有価証券報告書-第71期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
当社グループが属する航空業界は、2020年1月以降、新型コロナウイルス感染拡大により大きな影響を受けております。感染が世界的な拡がりを見せ、全世界において渡航制限などの強力な措置がとられたことで、国境を跨いだ人の移動は消失し、日本国内においても、全国を対象に緊急事態宣言が発出され、国内の移動が自粛を求められるなど、航空需要の著しい減少に見舞われております。これは、過去に航空業界が経験してきたいかなるイベントリスクをもはるかに超える史上例を見ない規模のイベントリスクとして、当社グループの経営にも甚大な影響を及ぼしており、いまだ終息の兆しが見えておりません。
当社グループでは、各国政府当局の規制の変更に速やかに対応し、また最大限に感染拡大防止の取り組みに努めることで、需要が急減する中においても、お客さまと社員の安全確保を図りながら定期航空運送事業者としての使命を果たしております。このような危機的な状況において、当社グループは、減便・運休・使用する航空機の小型化などの機動的な供給量削減を行い、運航費用の削減を図ると同時に、固定費を含む抜本的なコスト削減策と投資抑制を遅滞なく実施することで、業績への影響を緩和する努力を継続しております。加えて、影響が長期化する場合に備え、十分な手元流動性の確保に万全を期してまいります。また、定期航空協会を通じ、着陸料や航行援助施設使用料、航空機燃料税などの公租公課の支払い猶予および減免等や、公的部門による資金面での支援について要望し、2020年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」において、航空業界支援に関する対策が盛り込まれました。関係の皆さまのご尽力に深く感謝いたします。
当社グループは、これらの対策を通じ、この危機を乗り越えるべく全力を尽くしてまいります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
①財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度(2019年4月1日~2020年3月31日)における経営環境を概括すると、米中貿易摩擦の影響等により世界経済に先行き不透明感が広がる中で、日本経済は、相次ぐ大規模な自然災害に見舞われ、10月には消費税増税があったものの、景気への影響は大きくなく、全体的に堅調に推移しておりました。しかしながら、2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界および日本経済は大きく下振れしました。
また、燃油費、国際旅客収入ならびに国際貨物収入に影響を与える原油価格については、国際情勢の変動などの影響を受けつつも、概ね一定の範囲で推移しておりましたが、2020年3月以降、OPECプラスにおける協調減産協議の不調や世界経済の減速懸念を受け、大幅に下落しております。当社グループでは、燃油サーチャージの収受や適切なヘッジの実施により、業績変動の抑制に努めるとともに、引き続き、景気動向に与える影響や当社グループの業績への影響について注視してまいります。
以下、当連結会計年度における当社グループの経営状況につき概括します。
当社グループの存立の大前提であり、中期経営計画における経営目標である「安全」については、飲酒不適切事案を防ぐことができず、2019年10月8日に2度目の「事業改善命令」を受けることとなりました。社長の赤坂祐二自らが安全統括管理者に就任し、全社が一丸となって不退転の決意で意識改革と飲酒管理の徹底を推し進め、「安全・安心の再構築」と「信頼回復と企業価値の向上」に努めてまいります。
もう一つの経営目標である「顧客満足」については、「ネットワーク」と「商品サービス」の両方を磨き上げるための施策を着実に実行いたしました。2019年9月に国土交通省から新たに配分を受けた羽田空港の国際線発着枠を活用した新路線の開設や、全席に個人用画面および電源を配備したエアバスA350-900型機およびボーイング787-8型機といった最新鋭の航空機の国内線への導入、羽田・成田両空港におけるラウンジのリニューアル、羽田空港での搭乗手続き等の利便性・快適性の向上を図る「JAL SMART AIRPORT」の推進、WEBサイトやスマートフォン向けアプリの利便性向上に努めました。こうした取り組みが評価され、SKYTRAX社の「ワールド・エアライン・スター・レイティング」において2年連続で「5スターエアライン」に認定されるなど、様々な賞を受賞しております。また、当社グループでは、相次いで大きな自然災害や首里城における火災などが発生したことを受けて、様々な形で被災地域を支援してまいりました。定期航空運送事業者としての社会的使命の達成に向けて、引き続き取り組んでまいります。
当社グループでは、事業領域の拡大に向けて、当社グループの強みである人財と先進的なテクノロジーを融合させ、「JAL Innovation Lab」における取り組み等を通じたイノベーションにより、新しい商品・サービスやビジネスの創造に努めております。当連結会計年度においても、国際線中長距離ローコストキャリアビジネスにおける株式会社ZIPAIR Tokyoが2020年度の就航に向けた準備を進め、また、Bell Textron Inc.との業務提携によりeVTOL(電動垂直離着陸機)を用いた次世代エアモビリティサービス提供の検討を開始しました。さらに、地方における新たな物流サービスを通じた地域課題の解決を目指し、無人ヘリコプターを用いた貨物輸送実験を行うなど、新たな需要の獲得に向けて、複数のビジネス領域への展開を積極的に行ってまいりました。また、公共交通機関としての社会的使命を果たすべく、地域活性化、訪日外国人観光客の増加に向けて取り組みを進めてまいりました。7月には、当社が参加するコンソーシアム「北海道エアポートグループ」が北海道内7空港特定運営事業等の優先交渉権者に選定されました。10月には航空会社5社で構成される地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合(EAS LLP)が設立され、離島生活路線等の航空路線維持に向けて、当社グループも重要な役割を果たしていく予定です。
SDGsの達成に向けた取り組みとしては、CO2削減に向け、「国産」代替航空燃料の製造・販売の事業性調査を、丸紅株式会社、JXTGエネルギー株式会社、日揮株式会社と共同で実施することといたしました。また、健康経営推進にも積極的に取り組んだ結果、「健康経営優良法人2020(大規模法人部門)ホワイト500」に認定されております。
財務戦略においては、資本効率の向上および安定的な株主還元の実現等に向け、3月までに1,189万株、400億円分の自己株式を取得し、そのすべてを消却いたしました。また、9月には、企業年金の積立不足の早期解消による将来の財務リスク払拭のため、JAL企業年金基金へ特例掛金827億円を拠出し、当社の退職給付に係る負債を削減しております。10月には、日本証券アナリスト協会による2019年度ディスクロージャー優良企業の運輸部門において、2年連続となる第1位を獲得いたしました。今後も、市場・投資家の皆さまとのより良い対話の実現に向けて、さらなる情報開示の充実と質の向上に向けて取り組んでまいります。
当社グループでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化した場合に備え、第4四半期において577億円の資金調達を前倒しで実施する等、手元流動性の確保には万全を期し、不測の事態に備えて経営の安定化に資する財務施策を遅滞なく実施してまいります。
当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大により国際線・国内線双方ともに急激かつ大幅に需要が減少するという、未曾有の事態を迎えております。これまで、当社グループは、いたずらに規模を追わず効率性を最重視し、リスク耐性を備えた経営体制の構築に向け全社一丸となって努力してまいりました。今はその真価が問われる時と認識しております。これまで培ってきた強固な財務体質を活かして手元流動性の確保に尽力するとともに、急減する需要に応じた供給削減を迅速に実行することで、コストの削減に最大限努めてまいります。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響による航空需要の減少はあくまでも一時的なものであり、中長期的には日本を発着する航空総需要は大きく成長していくという見通しに変わりはありません。この未曾有の事態を耐え抜いた後は、強固な財務体質の再構築に向け一層努力するとともに、「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」を目指し、すべてのお客さまに快適な空の旅をご提供できるよう、チャレンジしてまいります。
a.財政状態
当連結会計年度末における資産については、前連結会計年度末に比べ1,709億円減少し、1兆8,593億円となりました。負債については、前連結会計年度末に比べ1,026億円減少の7,275億円となりました。純資産については、前連結会計年度末に比べ682億円減少の1兆1,318億円となりました。
b.経営成績
当連結会計年度における営業収益は1兆4,112億円(前年同期比5.1%減少)、営業費用は1兆3,105億円(前年同期比0.0%減少)となり、営業利益は1,006億円(前年同期比42.9%減少)、経常利益は1,025億円(前年同期比38.0%減少)、親会社株主に帰属する当期純利益は534億円(前年同期比64.6%減少)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりです。
<航空運送事業セグメント>当連結会計年度における航空運送事業の実績については、営業収益は1兆2,848億円(前年同期比5.4%減少)、営業利益は859億円(前年同期比47.1%減少)となりました。(営業収益及び営業利益はセグメント間連結消去前数値です。)
部門別売上高は次のとおりです。
(注)金額については切捨処理、各比率については四捨五入処理しております。
連結輸送実績は次のとおりです。
(注)1.旅客キロは、各区間有償旅客数(人)に当該区間距離(キロ)を乗じたものであり、座席キロは、各区間有効座席数(席)に当該区間距離(キロ)を乗じたものです。
輸送量(トン・キロ)は、各区間輸送量(トン)に当該区間距離(キロ)を乗じたものです。
2.区間距離は、IATA(国際航空運送協会)、ICAO(国際民間航空機構)の統計資料に準じた算出基準の大圏距離方式で算出しております。
3.国際線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)
国内線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)、日本エアコミューター(株)、
(株)ジェイエア、琉球エアーコミューター(株)、(株)北海道エアシステム
ただし、前年同期は、国際線:日本航空(株)
国内線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)、日本エアコミューター(株)、
(株)ジェイエア、琉球エアーコミューター(株)、(株)北海道エアシステム
4.数字については切捨処理、比率については四捨五入処理しております。
<その他>株式会社ジャルパックと株式会社ジャルカードの概況は、次のとおりです。
株式会社ジャルパック
株式会社ジャルカード
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ1,929億円減少し、3,291億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益965億円に減価償却費等の非資金項目、退職給付に係る負債及び営業活動に係る債権・債務の加減算等を行った結果、営業活動によるキャッシュ・フロー(インフロー)は600億円(前年同期比2,366億円の減少)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得による支出を主因として、投資活動によるキャッシュ・フロー(アウトフロー)は△2,215億円(前年同期比351億円の増加)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
自己株式の取得、配当金の支払い及び社債の発行を行ったことから、財務活動によるキャッシュ・フロー(アウトフロー)は△301億円(前年同期比69億円の減少)となりました。
③生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産、受注及び販売に該当する業種・業態がほとんどないため、「① 財政状態及び経営成績の状況」に含めて記載しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。連結財務諸表の作成に当たり、経営者の判断に基づく会計方針の選択と適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りが必要となりますが、その判断及び見積りに関しては連結財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき合理的に判断しております。しかしながら、実際の結果は、見積り特有の不確実性が伴うことから、これら見積りと異なる可能性があります。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。
経営者が行った連結財務諸表の金額に重要な影響を与える見積りは次のとおりです。
・収益認識
航空輸送に係る収益は、航空輸送役務の完了時に認識しております。
航空輸送に使用される予定のない航空券販売(失効見込の未使用航空券)は、航空券の条件や過去の傾向に基づく金額および認識のタイミングを見積り、収益認識しております。
・航空機等の減価償却費
航空機、航空機エンジン部品および客室関連資産等の各構成要素の耐用年数決定にあたり、将来の経済的使用可能予測期間を考慮して、減価償却費を算定しております。
なお、当連結会計年度より一部の航空機エンジン部品および客室関連資産について、将来の経済的使用可能予測期間をより適切に反映するため、耐用年数を変更しております。
・繰延税金資産の認識
当社グループは、将来減算一時差異および繰越欠損金のうち、将来課税所得に対して利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で繰延税金資産を認識しております。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたっての見積りに関しては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載しております。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.経営成績等
1)財政状態
(資産合計)
当連結会計年度末における資産については、現預金や営業未収入金の減少などを主因として前連結会計年度末に比べ1,709億円減少し、1兆8,593億円となりました。
(負債合計)
当連結会計年度末における負債については、退職給付に係る負債や前受金の減少、社債の増加などにより、前連結会計年度末に比べ1,026億円減少し、7,275億円となりました。
(純資産合計)
当連結会計年度末における純資産については、配当金の支払いやその他の包括利益累計額の減少を主因として、前連結会計年度末に比べ682億円減少し、1兆1,318億円となりました。
2)経営成績
当社グループの当連結会計年度の経営成績等は、収入面では、国際旅客収入は世界経済の減速に伴うビジネス需要の鈍化、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、前年対比544億円の減収となりました。国内旅客収入は観光とビジネス双方の需要が堅調に推移していたものの、国際線と同様に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、前年対比134億円の減収となり、営業収益は1兆4,112億円(前年同期比5.1%減少)となりました。
費用面では、燃油費は減便による使用量の削減や燃油市況下落による燃油単価の減少等により78億円の減少、整備費はエンジン整備の増加等により20億円増加しました。人件費は、業績に連動した賞与の減少などにより59億円減少しました。前連結会計年度以前から引き続き部門別採算制度等を通じた費用削減に取り組んだことなどから、営業費用全体としては1兆3,105億円(前年同期比0.0%減少)となりました。
以上の結果、営業利益は1,006億円(前年同期比42.9%減少)となりました。
営業外損益~親会社株主に帰属する当期純利益については、航空機材処分損の減少等により営業外費用が前連結会計年度よりも減少し、経常利益は1,025億円(前年同期比38.0%減少)となりました。その他、特別損益、税金費用等を加減算し、親会社株主に帰属する当期純利益は534億円(前年同期比64.6%減少)となりました。
セグメント別の分析は次のとおりです。
<航空運送事業>(国際線)
国際旅客需要は、世界経済の減速に伴い、日本発ビジネス需要が鈍化し、欧州線・中国線では、競合他社の供給増により需給バランス悪化が顕在化、香港線・韓国線では、政情不安や日韓関係悪化による需要減が見られました。こうした中で、グローバルアライアンスの枠組みを超えた他航空会社との提携によるネットワークの拡充を積極的に推進しました。コードシェア提携の拡大や、マレーシア航空との共同事業の開始に向けた独占禁止法適用除外の認可を取得しました。
2020年1月以降は、世界各国において新型コロナウイルスの感染が拡大し、各国で入国制限や検疫が強化されました。人の移動や物流に大きな制約が生じ、2月までは特に東アジアを中心に、3月以降は欧州や北米を含む全方面において総需要が急激に落ち込んだことから、第4四半期においては、需要の減少に対応するため運休・減便・小型化等の対応を速やかに実行しました。また、3月29日からの羽田・成田空港における国際線の路線開設・増便については、その大部分の運航開始を見合わせることといたしました。
当連結会計年度の有効座席キロは前年同期比1.1%減、旅客数は前年同期比9.3%減、有償旅客キロは前年同期比6.2%減、有償座席利用率は77.1%となりました。
国際貨物においては、米中貿易摩擦の影響等により、特に日本発需要が減少しておりましたが、第4四半期においては、各社の減便等の影響もあり、需給が逼迫する状況となりました。当社グループでは、マスクや防護服をはじめとする医療品の輸送に協力し、旅客機の貨物スペースを利用した貨物専用便を運航するなどの取り組みを行いました。こうした状況下において、当連結会計年度の貨物収入は前年同期比8.8%減となりました。
(国内線)
国内旅客需要は、観光とビジネス双方の需要が引き続き堅調であったことに加え、改元に伴うゴールデンウィークの10連休化等の影響もあり航空需要は堅調に推移しておりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月以降、日本政府によるイベントの自粛要請や大型テーマパークの休園、首都圏での外出自粛要請などの影響により、需要が急速に落ち込みました。これを受け、国際線と同様に減便等を行い、収支への影響を最小限に留めるよう努めました。当連結会計年度の、有効座席キロは前年同期比0.2%増となり、旅客数は前年同期比3.1%減、有償旅客キロは前年同期比2.9%減、有償座席利用率は70.3%となりました。
(今後の見通し)
新型コロナウイルス感染拡大により、航空業界および世界経済全体が、これまで経験したことのない未曾有の危機に直面しております。当社グループにおいても、各国の入国規制や需要急減、緊急事態宣言を受けての日本国内における移動の自粛等の動きにより、2020年5月時点で、国際線の約95%、国内線の約70%の減便を実施しており、経営にも極めて大きな影響を及ぼしております。国内線については2020年6月後半より減便規模を50%程度まで縮小していく見通しとなり、今後の需要回復の兆しが見えてきたものの、国際線については、世界各国においても終息の兆しが見えておらず、各国の入国規制緩和に向けた動きは見えておりません。よって、今後の動きを見通すことは難しく、その影響度合いを現時点で見通すことは不可能な状況です。そのため、当社グループにおいては、新型コロナウイルスの感染拡大が当社グループの業績に与える影響について、現時点において見極めることが困難なことから、2021年3月期の業績予想の開示は差し控えることといたします。今後、終息の兆しが見え影響の度合いが一定程度見極められた段階で、速やかに業績予想をお示しすることといたします。
このような極めて厳しい経営環境の中でありますが、航空機内の消毒作業を徹底するとともに、お客さまと社員の感染防止策を確実に実施し、感染拡大の防止に努めながら、一便一便の安全を守り抜き、人の移動、医薬品・食料などの物流を通じたネットワークを支え続けることで、当社グループは、社会的な使命を果たし続けます。旅客需要の減少に対しては、柔軟な路線・便数の見直しによる燃油費や着陸料といった運航と直接連動する費用の削減に加え、人員配置の見直しや全社的なコストマネジメントの徹底などによる固定費の削減にも努めることで、キャッシュ・フロー管理を徹底し、加えて前広に資金調達を最大限実施することで手元流動性の確保に万全を期してまいります。また、貨物郵便輸送の需給が逼迫する中で、引き続き旅客機の貨物スペースを利用した貨物専用便を国際線・国内線双方で積極的に運航し、減便による機材稼働の低下を緩和するとともに、収支の改善を図ってまいります。
また、当社グループでは、お客さまおよび運航便数の減少に伴って、運航に直接携わる業務量も減少しておりますが、この機会を、各種マニュアルの見直しや社員教育の充実に活用することにより、社員一人ひとりの能力向上を図り、新型コロナウイルス感染症終息後の再飛躍に備えております。
新型コロナウイルス感染拡大の影響は、航空業界のみならず社会全体の在り方を大きく変える可能性があります。しかしながら、グローバルな人と人との交流、物流ネットワークの重要性が低下することはありません。この厳しい状況を全社一丸となって耐え抜き、この危機が終息した後には、再び日本と世界の交流と、日本国内における地域間ネットワークの構築に貢献してまいります。
3)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
b.経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、「2017~2020年度 JALグループ中期経営計画」に則り、「挑戦、そして成長へ」をテーマとして、「フルサービスキャリア事業を磨きあげる」とともに、「事業領域を拡げる」という戦略のもと、首都圏空港の発着枠拡張への対応や、訪日旅客誘致ならびに地域活性化への貢献等、着実に取り組みを進めてまいりました。
国際旅客事業においては、首都圏空港機能強化による羽田空港の国際線発着枠増加分のうち、11.5枠(深夜枠を0.5枠使用することで実質12枠)の配分を受け、事業の基盤を拡充いたしました。また、成田空港からは新路線であるウラジオストク線を開設するとともに、ベンガルール線の開設準備を進め、利便性の高いネットワークの構築に努めました。さらに、LCC事業については、中長距離LCC事業を担う子会社の株式会社ZIPAIR Tokyoが航空運送事業許可を取得し、2020年6月3日より、貨物専用便として成田=バンコク線の運航を開始しました。現在、新型コロナウイルス感染拡大の終息後に備えて、お客さまの多様なニーズにお応えするべく、旅客便としての就航準備を進めております。
国内旅客事業においては、低騒音・省燃費機材であるA350-900型機、787-8型機を新たに導入するとともに、羽田空港の空港設備を一新した「JAL SMART AIRPORT」をオープンするなど、便利で快適な移動空間のご提供に努めております。
これまでの取り組みは、基本的に計画通りに進捗し、順調に推移してきたものと認識しております。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大により、航空業界は大きな影響を受けており、当社グループを取り巻く経営環境は日々刻々と変化しております。当社グループは、この変化に迅速に対応し、機動的に戦略を修正しながら、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けて、引き続き全社員一丸となって取り組んでまいります。具体的には、これまでのたゆまぬ努力により構築してきた強固な財務基盤を用いて、手元流動性の確保に万全を期し、この未曾有の局面を耐え抜いていきます。そして、新型コロナウイルス感染拡大が終息した後の反転攻勢に備え、人財を育成し、生産性を向上させると共に、再び強固な財務基盤の構築に向け、より一層、効率的な経営を目指します。
c.資本の財源及び資金の流動性
1)財務戦略の基本的な考え方
当社グループは、強固な財務体質と高い資本効率を両立しつつ、企業価値向上のために戦略的に経営資源を配分することを財務戦略の基本方針としております。
強固な財務体質の維持に関しては、自己資本比率の水準を50%程度(国際会計基準(IFRS))に保ち、「シングルAフラット」以上の信用格付(日本の格付機関)の取得・維持を目指し、リスク耐性の強化を図ります。なお、新型コロナウイルス感染拡大の長期化に備え、一時的に有利子負債が増える可能性がありますが、事態終息後には強固な財務体質の再構築を目指します。
設備投資に関しては、燃費効率や快適性に優れた新しい航空機の導入や、顧客利便性を向上させるためのIT投資等、企業価値の向上に資する成長のための投資を中心に着実に実施してまいります。しかしながら、2020年度は手元流動性の確保を優先すべく、設備投資の抑制に取り組みます。
2)経営資源の配分に関する考え方
当社グループは、適正な手元現預金の水準について検証を実施しております。これまでは、総資産利益率(ROA)にも着目しつつ十分なイベントリスク耐性も備えるべく、売上高の約2.6か月分を安定的な経営に必要な手元現預金水準とし、それを超える分については、「追加的に配分可能な経営資源」と認識し、企業価値向上に資する経営資源の配分に努めます。
しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響は、航空業界がこれまで経験してきたイベントリスクとは比較にならない大きな影響を、当社グループの経営に及ぼしている現状を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大が終息した際には、リスク耐性と資産効率・資金効率の両面から、改めて必要な手元現預金水準を検討し、それを踏まえての経営資源の配分に関する考え方をお示ししたいと考えております。
3)資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動に係る資金支出では、航空運送事業に関わる燃油費、運航施設利用費、整備費、航空販売手数料、機材費(航空機に関わる償却費、賃借料、保険料など)、サービス費(機内・ラウンジ・貨物などのサービスに関わる費用)、人件費などがあります。
また、投資活動に係る資金支出は、航空機の安全、安定運航のために不可欠な設備や施設への投資、企業価値向上に資する効率性・快適性に優れた新しい航空機への投資、安定的・効率的な航空機の運航や、競争力強化に資する予約販売に関するIT投資などがあります。
4)資金調達
当社グループは、事業活動の維持および将来の成長のために必要な資金について、安定的かつ機動的に確保することに努めております。
設備投資は、内部資金および外部資金を有効に活用して実施してまいります。設備投資額は営業キャッシュ・フローの範囲内とすることを原則としておりますが、十分な手元流動性の確保、資金調達手段の多様化、資本効率の向上を企図し、主要な事業資産である航空機などの調達に当たっては、金融機関からの借入、社債の発行、航空機リース等の有利子負債を一部活用しております。
なお、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により全世界で航空需要が急減し、当社グループの事業は甚大な影響を受けております。現時点ではその終息時期が見通せないことから、影響の長期化に備えて機動的に十分な額の資金調達を実施し、手元流動性の確保に万全を期してまいります。
2020年2月以降、当社はこれまでに銀行借入、社債の発行、航空機リースの活用等で約1,928億円の資金調達を実施し、更に2,500億円の国内金融機関からの借入および複数年を含む新規コミットメントラインの設定を予定しております。上記資金調達に加えて既存のコミットメントライン500億円を合わせ、約5,000億円の資金を確保し、手元流動性を万全にしてこの危機を乗り越えてまいります。
当社は従前から、安定的な外部資金調達能力の維持向上は重要な経営課題と認識しており、国内2社の格付機関から格付を取得しております。本報告書提出時点において、日本格付研究所の格付は「シングルA(安定的)」、格付投資情報センターの格付は「シングルAマイナス(安定的)」となっております。また、主要な取引先金融機関とは良好な取引関係を維持しており、加えて強固な財務体質を有していることから、必要な運転資金、投資資金の調達に関しては問題ないと認識しています。
d.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「2017~2020年度JALグループ中期経営計画」において、以下を経営目標としており、引き続き、経営目標の達成に向け取り組んでまいります。
(安全)
安全運航はJALグループの存立基盤であり社会的責務であるという認識の下、輸送分野における安全のリーディングカンパニーとして安全の層を厚くして、航空事故ゼロ、重大インシデントゼロを実現します。
2019年度は航空事故1件(※1)、重大インシデント1件(※2)の発生により、目標を達成できませんでした。引き続き、安全管理システムの進化、事故の教訓を確実に継承する教育・研修の実施により、安全の層をより厚く、強固なものにしてまいります。また、テロの脅威からお客さまをお守りする保安管理システムの強化にも取り組みます。
(※1)航空事故 :2019年10月12日、日本エアコミューター3763便(鹿児島空港発 種子島空港行)降下中に突然の揺れに遭遇した際に客室乗務員が転倒し、右足首を負傷いたしました。15日の精密検査の結果、右足後果骨折が判明し、同日、国土交通省航空局より航空事故と認定されました。なお、お客さまにお怪我はございませんでした。
(※2)重大インシデント:2020年1月8日、日本エアコミューター3830便(喜界空港発 奄美空港行)において、奄美空港に着陸した後、減速中に滑走路から逸脱して草地に入り、停止する事例が発生しました。本事例は、「滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなった場合)」に該当するとして、国土交通省航空局により、重大インシデントと認定されました。
(注1)航空機の運航によって発生した人の死傷(重傷以上)、航空機の墜落、衝突または火災、航行中の航空機の損傷(大修理相当)等
(注2)航空事故には至らないものの、その恐れがあったと認められる事態。滑走路からの逸脱、非常脱出等
(顧客満足)
すべてのお客さまが常に新鮮な感動を得られるような最高のサービスを提供し、2020年度までに世界トップレベルのお客さま満足を実現します。お客さまの評価については、NPS(Net Promoter Score)を経営指標として採用しています。
2019年度は、国内線においてはエアバスA350-900型機・ボーイング787-8型機など静粛性や環境性に優れた新機材の導入、国際線においては客室改修やラウンジリニューアルなど、商品・サービスの向上に取り組んだほか、一人ひとりのお客さまに寄り添ったヒューマンサービスの強化を図ってきました。
その結果、国内線・国際線とも、2019年度末時点で、社内で設定していた2019年度目標に加え、「2017~2020年度JALグループ中期経営計画」にて2020年度までに達成するとしていた顧客満足度目標を達成することができました。
(財務)
これまで築き上げた高い収益性と強固な財務安定性を兼ね備えつつ、成長に向けた積極的な投資および経営資源の有効活用により常に成長し続けるために、「営業利益率10%以上、投資利益率(ROIC)9%以上」を目指します。
2019年度は未達成となっておりますが、引き続き、高い収益性と強固な財務安定性を目指してまいります。
(注)投資利益率(ROIC)=営業利益(税引後)/期首・期末固定資産平均(オフバランス未経過リース料含む。)
当社グループでは、各国政府当局の規制の変更に速やかに対応し、また最大限に感染拡大防止の取り組みに努めることで、需要が急減する中においても、お客さまと社員の安全確保を図りながら定期航空運送事業者としての使命を果たしております。このような危機的な状況において、当社グループは、減便・運休・使用する航空機の小型化などの機動的な供給量削減を行い、運航費用の削減を図ると同時に、固定費を含む抜本的なコスト削減策と投資抑制を遅滞なく実施することで、業績への影響を緩和する努力を継続しております。加えて、影響が長期化する場合に備え、十分な手元流動性の確保に万全を期してまいります。また、定期航空協会を通じ、着陸料や航行援助施設使用料、航空機燃料税などの公租公課の支払い猶予および減免等や、公的部門による資金面での支援について要望し、2020年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」において、航空業界支援に関する対策が盛り込まれました。関係の皆さまのご尽力に深く感謝いたします。
当社グループは、これらの対策を通じ、この危機を乗り越えるべく全力を尽くしてまいります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
①財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度(2019年4月1日~2020年3月31日)における経営環境を概括すると、米中貿易摩擦の影響等により世界経済に先行き不透明感が広がる中で、日本経済は、相次ぐ大規模な自然災害に見舞われ、10月には消費税増税があったものの、景気への影響は大きくなく、全体的に堅調に推移しておりました。しかしながら、2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界および日本経済は大きく下振れしました。
また、燃油費、国際旅客収入ならびに国際貨物収入に影響を与える原油価格については、国際情勢の変動などの影響を受けつつも、概ね一定の範囲で推移しておりましたが、2020年3月以降、OPECプラスにおける協調減産協議の不調や世界経済の減速懸念を受け、大幅に下落しております。当社グループでは、燃油サーチャージの収受や適切なヘッジの実施により、業績変動の抑制に努めるとともに、引き続き、景気動向に与える影響や当社グループの業績への影響について注視してまいります。
以下、当連結会計年度における当社グループの経営状況につき概括します。
当社グループの存立の大前提であり、中期経営計画における経営目標である「安全」については、飲酒不適切事案を防ぐことができず、2019年10月8日に2度目の「事業改善命令」を受けることとなりました。社長の赤坂祐二自らが安全統括管理者に就任し、全社が一丸となって不退転の決意で意識改革と飲酒管理の徹底を推し進め、「安全・安心の再構築」と「信頼回復と企業価値の向上」に努めてまいります。
もう一つの経営目標である「顧客満足」については、「ネットワーク」と「商品サービス」の両方を磨き上げるための施策を着実に実行いたしました。2019年9月に国土交通省から新たに配分を受けた羽田空港の国際線発着枠を活用した新路線の開設や、全席に個人用画面および電源を配備したエアバスA350-900型機およびボーイング787-8型機といった最新鋭の航空機の国内線への導入、羽田・成田両空港におけるラウンジのリニューアル、羽田空港での搭乗手続き等の利便性・快適性の向上を図る「JAL SMART AIRPORT」の推進、WEBサイトやスマートフォン向けアプリの利便性向上に努めました。こうした取り組みが評価され、SKYTRAX社の「ワールド・エアライン・スター・レイティング」において2年連続で「5スターエアライン」に認定されるなど、様々な賞を受賞しております。また、当社グループでは、相次いで大きな自然災害や首里城における火災などが発生したことを受けて、様々な形で被災地域を支援してまいりました。定期航空運送事業者としての社会的使命の達成に向けて、引き続き取り組んでまいります。
当社グループでは、事業領域の拡大に向けて、当社グループの強みである人財と先進的なテクノロジーを融合させ、「JAL Innovation Lab」における取り組み等を通じたイノベーションにより、新しい商品・サービスやビジネスの創造に努めております。当連結会計年度においても、国際線中長距離ローコストキャリアビジネスにおける株式会社ZIPAIR Tokyoが2020年度の就航に向けた準備を進め、また、Bell Textron Inc.との業務提携によりeVTOL(電動垂直離着陸機)を用いた次世代エアモビリティサービス提供の検討を開始しました。さらに、地方における新たな物流サービスを通じた地域課題の解決を目指し、無人ヘリコプターを用いた貨物輸送実験を行うなど、新たな需要の獲得に向けて、複数のビジネス領域への展開を積極的に行ってまいりました。また、公共交通機関としての社会的使命を果たすべく、地域活性化、訪日外国人観光客の増加に向けて取り組みを進めてまいりました。7月には、当社が参加するコンソーシアム「北海道エアポートグループ」が北海道内7空港特定運営事業等の優先交渉権者に選定されました。10月には航空会社5社で構成される地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合(EAS LLP)が設立され、離島生活路線等の航空路線維持に向けて、当社グループも重要な役割を果たしていく予定です。
SDGsの達成に向けた取り組みとしては、CO2削減に向け、「国産」代替航空燃料の製造・販売の事業性調査を、丸紅株式会社、JXTGエネルギー株式会社、日揮株式会社と共同で実施することといたしました。また、健康経営推進にも積極的に取り組んだ結果、「健康経営優良法人2020(大規模法人部門)ホワイト500」に認定されております。
財務戦略においては、資本効率の向上および安定的な株主還元の実現等に向け、3月までに1,189万株、400億円分の自己株式を取得し、そのすべてを消却いたしました。また、9月には、企業年金の積立不足の早期解消による将来の財務リスク払拭のため、JAL企業年金基金へ特例掛金827億円を拠出し、当社の退職給付に係る負債を削減しております。10月には、日本証券アナリスト協会による2019年度ディスクロージャー優良企業の運輸部門において、2年連続となる第1位を獲得いたしました。今後も、市場・投資家の皆さまとのより良い対話の実現に向けて、さらなる情報開示の充実と質の向上に向けて取り組んでまいります。
当社グループでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化した場合に備え、第4四半期において577億円の資金調達を前倒しで実施する等、手元流動性の確保には万全を期し、不測の事態に備えて経営の安定化に資する財務施策を遅滞なく実施してまいります。
当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大により国際線・国内線双方ともに急激かつ大幅に需要が減少するという、未曾有の事態を迎えております。これまで、当社グループは、いたずらに規模を追わず効率性を最重視し、リスク耐性を備えた経営体制の構築に向け全社一丸となって努力してまいりました。今はその真価が問われる時と認識しております。これまで培ってきた強固な財務体質を活かして手元流動性の確保に尽力するとともに、急減する需要に応じた供給削減を迅速に実行することで、コストの削減に最大限努めてまいります。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響による航空需要の減少はあくまでも一時的なものであり、中長期的には日本を発着する航空総需要は大きく成長していくという見通しに変わりはありません。この未曾有の事態を耐え抜いた後は、強固な財務体質の再構築に向け一層努力するとともに、「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社」を目指し、すべてのお客さまに快適な空の旅をご提供できるよう、チャレンジしてまいります。
a.財政状態
当連結会計年度末における資産については、前連結会計年度末に比べ1,709億円減少し、1兆8,593億円となりました。負債については、前連結会計年度末に比べ1,026億円減少の7,275億円となりました。純資産については、前連結会計年度末に比べ682億円減少の1兆1,318億円となりました。
b.経営成績
当連結会計年度における営業収益は1兆4,112億円(前年同期比5.1%減少)、営業費用は1兆3,105億円(前年同期比0.0%減少)となり、営業利益は1,006億円(前年同期比42.9%減少)、経常利益は1,025億円(前年同期比38.0%減少)、親会社株主に帰属する当期純利益は534億円(前年同期比64.6%減少)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりです。
<航空運送事業セグメント>当連結会計年度における航空運送事業の実績については、営業収益は1兆2,848億円(前年同期比5.4%減少)、営業利益は859億円(前年同期比47.1%減少)となりました。(営業収益及び営業利益はセグメント間連結消去前数値です。)
部門別売上高は次のとおりです。
科目 | 前連結会計年度 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) | 構成比 (%) | 当連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 構成比 (%) | 対前年 同期比 (%) |
国際線 | |||||
旅客収入 (百万円) | 530,679 | 39.1 | 476,230 | 37.1 | 89.7 |
貨物収入 (百万円) | 65,496 | 4.8 | 59,744 | 4.7 | 91.2 |
郵便収入 (百万円) | 9,123 | 0.7 | 7,562 | 0.6 | 82.9 |
手荷物収入 (百万円) | 795 | 0.1 | 842 | 0.1 | 105.9 |
小計 (百万円) | 606,095 | 44.6 | 544,379 | 42.4 | 89.8 |
国内線 | |||||
旅客収入 (百万円) | 528,098 | 38.9 | 514,619 | 40.1 | 97.4 |
貨物収入 (百万円) | 21,853 | 1.6 | 20,724 | 1.6 | 94.8 |
郵便収入 (百万円) | 3,547 | 0.3 | 3,627 | 0.3 | 102.3 |
手荷物収入 (百万円) | 301 | 0.0 | 320 | 0.0 | 106.5 |
小計 (百万円) | 553,799 | 40.8 | 539,291 | 42.0 | 97.4 |
国際線・国内線合計 (百万円) | 1,159,895 | 85.4 | 1,083,671 | 84.3 | 93.4 |
その他の収入 (百万円) | 197,708 | 14.6 | 201,128 | 15.7 | 101.7 |
合計 (百万円) | 1,357,603 | 100.0 | 1,284,800 | 100.0 | 94.6 |
(注)金額については切捨処理、各比率については四捨五入処理しております。
連結輸送実績は次のとおりです。
項目 | 前連結会計年度 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 対前年同期比 (利用率は ポイント差) | |
国際線 | ||||
有償旅客数 | (人) | 9,128,236 | 8,277,987 | 90.7% |
有償旅客キロ | (千人・キロ) | 44,659,463 | 41,905,628 | 93.8% |
有効座席キロ | (千席・キロ) | 54,925,904 | 54,324,546 | 98.9% |
有償座席利用率 | (%) | 81.3 | 77.1 | △ 4.2 |
有償貨物トン・キロ | (千トン・キロ) | 2,429,268 | 2,407,691 | 99.1% |
郵便トン・キロ | (千トン・キロ) | 228,093 | 188,957 | 82.8% |
国内線 | ||||
有償旅客数 | (人) | 34,859,576 | 33,783,710 | 96.9% |
有償旅客キロ | (千人・キロ) | 26,195,658 | 25,443,520 | 97.1% |
有効座席キロ | (千席・キロ) | 36,116,930 | 36,199,539 | 100.2% |
有償座席利用率 | (%) | 72.5 | 70.3 | △ 2.2 |
有償貨物トン・キロ | (千トン・キロ) | 343,529 | 328,182 | 95.5% |
郵便トン・キロ | (千トン・キロ) | 25,527 | 25,291 | 99.1% |
合計 | ||||
有償旅客数 | (人) | 43,987,812 | 42,061,697 | 95.6% |
有償旅客キロ | (千人・キロ) | 70,855,121 | 67,349,148 | 95.1% |
有効座席キロ | (千席・キロ) | 91,042,834 | 90,524,085 | 99.4% |
有償座席利用率 | (%) | 77.8 | 74.4 | △ 3.4 |
有償貨物トン・キロ | (千トン・キロ) | 2,772,797 | 2,735,873 | 98.7% |
郵便トン・キロ | (千トン・キロ) | 253,621 | 214,248 | 84.5% |
(注)1.旅客キロは、各区間有償旅客数(人)に当該区間距離(キロ)を乗じたものであり、座席キロは、各区間有効座席数(席)に当該区間距離(キロ)を乗じたものです。
輸送量(トン・キロ)は、各区間輸送量(トン)に当該区間距離(キロ)を乗じたものです。
2.区間距離は、IATA(国際航空運送協会)、ICAO(国際民間航空機構)の統計資料に準じた算出基準の大圏距離方式で算出しております。
3.国際線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)
国内線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)、日本エアコミューター(株)、
(株)ジェイエア、琉球エアーコミューター(株)、(株)北海道エアシステム
ただし、前年同期は、国際線:日本航空(株)
国内線:日本航空(株)、日本トランスオーシャン航空(株)、日本エアコミューター(株)、
(株)ジェイエア、琉球エアーコミューター(株)、(株)北海道エアシステム
4.数字については切捨処理、比率については四捨五入処理しております。
<その他>株式会社ジャルパックと株式会社ジャルカードの概況は、次のとおりです。
株式会社ジャルパック
項目 | 前連結会計年度 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 対前年 同期比 (%) |
海外旅行取扱人数(万人) | 22.2 | 18.3 | 82.2% |
国内旅行取扱人数(万人) | 271.8 | 260.6 | 95.9% |
営業収益 (億円)(連結消去前) | 1,820 | 1,696 | 93.1% |
株式会社ジャルカード
項目 | 前連結会計年度 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) | 対前年 同期比 (%) |
カード会員数 (万人) | 357.9 | 372.0 | 103.9% |
営業収益 (億円)(連結消去前) | 194 | 201 | 103.4% |
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ1,929億円減少し、3,291億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益965億円に減価償却費等の非資金項目、退職給付に係る負債及び営業活動に係る債権・債務の加減算等を行った結果、営業活動によるキャッシュ・フロー(インフロー)は600億円(前年同期比2,366億円の減少)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
固定資産の取得による支出を主因として、投資活動によるキャッシュ・フロー(アウトフロー)は△2,215億円(前年同期比351億円の増加)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
自己株式の取得、配当金の支払い及び社債の発行を行ったことから、財務活動によるキャッシュ・フロー(アウトフロー)は△301億円(前年同期比69億円の減少)となりました。
③生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産、受注及び販売に該当する業種・業態がほとんどないため、「① 財政状態及び経営成績の状況」に含めて記載しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。連結財務諸表の作成に当たり、経営者の判断に基づく会計方針の選択と適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りが必要となりますが、その判断及び見積りに関しては連結財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき合理的に判断しております。しかしながら、実際の結果は、見積り特有の不確実性が伴うことから、これら見積りと異なる可能性があります。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。
経営者が行った連結財務諸表の金額に重要な影響を与える見積りは次のとおりです。
・収益認識
航空輸送に係る収益は、航空輸送役務の完了時に認識しております。
航空輸送に使用される予定のない航空券販売(失効見込の未使用航空券)は、航空券の条件や過去の傾向に基づく金額および認識のタイミングを見積り、収益認識しております。
・航空機等の減価償却費
航空機、航空機エンジン部品および客室関連資産等の各構成要素の耐用年数決定にあたり、将来の経済的使用可能予測期間を考慮して、減価償却費を算定しております。
なお、当連結会計年度より一部の航空機エンジン部品および客室関連資産について、将来の経済的使用可能予測期間をより適切に反映するため、耐用年数を変更しております。
・繰延税金資産の認識
当社グループは、将来減算一時差異および繰越欠損金のうち、将来課税所得に対して利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で繰延税金資産を認識しております。
当社グループの連結財務諸表の作成にあたっての見積りに関しては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載しております。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.経営成績等
1)財政状態
(資産合計)
当連結会計年度末における資産については、現預金や営業未収入金の減少などを主因として前連結会計年度末に比べ1,709億円減少し、1兆8,593億円となりました。
(負債合計)
当連結会計年度末における負債については、退職給付に係る負債や前受金の減少、社債の増加などにより、前連結会計年度末に比べ1,026億円減少し、7,275億円となりました。
(純資産合計)
当連結会計年度末における純資産については、配当金の支払いやその他の包括利益累計額の減少を主因として、前連結会計年度末に比べ682億円減少し、1兆1,318億円となりました。
2)経営成績
当社グループの当連結会計年度の経営成績等は、収入面では、国際旅客収入は世界経済の減速に伴うビジネス需要の鈍化、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、前年対比544億円の減収となりました。国内旅客収入は観光とビジネス双方の需要が堅調に推移していたものの、国際線と同様に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、前年対比134億円の減収となり、営業収益は1兆4,112億円(前年同期比5.1%減少)となりました。
費用面では、燃油費は減便による使用量の削減や燃油市況下落による燃油単価の減少等により78億円の減少、整備費はエンジン整備の増加等により20億円増加しました。人件費は、業績に連動した賞与の減少などにより59億円減少しました。前連結会計年度以前から引き続き部門別採算制度等を通じた費用削減に取り組んだことなどから、営業費用全体としては1兆3,105億円(前年同期比0.0%減少)となりました。
以上の結果、営業利益は1,006億円(前年同期比42.9%減少)となりました。
営業外損益~親会社株主に帰属する当期純利益については、航空機材処分損の減少等により営業外費用が前連結会計年度よりも減少し、経常利益は1,025億円(前年同期比38.0%減少)となりました。その他、特別損益、税金費用等を加減算し、親会社株主に帰属する当期純利益は534億円(前年同期比64.6%減少)となりました。
セグメント別の分析は次のとおりです。
<航空運送事業>(国際線)
国際旅客需要は、世界経済の減速に伴い、日本発ビジネス需要が鈍化し、欧州線・中国線では、競合他社の供給増により需給バランス悪化が顕在化、香港線・韓国線では、政情不安や日韓関係悪化による需要減が見られました。こうした中で、グローバルアライアンスの枠組みを超えた他航空会社との提携によるネットワークの拡充を積極的に推進しました。コードシェア提携の拡大や、マレーシア航空との共同事業の開始に向けた独占禁止法適用除外の認可を取得しました。
2020年1月以降は、世界各国において新型コロナウイルスの感染が拡大し、各国で入国制限や検疫が強化されました。人の移動や物流に大きな制約が生じ、2月までは特に東アジアを中心に、3月以降は欧州や北米を含む全方面において総需要が急激に落ち込んだことから、第4四半期においては、需要の減少に対応するため運休・減便・小型化等の対応を速やかに実行しました。また、3月29日からの羽田・成田空港における国際線の路線開設・増便については、その大部分の運航開始を見合わせることといたしました。
当連結会計年度の有効座席キロは前年同期比1.1%減、旅客数は前年同期比9.3%減、有償旅客キロは前年同期比6.2%減、有償座席利用率は77.1%となりました。
国際貨物においては、米中貿易摩擦の影響等により、特に日本発需要が減少しておりましたが、第4四半期においては、各社の減便等の影響もあり、需給が逼迫する状況となりました。当社グループでは、マスクや防護服をはじめとする医療品の輸送に協力し、旅客機の貨物スペースを利用した貨物専用便を運航するなどの取り組みを行いました。こうした状況下において、当連結会計年度の貨物収入は前年同期比8.8%減となりました。
(国内線)
国内旅客需要は、観光とビジネス双方の需要が引き続き堅調であったことに加え、改元に伴うゴールデンウィークの10連休化等の影響もあり航空需要は堅調に推移しておりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月以降、日本政府によるイベントの自粛要請や大型テーマパークの休園、首都圏での外出自粛要請などの影響により、需要が急速に落ち込みました。これを受け、国際線と同様に減便等を行い、収支への影響を最小限に留めるよう努めました。当連結会計年度の、有効座席キロは前年同期比0.2%増となり、旅客数は前年同期比3.1%減、有償旅客キロは前年同期比2.9%減、有償座席利用率は70.3%となりました。
(今後の見通し)
新型コロナウイルス感染拡大により、航空業界および世界経済全体が、これまで経験したことのない未曾有の危機に直面しております。当社グループにおいても、各国の入国規制や需要急減、緊急事態宣言を受けての日本国内における移動の自粛等の動きにより、2020年5月時点で、国際線の約95%、国内線の約70%の減便を実施しており、経営にも極めて大きな影響を及ぼしております。国内線については2020年6月後半より減便規模を50%程度まで縮小していく見通しとなり、今後の需要回復の兆しが見えてきたものの、国際線については、世界各国においても終息の兆しが見えておらず、各国の入国規制緩和に向けた動きは見えておりません。よって、今後の動きを見通すことは難しく、その影響度合いを現時点で見通すことは不可能な状況です。そのため、当社グループにおいては、新型コロナウイルスの感染拡大が当社グループの業績に与える影響について、現時点において見極めることが困難なことから、2021年3月期の業績予想の開示は差し控えることといたします。今後、終息の兆しが見え影響の度合いが一定程度見極められた段階で、速やかに業績予想をお示しすることといたします。
このような極めて厳しい経営環境の中でありますが、航空機内の消毒作業を徹底するとともに、お客さまと社員の感染防止策を確実に実施し、感染拡大の防止に努めながら、一便一便の安全を守り抜き、人の移動、医薬品・食料などの物流を通じたネットワークを支え続けることで、当社グループは、社会的な使命を果たし続けます。旅客需要の減少に対しては、柔軟な路線・便数の見直しによる燃油費や着陸料といった運航と直接連動する費用の削減に加え、人員配置の見直しや全社的なコストマネジメントの徹底などによる固定費の削減にも努めることで、キャッシュ・フロー管理を徹底し、加えて前広に資金調達を最大限実施することで手元流動性の確保に万全を期してまいります。また、貨物郵便輸送の需給が逼迫する中で、引き続き旅客機の貨物スペースを利用した貨物専用便を国際線・国内線双方で積極的に運航し、減便による機材稼働の低下を緩和するとともに、収支の改善を図ってまいります。
また、当社グループでは、お客さまおよび運航便数の減少に伴って、運航に直接携わる業務量も減少しておりますが、この機会を、各種マニュアルの見直しや社員教育の充実に活用することにより、社員一人ひとりの能力向上を図り、新型コロナウイルス感染症終息後の再飛躍に備えております。
新型コロナウイルス感染拡大の影響は、航空業界のみならず社会全体の在り方を大きく変える可能性があります。しかしながら、グローバルな人と人との交流、物流ネットワークの重要性が低下することはありません。この厳しい状況を全社一丸となって耐え抜き、この危機が終息した後には、再び日本と世界の交流と、日本国内における地域間ネットワークの構築に貢献してまいります。
3)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
b.経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、「2017~2020年度 JALグループ中期経営計画」に則り、「挑戦、そして成長へ」をテーマとして、「フルサービスキャリア事業を磨きあげる」とともに、「事業領域を拡げる」という戦略のもと、首都圏空港の発着枠拡張への対応や、訪日旅客誘致ならびに地域活性化への貢献等、着実に取り組みを進めてまいりました。
国際旅客事業においては、首都圏空港機能強化による羽田空港の国際線発着枠増加分のうち、11.5枠(深夜枠を0.5枠使用することで実質12枠)の配分を受け、事業の基盤を拡充いたしました。また、成田空港からは新路線であるウラジオストク線を開設するとともに、ベンガルール線の開設準備を進め、利便性の高いネットワークの構築に努めました。さらに、LCC事業については、中長距離LCC事業を担う子会社の株式会社ZIPAIR Tokyoが航空運送事業許可を取得し、2020年6月3日より、貨物専用便として成田=バンコク線の運航を開始しました。現在、新型コロナウイルス感染拡大の終息後に備えて、お客さまの多様なニーズにお応えするべく、旅客便としての就航準備を進めております。
国内旅客事業においては、低騒音・省燃費機材であるA350-900型機、787-8型機を新たに導入するとともに、羽田空港の空港設備を一新した「JAL SMART AIRPORT」をオープンするなど、便利で快適な移動空間のご提供に努めております。
これまでの取り組みは、基本的に計画通りに進捗し、順調に推移してきたものと認識しております。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大により、航空業界は大きな影響を受けており、当社グループを取り巻く経営環境は日々刻々と変化しております。当社グループは、この変化に迅速に対応し、機動的に戦略を修正しながら、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けて、引き続き全社員一丸となって取り組んでまいります。具体的には、これまでのたゆまぬ努力により構築してきた強固な財務基盤を用いて、手元流動性の確保に万全を期し、この未曾有の局面を耐え抜いていきます。そして、新型コロナウイルス感染拡大が終息した後の反転攻勢に備え、人財を育成し、生産性を向上させると共に、再び強固な財務基盤の構築に向け、より一層、効率的な経営を目指します。
c.資本の財源及び資金の流動性
1)財務戦略の基本的な考え方
当社グループは、強固な財務体質と高い資本効率を両立しつつ、企業価値向上のために戦略的に経営資源を配分することを財務戦略の基本方針としております。
強固な財務体質の維持に関しては、自己資本比率の水準を50%程度(国際会計基準(IFRS))に保ち、「シングルAフラット」以上の信用格付(日本の格付機関)の取得・維持を目指し、リスク耐性の強化を図ります。なお、新型コロナウイルス感染拡大の長期化に備え、一時的に有利子負債が増える可能性がありますが、事態終息後には強固な財務体質の再構築を目指します。
設備投資に関しては、燃費効率や快適性に優れた新しい航空機の導入や、顧客利便性を向上させるためのIT投資等、企業価値の向上に資する成長のための投資を中心に着実に実施してまいります。しかしながら、2020年度は手元流動性の確保を優先すべく、設備投資の抑制に取り組みます。
2)経営資源の配分に関する考え方
当社グループは、適正な手元現預金の水準について検証を実施しております。これまでは、総資産利益率(ROA)にも着目しつつ十分なイベントリスク耐性も備えるべく、売上高の約2.6か月分を安定的な経営に必要な手元現預金水準とし、それを超える分については、「追加的に配分可能な経営資源」と認識し、企業価値向上に資する経営資源の配分に努めます。
しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響は、航空業界がこれまで経験してきたイベントリスクとは比較にならない大きな影響を、当社グループの経営に及ぼしている現状を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大が終息した際には、リスク耐性と資産効率・資金効率の両面から、改めて必要な手元現預金水準を検討し、それを踏まえての経営資源の配分に関する考え方をお示ししたいと考えております。
3)資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動に係る資金支出では、航空運送事業に関わる燃油費、運航施設利用費、整備費、航空販売手数料、機材費(航空機に関わる償却費、賃借料、保険料など)、サービス費(機内・ラウンジ・貨物などのサービスに関わる費用)、人件費などがあります。
また、投資活動に係る資金支出は、航空機の安全、安定運航のために不可欠な設備や施設への投資、企業価値向上に資する効率性・快適性に優れた新しい航空機への投資、安定的・効率的な航空機の運航や、競争力強化に資する予約販売に関するIT投資などがあります。
4)資金調達
当社グループは、事業活動の維持および将来の成長のために必要な資金について、安定的かつ機動的に確保することに努めております。
設備投資は、内部資金および外部資金を有効に活用して実施してまいります。設備投資額は営業キャッシュ・フローの範囲内とすることを原則としておりますが、十分な手元流動性の確保、資金調達手段の多様化、資本効率の向上を企図し、主要な事業資産である航空機などの調達に当たっては、金融機関からの借入、社債の発行、航空機リース等の有利子負債を一部活用しております。
なお、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により全世界で航空需要が急減し、当社グループの事業は甚大な影響を受けております。現時点ではその終息時期が見通せないことから、影響の長期化に備えて機動的に十分な額の資金調達を実施し、手元流動性の確保に万全を期してまいります。
2020年2月以降、当社はこれまでに銀行借入、社債の発行、航空機リースの活用等で約1,928億円の資金調達を実施し、更に2,500億円の国内金融機関からの借入および複数年を含む新規コミットメントラインの設定を予定しております。上記資金調達に加えて既存のコミットメントライン500億円を合わせ、約5,000億円の資金を確保し、手元流動性を万全にしてこの危機を乗り越えてまいります。
当社は従前から、安定的な外部資金調達能力の維持向上は重要な経営課題と認識しており、国内2社の格付機関から格付を取得しております。本報告書提出時点において、日本格付研究所の格付は「シングルA(安定的)」、格付投資情報センターの格付は「シングルAマイナス(安定的)」となっております。また、主要な取引先金融機関とは良好な取引関係を維持しており、加えて強固な財務体質を有していることから、必要な運転資金、投資資金の調達に関しては問題ないと認識しています。
d.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「2017~2020年度JALグループ中期経営計画」において、以下を経営目標としており、引き続き、経営目標の達成に向け取り組んでまいります。
(安全)
安全運航はJALグループの存立基盤であり社会的責務であるという認識の下、輸送分野における安全のリーディングカンパニーとして安全の層を厚くして、航空事故ゼロ、重大インシデントゼロを実現します。
2019年度は航空事故1件(※1)、重大インシデント1件(※2)の発生により、目標を達成できませんでした。引き続き、安全管理システムの進化、事故の教訓を確実に継承する教育・研修の実施により、安全の層をより厚く、強固なものにしてまいります。また、テロの脅威からお客さまをお守りする保安管理システムの強化にも取り組みます。
(※1)航空事故 :2019年10月12日、日本エアコミューター3763便(鹿児島空港発 種子島空港行)降下中に突然の揺れに遭遇した際に客室乗務員が転倒し、右足首を負傷いたしました。15日の精密検査の結果、右足後果骨折が判明し、同日、国土交通省航空局より航空事故と認定されました。なお、お客さまにお怪我はございませんでした。
(※2)重大インシデント:2020年1月8日、日本エアコミューター3830便(喜界空港発 奄美空港行)において、奄美空港に着陸した後、減速中に滑走路から逸脱して草地に入り、停止する事例が発生しました。本事例は、「滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなった場合)」に該当するとして、国土交通省航空局により、重大インシデントと認定されました。
指標 | 目標 | 2019年度 |
航空事故(注1) | 0件 | 1件 |
重大インシデント(注2) | 0件 | 1件 |
(注1)航空機の運航によって発生した人の死傷(重傷以上)、航空機の墜落、衝突または火災、航行中の航空機の損傷(大修理相当)等
(注2)航空事故には至らないものの、その恐れがあったと認められる事態。滑走路からの逸脱、非常脱出等
(顧客満足)
すべてのお客さまが常に新鮮な感動を得られるような最高のサービスを提供し、2020年度までに世界トップレベルのお客さま満足を実現します。お客さまの評価については、NPS(Net Promoter Score)を経営指標として採用しています。
2019年度は、国内線においてはエアバスA350-900型機・ボーイング787-8型機など静粛性や環境性に優れた新機材の導入、国際線においては客室改修やラウンジリニューアルなど、商品・サービスの向上に取り組んだほか、一人ひとりのお客さまに寄り添ったヒューマンサービスの強化を図ってきました。
その結果、国内線・国際線とも、2019年度末時点で、社内で設定していた2019年度目標に加え、「2017~2020年度JALグループ中期経営計画」にて2020年度までに達成するとしていた顧客満足度目標を達成することができました。
指標 | 2020年度までの目標 (2017年度期首実績対比) | 2019年度 |
NPS 国内線 | +5.3ポイント | +7.6ポイント |
NPS 国際線 | +4.5ポイント | +8.2ポイント |
(財務)
これまで築き上げた高い収益性と強固な財務安定性を兼ね備えつつ、成長に向けた積極的な投資および経営資源の有効活用により常に成長し続けるために、「営業利益率10%以上、投資利益率(ROIC)9%以上」を目指します。
2019年度は未達成となっておりますが、引き続き、高い収益性と強固な財務安定性を目指してまいります。
指標 | 目標 | 2019年度 |
営業利益率 | 10%以上 | 7.1% |
投資利益率(ROIC)(注) | 9%以上 | 5.1% |
(注)投資利益率(ROIC)=営業利益(税引後)/期首・期末固定資産平均(オフバランス未経過リース料含む。)