四半期報告書-第56期第3四半期(2022/10/01-2022/12/31)
文中の将来に関する事項は、当四半期連結会計期間の末日現在において判断したものであります。
当社グループでは、従来、クラウド・コンピューティング契約におけるコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのコストについて、その他の非流動資産に計上しておりましたが、前連結会計年度より2021年4月に公表されたIFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定に至る議論を踏まえて、サービスを受領したときにそのコストを費用として認識する方法に変更いたしました。当該会計方針の変更は遡及適用され、遡及処理の内容を反映させた前第3四半期連結累計期間の数値との比較、分析を行っております。
(1) 経営成績の分析
当第3四半期連結累計期間におけるわが国経済は、個人消費は緩やかに回復し、経済活動も正常化に向かい持ち直しつつありますが、依然として継続的な資源・エネルギー価格の高騰や急激な為替変動等、先行きが不透明な状況が続いております。海外においては、ウクライナを取り巻く情勢の長期化やインフレの持続、中国の景気減速等により、全体的に回復基調にあった経済社会活動の減速が懸念されております。
医療面におきましては、先進国の医療の効率化、新興国の医療需要の拡大と医療の質・サービス向上へのニーズの高まり等に加えて、人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)等の最先端技術のヘルスケア領域への応用が急速に進展しております。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを起点として、グローバルで医療体制の在り方や医療環境自体が大きく変化する可能性もあり、医療分野は今後も継続した成長が期待されております。
このような状況の下、当社は微量の血液からアルツハイマー病の原因となる脳内アミロイドβ(Aβ)の蓄積状態を調べる検査試薬について製造販売承認を取得いたしました。これにより、アルツハイマー病の特徴の一つである脳内Aβの蓄積状態の把握の補助が可能となりました。また、本製品は従来の検査方法と異なり、血液にて検査ができるため、検査に伴う身体的・精神的・経済的負担を軽減する上、早期診断・早期の治療方針決定に貢献することが期待されます。今後、本製品の保険適用を目指した取り組みとともに、早期の市場導入に向けた準備を進めてまいります。
加えて、乳がん・大腸がん・胃がん・非小細胞肺がんのリンパ節転移検査用試薬として販売している、遺伝子増幅検出試薬「リノアンプ™CK19」に関して、子宮頸がん・子宮体がんに適応拡大する製造販売の一部変更承認を取得いたしました。このたびの承認取得により、子宮頸がん・子宮体がんのリンパ節転移検査においても、当社独自の技術であるOSNA™法※1を用いた迅速かつ高精度の検査結果を提供することで、適切な治療方針の決定等に貢献することが期待されます。
また、当社とJCRファーマ株式会社は、再生・細胞医療の社会実装に向け、幹細胞をはじめとする多種多様な細胞を用いた再生医療等製品の研究開発、製造及び販売を行う合弁会社を設立いたしました。従来の化学合成の低分子医薬品※2やバイオ医薬品※3では解決が困難とされてきた領域において、再生・細胞医療には様々な可能性が見いだされております。今後、再生医療等製品を通じて患者さんへの適切な治療機会の提供と予後改善の実現を目指し、早期事業化に向けた取り組みを強化してまいります。
更に、国産初の手術支援ロボットシステム「hinotori™ サージカルロボットシステム」のグローバル総代理店である当社は、日本の医療機関を対象に製品導入を推進しております。泌尿器科を適応領域としている同システムの、消化器外科及び婦人科への適応について厚生労働省より承認を取得し、今後新たな領域においても患者さんにやさしい低侵襲手術のサポートが可能となりました。海外市場導入にむけた薬事・販売体制等の準備についても、継続して活動を進めてまいります。
※1 OSNA(One-Step Nucleic Acid Amplification)法:
前処理工程の一部である核酸の抽出・精製が不要で、ワンステップで遺伝子増幅を可能とする当社が開発した技術。
※2 化学合成の低分子医薬品:
段階的な化学合成の工程を経て生産される有機化合物。分子が小さく、ごく少数の機能的な分子グループを含む比較的単純な構造をしている。
※3 バイオ医薬品:
バイオテクノロジー(遺伝子組換えや細胞増殖等の技術)によってつくられる医薬品。有効成分がタンパク質由来(成長ホルモン、インスリン、抗体等)、生物由来の物質(細胞、ウイルス、バクテリア等)により産生される。化学合成の低分子医薬品に比べて分子が大きく、複雑な構造をしている。
<参考>地域別売上高
国内販売につきましては、主に新型コロナウイルス感染症の検査に関する免疫検査分野の試薬の売上が増加したことに加え、ヘマトロジー分野及びメディカルロボット事業分野における機器の売上が増加いたしました。その結果、国内売上高は43,765百万円(前年同期比11.4%増)となりました。
海外販売につきましては、前年同期は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けましたが、検査需要の回復に伴い、主にヘマトロジー分野、尿検査分野及び血液凝固検査分野における試薬の売上が増加したことに加え、為替相場が円安に推移した結果、当社グループの海外売上高は254,978百万円(前年同期比16.1%増)、構成比85.4%(前年同期比0.5ポイント増)となりました。
また、販売費及び一般管理費につきましては、前年同期は、全地域において新型コロナウイルス感染症拡大に伴い活動制限等の影響がありましたが、主に販売・サービス活動の再開に伴い増加し、81,551百万円(前年同期比20.3%増)となりました。加えて、研究開発費につきましては、積極的な開発投資に伴い増加し22,064百万円(前年同期比20.5%増)となりました。
この結果、当第3四半期連結累計期間の連結業績は、売上高は298,743百万円(前年同期比15.4%増)、営業利益は54,372百万円(前年同期比10.2%増)、税引前四半期利益は51,058百万円(前年同期比7.4%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は35,185百万円(前年同期比8.1%増)となりました。
セグメントの経営成績は、以下のとおりであります。
① 日本
主に新型コロナウイルス感染症の検査に関する免疫検査分野における試薬の売上が増加したことに加え、ライフサイエンス分野の試薬及び保守サービス、メディカルロボット事業分野における機器の売上が増加いたしました。その結果、売上高は46,575百万円(前年同期比10.4%増)となりました。
利益面につきましては、販売費及び一般管理費、研究開発費が増加いたしましたが、増収及び売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は38,570百万円(前年同期比42.2%増)となりました。
② 米州
北米において、検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野における機器、試薬及び保守サービスの売上、尿検査分野における試薬の売上が増加いたしました。中南米においても、機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野及び尿検査分野における機器及び試薬の売上が増加いたしました。その結果、米州全体における売上高は73,269百万円(前年同期比31.2%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は2,459百万円(前年同期比16.8%減)となりました。
③ EMEA
検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野、尿検査分野及びライフサイエンス分野における機器及び試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は85,980百万円(前年同期比11.8%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は8,863百万円(前年同期比27.2%減)となりました。
④ 中国
中国各地において大規模なロックダウンが実施されたこと等により、ヘマトロジー分野及び尿検査分野における機器の売上が減少いたしましたが、血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は65,965百万円(前年同期比5.1%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は6,761百万円(前年同期比8.5%減)となりました。
⑤ アジア・パシフィック
検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野における機器及び試薬の売上、尿検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は26,952百万円(前年同期比27.1%増)となりました。
利益面につきましては、販売費及び一般管理費が増加いたしましたが、増収及び売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は4,469百万円(前年同期比49.3%増)となりました。
(2) 財政状態の分析
当第3四半期連結会計期間末の資産合計は、前連結会計年度末と比べて17,728百万円増加し、501,435百万円となりました。この主な要因は、現金及び現金同等物が18,738百万円減少したものの、棚卸資産が11,770百万円、無形資産が11,449百万円、のれんが5,545百万円増加したこと等によるものであります。
一方、負債合計は、前連結会計年度末と比べて7,297百万円減少し、127,356百万円となりました。この主な要因は、その他の長期金融負債が2,503百万円増加したものの、未払賞与が3,690百万円、未払法人所得税が3,623百万円減少したこと等によるものであります。
資本合計は、前連結会計年度末と比べて25,025百万円増加し、374,078百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金が18,657百万円、その他の資本の構成要素が6,267百万円増加したこと等によるものであります。また、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の72.0%から2.5ポイント増加して74.5%となりました。
(3) キャッシュ・フローの分析
当第3四半期連結会計期間末の現金及び現金同等物(以下、資金)は、前連結会計年度末より18,738百万円減少し、55,014百万円となりました。
当第3四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりであります。
<営業活動によるキャッシュ・フロー>営業活動の結果得られた資金は、39,881百万円(前年同期比10,134百万円減)となりました。この主な要因は、税引前四半期利益が51,058百万円(前年同期比3,504百万円増)、減価償却費及び償却費が23,552百万円(前年同期比2,776百万円増)、棚卸資産の増加額が13,266百万円(前年同期比2,680百万円減)、法人所得税の支払額が22,211百万円(前年同期比10,130百万円増)となったこと等によるものであります。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>投資活動の結果使用した資金は、38,508百万円(前年同期比12,765百万円増)となりました。この主な要因は、有形固定資産の取得による支出が11,971百万円(前年同期比1,792百万円増)、無形資産の取得による支出が17,382百万円(前年同期比3,849百万円増)、資本性金融商品の取得による支出が5,181百万円(前年同期比5,181百万円増)となったこと等によるものであります。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>財務活動の結果使用した資金は、22,346百万円(前年同期比3,477百万円増)となりました。この主な要因は、配当金の支払額が16,528百万円(前年同期比1,270百万円増)、リース負債の返済による支払額が5,989百万円(前年同期比1,123百万円増)となったこと等によるものであります。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
前事業年度の有価証券報告書に記載した「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」内の「優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」の記載について重要な変更はありません。
(5) 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
前事業年度の有価証券報告書に記載した「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」内の「重要な会計方針及び見積り」の記載について重要な変更はありません。
(6) 研究開発活動
当第3四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発費は22,064百万円であります。
また、当第3四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
なお、当第3四半期連結累計期間における、主な研究開発活動の状況は以下のとおりであります。
① 2022年5月 当社は、尿路感染症※1を対象とした迅速な薬剤感受性検査※2の臨床実装を加速させると共に、薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)※3対策への取り組み等、医療課題の解決に貢献するべく、持分法適用関連会社であるアストレゴ ダイアグノスティックス エービーの株式を追加取得し、当社の完全子会社といたしました。
※1 尿路感染症:
腎臓から尿の出口までを「尿路」と言い、尿路に細菌が進入し炎症が生じたものを尿路感染症という。膀胱では膀胱炎、腎臓では腎盂腎炎を引き起こす。
※2 薬剤感受性検査:
検体から検出された病原菌に対する各種抗菌薬の効能を調べる検査。
※3 薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance):
生物が自分に対して何らかの作用をもった薬剤に対して抵抗性を持つことで、これらの薬剤が効かない、もしくは効きにくくなる現象。この薬剤耐性を獲得した細菌のことを薬剤耐性菌という。
② 2022年5月 当社は、全自動免疫測定装置HISCL™-5000/HISCL-800を用いて血液中のアミロイドβを測定し、脳内アミロイドβの蓄積状態の把握を補助する検査試薬について、欧州の体外診断用医療機器指令(IVD指令)の自己宣言を完了いたしました。
③ 2022年6月 当社は、遺伝性網膜ジストロフィー※4の患者さんの血液から、関連遺伝子を対象とした複数の遺伝子変異情報を次世代シークエンサー※5を用いて検出・解析し、原因遺伝子に応じた治療計画やロービジョンケア※6計画の策定及び科学的根拠に基づく遺伝カウンセリングを補助する遺伝子パネル検査システムについて、製造販売承認申請を実施いたしました。
※4 遺伝性網膜ジストロフィー(Inherited Retinal Dystrophy:IRD):
遺伝子変異が原因と考えられる遺伝性進行性の疾患。類似の症状を示すいくつかの疾患を総じて遺伝性網膜ジストロフィーと呼ぶ。夜盲(暗いところでものが見えにくなる)や視野狭窄(視野が狭くなる)、視力低下が主な症状であり、進行すると場合によっては失明に至ることもある。頻度は4,000~8,000人に1人とされ、代表的な疾患は網膜色素変性症(指定難病:告示番号90)である。
※5 次世代シークエンサー(NGS):
DNAの塩基配列を、同時並行で大量に読み取る解析装置。
※6 ロービジョンケア:
視覚に障害があるため、生活上何らかの支障がある方に対し、よりよく見るための工夫や機器の紹介、進路や就労を含む様々な相談・情報提供、福祉制度の利用等、多岐にわたる支援を行う。
④ 2022年7月 当社は、ヘマトロジー分野におけるフラッグシップモデル「多項目自動血球分析装置 XR™ シリーズ」と接続可能な新たな検体搬送システム商品群「バーコードターミナル BT-50」、「検体並び替え装置 TS-01」、「検体保管装置 TA-01」を発売いたしました。
⑤ 2022年8月 当社は、ソフトウェアの設計開発機能の強化により、開発スピード向上に取り組むべく、ソフトウェア開発会社である株式会社ピロートの株式を取得し、当社の完全子会社といたしました。
⑥ 2022年9月 当社は、遺伝子変異解析セット「OncoGuide™ NCC オンコパネル システム」※8に関して、FGFR2 ※7融合遺伝子を含む遺伝子再構成を有する進行胆道がんの患者さんに対するコンパニオン診断として、製造販売承認事項の一部変更申請を実施いたしました。
※7 FGFR2遺伝子:
FGFR(fibroblast growth factor receptor)はFGFR1-4の4種類が同定されており、細胞の成長や増殖に関わる線維芽細胞増殖因子受容体と呼ばれるタンパク質である。FGFR遺伝子異常には、融合、変異、増幅等があり、これら遺伝子異常により機能が活性化されると、がん細胞の増殖、生存、遊走、腫瘍血管新生、薬剤耐性等に結び付くと考えられている。
※8 OncoGuide NCC オンコパネル システム:
当社が、がんゲノムプロファイリング検査用のシステムとして日本で初めて、2018年12月25日に先駆け審査対象として医療機器製造販売承認を取得し、2019年6月1日に保険収載されたコンビネーション医療機器。
⑦ 2022年9月 当社は、尿沈渣検査分野における新製品「全自動尿中有形成分分析装置 UF-1500」を発売いたしました。
⑧ 2022年10月 当社とJCRファーマ株式会社は、造血幹細胞をはじめとする幹細胞やその他の細胞を用いた再生医療等製品の研究開発、製造及び販売を行うAlliedCel株式会社を共同で設立いたしました。
⑨ 2022年10月 当社は、遺伝子増幅検出試薬「リノアンプ™CK19」に関して、子宮頸がん・子宮体がんのリンパ節転移検査に適応拡大する製造販売承認事項の一部変更申請について、承認を取得いたしました。
⑩ 2022年12月 当社は、血液中のアミロイドβ(Aβ)を測定する検査試薬「HISCL β-アミロイド 1-42 試薬」及び「HISCL β-アミロイド 1-40 試薬」について、体外診断用医薬品として国内での製造販売承認を取得いたしました。
当社グループでは、従来、クラウド・コンピューティング契約におけるコンフィギュレーション又はカスタマイゼーションのコストについて、その他の非流動資産に計上しておりましたが、前連結会計年度より2021年4月に公表されたIFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定に至る議論を踏まえて、サービスを受領したときにそのコストを費用として認識する方法に変更いたしました。当該会計方針の変更は遡及適用され、遡及処理の内容を反映させた前第3四半期連結累計期間の数値との比較、分析を行っております。
(1) 経営成績の分析
当第3四半期連結累計期間におけるわが国経済は、個人消費は緩やかに回復し、経済活動も正常化に向かい持ち直しつつありますが、依然として継続的な資源・エネルギー価格の高騰や急激な為替変動等、先行きが不透明な状況が続いております。海外においては、ウクライナを取り巻く情勢の長期化やインフレの持続、中国の景気減速等により、全体的に回復基調にあった経済社会活動の減速が懸念されております。
医療面におきましては、先進国の医療の効率化、新興国の医療需要の拡大と医療の質・サービス向上へのニーズの高まり等に加えて、人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)等の最先端技術のヘルスケア領域への応用が急速に進展しております。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを起点として、グローバルで医療体制の在り方や医療環境自体が大きく変化する可能性もあり、医療分野は今後も継続した成長が期待されております。
このような状況の下、当社は微量の血液からアルツハイマー病の原因となる脳内アミロイドβ(Aβ)の蓄積状態を調べる検査試薬について製造販売承認を取得いたしました。これにより、アルツハイマー病の特徴の一つである脳内Aβの蓄積状態の把握の補助が可能となりました。また、本製品は従来の検査方法と異なり、血液にて検査ができるため、検査に伴う身体的・精神的・経済的負担を軽減する上、早期診断・早期の治療方針決定に貢献することが期待されます。今後、本製品の保険適用を目指した取り組みとともに、早期の市場導入に向けた準備を進めてまいります。
加えて、乳がん・大腸がん・胃がん・非小細胞肺がんのリンパ節転移検査用試薬として販売している、遺伝子増幅検出試薬「リノアンプ™CK19」に関して、子宮頸がん・子宮体がんに適応拡大する製造販売の一部変更承認を取得いたしました。このたびの承認取得により、子宮頸がん・子宮体がんのリンパ節転移検査においても、当社独自の技術であるOSNA™法※1を用いた迅速かつ高精度の検査結果を提供することで、適切な治療方針の決定等に貢献することが期待されます。
また、当社とJCRファーマ株式会社は、再生・細胞医療の社会実装に向け、幹細胞をはじめとする多種多様な細胞を用いた再生医療等製品の研究開発、製造及び販売を行う合弁会社を設立いたしました。従来の化学合成の低分子医薬品※2やバイオ医薬品※3では解決が困難とされてきた領域において、再生・細胞医療には様々な可能性が見いだされております。今後、再生医療等製品を通じて患者さんへの適切な治療機会の提供と予後改善の実現を目指し、早期事業化に向けた取り組みを強化してまいります。
更に、国産初の手術支援ロボットシステム「hinotori™ サージカルロボットシステム」のグローバル総代理店である当社は、日本の医療機関を対象に製品導入を推進しております。泌尿器科を適応領域としている同システムの、消化器外科及び婦人科への適応について厚生労働省より承認を取得し、今後新たな領域においても患者さんにやさしい低侵襲手術のサポートが可能となりました。海外市場導入にむけた薬事・販売体制等の準備についても、継続して活動を進めてまいります。
※1 OSNA(One-Step Nucleic Acid Amplification)法:
前処理工程の一部である核酸の抽出・精製が不要で、ワンステップで遺伝子増幅を可能とする当社が開発した技術。
※2 化学合成の低分子医薬品:
段階的な化学合成の工程を経て生産される有機化合物。分子が小さく、ごく少数の機能的な分子グループを含む比較的単純な構造をしている。
※3 バイオ医薬品:
バイオテクノロジー(遺伝子組換えや細胞増殖等の技術)によってつくられる医薬品。有効成分がタンパク質由来(成長ホルモン、インスリン、抗体等)、生物由来の物質(細胞、ウイルス、バクテリア等)により産生される。化学合成の低分子医薬品に比べて分子が大きく、複雑な構造をしている。
<参考>地域別売上高
前第3四半期 連結累計期間 | 当第3四半期 連結累計期間 | 前年同期比 (%) | ||||
金額 (百万円) | 構成比 (%) | 金額 (百万円) | 構成比 (%) | |||
国内 | 39,283 | 15.1 | 43,765 | 14.6 | 111.4 | |
米州 | 59,275 | 22.9 | 77,236 | 25.9 | 130.3 | |
EMEA | 76,184 | 29.4 | 84,636 | 28.3 | 111.1 | |
中国 | 62,792 | 24.3 | 66,038 | 22.1 | 105.2 | |
アジア・パシフィック | 21,366 | 8.3 | 27,066 | 9.1 | 126.7 | |
海外計 | 219,618 | 84.9 | 254,978 | 85.4 | 116.1 | |
合計 | 258,901 | 100.0 | 298,743 | 100.0 | 115.4 |
国内販売につきましては、主に新型コロナウイルス感染症の検査に関する免疫検査分野の試薬の売上が増加したことに加え、ヘマトロジー分野及びメディカルロボット事業分野における機器の売上が増加いたしました。その結果、国内売上高は43,765百万円(前年同期比11.4%増)となりました。
海外販売につきましては、前年同期は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けましたが、検査需要の回復に伴い、主にヘマトロジー分野、尿検査分野及び血液凝固検査分野における試薬の売上が増加したことに加え、為替相場が円安に推移した結果、当社グループの海外売上高は254,978百万円(前年同期比16.1%増)、構成比85.4%(前年同期比0.5ポイント増)となりました。
また、販売費及び一般管理費につきましては、前年同期は、全地域において新型コロナウイルス感染症拡大に伴い活動制限等の影響がありましたが、主に販売・サービス活動の再開に伴い増加し、81,551百万円(前年同期比20.3%増)となりました。加えて、研究開発費につきましては、積極的な開発投資に伴い増加し22,064百万円(前年同期比20.5%増)となりました。
この結果、当第3四半期連結累計期間の連結業績は、売上高は298,743百万円(前年同期比15.4%増)、営業利益は54,372百万円(前年同期比10.2%増)、税引前四半期利益は51,058百万円(前年同期比7.4%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は35,185百万円(前年同期比8.1%増)となりました。
セグメントの経営成績は、以下のとおりであります。
① 日本
主に新型コロナウイルス感染症の検査に関する免疫検査分野における試薬の売上が増加したことに加え、ライフサイエンス分野の試薬及び保守サービス、メディカルロボット事業分野における機器の売上が増加いたしました。その結果、売上高は46,575百万円(前年同期比10.4%増)となりました。
利益面につきましては、販売費及び一般管理費、研究開発費が増加いたしましたが、増収及び売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は38,570百万円(前年同期比42.2%増)となりました。
② 米州
北米において、検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野における機器、試薬及び保守サービスの売上、尿検査分野における試薬の売上が増加いたしました。中南米においても、機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野及び尿検査分野における機器及び試薬の売上が増加いたしました。その結果、米州全体における売上高は73,269百万円(前年同期比31.2%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は2,459百万円(前年同期比16.8%減)となりました。
③ EMEA
検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野、尿検査分野及びライフサイエンス分野における機器及び試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は85,980百万円(前年同期比11.8%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は8,863百万円(前年同期比27.2%減)となりました。
④ 中国
中国各地において大規模なロックダウンが実施されたこと等により、ヘマトロジー分野及び尿検査分野における機器の売上が減少いたしましたが、血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は65,965百万円(前年同期比5.1%増)となりました。
利益面につきましては、売上原価率の悪化及び販売費及び一般管理費の増加により、セグメント利益(営業利益)は6,761百万円(前年同期比8.5%減)となりました。
⑤ アジア・パシフィック
検査需要の回復及び機器販売が伸長したこと等により、ヘマトロジー分野における機器及び試薬の売上、尿検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は26,952百万円(前年同期比27.1%増)となりました。
利益面につきましては、販売費及び一般管理費が増加いたしましたが、増収及び売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は4,469百万円(前年同期比49.3%増)となりました。
(2) 財政状態の分析
当第3四半期連結会計期間末の資産合計は、前連結会計年度末と比べて17,728百万円増加し、501,435百万円となりました。この主な要因は、現金及び現金同等物が18,738百万円減少したものの、棚卸資産が11,770百万円、無形資産が11,449百万円、のれんが5,545百万円増加したこと等によるものであります。
一方、負債合計は、前連結会計年度末と比べて7,297百万円減少し、127,356百万円となりました。この主な要因は、その他の長期金融負債が2,503百万円増加したものの、未払賞与が3,690百万円、未払法人所得税が3,623百万円減少したこと等によるものであります。
資本合計は、前連結会計年度末と比べて25,025百万円増加し、374,078百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金が18,657百万円、その他の資本の構成要素が6,267百万円増加したこと等によるものであります。また、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の72.0%から2.5ポイント増加して74.5%となりました。
(3) キャッシュ・フローの分析
当第3四半期連結会計期間末の現金及び現金同等物(以下、資金)は、前連結会計年度末より18,738百万円減少し、55,014百万円となりました。
当第3四半期連結累計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりであります。
<営業活動によるキャッシュ・フロー>営業活動の結果得られた資金は、39,881百万円(前年同期比10,134百万円減)となりました。この主な要因は、税引前四半期利益が51,058百万円(前年同期比3,504百万円増)、減価償却費及び償却費が23,552百万円(前年同期比2,776百万円増)、棚卸資産の増加額が13,266百万円(前年同期比2,680百万円減)、法人所得税の支払額が22,211百万円(前年同期比10,130百万円増)となったこと等によるものであります。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>投資活動の結果使用した資金は、38,508百万円(前年同期比12,765百万円増)となりました。この主な要因は、有形固定資産の取得による支出が11,971百万円(前年同期比1,792百万円増)、無形資産の取得による支出が17,382百万円(前年同期比3,849百万円増)、資本性金融商品の取得による支出が5,181百万円(前年同期比5,181百万円増)となったこと等によるものであります。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>財務活動の結果使用した資金は、22,346百万円(前年同期比3,477百万円増)となりました。この主な要因は、配当金の支払額が16,528百万円(前年同期比1,270百万円増)、リース負債の返済による支払額が5,989百万円(前年同期比1,123百万円増)となったこと等によるものであります。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
前事業年度の有価証券報告書に記載した「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」内の「優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」の記載について重要な変更はありません。
(5) 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
前事業年度の有価証券報告書に記載した「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」内の「重要な会計方針及び見積り」の記載について重要な変更はありません。
(6) 研究開発活動
当第3四半期連結累計期間におけるグループ全体の研究開発費は22,064百万円であります。
また、当第3四半期連結累計期間において、当社グループの研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
なお、当第3四半期連結累計期間における、主な研究開発活動の状況は以下のとおりであります。
① 2022年5月 当社は、尿路感染症※1を対象とした迅速な薬剤感受性検査※2の臨床実装を加速させると共に、薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)※3対策への取り組み等、医療課題の解決に貢献するべく、持分法適用関連会社であるアストレゴ ダイアグノスティックス エービーの株式を追加取得し、当社の完全子会社といたしました。
※1 尿路感染症:
腎臓から尿の出口までを「尿路」と言い、尿路に細菌が進入し炎症が生じたものを尿路感染症という。膀胱では膀胱炎、腎臓では腎盂腎炎を引き起こす。
※2 薬剤感受性検査:
検体から検出された病原菌に対する各種抗菌薬の効能を調べる検査。
※3 薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance):
生物が自分に対して何らかの作用をもった薬剤に対して抵抗性を持つことで、これらの薬剤が効かない、もしくは効きにくくなる現象。この薬剤耐性を獲得した細菌のことを薬剤耐性菌という。
② 2022年5月 当社は、全自動免疫測定装置HISCL™-5000/HISCL-800を用いて血液中のアミロイドβを測定し、脳内アミロイドβの蓄積状態の把握を補助する検査試薬について、欧州の体外診断用医療機器指令(IVD指令)の自己宣言を完了いたしました。
③ 2022年6月 当社は、遺伝性網膜ジストロフィー※4の患者さんの血液から、関連遺伝子を対象とした複数の遺伝子変異情報を次世代シークエンサー※5を用いて検出・解析し、原因遺伝子に応じた治療計画やロービジョンケア※6計画の策定及び科学的根拠に基づく遺伝カウンセリングを補助する遺伝子パネル検査システムについて、製造販売承認申請を実施いたしました。
※4 遺伝性網膜ジストロフィー(Inherited Retinal Dystrophy:IRD):
遺伝子変異が原因と考えられる遺伝性進行性の疾患。類似の症状を示すいくつかの疾患を総じて遺伝性網膜ジストロフィーと呼ぶ。夜盲(暗いところでものが見えにくなる)や視野狭窄(視野が狭くなる)、視力低下が主な症状であり、進行すると場合によっては失明に至ることもある。頻度は4,000~8,000人に1人とされ、代表的な疾患は網膜色素変性症(指定難病:告示番号90)である。
※5 次世代シークエンサー(NGS):
DNAの塩基配列を、同時並行で大量に読み取る解析装置。
※6 ロービジョンケア:
視覚に障害があるため、生活上何らかの支障がある方に対し、よりよく見るための工夫や機器の紹介、進路や就労を含む様々な相談・情報提供、福祉制度の利用等、多岐にわたる支援を行う。
④ 2022年7月 当社は、ヘマトロジー分野におけるフラッグシップモデル「多項目自動血球分析装置 XR™ シリーズ」と接続可能な新たな検体搬送システム商品群「バーコードターミナル BT-50」、「検体並び替え装置 TS-01」、「検体保管装置 TA-01」を発売いたしました。
⑤ 2022年8月 当社は、ソフトウェアの設計開発機能の強化により、開発スピード向上に取り組むべく、ソフトウェア開発会社である株式会社ピロートの株式を取得し、当社の完全子会社といたしました。
⑥ 2022年9月 当社は、遺伝子変異解析セット「OncoGuide™ NCC オンコパネル システム」※8に関して、FGFR2 ※7融合遺伝子を含む遺伝子再構成を有する進行胆道がんの患者さんに対するコンパニオン診断として、製造販売承認事項の一部変更申請を実施いたしました。
※7 FGFR2遺伝子:
FGFR(fibroblast growth factor receptor)はFGFR1-4の4種類が同定されており、細胞の成長や増殖に関わる線維芽細胞増殖因子受容体と呼ばれるタンパク質である。FGFR遺伝子異常には、融合、変異、増幅等があり、これら遺伝子異常により機能が活性化されると、がん細胞の増殖、生存、遊走、腫瘍血管新生、薬剤耐性等に結び付くと考えられている。
※8 OncoGuide NCC オンコパネル システム:
当社が、がんゲノムプロファイリング検査用のシステムとして日本で初めて、2018年12月25日に先駆け審査対象として医療機器製造販売承認を取得し、2019年6月1日に保険収載されたコンビネーション医療機器。
⑦ 2022年9月 当社は、尿沈渣検査分野における新製品「全自動尿中有形成分分析装置 UF-1500」を発売いたしました。
⑧ 2022年10月 当社とJCRファーマ株式会社は、造血幹細胞をはじめとする幹細胞やその他の細胞を用いた再生医療等製品の研究開発、製造及び販売を行うAlliedCel株式会社を共同で設立いたしました。
⑨ 2022年10月 当社は、遺伝子増幅検出試薬「リノアンプ™CK19」に関して、子宮頸がん・子宮体がんのリンパ節転移検査に適応拡大する製造販売承認事項の一部変更申請について、承認を取得いたしました。
⑩ 2022年12月 当社は、血液中のアミロイドβ(Aβ)を測定する検査試薬「HISCL β-アミロイド 1-42 試薬」及び「HISCL β-アミロイド 1-40 試薬」について、体外診断用医薬品として国内での製造販売承認を取得いたしました。