有価証券報告書-第95期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/02 15:00
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(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
当期における当社グループの経営成績の状況の概要は、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しています。
② 当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー
当連結会計年度末における資産、負債、資本については、下記の通りです。
連結総資産は7兆4,449億円と、前連結会計年度に比べて6,045億円減少しました。負債は4兆4,483億円と、前連結会計年度に比べて61億円の増加となりました。資本は2兆9,966億円と、前連結会計年度に比べて6,107億円減少しました。なお、当期末の親会社の所有者に帰属する持分は2兆6,416億円となり、有利子負債は当期末2兆4,887億円となりました。この結果、親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.94倍となりました。
(総資産)
現金及び現金同等物は、前期末(1,631億円)から1,262億円増加し、当期末2,894億円となりました。これは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による今後の営業キャッシュ・フロー悪化に備え、手元流動性確保のために現預金を積み増したこと等によるものです。
営業債権及びその他の債権は、前期末(9,683億円)から1,417億円減少し、当期末8,265億円となりました。これは、主に売掛金の減少によるものです。
有形固定資産は、前期末(3兆2,466億円)から4,341億円減少し、当期末2兆8,125億円となりました。これは、主に、鹿島製鉄所、名古屋製鉄所及び広畑製鉄所並びに日鉄日新製鋼㈱について、継続的に赤字を計上している状況を踏まえ事業用資産の減損損失を計上したことや、IFRS16号適用に伴いファイナンス・リース相当額を使用権資産に振り替えたこと等によるものです。
使用権資産は、IFRS16号適用に伴う、有形固定資産からの費目振替やオペレーティング・リースのオンバランス影響等により、当期末936億円となりました。
持分法で会計処理されている投資は、前期末(7,931億円)から851億円増加し、当期末8,782億円となりました。これは、中期経営計画でグローバル事業展開の一つとして計画しておりましたインドのエッサールスチール社のアルセロールミッタル社との共同買収にて、AMNS Luxembourg Holdings S.A.株式を取得したこと等によるものです。
非流動資産のその他の金融資産は前期末(8,126億円)から3,315億円減少し、当期末4,811億円となりました。これは、中期経営計画で目標としておりました資産圧縮(約1,000億円/3カ年)について2018年度までに達成しましたが、営業キャッシュ・フローの下振れを受けて政策保有株式の売却を主体とした追加の資産圧縮を実行したことに加え、株価の下落により投資有価証券の公正価値が減少したこと等によるものです。
(負債)
有利子負債は前期末(2兆3,692億円)から1,195億円増加し、当期末2兆4,887億円となりました。これは、必要となる資金を劣後債発行等で調達したこと等によるものです。
営業債務及びその他の債務は、前期末(1兆6,114億円)から1,616億円減少し、当期末1兆4,498億円となりました。これは、主に買掛金の減少によるものです。
退職給付に係る負債は、前期末(1,867億円)から500億円増加し、当期末2,367億円となりました。これは、退職給付信託資産を退職金の支払いに充当したこと等によるものです。
(資本)
利益剰余金は、前期末(2兆3,001億円)から4,292億円減少し、当期末1兆8,709億円となりました。これは、政策保有株式の売却等によってその他の資本の構成要素から利益剰余金への振替による増加(483億円)があった一方、親会社の所有者に帰属する当期損失(4,315億円)や、配当金の支払い(461億円)により減少したものです。
その他の資本の構成要素は、前期末(1,760億円)から1,607億円減少し、当期末152億円となりました。これは保有株式の売却や時価の下落による、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産の公正価値の純変動によるものです。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローについては、下記の通りです。
営業活動によるキャッシュ・フローは当期4,943億円の収入となりました(前期は4,523億円の収入)。
投資活動によるキャッシュ・フローは当期3,456億円の支出となりました(前期は3,818億円の支出)。
この結果、フリーキャッシュ・フローは1,487億円の収入(前期は705億円の収入)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは当期145億円の支出となりました(前期は429億円の支出)。
以上により、当期末における現金及び現金同等物は2,894億円(前期は1,631億円)となっております。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前損失4,235億円に、減価償却費及び償却費(4,173億円)・減損損失(3,339億円)・事業再編損(1,217億円)の加算があったほか、営業債権及びその他の債権の減少(1,576億円)、配当金の受取(610億円)等による収入があった一方、営業債務及びその他の債務の減少(1,528億円)、法人所得税の支払い(925億円)等による支出がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資有価証券の売却による収入(1,919億円)等がありましたが、これは今中期経営計画で予定しておりました資産圧縮を上積みして進めたことによるものです。
一方、国内マザーミルの「つくる力」の継続強化に向け、設備の健全性の維持・強化及び新鋭設備の導入に取り組み、安定生産、生産性向上及びコスト改善等の効果拡大を進めており、名古屋製鉄所の第3コークス炉パドアップや、八幡製鉄所の第3連続鋳造設備の新設工事等を実行しております。この結果、有形固定資産及び無形資産の取得による支出(4,605億円)がありました。
また、当社はインドを成長する地域と位置付け、アルセロールミッタル社とインドエッサールスチール社の共同買収を完了しました。本買収に係るAMNS Luxembourg Holding S.A.株式を主体とする関係会社株式の取得(1,123億円)等による支出がありました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
劣後債を発行したこと等を理由とした実質的な増加(624億円)による収入がありました。
一方、剰余金の配当については、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載している方針に基づき、前期末の配当は1株につき40円、当期の中間配当は1株につき10円とさせていただいております。これによる配当金の支払は461億円となりました。
③ 生産、受注及び販売の状況
a. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称前連結会計年度 金額(百万円)当連結会計年度 金額(百万円)
製鉄6,106,9065,925,138
エンジニアリング312,422291,713
ケミカル&マテリアル239,980206,640
システムソリューション275,948272,004
合計6,935,2576,695,496

(注) 1 金額は製造原価による。
2 上記の金額には、グループ向生産分を含む。
3 2018年10月、新日鉄住金化学㈱と新日鉄住金マテリアルズ㈱が統合し日鉄ケミカル&マテリアル㈱が発足し
たことにより、化学セグメントと新素材セグメントを統合し、ケミカル&マテリアルセグメントと致しまし
た。
b. 受注状況
当連結会計年度における受注状況をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称前連結会計年度
受注高(百万円)
当連結会計年度
受注高(百万円)
前連結会計年度
受注残高(百万円)
当連結会計年度
受注残高(百万円)
エンジニアリング305,526316,263355,351375,200
システムソリューション225,356201,431106,52186,303
合計530,882517,694461,872461,504

(注)1 上記の金額には、グループ内受注分を含まない。
2 「製鉄」、「ケミカル&マテリアル」は、多種多様な製品毎に継続的且つ反復的に注文を受けて生産・出荷する形態を主としており、その受注動向は、生産実績や販売実績に概ね連動していく傾向にあり、また、需要動向等についても、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」において記載していることから、金額又は数量についての記載を省略している。
c. 販売実績
当連結会計年度における外部顧客に対する販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
セグメントの名称前連結会計年度 金額(百万円)当連結会計年度 金額(百万円)
製鉄5,408,6335,207,033
エンジニアリング321,346296,443
ケミカル&マテリアル243,014210,338
システムソリューション204,952207,709
合計6,177,9475,921,525

(注) 1 前連結会計年度及び当連結会計年度における輸出販売高及び輸出割合は、次のとおりである。
前連結会計年度当連結会計年度
輸出販売高(百万円)輸出割合(%)輸出販売高(百万円)輸出割合(%)
2,124,75834.42,066,08734.9

(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
2 主な輸出先及び輸出販売高に対する割合は、次のとおりである。
輸出先前連結会計年度(%)当連結会計年度(%)
アジア61.758.0
中近東5.37.5
欧州7.910.9
北米13.411.5
中南米8.98.7
アフリカ2.22.7
大洋州0.60.8
合計100.0100.0

(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
3 前連結会計年度及び当連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりである。
相手先前連結会計年度当連結会計年度
金額(百万円)割合(%)金額(百万円)割合(%)
日鉄物産㈱ (注1)1,170,24118.91,161,13819.6
住友商事㈱762,88812.3715,51812.1
㈱メタルワン (注2)631,63910.2--

(注)1.日鉄物産㈱は、2019年4月1日付で、日鉄住金物産㈱より社名変更している。
2.総売上収益に対する割合が10%未満の場合は、当該連結会計年度の記載を省略し、「-」表示している。
4 2018年10月、新日鉄住金化学㈱と新日鉄住金マテリアルズ㈱が統合し日鉄ケミカル&マテリアル㈱が発足したことにより、化学セグメントと新素材セグメントを統合し、ケミカル&マテリアルセグメントと致しました。
なお、生産、受注及び販売等に関する特記事項については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」等に記載しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(経営成績の分析)
当期の世界経済は、米国においては個人消費が底堅く推移したものの、中国においては米中貿易摩擦を背景として個人消費を中心に景気が減速傾向となり、成長が鈍化しました。第4四半期には、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界の経済活動は急速に縮小し始めました。日本経済は、雇用・所得環境が底堅く推移したものの、通商摩擦や外需の減速に伴う製造業の景況悪化、消費税率引上げに伴う消費マインド悪化に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の懸念により、下期には景気の停滞感が強まりました。
鉄鋼市況については、世界経済の減速を受けて、自動車生産等消費財の生産が減退した結果、鋼板系品種の需要が減少し、国内外ともに低迷しました。一方で、世界の鉄鋼生産量の半分以上を占める中国では、政府が景気下支え策としてインフラ投資を増やしたことで条鋼系品種の国内需要が増加し、高水準の銑鉄生産が継続しました。これを受けて鉄鉱石等の主原料価格は高止まりし、「原料市況高・鋼材市況安」という過去に例を見ない状況となりました。
当期の連結業績につきましては、全社をあげた設備・操業安定化対策やコスト改善の実行、紐付き分野の価格改善、最適な生産・出荷規模を追求する経済生産を継続する一方で、世界的な鋼材需要の低迷による生産・出荷量の減少、「原料市況高・鋼材市況安」によるマージンの縮小、災害影響、在庫評価差、グループ会社の損益悪化、事業用資産の減損損失の計上等により、連結売上収益は5兆9,215億円(前年同期は6兆1,779億円)、連結事業利益は△2,844億円(前年同期は3,369億円)となりました。これに加えて、瀬戸内製鉄所呉地区(2020年4月に統合した日鉄日新製鋼㈱呉製鉄所)の一貫休止決定に伴う固定資産簿価全額相当の減損損失の計上、繰延税金資産の一部取崩し等により、親会社の所有者に帰属する当期利益は△4,315億円(前年同期は2,511億円)となりました。
セグメント別の業績は以下のとおりです。当社グループは、製鉄事業を中核として、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しており、製鉄セグメントが連結売上収益の約9割を占めています。
(当期のセグメント別の業績の概況)
製鉄エンジニ
アリング
ケミカル&マテリアル
(*)
システム
ソリュー
ション
合計調整額連結財務諸表計上額
売上収益当期52,5733,4042,1572,73260,867△1,65259,215
(億円)前期54,5453,5672,4702,67563,258△1,47861,779
セグメント利益当期△3,253107184261△2,699△144△2,844
(億円)前期2,746942502653,358113,369

(*)2018 年10 月、新日鉄住金化学㈱と新日鉄住金マテリアルズ㈱が統合し日鉄ケミカル&マテリアル㈱が発足したことにより、化学セグメントと新素材セグメントを統合し、ケミカル&マテリアルセグメントとした。
前期のケミカル&マテリアルセグメントの数値は、変更後の区分方法により作成したものを記載している。
<製鉄>製鉄セグメントの売上収益は5兆2,573億円(前年同期は5兆4,545億円)、セグメント利益は△3,253億円(前年同期は2,746億円)となり、前期に対して大幅に悪化しました。東日本製鉄所鹿島地区、名古屋製鉄所及び瀬戸内製鉄所広畑地区では、原料市況高・鋼材市況安の状況の継続、市況原料・資材費・物流費等のコストアップ、間接輸出向け国内需要の低迷等により、継続的に赤字を計上する状況にあり、減損損失△3,179億円を計上しました。
製鉄セグメント利益の前期に対する増減(△5,999億円)のうち、減損損失等(△3,560億円)を除いた△2,440億円の主な要因は次のとおりです。
生産・出荷数量減少 △700億円
マージン悪化(販売価格・構成・原料価格) △1,190億円
コスト改善 600億円
在庫評価差 △400億円
グループ会社損益悪化 △520億円
為替影響 △90億円
災害影響 △70億円 (前期△350億円に対し、当期△420億円)
その他 △70億円
―――――――――――――――――――――――――――
合計 △2,440億円
当期の製鉄事業の環境は、前期に比べて大きく変化し厳しい環境となりました。米中貿易摩擦の長期化による影響が拡大し、世界経済の減速により鋼板系品種を中心に鉄鋼市況は低迷しました。一方で、世界の鉄鋼生産量の半分以上を占める中国では、政府が景気下支え策としてインフラ投資を増やしたことで条鋼系品種の国内需要が増加し、高水準の銑鉄生産が継続しました。これを受けて鉄鉱石等の主原料価格は高止まりし、「原料市況高・鋼材市況安」という過去に例を見ない状況となりました。当社は、主原料コストに加え、その他市況原料、資材費、物流費等のコストアップ分も含めた、紐付き分野の価格改善に取り組んでおり、具体的に進展していますが、未だ途上です。その結果、原料コストの増加と販売価格・品種構成の改善を合わせたマージンは、前期に対して△1,190億円悪化しました。また、国内外の鋼材需要低迷に伴う生産・出荷数量減少の影響は、前期に対して△700億円となりました。
さらに、前期に対する減益要因として、在庫評価差が△400億円、為替影響が△90億円、災害影響が△70億円ありました。災害影響については、前期の豪雨、台風、地震影響からの戻りが350億円あった一方で、当期に発生した東日本製鉄所君津地区の落雷影響が△100億円、瀬戸内製鉄所呉地区の火災影響が△120億円、台風15号の影響が△200億円となり、合計△420億円の減益要因となりました。
グループ会社の収益については、在庫評価差影響に加えて、国内外事業会社の市況悪化影響等があり、△520億円の減益となりました。
このような厳しい事業環境のなか、当社は東日本製鉄所君津地区及び北海製鉄㈱のコークス炉リフレッシュ等の設備新鋭化効果を発揮させるとともに、原燃料費の低減、製造歩留の向上、修繕費の圧縮等のコスト改善に継続的に取り組みました。その結果、当期のコスト改善額は600億円となり、前期と当期の2カ年累計で1,040億円となりました(2020年中期経営計画目標:3カ年累計で年率1,500億円)。2020年中期経営計画の取組みの詳細については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載していますので、併せて御参照ください。
<エンジニアリング>日鉄エンジニアリング㈱においては、製鉄・環境・エネルギー関連のプラント建設・施設運営から、海洋・港湾鋼構造物やパイプライン建設、建築等の多様な領域で、総合エンジニアリング技術を活かしたサービスをグローバルに提供しております。当期は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の専任組織を設置し、社内業務の効率化を加速するとともに、プラント操業データの収集・解析基盤のシステム運用を開始し、データの一元管理が可能となるなど、着実に成果をあげてきています。エンジニアリングセグメントとして、当期の売上収益は3,404 億円(前期は3,567 億円)、事業利益は107億円(前期は94 億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
製鉄プラント環境ソリューションエネルギーソリューション電力ビジネス海洋建築・鋼構造その他調整等連結財務諸表計上額
売上収益当期550958618465220630△373,404
(億円)前期485745598573332854△203,567

製鉄プラント事業は、過年度受注の大型案件の工事が順調に進んだ結果、550億円(前期は485億円)と前期に対して増加しました。環境ソリューション事業は、高水準の受注残高を保持し、シャフト炉式ガス化溶融炉等において着実なプロジェクト実行管理を行った結果、958億円(前期は745億円)と前期に対して増加しました。エネルギーソリューション事業は、パイプライン分野及びオンサイト分野におけるオペレーション&メンテナンス及び過年度受注の大型案件の工事が順調に進んだ結果、618億円(前期は598億円)と前期に対して増加しました。電力ビジネス事業は、電力市況の悪化と大手電力会社との競争激化により販売量が減少した結果、465億円(前期は573億円)と前期に対して減少しました。海洋事業は、国内において既受注案件の着実な実行があったものの、海外におけるタイ湾のガス田開発プロジェクトの時期ずれの影響を受け、220億円(前期は332億円)と前期に対して減少しました。建築・鋼構造事業は、複数の大型物流案件を含む過年度受注案件を着実に実行し、計画通りの売上高を確保したものの、630億円(前期は854億円)と前期に対して減少しました。
<ケミカル&マテリアル>日鉄ケミカル&マテリアル㈱においては、当期の売上収益は2,157億円(前期は2,470億円)、事業利益は184億円(前期は250億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
コールケミカル化学品機能材料複合材料その他
調整等
連結財務諸表
計上額
売上収益当期490930560180△32,157
(億円)前期5401,14060019002,470

コールケミカル事業は、上期まで堅調に推移してきた黒鉛電極向けニードルコークスの需要が下期には陰りを見せ、第4四半期には新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてより厳しい環境となった結果、490億円(前期は540億円)と前期に対して減少しました。化学品事業は、低迷を続けてきたスチレンモノマーの市況が、新型コロナウイルス感染拡大及び原油価格下落の影響を受けて年度末に向けて大きく下落した結果、930億円(前期は1,140億円)と前期に対して減少しました。機能材料事業は、スマートフォン向け材料や半導体関連材料の販売は厳しい一方で、自動車や電子機器向けの絶縁・放熱材料として使用される球状アルミナの販売は堅調に推移し、560億円(前期は600億円)で前期並となりました。複合材料事業は、補修・補強用途を中心に土木・建築分野向け炭素繊維複合材料の販売が伸長し、180億円(前期は190億円)で前期並となりました。
<システムソリューション>日鉄ソリューションズ㈱においては、幅広い業種の顧客に対し、システムの企画、構築、運用・保守を一貫して提供するとともに、顧客の事業環境変化に対応した先進的なソリューション・サービスを展開しております。当期は、IoT・AI を活用したソリューションの販売拡大を積極的に進めるとともに、5G 関連ソリューションの販売に向けた整備に取り組み、サービス提供を開始しました。このように、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進による顧客の旺盛なIT 投資等を背景に、堅調な事業環境が継続しました。システムソリューションセグメントとして、当期の売上収益は2,732億円(前期は2,675億円)、事業利益は261億円(前期は265億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです
(当期の事業別の売上収益の概況)
業務ソリューションサービスソリューションその他調整等連結財務諸表計上額
売上収益当期1,800947△152,732
(億円)前期1,6548961252,675

業務ソリューション事業は、産業、流通・サービス分野向けにおいて製造業、輸送、旅行、小売り向けのシステム投資の増加に加えて大型基盤案件が寄与し、また金融分野、公共公益分野向けも増加した結果、1,800億円(前期は1,654億円)と前期に対して増加しました。サービスソリューション事業は、ITインフラ分野向けにおいてマルチクラウド案件、仮想デスクトップサービス(DaaS/VDI)案件等が増加し、また鉄鋼分野においては当社の高度IT活用に向けたデータ解析・AI開発プラットフォーム「NS-DIG®」の構築支援等を行うなどIT投資が高い水準で推移した結果、947億円(前期は896億円)と前期に対して増加しました。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
2020年度を実行最終年度とする「2020年中期経営計画」の収益、財務体質の各目標とそれに対する当期までの状況については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営戦略及び対処すべき課題等」に記載しています。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析については、本報告書「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー」 に記載しております。
(資本政策)
一定水準の財務健全性が維持されることを前提として、当社グループは投下資本の運用効率を重視し、投資先への資本の投入(資本的支出、R&D、M&A含む)によって企業価値を最大化する資本政策を推進しています。それは、資本コストを超過する収益の創出が期待され、持続的な成長を可能にすると同時に、株主への利益還元によって株主の要求を満たすものです。
当社グループは、上記資本政策の達成に必要な資金を、主として「稼ぐ力」の維持と向上によって生み出される営業キャッシュ・フローから獲得することに加え、必要に応じて銀行借入や社債の発行による調達も実施しております。
また当社グループは、ROS、ROE及びD/Eレシオを中長期的な収益の成長と財務体質の健全性を達成する上での主要な経営管理指標としております。
剰余金の配当等につきましては、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載しております。
また、自己株式の取得については、機動性を確保する観点から、定款第33条の規定に基づき取締役会の決議によることと致します。取締役会においては、機動的な資本政策等の遂行の必要性、財務体質への影響等を考慮したうえで、総合的に判断することと致しております。
(資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法)
2020年中期経営計画では、高水準の設備投資(約17,000億円/3カ年)・事業投資(約6,000億円/3カ年)・研究開発費(約2,200億円/3カ年)を計画しており、これらに必要な資金を営業キャッシュ・フローと資産圧縮でカバーする計画としております。また、約定弁済を、今中期計画において約6,000億円/3カ年予定しておりますが、同額を借換調達することを予定しております。
財務体質は、長期的には国際格付けA格を維持可能な水準であるD/Eレシオ(0.5程度)を目指していますが、投資キャッシュ・フローが高水準となる2020年中期経営計画では、有利子負債の増加と自己資本の増加をバランスさせてD/Eレシオ(0.7程度)を維持することを目標としております。2020年3月末におけるD/Eレシオは0.94倍、劣後ローン・劣後債資本性調整後D/Eレシオは0.74倍となっております。
上記方針の下、設備投資については、国内では設備の健全性の維持・強化及び新鋭設備の導入に取り組み、安定生産、生産性向上及びコスト改善等の効果を拡大してまいりました。具体的には、室蘭製鉄所の上工程を担う北海製鉄㈱のコークス炉の改修、九州製鉄所八幡地区の新鋭連続鋳造設備の稼働、東日本製鉄所鹿島地区のUO鋼管工場休止及び同君津地区への生産集約等を実行いたしました。また、事業投資については、鋼材需要の伸びが確実に期待できる市場や、当社グループの技術力・商品力を活かせる分野において事業展開を進めてまいりました。2018年度のオバコ社・山陽特殊製鋼㈱の子会社化に引き続き、昨年12月には、インドのエッサールスチール社の買収をアルセロールミッタル社と共同で完了し、アルセロールミッタル ニッポンスチール インディア社として新たにスタートしました。研究開発活動の具体的な取り組みについては、本報告書「第2 事業の状況 5研究開発活動」に記載しております。
しかしながら、当初中期経営計画に対して2018・2019年度の業績・営業キャッシュ・フローが下振れしております。一方で、今後も、鉄源・エネルギーを中心に巨額の投資を必要としており、依然として高水準の資金需要があります。これらに加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によるさらなる営業キャッシュ・フローの悪化を踏まえて、投資キャッシュ・フローの抑制、資産圧縮のさらなる追加検討によるキャッシュ・イン最大化を図るとともに、状況に応じて、資金調達面でも適切な対応を図ります。
1)資産圧縮
中期経営計画での資産圧縮目標を当初計画の1,000億円から4,000億円に増額し実行してきていますが(2018年度:1,000億円、2019年度:2,800億円、2カ年累計:3,800億円)、これを5,000億円以上に引き上げ、キャッシュフローの改善に取り組んでいます。
2)設備投資効率化
設備投資の厳選と効率化を図っており、長期更新計画に基づく効率的設備投資を検討し、将来にわたり収益に貢献する品種・地域へ選択投資することにより、2020年中期経営計画の国内設備投資総額1兆7,000億円を2,000億円程度圧縮することとし、今後さらなる削減を検討していきます。
3)資金調達
2019年9月12日に劣後債3,000億円を発行しました(償還期限は60年)。なお、格付機関より資本性50%認定を取得しております。
また、フリーキャッシュ・フローの状況に応じて、調達環境、金利条件等を勘案して、最適なタイミングで資金調達面での対応を図ります。具体的には、手許資金残高を2,894億円と前期末(1,631億円)に対して1,263億円多く持つことで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によるキャッシュ・フロー悪化に備えております。
これらの対策により、「つくる力」の再構築に必要な設備投資や、中長期的成長のために必要な事業投資を営業キャッシュ・フローと資産圧縮の範囲内で行い、財務体質を維持(D/Eレシオ=0.7程度)する、財務規律を重視したキャッシュ・マネジメントを引き続き実行します。
(流動性管理及び資金調達の方針について)
当社グループの円滑な事業活動に必要な資金を確保するため、手許資金及び外部借入を有効に活用しております。手許資金については、実需に見合った最低限の現預金を保有する方針としており、過去及び将来の資金繰りを勘案し、最適な保有残高を志向しております。外部借入については、安全性・安定性・柔軟性を担保する観点から基本的な調達の枠組みを決定しております。具体的には、不測の事態発生時における、当社の支払余力を確保すべく、適正な長期固定適合比率を維持するとともに、安全性の補完のためにコミットメントライン(当社連結:6,658億円)契約を締結しております。
また短期資金と長期資金のバランスを踏まえた有利子負債残高の設計により自由度を確保しており、当該枠組みの範囲内で、最適な資金調達の実現を志向しております。
③会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されております。重要な会計方針については、本報告書「第一部企業情報第5 経理の状況」に記載しております。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、引当金の計上、非金融資産の減損に係る会計基準における回収可能額の算定、繰延税金資産の回収可能性の判断等につきましては、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っております。但し、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果はこれら見積りと異なる場合があります。
当社が特に重要と判断している会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下です。
a.非金融資産の減損における回収可能価額
当社グループは、資産が減損している可能性を示す兆候のいずれかが存在する場合、資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を回収可能価額として見積り、回収可能価額が資産又は資金生成単位の帳簿価額を下回る場合、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しており、使用価値は見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算出しております。当該キャッシュ・フローは2020年中期経営計画及び最新の事業計画を基礎としており、これらの計画には鋼材需要の予測及び製造コスト改善等を主要な仮定として織り込んでおります。鋼材需要及び製造コスト改善の予測には高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が将来キャッシュ・フローに重要な影響を及ぼすと予想されます。なお、当期においては、製鉄所の事業用資産を中心に4,160億円の減損損失を計上しており、当期末における有形固定資産の残高は2兆8,125億円、無形資産の残高は966億円です。
b.繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、鋼材需要の予測及び製造コスト削減等の仮定に基づいて算定された将来における課税所得の見積り等の予想など、現状入手可能な全ての将来情報を用いて、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。当社グループは、税務上の便益が実現する可能性が高いと判断した範囲内でのみ繰延税金資産を認識していますが、経営環境悪化に伴う中期経営計画及び事業計画の目標未達等による将来における課税所得の見積りの変更や、法定税率の変更を含む税制改正などにより回収可能額が変動する可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債相殺前)の残高は2,997億円です。
(新型コロナウイルス感染症が当社グループにおける重要な会計上の見積りに与える影響について)
新型コロナウイルス感染症が当社グループの非金融資産の減損における回収可能価額及び繰延税金資産の回収可能性に与える影響については、規模及び期間は不透明ではありますが、2020年度下期にかけて鋼材需要等が回復すると仮定して見積もっております。しかしながら、この仮定は高い不確実性を伴っており、翌期以降において、仮定の見直しにより、見積り額及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があります。