッシュ・フローは141億円の収入となりました(前期は1,487億円の収入)。
財務活動によるキャッシュ・フローは526億円の収入となりました(前期は145億円の支出)。
以上により、当期末における現金及び現金同等物は3,594億円(前期は2,894億円)となっております。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前損失86億円に、減価償却費及び償却費(2,908億円)、事業再編損(986億円)の加算、棚卸資産の減少(1,713億円)等による収入があった一方、持分法による投資損益(552億円)の控除の調整、営業債務及びその他の債務の減少(663億円)等による支出がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
2020年中期経営計画で予定しておりました資産圧縮を上積みして進めたこと等による投資有価証券の売却による収入(373億円)、海外事業を中心とした関係会社株式の売却による収入(205億円)等がありました。
一方、国内マザーミルの競争力強化に向け、設備の新鋭化を進めており、北海製鉄㈱(室蘭製鉄所構内)における第2高炉の改修、名古屋製鉄所の第3コークス炉パドアップ等を実行しております。この結果、有形固定資産及び無形資産の取得による支出(4,598億円)等がありました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
下期は営業キャッシュ・フローが改善した一方、上期に新型コロナウイルスの感染拡大の影響等に備え、必要となる劣後ローンを増額して借り換えを行いました。この結果、有利子負債の増加(459億円)等がありました。
③ 生産、受注及び販売の状況
a. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 | 前連結会計年度 金額(百万円) | 当連結会計年度 金額(百万円) |
製鉄 | 5,925,138 | 4,756,489 |
エンジニアリング | 291,713 | 273,669 |
ケミカル&マテリアル | 206,640 | 161,146 |
システムソリューション | 272,004 | 253,501 |
合計 | 6,695,496 | 5,444,806 |
(注) 1 金額は製造原価による。
2 上記の金額には、グループ向生産分を含む。
b. 受注状況
当連結会計年度における受注状況をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 | 前連結会計年度 受注高(百万円) | 当連結会計年度 受注高(百万円) | 前連結会計年度 受注残高(百万円) | 当連結会計年度 受注残高(百万円) |
エンジニアリング | 316,263 | 238,090 | 375,200 | 337,090 |
システムソリューション | 201,431 | 195,451 | 86,303 | 93,128 |
合計 | 517,694 | 433,541 | 461,504 | 430,218 |
(注)1 上記の金額には、グループ内受注分を含まない。
2 「製鉄」、「ケミカル&マテリアル」は、多種多様な製品毎に継続的且つ反復的に注文を受けて生産・出荷する形態を主としており、その受注動向は、生産実績や販売実績に概ね連動していく傾向にあり、また、需要動向等についても、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」において記載していることから、金額又は数量についての記載を省略している。
c. 販売実績
当連結会計年度における外部顧客に対する販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称 | 前連結会計年度 金額(百万円) | 当連結会計年度 金額(百万円) |
製鉄 | 5,207,033 | 4,190,348 |
エンジニアリング | 296,443 | 276,241 |
ケミカル&マテリアル | 210,338 | 174,056 |
システムソリューション | 207,709 | 188,626 |
合計 | 5,921,525 | 4,829,272 |
(注) 1 前連結会計年度及び当連結会計年度における輸出販売高及び輸出割合は、次のとおりである。
前連結会計年度 | 当連結会計年度 | ||
輸出販売高(百万円) | 輸出割合(%) | 輸出販売高(百万円) | 輸出割合(%) |
2,066,087 | 34.9 | 1,633,292 | 33.8 |
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
2 主な輸出先及び輸出販売高に対する割合は、次のとおりである。
輸出先 | 前連結会計年度(%) | 当連結会計年度(%) |
アジア | 58.0 | 59.9 |
中近東 | 7.5 | 5.9 |
欧州 | 10.9 | 10.6 |
北米 | 11.5 | 11.5 |
中南米 | 8.7 | 8.5 |
アフリカ | 2.7 | 2.9 |
大洋州 | 0.8 | 0.7 |
合計 | 100.0 | 100.0 |
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
3 前連結会計年度及び当連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりである。
相手先 | 前連結会計年度 | 当連結会計年度 | ||
金額(百万円) | 割合(%) | 金額(百万円) | 割合(%) | |
日鉄物産㈱ | 1,161,138 | 19.6 | 946,024 | 19.6 |
住友商事㈱ | 715,518 | 12.1 | 510,956 | 10.6 |
当連結会計年度において、生産及び販売の実績が著しく減少しております。なお、生産、受注及び販売等に関する特記事項については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」等に記載しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(経営成績の分析)
当期の世界経済は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大等を受けて、上期を中心に経済活動が縮小し、景気は大幅に減速しました。日本経済も、世界経済の動向や、新型コロナウイルス感染拡大の影響等を受けて悪化しました。下期においては、国内外の経済は回復に向かいましたが、そのペースは各国で異なり、日本においては、持ち直しを見せていた個人消費等が再び低迷した一方で、いち早く経済活動が再開された中国においては、固定資産投資等を中心に堅調に回復しました。
鉄鋼需要については、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、国内外ともに急激に減少しました。下期は、国内においては、自動車をはじめとした製造業向けを中心に回復しましたが、新型コロナウイルス感染拡大前に対しては低位にとどまりました。鉄鋼市況については、世界の粗鋼生産の約6割を占める中国において高水準の内需と生産が継続したことにより上昇し、また、他地域においても経済活動の再開に伴い鋼材需給が引き締まったことにより、上昇傾向となりました。
当期の連結業績につきましては、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響による鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量の減少やグループ会社の収益悪化等の影響により大幅な赤字となりましたが、下期は製造業向けを中心とした鉄鋼需要の回復に迅速かつ適切に対応した生産に取り組むとともに、固定費の大幅圧縮や変動費改善等による単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、通期の売上収益は4兆8,292億円(前期は5兆9,215億円)、連結事業利益は1,100億円(前期は△2,844億円)となりました。これに加えて、事業再編損の計上等により、親会社の所有者に帰属する当期利益は△324億円(前期は△4,315億円)となりました。
セグメント別の業績は以下のとおりです。当社グループは、製鉄事業を中核として、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しており、製鉄セグメントが連結売上収益の約9割を占めています。
(当期のセグメント別の業績の概況)
製鉄 | エンジニ アリング | ケミカル&マテリアル | システム ソリュー ション | 合計 | 調整額 | 連結財務諸表計上額 | ||
売上収益 | 当期 | 42,284 | 3,244 | 1,786 | 2,524 | 49,840 | △1,547 | 48,292 |
(億円) | 前期 | 52,573 | 3,404 | 2,157 | 2,732 | 60,867 | △1,652 | 59,215 |
セグメント利益 | 当期 | 635 | 177 | 76 | 239 | 1,128 | △27 | 1,100 |
(億円) | 前期 | △3,253 | 107 | 184 | 261 | △2,699 | △144 | △2,844 |
<製鉄>製鉄セグメントの売上収益は4兆2,284億円となり、前期(5兆2,573億円)に対して減少した一方で、セグメント利益は635億円となり、前期(△3,253億円)に対して増加しました。
製鉄セグメント利益の前期に対する増減(3,888億円)のうち、減損損失等の増減等(3,580億円)を除いた310億円の主な要因は次のとおりです。
生産・出荷数量減少 △2,490億円
マージン(販売価格・構成・原料価格) △50億円
コスト改善 1,650億円
減価償却費 1,200億円
在庫評価差 △180億円
グループ会社損益悪化 △300億円
為替影響 10億円
2019年度災害影響の戻り 420億円
その他 50億円
―――――――――――――――――――――――――――
合計 310億円
上期の鉄鋼需要は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内外ともに急激に減少しました。下期は、国内においては、自動車をはじめとした製造業向けを中心に回復しましたが、新型コロナウイルス感染拡大前に対しては低位にとどまりました。当社は、新型コロナウイルス感染症の影響による鉄鋼需要の変化に対しては、高炉の一時休止・再稼働等の生産対応、BCP(事業継続計画)の実行、臨時休業の実施、営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえた対策等に迅速かつ適切に取り組みました。当期における鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量減少の影響は、前期に対して△2,490億円となり、大幅な減益要因となりました。一方で、当社は固定費の大幅圧縮2,300億円(うち減価償却費1,200億円)と変動費改善550億円を実現し、損益分岐点を大幅に引き下げることで、単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、新型コロナウイルス影響下においても635億円のセグメント利益を確保しました。
<エンジニアリング>日鉄エンジニアリング㈱においては、製鉄・環境・エネルギー関連のプラント建設・施設運営から、海洋・港湾鋼構造物やパイプライン建設、建築等の多様な領域で、総合エンジニアリング技術を活かしたサービスをグローバルに提供しております。当期は、社会・環境の変化をより広く捉え、スピード感を持ってマーケットに対峙しニーズに応えていくため、事業部を廃止し、より広い事業分野を束ねる事業推進管理体制であるセクター制を導入しました。エンジニアリングセグメントの売上収益は3,244 億円(前期は3,404 億円)、セグメント利益は177億円(前期は107億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
製鉄プラント | 環境・エネルギー | 都市インフラ | その他調整等 | 連結財務諸表 計上額 | ||
売上収益 | 当期 | 563 | 1,931 | 761 | △11 | 3,244 |
(億円) | 前期 | 550 | 2,149 | 739 | △35 | 3,404 |
製鉄プラントセクターは、高炉改修案件の完工や大型案件の着実なプロジェクト実行管理により、563億円と前期(550億円)に対して増加しました。環境・エネルギーセクターは、海外海洋ではタイのガス田開発案件の進捗により前期比で売上増となりましたが、電力での規模減少等があり、1,931億円と前期(2,149億円)に対して減少しました。都市インフラセクターは、大型物流倉庫を中心に堅調な受注環境が継続し、着実にプロジェクト管理を行ったことにより761億円と前期(739億円)に対して増加しました。
<ケミカル&マテリアル>日鉄ケミカル&マテリアル㈱においては、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で世界的に景気が低迷するなか、上期は厳しい収益状況となりましたが、下期においては事業環境が改善し、コスト削減等の収益改善努力や退職金制度変更等の影響もあり、通期では黒字を確保しました。ケミカル&マテリアルセグメントの売上収益は1,786億円(前期は2,157億円)、セグメント利益は76億円(前期は184億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
コールケミカル | 化学品 | 機能材料 | 複合材料 | その他 調整等 | 連結財務諸表 計上額 | ||
売上収益 | 当期 | 260 | 760 | 600 | 170 | △3 | 1,786 |
(億円) | 前期 | 490 | 930 | 560 | 180 | △3 | 2,157 |
コールケミカル事業につきましては、主力の黒鉛電極向けニードルコークスの需要低迷が継続し、260億円と前期(490億円)に対して減少しました。化学品事業では、昨年初めから低迷していたスチレンモノマーやビスフェノールAの市況が下期に入って回復しましたが、売上収益は760億円と前期(930億円)に対して減少しました。機能材料事業では、半導体関連材料や液晶ディスプレイ用材料の販売が年度を通じて堅調に推移したことに加えて、年度当初低迷したスマートフォン向け材料の販売が回復に転じ、600億円と前期(560億円)に対して増加しました。複合材料事業では、炭素繊維による土木・建築分野向け補強材料が過去最高の年間売上を記録するとともに、エポキシ樹脂も車載機器及び半導体パッケージ基板向けに販売を伸ばし、170億円で前期(180億円)並となりました。
<システムソリューション>日鉄ソリューションズ㈱においては、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動水準が厳しい状況にあるなかで、新しい働き方へのITニーズに対してデジタルワークプレースソリューションの提供等を行いました。また、お客様のDXの推進を支援するため、デジタルイノベーション共創プログラムの提供や製造・エネルギー業界を中心としたローカル5Gソリューション及びIoXソリューションの推進等に取り組みました。しかしながら、前期における大型基盤案件の反動減等の影響により、売上収益は減収となりました。事業利益につきましても、主に売上総利益が減少した結果、減益となりました。システムソリューションセグメントの売上収益は2,524億円(前期は2,732億円)、セグメント利益は239億円(前期は261億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
業務ソリューション | サービスソリューション | その他調整等 | 連結財務諸表計上額 | ||
売上収益 | 当期 | 1,622 | 897 | 5 | 2,524 |
(億円) | 前期 | 1,800 | 947 | △15 | 2,732 |
業務ソリューション事業は、金融分野向けにおける規制対応案件等の増加に加えて、産業、流通・サービス分野向けにおいて主に小売・輸送向け等が堅調でしたが、製造業向けの大型基盤案件、公共分野における官公庁向けの基盤案件及びテレコム分野向けのITプロダクトの反動減等により、1,622億円と前期(1,800億円)に対して減少しました。サービスソリューション事業は、ITインフラ分野向けにおいて主にITプロダクト等の減少、また鉄鋼分野においては前年度の当社の商号変更対応及び製鉄所組織の統合・再編成案件の反動減等により、897億円と前期(947億円)に対して減少しました。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
2020年度を実行最終年度とする「2020年中期経営計画」の収益、財務体質の各目標とそれに対する当期までの状況は以下のとおりです。
2020年度の連結業績につきましては、上期は新型コロナウイルス感染拡大の影響による鉄鋼需要の減少に伴う生産・出荷数量の減少やグループ会社の収益悪化等の影響により大幅な赤字となりましたが、下期は製造業向けを中心とした鉄鋼需要の回復に迅速かつ適切に対応した生産に取り組むとともに、固定費の大幅圧縮や変動費改善等による単独営業利益の黒字構造への転換を達成し、通期の売上収益は4兆8,292億円(うち上期2兆2,419億円、下期2兆5,872億円)、連結事業利益は1,100億円(うち上期△1,065億円、下期2,165億円)、ROSは2.3%(うち上期△4.8%、下期8.4%)となりました。
2018年度 (実績) | 2019年度 (実績) | 2020年度 (実績) | 2020年度 (目標) | ||
売上収益事業利益率(ROS) | 5.5% | △4.8% | 2.3% | 10%程度 | |
親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE) | 7.9% | △14.7% | △1.2% | 10%程度 | |
D/Eレシオ | 0.73 *1 (0.66) | 0.94 *1 (0.74) | 0.93 *1 (0.70) | 0.7程度 | |
コスト改善(単独) | 440億円 | 600億円 | 1,650億円 | *2 年率1,500億円 | |
連結配当性向 | 28.4% | - | - | 30%程度 |
(*1) 劣後ローン・劣後債資本性調整後
(*2) 2018年度~2020年度の3カ年累計
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー」 に記載しております。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(資本政策)
一定水準の財務健全性が維持されることを前提として、当社グループは投下資本の運用効率を重視し、投資先への資本の投入(資本的支出、R&D、M&A含む)によって企業価値を最大化する資本政策を推進しています。それは、資本コストを超過する収益の創出が期待され、持続的な成長を可能にすると同時に、株主への利益還元によって株主の要求を満たすものです。
当社グループは、上記資本政策の達成に必要な資金を、主として「稼ぐ力」の維持と向上によって生み出される営業キャッシュ・フローから獲得することに加え、必要に応じて銀行借入や社債の発行等、外部からの資金調達も実施しております。
また当社グループは、ROS、ROE及びD/Eレシオを中長期的な収益の成長と財務体質の健全性を達成する上での主要な経営管理指標としております。
剰余金の配当等につきましては、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載しております。
また、自己株式の取得については、機動性を確保する観点から、定款第33条の規定に基づき取締役会の決議によることと致します。取締役会においては、機動的な資本政策等の遂行の必要性、財務体質への影響等を考慮したうえで、総合的に判断することと致しております。
(資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法)
1)2020年中期経営計画の実行状況
2020年度は、上期での新型コロナウイルス感染拡大の影響等による営業キャッシュ・フローの悪化も踏まえ、安定生産力の完全定着、紐付き価格の是正及び変動費改善と固定費の大幅圧縮等の収益施策に取り組みました。これらに加え財務健全性を維持すべく、以下の対策を実行いたしました。
a. 資産圧縮の追加
2020年中期経営計画での資産圧縮目標を当初計画の1,000億円から、2018年度:1,000億円、2019年度:2,800億円、2カ年累計:3,800億円と増額し実行してまいりましたが、2020年度においても政策保有株式の売却を中心に更に1,400億円を追加で実行し(2018年度から2020年度までの累積実行額は5,200億円)、キャッシュ・フローの確保に努めました。
b. 設備投資の厳選と効率化の実施
長期更新計画に基づき、将来にわたり収益に貢献する品種・地域への選択投資を徹底すること等による投資の厳選と効率化を図った結果、国内設備投資額は2020年中期経営計画(約1兆7,000億円/3カ年)から3,000億円程度圧縮した1兆4,000億円となりました。
c. 劣後ローンによる資金調達の拡大
2020年7月に、新たに劣後ローンにて4,500億円の資金調達を実行いたしました(2015年7月に実行した劣後ローン3,000億円は、全額期限前弁済)。なお、格付け機関より資本性50%認定を取得しております。
財務体質については、これらの対策によりD/Eレシオ(※)0.7倍となり2020年中期経営計画の目標を達成いたしました。(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
2)日本製鉄グループ中長期経営計画
2021年3月に公表した「日本製鉄グループ中長期経営計画」では、成長の実現に向けた経営資源投入として、強靭な国内生産体制を再構築するための投資、戦略商品の対応力強化に資する投資等を積極的に実施することとし、5年間で2兆4,000億円の設備投資を実施します。具体的には、自動車鋼板製造の中核拠点である名古屋製鉄所において超ハイテン鋼板等の高級薄板の生産体制の抜本的強化に向けた次世代型熱延ラインの新設や、変圧器に対する効率化規制の強化や電動車需要拡大でニーズが高まる方向性・無方向性電磁鋼板について、九州製鉄所・瀬戸内製鉄所での既決定の能力向上対策に加え、瀬戸内製鉄所広畑地区で追加の能力向上対策を実施します。
また、成長著しい海外市場では、グローバル粗鋼1億トン体制を目指し、AM/NS Indiaの能力拡張施策の確実な推進に加え、中国・ASEAN等における一貫製鉄所の買収・資本参加(ブラウンフィールド)の実行に備え、5年間の事業投資規模を6,000億円とします。
加えて、ゼロカーボン・スチールを世界各社に先駆けて実現することを目指し、政府の各種施策と連携しながら、積極的に研究開発や設備投資の実行に取り組んでまいります。
さらに、デジタルトランスフォーメーション戦略にも資金投入を行い、データとデジタル技術を駆使して、生産プロセス改革および業務プロセス改革に取り組み、事業競争力を強化することで、デジタル先進企業となることを目指します。
なお、これら経営計画に必要な投資を実行する前提で、2025年度断面では、D/Eレシオ(※)(0.7以下)を実現することを目指します。(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
(流動性管理及び資金調達の方針について)
当社グループの円滑な事業活動に必要な資金を確保するため、手許資金及び外部借入を有効に活用しております。手許資金については、実需に見合った最低限の現預金を保有する方針としており、過去及び将来の資金繰りを勘案し、最適な保有残高を志向しております。外部借入については、安全性・安定性・柔軟性を担保する観点から基本的な調達の枠組みを決定しております。具体的には、不測の事態発生時における、当社の支払余力を確保すべく、適正な長期固定適合比率を維持するとともに、安全性の補完のためにコミットメントライン(当社連結:6,108億円)契約を締結しております。
また短期資金と長期資金のバランスを踏まえた有利子負債残高の設計により自由度を確保しており、当該枠組みの範囲内で、最適な資金調達の実現を志向しております。
③会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されております。重要な会計方針については、本報告書「第一部企業情報 第5 経理の状況」に記載しております。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、引当金の計上、非金融資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の判断等につきましては、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っております。但し、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果はこれら見積りと異なる場合があります。
当社が特に重要と判断している会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下です。
a.非金融資産の減損
当社グループは、資産が減損している可能性を示す兆候のいずれかが存在する場合、資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を回収可能価額として見積り、回収可能価額が資産又は資金生成単位の帳簿価額を下回る場合、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しており、使用価値は見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算出しております。当該キャッシュ・フローは中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎としており、これらの計画には鋼材需要の予測及び製造コスト改善等を主要な仮定として織り込んでおります。鋼材需要及び製造コスト改善の予測には高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が将来キャッシュ・フローに重要な影響を及ぼすと予想されます。なお、当期においては、当期末における有形固定資産の残高は2兆9,549億円、無形資産の残高は958億円です。
b.繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、鋼材需要の予測及び製造コスト削減等の仮定に基づいて算定された将来における課税所得の見積り等の予想など、現状入手可能な全ての将来情報を用いて、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。当社グループは、税務上の便益が実現する可能性が高いと判断した範囲内でのみ繰延税金資産を認識していますが、経営環境悪化に伴う中長期経営計画及び事業計画の目標未達等による将来における課税所得の見積りの変更や、法定税率の変更を含む税制改正などにより回収可能額が変動する可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債との相殺前)の残高は3,134億円です。
(新型コロナウイルス感染症が当社グループにおける重要な会計上の見積りに与える影響について)
新型コロナウイルス感染症が当社グループの非金融資産の減損及び繰延税金資産の回収可能性に与える影響については、鉄鋼需給構造の変化が新型コロナウイルスの影響で加速化し、さらに厳しい事業環境が継続すると仮定した中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎として会計上の見積りを行っています。この仮定は高い不確実性を伴っており、翌期以降において、仮定の見直しにより、見積り額及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があります。